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「ふわあ……おはよう」

 寝惚け眼で京がリビングへと顔を出す。だがおはようと返事をした人間の中に、唯の姿が見えず、京はキョロキョロと周囲を見回した。

「あれ、唯は?」
「友人と約束があるそうだ。とっくに出て行ったぞ」
「何だ、つまらないわね」

 雑誌を読んでいたエリザヴェータの返答に、京は心底がっかりしたようにため息をついた。京はふてくされたようにソファにどっかりと腰を下ろす。

「何よ、昨日も一日中遊んで貰って、まだ遊び足りないわけ?」
「べ、別に……こっちが遊んでやってるだけよ」

 呆れたような麗の言葉に、京が少しむきになって答える。夏休みに入ってから、家に居る唯に対し、京は行動を共にすることが非常に多い。

「早苗もいないみたいだけど?」
「部屋じゃないの」
「早苗は出掛けましたよ」

 京と麗の会話に割り込みながら、静香が朝食が乗っているトレイをソファーの前にあるテーブルへと乗せる。

「何でも友達と遊ぶそうです」
「静香は行かないのか?」
「邪魔しちゃ悪いですから」

 唯と関係があるとは言え、恋人同士の早苗と静香が別行動していることに、麗が首を捻る。だが、静香は早苗の現世での友人達にどうやら遠慮しているようだ。

「早苗もたまにはこんな日があってもいいと思うんです」

 静香はそう言うと、クスリと軽く笑いを零す。その意味深な仕草に、他のガーディアン達は怪訝そうに彼女を見つめた。







 ガーディアンの恋人達と終始べったりと思われがちな唯だが、実際には友やいとこの正と過ごすことも多い。芽衣が唯の友人達を尊重しているのもあり、他の者も彼が友人と共にある必要性を理解しているからでもある。
 夏のむんむんとした熱気のむせ返る中、唯は地下鉄への階段を駆け下りた。勢いがついたまま、彼は改札近くのポスターへと真っ直ぐに向かう。

「お待たせ……」

 竜太、慎吾、可奈、このえの四人との待ち合わせ場所に来た唯の顔が、不思議そうに一人の人物に向けられる。竜太達四人はいつも通りなのだが、待ち合わせ場所には早苗の姿もあった。タンクトップに薄いパーカー、それにショートスカートを履いた格好は、普段とは少し違って見える。

「麻生君、どうしたの?」
「いや、何で早苗さんがいるのかなって……」

 このえに尋ねられた唯は、困惑したような声で答える。

「ごめん、唯君。実はケータイで話しているのを聞いて、面白そうだから思わず来ちゃった」
「ああ、そうだったんだ」
「悪いとは思ったんだけど、みんなはいいって言ってくれたから」

 唯が竜太と慎吾を見ると、二人はニヤニヤと彼を見ている。同時に可奈とこのえもニコニコとした笑顔で、まるで何かを「分かっている」と言わんばかりの態度だった。唯の友人達は、彼に気を利かせたつもりなのだろう。

「さあ、行こうか」
「ちょ、ちょっと……早苗さん!」

 唯と腕を組んで堂々と引っ張る早苗に、少年は僅かに動揺してしまう。だが彼女は唯の友人達がくれたチャンスを、堂々と生かすつもりのようだ。大きく自己主張している胸をグイグイ押し付けられて、唯は友人の手前もあって困ってしまう。しかし唯は、好意をストレートに表す早苗の行動に、腕を無理に解くようなことは出来なかった。
 切符を買い、唯達は地下鉄のプラットホームへと降りる。明らかに年上のガールフレンドは、ホームの電車待ちをしている人間の注意を引くようで、唯にもちらちらとこちらを見る視線がわかった。六人は間も無くやって来た電車の中へと乗り込んだ。
 電車へと乗り込むと、早苗は少年の腕を離して可奈とこのえの方へと向かう。どうやら唯が知らぬ間に、目配せで呼ばれていたようだ。唯は竜太と慎吾に顔を向けると、彼らだけに聞こえるように囁いた。

「急に早苗さんが来ちゃって悪いね」
「いやいや、気にするなって」

 済まなそうな口調の唯に反して、竜太は明るく返事する。

「彼女が来てくれて、逆に嬉しいくらいだよ。いつも同じメンバーっていうのも芸が無いからな」
「うんうん」
「そう?」
「それに麻生の彼女だけ、仲間外れってわけにはいかないだろう」
「えっ!?」

 竜太の思わぬ言葉に唯は驚いて聞き返す。

「惚けなくっていいって。おまえの彼女なんだろう?」
「えっと……」
「じゃなければ、普通は腕とか組まないって」

 全てわかっているという顔をして、ニヤニヤしている竜太達に対して唯は困ってしまった。早苗がガールフレンドであるという彼らの推測は正しい。だがここで早苗が恋人だと宣言してしまっては、京や円など他のガーディアン達に悪いと唯は感じるのだ。それでも本当のことを告げて、十二人も恋人が居るなどと言っても、とりあってくれないだろう。

