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「ここに来るのも久しぶりね」

 芽衣は目の前に広がる山々を見上げる。首都から、かなり離れた山脈。その一番手前にある山を芽衣は登っていた。敷かれた石段を芽衣は軽い足取りで一歩一歩進んでいく。
 登り道を苦にもせずに、しばらく歩くと目的地へと辿りつく。山頂の神社だ。芽衣が以前来たときよりはるかに本殿などは綺麗になっており、古さは感じるが寂れた感じは無い。手入れがよく行き届いている。
 芽衣が本殿などを見ながらぶらついていると、事務所らしき建物の影から一人の女性が出てきた。彼女は巫女らしき衣装を着ており、芽衣の姿を見るとすぐに歩み寄ってくる。

「久しぶりね、静香」
「ええ。お久しぶりね」

 芽衣がサングラスを取って微笑むと、静香と呼ばれた女性も微笑み返す。
 不動静香は腰まで届く長髪が似合う美女だった。その長い髪が巫女の衣装とよく合っており、神秘的な雰囲気を醸し出している。巫女装束は和服に近くゆったりしているが、その上からでもわかるくらいに胸が大きく張り出しており、大地母神に祈りを捧げていた太古のシャーマンを思わせる。だが美しいその姿にも、何処と無く儚げな面影があった。

「元気にしてた?」
「ええ、おかげさまで」
「しかし、ここって本当に山奥よね……寂しくないの?」

 芽衣は周りを見回す。深い木々に囲まれている神社は山の頂上にあり、人があまり来ないのは明白だった。
 ちらりと静香の表情を見た芽衣は考えを改めた。

「愚問だったわね。静香は人が居ない方がいいのよね」
「ええ。都会も嫌いでは無いけど、あまりトラブルには巻き込まれたくないわ」

 ふっと遠い目をする静香を芽衣はじっと見詰める。だが静香はすぐに目の前の友人に焦点を戻す。

「ところで芽衣……私に何か用?」
「いいえ。ちょっと様子を見に来ただけ」
「そう、良かった」

 明らかにほっとする静香に、芽衣は苦笑した。

「ごめんなさいね、芽衣。いつも力になれなくて」
「別に構わないわ。あなたはあなたの道を行きなさい。京や円だって好きにしてるんだし」
「そう言って貰えると助かるわ」

 申し訳なさそうな静香に、芽衣は微笑みを返す。
 いつからだろうか、静香は戦いと主への忠誠を放棄した。一応は主に強制されれば仕え、仲間の要請があれば戦いもしたが、望まれなければ人と離れて生活している。ガーディアンの使命に嫌気が差したのかもしれない。同じガーディアンの一人に恋したのと何か関係があるのだろうか。

「さて、元気そうにしてるのを見て安心したわ。私は帰るわね」
「折角来たのだから、お茶ぐらいは出すわ」
「お構いなく。何かあれば電話するわ」

 この山奥にも電話は繋がっており、連絡はいつでもつく。芽衣としては久しぶりに静香の顔を見たくて来ただけで、それ以外の用は無かった。
 踵を返した芽衣の足が二、三歩行ったところで止まった。そして、振り返る。

「一応伝えておくわ。主が見つかったわ」
「そう」

 主という言葉に静香が身を固くする。

「あなたには関係ないわ、気にしないで頂戴。ただの報告で他意は無いわ」
「済まないわね」
「謝らなくていいわ。手はどうせ足りてるんだし」
「そうなの?」
「今回は凄いわよ。私の他に由佳、雛菊、京、ミシェル、円、楓が仕えているわ」
「京や円まで?」

 芽衣のその報告は静香も予想していなかった。京と円は自分と同じくらい主に仕えるのが嫌いだったはずだ。
 仲間を驚かせたのに満足できたのか、芽衣は笑顔で続ける。

「そう。珍しいでしょ」
「……今度の主はどんな人なの?」
「うーん、一言で言えば優しい美少年……うん、これが一番しっくり来るわ」
「芽衣は彼のこと、どう思っているの?」

 静香の質問に、芽衣は鮮やかな笑みを返す。

「愛しているわ。この世に私が生まれて初めてね」

 それだけ言い残して芽衣は神社から立ち去る。残されたのは不思議そうに仲間を見送る静香だけだった。
 石段を山道に適さないようなハイヒールを履いた芽衣は軽やかに降りる。まるでそれが苦でも何でも無いように。しばらくすると、自分とは逆に上がってくる者が見えた。

「あら、早苗じゃない」
「芽衣、久しぶり」

 セーラー服に包まれた美少女が立ち止まって芽衣を見上げる。優しい面立ちの快活そうな少女だ。ボブカットの髪が活発そうな彼女には似合っている。身体はスマートで手足がきゅっと引き締まっているが、胸だけが傍目にもわかるくらい大きい。セーラー服は巨乳の所為でサイズが合わなかったらしく、ピチピチに胸で押し上げられている。
 活発に見える彼女も、芽衣を見るその表情は少し曇っていた。

「静香お姉さまに……その、用事があったの?」
「いや、様子を見に来ただけ。すぐ帰るわ」

 手をひらひらと振って、芽衣はまた階段を歩み始める。すぐに階段上で早苗とすれ違う。

「本当に?」
「心配性ね。本当に何も無いわよ」

 早苗に呼び止められて、芽衣は振り返る。

「もし必要があるなら、彼女じゃなくてあなたに頼むわよ。無理に静香を引っ張り出す必要は無いし」
「それならいいんだけど……」
「何かあったら連絡頂戴。いつでも誰かを寄越すから」

 芽衣は再び階段を下り始める。出会いもあっさりとしているなら、別れもあっさりだった。早苗の視線を受けながら、芽衣は長い石段をみるみるうちに下りていった。





「麻生様、よくお出でになりました。こちらからお電話さしあげようとも思いましたが、少しお話が」

 古物店に唯が一歩を踏み入れると、待っていましたとばかりに飯田が彼に声をかけてきた。

「どうしたんです? 何か悪いことでも……」
「ええ、ちょっと情報が入りまして」

 飯田は大きめの封筒を机の引き出しから取り出し、歩み寄った少年に手渡した。唯が封筒を開けると、何枚かの写真と書類が入っている。

「その男を見てください」

 幾つかの写真に写っている男を飯田は示す。痩せていて陰気そうな男だ。

「男の名前は半田耕太。もちろん偽名です。実は彼は元悪魔なのです」
「元っていうと?」
「彼は完全に人間になっています」

 飯田の説明に、唯は写真をじっと見詰める。だが唯には人間なのか、悪魔が化けているのか、悪魔が人間になったのか違いがわからない。悪魔が人間に化けているのを看破できるのは、ガーディアンである彼の下僕達であって唯にはその能力は無かった。

「何で人間に?」
「そこらへんの情報が不確定なのです」

 唯の質問に飯田は珍しく渋い顔を見せる。

「この者は奈落でも偏屈者として通っていまして、奈落においてもめったに他の悪魔と関わろうとしませんでした。ただ何かの研究をしていたらしいのは確かです」
「研究?」
「そこのところが良く分かりませんが、何でも音がどうとか喋っていたのは確かなようです。そのことだけは裏が取れました」
「音……音波とか、音楽とか?」
「さあ、その辺は何とも……」

 唯と飯田は顔を付き合わせて一緒に悩む。情報があやふやなので、それが何に繋がるのかはわからない。ただ、悪魔が人間に完全に変化するのは何かよっぽど特別な事情があるに違いない。
 芽衣や飯田から唯は幾つかの基本的なことを教わっている。
 悪魔達は定命の人間達と違い、現世で体が滅びても奈落に再び落とされるのみだ。そして百年は地表へと戻って来られない。しかし、それが過ぎればいつでも人間に召還されることができ、またゲートを潜ってこちら側の世界へとやって来ることもできるのだ。この法則は太古から続いており、芽衣と飯田も名前こそ言わなかったが、どうやら神と呼ばれる存在がこのような法を作ったらしい。
 余談だが、今回は主にゲートが日本に開いたのでガーディアン達のほとんどは日本人に転生したということだ。

「とりあえず半田の足取りは掴めていますので、もう少し探ってみようと思います」
「お願いします」
「もし半田に早めに仕掛けるときは、くれぐれもご注意下さい」
 唯は封筒に写真や書類をしまい直すと、学生鞄に大事そうに入れる。その様子を見ながら飯田は何かを考えていたようだが、やがて決心したように口を開く。

