金城芽衣。新興化粧品会社MIRAGEの代表取締役、話題の女社長、コスメのカリスマなどと様々な呼称で呼ばれることがある。彼女が経営する
MIRAGEが古くからの同業他社に追いつくまで成長したのも、芽衣と由佳のコンビによる努力が大きい。その経営手腕は厳しく、内外に対して一切の妥協を
許さない。
「えーと、それでは今月の成果ですが……」
「報告はいいわ。出してくれた資料を読めばわかるわ」
営業部長の言葉を芽衣があっさりと遮る。
朝一番の重役会議。MIRAGE内の幹部クラスである各部署の部長達が姿を揃えている。居ないのは海外へ出張中の副社長だけだ。
会議室にはピリピリとした緊張した雰囲気が流れている。重役会議ではいつも全員が戦々恐々としていた。それも芽衣の存在に因る所が大きい。ビジネスにお
ける芽衣の観察眼は鋭く、細かなミスも見逃さない。自分達が犯した過ちに気づかず、芽衣に指摘されて初めて気づく者も数多い。
もちろんミスや間違いを犯した者に芽衣は容赦が無い。ミスに至った経緯、責任の所在、今後の対策について彼女はとことん問い詰め、糾弾する。その氷よう
な美貌で叱責されると、社員は心の底まで震え上がると言う。何百年と戦いに身を置いてきた所為か、その目の光自体が常人とは違うからだ。
彼女の怒りが怖いために報告を曖昧にする者も居たが、常に芽衣に細かく質問されるために、誰もが詳細な報告書をいつも提出するように変わっていった。更
に恐るべきは、膨大な報告書を芽衣は常に頭に入れているということだ。社員や幹部達は芽衣に絶大な信頼を置いているが、それと同時に強い畏怖の念を抱いて
いる。
このような社長が社員に厳しい環境でも離職率が低いのは自由な企業風土にあるからだろう。服装などに規定が無く、フレックスタイムの導入、更に各個人が
自由な意見が言える環境が整っている。厚生福利も充実しており、育児休暇や長期のバケーション休暇も可能だ。報酬も仕事に見合ったものが必ず帰ってくる。
トップは極めてワンマンに近い会社経営だが、豊かな人材を生かすための企業運営が成されている。
幹部達も自分達の待遇には全く不満は無いが、月に何度かある社長が出席する会議だけは寿命が縮むような思いをする。中には胃薬を事前に飲む者も居るという。
静寂が支配する会議で、無言で資料をしばらくパラパラと捲っていた芽衣が沈黙を破る。
「小島経理部長、今月の収支は黒字だそうだけど、具体的にどうなっているの?」
「はっ。小学生向け化粧品が売行きを伸ばしています」
「小菅リサーチ部長、子供向け化粧品が業績を上げている理由は?」
「はい。あえて子供向けに作るのではなく、しっかりとした作りなのが好評かと。リーズナブルな値段というのもポイントかと思われます」
芽衣の質問に二人の部長がハキハキと答える。今にも直立不動しそうな勢いだ。各社からヘッドハンティングされてきた彼らは充分な経験を積んでいるが、社長の前ではその優秀な能力も霞んで見える。中年の男達が若い女一人に頭が上がらない。
「先月から引き続き、業績がいいようね。ここ数ヶ月はかなりの成果が上がっているわ」
芽衣の満足そうな言葉の響きに幹部達はほっとする。業績が悪いことに芽衣は直接怒ったりはしないが、そういう状態には常に原因がある。業績悪化のミスを修正するため、会議で長く問い詰められるのは誰もが避けたかった。
「でも、気になるところがあるわ」
切れ長の眉を額に寄せた社長に再び場に緊張が広がる。
「福田企画開発部長、目新しい企画の報告が上がっていないんだけど」
「い、一応、新規の企画のご報告は差し上げましたが」
声をかけられた中年の男性の顔が青くなる。その姿を周囲の幹部達は同情するように見やる。
「もちろん目を通したわよ。でも以前の企画の更新や、見直しばっかりだったわ」
「はっ、申し訳ありません」
「三ヶ月前に書類送ったわよね。以前とは違う企画考えてくれって」
福田の顔から傍目にもわかるほどの汗が浮かぶ。どうやら心当たりがあるらしい。そんな彼の様子に、他の者達は「終わった」という言葉が頭の中に浮かんだ。
「今回の小学生向け製品も私のアイディアよね。新しい顧客を開拓しようって」
「はい、仰る通りです」
「そう考えると、もう半年間も新しい商品の報告が無いんだけど」
「し、しばらくの間、小学生向け製品のラインナップを考案するのに時間がかかりまして……」
「それにしても、長すぎない? 私の考えた企画を上手く使ってくれるのは嬉しいんだけど、そればっかりだと企画開発部の存在意義が問われないかしら?」
企画開発部の部長は顔が青いのを通り越して、白くなっている。先代の企画開発部の部長がリストラされたので、得たポストなのだ。自分が行き着く先が見えたのかもしれない。
(まったく、何やってるんだか)
そんな彼の様子を見ながら、グレーのスーツ姿の由佳は心の中で呆れる。壁際の椅子で、先ほどから姿勢を正して彼女は会議を見守っている。
(あれほど口を酸っぱくして新しい企画出せって言ったのに……どうなっても知らないわよ)
芽衣が怒っているのは明白だ。それも尋常な怒りではない。古代から何度も商売や行商などで手を組んだことがある由佳だから、芽衣が普段と違う様子がわかった。
「じ、実は新しい企画の構想がありまして……」
「それを報告してくれって言ってるの」
「で、ですがまだ実用に耐えないものでして」
芽衣が口を開く前に緊迫した場に携帯の振動音が響く。会議などには基本的に携帯を切るのがマナーだ。緊急の場合などの場合は内線電話で呼び出されるはずだからだ。
「あ、失礼します」
由佳が自分の持っていた携帯だと気づき、慌てて会議室を飛び出す。当初、由佳は自分の携帯が鳴っていたとは気づかなかった。ビジネス用とは別の、ガー
ディアンの仲間からの緊急用の携帯だったからだ。こちらの携帯は非常事態用なので基本的に常時電源をつけており、会議中でも切ってはいなかった。しかし、
めったに仲間から呼び出しがかからないため、よもや電話がかかるとは思ってもいなかったのだ。
廊下に出て由佳が着信を確認すると、唯からの電話だとわかる。
「え? もしもし?」
これまためったにかかってこない主からの電話に由佳は慌てて通話ボタンを押す。何か悪いことがあったのかと由佳の頭に悪い想像が過ぎる。飯田が唯とコンタクトを取ってきたときの例もあるのだ。
電話口から漏れてきたのは、やはり唯の声だった。
「もしもし、由佳さん?」
「唯くん、どうしたの!?」
「良かった。こっちの電話には出てくれて」
明らかにホッとしたような声が聞こえてくる。
「実は会社の前に来てるんだけど……」
「会社って……うちの本社!?」
「うん。でも、受付で追い返されちゃって……」
「わかったわ。すぐ行くわ」
由佳は詳細も聞かずに電話を切ると、すぐに会議室に引き返した。
「ああ、良かった」
ビルの前のガードレールに寄り掛かりながら、唯は安堵したような息をつく。巨大なビルにはMirageの文字が一番上に並んでいる。唯が正面を見るとビルのショーケースにイメージキャラクターの楓と、商品の口紅が載ったポスターが飾られている。
今朝、出社する二人がリビングに書類を置き忘れて行ったのを、試験休みで家に居た唯はすぐに見つけた。すぐに由佳に連絡は取ったのだが、唯は気にしなくていいよう言われた。それでも必要な書類のような口調だったので、唯はミラージュ本社に届けることにしたのだ。
(芽衣さんや由佳さんには普段お世話になってるしね。喜んでくれるかな?)
