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「後一人。楓さん頑張れー!」

 家電製品店でも見かけないような巨大テレビの前で唯が応援する。今宵のナイター中継はプロ野球選手である楓が画面に出ている。もちろん唯はゲーム開始からリビングのテレビで見ていた。そんな声援に応えるかのようにピッチャーである彼女は危なげない投球で、九回まで投げている。

「よしっ、さっすがー!」

 楓が最後の一人を打ち取る。唯はぐっと拳を握りしめて笑顔で喜ぶが、リビングにいる楓以外の配下五人はさほど喜んでいる様子は無い。
 彼女達にしてみれば悪魔や妖退治が本業で、生活のための職業などは副業だ。元来肉体的、精神的に通常の人間より遥かに強靭に生まれるよう、魂やDNAのレベルで設定された彼女達にとって、それぞれの職業で成功するのは容易いことだった。日々の生活の糧に困るくらい酷く困窮したりや、副業の忙しさに忙殺されて本業が疎かにならなければそれで良いのだ。

「いや、さすがだよね、楓さん。前から凄い選手だとは思っていたけど」
「唯様は野球がお好きなのですか?」

 野球自体には興味はあまり無いのだが、いつも通り芽衣が微笑みながら律儀に唯に話しかける。芽衣にとって、唯が何に興味を持っているかが大事なのだ。

「うーん、そこそこかな。山田が好きで色々と知っているんだけど。でも、やっぱり知り合いにプロ野球選手が居ると違うよ。いっぱい応援してあげなくちゃ」
「確かにそうね。今度球場に行ってあげましょう」

 由佳の提案に、唯は喜ぶ。

「そうだね、チケット取らないと」

 楓のことはどうでもいいが、やはり好きな相手が喜ぶと嬉しいものだ。五人の美女は唯となら野球観戦に行ってもいいかなと思い始めていた。
 試合が終わり、テレビ画面の中では、楓がヒーローインタビューに呼ばれていた。カメラがフォーカスしたお立ち台でマイクを向けられる。

「放送席聞こえますか? こちら、今日も大活躍の流選手です」
「どうも、こんばんは」

 テレビに無表情の楓がアップで映る。せっかくのインタビューなのに、嬉しそうな表情でもなければ、ファンに対してのサービスも無い。彼女のインタビューは、いつもこんな感じだというのを竜太に唯は聞いていた。その愛想の無さに評判は悪そうなのだが、そのクールな性格と美人が相まっていいという男が多いらしい。

「いや、もう少しでまた完全試合でしたね」
「それは無理だと思います」
「いやいや、今日の投球内容は良かったですよ」
「そうですか」
「でも、最近好調ですね。何か秘訣はあるのですか?」

 アナウンサーの質問に楓の淡々とした返事が止まる。非常に珍しいことだ。いつもは反射的に短い返事を相手にして、返答に詰ったことはめったに無い。やがて、楓が再び口を開く。

「最近いっぱいセックスしてるので、それがいいんだと思います」
「ぶふっ!」

 スピーカーから聞こえた楓の言葉に、唯はちょうど飲んでいたペットボトルのウーロン茶を思いっきり吹いた。

「唯様!」
「ちょっと、唯君大丈夫!?」
「げほっ、げほっ、あぐ」

 気管に入った液体の所為でむせる唯。近くに居た雛菊と由佳が慌てて背中をさすってやる。
 これにはよっぽどのことでは動じない芽衣、京、ミシェルも唖然としていた。公共の放送、それもまだ子供も起きているゴールデンタイムに流されたのだ。開いた口が塞がらない。
 ちなみに楓の大ファンである竜太はこの放送を家で見て、悶絶して転げまわったという。流楓処女説を信じていただけに、ショックも大きい。確かに、ちょっと前までは処女だったのだが……。

「そ、それは恋人が居るということですか?」

 無表情でとんでもないことを言われて、固まっていたアナウンサーが何とか再起動して聞く。さすがはプロと言うべきか。だがそれは聞くべきではない質問だった。

「いえ、恋人ではないです」
「こ、恋人じゃないと言いますと……」
「私、愛人なんです」

 眉一つ変えず楓が言い、

「うげほっ、げほっ、げほっ」

 仰天した唯は弾みで液体が気管の更に奥へと入ってしまう。その苦しそうな咳に、楓の発言に固まっていた京がはっとして慌てて唯の元へと行く。

「唯、大丈夫?」

 京は自分の手首から出した血を操り、細い糸のように伸ばして唯の口へと入れる。気管へと針のように細い血の糸を送り、入ったウーロン茶と血液を混ぜる。そして混合した血液を操り、ウーロン茶の成分を唯の気管から胃の方へと流した。

「京さん、ありがとう」
「悪かったわね、すぐに反応できなくて」

 唯の礼の言葉に、京は照れて頬を掻く。一匹狼の生活が長かった所為か、人から礼を言われるのに慣れていない。
 発言内容に問題ありと見たのか、放送は既にコマーシャルへと変わっている。だが、間違いなく先ほどの話題は全国が知ることになっただろう。

「……困ったわね」

 ぼそりと呟いたミシェルの言葉に、全員が返す言葉も無い。気まずい沈黙がリビングに影を落とした。





「新聞読みましたよ」

 スポーツ新聞を何誌も机の上に広げ、飯田が言う。各誌の一面には流という字が大々的に紙面を飾っている。
 ここは飯田が経営する古物店だ。学校帰りに唯は、この古物店に寄り道していた。
 一人で行くのは控えるように芽衣に言われているのだが、学校からさほど遠く無いので唯はちょくちょく情報収集と世間話をするために飯田の店へと来ていた。飯田は来るたびに何らかの情報や噂を伝えてくれるので、唯は友と何処かへ行く予定が無い日は寄るようにしている。

