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「何かおかしくないか?」
「あぁん?」

 仲間の言葉に、男が怪訝そうな表情を浮かべる。
 深夜の倉庫、悪魔達は麻薬の精製に忙しかった。奈落から持ち込まれた装置を使い、いとも容易く彼らは純度の高い大麻樹脂を量産している。原材料などは悪魔の有する人を堕落させる力で容易に作ることが出来た。それを安価に暴力団などの組織に卸して、悪魔達は人心の荒廃を目論んでいるのだ。今日も人の姿に化け、その作業に勤(いそ)しんでいた。だがそんな中、一人の悪魔が何かの異常を感じ取ったのだ。

「何か身体の動きがおかしいっていうか、痺れているっていうか……」
「は? おまえ、何言って……ん?」

 仲間の疑念を最初理解出来なかった悪魔だったが、確かに何かがおかしかった。周囲で作業している仲間の動きが、目に見えて鈍くなり、自分の身体も何となく気だるいのだ。痛みや気分が悪いなどの症状は無い。だが却ってそれが症状の発覚を遅らせた。気がつけば全身に痺れがまわっていた。

「な、何が起きている!?」

 理解できない事態に、低位の悪魔は軽いパニックを起こす。周囲にいる十人以上の仲間も何の前触れも無い異常事態に、何をしていいかわからず、立ち尽くす。

「ギャッ!」

 そんな中、一体の身体が何かに切り裂かれたように真っ二つになる。上半身と下半身が分離し、その身が塵に還るのを見届けるのより早く、次々と他の仲間達もその身が切り裂かれていく。一部の悪魔達は咄嗟に本性を現わそうとするが、悪魔化した肉体をも不可視の力は簡単に切り分けた。悪魔達に災厄が降りかかる 中、倉庫のシャッターが大きく開け放たれ、巨大な影が中へと飛び込む。

「貴様らの陰謀もこれまでだ!」

 紅白のツートーンカラーで彩られた機動鎧が滑るように倉庫内に走り、中央まで来ると勢いを殺して立ち止まる。

「アーマード・フューリー推参! ……って、あれ?」

 アーマード・フューリーは兜を左右に振って、周囲を確かめる。本来ならば悪魔が数体居るはずなのに、それが見当たらず、気配も感じない。残っているのは幾つもの塵の山だけだった。

「え、えーっ!? ど、どうなってるの?」
「零、どうしたの?」

 慌てる零の背に、後からやってきた真中が声をかける。

「悪魔が居なくなってる」
「雛形さんが糸で全部倒しちゃったんじゃないの?」

 威圧感のある巨体に反して慌てふためくアーマード・フューリーに対し、続けて来た嶺が大したことでもないように答える。

「で、でも、そんなことって……」
「雛形さんの糸なら、簡単でしょ」
「まあ、そうね」

 零の言葉を受けて話を振った嶺に対し、真中は素っ気無く答える。事前の打ち合わせでは、嶺が麻痺効果のある毒ガスを倉庫に流し込み、真中が糸で奇襲をかけ、零のアーマード・フューリーが突撃するということになっていた。零としては自分が戦闘の主力として、悪魔とぶつかると想定していた。だが真中一人で倒してしまうとは、思っても居なかった。

「さて、終わったことだし、帰りましょうか」
「そうね。早いところ帰りましょう」

 悪魔退治に興味が薄い真中が踵を返すと、同様に興味が無い嶺も後に続く。二人がわざわざ深夜に悪魔を退治しに来たのは、零の手伝いというだけで、別に好んで行っているわけではない。用が済めば、長居する必要も無かった。

「……いつもはあれだけの数が居たら、苦労するのにな」

 零はアーマード・フューリーを能力で消すと、二人の後に続く。

「そうなの。良かったわ、役に立てて」
「そうね。そんなに大変でもなかったし」

 真中と嶺は零の手を取ると、左右から手を繋ぐ。好きな少女のために役に立ち、二人は嬉しそうな表情を浮かべるが、零の表情は冴えない。

「私って……実は弱いんじゃないかな」

 零は憂鬱そうな顔で呟いた。以前から薄々と感じていた疑念だが、零は今日のことではっきりしたと思った。零の鎧を作り出す能力は、言うなれば防御的な能力だ。攻撃方法に欠けると感じた零は、アーマード・フューリーの創造に成功し、その当時は満足もしていた。だが巨大な大木さえも一瞬で切り倒す糸を操る真中や、鯨も数分で殺すような毒を自在に作り出す嶺と比較すると劣る気がするのだ。

「そんな、零は弱くなんか無いわよ」
「私達の争いを止めたのは零じゃない。私達には出来ないわよ」

 あまり元気が無い様子の想い人に、真中と嶺がフォローする。でも二人が言っているのは能力的な強さというわけではなく、零の精神的な強さのことだろう。

「でも、二人ってあっという間に、悪魔倒しちゃうし」
「たまたまよ、たまたま。気にしちゃダメよ」

 しょんぼりとした様子の零を、嶺は笑って励ます。真中も嶺もあまり強さなどには拘らない性格みたいだが、零にとっては自分の強さは大事なことだった。自分が男だと思っている部分が大きい零にとっては、恋人達を守る立場の自分が弱いのは大問題なのだ。