そういう軽い気持ちで二人には内緒で来たのだが、唯はすっかり大事なことを忘れていた。
電車を乗り継ぎ、芽衣と由佳から貰った名刺にあった本社ビルに辿りつくと、唯はまず受付に向かった。しかし社長に会いたいと言っても、アポイントは無
し。書類を渡してくれと言っても、中を安易に見せるわけにはいけないので怪しまれる。遂には受付嬢が呼んだガードマンに摘み出されてしまった。一応芽衣か
ら貰っておいた名刺は見せたのだが、ニセモノだと思われたらしい。
「考えてみれば当たり前だよね。ああ、もうちょっと考えて行動しないと」
ちょっと疲れたような顔で唯は首をがっくりと垂れる。善意から出た行動だけに、ショックが大きい。おまけに扉前に居る守衛が怪訝そうに自分を睨んでお
り、唯は居心地がすこぶる悪い。仕事中であろうと思われる二人が、なるべく早く迎えに来てくれるのを唯は祈るだけであった。
「それで、いつ頃になったら新しい企画は上がってくるのかしら?」
会議室では由佳が出て行った後でも会議が続いている。ここに来て、ようやく重役達は事の重大さを認識したようだ。社長が激怒しているらしい。既に冷め
切った声で喋る芽衣に、叱責されてない者達でさえ、顔色が悪い。芽衣は感情的に相手を叱り付けないが、その冷たい声で論理的に追い詰められるのは首を縄で
絞められるような感覚だと、とある部署の部長が漏らしたことがあった。
「い、一週間ほど頂けましたら……」
「さっきから聞いていると、どうも主張に一貫性が無いのよね。まさか嘘をついていないわよね、福田さん」
芽衣の目がすっと細まる。うっかり口から出まかせを言っていた企画開発部長は、ガタガタと震える歯を何とか抑えようとする。しかし無言で自分を見る芽衣
に、言い訳も釈明も謝罪もできずに居る。そんな彼の様子に業を煮やしたように芽衣が口を開きかけたときに、由佳が戻ってきた。大きな音を立ててドアを閉め
た様子に、慌てているのがありありと見える。由佳は芽衣の傍に急ぐと、耳に囁きかける。
「どうしたのよ、慌てて」
「唯様が来てるのよ」
「唯様が来てる? 何処に……って」
利発な芽衣はすぐに唯が来ているという意味が呑み込めた。
「このビルに?」
「そうみたい。どうする?」
「す、すぐに連れて来なくちゃ。ちょっと待ってて」
先ほどの勢いは何処に消えたのか、慌てふためく芽衣に周囲は唖然とする。こんなに冷静さを失った社長を誰もが初めて見る。どんな困難でも冷静に対処し、打開策を探る彼女がこんな姿を晒すとは誰が考えただろう。
「と、とりあえず福田部長は一週間以内に新規の企画を何本か仕上げて報告すること」
「は、はい。申し訳ありません!」
「他に報告、質問はある?」
いかにも急いでいると言わんばかりの芽衣に、誰もが言葉を失う。それでも、かろうじて一人が声を出す。
「無いと思いますが……」
「それでは、本日の会議は終わり。時間を取らせたわ。各自、部署に戻って頂戴」
言い終わるや否や芽衣は会議室を飛び出し、由佳が後に続く。普段なら会議が終わっても、誰かを残して色々と話し込む芽衣なのだが、この日だけは違った。今日の会議は今までで最短記録だったという。
「助かった……」
企画開発部の部長は椅子にどっと寄りかかると、そのままずるずると床へと沈み込んでいった。
「唯様、何処ですか!?」
エレベーターを降りるや否や、辺りに呼びかける社長に受付嬢達がギョッとする。いつも颯爽としている芽衣の心配そうな姿を、彼女達は見たことがない。毎
朝きちんと挨拶しているので、社長を見間違うことは絶対にないのだが、同一人物とは思えない。あまりにも不可解な彼女の様子に目を丸くして凍りついてしま
う。
玄関ホールをウロウロする芽衣とは別に、由佳が受付デスクに駆け寄る。
「ちょっと、麻生唯って方は来てない?」
「は、はい。先ほど……」
由佳の今にも襲ってきそうな気迫に、二人の受付嬢は固まってしまう。秘書課のスーパーウーマンで通っている由佳の、こんなにも焦っている姿など受付嬢は見たことが無かった。
「何処!?」
「え、えっと先ほど外に……」
「外!?」
「は、はい。申し訳ありません!」
くるりと身体が回って由佳が外へと飛び出す。もちろん受付嬢の言葉を聞いた時点で、芽衣も既に外へと出ている。ミラージュを代表する二人の慌てた姿に、受付嬢達は何があったかわからず、ポカンとするしかなかった。
「ああ、唯様」
本社前のガードレールに寄りかかっている唯に、芽衣は安心したようにホッと息を吐く。
「あ、芽衣さん。わざわざ呼び出してすみません」
「いえいえ。お気になさらないで下さい」
会議を放り出したにも関わらず、芽衣は満点の笑顔で唯を迎える。芽衣はその細い腕をさり気なく絡めて、唯をエスコートして玄関へと戻ろうとする。
「あっ、唯君。良かった」
「由佳さんまで、ごめんね」
遅れて外へとやってきた由佳も、主である唯をほっとしたように迎える。彼女は芽衣の反対側へと回り、唯の脇へとピタリとつくようなポジションを取った。二人の美女にエスコートされて、唯はビルの中へと再び足を踏み入れる。
「でも唯君、今日はいきなりどうしたの?」
「あ、これを届けようとしたんだけど」
薄いデイバッグから書類を出して唯は由佳に渡す。
「ああ、届けてくれたの? 別に構わないって言ったのに」
「わざわざありがとうございます。嬉しいですわ」
「でも、玄関で追い返されちゃって。普通、当たり前だよね」
唯の一言に、芽衣と由佳の顔つきがさっと変わる。
「玄関で追い返されたんですか?」
玄関ホールに既に入っていた芽衣は、目をキッと細めて受付嬢を睨む。そのきつい視線に受付嬢達が青くなる。どうも社長個人の大事な客を追い返してしまったらしいと気づいたのだが、時既に遅し。
「あ、でも受付のお姉さん達の対応は良かったから。普通中学生が来たら、追い返すでしょ」
「ですが……」
「二人とも気にしないで。ささっ、行こう」
芽衣の視線に気づいたのか、唯は慌てて彼女の腕を引っ張る。不快そうな由佳も一緒だ。このままだと二人とも受付嬢を首にしかねない。イライラはまだ残る
が、唯に笑顔で腕を引っ張られると、両者ともにいつまでも怒っているわけにもいかない。玄関に設けられたエレベーターに、芽衣と由佳は唯を案内して乗り込