「麻生様は不動静香と土田早苗という名前に聞き覚えはありますか?」
「うーん……いや、聞き覚えありませんけど」
「そうですか。実は二人ともガーディアンなのです」

 知らないガーディアンの名前に、唯は驚く。芽衣達の他にもまだ幾人もの仲間が居るのは彼も知っている。だが、いま集まっているメンバーがまだ他の者をあまり紹介したがっていない様子なので、唯も無理に聞きだそうとはしていなかった。
 他のガーディアンを飯田が把握しているのは意外だったが、情報を大量に集めている彼なら知っていてもおかしくは無いかもしれない。

「このうち、不動静香は多分ガーディアンの中でも最強の一人と言われています」
「最強……」

 配下の者が使う能力の凄さを知っている唯は最強という言葉に絶句する。氷、火、剣、血、雷、風、影、どの使役能力もとても人が真似ることは叶わないだろう。唯から見れば人知を超えた力を使う彼女達は神にも等しい存在だ。だがそれを上回る力とはどのような物なのだろうか。

「ええ、最強だと。太古の記録によれば、ガーディアンの中で最も手強い相手の一人として書き記されています」
「そうなんだ」
「ただ、数百年前から我々と戦ったという記述は激減しています。今回も本人が見つかったのは偶然みたいなものでして」

 そこで飯田は唯を観察するように言葉を区切る。

「どうでしょうか、麻生様。今回は彼女の力を借りてはいかがですか?」
「とりあえず、芽衣さん達に相談してみるよ」

 悪魔の飯田と違って、同じガーディアンの仲間達なら間違いなく静香のことを知っていると唯は判断した。ちゃんと聞けば、彼女について詳しいことがわかるだろうという確信がある。

「そうですか。申し訳ありません、今回は不確定な情報ばかりで」
「いや、これで充分ですよ。いつも協力して貰って、すみません。今日は早めに帰って、みんなと相談してみます」

 唯は一礼をしてから、少し早足で古めかしい古物商を後にした。






 唯は自宅のマンションに帰ると、真っ先に自室に置いてあった携帯で配下全員にメールを送った。なるべく早く帰宅するよう促すような内容だ。
 メールの送信が終わると、すぐに携帯が鳴り始める。全員が返信してきたメールに、すぐに帰るというような内容が書かれていた。一つ一つのメールを確認してから、携帯電話を持って唯はリビングへと向かう。
 テレビもつける気にならず、飯田の情報を頭で整理しながら、じっと待つ。やがて一時間も経たないうちに次々と配下の女性達は戻ってきた。

「はーい、唯様。何か御用ですか?」
「唯様。何でしょう? 何でも言って下さい」

 まず帰ってきたのはミシェルに楓だった。鞄を持ったまま、玄関から直接リビングへと入ってくる。

「何の用事? 呼び出すなんて、よっぽどのことだと思うけど」
「唯様、ただいま戻りました」

 続けて京と雛菊が戻る。雛菊は同じ学校の教員であるミシェルが先に帰っていることに渋い顔をする。

「……ミシェル、何でおまえが先についてるんだ? 今日は宿題の採点があると、ぼやいていたのに」
「緊急時だから仕方ないでしょ。ほら、雛菊も座って」

 ミシェルに宥められて、仕方なくスーツ姿で雛菊はソファに座る。

「遅れました。取引先との打ち合わせがあったので」
「ごめんね、唯君。遅れちゃって」

 更に芽衣と由佳が戻ってきた。
 この二人は会社で最も重要なポジションについているので、てっきりまだ戻らないと唯は思っていた。多少は無理したのかもしれない。
 唯は全員を呼び出すのは。緊急時のとき以外は止めようと頭の中でメモする。彼女達のことだから、唯が必要とすれば本業を放り出して駆けつけるだろう。

「これで全員かしら?」
「円がまだよね」

 グルリとリビングに集まった全員を見た芽衣に、ミシェルが教える。人数が多くなってきているので、パッと見てすぐに誰が欠けているのかわからないときがあるのだ。

「唯様、どうします。とりあえず、円抜きでも……」
「ちょっと待ってよ。人をのけ者にしないで頂戴」

 リビングのテーブルの影からズズズッとせり上がって、円が姿を見せる。影の中からゆっくりと彼女は出てきて、敷いてあるカーペットの上に足を乗せた。

「もう、玄関から入ってこれないの?」
「エレベーター使うのめんどくさくて。靴は下駄箱に送っておいたからいいでしょ」

 リビングのソファに座る円に、芽衣は不満そうな顔を見せる。それはともかく全員が揃ったようなので、雛菊がとりあえず口を開いた。

「唯様。それでご用件は何でしょう?」
「全員が揃ってからって言ってたけど」

 ミシェルが雛菊の後に続ける。

「全員をこんな時間に呼び出してということは……」
「も、もしかして……」

 無表情の楓に代わり、円が顔を赤らめる。全員が明らかに性的な何かを期待している様子に、唯は面食らってしまう。毎晩のようにセックスしているからか、どうも頭のいい彼女達の思考も偏るときがある。
 だが今日の用件は違うのだ。唯は恐る恐る話題を切り出した。

「実は悪い報せというか……ちょっと気になるニュースがあるんだ」

 悪い報せと聞いて、全員が思わず固まる。だが唯が飯田の話を語ると、力を抜いてほっとした。
 渡された文章と写真を回して情報を共有する頃には、先ほどの性的な期待は忘れて全員が真剣な顔つきをしていた。

「人間になった悪魔……」
「めったに聞いたこと無いわよね」

 由佳の呟きに京が続ける。

「とりあえず、どうする? 探ってみるか、それとも……」
「やっぱり、これは奇襲よ。何を企んでいるかは捕まえて吐かせればいいし」

 ミシェルの言葉に京が提案を返す。京らしい、強硬な意見だったが、

「私も賛成だわ」
「賛成」
「反対する要素は無いと思う」

 続けざまに全員が賛成して、意見の一致を見た。既に何世紀も悪魔達とやり合っていたガーディアン達である。ベストな対処法も自然と身につけているのだろう。
 だが芽衣はすぐに唯の意見を聞いて居ないことに気づく。

「唯様はどう思われます?」
「えっと、芽衣さん達が決めたことならそれでいいよ。でも……」

 唯は写真に目を落として、半田という男をじっと見る。

「今回は僕も一緒についていくから」
「ゆ、唯様!?」

 唯の発言に全員が目を見開く。

「ま、待って下さい。唯様を危険に遭わせるわけにはいきませんわ」
「唯様がわざわざ来る必要は無いです」

 芽衣や雛菊が口々に思いとどまらせようとする。だが唯の意思は固かった。

「いや、今回だけは何だか役に立てそうな気がするんだ。音っていうのが気になっていてね」
「しかし……」

 それでも必死に反対する芽衣達に唯ははっきりと宣言する。

「主の名の下に命じる。今回は僕を連れて行くように」
「は、はい」

 唯の言霊に打たれて、全員が頭を垂れる。
 主の発する力ある言葉はガーディアン達にとって絶対である。だがそれを知っているので、唯はめったに彼女達に命令することは無かった。他人を強制するのを、彼は内心快く思っていない。そういうこともあって、唯がこのように命令するのは極めて稀だ。だが、今回はあえてそれを行使した。
 命令を告げ終わると、唯は力を抜く。