「あ、そうか。飯田さんは楓さんがガーディアンだって知ってるんだよね。あはは……」

 唯は飯田の探るような視線に苦笑するしかない。彼の表情は普段と変わりないが、明らかに興味を持っている。

「ガーディアンの一人がプロ野球選手をやっていると言うのは凄いと思います」
「やっぱり驚いた?」
「確かに彼女の発言には驚きましたが……」

 飯田はずずっとお茶を啜って間を空けて、

「麻生様も隅に置けないですな。随分とお盛んなようで……」
「えっ、あっ、その……すみません」

 飯田の思わぬ発言に唯は真っ赤になる。よく考えてみれば楓を愛人にできるのは、主である唯しかいない。セックスの相手を飯田が知らないわけはなかった。

「謝らなくても結構ですよ。麻生様もお若いでしょうから」
「ははは、いやーその……弱ったな」

 唯は赤面して、脂汗をかくのを抑えられない。その日は情報を貰うのもそこそこに、彼は慌てて逃げるように店を後にした。





 もちろん、楓がセックスしているという発言をテレビで聞いて、主との関連を考えた者は他にも居る。

「ふふふ、特ダネの匂いがするわ」

 週刊現在の女性記者である皆口円がスポーツ新聞を見ながら、ほくそ笑む。
 椅子から立ち上がり新聞を眺めている円は、ビジネススーツにポニーテールという出で立ちだ。社会人としてはあまり見ないスタイルだが、円の若々しい容姿には似合っていると言って良いだろう。彼女は見事な胸の持ち主で、紺のスーツがかなり大きく前に張っている。タイトスカートの腰回りはきゅっと締まっていて、ウェストがかなり細いのを感じさせた。男なら、クラッと来てしまいそうなプロポーションだ。
 自信たっぷりに仁王立ちしている円を見て、彼女の後輩である男性記者が声をかける。

「あれ? 皆口先輩はこういうゴシップの取材好きでしたっけ?」
「いや、嫌いよ」
「それじゃ、何で……」
「ふふふ、流楓個人にちょっと興味があるのよ」

 円の言葉に政治部の記者である彼は眉をしかめる。週刊誌の売り上げを上げるためにはこういうゴシップが必要なのは知っているが、彼はどちらかというとマスコミは社会の悪を暴くためにあるという考え方だった。

「そりゃ、初の女性プロ野球選手ですから、愛人という言葉が本当なら大騒ぎでしょうが……」
「私、彼女と個人的に知り合いなのよ」

 円の発言に後輩は目を見開く。

「ほ、本当ですか? 確かに、それなら詳しく経緯を聞けるかもしれませんね」
「楓、必ず何があったのか暴いてやるわよ」

 円は拳をぎゅっと握って宣言する。こんなに熱い円を見るのは、後輩記者も久しぶりだった。





「流さん、昨日の発言はどういうことですか?」
「流さん、愛人という言葉は本当ですか?」
「セックスを一杯しているというのは、どのくらいなされているのですか?」
「流さん、何か一言お願いします」

 球団の練習場出口から出てきた楓を多数の記者が取り囲む。カメラのフラッシュが大量にたかれ、何台ものテレビカメラで撮影される。だが多数の人間に揉みくちゃにされながらも、楓は眉一つ動かさずに鉄面皮を崩さない。
 楓の発言の翌日、スポーツ新聞やワイドショー、それに夜のスポーツニュースまでもが蜂の巣をつついたような騒ぎになった。野球好きの人間達は昨晩から彼女の話題で持ちきりで、マスコミの動向にかなり注目している。
 楓は当然球団などに呼び出され、たっぷりと絞られたのだが、まったくの無表情の彼女に監督やマネージャーなどは逆に根負けしてしまった。とりあえず注意だけを与えて、楓は解放された。その後、普段通り彼女が球団の練習場に入ったことがわかると、記者達が押しかけたのだ。

「流さん、何か言って下さいよ」
「ノーコメント」

 短い楓の返答に、記者達は失望を隠せない。
 女性初のプロ野球選手なのに彼女には愛想のかけらも無いため、デビュー当時に一時は大いにわいたマスコミもすぐに沈静化してしまった。成績はエースとして申し分無いのだが、発言やリアクションに乏しいので取り上げるところは試合内容ぐらいしかない。ミラージュの化粧品コマーシャルに出演したときは、かなり驚かれたものだ。
 そんな楓が昨晩のような発言をしたのは、まさに珍事だった。私生活も平凡に見える女性選手がセックスをたくさんしている、それに自ら愛人宣言をしたのだ。これに興味を持たない人は居ない。マスコミはこぞってこのネタに飛びついた。

「タクシー」

 記者に囲まれながらも、マイペースで楓はタクシーを止める。記者に大量に囲まれて、これだけ平然としている人間は珍しい。乗り込むのに時間を要したが、彼女はタクシーへと乗車して運転手に自宅に行くよう指示した。

「いやー、新聞記事読みましたよ」

 中年のタクシードライバーはバックミラー越しに、いやらしい視線を楓に送る。彼としても興味津々なのだろう。

「そう……」
「それで、昨日の発言は本当なんですか?」
「本当、嘘は言わない」
「やっぱりそうなんですか!」

 赤信号で止まるとドライバーは思わず後ろを振り返り、平然とした楓を見る。

「相手はどんな人なんですか?」
「ノーコメント」
「こっそり教えて下さいよー。内緒にしますから」
「ノーコメント」

 それ以降は何を聞かれても楓はノーコメントで通した。これにはドライバーも根負けして、違う話題を振るしかなかった。
 タクシーで帰ってきた楓は、自宅前で車から降りる。ここにも記者が待ち構えていたが、あっさりと無視してガラス扉を開けてマンションへと入る。
 さすがに建物内に記者はついてこないと思われたが、

