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人は自分の思い通りになるのは難しい。
人が人であり続けるのは難しい。
それは、人は生きることが……とても難しいということである。
だって、それは私にも当てはまることだから。
そう。私は化け物だから。人に恐れをなす。
化け物。でも、それを一括りにすることはとても難しい。
化け物でもいろいろある。私はその中でも、最上級に位置していた。
多分、それからだと思う。
化け物といわれて。私がこんなにも無表情になったのは。
でも、勘違いしないでほしい。
私はいつでも人の味方だったから。
人は敬い、蔑む生き物だ。
そのことは私も充分に理解している。
だから、何を言われても。私は平気だった。あのときに比べば……なんてことはない。
 
私の名前は小松栞。
 
私が司るのは……流れ。
 
そして。
 
ガーディアンの廃棄ナンバーである。
 
『1』
 
私は……流れを司る。
 
流れ。それは水の流れや血の巡り、物体の流れなどを司っている。
でも、私はそれを人に行使したことはない。
人に外れた邪の物には何十回、何百回もしたことがあるけれど。
人に向けてやったことなど、一度もなかった。
そう。自分の兄以外は。
私は兄を壊したことがある。
いいや、一概に壊したとは言えない。
私は怖い。
人を殺すことが怖い。
でも、私は兄を殺した。
だからこそ、私は人を殺せない。
それは自分の持っている最後の理性だから。
そんなことが何年か続いた後だった。
私が彼と出会ったのは。
 
『2』
 
私と彼が出会ったのは恋愛でも王道的な出会いだった。
 
担任の先生が言った言葉から始まる。
 
「おー。来たか。小松」
 
最近の担任の教師は苗字で呼ぶことが多い。
よほど親しい人でないと、下の名前で呼ぶことはないのだ。
私は目で明らかに疑問そうに「何?」と訊くと、担任の先生が困ったように言う。
 
「いや、用ってほどでもないんだがな。今朝のプリントを運んで行ってほしいだけなんだ」
 
私の無表情に担任の先生も返答に困っている。それもそうだ。
私が喋るなど。ありえないのだから。
私は無表情に頷いて、先生の隣にあるプリントを持っていく。
そういえば今日は当番だったことを思い出す。
面倒くさいが持っていかないわけにはいかない。
私はため息を吐いて、それを持って出た。
曲がり角を曲がる。
そこはすぐに教室の傍だった。
私が急ぎ足だったのか、今朝のあれを思い出したくないのか。それとも、他の理由からか、すっかり失念していたのだ。
普通なら能力を使って、人の流れを読んでしまうというのに今日に限ってはそんなことはしなかった。
すると時間がかかってしまうし、何よりも早くに教室に戻りたかったというのもある。
教室の傍に来たときだった。いきなり、人にぶつかって倒れそうになる。
なんとか、バランスを取ろうとするも私の手の中にあったプリントがばら撒いて、地に落ちるまでは相当時間がかからなかった。
 
「うわっ」
 
その子が慌てて転倒する。だけど、私は特に気にもせずに物体を元に戻す働きを心がける。一瞬でばら撒かれたプリントが元に戻る。それはまるで、逆回しの再生映像を見ているみたいだった。
物体の逆流。それも私の能力の一環だった。
 
「いててて。あれ?」
 
そこで見ていた子は少し面を喰らっていたようだった。だけど、私は特に意識せずに教室に入る。
 
「おい。大丈夫か?麻生?」
 
そばにいた別の子が声をかけた。
 
「うん。どこにも怪我はないけれど」
 
「おい。あんた。何をしやがるんだ!って、鉄女か?」
 
彼は私の顔を見るなりそう言った。
鉄女。どうやらそれが現世で継いだ私のあだ名のようだった。なるほど、妙に的を得ている。
 
「だ、大丈夫だよ」
 
そして彼が立ち上がって、私の目を見た。私も彼の目を見たとき、少しだけ驚いた。
それは暗い瞳。しかし、それを隠している眼だった。
普通の子は好奇心旺盛や澄明な眼で私を見る。だけど、それのどれも違っている眼だった。
強いて言うなら、何度も何度も戦い抜いてきた洞察眼。それでいて、人を観察している眼だった。
 
「君は大丈夫?」
 
しかし、私は特に何も言わず、無表情にさっさと行ってしまう。
 
「麻生。お前……今地雷を踏んだな」
 
「地雷?」
 
「あの子はね。喜んでいるところも怒っているところも見たことがないの。それにしゃべっているところすらね。あの子の名前までは分かっているんだけれど、それ以外は一切喋らないのよ。で、ついたあだ名が」
 