「もうやっちゃったのか?」
「あのね……」
「で、どうなんだ?」

 二人にせっつかれるが、唯としてはどう回答していいかわからない。嘘をつくのは簡単だが、安易な嘘は友人や恋人達には悪いと唯は思っているのだ。

「ノーコメント」
「えー!?」

 唯の回答拒否という事態に、二人の悪友達は驚きの声をあげる。

「何でだよ」
「この件に関しては、ノーコメントとさせてもらいます」
「照れること無いのに」

 説得して言質をとろうとする竜太と慎吾に対し、唯はスキャンダルに曝された国会議員のように、のらりくらりとかわす。竜太と慎吾は唯のおどけた態度に、面白がって追及するが、彼は巧みに惚けて回避する。
 中学生という年相応にじゃれている男子達を見ながら、可奈が早苗に問いかける。

「土田さんは麻生君と付き合っているんですか?」
「うーんとね、詳しくは説明できないんだけど……」

 早苗は一旦言葉を区切り、軽く首を傾げるポーズを取る。

「デートをいっぱいするし、家の中でも仲はいいんだけど、実は大っぴらに付き合っているって公言できなくてね」
「どうしてです?」
「ほら、うちって女性がいっぱいいるでしょ。他にも唯君を狙っているのが居るんだよ」

 早苗はこのえに説明して、意味あり気にウィンクする。

「それって……麗ちゃんのことですか?」

 学校へと唯を訪ねてきたツインテールの美少女を思い出し、このえが聞く。

「うーん、彼女もそうだけど、それ以外にも居るんだよね」
「麻生君って、そんなにモテるんですか?」

 驚く可奈に対し、早苗は微笑する。可奈は以前、唯の同居人達と一緒にプールへと行ったときに、唯が過剰なスキンシップを受けていたことを思い出す。

「私の仲間うちでは、凄いモテるよ。でも他の人に対しては、ダメだろうね」
「どうしてですか?」
「ふっふっふ、ボク達って嫉妬深いから、他の人にモテるのって許せないんだよね」

 わざとニンマリと笑う早苗に対して、可奈とこのえは大きく目を見開く。実は早苗の言っていることは必ずしも正しくない。嫉妬深いと言った早苗自身は、あまりジェラシーを強く感じる方では無く、現に静香を唯に抱いて貰っていたりする。だが他のガーディアン達はヤキモチ焼きが多いのは事実で、楓や麗などは他の女が唯に色目を使ったら、何をしでかすかわからないような性格をしている。

「そ、そうですか……」
「土田さんは麻生君の何処がいいんですか?」

 軽くたじろぐ可奈と対照的に、このえは興味深そうに早苗に聞く。早苗は軽く視線を上げると、若干考え込む。

「うーん、包容力のあるところかな」
「包容力……ですか?」
「同級生の二人にはわからないだろうけど、私達には凄い頼り甲斐のある男の子なんだよ」

 そう言って早苗は微笑む。それを見て、このえは早苗の言うことが、何とはなく理解できたようだ。だが可奈には、唯が早苗のような落ち着いている年上の女性をリードしている姿は想像し辛かった。

「ほら、吐け、吐くのだ」
「お、お許し下さい、お代官様」

 竜太にヘッドロックされて、唯が楽しそうに悲鳴をあげている。そのような姿からは、包容力があるとは可奈にはとても想像がつかなかった。

「ほらほら、竜太も麻生君も電車の中で暴れないの」
「ご、ごめん……ぐえ」
「ふふふ、逃げられると思うなよ」







 唯と早苗達は地下鉄で数駅先のホームで、電車から降りた。今日の目的は、カラオケで遊ぶということになっていた。唄い飽きたら、繁華街でゲーセンやショッピングに繰り出そうと竜太達は漠然と考えている。地下鉄の構内を出ると、目当てのカラオケ店があるのか、一向は迷わずに道を歩き始める。徒歩で十分もしないうちに辿りついたのは、ビルのほとんどをカラオケ店が占めている建物であった。

「あー、ここなんだ。ボク、ここ来たことあるよ」

 可奈がフロントで受付を済ませている間に、早苗が唯へとニコニコしながら喋りかける。駅からこの場に来る間、唯の手を取り、早苗は片手を繋いでいた。だが唯も彼の友人達も特に何も言わなかった。唯は自然に振舞った方が、無用な詮索を免れると思ったのだが、友人達は唯と早苗が付き合っているので、ごく当たり前であると受け取っただけであった。
 受付を済ませると、六人は狭いエレベーターへと乗り込む。さり気なく早苗は唯の腰へと手を回して、少年の体を引き寄せる。少々露骨じゃないかと唯は思い、ちらりと周囲を見ると、竜太と慎吾がニヤニヤしながら自分を見ている。
 エレベーターを降りてから廊下を抜けて、カラオケボックスの室内に入ると、早苗はさも当然のように唯の隣へと座る。ささいなことなのに、唯は少し心臓の鼓動が早くなってしまう。

「さーて、今日は久々のカラオケだから、ガンガン行くわよ!」
「はいはい、つきあってやるよ」

 可奈の意気込みに、竜太が適当に答えて、カラオケは始まった。
 唯達のグループは、カラオケに来るとそれぞれが違うジャンルを通常は唄う。可奈は流行のJ−POPが好きで、常に最新の流行曲を歌う。だが彼女の親友であるこのえは演歌を好み、時たまグループの誰も知らないような古い曲を歌い上げる。竜太はテクノが好きで、持ち歌が大体決まっており、慎吾は笑いを取るために怪しい歌詞の歌を熱唱する。唯は国内のメジャーな曲を以前は歌っていたが、最近では洋楽の良く知られた曲へと切り替えていた。音を操る能力が開花してからは、唯は歌手の声を完全にコピーすることが出来るようになった。どんなに難しい曲でもスラスラと完全にコピーできるので、それが彼には楽しくてしょうがないのだ。友人達もそれを面白がって、唯が歌う曲を知っていると、しきりに褒めてくれる。早苗は自分の番では邦楽の有名な曲などを歌い、唯の番には彼の声に聞き入っていた。しかし、しばらくして早苗が曲を入力する番で、不意にリモコンを入力する手を止めた。