「話はこれで終わり。後は芽衣さん達に任せるね」
「はい、わかりました」

 とりあえず目標の悪魔に対する対策ができたので、ほっとした唯は忘れていたことを思い出す。

「そういえば……不動静香さんって知っている?」
「え!?」

 真っ直ぐにリビングに来たので一旦自室に戻ろうとした全員の動きが止まる。すぐに由佳が唯に問いただす。

「唯くん、その名前どこで知ったの?」
「えっと、飯田さんに教えて貰ったんだけど。他にも土田早苗さんとか……」

 唯の正直な告白に、何人かが渋い顔をする。

「あのタヌキ親父。何で私達の情報まで知っているのよ」
「気をつけなくちゃ……情報が筒抜けっていうのは致命的だし」

 苦々しげな京に円も同意する。正直に言えば、ここに居るガーディアン達は悪魔の協力を得ていることを快く思ってはいなかった。例え、渡される情報が常に正確であってもだ。

「それで、その静香さんって人もガーディアンなの?」
「ええ……確かにそうですが」

 唯の質問に芽衣は躊躇しながらも頷く。

「飯田さんの話によれば、彼女の力がガーディアンの中でも最強って聞いたんだけど……」
「最強……確かにそうかもしれません」

 芽衣が肯定すると、何人かが頷く。力を信奉して、自らの強さに絶対の自信を持っている京でさえ何も言わない。

「彼女は重力使いですから」
「重力使い?」

 芽衣の説明に唯は普通に驚いた。様々な力を操るガーディアンとは言え、よもや重力を操る人間までもが居るとは知らなかった。

「それは確かに……強そうだね」
「ええ、私達が束になってかかっても勝てるかどうか」

 確かに重力使いなら最強の名を冠するのにも納得がいく。

「それで、静香さんに協力は得られそう?」
「頼めばそれも可能ですが……」
「何か不都合があるの?」

 言い辛そうな芽衣に代わって京が口を開く。

「主と関わるのが嫌いなのよ」
「主と?」
「色々辛い目にあってるから」

 京の言葉に唯も納得がいった。ガーディアン達の口ぶりから、今までの主人は人としてあまり評価できない人物が多かったらしい。それに嫌気が差したというのが理由だろう。

「それに恋人が居ますし」
「恋人?」

 さも楽しそうに言うミシェルの発言に唯は驚く。

「恋人が居るの?」
「さっき名前が挙がった土田早苗ですよ」

 飯田が二人の名前を一緒に挙げたのも、これで納得がいった。二人が恋人なら一緒に居るのはごく自然だ。

「唯様、ガーディアンにレズビアンが居るのには驚かれました?」
「うん。正直言って驚いたよ」
「私達の中にも居るかもしれませんよ……痛っ!」

 ミシャルの隣に居た京と雛菊が同時に彼女の頭へとチョップをかます。

「何よー、ちょっとしたジョークじゃない」
「冗談でもそういうこと言わないでよ」
「気色悪いこと言うな!」

 気色ばむ二人にミシェルは、かなり不満そうだ。それを見て、唯も少しがっかりした表情を見せる。

「そうなんだ……」
「唯様、少し残念そうじゃないですか?」

 何かの期待が外れた唯に、円が脱力したように突っ込みを入れる。この場に居るメンバーの何人かは唯がレズプレイを見るのが好きなのを何となく感じ取っているので、あえて何も言わない。

「まあ、そういうことなら、そっとしておいてあげようよ。とりあえず、このメンバーでどうにかしてみよう」
「はい」

 唯の宣言に、七人の女戦士は力強く頷いた。





 それから数日後、遂に半田のアジトへと奇襲をかけるときが来た。
 半田の住処は、とある市の郊外にある倉庫だった。飯田の情報によれば幾つか並んだ倉庫の一つに潜伏しているらしい。

「周囲に変わった様子はありませんでした。中は光量が多かったため、よくわかりませんが」
「ご苦労さま」

 斥候の役目を果たした円の報告にワゴン車の中で唯が頷く。だが報告は他のメンバーに向けられたものであって、唯は自分がおまけでしかないことを重々承知している。非戦闘員の自分はお荷物でしかない。現にミシェルが自分の護衛についているため、戦闘できる人数が一人減っている。
 それでも唯は今回参加するために決めた。七人のガーディアンなら何の心配も無いと思うのだが、自分の中の何かが大声で警告を発するのだ。

「それじゃ、行くわよ」

 車のドアを開けて駆け出した京と同時に他の五人が入り口へと駆ける。その動きは常人離れしており、一気に倉庫の扉へと辿りつく。唯も後に続くがかなり遅れており、ミシェルもそれに合わせて移動する。

「はあっ!」

 得意の巨大な血爪で倉庫の扉をぶち壊し、京が中へと勢い良く一番に特攻する。
 荷物が並んだ倉庫の一角にテーブルとパイプ椅子が置いており、それに何人かの人間が座っていた。その中の一人が写真で見た半田なのを一目で京は確認する。

「もらった!」

 地を蹴って跳躍し、京が一挙動で半田に飛ぶ。とりあえずは半田を捕まえるのが最優先で、京は他の人間には目もくれない。半田は驚きで固まっていたが、かろうじて口だけが動いた。

「静香、防げ!」
「何!?」

 京の体が空中で急に止まり、直後に背後へと吹き飛ばされた。思いかけない反撃にも京は慣れた動きでくるりと一回転して、コンクリートの床を後ろに滑りながら無事着地する。
 京が弾き飛ばされたのを見た他の五人は奇襲であることを忘れて、足が止まってしまう。

「静香、あなたどうして!?」

 いつもの冷静さを僅かに失い、芽衣がわなわなと震える。
 半田の隣の椅子から立ち上がったのは静香だった。その顔は苦痛に歪んでいるが、力を行使したのは確かに彼女だ。全員が彼女の姿に言葉が出ない。

「………」

 全員が驚きで固まっている中、楓だけが動いた。片手を横に振ってカマイタチを発生させると、半田へと向かって飛ばす。しかし、コンクリートの床を破って土の壁が盛り上がり、風の刃を防いだ。

「早苗までどうして!?」

 静香の隣から、早苗もうつむきながらパイプ椅子から立ち上がった。
 芽衣達は自分の目を信じられなかった。静香と早苗が確かに自分達の目の前に立ち塞がっているのだ。ガーディアンが悪魔を庇って、対峙するなんていうのは前代未聞だ。
 半田は当初の動揺から立ち直ると、居住まいを正して椅子から立ち上がった。

「いや、ガーディアン自らがやって来るとは。これは好都合。こちらから赴く予定でしたが」
「貴様、静香と早苗に何をしたっ!」

 雛菊の叫びに、半田は嬉しそうに笑う。

「私はあなた方のことを千年間研究しておりました。早い時期にあなた達の弱点が主であることには気づいて居ましたが、その力を解明するのに時間がかかりましてね」

 そして半田は恍惚とした表情で叫んだ。

「だが、遂に私は手に入れた! 主の能力を! その言霊の力を!」

 ガーディアン達は雷に打たれたような衝撃を受ける。ガーディアンの能力はともかく、主の力をコピーするなど聞いたことがない。だが現に静香と早苗は半田の言うことを聞いている。

「しかし、主の力は人間のみが使えるもの。その代償に人の体にならなければいけなかったのは、痛かったですが、まあいいでしょう。あなた達の力を使えば、私も悪魔王の一人になるのも簡単でしょうから」

 半田は嫌らしい笑みを浮かべながら、ゆっくりとガーディアン達へと近づく。

「さあ、ガーディアンの諸君。私の部下へとなるのです」

 半田の言葉に、全員の体に衝撃がはしる。

「バカな……」
「そ、そんな!」

 確かに自分達を襲っているのは主だけが使える言霊の力だ。必死に抵抗するが、ガーディアンの魂の根幹にある部分が半田に従えと言う。それは自分の心より強い力で、身体は完全に彼の言うことを聞こうとする。
 全員の意思が半田に屈しようとしたとき、

「待て。主は僕だ!」

 倉庫の扉から唯が中へと足を踏み入れる。唯の力ある言葉がガーディアン達の拘束を解き、自由にする。

「ちっ、本物の主か。ガーディアン達よ、その小僧を殺せ!」
「やめろ! 主はこの僕だ。お前の好きにはさせない!」

 二つの言霊がぶつかり合う。相反する命令に、ガーディアン達の身体は混乱を来たしたらしく、未だに言うことを聞かない。芽衣達は本心では唯に加勢したいが、体が反応してくれないのだ。全身の神経が働きを失ったように感じる。

「くそっ、何をしている!」
「皆を苦しめるのはやめろ、半田!」

 唯と半田はすぐに全員が動けないことに気づく。そして残されたのは、本物と偽者の主のみ。動けるのは半田と唯だけだった。

「ちっ、小僧め。手間をかけさせおって」

 半田はナイフをポケットから取り出す。それを見て芽衣達の顔色が変わる。唯は丸腰なのだ、凶器に刺されでもしたら……。

「唯様、お逃げ下さい!」

 芽衣が渾身の力を振り絞って叫ぶ。身動き出来ない自分達は、唯を守る力は全く無い。
 しかし、唯は動こうとしない。動揺しているのは明白なのだが、全身の力で逃げだしたいような恐怖と戦っている。
 そのような状況の中、彼は目を閉じた。