んだ。
「それでは、応接室に案内しますわ」
「ごめんね、お仕事の邪魔して。忙しいでしょ?」
「いえいえ、退屈していたところですわ」
にっこりと愛想良く笑う芽衣に、秘書の由佳は会議を放り出したクセにと突っ込みたくなる。だが唯と一緒に居たいのは自分も同じなので、あえて黙っている。
「うわ、何か凄いな」
最上階でエレベーターが開くと、唯が思わず小声を出してしまう。社長室があるフロアは全体にカーペットが敷かれ、壁などには木造のレリーフなどが飾ってあった。
「社長、会議は終わったんですか?」
フロアの入り口に設置されたカウンターで、キーボードを叩いていた第二秘書が、芽衣達の姿に慌てる。普段なら会議が始まったら四時間くらい芽衣は帰って来ない。それを知っているので気を抜いていたのだが、いきなり社長が戻ってきたのでドキリとするのは当たり前だ。
「今日は早く終わったわ。三島さん、お茶用意してくれる?」
「はい。あの、社長……そちらの方は?」
三島は聞かなくてもいいのだが、つい好奇心に負けて唯について聞いてしまう。普通の中学生くらいの少年が社長に伴われて来たのだから、仕方が無いだろう。三島は社長を冷徹なビジネスウーマンと考えているので、どうしても芽衣と唯を関連付けられないのだ。
「初めまして、麻生唯と言います。芽衣さんの家でお世話になっています」
「あ、社長付第二秘書の三島です」
頭を下げる唯に、三島も立ち上がって頭を下げる。普段は私事を仕事に持ち込まない芽衣だけに、三島は唯みたいな少年が彼女と同居しているのを初めて知った。
「ささっ、唯様。応接室はこちらですわ」
「あ、はい。失礼します」
ペコリと頭を下げて唯が芽衣達と立ち去る。三人は談笑しながら、廊下の奥へと消えていく。
「あの子、社長のこと下の名前で呼んでいたわよね……。それより社長、唯様って呼んでいなかった?」
三島は夢でも見ているような気分だった。芽衣の満面の笑顔なんて、めったに見たことが無かったからだ。取引先の相手でもこんなに嬉しそうな表情はしない。三島はただ呆然とするしか出来なかった。
昼になる頃にはミラージュの社内は芽衣と由佳、それに唯の話題で持ちきりだった。社長自らが中学生くらいの少年を案内して社内を回ったのだ。
芽衣が各部署を視察するのは珍しくない。大事な用件や聞きたいことがあれば、新入社員でも芽衣が直接聞きに来たりもするし、由佳が代わりにやってくるこ
ともある。だが芽衣は常にその氷のようなクールな雰囲気を保ち、由佳はいつも真剣な表情で人を寄せつかなかった。それが二人とも嬉しそうな顔で社内ツアー
を行っている。ミラージュ創業以来の珍事かもしれなかった。
おまけに二人が連れ歩いているのが中学生の少年だ。二人の優しい姉と愛くるしい弟と見れば違和感は無いが、社長と社長専属秘書がたった一人の少年を案内しているのは異様とも言える。言葉遣いや態度を見ていると、遠目からでも何か特別な客だということは一目瞭然だ。
「やっぱり芽衣さんって社長さんなんだね。何だか凄く注目されてるし」
「あら、そうですか?」
「うんうん、ちょっと見直しちゃった」
「まあ、いやですわ」
唯の言葉に少女みたいに照れている芽衣に、廊下で出会った社員達は動きが止まってしまう。中にはすれ違っても挨拶するのを忘れる者も居るくらいだ。普段は美しいが氷のようにクールな社長が、ステキな笑顔を振りまいているのだから、誰だって驚くだろう。
「芽衣ばっかりずるーい。唯君、お姉さんには何か無いの?」
「由佳さんも社長秘書なんだよね……やっぱり会社に居ると格好いい気がする」
「ふふふ、ありがとう」
ギュッと唯と腕を組む由佳に男の社員は呆けてしまう。多くの社内の男が誘っても一顧だにしなかった美人社長秘書が、唯と恋人のように接しているのだ。社内業務以外のことには完全に素っ気無い由佳が柔和な笑みを浮かべているだけで、見た者は仰天している。
このような二人の様子に、昼食時の食堂は普段以上に騒がしいことになった。あちこちで椅子を寄せ合い、食事も忘れて噂話に花が咲いている。特に社長の第二秘書である三島女史は多数の女社員に囲まれていた。
「それでその……麻生唯君っていうのは誰なのよ?」
「社長の家でお世話になってるって話だけど」
「社長が引き取ったってこと?」
「わからない……でも唯君のこと、社長は唯様って呼んでた」
三島の発言に周囲がどよめく。
「どういうことよ、それ!?」
「だから、わからないって」
「もしかして社長の愛人?」
「そんな……でも社長と由佳さん、お茶を持っていったら同じソファに座っていた」
キャーと一斉に女達が黄色い悲鳴をあげる。あながち彼女達の想像は間違っていない。もちろん男の社員も世代に関わらず情報のやり取りをしている。冷徹な
社内のツートップに等しい二人が、初めて感情らしい感情を出しているのだ。ただのゴシップでは済まず、幹部クラスには様々な思惑が入り乱れている。
「おい、聞いたか」
「聞かないはずは無いだろう。誰だ、あの少年は?」
「わ、わからん。社長に聞くわけにもいかんだろう」
「しかし、あの金城社長が笑っているなんて……一体、あれは何者なんだ?」
その騒々しい会話も、潮が引くように静まった。
「広い食堂だね」
「ええ、なるべく広いスペースをと思いまして、一フロアの半分近くを取っていますわ」
芽衣達が入って来たことに気がつくと、全員の会話が一斉に途絶える。芽衣と由佳はあまり食堂を使わないので油断していたが、当の本人がやってきたのだ。
まさか本人達の前で噂をするわけにもいかない。初めて見る機嫌の良い社長の気分を台無しにしたら、何が起こるか想像もつかないからだ。
「うちの会社の食堂では国内でも初めてのバイキング形式を取り入れているの。朝食、昼食、夕食、好きなものを何時でも食べれるのよ」
「へえ、そういうのは初めて聞いた。バイキングがあると社員の人も嬉しいでしょ」
「ええ。社員にはとっても好評」
「うーん、将来はミラージュに就職しようかな?」
「もう、唯君ったら。でも唯君なら、採用しちゃうかな」
由佳達は談笑しながら、空いているテーブルの一角に向かう。わざわざ由佳が椅子を率先して引いて、唯を座らせる。