「鉄女ってわけ。あの女。誰にも近づかないし、近づこうともしない。でも俺たちと同じクラスだぞ?もうちょっと、愛想良く振舞ってほしいよなぁ」
 
「あの子の名前は?」
 
「おいおい。本当に知らないのか?……って言っても仕方ないわな。お前はそういう奴だ」
 
「人を名前も分からない人みたいなことを言わないでくれますか?」
 
ちょっと、ムッとしながらも先ほどの少年は語尾を強める。
 
「名前は小松栞だったかな?」
 
「栞……さんか」
 
「どうした?麻生」
 
「別に何でもない」
 
少年はただ、何かを考えていたけれど。それは何なのか。私にはわからなかった。
 
『3』
 
昼休み。というかお昼ご飯の時間だ。
 
私はいつも弁当を作って持ってきている。
今日は中庭で食べようと思って、席を立つ。
だけれど、そのときだった。私の名を呼ぶ声が聞こえた。
 
「栞さん」
 
さっき、ぶつかってきた子だ。私は無表情に彼を見る。眼で「何?」と言う。
 
「一緒にお昼ご飯を食べない?」
 
はっ?
いきなり何を言い出すのだ?この子は?
 
「ねえ。みんな。いいよね?」
 
そう言って、後ろの四人に振る。この五人がいつも何かをやっているとは知っていたけれど。
 
「えっ?」
 
「おいおい。マジかよ。麻生……まあ、顔はかわいいから許すけどよ」
 
「私は小松さんがよければ構わないけれど」
 
「そうだな。俺はいいぜ」
 
「私も構わないわよ」
 
私はどうしようか迷っている。ここで断ってもいいような気がする。けれど、私の中の好奇心が何かを訴えている。
何を訴えているのかはわからない。彼らが私に笑顔をくれるとは限らないのだ。
私は感情を欠落した廃棄ナンバーだ。そして、その目的は悪魔を狩ること。
何故、私は戸惑っている?こんなものを無視して進めばいいのだ。
だけど、もしも彼らのように陽を照らす笑顔になれたら、私にも何かが芽生えてくるかもしれない。
 
「だって。みんなが一緒に食べたいって。だから一緒に食べようよ」
 
再三言って催促を求めているが、私には理解ができなかった。いや、彼らの言っていることには理解はできる。だが、どうして私と一緒に食べたいのかが理解できなかった。
私は極力人を避け続けてきた。それは人に迷惑がかからないようにしているつもりだった。
でも、その一方で人と共に歩みたいと思っていた。
もしも、彼らが私を拒絶するなら最初からしている。だけど、そうでないなら……何だ?
このふわふわした気持ちは……何だ?
私は二千年もの間……ずっと孤独だった。
一人で戦い続けていた。
でも、できることなら戦いのない……みんなが笑い合える時代に生きたかった。
そして、その時代が来たのだと思う。
私は知らず知らずのうちにコクリと頷いていた。
 
『4』
 
私は人ならざるものと戦っている。それは太古の昔、『奈落』というところから悪魔がやってきて人々を落としいれようとはじめたところから始まる。
多分、二千年前ぐらいの話だ。
正規のガーディアンがいるという話も聞いたことがある。
でも、私はいつも孤独に悪魔を狩っていた。
私は流れを司っているから、その流れが少しだけ不安定になると行動を起こし始める。
その不安定なところを突き止めて、悪魔を狩る。
それは世界の流動体でもいうべきか。それが若干ずれると悪魔がやってきたというサインだ。
でも、最近は減っている気がしないわけでもない。昔は大蛇や牛鬼なども相手にしたこともあるくらいだ。
その中には何度も転生して戦ったという者もいる。
私は正規のガーディアンとは違い、主を持たない。
一度も持ったことはないし、これからも絶対に持たないと決めている。
主なんていても、足手まといになるだけだとわかっているから。
 