「零、眠いでしょ。早く帰りましょう」

 真中の笑顔に押され、零はそれ以上その話題に触れることなく、自宅への帰途についた。






 零と嶺は前回の騒動が終わった直後に、真中の家へと引っ越した。真中が零と嶺が同室で住むことに強行に反対したためで、嶺と危うく激しい口論になりそうになった。真中としては、幾ら同意の上で既に肉体関係を持ったとはいえ、寝ている相手に夜這いをかけた相手と零が一緒に居て欲しくなかったのだ。
 間に入った零は、嶺が一緒に移れるなら引越しするという条件を提示した。真中は恋敵が自宅に住むのは内心複雑な思いだったが、零と嶺が二人きりになるのを阻止出来て、嶺を監視出来るので条件を呑んだ。嶺も零と一緒に居れるのならば問題はない。嶺は真中と一緒とはいえ、零と一緒に住むことが大事なのであった。確かに真中との同居はトラブルになりそうだったが、零と共にこれからも生活出来るのならばそれで良かった。何より、零が嶺と一緒に居たいと言ってくれたのが嬉しかった。
 最大の懸念は、保護者不在の零と嶺が同級生と同居することに学校が許可を出すかだったが、幸いにも申請は驚くほどあっさりと通った。さして荷物を持っていない零と嶺はすぐに真中の家へと移り住んだ。

「ふあー」

 フライパンを持った零が大欠伸する。土曜日の早朝、零は台所に立って、玉子焼き作っていた。三人で共同生活を始めて一週間近くになるが、食事は零と真中が交代で作っている。ずっとCIAで訓練していた嶺は料理の経験が薄いので、他の家事を専ら担っていた。記憶が無い零も正直なところ自分が料理を出来るか不安だったが、料理に関する知識はあったらしい。スーパーマーケットに出かけて、必要な物を買い、家で何とか調理することが出来た。料理のレパートリーは少ないが、幸いなことにインターネットでレシピを簡単に手に入れることも出来るので、零は何とか料理をこなしている。

「零、おはよう」
「うわっ!」

 真中に背後からいきなり抱きつかれたため、零は思わず悲鳴をあげる。

「どうしたの?」
「せ、先輩、心臓に悪いですよ」

 きょとんとしている真中に対し、零は胸を押さえる。同居人が台所に来た気配を全然感じなかったので、本当に驚いたのだ。本来ならガーディアンである零は、人の気配などには敏感な方である。

「ごめんなさい、驚かせちゃったみたいね」
「いや、気づかなかった私が悪かったですから」

 零は深呼吸して心臓を落ち着かせると、再び料理に集中しようとする。

「先輩、あのー」
「何かしら?」
「胸が当たっているんですが……」
「あら、ごめんなさいね」

 零のおずおずとした言葉に、真中は軽く微笑む。だが彼女は柔らかな膨らみを押し付けたまま、零から離そうとはしない。ふんにゃりと柔らかい女性の胸を意識すると、零の胸の鼓動は再び早まっていく。零のイメージだと、真中は静かでおしとやかな優しい女性だ。そんな彼女が自分に抱きついていると思うと、零はどうしても緊張してしまう。それでも、何とか玉子焼きを仕上げて、皿に移すことが出来た。

「真中先輩、その……」
「何かしら?」
「い、いえ、何でもないです」

 料理はあらかた終わっており、後はダイニングルームに運ぶだけなのだが、真中は一向に離れる気配が無い。うっすらとした微笑に、可愛らしい零と一緒に居れて、嬉しくて仕方が無いという感情が現れていた。

「零……」
「あ、あうぅ」

 首筋に真中が顔を埋め、唇を軽く押し付けてくる。美少女に首筋にキスされていると思うだけで、零の小さな胸は早鐘のように鼓動を打つ。零も釣り合いが取れるくらいの美少女なのだが、意識が男に近いのか、真中のような美しい少女にはドキドキして仕方なかった。

「ちょ……先輩!?」

 真中の手がまだほんのりとしか膨らんでいない胸に、スッと伸びる。女性らしい優しい動きで手が動き、繊細な動きでエプロン越しに胸を刺激する。

「あ、う……」

 零が一言、先輩止めてと言えば真中はすぐにでも手を止めるだろう。だが零の身体は好意を持つ相手の悪戯を喜んでいた。

「は、あん……あっ」

 零が漏らす困惑の声はすぐに愉悦の響きを帯びる。台所で身体を触られるなど、本当なら恥ずかしいはずなのに頭が熱くなり、性的興奮が羞恥心をかき消していく。

「はぅ……あ、あっ……」

 薄い胸を優しく擦られ、ちょこんと立った乳首をブラジャー越しに撫でられる度に、零は深い溜息を漏らしてしまう。男としての意識は色っぽい声が出るのは顔から火が出るほど恥ずかしいのだが、真中の優しい愛撫にどうしても身体は反応してしまう。

「零、キモチいい?」
「は、はい……」

 耳元で楽しそうに囁く真中に、零は消え入りそうな小さい声で返事する。見た目が幼い後輩が自分の手に敏感に反応し、恥ずかしがる姿に真中は心臓の鼓動が自分でも分かるほど高まる。零の小さな動き、声、表情のどれもが、真中には可愛らしくて仕方が無かった。

「ん、んっ……」

 ぷっくりと硬くなって自己主張を行う乳首を、真中は優しく指でなぞる。自分の薄い胸を這う細い指先に、零は敏感に身体を捩らせ、声を漏らす。自分では声を出すまいと思っているのに、幼い身体は切なそうに甘い喘ぎを何度もあげてしまう。

「せ、せんぱぁい……」
「あら……大丈夫?」

 腰に力が入らなくなってしまい、零が真中にぐったりと身体を預ける。真中は心配したような声を出したが、零が自分の手で快楽に染まる様子に、笑みを隠しきれない。真中は零の手を引くと、キッチンの椅子に座らせる。

「零、楽にしてあげるからね」
「は、はい……」

 真中は零のスカートに手を入れると、優しくショーツを脱がせる。水玉模様の下着を零は脱がされるがままだ。零はひたすら火照った身体を真中に静めて貰いたい一心だった。

「零のここ痛くない? 大丈夫?」
「うん……」

 スカートをたくし上げ、真中は優しく股間を擦る。処女を喪失した日からしばらくは、零は陰部の痛みに随分と悩まされた。小さな膣に、細い指とはいえ二本も居れてロストバージンしたのだから、無理もない。真中も嶺も随分と心配したが、零が二人に処女をあげた証だと伝えると、二人とも嬉しさは隠せなかった。