「それでは料理を取ってきますわ。唯様は待っていて下さいね」
「じゃあ私は飲み物。唯君は席を取っておいてね」
芽衣と由佳が席を離れ、唯は一人ぽつんと椅子で待つことになった。心なしか、周囲の視線が自分に向けられているような気がする。目がちらりと合うと、誰もが慌てて目を逸らす。それに周囲は葬式場のように静かだ。
「ちょっと三島さん。今がチャンスよ、話を聞いてきなさいって」
「む、無理よ」
「社長の秘書なら大丈夫だって。ほらっ!」
三島は周囲に押し出されるように席を立った。気は全く乗らないのだが、仕方なく唯のテーブルへと歩き出す。
「あ、三島さん。先ほどはどうも」
「いえ……テーブル空いてますか?」
「どうぞ。芽衣さん達もすぐ戻って来ると思いますから」
三島はいっそ断って欲しいとも思いながらも、恐る恐る空いている唯の斜め向かいの席へとつく。
「あの、麻生様。一つ聞いていいですか?」
「唯でいいですよ、君づけで」
「ゆ、唯君はその……社長とはどのようなご関係で?」
「さっきも言ったように、芽衣さんの家で養ってもらっているんですよ。ちょっと事情があって」
三島の質問に唯はニコニコしながら答える。美少年と充分言えるくらいの容姿である唯だが、それ以外はごく普通の中学生に見えた。本人を目の前にして三島は彼に何があるのか、好奇心が徐々に刺激されてきた。
「社長とはいつもあんなに仲がいいんですか?」
「ええ。家族以上に優しくして貰っています」
本当に嬉しそうな唯に。周囲がどよめく。冷血無比の芽衣と由佳が優しくしているのだ。もしかしたら完璧に近い芽衣にとっての思わぬ弱点かもしれない。社内の何人かが、何とか唯と親しくなれないかと考えてもおかしくなかった。
「唯様、ただいま戻りましたわ……あら、三島さん来てたの?」
「唯君、お待たせ」
芽衣が皿一杯に料理を乗せ、由佳が炭酸飲料を入れたグラスを持って戻ってくる。二人はテーブルにつくと、唯に料理を盛った皿と飲み物を渡す。特に気にならないのか、芽衣と由佳は三島に構わず料理を食べ始めた。
「あ、あの社長。聞いてよろしいでしょうか?」
「ん、何?」
「いえ、その……唯君と一緒に生活しているそうですが……」
「そうよ、それが何か?」
恐る恐る切り出す部下の三島に、芽衣はフォークをサラダに突き刺しながら、いつも通り素っ気無く返答する。
「そのお二人の関係って普段はどういう感じなんですか?」
部下の質問に芽衣は思わず固まってしまう。普段なら同居人などと、ちゃんとそうなった経緯から仮の説明ができるのだが、唯が職場に来て浮かれていた芽衣はすぐに切り返せなかった。芽衣には珍しい失態だ。
「え、えっと……と、年の離れた恋人ってとこかな? ねえ、芽衣さん」
「ええ」
唯がフォローすると、芽衣の頬がポッと赤くなった。ジョークで唯は上手くかわそうとしたつもりだが、当の芽衣が顔を赤らめて恥ずかしそうにしているのでは、肯定しているも当然だった。慌てて由佳が助け舟を出す。
「唯君って、芽衣のお気に入りだもんね。十年後ぐらいはわからないかもしれないし」
「いや、そんな……僕なんかだと芽衣さんとはつりあわないですよ」
由佳と唯の掛け合いに三島は納得したらしく、特に追及してこなかった。何とかその場はごまかせたが、由佳は気をつけろと芽衣に目でコンタクトを取る。それに対して、珍しく芽衣は「感謝」と声を出さずに口の動きでだけ返答した。
そんな二人を余所に、三島は唯へと話しかける。
「唯君は何処の学校に通ってるの?」
「区立安達中学校ですよ」
「そうなんだ、今日は何で会社まで来たの? 見学?」
「いや、書類を届けに来たんです。役に立ったかどうかはよくわからないんですが」
「唯君は社長と随分仲がいいけど、仕事している姿はどうだった?」
「えっと……社内を案内してもらった感じだと、尊敬されてるんだなって。由佳さんも含めてですけど。改めて凄い人達と一緒に生活してるんだなって」
「社長って家ではどんな感じなのかな? 聞いていいかわからないけど」
「優しいですね。僕に良くしてくれてます」
芽衣や由佳が呆れるほどに三島は唯に質問する。まるでマシンガンのようにクエスチョンが唯へと飛んでいく。
「ちょ、ちょっと。三島さん、唯君に興味があるのはわかるけど、そんなにいっぺんに聞いたら、唯君が困っちゃうでしょ」
「あ、すみません」
偵察役として送り込まれたので、三島は思わず普段のお喋りと同じスピードで質問を連発してしまったが、考えてみれば初対面の人間に根掘り葉掘り聞くのは失礼だ。芽衣と由佳の機嫌を損ねてしまったかと、三島は首を竦めるがさして気にはしていないようだ。
「唯君、美味しい?」
「うん、凄く美味しい」
「唯様の……唯君のお口に合えば幸いですわ」
洋中折衷の料理を笑顔で食べる唯に、芽衣と由佳は心底嬉しそうだ。年上の姉らしく振舞う由佳はともかく、芽衣の言動は先ほどから何処と無く不自然だと三島は怪しむ。保護者というより、従者という雰囲気ではないのかと漠然と三島は感じていた。
「あら、ちょっと失礼」
スーツのポケットから、由佳が携帯を取り出す。一言二言携帯で話すと、由佳は芽衣に耳打ちする。
「四ッ田デパートの社長よ。面会を求めてるって」
「またなの。何でこんなにしょっちゅう来るのかしら?」
芽衣は残念そうに溜息をつくと、唯に向き直る。
「唯様、申し訳ありません。ちょっと外せない用事ができまして……」
「ああ、別に構わないよ。お仕事の方を優先して、お邪魔してるのは僕の方だし」
「ありがとうございます。三島をつけますので、彼女に社内を案内させますわ……三島さん、頼んだわよ」
「は、はい。わかりました」
社長にいきなり指名されて、三島は背筋を伸ばす。
「では、後ほど……」
「それじゃ、唯君。また後でね」
芽衣と由佳は後ろ髪を引かれる思いで食堂を出て行く。
「社長、唯君に敬語使ってたよね……」
ポツリと漏らした三島の言葉に唯はギクリとした。つい普段の習慣で、芽衣は丁寧な物腰というスタイルから、更に敬うような口調になってしまったみたいだ。
「唯君、社長と本当はどんな関係なの?」