「ジャジャーン!今日のお昼ご飯は焼きそばパンなのだ!」
 
私は無表情にその焼きそばパンを見る。なんてことはない。普通の焼きそばパンだった。
 
「おおーっ!超レア物を手に入れたね。さすがは我が相棒っ!」
 
「ああ。俺の努力の結晶を食うんじゃねぇ!」
 
「焼きそばパンおいしー!」
 
私は何をやっているのだろうとため息を吐いた。
しかし、私はせっかく持ってきた弁当も勿体無いのでそれを開けようとすると。
 
「あれ?栞さんも弁当なの?」
 
さっき、ぶつかってきた子が(確か名前は麻生唯だったか?)が訊いた。
私は頷いた。『栞さんも』ということはこの子も弁当なのか。
 
「僕も由佳さんが作ってくれるんだけど。とても美味しいんだよ」
 
私に向かってチキンナゲットを差し出す。これは食えということなのか。
私はひとつを一口で食べてみる。なかなか美味しい。
 
「いいよなぁ。麻生……とてつもない美人さんがいてなおかつ、近所の住人もみんな美人さんなんだろ?俺にもそんな美人さんが欲しいよなぁ」
 
「やっぱり、最近の男子はおっぱいが好きなのかなぁ。小松さんはどう思う?」
 
そんなことを小声で言われてもわかるわけがない。私は首を横に振る。
私は基本的に正規のガーディアンとは違い、美人とは称されるが巨乳とは言い難い体躯をしている。二千年近くも転生を繰り返しているけれど、胸の方は発達していないのだ。
だけど、その分能力だけは異常に伸びている。調子の良い時は十キロ先の歪みを発見できるのだ。
それにしても、この子……まさかね。
私が危惧しているのはこの子が正規のガーディアンの主ということだった。
でも、ありえないわけではなかった。さっきの眼といい、人を観察する眼は何代か前の主に酷似しすぎている。
私は廃棄ナンバーだから、すっかり失念していた。
もしも、彼が主ならば、彼女たちから接触してくることもあるということを。
 
『5』
 
それは案外、早くにやって来た。
彼らと昼食をともにした次の日の夜。
私がいつものように悪魔を狩っている最中だった。
私はため息を吐いて、その場で休憩しているときだった。
影が通り過ぎて、新手か?と思ったとき、そいつは現れた。
 
「やっぱり、あなただったのね。最近は悪魔が少ないと思ったけれど」
 
そこにいたのは正規のガーディアンでも最強の能力者……不動静香だった。
月明かりとともに照らし出されたのはもはや偶然ではないだろう。
私は考える。どうして、彼女がここにいるのか?
 
『あなたも悪魔を狩りに?』
 
私は直接脳に叩き込むテレパシーのようなものを使った。私は流れを司るからどうしても会話が必要なときになどにこういう手を使うこともできる。
もちろん、普通にしゃべることもできるが、最近は滅多にやったことがない。
少々の雑事程度なら、頷くだけでできるし本当にやりたくないときは首を横に振れば済むだけだからだ。
 
「いいえ。私はここに何が起こっているのかを見にきただけよ」
 
彼女は自分に胸に手を合わせてにっこりと笑った。
基本的に彼女は争いを好まない性格だということはわかっている。
だけど、何か腑に落ちない点があった。彼女はレズビアンだということはわかっている。
なのに……この余裕な笑みは何だろう?
まさか、近くに土田早苗がいるとも思えない。
 