「おかえりなさい」

 マンションの部屋に入ってリビングの電気をつけると、ソファの上に楓も見たことのある人物が座っていた。それは円だった。だが不法侵入した彼女の姿を見ても、楓は顔の表情を全く変えない。

「円……」
「勝手に入らせてもらったわよ」
「そう」

 あっさりと寝室に向かう楓に、円も立って後を追う。

「ねえねえ、さっき冷蔵庫を覗いたけど、何も入って無いわよ」
「入れてないから」
「じゃあ、ご飯とかどうしてるの?」
「他で食べてる」

 楓はクローゼットの中へとスポーツバッグを放り込む。クローゼットの中も服が少なく、簡素なものだ。

「何処で?」
「芽衣のとこ」
「芽衣の……ははぁん、なるほどね」

 芽衣はミラージュの女社長だ。裕福な彼女が主を養っているのは充分考えられる。ようやく円は主の住処について確証を持った。
 円の狙いの一端は自分の主を探し出すことだった。通常、主が発見された場合はすぐに連絡が行くはずなのだ。主の下へ来る、来ないは各自の判断ではある。それが今回は連絡そのものが無いのだ。楓の発言でようやく主が発見されていたことを推測できたのだ。

「楓のセックス相手って主さまよね」
「ノーコメント」
「ちょっと何でよ。教えてくれたっていいでしょ」
「ノーコメント」

 楓は主、すなわち唯について他人に言及することを固く禁じられていた。
 昨晩、芽衣の家に戻ると楓は他の仲間達に三時間近く説教された。かなり痛烈に非難されたのだが、楓としては今回の件は全く悪気が無く、仲間たちの言葉も暖簾に腕押しにすぎなかった。
 それが芽衣達の怒りに対し火に油を注ぐような形になり、一時は自分達の能力で衝突寸前まで行ったのだ。以前から互いの能力による武力衝突を禁じていた唯に「お仕置きするよ」とにっこり言われて、衝突は避けられたが。その代わり、唯に言及することを厳禁という約束を唯と取り交わしてようやく事は収まった。唯の命令なら、楓は従うのには全く異論は無かった。

「楓ってセックス嫌いだったわよね」
「別に嫌いじゃない」
「ああ、不感症だったのよね。それがセックス一杯してるって、どういう変化があったの?」
「別に。セックスが気持ち良くなっただけ」
「それで、その変化を起こしたのが主さまってわけね」
「ノーコメント」

 楓の無愛想な言葉に、円は困ったように頭を掻く。自分の推測はほぼ合っているに違いないのだが、これでは確たる証拠が無い。
 そんな円に楓は何の感情も篭っていない視線を送る。

「話はそれだけ? そろそろ芽衣の家に食事に行かなくちゃいけない」
「一緒について行っていい?」
「ダメ。夕飯に間に合わなくなると困る」

 寝室の窓を開け、楓はベランダへと出る。そして軽い身のこなしで手すりの上に乗ると、何の躊躇も無くいきなり飛び降りた。
 駆け寄った円はすぐにベランダの下を覗いたが、楓が地面に降りた気配は無かった。風の力を行使して、飛翔して飛び去ったに違いない。

「なるほど。これだから誰にも気づかれなかったわけね」

 円はにっと笑うと、するすると足元の影に飲み込まれていく。まるで足元に機械仕掛けの昇降機があるかのようだ。そして影に飲み込まれたその姿は完全に消えた。






「誰かしら?」

 玄関のチャイムの音に芽衣は首を傾げた。
 夕食後の一服、ダイニングテーブルを囲む椅子に座り、紅茶を飲んでいた芽衣が立ち上がる。

「来客の予定は無いし。唯様のお友達でしょうか?」
「うーん、夜に押しかけるとは思えないんだけど……」
「ちょっと見てきますね」

 隣のリビングルームに来ると、芽衣はインターホンを操作してモニターで玄関を見る。そしてその前に立つ人物を確認すると、慌ててダイニングルームへ戻った。
 ダイニングルームの入り口に立った芽衣は言葉を出さず、全員に手振りで来るようにジェスチャーで伝える。それを見て何かあったと察した全員は、由佳を残して立ち上がった。

「ちょっと失礼します」
「失礼しますね、唯様」

 唐突にゾロゾロと出て行く配下達を、唯は心配そうに見る。

「何か問題?」
「いや、大したことは無いと思うわよ。唯くん、お茶のお代わり要る?」
「う、うん……。何も無いといいんだけど……」

 由佳が腰を浮かし、テーブル越しに唯の湯飲みに緑茶を注ぐ。不安そうな顔をしながらも、唯はとりあえず動かずに芽衣達に任せることにした。
 芽衣を先頭に、五人は玄関へと向かう。

「何があったのよ」
「円が来てるの」
「円が?」

 芽衣の言葉に京は納得がいかないような顔をする。

「円が来たら何がまずいのよ?」
「円がマスコミで働いているの知らないの?」
「すると……」

 雛菊がすぐに察し、ミシェルと京もすぐに芽衣の言っていることを理解した。

「そうよ、唯様のことを特ダネにするつもりだわ」
「ああ、そういうこと。それで私のところにさっき来ていたの」

 ようやく合点がいったのか、一人だけ遅れて楓がポンと手を叩く。
 悪魔の追跡、並びに戦闘、職業にしている野球への観察眼などでは頭脳明晰なところを見せる楓だが、その他のことにはとんと疎い。ことに人間関係などは何も察することが出来ないに等しい。
 自分の発言や円への対応が、どういう結果に繋がるかをわかっていなかったようだ。

「ちょっと、楓のところに来ていたの?」

 ミシェルに対して楓は頷く。

「ついさっき。そう、週刊誌の記者だったの」
「あなたって人は……とりあえず、それは後回しで対策を考えないと」

 苦りきった表情のミシェルはすぐに頭を切り替え、表情を変えた。楓の失言対策は置いておいて、ひとまず円の対策が先というミシェルの意見に、全員が同意して頷く。楓を吊るし上げるのは後でも出来る。