「……確かに大丈夫そうね」

 真中は零のうっすらと濡れたスリットを見て、呟く。そっと指で陰唇を広げて、腫れなどが無いのを確認してから、真中は顔を近づける。

「ひゃっ!」

 真中の濡れた舌が、零の割れ目を舐め上げた。

「せ、先輩……私、今日はまだシャワー浴びてない」
「ん、大丈夫よ」
「ひっ、あ、あう、あ、う、あっあっ」

 真中は零の幼い陰唇を舌先で割り、中をペロペロとなぞる。既に愛撫で熱くなっていた身体は愛液を分泌しており、膣口から透明な液体がドロリと漏れる。真中はそれを舌に絡めて、口にする。

「せ、先輩、そ、そんなに舐めないで……あう、やん」
「ごめんなさい。止められないわ」

 真中の舌先は陰唇を何度も上下して膣口や陰核をなぞる。股間から強烈な刺激が広がり、零は椅子にしがみついて必死に耐えようとする。

「う、あ、あっ、あん、や、だめ、だめ、やっ」

 真中の舌に翻弄され、零が悲鳴を漏らす。その可愛らしいソプラノの喘ぎは、少女そのものだ。零は自分が男だという思いを完全に忘れていた。真中は敏感な場所を心得ているように、大陰唇、陰核、膣などを生温かな舌で、巧みに刺激する。

「せ、先輩……き、きついよ……」

 美人の先輩が自分の股間に顔を埋めて、陰部を舐めている。その光景が零を更に高みへと駆り立てる。

「零……ん、ん……」
「ふ、ふぁぁ、あ、あん、あっ!」

 少し前までは真中は普通のお嬢様だったのだ、それが今はこうして自分のアソコを舐めているという事実が零には信じられない。零が真中の髪に指を絡めると、彼女はお返しとばかりに太ももやクリトリスなどにキスしてくれる。

「うう、だ、だめ、も、もう……い、いっちゃいそう」

 真中の長い舌に犯され、零の意識が朦朧としてくる。腰からかけあがる快感が脳を焼き、一気にエクスタシーの淵へと追いやられていく。

「いっちゃっていいわよ、零。いって」
「あ、あ、ああああああああっ!」

 真中の舌がクリトリスの突起を押し、嘗め回す。それだけで零の身体はあっさりと絶頂に追いやられた。肢体が痙攣し、零はギューッと椅子にしがみついて耐えようとする。

「やっ! あああ、ひ、ひゃあ……だ、だめぇ」

 真中のスリムな指が膣内に伸び、膣壁の凹凸を撫でる。エクスタシーに達している体はその指を男性器と見立てて、ぐっと締め付ける。

「零……」
「う、うあああ、あ、あ……」

 零が快感に焼かれ、悶える姿に真中の胸が熱くなる。自分の指を膣が咥えこんで締め付けるだけで、真中自身もゾクゾクするような感覚に襲われる。自分が零を感じさせているという事実が、真中に強烈な精神的な刺激を与えているのだ。

「ま、真中先輩、お、おかしくなっちゃう……あ、う、う」

 舌と指で陰部を弄られ続け、零の体が何度も痙攣を繰り返す。真中は零のエクスタシーが続くように、執拗に愛撫を繰り返し続ける。零は敏感に真中の技巧に反応し続けた。

「せ、先輩……」

 長く続いた絶頂の波が引き、零の体が弛緩すると共に、彼女の意識は暗転した。






「零、大丈夫?」
「……うぅ」

 真中に肩を揺さぶられて、零は意識を取り戻す。

「あれ、えっと……」
「ごめんね、強くしすぎちゃったかしら」

 申し訳なさそうな表情を浮かべる真中に、零は何があったかを思い出す。どうやら短いながらも、絶頂で意識が飛んでいたようだと、零は理解した。

「大丈夫、別に身体は何処も悪くないですし」
「そう?」
「それに……あの、き、気持ち良かったですから」

 零は顔を赤くしながら、小声で真中に告げる。真中は驚いたように目を見開いて零を見やる。

「ちょ、ちょっとトイレ行ってきます」

 真中の反応が恥ずかしかったのか、零は椅子から立ち上がると、その場から逃げ出すように廊下に出て行く。

「……本当、可愛いわ」

 残された真中は胸に高まりを覚えて、軽く溜息をつく。こういうとき、自分が零に心底惚れているのを真中は自覚する。幸せそうな笑みを浮かべながら、真中は零が残したパンツを拾い上げた。

「あー、恥ずかしい」

 零は廊下を歩きながら、溜息をついた。真中の愛撫で気絶してしまった事実が、零の頭をカーッと熱くする。幾ら気持ちよくても、気を失うほどの感じる自分は、何かおかしいのではないかと思うのだ。零は自分の幼い体を見て、首を捻る。

「オナニーのし過ぎかな……」

 一つだけ思い当たる事実に行き当たって、零は顔を顰める。学校の寮でも、頻繁に自慰行為をした覚えがあり、感覚が鋭敏になっているのはその所為かもしれないと彼女は考えた。

「淫乱になっているのかもしれない……どうしよう」

 深刻そうに二度目の溜息をつきながら、零はトイレのドアを開けた。だが中には先客が居た。

「ありゃりゃ!?」
「えっ……嶺先輩!?」

 便座に腰掛けた嶺と目が合い、零は固まってしまう。トイレのドアに鍵がかかっていなかったので、てっきり誰も中に居ないと思っていたのだ。

「ご、ごめんなさい!」
「ううん。鍵をかけ忘れた私が悪いわけだし、ちょっと待っててね」

 嶺はトイレットペーパーを切り取って手早く拭くと、立ち上がってトイレを流した。あまりにも手早い動きに、零は固まって見ていることしか出来ない。

「はい、終わったわ。どうぞ、使って」
「あ、はい」

 零と嶺が狭い個室内ですれ違う。てっきりそのまま嶺が出て行くと思っていた零は、彼女が自分の方を向いて後ろ手に鍵を閉めたことに仰天した。

「み、嶺先輩!?」
「さあ、どうぞどうぞ」
「な、何で残るんですか!?」
「あら、私だけ見られちゃったっていうのは、不公平じゃない? だからここは公平にいきましょう」
「そんなことを別に公平にしなくても……」