『どうして見に来たの?』
 
「そうね。予感かしら?」
 
『予感……?』
 
「懐かしい誰かに会う予感。そして、それは当たったけれど」
 
『あなたは一人?』
 
「今は一人だけど。新しい主を手に入れたわ」
 
『…………その人の名前は麻生唯って子なのね?』
 
私がため息をはきながら訊いた。そうとしか、考えられなかったから。
 
「知っていたの?」
 
彼女が驚く。知っているも何も今日も昨日も会ったのだから。まさか、と思い訊いてみる。
 
『あなた……まさか、契りを交わしたの?』
 
すると、彼女は顔を赤らめて呟いた。
 
「ええ」
 
『レズビアンのあなたがどうして?』
 
「……別にいいじゃない。それよりもあなたも一人なの?」
 
これには返答を迷った。いや、別に迷う必要もないのだが、言うと何故か引き返せない気がしたからだ。
しかし、私は言う。
 
『ええ。そうよ。そしてこれからもそうするつもりよ』
 
静寂が過ぎた。私は彼女の言葉を待つ。だけど、それは私が激昂させる一言だった。
 
「あのね。今度の主はいい人だと思うわ。だから、一緒に来ない?」
 
それでも、言葉を選んでくれたと思う。でも、その一言は私にとってはタブーの一言以上に言われたくない一言であり、聞きたくない一言でもあった。
私は極力無表情に言う。
 
『私とあなたの違いは何だと思う?』
 
「……っ!」
 
私は無表情に言ってはいるが、内心は怒っているのがバレバレだった。
 
『私は廃棄ナンバー。あなたは選ばれた人なのよ』
 
それははっきりとした妬みだった。
 
「ち、違う……私はそういう意味で言ったんじゃあ……」
 
『全く。一緒に逃げ回っている早苗と弱い人間の麻生唯を気の毒に思うわ。こ・ん・なお姉さまを持った彼女達の気が知れないわ』
 
しかし、今度は彼女が怒る番だった。
 
「なんですって?私のことはいいわ。自分でも人を傷つけることはあるし、悲しませたりすることもあるわ。でも、唯さまや早苗の悪口を言うのは許せないわ!」
 
そう言うと、片方の手のひらを私に向ける。
私は後ろに素早く下がる。すると、ズドンと音がしてそこには大きな穴が開いていた。私に向かって加重をかけたのだ。
 
『……本気なのね』
 
「今の言葉を訂正しなさい。出ないと次の景色は来世で見ることになるわよ」
 
『今度は脅しに似せた説得のつもり?だから、あなたたちは弱いのよ』
 
今度は手加減なしの極小のワームホールを発生させた。その反動で生まれる超強力な重圧砲を私の体に直接叩き込もうとする。
だけど、私は右にすっと避けて、そのワームホールは私に当たらずに四散した。
 
「えっ!?どうして?」
 
彼女が驚いている。何もできないまま絶命するはずのワームホールが当たらなかったのだ。
 
『あら?私の能力をもう忘れたの?』
 
私が司るのは水でも火でも何でもない。ただの流れ。
だけど、流れは水だけだと思ったら大間違いだ。
敵の動き、木の葉の揺れ、木々のざわめき。これらは全て流れによって存在する。
私はワームホールの流れを読み、加重の流れを読んだ。
何かを出すとわかっているなら避けるのは容易いことだった。
だけど、次の瞬間、彼女が消えた。いや、その表現は正しくない。正確には彼女の周りの重力をゼロにして早い動きで私に向かってきてるだけだ。
私はその流れを読みながら、丁寧に避ける。それはまるで教科書のお手本のような動き。
彼女の右手のパンチを払い、後ろの後頭部にめがけて一撃を放った。
普段の悪魔なら、それの一撃で四散して塵になって消えるはずだ。
 
「がっ!」
 
鈍い音がして彼女が大きく吹き飛んで後ろの岩に激突するはずだった。
 
『立ちなさい。これくらいで終わったりはしないでしょうね』
 
彼女はフラフラしながらも立ち上がる。さすがは最強と称されることはある。事前に自分に加重をかけて岩の激突を避けたのだ。
だけど、彼女の右手が怪しい。どうやら、少し加重を掛けすぎて折れているようだった。
彼女は私にワームホールを直接ぶつける。私はそれを避けながら考える。
彼女がここまで過剰にムキになるのは珍しいことだった。
彼女は好戦的ではない。それは永きに渡って転生を繰り返した私がよく知っている。
それほどまでにプライドがズタズタにされるのが嫌なのか。それとも……それほどまでに麻生唯のことが……好きなのか。あの早苗をも凌駕するのか?それほどまでに麻生唯に心酔しているのか。
それは主を持たない私にとっては未知の答えだった。
だけど、まだ眼は死んでいない。それはいつでも私を殺せる覚悟と何かを宿した眼だった。
何故そんな目ができるの?
 
「まだ……よ」
 
私はため息を吐いた。この人はいつもこうだ。
自分のためじゃなくて他人のために力を使い、戦う。それは主のためとか、自分の恋人の早苗のためだ。これでは私が悪者みたいだった。
 