「い、いや何も無いですって、養ってもらっているだけで。亡くなった父に世話になったとかで、僕には恩を感じてるかもしれませんが」
「あ、そうだったの。なるほど……」
唯の説明に、三島はようやく納得したように頷く。初めて芽衣と会ったときに言われた話だが、唯と会うための口実だったと彼は既に知っている。だが建前ではそうなっているので、唯もその説明で押し通すことにした。
「あのう……麻生様」
「はい?」
自然を装って、唯に誠実そうな中年の男性が声をかけてくる。
「私、こういう者です。どうぞお見知りおきを」
「はぁ……」
渡された名刺にはMIRAGE社、企画開発部長、福田一志と印刷されている。
「金城社長には常々お世話になっています。つきましては大変失礼ですが、麻生様とも是非一度お話をと思いまして」
「僕に?」
何が何だかわからず、唯は首を傾げる。芽衣の部下とは言え、年上の中年男性が自分に用があるとは思えなかった。
「麻生様、失礼します。私、こういう者です。失礼ながら私も……」
「よろしければ私も……」
一人が来ると、たちまち多数の人間が少年に殺到してきた。何が何だかわけがわからず、唯はとりあえず次々と渡された名刺を受け取る。名刺に印刷された肩書きはどれも偉そうだ。
「よろしければ、麻生様の名刺も頂けないでしょうか?」
「え? すみません、名刺とかは持ってないんですけど……」
「そ、そうですか。普通はそうですよね」
落胆する社員達に唯は首を傾げる。
「三島さん、ペンあります? 一応、名刺らしく書いてみますが……」
「本当ですか?」
唯は一人一人の名刺裏に名前と連絡先だけ書き込んでいく。手製の名刺を貰い、男性達はほくほく顔で情報を読んでいる。
「どうも、ありがとうございました。何かありましたら、麻生様もご連絡下さい」
「はい……わかりました……」
もう充分とばかりに十数人の社員が作っていた輪が解散する。何が何だかわからず、唯は彼らが去った後も呆気に取られていた。
「あれ、何だったんでしょう?」
「さあ……私にもさっぱりでして……」
あまりにも突拍子の無い出来事に、唯と三島はしばらく固まったままだった。
「金城社長、いかがですか? 是非今度ゴルフでも」
「い、いえ……私はゴルフなどはちょっと……」
かなりふくよかな中年の男に芽衣は誘われていた。困ったように笑いながら芽衣はやんわりと断るが、相手はなかなかにしつこい。デパートでのキャンペーン
展開について商談が終わり、芽衣は四ッ田デパートの社長をエレベーターホールまで送りにきたのだが、それからが問題だった。
「それなら今度、寿司でも食いに行きませんか? いい店を知ってますので」
「お寿司は嫌いではないですが、悪いですわ」
「そんな遠慮なさらないで」
取引先の社長があからさまに芽衣を別の意味で誘おうとしているのが、誰の目にも明白だった。そもそも今日の話し合いも、課長クラスで済む話なのだ。取引が出来た頃から、相手の社長は執拗に芽衣へアタックをかけてきている。
「ならランチはいかがです? この近くでも構いませんし」
「いえ、そんな……お忙しい四ッ田社長を煩わしてはいけませんわ」
柔らかい物腰で断っている芽衣だが、由佳には彼女のストレスが膨れ上がっているのがわかる。笑顔の仮面でごまかしているが、うっすらと額に汗をかいていて、怒りは爆発寸前のようだ。そんな様子を察しているのか、傍に居る四ッ田の秘書も済まなそうな顔をしている。
「朽木さんもいかがですか? よろしければご一緒に」
「えっ、私ですか? 秘書の私が相席するのは、どうかと」
「そう言わんで下さい。社長が行くところ、秘書がついてくるのは自然ですし。よろしければ個人的でも構いませんよ」
「あまりプライベートな時間をお邪魔してはいけませんし」
丁寧に断っているというのに、相手は今日に限ってかなりしつこかった。何か思惑があるのかもしれない。邪険にするわけにはいかないが、芽衣と由佳の笑顔
も徐々に引きつってきた。露骨に自分達の胸を見る目もかなり気に食わないが、怒鳴って追い返すわけにもいかない。そうこうしているうちにエレベーターが上
がってきたのが見えて、ようやく芽衣と由佳はほっとする。
「そうそう、良ければこれからうちのデパートに来ませんか?」
「えっ?」
「わが社のキャンペーンを直接見てもらって、意見を述べて欲しいんですな。改善できる点を指摘して貰えば売り上げも伸びるので、是非手伝って欲しいんですよ」
時間が足りないと見たか、相手の社長は延長戦に持ち込む気のようだ。怒りを通り越して、芽衣も由佳も呆れてきてしまう。だがこのままでは押し切られそうな勢いだ。
「是非ともお願いします」
「お手伝いできたらと思うんですが、今日は都合が……部下をやりますので」
「そこを何とか」
頭を下げる相手に、芽衣は心底弱り果てる。そうこうしているうちにエレベーターが最上階へと辿りつく。
「あれ、芽衣さん?」
エレベーターホールに芽衣を見つけて、唯は軽く驚く。エレベーターの中には唯と三島が乗っていた。
「唯様、お待たせしてすみません。ちょうど商談が終わって、四ッ田社長を見送るところだったんです」
これぞ好機とばかりに、芽衣はエレベーターから足を踏み出した唯の腕を掴んで引き寄せる。そして思いっきり身体を抱き締めた。
「せっかく来て貰ったのに、なかなかお構いできなくて、すみません」
巨大な胸の谷間に芽衣は唯の顔ぐっとを押し付ける。胸がふかふかの爆乳に挟まり、唯の顔がぐっと埋もれた。おまけにこれみよがしに腕で胸を寄せて、芽衣は少年の顔をぎゅっと締め付けた。
「お姉さん達、構ってあげられなくてごめんね」
おまけに由佳が唯の後ろから抱き付いてきた。由佳の胸は彼の後頭部を挟み、芽衣の胸にくっつく。四つの胸に挟まれて、唯は目を丸くするしかない。驚いて
いるのは四ッ田デパートの社長も一緒だった、少年を会社の社長と秘書がちやほやしているという不思議な事態と、うらやむばかりのエロチックな光景に固まっ
ている。
「社長、お時間が……そろそろ車に戻りませんと」
チャンスと見たのか、四ッ田の秘書が社長の腕を引く。思考がフリーズしているうちに、四ッ田デパートの社長は秘書と共にエレベーターに乗って去って行った。階下につく頃には、必死に何が起きていたのかを考えつつ、悔しがっているに違いない。