「唯くん!」
「何してるのよ!」

 由佳と京の警告にも唯は逃げようとしない。精神を寄り合わせ、唯は自分の心を落ち着ける。一介の中学生に過ぎないのに、このときの唯はそれが出来た。主としての責任感、自分を慕う者たちへの義務感、そして愛情が唯の身体に力を与えてくれた。
 やがて、ゆっくりと目を開ける。

「ぐああっ!」

 唯が片手を水平に突き出すと、半田は悲鳴を上げて頭を押さえた。何かの力を食らい頭が割れそうな痛みを覚える。
 唯が放ったのは超音波だった。音を操れるのを発見してから、彼は一人で超音波が使えないか試行錯誤していたのだ。
 唯は年頃の少年達に漏れず、漫画やゲームが好きだ。最近は漫画やゲームをしていないとはいえ、自分に力が備わったとわかってから、漫画などにあるようなことができないか考えていた。そして実際に似たような力を使えるのがわかったときは、少年は飛び跳ねて喜んだものだ。
 その力がいま、必要なときが来たのだ。

「な、なに!?」
「唯様の力?」

 配下の女達は唯を呆然と見詰める。唯に今までの主と違う力が備わっているのは知っていたが、こんな芸当が出来るとは夢にも思わなかった。

「ぐうう、ぐああっ!」
「皆を解放しろ、半田!」
「だ、誰が……出ろ、ストーンゴーレム!」

 苦痛に喘ぐ半田の叫びと共に、倉庫に置いてあった二つの巨大な木箱が粉々に砕け散った。木屑にまみれながら姿を現したのは石で出来た虎だった。とても岩石で身体が出来ているとは思えない動きで二匹の虎はゆっくりと歩き始める。
 これにはさすがに唯も仰天した。漫画や小説に出てくる魔法生物、ゴーレムが実際に目の前に現れたのだ。それが自分に向かってノシノシと歩いてくる。唯は音波の射出を止め、慌ててゴーレムが来る反対側へと距離を取ろうとする。

「やれ、ゴーレム。あの小僧を殺すのだ!」

 幸いなことに石像は虎という外見とは違って、俊敏では無いようだった。石で出来ているからだろうか。唯はゴーレムより速く動けるのだが、だがいつまでも逃げるわけにはいかない。彼は虎達を芽衣達から離れたところに誘き寄せるとぐっと仁王立ちになった。何らかの覚悟を決めたようだ。

「観念したか、小僧! これまでだ」
「やめて、もう充分でしょ!」

 ミシェルの叫びも虚しく、一歩一歩石像は近づく。だがそれに動じず、唯はまた精神を集中しはじめた。

(思い出せ、あのときと同じだ。同じだ……)

 頭の中でイメージを形作ると、唯は虎に集中する。じっくりと力を練ると、それを一気に解き放つ。
 最初は何も起こらなかった。だがピリピリと空気が張り詰めていく。まるで大気中に力が溜まっていくように。
 やがて石像が細かい音を立てながら微振動を始める。そしてすぐに石の体はガクガクと揺れ始めた。

「こ、小僧。何を……」

 半田は唯の力に圧倒されたように呟く。
 唯は石像に超音波を放っていた。石に周波数を合わせ、微細な振動を全身に与える。振動は石の奥底まで浸透していく。
 超音波を食らってもゴーレムはガクガクと揺れながらも歩みを止めずに唯へと歩いてくる。だが体のあちこちがボロボロと脆い粘土のように崩れて、身体に穴が穿たれていく。やがて、音も無く微細な砂になって崩れ落ちた。まるで全身が灰に取って代わったかのように。

「うぐっ!」

 石像が砕けると共に、唯が膝をがっくりと落として床に手をつく。こんなに自分の持つ力を使ったのは初めてだ。大量の力の放出がこれほど疲れるものだとは唯も知らなかった。全身に大量の汗をかきながら、苦しそうに喘ぐ。非常時なのに、すぐには身体が動かなかった。

「小僧、そこまでだ!」

 はっと唯が顔を上げると、勝ち誇ったような顔の半田が見えた。そしてガーディアン全員の肩に、小型の石像が乗っているのに気づく。日本サルと同じ程度の大きさで作られた石像で、ガーディアン達はガーゴイルという魔道が生んだ生物だと知っていた。

「小僧の分際で、良くやったと褒めてやろう。だが、それもここまでだ。これ以上抵抗するなら、全員の首を切り落とすぞ」

 半田の脅迫に、唯はぐっと拳を握る。人質を取るという悪魔らしい手段。だが好いている女性達を人質に取られてはどうにもならない。
 そんな彼の様子を察して、京が半田をバカにしたように笑う。

「そんな脅しが効くと思ってるの? 私達は所詮、主の手駒。私達が死んでも彼には痛くも痒くも無いわよ」
「なに?」
「殺すなら殺しなさいよ。私達はすぐに転生して現世に戻るだけだから」

 京の挑発に半田の顔が赤くなる。自分の思惑を外れることばかりで、元からヒステリックな性格ゆえに彼も冷静さを欠いてきていた。

「ならば、おまえから死ね!」
「待って!」

 唯が静止すると、命令を下そうとした半田の動きがピタリと止まった。そして、再び余裕の笑みを浮かべて少年を見やる。

「ふふふ、お前達の主はよっぽどお前達が好きなのだな」
「ば、バカ……何でこんな奴の言うこと……」

 唯のお人好しぶりに京は唇を噛み締める。

「よし、こっちに来い。抵抗すればどうなるかわかっているな」

 半田がナイフを構えて手招きする。仕方なく、要求に従って唯はゆっくりと歩き始めた。ガーディアン達の肩に乗っている石像は合計で九体。丁度、芽衣達と同じ数字だ。それ以上ガーゴイルは居ないらしく半田自ら唯を始末するらしい。

「唯様、私達はどうなっても構いません」
「だめ、唯様!」

 女達は愛する者のために必死に呼び止めようとする。ガーディアンは死ねば転生するが、人間は死んだらそれまでだ。しかし唯の性格からして自分たちを犠牲にすることは無いだろう。唯が死んでしまうという事実に、芽衣達は心臓が止まってしまいそうなほどの恐怖と緊張を感じる。
 唯は必死に考えていた。絶体絶命の状況で何かこれを打開する術を。皆のために命を投げ出すのは怖くない。だがこんなことで死ぬのは嫌だし、何よりも彼女達と別れたくなかった。
 やがて唯は半田の近くまで、やって来た。

「小僧、言い残すことはあるか? 安心しろ、おまえが死んだあとはガーディアン達は私がちゃんと使ってやるのでな」

 唯は目を瞑ると、そっと目を開けた。

「みんな、愛してるよ」

 唯の本当に小さな呟きは、それでも全員の耳にはっきりと聞こえた。力のある、優しい声が。

「ふっ、無駄なことを……なにっ!」

 京が肩の石像を掴むと力一杯地面に叩きつけた。すぐ続いて芽衣は石像を一瞬で氷付けに、由佳は石像をドロドロに熱で溶かし、雛菊は剣の一閃で両断、ミシェルは雷撃で跳ね飛ばし、楓は猛風で壁に叩きつけ、円は影に沈めた。静香も重力波で跳ね飛ばし、早苗は石像を土に還してしまう。
 唯は最後の土壇場に賭けに出た。自分の命令する言葉に、ベッドの上で使っている愛の囁きの力を乗せたのだ。幸いなことに二つの合わさった力はせめぎあっていた力の拮抗を破り、ガーディアン達を呪縛から解放することに成功した。

「こ、この……」

 怒り狂った半田がナイフを振り下ろす。唯は避けようとして後ろに倒れ込むが、かわしきれなかった。ナイフの切っ先が少年のシャツを切り裂いて胸を浅く傷つけるが、唯はガーディアンが助けに入るのに必要な僅かな時間を稼ぐことに成功する。

「危ない!」
「こいつっ!」

 静香が重力で半田を持ち上げ、京が操る血で出来た巨大な手が半田を掴む。そして芽衣が血を凍らせて、円の操る影が半田に絡みつく。
 他のガーディアン達が半田を拘束している間に、由佳と雛菊は急いで唯に駆け寄る。