『……あまり、使いたくはなかったんだけど』
 
私は再度ため息を吐きながら言う。
 
「な、何を?」
 
『しょうがないわね。こうでもしないとあなたは倒れてくれそうにないもの』
 
「ま、まさか!」
 
彼女が上を見る。そこには私が呼び寄せた彗星がある。
私の『流れ』は星の流れまで読むことができる。
そして、その流れを変えることもできる。プリントを元に戻すのも流れを変えることだった。軌道を読むには多少の時間がかかる。だけど、私はそれを行うのは容易いことだった。
私は流れを司る。それは……直径五メートルはあるかもしれない巨大な彗星だった。
彼女は後ろを見る。そして、少し悲しそうな顔をするとその巨大な彗星を全身全霊を賭してワームホールを放つ。
次の瞬間、大爆発が起こり、あたりいったいが吹き飛ばされてしまった。
私はこれほどとは思わなかった。ガーディアン同士が争ったりすると天変地異などが起こることがよくあると言うが。しかし、これはそれ以上だった。
私は彼女の近くまで行く。彼女は力を使い果たしたのか、それとも死んだのかピクリとも動かなかった。
後者はないことが判明した。彼女はまだ生きている。心臓の鼓動の音が『流れ』で読み取れる。
だけど、右腕は折れて使い物にならないから、私が勝ったといえるだろう。
問題は彼女の動機についてだった。
まさか、本当に主を心酔し、慕っているとは思わなかった。
私はよろめく。少々力を使い果たしたみたいだ。
彗星の流れを変えるだけでも疲れるというのにそれにも増してそれを制御しながら、彼女に当てるというのもなかなか骨がこる作業だった。
本当に弱いのは人間でもなく私かもしれない。
そう思った彼女の一撃だった。
私は彼女を担ぎ上げる。
ここで死んではいけない。どうして私がこんなことをしているのかはわからない。
でも、ここで彼女を見捨てるという選択肢は私にはなかった。
私は人間を殺せない。それはガーディアンという化け物とて同じだった。
私は携帯電話で彼の住所をGPSで位置を確認すると彼女を運び出した。
 
『6』
 
唯はテレビを見ていた。時刻は深夜。もうそろそろ寝ないと明日は起きられないかもしれない。そう思ってベットに眠りにつこうとしたときだった。彼は音を使役して近くにある音を拾うと家の近くでドサッという音が聞こえた。最初は酔っ払いが倒れたのだろうかと思ったけれど、なぜか気になって玄関まで行く。そして、ドアを開けたとき驚きの光景が広がっていた。
 
「し、静香さん!?」
 
そこにいたのはぐったりとした静香が仰向けに横たわっていたのだった。
非常事態だと悟った。
すぐにみんなを呼ぶ。
 
「みんな!すぐに来て!」
 
主の声にみんなが集まる。
 
「何?」
 
みんなが眠たい眼をこすり、玄関に集まる。だが、そこには驚きの光景が広がっていた。
 
「お姉さま!?」
 
静香に近づいたのは早苗だった。
 
「京さん。お願い!」
 
「わかったわ!」
 
そう言うと、京がすぐに診断を下した。ベットには早苗が運んだ。
 
「肋骨三本、あばら骨が二本。右腕も折れているわね。多少の擦り傷はあるけれど、一応、できる限りの応急処置は済ませたわ」
 
「それでお姉さまは?」
 
「今は昏睡状態が続いているけれど。多分、三日もすれば眼が覚めるでしょう」
 
「よかった」
 
「それにしても誰にやられたんでしょうね。彼女ほどの能力者なら絶対にやられるわけがないと思うけれど」
 
芽衣が言うと麗がすかさず。
 
「油断してたんじゃないの?結構、ボーっとしてるところが多いし」
 
しかし、その案を京が却下した。
 
「それはないわね。彼女がこうなったのはおそらく力の使いすぎによるものよ。それほどの人数を相手にしたのか、それともかなりの上級悪魔かのどっちかよ。でも、わからないことがあるわ」
 
「うん。どうして家の前に倒れていたのかでしょ」
 
その問いに唯が答える。すると、彼女が深刻な顔をした。
彼女が起きてここまで歩いてきたのかはわかるけれど、どうみても誰かが運んでここまで来たのがわかる。
 
「そうね。見せしめのためか。あるいは……」
 
「……うっ……こ、ここは……」
 
そのとき、静香が起きた。京の話では三日間眠るというが、さすがはガーディアン。回復力が速い。
 
「お姉さま。気がつかれましたか?」
 
「早苗……唯さま……っ!」
 
「大丈夫?」
 
「は、はい。すみませんでした……あの子は?」
 
「あの子って……誰のこと?」
 
すると、彼女が悲しそうな顔をした。全てを悟ったようだった。
 
「……そうですか。みんなもごめんなさい。私のために……」
 
「いいのよ。それにあなたのためじゃないわ。唯さまの命令だから従っているのよ」
 
ミシェルが言う。
 
「さて。もう寝ましょうか?」
 
「そうですね。明日も早いですし」
 
「……?みんな?」
 
唯が怪訝そうな顔をする。
どうしてみんな……放っておくのだろう。
 
「じゃあ、そういうわけだから。お願いね。唯君」
 
由佳が言うと、なるほどと思った。ここでみんなが慰めあって話を聞いても彼女は喜ぶどころか悲しむだろう。
ガーディアンの中でも最強と称される彼女が負けたのだ。みんなが気を使ってくれたのだろう。
最後にミシェルが退室すると、彼女は息を吐いた。
 