「唯君、ボクとデュエットしない?」
「デュエット?」
「曲はわかるやつを入れるからさ」

 早苗はカップルが歌う定番の曲を入力する。仕方ないとばかりに、唯はその歌を唄っている歌手の唄い方を思い出そうとするが、

「唯君、今回は唯君の声で歌ってくれない? 単純なコピーじゃなくて」
「僕の声で?」

 耳元で囁いた早苗のリクエストに、唯は目をぱちくりさせる。そういえば、唯は声色を完全にコピーできるのがひたすら面白くて、まだ自分の声で歌ったことは無かった。
 久々に素で歌うので上手く歌えるかな、と唯は多少不安に思いながらも曲の順番が来たら、彼はマイクを手に取る。曲は恋人同士が思いを伝えあうもので、唯は早苗がリクエストしたのだから、何らかの意味があるのだろうと受け止めた。少年は息を軽く吐くと、本気で歌うことに決めた。伴奏が終わる。

「あの日、僕は君に出会わなかったらー……」

 出だしから唯は気持ちを込めて、自分がこういう風に歌うのがベストではないかと思う方法で歌唱する。歌詞はありきたりで、唯としてはあまり魅力的なものではない。だがその分、唯は自分に重ねるようにして、気持ちを込めて早苗を想いながら歌う。
 戦いの中で初めて会ったとき、静香を抱いて欲しいと言われたとき、早苗を初めて抱いたとき、日々を共に過ごすとき、ガーディアンの配下として共に戦ったとき。思い出に浮かぶのは、明るく思いやりがあり、あまり嫉妬などしない寛容な心で静香と自分を等しく愛してくれている、少しだけ年上な女性の笑顔だ。愛している、自分に心を許してくれたときから、ずっと……。
 早苗は歌い慣れているのか、彼女らしい溌剌(はつらつ)さで唯とデュエットする。だがすぐに声が小さくなり、途中でほとんど声が出なくなってしまった。驚いた唯は早苗の声を能力でコピーして流し、何とか曲の終わりまで繋げる。曲が終わると、友人達は拍手と賞賛の声をあげてくれた。

「うおー、すげー!」
「二人とも凄いよ!」
「うん、ありがとう」

 何が良かったのかイマイチわからない唯は、曖昧な笑みを浮かべるだけで、素直に褒め言葉を受け入れられない。それより何だか苦しそうな早苗が心配だった。自分の能力により聞こえてくる彼女の心拍が、やけに速い。

「ゆ、唯君! トイレ何処だかわかる!?」

 早苗はそう言うといきなり立ち上がる。顔を真っ赤にして大きな声を出した早苗に、唯は目をパチクリさせる。

「う、うん。わかるけど……」
「ちょっと連れて行ってくれる?」

 座っている唯の手を取ると、少年がギョッとするような力強さで、早苗は彼を引き上げる。他の同席者に一言も残さず、早苗は唯を引っ張って廊下へと出た。

「さ、早苗さん?」

 早苗は唯の手を引きながら、迷わずトイレへと突き進む。早苗は男子トイレの前に来ると、ドアの中に唯を押し込み、そのまま彼を個室の中へと連れ込んだ。

「早苗さん、ま、まずいよ!」
「唯君、ずるい。あんな凄い歌声、隠し持っているなんて……」

 早苗は唯を便座の上に押し倒すと、膝を床につけて少年に抱きつく。

「ボク、最初はびっくりして、でもすぐに嬉しくなって……あんな気持ちが心に流れ込む歌を唄われたら、誰だってどうにかなっちゃうよ」

 早苗は体重を傾けて、唯の胸に乳房の巨大な膨らみを押し付ける。

「えっ!? どういうこと?」
「唯君の気持ちがね、心に入って来てね、身体が熱くなって頭がボーっとしちゃった。何でだろう……唯君の力が関係してるのかな?」

 早苗の説明に、唯は驚いた。唯はやろうと思えば、耳に一言囁くだけでガーディアン達を欲情させることだってできる。だが先ほど歌を唄ったときには、綺麗に声を出そうと能力は使ったが、早苗の情欲に火をつけようとはいささかも思っていなかった。もしかしたら自分の想いを表現しようとしたのが、そのまま伝わってしまったのかもしれない。
 などと考えている間に、唯は自分のペニスを弄る感触に意識を引き戻された。

「さ、早苗さん、まずいよ。すぐに戻らないと、怪しまれちゃうよ」
「大丈夫、ボクが何とかごまかすから……ね」

 ズボンからペニスを取り出し、上目遣いでねだってくる早苗に、唯はつい流されてしまいそうになる。毎晩美女とベッドインしているので、性欲は満たされているはずなのだが、このように欲情しきったボーイッシュな美少女に迫られては断わるのは難しいのだろう。それに早苗ならば上手い言い訳を考えてくれそうな気がするのだ。