「助かりましたわ、唯様」
「えへへ、ナイスタイミング。いいときに来てくれるね」
唯を解放して芽衣が離れる。由佳は嬉しそうに抱きついたまま離れようとしないので、唯の頭は彼女の胸に挟まれたままだ。
「えっと、よくわかんないけど……役に立ったのかな?」
「ええ、助かりましたわ。しつこく誘われて辟易してたんです」
先ほど入れ違いになった相手に言い寄られていたのだとようやく唯はわかった。
「そうなんだ。それは本当に良かったな」
芽衣と由佳に手を出そうとした相手を追っ払ったという事実が、唯はちょっと嬉しかった。自慢の恋人達が美貌で異性の興味を引いてしまうこと自体は誇らし
いが、相手が寄り付くというのなら話は別だ。自分の愛人を間接的だが守ったということに、男としての自負心を唯は感じていた。
「さてと、三島さん。この後は何があったかしら?」
「えっと……来期のCMのプレゼンに出席となってますが……」
「報告書で充分だわ。今日の午後の予定はキャンセルして。電話も取り次がないで」
芽衣のキビキビとした命令に、三島は目を丸くする。普段は仕事で妥協しないのに、大事な予定をキャンセルしようというのだ。
「夕方までの予定はどうされるのですか?」
「ちょっと溜まっている仕事を片付けるわ。少し集中したいの」
それだけ言うと芽衣は社長室へと歩き出し、唯を抱き締めたままの由佳もついていく。
「あの、唯君も一緒なのですか?」
「うん、当然ね。そうそう、絶対社長の邪魔をしてはダメよ。大事な用件以外は絶対取り次がないように」
由佳はそれだけ言うと、社長室のドアを閉めてしまう。中からガチャリとカギを閉めた音が聞こえた。
「……社長がサボり?」
今日何度目になるかわからないが、三島は驚きで呆然としながら閉じられたドアを見やるしかできなかった。
「お仕事溜まってるの?」
「ふふふ、いいえ。ちょっとした口実ですわ」
鍵がかかったドアを見た唯の素直な疑問に、芽衣はいたずらっ子のような顔で返事する。
「芽衣ったら、いけないのに」
「あら、由佳だって職務怠慢よ」
お互いに艶笑を浮かべる二人に、唯は何を期待されているかわかってくる。
「えっと、もしかして……」
「唯様はこういうシチュエーションお嫌いですか?」
「ほら、ここなら誰も居ないし、防音もしっかりしてるから」
誘うように芽衣と由佳は巨大な社長のデスクに向かう。彼女達は手をついて、社長とその秘書は形のいいヒップを主に突き出す。
「唯様、好きにして」
「思う存分、苛めちゃって」
スーツに包まれた臀部に唯は身体が自然と吸い寄せられてしまう。着衣をしたままの誘惑はあまり無かったので、無意識に興奮してしまっているのかもしれない。
「あっ……」
「あんっ!」
ふらふらと吸い寄せられるように近づくと、両手で綺麗なカーブを描く二人の尻を唯は撫でる。布地越しに触っても、美女の臀部は胸を熱くさせるような柔らかい感触があった。
「唯さま……」
「何か、興奮しちゃう……」
頬を赤く染める二人は、いつもと違うシチュエーションに、常より愛撫に対して敏感に反応している。職場という場所が恐ろしく強い背徳感を生み出しているのだ。おまけにカギをきちんとかけているので、誰も邪魔して来ない。思う存分に乱れることができる。
「何だか二人とも凄い……興奮してる」
「ああっ、そうなんです」
「す、凄いエッチな気分なの。おかしいくらい」
スーツ姿で悶える二人のビジネスウーマンに、唯もドキドキしてしまう。普段でさえ、極上の美女を抱いているという優越感があるのに、今日は社長とその秘
書というランクの高い相手を抱いているという事実が改めて強調されている。上流階級の相手を自分が意のままにしているという事実が、唯を高める。
「ゆ、唯さま……もっと直接して……おかしいんです、今日は」
「お姉さんも……ご、ごめんね、エッチな二人で」
スカートの裾を引っ張り、芽衣と由佳は直接自分たちの下着姿を曝け出す。ストッキングに包まれた緑と赤の薄い布地が姿を現し、主の注意を引こうとする。
黒いストッキングという常とは違う衣装に、唯も自然と手が伸びていた。しっとりとした感触のパンティストッキング越しに尻を触ると、美貌の女社長と女秘書
は甘い声をあげる。
「やん、ふあん……ゆ、唯さまの手が……素晴らしいですわ」
「ほ、本当……ゆ、唯くんのエッチ、こんなに上手くなっちゃって」
唯は自分がテクニシャンという自覚は無いのだが、芽衣と由佳はお尻へのタッチだけで堪らないほどに感じていた。下着とストッキングに包まれた見事なヒップをもぞもぞと動かし、軽く息を荒げる。
「ちょ、直接……もっと直接触って下さい……」
「あ、アソコを広げて……な、中を掻き混ぜて……」
二人の哀願に、唯はストッキングに手をかけようとするが、
「す、ストッキング破っていいですわ……」
「あ、あん……むちゃくちゃにしていいから」
「い、いいの?」
ストッキング破りという未知のプレイに、唯は立ち竦んでしまう。魅惑的なプレイに聞こえるが、どのようにストッキングを破ったりすればいいのかわからない。力任せに破って女性の肌に傷をつけるような真似はしたくなかった。
そんな唯を見て、芽衣はほんの僅かな氷を元に鋭いカッターを指先に作り出す。氷のカッターを器用に動かし、自分の尻と由佳の尻を包むストッキングに切れ目を入れてやる。
「ど、どうぞ……」
顔を羞恥心に染めて、芽衣はぐっとヒップを高くあげる。唯が空いた穴に指を入れて引っ張ると、すっと芽衣と由佳のストッキングに切れ目がひろがっていく。女性の衣装を破るという、レイプのような行為にゾクゾクしてしまう。征服欲を満足させる何かがあるのだろう。
「あ、ゆ、唯さま……その……お、お情けを……」
「お、お姉さんにもして……」
破けたストッキングの合間から顔を出す、自分たちの下着に芽衣と由佳は手をかけた。直接薄めのショーツを脱がずに、ぐっしょり濡れた股間の部分を横にず
らす。破かれたストッキングに、ショーツがずれた光景に唯はクラクラしてしまう。姿を見せた陰唇は既に僅かに広がっており、いつもとは違うシチュエーショ
ンもあって、とても刺激的に見える。