「唯さま」
 
「ん?」
 
「申し訳ございません」
 
「それは負けたこと?それとも、ここまで運ばせたこと?」
 
「両方です」
 
それは静香の本心なのだろう。
 
「それほどの相手だったの?」
 
「ええ。でも、悪魔ではありません」
 
「じゃあ、人間?」
 
まさか、それはないと思うが訊いてみると。
 
「唯さまは私たちが悪魔と戦っている間は私たちのことをどう思っているのですか?」
 
「えっ?」
 
「私たちのことが怖くなったり……とかはありませんか?」
 
「それはないとは言えないけど。でも……急にどうしたの?」
 
「友達に……一人いたのですよ。私の力を怖いといってくれた人が……」
 
彼女は遠い眼をしながら言った。多分、それからだろう。彼女が力をあまり使わなくなったのは……だけど、早苗が守ってくれるし、使う機会が少ないといったほうがいいだろう。
共に進むと決めた以上、彼女は彼女なりに自分を守ったともいえる。
 
「結論を言う前に……唯さまに質問があります」
 
「何?」
 
「小松栞という方をご存知ですか?」
 
「うん。知っているというかクラスメイトだからね」
 
「そうですか……なるほど」
 
「静香さん?」
 
「結論を言いましょう。私を襲った人は小松栞という人物です」
 
「…………やっぱり」
 
「知っていたのですか?」
 
「いや、知っていたというか。何かが感じていたといったほうがいいのかな?それに、何なのかはわからないけど、彼女は力を使っていたから」
 
「それはいったいどんな力ですか?」
 
「最初はあれ?と思ってたけど。ぶつかった瞬間にプリントがばら撒かれたとき、気がつくと元の彼女の位置に戻っていたんだ」
 
「そうですか。そんなことが……」
 
「彼女は悪魔じゃないの?」
 
「ええ。彼女は私たちと同じガーディアンです」
 
「えっ?でも、ガーディアンは12人しかいないって」
 
これには彼も驚いたらしい。
 
「はい。そうです……ですから、私たちと同じというわけではないのです」
 
「どういうこと?」
 
「彼女は廃棄ナンバー。とは言っても能力的には私たちと同じくらいの力はありますけど」
 
「廃棄……ナンバー?」
 
「ええ。彼女は私たち正規のガーディアンとは違い、ナンバーを廃棄された人です」
 
「それって……みんなとはどう違うの?」
 
「明確な違いは主の言霊が効かない点です。ですから、彼女とは誰も関わらないようにしていたんです」
 
それはそうだ。主の言霊が効かないとなれば、誰も手出しはできない。
 
「それは栞さんだけ?」
 
「ええ」
 
「でも、どうして彼女だけが仲間外れみたいなことを……?」
 
「それもいろいろ理由はあるのですが。一番の原因は彼女の能力でしょうか」
 
「えっ?そういえば、彼女の能力って何?」
 
「簡単に言うと『流れ』を司っているのです。つまり、唯さまが見たあれが彼女の仲間はずれの原因になっているのです」
 
「どうして?」
 
「簡単です。時の流れってありますよね?彼女は流れを司るから、過去にも行けたり未来にも行けたりできるらしいのです。そうなると、どうなるかはわかっていますよね?」
 
「もしも、主がいたら、その主が時の流れを利用して悪さをするかもしれないというから?」
 
「仰るとおりです。でも、私は『今度の主はいい人だと思うわ。だから、一緒に来ない?』と誘ったのですけれど。断られました。そして、その結果がこれです。でも、どうやら私の言葉は人を傷つけるみたいで……全然ダメでした」
 
それはおそらく、静香の能力に関係があるのだろう。静香がいなければ、実質彼女がガーディアン最強になっていたはずだ。
だからこそ、彼女は嫉妬と尊敬を混じって怒りを露わにしたのだ。
 