「唯君! 大丈夫?」
「唯様!」

血が滲み出ているナイフ傷は幸いにも浅く、一目で軽傷とわかる。二人はハンカチを取り出すと、傷口を押さえた。
 手当てを受けている唯の無事を確認すると、二人以外の全員の注目が半田へと戻る。

「こいつどうする?」
「殺す!」

 憎しみに満ちた目でミシェルと京が半田を睨みつける。今にも雷撃や血爪で殺してしまわない勢いだ。

「ダメよ。唯様を傷つけたんだから、代償をたっぷりと払って貰わなくちゃ」
「そうね。どう料理してやろうかしら」

 円と芽衣がサディスティックに薄く笑う。それはぞっとするような冷たい笑みだった。

「指先からゆっくりと切り落とす。死ぬまでゆっくりと少しづつ……」

 楓は無表情に残酷な宣告をする。表情が表れていないだけに、なおさら不気味だ。

「ゆ、許してくれ。た、頼む。命だけは勘弁してくれ! もう、私は人間なんだ」
「たっぷり命乞いしなさい。その方が私も嬉しいわ」

 芽衣達が楽しそうに冷笑して、じっくりと痛めつけようとしたとき、

「待って!」

 彼女達を止めたのは傷つけられた唯自身だった。

「唯様、止めないで下さい」
「唯様を傷つけた者は切り刻む」

 円と楓が力を行使しようとする。

「待って、話を聞いて」

 真剣な唯の瞳に、仕方なく芽衣達は殺気を収めた。不満はあるが、唯本人がそう言うのならば仕方が無い。

「芽衣さん、人間になったっていう悪魔は元に戻れるの?」
「いえ、知りません……恐らくは無理だと思います。悪魔は人間より遥かに強力な力を持っていますので、元に戻るには相当なエネルギーや儀式が必要ですから」
「なら、人間になった悪魔は死んだらどうなるの?」
「多分……普通の人間と同じく、そのまま魂は離れると思いますが……」

 芽衣の言葉に満足そうに唯は頷き、

「そいつを放してやって」

 全員が力を消して半田の拘束が解ける。コンクリートの地面に落ちると、彼は無様に床へと転がった。

「今回は見逃す。不老の悪魔ではなく、人間になった苦しみを味わって貰うよ」
「こ、後悔するぞ。必ず復讐してやる」

 ヨロヨロと立ち上がった半田は捨て台詞を吐く。その瞬間、唯の放った音の衝撃波が半田の痩せた体を吹き飛ばした。

「もし、再度彼女達に手を出したら、間違いなく苦しみながら死んで貰う」

 地獄の底から響くような唯の言葉に、半田は傷む体を無理やり引きずって慌てて倉庫から逃げ出した。
 それを見送ってから、唯の意識がふっと途切れる。暗い闇に沈むような感覚に身を委ねながらも、彼には自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。





「ん、んうーっ」

 唯が目を覚ますと、自分のベッドの中だった。のびをしてベッドから起き上がる。窓にかかったブラインドから漏れる光の具合で、朝らしいことがわかる。

「学校、休んじゃったかな?」

 ベッドから抜け出ると、唯はリビングへと向かう。体が空腹を訴えて仕方なかった。
 胸にナイフで傷つけられたケガによる痛みはあるが、動くのには支障は無い。傷はきちんと包帯が巻かれて手当てされていた。

「えっと、おはようございます」

 廊下からリビングの扉を恐る恐る開けると、皆の注目が唯に集まった。全員がリビングに居るようだ。

「唯様」

 真っ先に楓が唯に飛びついてきた。頭をぐっと引き寄せられると、そのままキスされてしまう。
 すぐ後にミシェルと円も、唯の元へとやって来る。

「もう、心配しましたよ」
「うんうん。眠れませんでした」

 二人とも優しく唯に向かって微笑んでいる。

「無事で良かったですわ」
「ええ、無事で何よりです」
「お姉さんを心配させないでよ」

 芽衣と雛菊、由佳も唯を取り囲む。主を見つめるその目は涙ぐんでいた。
 そして最後にやって来た京は、楓が離れるといきなり唯の頬を張った。乾いた音がリビングに広がる。

「バカ、心配させないでよ! あんなにあっさりとあいつの言いなりになって……」

 強烈なビンタに唯は驚くが、京がボロボロと泣いているのを見て納得がいった。しかし普段はあんなにぶっきらぼうな京が、ここまで自分を思っていてくれていたのが嬉しくもあった。

「ごめんなさい。心配かけて」

 ペコリと唯が頭を下げると、全員がようやくほっとしたようだった。よっぽど唯が倒れてしまったのが、気がかりだったのだろう。皆の目に涙が光っている。唯もここまで皆に思われていることに感動していた。胸から温かいものが溢れてくる。

「いえいえ、唯様が助けて頂けなければ、私達も助かって居ませんでしたわ」
「それなのに京ったら。恩を仇で返しちゃって」
「そうそう。ボロボロ泣いたりしちゃって」

 芽衣の台詞に便乗して、円とミシェルが京を苛める。こんな機会はめったに無い。それに対して京は口を閉ざすと、ぷいっと横を向いたままだ。

「それにしても、唯様。あの能力は凄かったですね」
「そう、それ。私もあれは驚きました。是非とも詳しく聞きたいです」

 雛菊が褒めると、円が興味津々で聞いてくる。雛菊が言っている能力とは唯が使った音の能力のことだ。円は根っからのジャーナリストなので色々聞きたそうだ。

「い、いや……皆の能力に比べると……そんな」
「謙遜することないですわ。あんなの、私達にもできませんわ」

 照れる唯を芽衣がよいしょする。それでますます少年はあがってしまう。

「それに最後、愛してるって……嬉しかった」

 楓の言葉に、全員がぽっと赤くなる。
 あのとき、自分たちのために命をかけてくれた唯が放った言葉は、確かに真実の愛が含まれていた。全員の胸の奥に温かい気持ちが流れ込んできて、半田の呪縛を打ち破ったのだ。このことから、全員は唯の愛を改めて実感していた。これでは元からベッタリなのに、ますます唯から離れられなくなってしまう。

「あの言葉には濡れてしまった。あとでこっそり三回もオナニーしてしまった」

 楓のあけすけな告白に今度は全員が固まる。唯の手当てが済んで無事を確認したあと、各自は交代で仮眠を取ったのだが、その間に全員とも何かした覚えがあるらしい。
 無表情なのにとんでもないことを言う楓に、慣れたとはいえ唯までもが絶句したまま言葉もない。

「そ、それより唯様もお疲れでしょう。ささっ、ソファに座って下さい」
「唯君、お腹空いていない? お料理出来てるわよ」
「あ、うん。お願いします」

 話題を無理やり変えた芽衣と由佳の言葉に唯はそそくさとソファへと移動する。ソファに向かう途中で気づくが、面識が薄い二人の女性がテーブルの前に座っていた。

「どうも、初めまして。麻生唯です」
「これは失礼しました。不動静香です」
「土田早苗です。よろしく」

 唯がペコリと挨拶すると、静香と早苗も頭を下げる。

「芽衣さんからお話は聞いています。お二人を無理やりに配下にしたいということは無いですので、どうぞ楽にして下さい」

 唯の言葉に静香と早苗が明らかにほっとしたように体の力を抜く。

「すみません。本来ならお仕えするはずなのですが」
「いえ、それは自由意志だと思いますし」
「そう仰って頂けるのなら、嬉しいです。そういえば主様にお礼も言っておりませんでしたね。早苗と私の命を救って頂いてありがとうございます」
「あ、唯で構いません。いや……当然のことですよ」

 年上の美女に頭を下げられて、唯はどう対応していいのか困ってしまう。芽衣や雛菊など自分を敬う女性達に慣れてきたとはいえ、やはりよく知らない人だと緊張してしまう。

「でも、唯様が話のわかる方で良かったです。正直、下僕として奉仕してくれって言われたら、どうしようって思ってたんですよ」

 早苗が嬉しそうに唯に笑いかける。そんなに年が離れてなくて、フレンドリーな早苗の雰囲気に唯はほっとする。早苗みたいに話かけられる方が唯には気楽だ。

「いやいや、お二人の仲を裂くようなことは出来ないですよ」
「ああ、唯様は知ってるんですか。もう、みんなお喋りなんだから」

 早苗が苦笑すると、ミシェルが彼女の肩越しに背後から首を出す。

「早苗も勿体ないわねー。唯様と一夜過ごしたら絶対忘れられなくなるのに」
「ミシェルって他の主のときもそう言ってなかったっけ」
「唯様に比べれば、あんなの全然よ」

 ミシェルはちっちっちと指を振る。それに対して楓も首を縦に振る。

「唯様とのセックスは最高」
「ほらね、あの不感症だった楓が言うんだから」
「うーん、楓は嘘つかないし……」
「出来れば唯様と一週間くらい繋がっていたい」
「あ、あのね……そんなにしたら、あなたはともかく唯様が持たないでしょ」