「あ、あん、ふあっ……ゆ、唯さまぁ……」
「指がいい……もっと触って。お姉さんを苛めてぇ」
指を差し込むと、二本の指はあっさりと膣口へと収まる。挿入のスムーズさに反して、膣はキュウキュウと指を締め付ける。軽く動かしただけで、芽衣と由佳の膣壁を作っているヒダヒダが、それぞれが違う動きで自分の指を擦るのが感じられた。
「ふあ、ああん……やん……ゆ、指いいですわ」
「あぁん、濡れちゃう、アソコから液が止まらない!」
ソフトなタッチでGスポットを弄るだけで、手の平へと愛液がドロリと垂れてくる。腰を揺すぶり、指から逃げようとするのをしつこく追って、他とは感触が違う膣壁を責め続けた。芽衣と由佳は机の上に上半身を投げ出しながら、悶絶するしかない。
「あ、ああっ、ひゃっ、凄い凄いわ」
「い、いいっ、もっと、もっと速くして。お姉さん、もっと欲しいの」
グチュグチュという音を立てる二人のヴァギナのハーモニーに、唯は頃合だとみた。芽衣から指を引くと、自分のペニスを取り出して、彼女のショーツを思いっきり横にずらす。
「あ、あああぁ、唯さまぁ!」
亀頭がずぶりと濡れきった膣内へと入ると、感極まったように芽衣が悲鳴をあげる。一突きされただけなのに、ジュンと自分自身が濡れるのが芽衣にはわかった。子宮口がコツンと突かれると、彼女の上半身まで快感が駆け上がる。
「ひゃぁん、唯くぅぅぅん!」
続けて由佳の中へと唯は侵入する。ショーツが破れないか心配なほど横に引っ張り、たっぷりとスペースを空ける。そしてドロドロの膣内へとシャフトを突き込んで、美女を犯す。亀頭がヒダを掻き分ける感触に由佳は体全体に甘い痺れが奔った。
「はん……はふん……あんっ、唯さま……やん、私いつもよりいいの」
「こ、こんなの凄い……も、もっと早くやれば良かった……ひゃぁん」
芽衣と由佳を唯は交互に一突きづつ突き刺す。コリコリとした子宮口に亀頭が当たるたびに、二人はズシンと音が聞こえる錯覚がするくらいの衝撃を下腹部に感じる。上半身がずり下がり、机に爆乳を押し付けて二人は必死に耐え凌ごうとする。
「ゆ、唯さまぁ……お、お腹にズンって……」
「気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい」
芽衣と由佳は連続してでは無いが、深いストロークに身体が痺れてしまう。もちろん唯も、コツリと子宮口にペニスの先が当たる度に泣き声をあげる芽衣と由佳に、雌を感じて興奮する。だが毎回位置を変えるのは意外に労力を感じる。
「二人とも、机の上に乗って」
唯は芽衣をごろりと広い机の上に大の字に乗っけると、由佳の体をその上にトッピングした。爆乳同士が上下に挟まり、横から見ると洋服越しにおっぱいの鏡餅が出来ている。
「ああ、唯さま……わ、私達、とってもいやらしいの……」
「お願い、おちんちん頂戴……」
「もちろん、満足させてあげるよ」
ウェーブヘアーとロングヘアーの美女におねだりされて、唯は二人の上へと圧し掛かる。
「ひゃあああああ、あっ、あっ、ふあっ……」
まずは芽衣の中へと唯はペニスを入れる。いつもより速くピストンするだけで、芽衣は由佳の柔らかな体を抱き締めて、よがり狂う。
「ふあ、ああっ、は、入ってるの、いい……あ、ああん、ひゃん」
次に犯された由佳も、陰茎が膣の凹凸を擦る感触に涙を流して悦びの声を出す。由佳も芽衣の首を抱えて、必死に快感に耐えようとする。
「あふ、ひゃん、ひああああ、はふ、いい、いいのぉ」
「きゃん、ふあ、あっ、擦って、擦って、もっと擦って、唯くん」
二人はお互いの体を抱き枕として、懸命に快楽に立ち向かう。そんな努力も虚しく、二人の意識を快楽の波が押し流していく。スーツ姿の美女二人がお互いを強く抱き合い、よがる姿は卑猥だった。
「やぁぁぁぁ、こんなのって、こんなのって……」
「く、クセになっちゃう、いや、いや、いやぁぁぁあ」
快感にずぶずぶと埋まり、全ての意識がセックスにのみ向けられていく。三人とも既に何も考えられない。芽衣と由佳は硬く熱いペニスをただひたすら味わい、唯は柔らかく自分に絡みつくヴァギナを愉しむ。身も心も溶けて、三人の身体が混ざりあうような錯覚を受ける。
「二人ともいいよ。僕も、そろそろイキそう」
「あ、ああっ、唯さま、わ、私達も」
「中に出して……気持ちいいの出して……」
机の上に愛液を飛び散らしながら、芽衣と由佳は高まっていく。女社長と秘書は密室で少年にイカされようとしていた。二人の膣が抜き差しするたびに、きつく締まって精子をおねだりする。強い膣圧と柔軟に絡む膣壁に唯も一気に高まってしまう。
「二人とも出すよ!」
どびゅ、びゅる、びゅ、びゅ、びゅく
「やあああああぁ、い、イってしまいますぅぅぅぅ!」
芽衣が唯の熱い粘液を感じて、クライマックスを迎えた。精液を子宮口に感じて、恐ろしい程の快感と狂おしいほどの幸福感をいっぺんに味わう。
「ふあああああぁ、やっ、やっ、凄いのおおおおおおお!」
二番目に突き刺されて白濁液を吐き出された由佳も、芽衣のすぐ後に絶頂へ達する。イッた直後の唯のペニスを膣壁が蠕動して擦りあげ、胎内は更に精子をお
ねだりしてしまう。エクスタシーを感じた直後に感じる膣の動きに、唯は溜めていた精液を呆れるほどに由佳の子宮へと流し込んでしまう。
「ひゃ、あ、ああっ、ああっ、凄いの」
「よ、良かったぁ……」
グラマーな女性特有の柔らかい体をお互い抱き合い、芽衣と由佳は絶頂の余韻に浸る。まだ硬い唯のペニスが、二人の膣内を交互に優しくグラインドし続け
る。やんわりとした交尾の感触が、心地良い感覚を生み出す。唯の繊細な気配りに、二人は緩い快感を味わいつつ余韻を楽しむことができた。
「あ、や、やだ……わ、私ったら……」
唯のグラインドで楽しむこと十五分、ぎゅっと抱き締めていた相手が自分の秘書だと気づいて、慌てて芽衣が由佳を離す。
「あっ。な、何か恥ずかしい……」
由佳も芽衣の首に回した腕を外して、頬を両手で押さえる。仲がいいとは言え、こういう性的なことになると、なるべく遠慮したい。同性愛者ではないのに、レズのような行為だからだ。
「二人とも、凄い良かった。僕、とっても興奮しちゃった」