「早苗さん……」

 難しく考えるのを止め、唯は恋人の期待に応えることにした。早苗の背に手を回し、少年は年上の少女を引き寄せて強く唇を奪う。

「ん、ちゅ、ん、んっ、んん……」

 既に欲情しきっていた早苗は、キスだけで腰が砕けそうになってしまう。目を閉じて愛する者の接吻を受けつつ、早苗はお礼とばかりに唯のペニスを片手で掴み、優しく握って圧力を加える。

「唯君のキスだけで、胸が痛いくらいドキドキする……」

 唇を離すと、早苗は目を潤ませつつ、唯が驚くほど甘い声を出す。早苗は唯のシャフトを柔らかく指で擦り上げつつ、空いている手で唯の着ているシャツのボタンを器用に外す。

「唯君……」

 タンクトップを捲り上げてブラジャーのフロントホックを外し、胸を早苗は突き出す。唯は何も言わず、差し出された大きくたわわに実った乳房に口をつける。

「あっ、あっ……」

 乳首を軽く吸われるだけで、早苗は身体の芯が燃え上がるような熱い感覚を、自身の奥で受け取る。吸われているのは胸の先端なのに、膣の最奥がジンジンするようなのだ。

「はぁん、あ、あぁ、唯くん……」

 胸をチュパチュパと軽く吸い出されるだけで、早苗は聞いているだけで勃起してしまいそうな甘い嬌声をあげる。唯の耳は能力によって、早苗の心音を聞き取っており、その強さから既に彼女が相当興奮しているのが分かった。唯は刺激を抑えて優しく早苗の胸を吸うが、逆にソフトな愛撫が呼び水となって、彼女の呼吸がますます荒くなっていく。

「はぁはぁ……ゆ、唯くん……だめだよぉ」

 喘ぐように息をつきながら、早苗の体は汗でしっとりと濡れる。まだ五分ほどしか早苗は愛撫されていないというのに、身体の芯は熱く燃え上がっていた。彼女は自らの体重が支えきれないように腰が落ちてくる。

「ごめん、唯くん……ボク、もう我慢できないよ……あそこが凄い熱くて」

 早苗は力が入らない腰を何とか上げて、ショーツを脱ぎ捨てる。青と白のストライプで彩られた可愛らしい勝負パンツのデルタ地帯はぐっしょりと濡れており、早苗のヴァギナから、とろりと糸が引く。

「唯くん、切ないよ……入れて。唯くんを感じたいの」
「うん、いいよ」

 唯のキスを頬に受け、それをオーケーのサインと見た早苗は、彼の肉棒を細い指で軽く摘む。既に固くなった唯のペニスは熱を帯びており、指先から伝わるその感触に早苗は熱い吐息を漏らす。

「んっ……」

 早苗はペニスの先端を膣口に導くと、ゆっくりと腰を下ろす。早苗は数え切れないほど唯の肉棒を受け入れてきた。だが少女の膣は唯のペニスを何度味わっても、その都度に快感が増している。挿入されているのは自分の股間なのに、首の裏まで鈍い感覚がズシズシと響くように早苗は感じる。

「唯くん……あ、あん……やん。お、オチンチンが、中に入って……」

 早苗は無意識のうちに、腰を振り始めていた。普段は年上として唯に対して余裕のある早苗も、抱かれているときにはその余裕も吹き飛んでしまう。

「んっ、ん、あ、あぁ、あん……はぁ、あ、ひゃん……」

 早苗は漏れ出る甘い声を、片手で口を押さえて必死に抑えようとする。唯のペニスがまるで巨大な杭のような錯覚を早苗は覚える。軽く動かれるだけで、早苗の意識は気持ち良さでグルグルになってしまう。

「うっ、あ、あ、あぁ、あん、あっ……す、凄い」

 頭が沸騰しそうなくらい熱くなり、快感のパルスで早苗は徐々に意識がオーバーヒートしていく。唄の影響で身体が火照っていた所為か、身体が恐ろしく敏感になっており、下手するとすぐにエクスタシーに達してしまいそうだ。

「ん、あんっ、唯くん……あ、凄い……愛してる……好き、あ、あ」
「僕も早苗さんのこと好きだよ」

 唯も普段より感じている早苗に、軽く興奮していた。目を虚ろにして、半開きの口から愉悦の声を上げるボーイッシュな少女の姿は、男心をくすぐらずにはいられない。

「んっ、ん、ん……」
「ん、早苗さん」

 唯が舌を絡めると、早苗は多量の生温かい唾液を流し込んで来る。唯はお返しとばかりに自分のものと混ぜた唾液を彼女に戻し、互いの舌でぬくもりを感じ合う。その間にも、早苗の快感はどんどんと高まってくる。