「とりあえず追い返すわよ」

 そう言って、芽衣は玄関のドアを開けた。

「こんばんは……あれ、こんなにたくさん集まっていたとは……」

 満面の笑顔だった円は、五人の戦士が既に集まっていることに目を丸くする。てっきり主に仕えているのは、楓と芽衣、それに由佳だけだと思っていたのだ。驚くべきことに京までもがその中に混ざっている。彼女が主に自分から進んで仕えるのは、何世紀ぶりだろうか。

「何の用?」
「それはもちろん、主さまに会うためよ」

 芽衣の氷のような冷たい言葉にも円はまったく動じない。

「今は会わせるわけにはいかないわ。とりあえず、楓の騒ぎが収まるのを待って頂戴」
「あら、そんなこと言っちゃっていいのかしら?」

 円はにっこりと笑うと、意味有りげに笑う。

「ミラージュの女社長が誰かの愛人になっている……女性プロ野球選手が自ら愛人発言なみに面白い記事だと思わない?」
「……脅すつもり?」

 芽衣が切れ長の瞳をさらに細くしながら円を睨みつける。その気迫が常人とは違う強烈な圧迫感を持っていても、昔からの戦友だった円が動じるはずもない。既にお互いのことは知り尽くしている。

「いやいや、そんなつもりは無いわよ」

 にっと円が悪意を含んだ笑みを浮かべると、芽衣の眉が釣りあがった。
 何の前触れもなく、素早く動いた芽衣が円の腹に手の平を当てる、そして何の警告も無しに凍てつく冷気を放った。
 芽衣の手から放たれた白い光線は、即座に円のすっきりとした腹に薄い氷の膜を作る。そしてその氷の膜は一気に増殖して、彼女の全身を絡め取とうとする。見る間に氷の拘束が、円の体を厚く覆って自由を奪った。

「ちょ、ちょっと!」

 自分の体を拘束しで氷結していく氷の塊に、円が慌てた声をだす。その体を真紅の巨大な腕が掴む。京が操る血爪だ。京は円の体を掴むと躊躇せずに彼女をマンションの手すり越しに放り出し、空中へと投げ捨てた。
 そしてダメ押しに楓が起こした猛烈な突風が彼女を押し上げる。人を一人吹き飛ばすような風速の猛風は、そのまま円の体を遥か遠くに飛ばす。風に運ばれた円は見る間に小さくなっていった。

「さてと、戻りましょうか」

 芽衣の笑顔に全員は後ろを向いて再び家の中へと入っていく。厄介ごとが一つ片付いたと、全員の表情は爽やかだ。

「何があったの?」
「いえ、押し売りでしたので、全員で追っ払ったのですわ」

 戻ってきた芽衣の説明に唯はあっさり納得したようで、それ以上は追及しなかった。唯は芽衣に全幅の信頼を置いていて、彼女が嘘をつくなどとは想像ができなかった。







「ふふふ、私を怒らせたわね」

 あれから三時間後、円はようやく芽衣のマンションへと戻ってきた。
 楓の作り出した突風は彼女の体をかなり遠くまで飛ばした。夜であったのが幸いして、影の上へと着地できたのでケガ一つ無いが、これが明かりが多い繁華街だったら命を落としていたに違いない。危うく寿命をまっとうする前に転生するところだった。
 戦いの中で命を落とすなら自分の未熟と諦めがつくが、こんなささいなことで仲間には殺されたくない。無駄死に以外の何物でもないだろう。
 芽衣の氷を破り、影を何度も跳躍して、やっと僻地から円はマンションの屋上までたどり着いた。

「こうなったら何が何でも主さまの正体を暴いて、スクープにしてやるわ」

 円は危なげな笑みを浮かべ、紺のビジネススーツをばっと脱ぎ捨てた。服が地面に落ちると、円はまったく別の衣装を纏っていた。ハッピのような紫の服に手甲、全身網タイツ、そしてブーツ。よくイメージされる忍者、いやくの一の姿だった。

「さてと、下調べといきましょう」

 彼女はにやりとしながら、月の光が作り出した給水塔の影にその身をずるずると沈めていった。
 最初に円が影の中から出たのは何処かの寝室らしかった。シンプルな部屋で、ベッド以外は家具もあまり見当たらない。そっと隣室を探ると、脱衣所とシャワールームがあり、設置されている洗面台には多数の化粧品が並んでいた。

「芽衣か由佳……ミシェルの部屋か。さて、次っと」

 暗闇でも視界に不自由が無い円はある程度部屋の装飾を確認すると、誰かが来ないうちに闇へと溶け込む。しらみ潰しに電気がついていない部屋を探れば、主の居る部屋が絞れるからだ。
 そのうち、とある部屋に跳躍すると人声が聞こえてきた。慌てて顔半分まで影の中へとその身を沈める。どうやら自分のことを仲間達が話しているようだ。対策を練っているらしい。

「ふふふ、もう遅いのに。明日の朝に慌てるといいわ」

 一人でほくそ笑むと、円は影の中に潜り再び跳躍した。
 芽衣の家はマンションにしては驚くほど広く、しらみ潰しに探すのは時間がかかった。普通の億ションでもこんなに広いのは珍しいだろう。
 だが時間をかけ、円はようやく主の寝室らしき場所にたどり着いた。

「少年?」

 闇の中、ベッドの上に横たわっていたのは、まだ幼さが顔つきに残る少年だった。中学生、もしくは発育のいい小学生にも見えるくらいだ。童顔だが整った顔は、近い将来にかなりの美青年になることを約束しているような顔つきをしている。