 零は嶺の理論に頭を抱える。要は好機にかこつけて、零と二人っきりになりたいに違いない。寮で生活していた頃も何かと理由をつけて嶺はスキンシップを行っている。そんな彼女だから零と関係を持ってから、より積極的になったに違いない。

「分かりましたよ。あんまり見ちゃ嫌ですよ」
「はいはい、なるべくね」

 零は嶺のことを説得するのを早々に諦めた。考えていれば処女を奪われている相手に恥ずかしがることも無い。それに零は男なのだから、気にする方が逆におか しいと自分に言い聞かせた。零はスカートをたくし上げるとちょこんと便器に腰掛けた。最初は小の方も便器に座ってすることに違和感を感じたものだが、流石にこの習慣にも慣れた。嶺は零がトイレに腰を下ろした様子に何かおかしい物を感じて、首を傾げる。

「零、ショーツはどうしたの?」
「え? あ、あわわわ」

 嶺の指摘に、零は見るからに慌てた様子を見せた。尿意に押されて、すっかり脱ぎ捨てた下着のことを忘れていたのだ。真中が回収したことも知らず、今頃ショーツがキッチンに脱ぎ捨てられていると零は思った。

「あ、あの、履くの忘れてたんです」
「ふーん、零は私に嘘つくんだ」

 嶺は目を細めると、零の肩に手を置いて便器の背にゆっくりと押し付ける。

「……ま、真中先輩とエッチしました」
「よしよし、正直が一番だよ」

 嶺に罪悪感が芽生えて、零はあっさりと本当のことを話した。ただでさえ危ういバランスで三角関係が成り立っているのだから、下手な嘘で信頼を零は壊したくなかった。恐ろしく嫉妬深い真中と嶺が互いに争うのを止めているのは、零の存在だけなのだ。

「じゃあ、それじゃそっちも公平にしなくちゃね」
「え、えーっと……」

 膝をついて、ぐっと顔を近づける嶺に零は困惑する。トイレでエッチすると嶺は暗に言っている。

「何もそんなことまで公平にしなくても」
「零は、私の場合は拒否するの?」

 トイレという異常なシチュエーションに、零は思わず拒もうとする。だが嶺だけにノーとは、零には言えなかった。嶺が零の頬に唇を寄せ、軽く押し付ける。

「嶺先輩、トイレから出て私の部屋で……」
「ダメ……我慢出来ない」

 零の提案をあっさりと蹴って、嶺は彼女の顔にキスの雨を降らす。頬や鼻、目などに柔らかな唇を押し付けられる度に、零は胸がキュッと締め付けられる。

「零……」
「ん……」

 嶺に唇を奪われると、零は自分から積極的に唇を交わす。先ほどまで拒んでいたのが、嘘のようだ。少女は互いの唇を味わい、柔らかな感触に酔いしれる。

「ん、んんっ!」

 嶺の手が薄べったい胸に触れると、零は思わず目を見開く。膨らみ自体は無いに等しい零の胸だが、感度はかなり高い。

「あ、ああっ、やっ、あん!」

 嶺のソフトなタッチに合わせて零が甘い声を上げる。零の乳首はすぐに硬くなり、服越しに触られる感触に、体を捩る。

「ふふふ、零ったら……トイレでもいいのね」
「せ、先輩、意地悪言わないで……」

 恥ずかしそうに目を伏せる零の仕草に、嶺はゾクゾクするような歓喜を覚える。嶺は優しく零の胸を撫で上げ、彼女が快感に悶える様子を楽しむ。自分がレズビアンという自覚が薄かった嶺だが、ここに至ると自分でも認めざるを得なかった。

「ん、んう、ん……」
「あ、あっ、あぁ……」

 胸を触られながら、零は何度も嶺に唇を奪われる。繊細な優しいタッチに、零の乳首は自分でもわかるほど硬く尖ってしまう。そんな胸の突起を嶺は服越しに緩い力で何度もなぞる。

「ううううぅ、あぁん……あ、あっ」

 零の困ったような抑えた喘ぎ声に、嶺はますます欲情してしまう。焦らずねちっこく愛撫を加え続け、嶺は零の可愛いらしい声を引き出そうとする。

「あぁ、嶺せんぱい……だ、だめ、あ、あん」

 零は自分が出す声に、顔を真っ赤にしてしまう。自分が男だと思っているのに、こんな少女の喘ぎ声をあげる自分が恥ずかしいと思うのだ。そんな零の思惑など察せず、嶺は胸への刺激をゆっくりと強め、更には便座シートについている放水ボタンのビデを押す。

「あ、ああああああっ!」

 機械音と共に水が自分の陰唇に直撃して、零は思わず大声をあげる。水流がスリットに当たり、今まで感じたことの無い感触が性器を襲う。

「零、どうかしら?」
「せ、せんぱい……と、止めて」
「えー、ちゃんと洗わなくちゃダメなのに」

 嶺は便座のボタンを操作して、水流の勢いを弱める。勢い良く直撃していた水がちょろちょろと弱い勢いで性器にかかるようになり、零はほっと一息つく。だが逆にこの弱い放水が程よい刺激となり、股間を熱くさせた。

「あ、あ……う、あん……」

 零は懸命にトイレの放水で感じているのを悟られないようにしようとするが、どうしても漏れ出る声は抑えられない。そんな零の恥じらいを交えた姿に、嶺は息を荒げるほどに興奮してしまう。