 楓の願望にミシェルは額を押さえる。ミシェルも性に関してはかなりオープンだが、楓と比べたらそれも霞んでしまう。

「しかし、本当に凄そう。京や雛菊も夢中みたいだし」

 早苗が視線を投げかけると京と雛菊は慌てて横を向く。幾らベッド上では唯に思いっきり甘えてとことん乱れてしまっても、二人とも自分の硬派なイメージは崩したくないらしい。これでもガーディアン内ではストイックな武闘派と思われている二人なのだ。

「円も奉仕は嫌だったよね」
「うんうん。でも唯様のためなら、何でもするわよ」

 円はテーブルの上の煎餅を齧りながら、意味深な笑顔を早苗に送る。
 一通り仲間を見回してから、早苗はじっと唯の顔を見詰める。

「な、何ですか?」
「唯様って本当に中学生ですか?」
「ほ、本当ですって」
「じゃあ、何でそんな凄いテクニックを持ってるんです?」
「いや、その……」

 早苗の疑わしそうな目つきに唯はしどろもどろになってしまう。

「唯君、ご飯できたわよー」

 そんな彼を救うように由佳が朝食をプレートに乗せて持ってきてくれる。早苗さんには気をつけなくちゃなどと思いながら、唯は意識を料理へと向けた。






「参ったなあ」

 朝食を取ってから、しばらくは何とも無かったのだが、傷の所為か唯は熱が出てしまった。夕方にうとうとしたが、それだけでは治らず唯は完全にぐったりしている。

「しかし、何でここに寝ているんだろう?」

 唯が寝かせられているのは、自室のベッドではない。自室のベッドもキングサイズより少し大きいのでかなり大型なのだが、全員寝るのには狭いという理由で最近になって更に巨大なベッドを芽衣が購入したのだ。
 マンションの屋上に特注のベッドを入れるのには業者も難儀したのだが、京と雛菊が手伝って何とかなった。ベッドを吊り上げるロープをあっさりと引っ張っていく二人には、業者の人間も唖然としていたが。

「うーん、この傷と熱じゃセックスもできないし……芽衣さん達、わかってるのかな?」

 先ほどまで傍に居てかわるがわる看病していた芽衣達は、唯の頭に新しい冷却材を貼ると、何か準備があるということで出て行った。準備という言葉に唯は何か引っかかるものがある。

「芽衣さん達のことだから大丈夫だとは思うけど」

 彼女達とのセックスは多人数プレイが多いとはいえ、極めて真っ当なものだった。一人づつ抱いて、ときたまフェラチオされたり、胸でして貰っているぐらいだ。それなので、熱を出している病人に変なことはしないだろうと唯は予測していたのだが、

「唯様、お加減はいかがですか?」

 ドアを開けて入って来たのは素肌にエプロンという芽衣だった。唖然としている唯に構わず、ドヤドヤと裸エプロンの美女達が部屋に入ってくる。

「え、えーと、僕動けないんだけど」
「わかっていますわ。ですから、私達がお世話させて頂きますわ」

 脚つきのトレイを雛菊が唯の膝をまたぐように置く。トレイの上には様々な料理が乗っており、夕食としてはかなり豪華だった。

「わっ、凄い。これ食べていいの?」
「ええ、もちろん構いませんわ」
「それじゃ、頂きます」

 裸に近い美女達の格好は忘れて、唯はとりあえず料理に意識を集中した。こういうところで冷静さを保てるのは、唯も随分と性的なことに耐性がついてきたらしい。
 早速食べようとした唯だが、

「あれ、お箸は? 見当たらないんだけど……」
「ああ、それなら」

 全員が箸やナイフ、フォークをエプロンのポケットから取り出す。

「口移しで食べさせてあげますわ」
「ええっ!?」

 にっこりと笑う芽衣に唯は仰天する。かなり甘やかされている唯だが、口移しで料理を食べさせて貰うというのは初めてだ。

「悪いよ、そんなの」
「いや、私達がしたいんです。口移しを」
「とほほ、やっぱりそうなるよね」

 楓のきっぱりとした言葉に唯はため息をつく。口移しはどちらかというと彼女達がしたいのであって、この機会を狙っていたに違いない。

「わかりました。熱があるから、そんなに食べれないかもしれないけど」
「はい、唯様は楽にしていて下さい。唯様、何が食べたいですか?」
「……それじゃ、サラダから」

 円の質問に唯はサラダを選ぶ。色々と考えて一番無難なサラダから始めることにした。これなら直接食べさせてくれるとも思ったのだが、

「嬉しいですわ。サラダ担当は私ですので」

 芽衣が心底嬉しそうな顔をする。料理を運ぶ前にくじ引きで負けて、最後に残ったサラダに割り当てが決まったのだが、一番に指名されたのは芽衣だった。
 キャベツを上にかかっているマヨネーズごと芽衣は口に運び、もぐもぐと丹念に噛み砕く。そして、唯に口付けして優しく口内に送り込む。

「んんっ」

 よく噛み砕かれたサラダは唯が噛まなくても良く、食道にすっと流れ込む。唾液とマヨネーズが良く絡んで、キャベツは普段とまったく違う味覚になっている。裸エプロンの芽衣はポッと頬を紅く染めながら、口を離す。

「唯様、次は何になさいますか? 遠慮せずに次々と仰って下さい」
「じゃあ、焼肉で」
「うん、わかったわ。焼肉は私よ」

 京が焼肉を口に入れて噛み砕く。充分過ぎる程噛んだ後に、小皿に分けてあるタレを口に含んで、唯に口付けする。細かくなった肉がタレと共に口に流れ込み、濃厚な味を伝えてくる。

「ご、ご飯くれますか?」
「はい、少しお待ちを」

 雛菊がお茶碗を持ち上げて、白米を口に運ぶ。よくご飯を噛み締め、雛菊は唯へと口付けする。その顔は真っ赤だ。ドロドロになったご飯は唾液とよく混ざって、おかゆみたいだった。

「お水」
「まっかせてー」

 ミシェルは氷ごと水を口に含む。そして、ぬるくなる前に素早く唯の口へと流し込む。よもや、飲み物まで口移しで飲まされるとは唯は思って居なかった。
 器用に氷は口に残したままで、ミシェルは冷たい水を唯の口内へと送り込んでくる。キスで飲み込む水は普段とはまた違う感触だった。

「お味噌汁」
「はい、お任せ下さい」

 円は自分の口に味噌汁を流し込むと、すぐに唯の口へと運ぶ。ぬるくもなく、熱くもなく、ちょうど適温の味噌汁は素直に美味く感じられる。

「煮物」
「お姉さんに任せて」

 由佳が自分で作ったひじきの煮物を口に入れ、モグモグと歯でじっくりと噛む。にっこりと微笑みながら口移ししてもらうと、唯の方が照れてしまう。
 美女達はこんな調子で交互に唯へ料理を食べさせる。よく噛み砕かれた料理に、熱があるのに普段より多い量が胃の中へと収まっていく。

「そろそろ、お腹一杯、もういいよ」
「それじゃデザート」

 今まで何もしなかった楓が唯の隣へと座る。葡萄や林檎、苺を口に入れて静かにモグモグと噛み締め、熱烈なキスで果実を送り込んできた。楓の唇から入ってくるフルーツはミックスジュースのように混ざり合い、美味なハーモニーを舌に伝える。もう満腹感を感じているのに、唯はついつい楓から一杯デザートを食べさせて貰ってしまう。

「ありがとう。ごちそうさまでした」
「いえいえ、お粗末さまでした」

 ペコリと頭を下げる唯に、料理担当の由佳が返事して食事は終わった。夕食は終わったが、今までに無い奉仕に唯は心臓がまだバクバクしている。裸エプロンの美女に代わる代わる口移しで食べさせて貰ったのだから、無理も無い。