「芽衣がムキになるわけね。少年と淫行なんてバレたりしたら、芽衣も楓も困るどころの騒ぎじゃないしね」

 円はかなりの小声で呟いたのだが、少年は眉を寄せた後にうっすらと目を開けた。

「あれ、誰か居るの?」

 寝ぼけ眼で起き上がる少年に、円は一瞬影に潜って身を隠すことを考える。だがそれよりいいことを思いついて、滑らかな足取りで彼に近づいた。

「こんばんは」
「え、誰!?」

 聞きなれない声に、寝ぼけていた少年ははっきりと覚醒したように目を見開く。ナイトスタンドに慌てて手を伸ばす唯の手を、円はさっと掴んで引き止めた。

「安心して下さい、主さま。ガーディアンの一人で、あなたの下僕である皆口円と申します」
「ま、円さん?」

 ガーディアンと聞いて、唯は体の力を抜く。そんな少年の様子に無防備だなと円は苦笑する。ガーディアンという自己申告で無条件で警戒を解くのは、危ないとわかっていない。少年らしい純真さというべきか。

「主さまの名前を聞いてよろしいでしょうか?」
「麻生唯です」
「唯様ですか。わかりましたわ」
「あれ? 他のみんなは?」

 ここにきてようやく唯は円以外に誰も居ないのに気づいた。新たな仲間が現れたというなら、他の者が紹介するのが普通なのに、自分を含めた二人以外のけはいが無い。

「先ほど玄関で放り出されたので、こっそりと戻って来たんです」
「そうだったの。あのとき玄関に居たんだ。でも、何で追い返されたの?」
「私、週刊現在の記者なんです」

 円が闇の中で薄く微笑む。唯はあまりにも素直で、容易に手玉に取れそうだと見たのだ。相手が中学生なら無理も無い。

「それで、楓の記事を書こうと思いまして」
「ちょ、ちょっと困るよ、そんなの。僕、未成年だし」
「そうですね。芽衣や雛菊、ミシェルなんかも未成年の男の子の愛人だってことがバレたら困りますもんね」
「そうだよ、だから……」

 唯の口に何かが絡み付いて、むりやり口を塞いでしまう。円はまったく動いていないのに、何か目に見えない力が唯に作用して口を完全に拘束している。

「でも、仲間をいきなり攻撃して追い返すなんて失礼だと思いませんか?」

 闇に微かに目が慣れた唯に円が顔を近づける。
 唯に命令されてはやっかいと感じたのか、円は影の力を行使して彼の口を動けないようにしていた。

「だからちょっと主さまを使って復讐させて貰いますわ。唯様が人質なら、全員とも抵抗できないでしょう。みんな、随分とご執着のようですし」

 円の台詞に唯は彼女の意図をようやく掴む。要するに先ほどの仲間達が取った対応について、目の前の美女はかなり頭に来ているようなのだ。だから唯を使ってかなりきつい復讐をしたいらしい。
 今までの主達が多少の差はあれど人格に問題があったらしいと分かっている唯は、円の対応にも納得がいった。主は命令を受ける相手であっても、忠誠を尽くすべき相手ではないのだ。だから、主を利用してもいいと彼女は考えているに違いない。

(だけど弱ったな……)

 自分を利用するのはいいが、芽衣や楓、雛菊、ミシェルが不利益を受けるのは唯としては容認できなかった。何としても円を止めて、頭を冷やして貰わなければならなかい。

(でも、声が出さなければ命令は……そうだ!)

「それでは唯さま、ついて来て下さい」
「円さん、待って!」

 そっと唯を引き起こそうとしたとき、円の耳に命令が届いた。その力ある言霊に彼女の体は石像のように固まる。

「ど、どうして? 口は塞いであるのに」
「とりあえず、口を塞いでいるものをどけて、力の行使をやめて」

 唯の言葉に従うしか無く、円は操っていた質量を持った影を四散させる。彼女はまだ何が起こったのかわからず、目を大きく見開いて固まってしまう。
 自分が授かった能力というものは、ガーディアン達に命令を単に下せるだけではなく、音を行使して様々な現象を起こすことが出来るということに唯は気づき始めていた。
 自分の言葉や作り出した音に力を乗せ、色々なことが出来るのを唯が発見したのは芽衣と由佳の二人と同居した直後のことだった。学校の行き帰りや部屋に一人で居るとき、その超能力を使って彼は色々と試した。そして先ほどは音を行使する力を応用して、体の一部から自分の声と同じ音を作り出し、それに乗せた強制力で円に命令したのだ。
 そして、音を操れるという力は配下のガーディアン達にも言っていないことだった。

「ふぅ……ありがとう。円さん、やめようよ。怒っているのはわかるけど」

 身体の拘束が解けた唯は、改めて円と向き合う。

「いえ、許せません。芽衣達が明らかに悪いのですから」

 円は頬を膨らませて、ぷいっと横を向く。自分より年上なのは明らかなのに、意外に小さい子供みたいな我侭さがあると見え、唯は対応に少し困ってしまう。

「芽衣さんたちには僕が注意しておくから」
「いいえ、私はそれでは納得いきません」
「どうしても?」
「どうしてもです」

 唯は大きくため息をつく。よっぽど腹に据えかねているのか、円は頑なだった。芽衣達を呼んで、対応を話し合うことも出来るのだが、紛糾するのは目に見えている。唯は決意を固めると、心の中で円に「ごめん」と謝って、強硬手段に出ることを決めた。

「円さん、そこまで言って納得して貰えないなら、僕も最後の手段を使うしかないんだけど」
「命令でもしますか?」
「ううん。円さんの体で納得して貰う。それで許してもらおうと思う」
「体?」

 きょとんとした円を唯は優しく押し倒す。既に数多くセックスをこなしているので、かなりスムーズだ。

「ゆ、唯様!」

 まだかわいらしいとも言える少年の外見に騙されて、円は唯が他の者とセックスをしているのをすっかり失念していた。それも不感症の楓を夢中にさせるくらいの相手だということを。