「零……もっと声を聞かせて」
「いや……は、恥ずかしい……」

 恥らう零の首筋に自分の感情の思うまま、嶺は軽く噛み付く。うっすらと歯型を残して、嶺は零が自分のものだとアピールする。幼くて心優しい少女を自分が思うがまま感じさせているという事実は、嶺の性欲や独占欲を酷く刺激するのだ。嶺は零が愛しくて仕方が無かった。

「こっちはどうかしら?」
「え……あっ、や!」

 嶺が便座のボタンを操作し、水流を零の尻へと向ける。菊門に当たる水流の強烈な違和感に、零は軽く身震いする。ビデと違い、男だったときも尻を水で洗ったことはあるらしいのだが、零はその感触にはゾクゾクしてしまうタイプだった。

「せ、せんぱい……べ、別にお尻汚れてない……」
「ん、いいじゃない。水が当たってるだけだし」

 自分で零の肌につけた歯型を舐めつつ、嶺は少女の股間へと手を伸ばす。水に濡れた無毛のスリットは湿り気を帯びていたが、水以外のものがうっすらと滲んでいるのが嶺にはわかった。

「あ、あぁ……やん、だめ……」

 零の幼い陰唇を中指で押し割り、膣口へと指先を嶺が当てると生温かな愛液が出てくる。その温い体液を指に絡めて、嶺はゆっくりと膣へと指を挿入した。

「あ、うあ……あ、あ、あ……あくっ」

 狭い膣内を押し広げられて、零の中に嶺の細い指が入ってくる。たっぷりと分泌液で濡れているとはいえ、零の中の粘膜は押し広げられるとすぐに一杯になってしまう。

「み、嶺せんぱい……お、お、お腹が……」
「大丈夫? 苦しい?」
「ひ、ひ、ひああああっ」

 嶺は巧みに膣内を指で探り、零の感じる場所を探り出す。指で膣壁の凹凸が多い場所を優しく擦り上げ、優しく愛撫する。

「あ、ああ、せ、先輩……あ、あうう……」

 真中との性交冷めやらぬうちに再度性器に挿入された零は、苦しそうに小声を漏らす。嶺が少し指を動かすだけで、全身が震えるほどの強烈な刺激が走るのだ。

「零……」
「あ、せんぱい、う、動いちゃだめ……あ、あ、あああああっ!」

 嶺の巧みな指使いで零の膣内を愛撫する。すると零は面白いくらいに反応し、愛らしい声で嬌声をあげる。

「せんぱい、もっとゆっくりして、や、だめ、だめ、ダメなの。い、いっちゃうって、ダメなの、ああああっ!」
「イっていいわよ、零」

 嶺は零が自分の指で悶絶する様に興奮して止まない。以前は寝込みを夜這いして、暗い欲望を満たすことしか出来なかった相手が、身を許して愛撫で絶頂に達しようとしているのだ。嶺は己の欲望が赴くまま、零の性器を指で犯す。

「ひ、ひぁ、ああああああっ、い、イク、イク、いくぅぅぅぅ!」

 便器をガタガタと揺らしながら、零が絶頂に達する。背を大きく曲げ、彼女は小さな体を幾度も激しく痙攣させる。だが嶺は愛撫を緩めず、零の激しい反応を愉しもうとする。

「せ、先輩、許して、許して、う、うあああああっ!」
「愛してる、零……もっと可愛い姿見せて」
「ああああ、や、やめ、やめてええええええっ!」

 零は再度絶頂の波に襲われ、幼い声で悲鳴をあげる。男と違い、体は愛撫に合わせて幾度も容易にエクスタシーに達する。

「み、嶺せんぱい、休ませて、休ませて、休ませて……だめ、ひああああっ!」

 泣いても、大きな声で叫んでも、嶺は零を愛撫し続ける。零が激しい反応を見せれば見せるほど、嶺は指での責めを強めるのを彼女は理解していなかった。

「あ、あぁ……」

 あまりの刺激に意識が耐え切れず、零の視界は再びブラックアウトした。






「いただきます!」

 ダイニングルームに集まった零、嶺、真中は、少し遅めの朝食を取りはじめた。零がシャワーを浴びていたため、三人全員揃うのが遅れることとなったのだ。だがそんな遅れも気にしていないかのように、嶺と真中は機嫌が良い。

「零の作ってくれた玉子焼き、美味しいわね」
「そうね。ふっくらして、甘くて……」

 嶺と真中は零が用意してくれた料理を堪能して、顔を綻ばせる。恋人との朝の睦みあいを存分に楽しんだのだから、嬉しいのだろう。

「そうですか……それなら良かったです」

 その反面、零は元気が無い。朝からエッチなことをされて、二回も気を失ってしまった自分を何だか浅ましく感じてしまうのだ。女性からの愛撫で気を失うくらいの絶頂を感じるというのは、零の男としての意識を深く傷つけた。少女の体になっただけでなく、淫乱な女になってきているという恐怖感が彼女にはある。

「先輩達、正直に答えて欲しいんですけど……」
「ん?」
「何かしら?」
「私って、淫乱なのかな……」

 ポツリと呟いた零の言葉に、嶺と真中も食事をする手が思わず止まる。可憐な美少女である零から、そんな質問が飛び出るとは思っては居なかったからだ。

「そんなこと無いって。気にし過ぎよ」
「でも、エッチして気絶しちゃうなんて……」
「あ、えーと……」

 嶺は零の意見に思わず言葉に詰まる。自分の激情に任せたセックスが、零を気絶に追い込んだのだから、本来ならば責められるのは嶺のはずだ。だが零は、非は自分にあると感じて、自己嫌悪に陥っている。

「零は男の人とエッチしたりしたいと思う?」
「え? それは無いです、絶対無い」

 真中の質問に、零はプルプルと首を横に振る。幾ら少女らしい立ち居振る舞いが多くなったとはいえ、意識の大部分は男が占めているのだ。男と寝るなどということは、零には到底考えられなかった。