「あら、唯様……ちょっと興奮しちゃいました?」

 唯の股間部分の蒲団が押し上げられているのをミシェルが目ざとく見つける。

「本当だ」
「唯様の硬くなってる」
「あうっ」

 円と楓が唯の股間を優しく掴む。二人は嬉しそうにサワサワと硬くなったペニスを蒲団越しに撫でる。柔らかい布越しに触られて、唯の股間はますます硬くなってしまう。

「ちょっと、唯様に何してるの。唯様は病気なのよ」
「あ、うん」
「そうね」

 芽衣の叱る声に円と楓が手を引っ込める。手コキを辞めてくれて嬉しいのだが、唯としては何となく残念な気持ちもある。

「でも、どうするのよ。これ、立たせたままじゃかわいそうよ」

 京の言葉に全員が考え込む。唯はもう別に何もしてくれなくてもいいのだが、彼女達は主のペニスを勃たせたままでは不満らしい。ペニスが硬くなったら奉仕するという意識が、今までのセックスの経験から刷り込まれているのかもしれない。

「セックスは無理だからフェラチオはどう?」
「そうね、それが一番」
「フェラなら唯様の負担も少ないでしょうし」
「いや、僕は別にいいんだけど……」
「遠慮なさらないで下さい。それでは……」

 七人の美女は蒲団をめくって、中に潜り込む。唯は熱があるから蒲団を剥いだらまずいとの配慮からだ。円とミシェルの細い指がパジャマのズボンとトランクスをずり下げて、硬くなったモノを丁寧に出す。

「唯様の硬くなってるね」
「あーん、セックスできたらなあ。おマ○コ一杯突いて欲しいのに」
「ミシェル、自重しろ!」
「さてと、フェラチオするわけだけど……誰がするの?」

 しばらく静かだなと唯が思っていると、蒲団の下からジャンケンポンという声が聞こえる。

(ひ、人のオチンチンのことでジャンケンなんてしないでよー)

 唯の考えに構わず、ジャンケンの決着がついたらしく、ペニスが温かい感触に包まれる。円がフェラチオしているようだ。彼女はゆっくり頭を上下して、陰茎を湿った唇で擦る。口でソフトにシャフトを扱く動きが気持ちいい、腰が蕩けそうだ。唯は口での奉仕では咥えてもらって、唇でシャフトを扱いて貰うのが一番好きだった。

「はぁはぁ……あっ……」
「唯様、気持ちいいですか? ゆっくりしますから」

 円は生温かい唾液を垂らしながら、何度も唇を往復させる。上下に一定の動きしかしないが、唯は全く飽きない。円の体温を口内に含まれたペニスで感じる。ソフトなフェラチオを、このままずっと続けて欲しいくらいだ。

「ああっ、いいっ……あっ!」

 急に足を広げられ、睾丸が温かいモノに包まれる。京が玉を口に含み、舐めていた。既に配下の美女達に何度もフェラチオして貰っているが、睾丸を舐められるのは初めてかもしれない。

「ああっ! ちょっと……そ、それきつい」

 デリケートな部分を口の中で転がされるのは怖いが、それ以上に睾丸への愛撫は新鮮な快感だった。おまけに普段はぶっきらぼうな京が、こんな奉仕をしてくれているのだ。唯は二重の新鮮さに、快楽のボルテージが急上昇する。

「ああっ!」

ドビュル、ドビュ、ドビュ

 警告する間も無く、唯は思いっきり射精してしまった。円の口で熱い液体が飛び、咽喉奥に当たって口内粘膜や舌、歯などにべっとりと張り付いていく。

「けほっ、けほっ……」
「ごめん、苦しかった?」
「いや、大丈夫です。唯様の熱い……やっぱり熱があるせいですかね?」

 口内に出された精液をクチュクチュと口で味わいつつ、円が論評する。僅かに苦くてしょっぱい精液も、愛しい唯の出した物だと思えば媚薬のように感じてしまう。舌の上で転がすと、円の豊かな胸の奥がキュンとしてしまう。

「んっ……んん……」

 口の中に飛び散った白濁液を舌で掃除して飲み込んでいる円の代わりに、京がペロペロと陰茎をしゃぶって掃除する。それほど汚れていないのだが、丹念に舐めまわして京は奉仕していく。たちまち唯のペニスが京の唾液まみれになる。

「あっ……んむ……」

 尿道に残った残滓までも吸い取ると、恥ずかしいからか京は無言で唯のペニスから口を離した。僅かな精液の味が閉じた口の中に広がる。
 たっぷり掃除して貰った所為か、唯のペニスは収まるどころか、そそり立ったままだ。

「唯様、もう一回気持ち良くします」
「どうぞ、味わって下さい……」

 きっぱりと宣言する楓とは対照的に、雛菊は恥ずかしそうに唯に言う。二つの柔らかな美女の唇が唯の怒張にキスした。

「ああっ、ちょ、ちょっと待って……」

 唯の制止も聞かず、楓と雛菊の舌がシャフトに絡みつく。一つの舌で舐められるのも凄い心地よさだというのに、二つで舐められるのは背筋が凍えるような気持ち良さだ。二枚の舌は生き物のようにシャフトを這い回り、快感を作り出そうとする。

「んん……んむ……どうです、唯様?」
「あむ、ん、ん、んっ、いいですか?」

 二人の唇が交互に亀頭を咥える。それぞれ違う感触がするソフトな唇に、唯の胸がバクバクと強い鼓動を響かせる。二人に代わる代わる責められるのは、一人にずっと奉仕されるのとは随分違う体験だった。

「はむっ、むっ、あむ……」
「ん、ん、ん、んん……」

 雛菊が亀頭を口に挟み、ペニスの先端を唇を使って浅い動きで愛撫する。そして楓がシャフトにキスして、舌で舐めて竿を唾液まみれにしていく。その連携は、性に習熟しているような動きだ。

「あああっ、うくっ、はぁはぁ……」

 二人の淫猥なフェラチオに、唯は少女みたいに喘ぐことしかできない。

「ん、ん……んむっ」
「あむっ……んー、んっ、ぷはっ」

 唯が高まってくると、今度は二人交互に陰茎の根元まで口に含む。シャフトをズズッと湿った唇が滑り、上下に何度も往復する。二人が醸し出す刺激のハーモニーに唯は翻弄され続けた。

「あっ、出ちゃう……あふっ……」

ビュッ、ビュッ、ビュルル、ビュル

 唯は身体がビクリと跳ねると、勢い良く射精した。口の中にペニスを入れていた楓は、慌てることなく舌で精液を受け止め、口内に溜めていく。唯の射精が終わると、咽喉を鳴らして口内を満たした精液を嚥下していく。

「んっ……唯様のザーメン美味しい」
「楓、ずるい……」

 唯が出した精液を貰えなかった雛菊は唯の怒張を口に頬張る。

「ん、んんっ! んっんっ!」

 咽喉一杯までペニスを含むと、雛菊はチューチューとペニスを吸う。真空になった口がビリビリとした感触で唯のペニスを刺激する。

「あっ、ああっ、雛菊さん!」

 強烈なバキュームフェラに唯は腰が蕩けるような感覚だ。尿道に残った精液が吸い込まれるような感触で、雛菊の口に飲まれていく。唯の身体が耐え切れなくなった頃に、ようやく雛菊は口を離した。

「あらあら、雛菊ったら。あんまりオチンチンを乱暴に扱っちゃダメよ」
「う、うるさい。唯様、すみませんでした」

 ミシェルがからかうと、雛菊は真っ赤になりながらも、きっちりと唯に謝った。相変わらず律儀と言えば律儀だ。

「さて、それじゃ今日はスペシャルなフェラチオをしてあげますね」

 ここぞ本領発揮とばかりにミシェルがさも嬉しそうに言う。身体はダルイが、二回の射精を経てもなお唯のペニスは硬さを保っている。唯としても、もう少ししてもいいかなという気になっていた。