「あ、だ、だめ……も、もう我慢できない」
「いっちゃう?」
「う、うん。あ、あっ、あぁ……あぁ!」

 あまりにも早いエクスタシーに、早苗は必死に抗って止めようとする。それを感じ取った唯は、自分から逆に精を放った。

どびゅ、びゅ、びゅく、びゅるるるるる

「あ、あん、唯くん! い、いく、く、くぅぅぅ!」

 ビクビクと暴れる唯のペニスから感じる感触に、早苗も後を追って絶頂へと達する。子宮の奥から響くように熱が広がり、脳が焼けるような感覚が伝わってくる。

「ん、んんっ、あ、ああぁ……」

 唯は収縮を繰り返す早苗の膣内を愉しむ。少年のペニスはきゅうきゅうと締め付ける媚肉に導かれるように射精を繰り返し、早苗の子宮を精子で満たしていく。

「熱い……お腹に感じるよ……」

 早苗が荒い息をつきつつ、かすれた声で囁く。胎内に流し込まれた異物の感触に、酔いしれているかのようだ。

「早苗さん、満足した?」
「ん……」

 唯が早苗の短めに切られた髪をかき上げて、頬にキスをする。早苗は軽く身を震わし、ぼんやりと唯を見つめ返す。

「ごめん、何だかボク、収まらない。もう一回してもらっていい?」
「うん、構わないよ」

 焦点が若干合っていない瞳のまま、甘えた声を出す早苗の唇に唯は優しく口付けする。早苗は唯にしがみつくように抱きつき、唯も彼女を支えるように抱き締め返す。互いに密着したまま、二人は小刻みに動き始めた。

「ん、んぅ、あ、あ……やん……ん、あん」

 絶頂の余韻覚めやらぬ早苗は、膣内に伝わる振動が強烈な衝撃に感じられる。膣内の粘膜は敏感すぎるくらいペニスの動きを感じ取り、苦しいくらいなのに、早苗の心は唯の体を求めて止まらない。

「はぁ、あぁっ! あ、あ、あぁん! 唯くん……」

 早苗はプライベートではない、トイレという公共の場所なのも忘れて大声をあげる。括約筋は痛いくらいに唯の肉棒を咥え込み、カリが膣壁を強く擦る度に、早苗の身体につま先まで痺れるくらいの快感が奔る。

「や、あっ、あん、アソコが……あ、壊れちゃうぅ」

 早苗は快楽を緩和しようと、恋人にしがみついて耐えようとする。女性らしい柔らかな身体を押し付けてくる早苗を、唯は下から小刻みに突き上げる。

「ん、んく、あっ、あ、しびれちゃう」

 子宮口から広がる感触に、早苗は体をピクピクと痙攣させてしまう。肉体はあっという間に高まり、細身の全身から汗が噴き出始める。

「ん、んう、ん、んっ……」

 人差し指を噛んで早苗は必死に声を押し殺す。油断するとすぐにでもエクスタシーに達してしまいそうだ。だが我慢をするのも刻一刻と難しくなっていく。

「だ、だめぇ、もういく。いっちゃうよ。ボク、いっちゃう」

 早苗が一オクターブ高い声を発して、体を震わせる。シャフトを膣壁がキュウキュウと締め付け、精液を奥へと導こうと脈動する。あまりにタイミングが早いため、唯は焦って無理やり腰を動かし、一気に己の快感を高めようとする。

「やっ、あ、あん、ゆ、唯くん……やめ……ああっ」

 激しく肉棒に突かれて、早苗は切れ切れに悲鳴をあげる。思考がホワイトアウトし、唯にしがみつきながら全身の筋肉が硬直する。

「い、いくっーう、うっ、う……」
「僕もいくよ」

びゅびゅびゅ、どびゅるるるる、びゅる

 膣壁が収縮すると同時に、早苗の中へと精が解き放たれる。それと共に背骨を突き抜けるように快感が疾り、早苗の身体がビクッと痙攣を幾度か繰り返す。熱く火照った早苗の身体が、完全に絶頂へと達したことが唯にも分かった。

「あ、う、うぅ……ああっ……」

 長いこと痙攣し、ようやく早苗は体の緊張を解く。筋肉を弛緩させ、繋がったまま早苗は唯へと寄りかかる。

「唯……くん……」

 肩に頭を寄りかからせ、早苗は弱々しくため息をつく。体の脱力感が酷い。そんな早苗の髪を唯は優しく梳いてやる。冷房の無い、熱気の篭るトイレで二人は、しばらく抱き合ったままでいた。

「ごめんね、唯君。我がまま言って」

 早苗がポツリと呟く。その頬はうっすらと朱が差しており、随分と照れているようだ。

「別に構わないよ、気にしないで」

 唯が背中をポンポンと叩くと、早苗はギュッと抱きついてくる。

「でも、どうやって言い訳しようか」
「あっ……うーん、どうしよう?」

 苦笑いを浮かべる唯に対し、早苗はクスクスと笑う。まるで彼女はこの状況を愉しんでいるかのようだ。

「大丈夫大丈夫。ボクが何とかしてあげるからさ」
「本当に?」

 既にトイレに行っていただけだと、言い張るには説得力が無い程に、時間が経過している。心配する唯を余所に、早苗はニンマリと笑ってみせる。

「心配しないでいいよ、任せといて」







「何処に行っていたんだ?」

 唯がカラオケルームに戻ると、開口一番に竜太が尋ねる。ギクリとして唯が見渡すと、他の三人も不思議そうに唯をみている。時計の針を見ると、部屋を出たときから四十分以上経っていたので、無理もない。

「もちろん、トイレだよ」

 答えに詰まった唯に代わって、早苗が明るく答える。

「トイレって……こんなに長く?」
「うん。トイレの中でエッチなことしてた」

 早苗の一言に、四人がギョッとした表情で彼女を見やる。唯も、いきなり本当のことを告げた年上の彼女に対し、唖然としている。

「冗談冗談。ちょっと大事な話をしてただけだよ」

 訂正してみせた早苗に、全員が息を吐く。

「驚かせないで下さいよ、土田先輩」
「あはは、ごめんごめん」

 慎吾の一言に早苗は笑って、片手で拝むような仕草をして謝る。唯も心底ほっとしたように肩の力を抜く。よく考えれば真実を冗談にしてしまうのは、いい手だ。黙っていれば、四人もこれ以上は深く詮索しないだろう。