「そうでしょ。本当に淫乱なら、そういう気持ちを抱くはずよ。零は違うのだから、淫乱なんかじゃないわ」
「そ、そうなのかな?」

 真中の優しい言葉に、零は首を捻る。確かに男に抱いて欲しいという感情は、零の心中からは湧き出て来ない。だが零は、どうも真中に言いくるめられているような気がする。

「そうよ。本当に淫乱なら、もう男とのエッチ無しじゃ生きられないと思うよ」
「そ、そうか……そうなんだ」

 嶺の援護射撃に、零は漸く納得したような表情を見せた。ほっとした様子で食事を再開した零に、真中と嶺も胸を撫で下ろす。
 真中と嶺にとって、零は純粋で可愛らしい少女だ。彼女が気絶するほどに激しい行為をしているのは自分達で、零はそれに翻弄されているだけなのだ。零が自分を淫乱と思い、悩むのは筋が違うと二人は思っている。

「そういえば、零の今日の予定は?」
「えっと、下着が足りなくなってきたから、近所のスーパーに行って買って、帰りにお惣菜でも買って帰ろうかと」

 嶺の質問に、零は昨日の晩から考えていた予定を伝える。嶺と一緒に住んでいたときからそうなのだが、零はショーツをよく無くすのだ。真中と一緒に住んでから、ますますそれが酷くなっている。

「下着買いに行くの? スーパーなんて勿体無いわよ」
「良ければ、ちゃんとしたお店に連れて行くわよ」
「助かります」

 嶺と真中の提案に、零は安堵する。女性の下着を含めて、ファッションに関して零は全くの素人なのだ。いつもは嶺に面倒を見て貰っているのだが、真中も来てくれるのならば零は心強かった。

「それじゃ、早いところ食べて行かないと」

 零は自分で作ったトーストを、小さな口でチョコチョコと食べるのを再開した。






「まさか、電車を使うとは思わなかったなー」

 最寄の駅で電車待ちをしている零が呟く。下着専門店がてっきり近所にあるのかと思いきや、嶺と真中は迷うことなく電車で、都心の繁華街へと向かうことを決定した。女性用の下着に疎い零には、従うのみだ。

「うちの近所だと品揃えがイマイチだから」
「そうそう。零に似合うような可愛い下着が無いからねー」

 真中と嶺は零を挟んで、プラットホームで電車を待っている。真中と嶺は友人に見えるが、零だけ身長が大いに違うため、事情を知らない人間がパッと見れば奇妙なトリオだと思うだろう。程無くして列車が駅に滑り込み、零達三人は列車に乗り込んだ。
 休日だというのに、都心へと向かう列車は人が多く、数駅通過した時点で満員となった。

「大丈夫、零?」
「うん、平気です」

 扉の近くに追いやられた自分を気遣う真中に、零が微笑む。
 記憶が無い零は、自分が昔にどのような生活を送っていたか、全く覚えていない。だが満員電車に戸惑う気持ちが無いため、慣れのようなものがあるようだ。こういう既知感を覚えるたび、零は軽い嬉しさを感じる。以前の自分がどのような人物で、どのような生活をしていたかの想像をする手掛かりになるからだ。

「日本って便利だけど、この満員電車だけは慣れないわ」

 日本人を装ってはいるが、アメリカ出身である嶺が渋い表情を作る。

「あら、ニューヨークでもこんな感じじゃないの?」
「ニューヨークはそうかもしれないけど、私は西海岸出身だから、あっちのことは知らないわよ」
「そういうものなのね」

 嶺の説明に、質問した真中が納得したように頷く。零を巡っては互いに恋敵の二人だが、元々は同級生だ。零が絡まなければ、意外にすんなりと会話を交わしたりすることもある。もちろん零を巡っては、二人は未だに言い争いが絶えない。自分の恋人達の諍いに、零は大いに悩んでいる。
 真中と嶺が米国と日本の違いについて話し合っているあいだ、零は自分の出自について考える。満員電車に慣れているということは、都心の学校に通う学生だったのだろうか。そもそも自分は何歳だったのだろうか。零は少ない材料で自分が何者だったかを推測しようとする。だが余りにも少ないデータに、取り留めのな い考えばかりが頭を回る。

(あれっ?)

 零は自分の体に触れる感触に、少し経ってから気付いた。最初は単に満員なので手が当たっているだけかと思ったが、臀部を撫でるような感じなので、明らかに当たっているだけではない。真中や嶺なのかとも考えるが、二人の手の感触を零は十分に覚えている。

(ち、痴漢だ!)

 行き着いた結論に、零の背中が総毛立つ。少女は即座に何かしなければと思うのだが、何をすればいいのかわからず、パニックに陥ってしまう。その間にも何者かの手が零の尻を這い回り、少女の心は恐怖に染まっていく。二人の恋人に助けを求めようとしたが、驚きで開いた口から声が出ない。

「零、どうしたの?」
「ん?」

 目を見開いた零に、真中と嶺が異変を察知する。最初は零に何が起きているのかわからなかった真中だったが、すぐに顔がキッと険しく変わる。真中は零の背後に手を伸ばすと、彼女の尻を撫でていた腕を掴んだ。

「あぐ、あぁ」

 真中が腕を掴んで上げると、乗客の一人が呻き声をあげる。片手でパイナップルを平気で握り潰せるほどの握力を持つ真中に掴まれたのだから堪ったものではないだろう。相手はどうやら中年の男で、ノーネクタイのスーツという出で立ちだった。