「そんなことないよ」
 
そのとき、唯はいきなり彼女に向かってキスをした。
 
「ゆ、唯さ……っ!ん……んふ……うん……ん……むふ……ちゅ」
 
彼女はキスを受け入れる。手は彼女の胸を服の上から揉みしだく。ふにゅふにゅとした弾力のある彼女の胸は、唯のされるがままに形を変える。彼女は自分から唯の身体に身体を押し当て、より激しい刺激が得られるように身体の角度を変える。
 
「んふ……んふぁ……」
 
長い長いキスを終え、唯と静香の口が離れる。静香の唇からとろっと二人の唾液が混ざり合い、彼女の肌を伝って胸の谷間へと零れ落ちる。
唯は彼女の服をゆっくりと胸元からはだけさせる。彼女が怪我した手を気遣い、そっと脱がせる。
彼女のふくよかな胸が唯の目の前に晒され、つんと立ち上がった乳首が彼女の熱い吐息と共に震える。
 
「きゃふぅ!……あ……い……そんな。きゃ……ああぁ……!」
 
唯が指で彼女の乳首を弾くたびに、彼女は身体をよじらせ、甲高い哭き声をあげる。
 
「大好きだよ。静香さん。とっても大好き」
 
「あ。私も好きです。愛しています」
 
唯は彼女の濡れそぼったショーツをずらすと、固くいきりたった肉棒を奥深く突き挿す。ぐしょぐしょに濡れている彼女の膣穴は、唯の亀頭が入り込むと歓喜するかのように蠕動し、唯のモノを刺激する。
 
「あ・・・あああ・・・」
 
静香は思わず唯の頭を自分の胸に抱き寄せ、唯の耳を甘噛みし、舌で舐る。唯も彼女の胸を揉み、乳首をつまみ上げ、乳房に甘い噛み跡をつけながら、さらに深々と挿し込み、ゆっくりとグラインドしはじめる。
 
<ずりゅ・・・ずりゅ・・・ずりゅ・・・ずりゅ・・・>
 
粘液と粘液、粘膜と粘膜が絡み合う音、互いが互いの皮膚を舐めあう音、二人の声にならない呼吸音だけが、この小さな部屋を満たしている。

「もっと・・・もっときて・・・おくまで・・・・おくまで・・・」
 
うわごとの様に繰り返す静香。唯はその彼女の要求に応えるかのように腰を捻り、深々と肉棒を打ち付けていく。そのたびに彼女の太腿が打ち鳴らされ、乾いた音を立てる。

「・・・いい・・・いいです・・・。唯さまが……唯さまが熱くて・・・私の中で一杯に膨れ上がって来ていますぅ!」

ぎゅう……と唯を一層強く抱きしめる静香。涙が目からこぼれ、ぬらぬらと光る舌が激しく唯の首筋を舐め回す。

「……まだまだ、これからだよ……」
 
唯はさらに強く打ち付けていく。

<じゅく、じゅ、じゅ、じゅ、じゅ、じゅ……>

次第にテンポが速くなり、二人の息も荒くなっていく。
柔らかい肉襞が唯の棒を包み込む。唯が彼女の身体を揺らすたびに、彼女の胸がふるふると揺れる。彼女の舌が切なそうに空を泳ぐ。唯が彼女のその舌に唇を寄せると、たちまち彼女の舌は唯に吸い付いてくる。唯はその間にも彼女の乳首を捻り、乳房を揉みしだく。そのたびに彼女はくぐもった声で反応し、唯のペ○スを搾り取るかのように膣肉がぎゅっと収縮する。
 
<ぎし、ぎし、ぎし……>
 
高級なベッドが悲鳴を上げる。
しかし、ベッドの限界が来るより先に静香が上り詰めつつあった。
 
「唯さま……わ、私はもう…………」
 
「いいよ。イっても……僕も一緒にイってあげるから」
 
「唯さま!大好きです。とても……大好きです」
 
「僕も好きだよ。静香さん」
 
「あ・・・ああああ・・・あああああああああああああぁああぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」
 