「でも、大事な話って、何なんですか?」
「ごめーん、それはちょっと秘密」

 可奈の質問に、早苗は明るい調子ではぐらかす。実際には大事な話などしていないのだ。だが、それだけで可奈とこのえは納得したように引き下がった。
 その後、三十分ほど全員が思い思いの曲を唄ったが、時間が来たのでカラオケ店から出ることとなった。割り前勘定で会計を済ませて、出口から出たところで唯は可奈とこのえに、道の端に引っ張っていかれた。

「麻生君、ここから別行動にしない?」
「えっ!?」
「ほら、せっかく土田さんと一緒なんだからさ」

 早苗を目で示しながら、可奈が囁く。

「うーん……」
「私達とはいつでも遊べますし、たまには二人だけで遊んできて下さい」

 正直に言えば、今日は久々に友人達と会うのが目的で、早苗とは毎日のように顔を合わせているのだ。ただよく考えてみれば早苗と二人きりで出かけたことは余り無く、静香や他のガーディアンを交えてデートすることが多い。可奈とこのえが何かを感じて、早苗を応援するために提案しているのは明白だが、ここは素直に好意に甘えることにした。

「わかった。早苗さんに聞いてみるよ」
「うん」

 早苗に話すと、彼女も遠慮せずに別行動を取るのに同意する。にこやかな可奈とこのえと、ニヤニヤしている竜太と慎吾に別れを告げて、唯と早苗は別の場所へと行くことにした。

「お腹空いたな。唯君、まずはハンバーガーでも食べない?」
「うん、そうしようか」

 ごく自然に唯は早苗と腕を組み、カップルは繁華街を歩き出した。







 それは当初、何の問題も無い事件かに見えた。警視庁組織犯罪対策部の上島と堺はその日、とある空き事務所へとやって来た。麻薬を売りさばいていた容疑で逮捕した暴力団の末端構成員(上島曰く、ヤクザのチンピラ)が吐いた情報によると、ここで安く麻薬を売っているグループが居るというのだ。逮捕したときに上島が拳で歯を一本へし折った相手なので、情報源としてはすこぶるうさん臭い。だが聞いたからには、刑事としては確認せざるを得ない。

「本当にこんな場所でヤク売ってるのかよ」

 想像していたより遥かに小奇麗なビルに、上島は疑わしそうに呟く。

「知らねーよ。ボヤく暇があったら、とっとと調べて帰ろうぜ」
「そうだな。サテンでサボるか」

 部屋の扉を上島がノックすると、驚いたことにドアがすぐ内側から開いた。誰も居ない、もしくは普通の会社員などが出てくるのを想像していた上島と堺は、出て来たのが人相の悪い紫のスーツを着た男だったので、思わず顔を見合わせた。男は扉の前に立っていたのが、凶暴そうなアロハシャツを着た男と、目つきの鋭いスーツを着た男だったので、すぐに中へと通した。中には五人ほど男が居て、二人に向かってジロリと視線を飛ばす。部屋の中には、椅子とつい立て以外見当たらない。

「どのくらい欲しい?」
「コーク(コカイン)か?」
「ああ、それもある。どのくらい欲しい?」

 奇妙なぐらい綺麗にしてある部屋を訝しいと思いつつ、上島は普通に客を装う。

「五千円しか無いんだけど、どんくらい買える?」
「ちょっと待て」

 一人がつい立ての向こうに消え、戻って来たときには手に白い粉が入ったビニール袋を持ってきた。袋の中に入った粉末の量がやけに多いことに、上島と堺の目が僅かに緊張の色を帯びる。

「五千円だ」

 男が袋ごと渡そうとするので、上島と堺は驚愕した。売ろうとする麻薬の量に、支払う額がどう見てもつり合っていないのだ。ただそれと同時に、捉えた麻薬の売人がこの場所を吐いたのかも分かった。こんなに破格で薬物を取り引きされて、困っていたに違いない。

「よし、警察だ。おまえら動くな」

 頃合を良しと見た堺の言葉に、男達が目をパチクリとさせて、事情が飲み込めていないような目で二人を見る。

「おまえら、マッポか?」
「そうだよ。それ以外の何に見える?」

 上島は偉そうに言うが、アメコミのキャラがプリントされているアロハシャツでは、説得力がどう見ても無い。男達は顔を見合わせていたが、急に無言で出口へと逃げ出そうとした。

「逃げるんじゃねーよ」
「大人しくしろ!」

 怒号と共に上島が一人の脇腹を足刀で蹴りつけ、堺が一人の襟を掴んで軽くぶん投げる。上島と堺の早業で二人の男があっという間に倒されるのを見て、男達は立ち止まった。上島と堺はそれぞれ空手と柔道をやっていて、かなりの腕だ。

「よし動くんじゃねーぞ。ちょっとでも動けば、どうなるか分かるな」

 上島がわざとにやにやと嘲るような笑みを浮かべ、威圧する。先ほどの手応えでは、上島が蹴った相手は肋骨が折れたようだ。投げられた男も含めて、四人の男は静かになったが、上島にやられた男は怒りで顔が朱に染まった。