「唯様、ちょっと待って下さい。私が悪かったですから」
「円さん、綺麗だよ」
「待って……ひゃあぁぁぁん」

 唯の言葉に、円の体に電流が走ったような感覚が襲う。円の全く知らない感覚。唯が発した言葉だけで全身に衝撃が突き抜けた。

「な、なにこれ? あ、ああ、あう……」
「円さん、可愛いな」
「ふわぁぁぁぁあっ、や、やめ、唯さま、言うのやめて……」

 ようやく円は唯が言葉に、何らかの能力を使っているというのに気づく。命令の言葉とは全く違うそれは円を快感の波で翻弄する。
 円が混乱している間に、唯は彼女の唇をキスで奪う。

「ん、んんっ、んう、んふ……」

 少年の柔らかい唇に、体の奥にある円の情欲に火が灯る。ただのキスなのに、愛しさが募って胸が熱くなる。自分の中に生まれた感情を理解できないまま、円は唯の背中に手を回しながら夢中になって接吻を受け入れてしまう。

「ん、んむ……んんっ!」

温かな舌が円の唇を割り、口内へと侵入してくる。それは優しく円の舌を絡めとり、巧みに舐め上げる。中学生とは思えない唯の技巧に、円は意識が曇っていく。唯の唾液が舌を伝って入り込み、口の中で自分の唾液と混ざり合う。その唾液がたまらなく美味だ。

「ん、んふ……あむっ……んんっんう」

 極めて自然に伸びた唯の手が円の胸へと伸びる。大きな膨らみを服の上から優しく揉まれ、円の頭が熱くなっていく。キスと胸の愛撫だけで、円の脳はもう何も考えられなくなっていた。
 帯を解かれ、網タイツに包まれた全身を露にされても円は気づかない。暗がりなのでよくわからなかったが、唯は何とか円が着物らしきものを身につけているというのを手探りで認識できた。

「ぷはっ……唯さまぁ……」

 唇が離れると円はうっとりと唯を見上げる。その目を見つめながら、唯は何度も囁く。

「円さん、綺麗だよ。とても素敵」
「やん、ああっん、ふあっ……そんなに言わないで」
「でも、本当だもん」

 唯の言葉に円は完全にクラクラしている。言葉を受けるたびに異常なまでの快感を覚えるが、それが堪らなく気持ちいい。

「ふあっ、はあん、ひあん……ふわ、おっぱい揉まないでぇ」

 大きく張り出した円の片胸を少年の手が優しく揉んでくる。ときに少し強く、ときに弱く。緩急をつけた愛撫に乳首は完全に立ってしまい、それが手の平に擦れてビリビリとした刺激を発する。

「む、胸を揉まれているだけなのに、こ、こんなに感じる……ああん、感じちゃう!」

 円はシーツを掴みながら必死に唯の愛撫に耐える。胸を弄られているだけなのに、アソコが濡れているのが自分でもはっきりとわかった。

「や、あ、そこ、だめ……だめ、触っちゃいやぁ」

 唯の指が陰唇を撫でる。軽いタッチだというのにぐちゅりと愛液が漏れ出て、主の細い指を濡らす。

「だめ、だめ、だ……ん、んぐ、んんんんっ!」

 あまりの刺激に大きな嬌声をあげる円の口を唯が唇で塞ぐ。舌が再び進入して、彼女の舌を絡めとって口内を犯す。口、胸、陰唇を弄られて円は体が燃えてしまうような錯覚を覚える。こんな気持ちいいのは初めてだ。

「ん、んっ、んんっ……んぐうぅぅぅう、んん!」

 唯の人差し指が円のクリトリスをちょんと触った。それだけで体がガクガクするような衝撃を受ける。それに気を良くしたのか、更にちょんちょんと唯が指で触り、その度に円の体が跳ね上がってしまう。恐ろしいくらいの刺激に円は体が壊れてしまうかと思った。

「そろそろ良さそうだね」
「はぁはぁ……唯さまぁ……もう、円だめなのぉ……壊れちゃいそう」

 ズボンを脱いで、唯は円の片膝の裏に手をかける。空いている手でペニスの先端を調節して、膣口に当たるようにする。

「ふわ、唯さまのおちんちん……ほ、欲しいです。円を犯して、処女を奪って下さい」
「うん、入れるよ」

 既に円の膣は愛液でぐしょぐしょに濡れており、入れても大丈夫そうだった。唯は先端を軽く入れると、一気に円を貫いた。

「ひああああああぁ、唯さまのが! ああっ、いた、痛いですぅ、でも気持ち良くって」

 円の片足を持って、唯が腰を振りたてる。処女膜を破り、その傷口を擦られると円にじわじわとした痛みが襲う。だが、それもペニスを入れられているという快感に比べると何でもない。破瓜の血がじんわりと結合部から出ているのさえ、円は気づかなかった。

「円さん、気持ち良くなって。もっと感じて」
「ふわ、だめぇぇぇぇえ、何これ!? やぁぁぁぁあああ!」

 唯の言葉一つで痛みが快感に転化する。ただでさえ凄まじい刺激なのに、更なる刺激を受けて円は悶絶した。ペニスに全身を貫かれるような衝撃が、子宮口をノックされる度に体全体へと走る。それほどまでに唯とのセックスは凄かった。

「あっ、ああっ、おかしくなっちゃう、おかしくなっちゃう、ひあ、ああっ、唯さまぁ、唯さまぁ」

 側位で深く繋がっているのが円には堪らなく気持ち良い。このまま焼け付くような悦びに壊れてしまっても良かった。それほどに頭は快楽に溺れていた。
 唯も普段はあまりしない体位に新鮮な刺激を覚えていた。女性を横にして繋がるのは性に通じたミシェルに教えて貰ったことだ。まだそれほど他の女性に試していない体位で処女を破るのは、唯に何とも言えなく気持ち良さを感じさせた。