「何?」
「痴漢よ、痴漢。こいつが零のことを触ってたらしいの」
「……ふーん」

 真中の説明に、嶺の目つきが変わった。激怒する代わりに、逆に静かになったのが嶺の怒りの深さを現わしている。

「は、離してくれ」
「痴漢したんでしょ」
「し、知らん。痴漢なんて知らない」

 真中の詰問に男がシラを切る。すると真中に続いて、嶺も男の手を掴んで、万力のような力で締め上げる。

「う、うああああぁ。や、やりました、痴漢しました」

 今にも腕の骨をへし折らんばかりの怪力に、男が必死に白状する。しかし真中も嶺も力を緩めようとはしない。互いに視線を交わし、この不埒な男をどう料理するか、アイコンタクトで意思を疎通する。

「け、警察に行きましょう。ね、ね」

 真中と嶺が殺意を持ったのを察知した零は、慌てて二人に提案する。自分自身が痴漢の被害にあっているはずなのだが、恋人達に殺人までは犯して欲しくは無い。だがそんな零の気遣いも知らず、男は血相を変えて懇願する。

「お願いです、警察だけは勘弁して下さい」
「ダメ。警察に行きます」
「そんな……許して下さい!」

 男の言葉にも耳を貸さず、零はきっぱりと拒絶する。ここで自分が温情などを見せたら、真中や嶺が却って何をするかわからない。

「わかったわ」
「警察に突き出しましょう」

 男が警察に行くのを嫌がるのを見て、真中と嶺は零の意見に賛成した。これ程に男が抵抗するならば、司法の手に委ねた方が男には苦痛だろうと判断したからだ。
 男は散々に許しを請うのだが、真中と嶺は次の駅で容赦なく男を車両から引きずり出した。痴漢が美人の女子高生二人に無理やり連れて行かれる姿に、同乗していた乗客達は興味深そうにそれを見送った。






「全く……最後まで往生際が悪かったわね」
「ええ、そうね」

 目的地の駅で降り、歩み始めた嶺と真中は本日何度目かの不平を漏らす。二人が話しているのは、もちろん痴漢のことだ。
 駅員に突き出された男は非常に怯え、何度も見逃して欲しいと零達に訴えかけた。だが男が必死になればなるほど、真中と嶺は嬉しいらしく、最後にはうっすらとした笑みを浮かべていた程だ。零が中途半端に許してしまえば、男の身に危険が及ぶのは避けられないため、彼女としても黙って見ているしかなかった。結局、男の身柄は警察が引き取り、零達は事情聴取されたあとに再び電車に乗り込んだのだ。

「腕の神経、潰しておけば良かったかしら?」
「そうね……半身不随になるような遅効性の毒でも射ち込めば良かったかもね」

 真中と嶺は教師の悪口でも言うかのように、さらりと恐ろしいことを話し合う。その二人の言葉に、流石に零もギョッとする。

「な、何もそこまでしなくても……」
「零は優しいわね。でも、情けをかける相手は選ばないと」
「そうそう。零が気にする必要なんて、これっぽっちも無いんだから」

 二人の先輩は優しく零の肩や頭を撫でる。だが零の表情は冴えなかった。
 自分が痴漢の被害にあったとはいえ、元男の零としては同情の方が勝ってしまう。零も自分の容姿のような美少女が居れば、思わずイタズラしたくもなる。警察に引き渡すのはごく当然とも言える対応だが、相手に殺意を覚える程とは思えないのだ。

「名刺抜き取ったから、相手の職場にも伝えておくわ」
「ええ、お願いね」
「ちょっと待って下さい! や、やり過ぎじゃないですか?」

 嶺と真中の会話に、零は割り込む。そんな零を、二人は怪訝そうな顔をする。

「だって相手は女の敵よ、零」
「で、でも……」

 嶺の言葉にも、男としての心情が勝る零は納得いかず、目をさ迷わせる。

「それじゃ、私達が痴漢にあったとしたら、零はどうする?」
「な、殴り倒す!」

 真中の質問に答えた零は、慌てて自分の口を両手で押さえる。真中が他の男に触られているのを想像した途端、カッとなって思わず口が動いていたのだ。思った以上に強い反応を示した零に、真中と嶺は驚くが、すぐにクスクスと笑い出す。

「そういうことよ。私も零と同じ気持ちなのよ」
「なるほど、そうか」

 真中の説明に零はようやく納得する。真中や嶺もこれが他の少女ならば、普通に警察に突き出して終わりだが、零に手を出されたのに怒っているのだ。もし被害者が真中や嶺だったならば、零もどうしていたかわからないだろう。

「私が襲われたら、零が守ってくれるのね」
「もちろん」

 楽しげに聞く嶺に、零は断言する。

「それは頼もしいわね」

 真中も嬉しそうに零の髪を撫でる。
 零としては本気なのだが、嶺も真中も幼く可愛い彼女を逆に守らなければ、という意識がますます強くなる。確かに巨大な鎧を召喚し、凶悪な悪魔達と渡り合うほどの零だが、真中や嶺から見れば自分達よりか弱い少女だ。人間離れした強力な力を持ちつつも、痴漢にあって怯えてしまうのだから、二人にとって零は守らなければいけない存在なのだ。だが自分を男と思いきっている零は、二人の先輩の考えには、まだ気づいていなかった。
 そんなやり取りをしているうちに、三人は目当てのランジェリーショップへと辿り着く。都内の専門店ということだけあって、店の外観はそれ程大きくはないが、奥行きが随分と深く、大量の下着類が展示してあった。ランジェリーショップは初めてではない零だが、毎回強い背徳感に襲われ、ビクビクしながらの入店になってしまう。女子トイレ、女風呂などと併せて、男が永遠に行くことの無い場所のはずだからだ。だが小動物のようにおどおどしている愛らしい幼女の姿は、店内でも違和感が無く、誰一人として疑う者などいない。