「こ、この人間め……」
「よせ、手を出すのはマズイ!」
「脅すだけなら構わないだろう。それに先に手を出したのはあっちだ」

 上島と堺が、男達が一体何のことを喋っているのか理解しない内に、倒れていた男の顔が見る見るうちに変わっていく。口が裂け、上顎が前へと伸び、眼窩が大きく広がっていく。それと共に体の骨格が巨大化していき、スーツから節くれだった昆虫を思わせる皮膚が突き破って出てくる。

「何だよ……何なんだよ!」

 目の前で何らかの異形に姿を変える相手に、上島と堺は呆然と眺めるしかない。まるで出来の悪いSF映画の一シーンだが、現実にこのようなことが起きると、悪夢を見ているような恐怖に二人は襲われた。

「さて、悪魔を蹴ったお仕置きをしないとな」

 牙のような鋭い左右の顎が突き出た、昆虫のような外見を持つ怪物が立ち上がる。蟻をベースにしたかのように見えるこの昆虫人間は、巨体で上島を見下ろす。上島は何も言わずに飛び上がると、渾身の飛び蹴りを相手の複眼へと叩き込む。

「痛いな」

 渾身の力を込めた上島の一撃に、変化した怪人物は軽く首を揺する。人体の骨を一撃で叩き折るような蹴りも、効果はさほど無いようなのだ。着地した上島の前で、怪物の右上腕が伸び、刃のように変形していく。

「上島、下がれ!」

 相棒の危機に、堺は脇に吊るしたホルスターに手を伸ばした。






「あれっ!?」

 街の雑踏を歩いていた唯は、急に立ち止まる。人込みだったのを思い出し、慌てて脇のガードレールに寄るが、何かを考え込んでいる表情だ。

「どうしたの唯君?」

 唯のただならぬ様子に、早苗は先ほど買った缶ジュース片手に慌ててついて行く。

「今、銃声みたいなの、聞こえなかった?」
「銃声?」

 早苗は周囲をキョロキョロと見回す。だが聞こえてくるのはごく普通の繁華街における喧騒だけだ。

「唯君は聞こえたの?」
「多分、そうだと思うんだけど」

 実際に銃声を聞いたことが無いので、唯には自分が聞いた音について確証が持てない。だが主の能力が音を司っているのを知っている早苗は、この近辺で何か事件があったと判断した。

「行ってみる?」
「うん、出来れば行ってみたい」

 厄介なことになるかもしれないという意識があったが、両者共に好奇心が勝っていた。

「分かった。ボクが先行するから、唯君は必ず後ろについてきて。何があるかわからないからね。唯君、道案内を頼んだよ」

 早苗はぐっと缶ジュースを飲み干すと、空き缶を指で摘み上げる。手中の金属缶は早苗の力によって変形して、ぐにゃりと曲がるとブレスレット状に手首へと巻きついた。

「さあ、行こう」

 早苗と唯は大通りから脇道に入ると、駆け足で進んだ。複雑な道のりを唯は何の迷いも無く、早苗を案内していく。早苗と違い、ごく普通の中学生である唯は速い駆け足のペースに息は切れているが、彼女の耳へと言葉を送り、直接指示を飛ばす。今までのガーディアンと全く違う、新しいタイプである唯の能力に、早苗は改めて深く感心した。遠隔の場所で何かを感知するというようなことは、情報収集を専ら得意としている円にさえ無理だろう。

「唯君、ストップ」

 早苗が徐々にスピードを落とし、立ち止まると唯も足を止めた。唯が荒くなった呼吸を整えていると、早苗は普段より幾分警戒した声を出す。

「悪魔達の気配がする」
「本当?」

 早苗の警告に、唯は意識を更に集中して、能力の精度を上げる。唯には悪魔を察する能力は無い。だが目的地に、人間とは明らかに呼吸器官が違う者が居るのが分かった。

「唯君はなるべく隠れていてね」

 早苗は背後の唯を気遣いながら、ソロソロとゆっくり狭い路地を進む。悪魔の気配を追って行くと、とある角の先で彼女の予想通り五体の悪魔達が居た。その中の一体は正体を現し、残りは仮の姿で。二人にとって予想外だったのは、悪魔達が人間を追いかけていたことだ。悪魔と人は双方同時に早苗には気がついたが、先に声を出したのは人が先であった。

「おい、逃げろ!」

 堺の叫びが、自分を救うためなのはわかったが、早苗としては別段逃げる必要が無い。返答の代わりに、早苗は腕に巻きついていた鋼を指先に集め、三つ刃の手裏剣を作り出す。悪魔達がまだ行動しないうちに、腕を振って指先からシュッと飛び道具を飛ばした。鋼鉄の手裏剣は真っ直ぐに昆虫型の悪魔へと飛ぶ。目標となった悪魔は横に避けようと動くが、早苗の意志で金属が変形し、コースが曲がる。手裏剣は悪魔の肩に浅く突き刺さった。

「やっぱり雛菊のようには、上手くいかないか。唯君、この人達のことを頼むね」
「が、ガーディアンか!?」

 早苗の言葉に反応し、人に化けていた悪魔達は元の姿へと戻ろうとする。それを阻むかのように、早苗が勢いよく足を蹴り上げると、アスファルトの一部が大きく割れる。轟音が鳴り響き、幾つものアスファルトの塊が地面から悪魔達目掛けて跳ね飛んだ。