「いっ、ああっ、も、もう、ふあ、ああっ、いやっ……いっちゃいます、いっちゃうのぉぉ」
「僕もいくね」

 体がガタガタと痙攣する円に構わず、唯はぐいぐいと亀頭の先で子宮口を小突き回す。そんな強い刺激に、初めて唯に抱かれた円が耐えられるはずもない。

「い、いやああぁぁ、い、いくぅぅぅぅ、ひっ、あああぁぁっ!」

 円は意識が自分自身から無理やり飛ばされるような感覚を受ける。このまま死んでしまうような錯覚を受けてしまうほど凄い快感だ。

「出すよっ!」

どびゅ、びゅびゅびゅびゅ、びゅくっ

 キュッと締まってペニスを離さない膣壁にあわせて、唯は堪えていた精を放つ。締まる膣内を擦りながら汁を絞り出すのは唯がセックスで最も好きなことの一つだった。射精しているのが処女の膣なら尚更だ。

「あ、熱い、熱、熱いのぉ……」

 うわ言のように円が呟く。子宮内へと入った精液に満たされて、意識が宙を漂う。これほどの絶頂は悠久の時を生きてきた円にも無い。短く呼吸しながら、イッた感覚に酔いしれていた。
 それからたっぷり二十分して、ようやく円の意識がクリアになってきた。呼吸も整い、元の自分に戻った気がする。ふと横を見ると、自分の顔を覗きこみながら唯が並んで寝ていた。

「あっ、唯さま。あ、あの……」

 円は思いがけずに顔が真っ赤になってしまう。年下の少年に好きなようにリードされ、イってしまったのだ。淫乱と思われても仕方ないだろう。円にとっては恥ずかしい限りだ。

「円さん、とってもかわいかったよ」
「あ、そ、その……わ、私だけが楽しんじゃって」
「いやいや、とっても良かったよ。ありがとう」

 唯が円の赤く染まったほっぺたにチュッと口付けする。円はあまりに照れてしまい、言葉が一切出てこない。
 唯は円の腕や肩を優しく撫でて性交の余韻を楽しんでいたが、やがて、

「円さん、もう一回しようか?」
「えっ、そ、その……わ、私、本当に壊れちゃいます。嬉しいんですが……」
「大丈夫、今度は優しくするから」
「さっきも充分優しかったですよ……きゃん!」

 円の横になっている体に、上体を起こした唯は優しく圧し掛かる。両膝の裏を持ち上げ、どろりと精液と破瓜の血が流れるヴァギナを露にしてしまう。

「唯さま、ま、待って……ああっ」

 ぐちゅりと音を立てて、再びペニスが円の中へと入ってくる。自分の意思に再び熱い快感が円の体に押し寄せる。だが今度は意識が混濁するほどでは無かった。

「今度はゆっくり楽しもうね」

唯はゆっくりとペニスで膣内をかき回す。先ほどの激しいピストンとは代わって、限りなくスローペースな動きだ。その優しいグラインドに円はうっとりと頬を緩ませる。

「ああ、唯さま……いいです」

 緩やかな動きが程よく円の気分を暖めていく。唯と一緒に居て、ペニスを入れてもらっている。それだけでも満足なのに、その肉棒の温かさにふわふわと思考が漂う。

「何だか……夢みてるみたい」

 膣内をゆったりと掻き混ぜられ、ときたま軽くピストンされる。動きが違うだけで、快楽の質がこんなに変わるとは思わなかった。円はこのまま永久に繋がっていたいとさえ思ってしまう。

「円さん、どう? こういうのもいいでしょ」
「凄くいいです……唯さまと繋がっていて、何だか心まで温かくなっちゃいます」

 唯が円の巨大な胸を触り、大きな円周を描くように優しく揉む。繊細な指の動きに円は性欲が更に満たされていく。
 唯が近づいて、顔にキスをされる度に愛しい気持ちが湧き上がってくる。主に抱かれるのがこんなに素晴らしいことだとは考えたことも無かった。以前は性欲の捌け口にしか扱われなかったのに、今は主である唯の愛情を確かに感じている。

「ああっ、すてき……唯さま、また私……イキそうです」
「うん、あわせるから、好きなときにイって」

 ふわふわとした気分のまま、ゆっくりと高みへと昇っていく。そして、円は激しい行為も無いままにエクスタシーを感じてしまう。

「ああっ……ふわ……凄い……いいんです」

 蕩けるような気分のまま、円はイク。今までの人生の中でも最高と言える瞬間の一つだった。

「ん、円さん」

びゅ、びゅっ、びゅっ、どぴゅどぴゅ

 円が絶頂に達したのを見て、僅かに遅れて唯も射精する。温かい膣内へと、何の考えも無しに欲望のままに白濁液をぶちまけた。

「あん、唯さまの……温かいです」

 少年のペニスを柔らかく円の膣が握り締め、奥へと精液を導く。円の蠕動する膣壁の凹凸を亀頭のエラが擦り立てる。その動きにお互いが相手のエクスタシーを感じる。二人ともパートナーを満足させたことに喜びを覚え、抱き合った。円の中で前に出された精子と、いま出された精子が混ざり合って溶け合う。

「ん、円さん、かわいい」

 二人は再び軽くキスを交わす。唯の言葉に円は再び胸が高鳴ってしまう。もう離れられそうにない。

「もう、唯さまったら。他の人にも同じこと言ってるんでしょう」
「んー、まあね」
「否定なさらないんですね」
「ごめんね」

 軽くほっぺたにキスされるだけで円は嫉妬するのを止めてしまう。
 抱いている相手はどうせ芽衣や由佳などの仲間達に違いない。浮気相手が自分と同じく主に仕えるガーディアンなら、許せるものだ。