その一言で次の瞬間、静香の身体がびくん、と跳ね、弓なりになり。
 
<どく・・・どくどくどくどく・・・どく・・・>
 
白濁する精液が静香の子宮に注ぎ込まれ・・・身体を硬直させてそれを受け止めた彼女は、そのまま糸の切れた人形のように、ベッドに落ちた。
 
『7』
 
「唯さま……」
 
「何?」
 
「ありがとうございます」
 
私の言葉を聞き入れてくださって。というのが後になって聞こえた。
 
「ううん。でもね……僕はみんなと出会ったことは後悔してないよ」
 
唯は後悔をしていない。自分の力の無さに嘆くことはあっても、絶対に後悔はしない。今でもそうだった。
 
「だから、僕はみんなと共に歩きたいと思っているんだ」
 
「はい。私もガーディアンに生まれて今は誇りに思っています」
 
「ね。静香さん。もう一回しようか?」
 
「はい。お相手いたします。唯さま」
 
そう言うと、それは朝まで続いたのだった。
 
『8』
 
私は数千年生きた中でも人を殺したことがない。
自分の兄以外は。
別に兄が憎かったわけでも、殺したいほど恨んでいたわけでもない。むしろ、逆だ。私は兄を尊敬していたし、慕ってもいた。
でも、兄と言っても血がつながっているわけじゃない。
親は早くに亡くし、私は一人っ子だったから、親の知り合いの家に預けられた。
そこで出会ったのが兄だった。
兄は色々なことを教えてくれた。
だからこそ、私は兄といつも接していた。
いっそ、この人が私の主ならば良かったのにと何度も思ったことがある。
そして、私は兄に打ち明けた。
 
「ガーディアン?」
 
兄は私の話を親身になって聞いてくれた。
私の話を信じてくれた。私には主がいないことや主の命令があっても自分の意思で行動することができる。正規のガーディアンは絶対に服従など。細かいことまで教えた。
もちろん、悪魔を狩ることや悪魔がいるということまで教えた。
しばらくして、兄は言った。
 
「じゃあ、栞は廃棄ナンバーで……他にも十二人の正規ナンバーがいるんだね?」
 
『……信じてくれる?』
 
私はテレパシーを使い、兄と会話をしていた。
 
「信じるさ。かわいい妹を兄が信じなくてどうする?っていうか目の前で力を見せられて信じないほうがおかしいよ」
 
嬉しかった。数千年の時を経てやっと出会えた……。
私は一人だった。悪魔と戦うときもいつも一人だった。孤独に苛まれ、それでも悪魔を狩っていた。時には話をしたこともあったけれど。でも、化け物呼ばわりをされてしまった。
でも、今は違う。兄が一緒にいる。兄が私を支えてくれる。
それが私にとっては喜びだった。
でも、それが間違いだった。
兄には婚約者がいたのだ。
 
『9』
 
朝だ。
随分と長い夢を見ていたものだ。
本当に三日分ぐらい寝ていた気分だった。
体調はすこぶる悪い。でも、学校には行かないと。私は上半身を起こして時計を見た。
 
「おっ?起きたかー?」
 
突然の声に私は驚く。振り返るとそこには兄の婚約者の支倉みどりさんがいた。
 
『はい』
 
私は声を流れに送り、彼女に言う。
みどりさんは兄の婚約者であるが、私の理解者でもある。そして、私をここまで育ててくれた人でもあり、感謝をすべき人でもある。
兄が私に殺される前にみどりさんに私のことをすべて話したらしい。
みどりさんは信じられないといっていたらしいけど、私に会って理解した。
今では私の話し相手になってもらったりしている。
ボーっとしている私を見て、私は慌てて着替え始める。
 
「なんや?なんか嬉しいことでもあったんか?」
 
『いえ。でも、どうして?』
 
私は着替えながら、メッセージを送る。
 
「別に……なんとなくそう思っただけ」
 
『そうですか。実は……』
 
そう言うと、私は昨夜のことを話す。私は彼女に話すことによって、少しでも気が紛れる。
前までは兄と話をしていた。辛かったことやガーディアンのことを話すと、兄はそうかといって私を慰めてくれた。
別に彼女に話して、慰めてもらおうなんて思っていない。でも、彼女と話すと私の気が楽になれるのだ。
 
「なるほどなぁ。正規のガーディアンがついに現れたんか。んで、ガーディアンの主が昨日話とったクラスメイトの麻生唯なんやな?」
 
『はい。多分、今日中に接触を試みると思うのです』
 
「ほー。それは随分と自信たっぷりやなぁ。で?あんたはどうする気や?」
 
『麻生唯ですが、私の範疇を超える人物であることは間違いないですね』
 
「ふむ。それは一筋縄ではいかんね」
 
『ええ。彼女は選ばれた人間。私は廃棄された人間ですから』
 
そう言うと、私は朝食を食べて家を出た。
気分はいくらかすっきりできたと思う。
けれど、この先。まだまだ苦難があるとは私も彼も微塵にも思わなかったのである。















     




















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