「ぬおう」

 変化途中の悪魔達は、腕で石塊をブロックしようとする。だが、驚くべき速さで飛んできた石礫は、腕や体に強烈な打撃を与えた。飛石の威力に、アスファルトが当たった腕の骨や肋骨にひびが入る。一体だけ既に変身していた悪魔は宙を飛んで、石くれをかわし、早苗へと急降下する。

「おのれ、ガーディアン。調子づきおって」
「誰が調子に乗ってるって?」

 相手の行動を読んでいた早苗は、即座に体を金属へと変えていく。全身がメタリックカラーへと変化すると同時に、振り下ろされた悪魔のかかとをはっしと片腕で防ぐ。

「おのれ、おのれ……」

 続けざまに拳で悪魔は早苗の顔を殴る。節くれだった拳が、早苗の顔面に何発も命中した。だが鋼鉄の塊となった彼女の体に、悪魔は却って腕を痛めてしまう。早苗は逆に無傷のままで、自分が持つ鋼鉄の体に怯んでいる悪魔の首をがっしりと掴む。万力が締めるように、早苗は片手で徐々に悪魔の細い首を絞めていく。

「危ないんで、下がっていて下さい」

 目の前で繰り広げられる信じられないような出来事に、動けない刑事二人の腕を唯が引っ張る。元々悪魔達から逃げていた二人は、呆然として唯の導くまま、その場から動き出す。

「この……」

 ヤギや馬などの首を持つ姿に、変化した残りの悪魔達が一斉に跳躍する。早苗の頭上から落ちてきた異形の者達は、動かずにいる彼女を拳や足で打ち据えた。一斉に攻撃されたのは応えたのか、鋼鉄となった早苗の身体がぐらりと揺れる。

「早苗さん!」

 咄嗟に唯が早苗を助けようと動こうとする。それよりも早く、路地を挟むビル壁から、幾つもの尖ったコンクリートの棒が悪魔達を目掛けて突き出た。

「うぎゃああああああ……」

 全身を串刺しにされ、悪魔達が悲鳴をあげる。体に走る痛みに、悪魔達はもがいて逃げようとするが、突き出た槍に様々な角度から貫かれているため、動くのもままならない。

「やれやれ、思いっきり殴ってくれちゃって」

 力を込めて片腕を捻って、掴んでいた悪魔の首を早苗はへし折る。串刺しになって叫びをあげる妖物達を尻目に、早苗は鉱物から生身に姿を戻す。地面を蹴ると、早苗は悪魔の体液が流れる槍を飛び越え、空中で一捻りしてから着地した。異形の者達は苦しみを訴えるように呻いていたが、やがて塵となって崩れ去った。

「お待たせ。終わったよ」

 悪魔が滅ぶのを見て取ると、早苗はにこやかに唯の元へと戻って来る。その様子からは、先程まで戦っていたとは思えない。伸びていたコンクリートの槍に付着していた体液も、塵へと変わっていく。すると変形していたコンクリートとアスファルトがゆっくりと動き、元の形へと戻っていった。時を置かずして、壁と地面が平らに復元される。

「それじゃ、行こうか」

 早苗は何も無かったように唯の腕を取り、歩み去ろうとする。その姿に、今まで現実離れした光景に固まっていた刑事二人が、我にかえった。

「待て!」
「ん? まだ何か用?」

 早苗はクルリと振り向き、堺に笑いかける。笑顔に反して早苗の目が笑っていないので、堺は僅かにたじろぐ。早苗が力を行使すれば、拳銃を既に撃ちつくした堺は、抵抗することも叶わずにいとも容易く死ぬに違いない。だが長年の刑事の経験がものを言い、警察手帳を出し、何とか話を続けようとする。

「警察のものだ。お前達に聞きたいことがある。……お前達は誰なんだ、あの化け物達は一体何なんだ?」
「んー、ボク達が誰かは言えないし、あいつらが何かは説明しても信じないと思うんだけど……」

 早苗は言葉を濁すが、チラリと唯を見ると、彼は説明してあげて欲しいと目で訴えかけている。

「うーん、悪魔って言って信じるかな?」
「悪魔!?」
「いや、別に信じなくてもいいんだけどね」

 早苗の言葉に驚いて、二人の刑事は声を唱和させる。少女の言葉はとうてい信じ難いが、異形の怪人達の姿を見ているので、嘘だとも言い難い。

「もうちょっと詳しい説明を……」
「それは無理。助けたんだからいいよね」

 堺の言葉に、早苗はにべも無い。刑事とは言え、話を聞こうにもこのような超常現象による事件に対し、早苗を捕まえて事情聴取することも出来るわけもない。ましてや拳銃の弾丸を、悪魔達に撃ち尽くした後では、早苗を捕まえられるとは思えなかった。

「……どうやって報告すればいいんだよ、こんな事件」

 発砲したのに、当の相手が灰になってしまったため、上島は頭を抱える。これは始末書以前の問題で、話を信じてくれそうにない。見かねたのか、唯が助け舟を出す。

「別に無理しなくても、内閣特殊事案対策室ってところに相談すればいいんじゃないですかね」
「なに?」
「それじゃ、失礼します」

 唯はそれだけ忠告すると、制止の声を聞かずに、その場を離れた。難を逃れたとは言え、上島と堺は途方にくれてしまった。















   































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