「さて、もう一回する?」
「え、唯さま……もう一回できるんですか?」
「あはは、何だか知らないけど、皆とするとそんなに疲れないんだよ」
「何故でしょうか?」

 円はむうと唸って考え込む。やがてある仮説へと辿りつく。

「もしかしたら、私達の力が流れ込んでいるのかもしれません」
「力って……ガーディアンの?」
「はい。私達に人に力を与えるような能力があるとは聞いたことがありません。ですが、絶頂へと達するときに発生する生体エネルギーの余剰分が流れ込んでいるのかもしれません」
「生体エネルギーか……」

 唯は真剣な目つきで円の言葉を脳で繰り返す。幼い頃から情報化社会を生きてきたのだ、元からこういうことの飲み込みは早い。

「そうかもしれないね。今度、みんなにも意見を聞いてみるよ」
「はい。それがいいと思います」
「ありがとうね」

 既に何回も貰っているお礼のキスで、円の顔がまた赤くなってしまう。そして情欲の火がまた小さく燃え始める。

「あ、あの唯さま……その、もう一回いいですか?」
「うん、もちろん」

 唯は繋がったままだった腰を再び動かし、円はまた嬉しそうな悲鳴をあげ始めた。円はもうこの主に永遠の忠誠を誓っていいと思った。







「唯さま、起きてらっしゃいますか?」

 翌朝。いつもは言われなくても起きてくる唯が来るけはいが無いので、芽衣が彼の部屋へと起こしに来た。
 芽衣には一つの打算があった。もし唯がまだ起きていなかったら無断で入らせてもらって、主をフェラチオで起こそうという思惑がある。時間から一回はセックスして貰えるかもなどと芽衣はしたたかに考えていた。もちろん、そういう様子は微塵も見せずにドアをノックする。

「あ、芽衣さん、ちょうど良かった。ちょっと助けてくれる?」

 残念ながら唯は起きていたようだ。助けを求める声は切羽詰っていないので、安心して芽衣はドアノブを捻る。

「どうかなされました、唯さま……ええっ!?」

 芽衣はベッドの方を見て固まる。
 ベッドの上には唯だけではなく、全裸で眠りこけている円の姿もあった。敏腕女性記者は少年の背後から彼を抱き締め、足を絡めて完全にロックしている。豊満な肢体を惜しげもなく唯に押し付けている円の顔は、寝ている赤子のように安らかだ。

「ちょっと! 何であなたが居るの!?」

 慌てて円が頭を乗せている枕を掴み、芽衣は彼女の頭に叩きつける。

「んー? ちょっと何するのよ」
「何するのじゃないわよ!」

 ゆっくりと起き上がる円に芽衣が凄い剣幕で怒りを表す。腕と足が解けたので、そのすきに唯はするりと円から離れる。

「何で、あなたが、居るの!?」
「別にいいじゃない。主さまのとこに居るのがそんなにおかしい?」

 一言一言区切って言う芽衣に、円は眉をしかめる。気持ちいい眠りを妨げられ、機嫌があまり良くない。

「昨日、追い返したはずよ。それに唯さまと楓を記事にするような人を、唯様の傍には置いておけないわ」
「もうしないわよ。私も愛人だもん」
「あなたという人は、あれだけの騒動を起こしておいて」

 今にも掴みかからんばかりの芽衣の前に唯が割って入る。

「まあまあ、芽衣さんも落ち着いて。円さんも僕に仕えてくれるって言うし」
「ですが……」

 仲裁する唯に芽衣は明らかに不満そうだ。主……いや、唯の主張することなら、言霊を使った命令でなくても絶対に服従する心構えが芽衣にはある。それでも彼女の心情としては、許しがたいものは許しがたい。

「芽衣さん、怒ったら折角の美人が台無しだよ」

 芽衣の胸をぷにゅんと揉んで、唯が囁く。ちょっとしたセクハラなのだが、それだけで芽衣の下腹部にじわりと浸透するような感触が走る。

「そ、そうですね。円にはやんわりと注意しておきます」
「うん。それでこそ芽衣さんだよ」

 唯の笑顔に、芽衣は胸がドキドキする。正直に言って、彼にこの場で犯して貰って、むちゃくちゃにして欲しかった。そんな芽衣の気持ちに気づいたのか、

「今晩は張り切ってしちゃうから。楽しみにね」

 軽いウィンクを残して、着替えの終わった唯が部屋から出て行く。その姿を芽衣はぼーっと見送る。頭の中は早くも今晩のことで一杯だ。

「唯様ってすてきよねー」
「そうそう、この世で一番格好いい男だと思う……って、何であなたが知ってるのよ!?」

 我に返った芽衣に、円は軽くバカにするようにため息をつく。

「この格好見てわからない?」

 生まれたままの姿に、白い染みで汚れたシーツ。何があったのかは言わなくても明白だった。

「唯様、すごかったわ。一回目はもう死んじゃうかって思うくらいだったし、二回目はとっても優しくて」
「あなたもそのパターンで堕ちたのね」
「それから、三回続けてしてもらって……最後にフェラチオで綺麗にしてあげたら、凄く喜んでくれて……きゃっ、恥ずかしい!」

 外見は若作りだが、自分より少し若い程度の同僚が乙女のように恥らうのを見て、芽衣が呆れたように円を見やる。何より、唯に抱かれたのが気に食わない。

「だから、何であなたが唯様に抱かれる権利があるのよ!」
「ああっ、唯様にやんわり注意するって言ったのに。いいつけてやるわよ」
「この子はどうしていつもこんなにむかつくの!」

 それから出社時間が迫っても帰って来ない芽衣の様子を見るために由佳が来るまで、たっぷり三十分近く芽衣と円は枕投げを繰り返していたそうだ。







      



























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