「唯様、うつ伏せになって腰を上げて頂けます?」

 ごろりと身体を転がし、唯は四つんばいに近い格好になった。

「失礼します」

 唯の腰をもう少し上げさせると、ミシェルは彼の股をくぐって体の下に顔を潜り込ませた。

「それじゃ、唯様。お好きにして下さい。とっても気持ちいいと思いますよ」

 ミシェルはパクリと口にペニスを含むと、そのままの姿勢を保つ。

「み、ミシェルさん?」

 唯はミシェルの温かな口の中にペニスを入れたまま、困惑してしまう。だがチロチロと尿道口を舐められると、つい腰が動いてしまう。

「あ、ああっ」

 ズルリとペニスが動いて、ミシェルのリップがシャフトを滑る。その心地よさに、唯は思わず軽く腰を揺すり始めた。

「ご、ごめん、ミシェルさん。ぼ、僕……」

 困惑する唯に、ミシェルは彼の背中を撫でて、大丈夫だとメッセージを送る。それが契機になったのか、唯の本能が理性を上回った。

「ああっ、ミシェルさん。ごめん、ごめんなさい」

 唯は腰を動かし、猛烈なピストン運動を始める。ミシェルの口をヴァギナに見立て、正常位と同じ要領で腰を振る。ペニスがジュブジュブと音を立てて口内を犯し、亀頭が咽喉の奥までを突いてしまう。それでもミシェルは唇をすぼめたまま、上手く唯のストロークを受け止めている。

「ミシェルさん、ミシェルさん……ああっ!」

 唯は上半身を完全に倒し、ミシェルの頭を掴む。金髪のウェーブヘアーに指を絡め、一心不乱に腰を振る。フェラチオされるときはいつも受身なので、自分本位で出来るイラマチオというものに唯は溺れてしまった。乱暴にミシェルを扱っているという罪悪感と同時に、何も言わずに奉仕してくれるミシェルの優しさが嬉しかった。

「ああっ、出すよ出すよ」

ドビュル、ドビュルルルル、ドビュッ

 ミシェルの頭を引き寄せて、唯は思いっきり射精した。ガクガクと腰を震わせ、咽喉の奥にペニスを擦り付けつつ、尿道は精液を吐き出す。恐ろしく気持ちいい体験に、唯は震える。

「ああっ……ごめん、ミシェルさん」

 出すものを出すと、唯の意識がクリアに戻ってくる。自分がした行為に気づいて、慌ててミシェルを解放した。

「うふふ、唯様ったら、随分と気に入ったようですね。こんなにたっぷり出して……嬉しいですわ」

 唯が離れると、ミシェルはクスクス笑いながら言う。あれほど乱暴に咽喉を突かれたのに、本人はいたって平気でケロリとしている。

「ん、美味しい。やっぱり唯様の精液っていいわ」

 咽喉の奥にこびりついた精液を器用に飲み込み、ミシェルは軽く論評する。さすがは痴女と恐れられただけのことはあった。

「さてと、いよいよお姉さんの出番ね」
「ゆ、由佳さん!」

 ペニスを由佳に軽く握られ、唯は身を硬くする。

「私も一緒にご奉仕しますわ」

 芽衣も唯の太ももを撫でる。二人の美女に触られて、唯のペニスは正直に反応してしまう。

「じゃ、じゃあよろしくお願いします」
「それじゃ、芽衣とのフェラチオコンビネーション見せるわよ」
「……何よそれ」

 珍しく熱血する由佳に、芽衣はポカンと呆れてしまう。
 だが由佳がペニスを口に含むと、芽衣もそれに合わせて上手い連携で太ももの裏を舐め始める。

「ああっ!」

 由佳は横になった唯のペニスを口に含み、舌で掃くように舐める。芽衣は太ももに舌を這わせ、ゾロリと舐め上げてあちこちに唾液を擦りつけていく。

「ううっ……なんかこれって……」

 確かに由佳と芽衣のコンビネーションは抜群だった。前から後ろから責められると、身体が総毛立つような快感がある。

「んうっ……んっ、んっ……」
「ん……唯様、いかがですか?」

 由佳は亀頭を咥えると、親指と人差し指、中指でシャフトを挟み、擦りたてる。極めてオーソドックスなフェラチオだが、だからこそ効果的で唯の気持ちを昂ぶらせていく。人間のペニスは指で擦られると、随分脆いものだ。

「ちょ、ちょっと芽衣さん!?」

 太ももから芽衣の舌が尻たぶにまでツツッと上がっていく。そして、そのまま尻の間に舌が侵入してきた。

「ひっ! め、芽衣さんっ!」
「あら、どうかされましたか?」
「そ、そんなとこ汚……ああっ!」

 くいっと尻を広げられ、芽衣の舌先がアナルをツンツンと突付く。今まで感じたことのない感覚に、胸に熱が溜まるような感覚が唯を襲う。

「や、やめて。汚いよ。ああっ!」
「大丈夫ですわ。唯様の体で汚いところなんてありませんわ」

 アナルをペロペロと舐められ、総毛立つような強烈な感覚が唯を襲う。気持ちいいのか、気持ち悪いのかも唯には判らない。だが、その恐ろしく強い感覚に、身体が弾けそうになっていく。

「ふわっ……だめ、だめだって……あ、あうう」

 前から心地良い由佳のフェラチオ、後ろから芽衣の強烈なアナル舐め。二つの奉仕が良いコンビネーションを醸し出し、唯に強烈な反応を与えた。

「うわーっ!」

ビュルルルルルルッ

 ビクンと大きく身体が跳ね、思いっきり精液をぶちまけた。ガクガクと揺れる唯の腰を固定して、芽衣は執拗にアナルを舐める。それに呼応するかのようにペニスは絶え間なく何度も射精し、精を吐き出す。

「ん、んんっ!? あうっ」

 口一杯に精子が詰まった粘液を注ぎ込まれ、堪らず由佳が口をペニスから離す。そんな由佳に容赦無く尿道から精液が飛び、べったりと顔に張り付く。

「ああ……」

 今までに体験したことの無いようなきつい感覚に、唯はぐったりと放心してしまう。よもやお尻の穴を舐められるとは思ってもいなかった。アナル舐めというプレイは少年の想像を遥かに超えていた。女性が感じる快感に近いものかもしれない。

「唯様、大丈夫ですか? ちょっと刺激が強すぎましたか?」
「うん、ちょっとね……」
「そうでしたか、悪いことをしましたわ」

 唯の感想に芽衣はバツの悪そうな顔をする。

「でも、ちょっと驚いただけだから。気にしないで」
「はい、わかりました」

 荒く息をつく唯を見て、全員が蒲団から顔を出す。もう唯も充分に満足したと見たのだが……。

「みんな、もう少しフェラチオしてくれる? 凄く気持ち良かったから……」

 恥らうように言う唯に、全員が目を丸くする。唯が底なしなのは知っているが、熱があってもなお性欲が衰えてないようだった。

「でも、大丈夫? 体に悪いかもしれないし」
「こんなに興奮してたら、眠れないよ」

 心配そうな由佳に、唯はとろんとした熱い視線を送る。

「仕方ないわね」
「それじゃ、満足するまでたっぷりとしちゃいますわ」

 唯が欲求不満だと見るや、京とミシェルが再び蒲団の下へと潜る。

「では、たっぷりとご奉仕させて頂きますわ」
「唯様のためなら何度でも」

 芽衣が嬉しそうに微笑む、楓はいつも通り無表情に頷く。いつも唯に可愛がって貰っているため、こういう風にお返しできるのが芽衣達も嬉しいのだ。雛菊と由佳、円もすぐに蒲団の下へと潜っていく。

「ああっ……凄いよ……」

 七人の美女に舐められ、咥えられ、擦られて唯はめくるめく快楽の園へと導かれていく。自分は凄く幸せ者なのだなと、唯は改めて認識させられた。






 それから数時間、唯の股間は全員の口内がガビガビになってようやく治まった。唯の熱はすっかり下がり、彼が安らかに眠りに落ちたので芽衣達は満足したのだが、

「顎が痛い……」
「楽しかったけど、疲れたわ」
「唯様って、底知らずなのね。すぐに射精してるのに、全然治まらないし」
「唯様の精液美味しいんだけど……お腹がタプタプだわ」
「胃の中一杯って感じ。もう夕飯いらないわ」
「まだ咽喉の奥に絡まってるような感じ」
「やっぱりセックスしないとあんまり満足してくれないのかしら?」

 元はタフなはずの七人はぐったりしながら、疲れた足取りで自室へと戻っていった。







    


























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