「零の下着はこっちかしらね」

 真中が零を引っ張り、緊張している彼女はなすがままに連れて行かれる。下着をキョロキョロ見回す零の姿を背後から眺めつつ、嶺が後に続く。

「あう……」

 連れられたセクションに置いてある大量の下着に、零は思わず呻く。ズラリと並ぶ色とりどりの下着に、圧倒されてしまったからだ。目を逸らした先にも下着があるので、零としては目のやりどころが無い。

「零、気に入ったのを選んでいいのよ」
「好きなのを買っていいわよ」

 先輩二人に零は促されるが、布地が薄かったり、逆に派手なレースがたくさんついている下着に、何を買えばいいのかわからない。せめて白い無地のショーツが無いか、彼女は自分で探そうとする。

「零、こういうのはどうかしら?」
「え、ええっ!?」

 真中が零に見せたのは薄い布地の紐パンツで、水色と白のストライプが入っていた。そのあまりにも小さな布に、こんなものに自分の尻が収まるとは零は到底信じられなかった。

「零はこっちの方がいいわよね」
「あ、あうう……」

 嶺が手に取ったのは、真中とは逆にひらひらのフリルがたくさんついたショーツだった。あまりに派手な装飾に、こんなパンツを履いていて、パンチラしたらどうしようかと零は考えてしまう。
 零が戸惑っているうちに、真中と嶺は次々とショーツやブラを見せて持ってくる。

「零はこんなのが似合うわよ」
「私はこっちの方が似合うと思うわ」
「え、えっと……」

 真中は可愛らしいがレースで透けていたり、布地が少ない下着を好み、嶺は逆に装飾の派手なフリルの多い下着をチョイスする。だが女性用下着に慣れ親しんでいない零にとっては、そのどちらも過激に感じてしまう。

「で、出来れば無地の白いパンツなんかがいいんですけど……」
「駄目よ! 女の子なんだから、気を使わなくちゃ」
「零、前から言っているでしょ。見えないところこそ、オシャレしなくちゃ」
「あう……」

 強硬に主張する真中と嶺の迫力に、零はたじたじになってしまう。二人とも普段は零に優しいがオシャレなどには、全くと言っていい程に妥協しない。いや零の服装などについては妥協しないと言った方が正しいだろうか。

「零、どっちがいい?」
「こっちよね」

 真中と嶺は火花を散らして、零に迫る。恋敵なのだから、当たり前だろう。

「……両方とも買います」
「あら、そう?」
「じゃあ、お会計を済ませるわね」

 零が仕方なく折衷案を出すと、真中と嶺はあっさりと矛を収めて、下着をわんさかレジへと持っていく。意地や嫉妬で張り合ったのではなく、どうやら自分の選んだ下着を単に履いて欲しかっただけのようだ。零は内心喧嘩や殺し合いに発展しなかったことを安堵しつつ、二人が選んだ派手な下着を履くかと思うと憂鬱になった。だが買って貰うのだから、仕方が無い。

「零」
「お待たせ」

 ランジェリーショップの毒気に当てられた零は、長居は無用とばかりに外で待ってると、嶺と真中が買い物袋を提げて店から出てくる。袋の大きさを見るに、かなりの量を買ったのがわかる。二人が自分達の分も買ったから、あれだけの荷物になったのだと零は願うが、多分中身は零用の下着しか入っていないだろう。

「先輩達、ありがとう。折角選んでくれたし、私の奢りでお茶でもどうです?」
「え、いいの?」
「何だか、悪いわ。零、無理しなくていいのよ」
「いいのいいの」

 曲がりなりにも自分のために買い物してくれたのだから、零は喫茶店でお茶ぐらいは飲ませてあげねばと思った。嬉しそうな嶺と申し訳無さそうな真中の腕を引っ張り、零は来る途中に見かけた喫茶店のチェーンへと二人を引っ張っていった。






「ただいま……」

 零は真中の家へと戻ると、疲れたような声を漏らした。

「ただいま」
「ただいまっと」

 後に続く真中と嶺は、零と対照的に元気が良い。折角繁華街に向かったという理由で、三人は 喫茶店に入ったあとショッピングに向かったのだ。真中と嶺は存分に服を見て回り、十分に楽しんだようだが、零は逆に疲弊してしまった。ウィンドウショッピングというものに零は慣れておらず、多彩な洋服をあれこれと見ては零に薦めてくる二人に、戸惑ったからだ。女性の洋服に興味が無いのに、数時間付き合って零はぐったりとしてしまった。

「部屋に行きますね」
「はいはい」

 嶺と真中に見送られながら、零は自室へと向かう。真中の両親は裕福だったためか、彼女の家は空き室が多く、零はそのうち一室を自室としてあてがわれていた。

「ああ、疲れた……」

 零は倒れこむようにしてベッドへと横たわる。彼女は枕を引き寄せると、そのまま目を瞑って寝ようとする。買い物の帰りに駅の近くにあるファーストフード店で、既に夕食は済ませてあるので、このまま寝ても何ら問題は無い。だが眠りの淵にいた少女 を、ドアのノックオンが引き戻した。

「零、いいかしら?」
「どうぞー」

 ひょっこりと現れた真中に続き、嶺も部屋へと入ってくる。零は眠いのを我慢して、ベッドの上でペタンと膝を崩して座る。

「どうしたんですか?」
「ほら、折角買ってきたんだから、着て見せて」
「ああ、そういうことですか」

 零はチラリと買ってきた下着の入った紙袋を見る。確かに整理してないし、折角買って貰ったものだから、着てあげるのが礼儀だろうと零は考えたが。

「え、着て見せるんですか!?」

 よく考えれば買ったのは下着だ、そういうのをほいほい人前で着替えて見せびらかすのはどうであろうか。

「ダメ……かしら?」
「う……」

 真中は悲しそうな表情で、零を見つめる。女性にそんな表情で見られれば、零としても断れるはずもない。
 その晩、零はランジェリーショーをすることとなったが、そんなことをすればただで済むはずもない。彼女の部屋には、一晩中嬌声が響き渡っていたという。











   































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