唯に一人づつほっぺたにチューして貰い、芽衣と由佳の美貌が緩む。唯のテクニックに翻弄されて、すっかり満足してしまった。自分本位ではなく、相手の女性を楽しませてくれたことが二人には嬉しい。
「唯君、ごめんね……お姉さん達ばっかり楽しんじゃって」
「今度は私達がご奉仕してあげますわ」
二人は身を起こして立ち上がると、うやうやしく唯を応接のソファに座らせる。自分達は立ったままだ。
「楽になさって下さいね」
「うん」
何が起こるんだろうと期待する唯の目の前で、スーツ、ワイシャツの順番で女社長と美人秘書はボタンを外す。ショーツを脱ぎ捨て、手際良くブラジャーを外
すと、ワイシャツのボタンの上と下を幾つかまた留める。芽衣と由佳の爆乳がワイシャツからつき出ているように見える格好となった。
「お待たせしましたわ」
「今度はお姉さん達に任せてね」
「うん、ありがとう」
由佳はソファに深く座る唯の体に正面から乗っかる。寄せられた胸の深い谷間に、唯の心臓が更にドキドキしてしまう。いまだに勃っている少年の硬い肉棒を掴むと、由佳は腰を落として自らの中へと導く。
「ん、んんっ!」
眉を寄せて由佳は亀頭に膣を擦られる感触を耐える。すぐにでも腰を振りたてて快楽を貪りたくなるが、由佳は必死にそれを押し殺してゆっくりと腰を動かし始めた。
「あ……気持ちいい」
唯が思わず快感の声を漏らす。女性上位の状態で、由佳は円を描くように自分の腰を動かし始めた。膣圧も括約筋を締めたり緩めたりと、緩急をつけて唯を楽しませる。ペニスの周りを周回するように、刺激が与えられていく。
「どう、気持ちいい? は、はぁ……お、お姉さんは、が、我慢するのに必死だけど」
「う、うん。凄いよ」
由佳のテクニックに、唯は熱い吐息を漏らす。柔らかな膣壁に亀頭が擦れて、緩やかな回転によって腰が蕩けてしまいそうな甘い感覚を生む。あまりの気持ち良さに、思わず軽く由佳の子宮をペニスの先でノックしてしまう。
「やん、きゃんっ! だ、ダメよ、おイタしちゃ。お、お姉さん、これでも一杯一杯なんだから」
少年のオチンチンに軽く突き上げられて、由佳は速く動こうとする誘惑に駆られてしまう。絶対に気持ち良いに決まっているが、その甘い誘いを持てる精神力を総動員して我慢する。
「でも……」
「ふふふ、唯さまぁ……芽衣を忘れては嫌ですわ」
唯の首に手を回し、彼の横側から芽衣が抱きついてくる。芽衣は少年の首を回すと、唇を奪う。
「ん、んむ……ん……」
唇を割って、芽衣は少年の舌に自分の舌を絡める。ヌルヌルとした舌を差し込まれる感触に、唯の身体がビクビクっと震えてしまう。芽衣の動きは熟練しており、歯の裏や頬を舌先でなぞられる度に。彼の脳へと強力な刺激が流れる。
「あっ、あむ、ん、ん、ん……」
肩に胸を押し付けられながら芽衣に唇を責められ、由佳に膣で陰茎を扱かれて唯はめくるめく快感にクラクラする。あまりの気持ち良さに、由佳の柔らかい体をぎゅーっと抱き締めてしまう。だが胸の双球が押し付けられて、愉悦を耐えようとする体には逆効果だった。
「ん、んん、んんーっ!」
「あ、ああん……唯君、イキそうなの? イキそう?」
熱い吐息を吹きかける由佳に、唇を塞がれている唯には答えようも無い。唇を吸っている芽衣は唯の身体が限界なのを察して、ますます唯の口内を蹂躙する。
「ん、んんっ……んあ……」
ビュル、ビュル、ビュビュッ
じっくりと責められ続けた唯は、ブルブル震えながら達してしまう。
「あ、あん……ひゃん、熱いよぉ……気持ちいいのぉ」
体の中でペニスがピクピク暴れまわるのを感じて、由佳も軽いエクスタシーへと辿りつく。ずっと我慢していたので、胎内で暴れまわる肉棒の動き一つで頭が痺れてしまう。熱い精子をかけられた膣壁も、キュンキュンと締まって悦びを伝える。
「ぷはっ……ああっ、ごめん急にイっちゃって」
「別にいいよ……私も凄く良かったし」
「うふふ、唯さまのイク感触がして私も興奮してしまいましたわ」
唇を解放された唯に、二人の美女がすがりつく。芽衣と由佳の柔らかい肢体は、イッた直後の体で感じると更に心地良く感じる。
「ん……あん……ぬ、抜くね……」
ズルリと由佳は膣からペニスを抜き出す。由佳は亀頭のカリ首がヴァギナを擦る感触に、軽く身を震わす。
「お掃除させて頂きますわ」
「んっ……芽衣さん……」
体を一旦離し、床に座り込むと芽衣は少年の股間に顔を近づける。外気に晒されたペニスだが、すぐに芽衣の温かな口の中へと含まれる。
「はむ……ん、あむ……熱くていいですわ……」
「あ、ああっ」
「口に含んでるだけで濡れちゃいますわ」
愛液と精液が混ざった粘液を柔らかな紅い唇で拭き取られ、唯は軽く悲鳴をあげる。女性の中に精液を放ち、出した後の陰茎をしゃぶって綺麗にしてもらう。その堪らない奉仕に、唯は優越感をたっぷりと得ていく。普通の女性ならは、まずしてくれないだろう。
「それでは、今度は私がお相手させて頂きますね」
唯のペニスがまだ硬度を保ち続けているのを見て、芽衣はそっと立ち上がる。そして唯のことを後ろ向きにまたぎ、手に持ったペニスの先端を自らの陰唇に導く、
「ん……あっ……」
芽衣が腰を沈めると、ズブズブと唯の亀頭が奥へと導かれていく。すぐに奥へと辿りつき行き止まりに先端が当たると、芽衣の膣がキュンと締まった。
「あ、や……す、凄いですわ……や、やっぱり唯さまのペニス、凄い……」
ペニスの感触に、入れただけでも芽衣は深い溜息を漏らす。普通の人間とセックスしたら絶対に得られない快感、愛する少年だけが与えてくれる悦楽だ。もう二度と彼以外とセックスはできないだろう。
「芽衣さん、大丈夫?」
「は、はい……わ、私がご奉仕しますので、唯さまは楽にしていて下さい」
芽衣は緩々と動いて、軽く唯の感触を確かめると、腰を動かし始めた。
「ふ、ふわああああああっ!」
「わ、わ、わぁぁ!」
芽衣はすぐに全開までスピードを上げ、腰を狂ったように上下させる。いきなりハイスピードにギアを入れられて、唯はギョッとする。どうしたと問う間も無く、ジュブジュブとペニスの表面を膣の凹凸に擦られて、意識がぶれた。
「ひあああああっ、ゆ、唯さまぁ!」
「め、芽衣さん、ちょ、ちょっと激しす……うあぁ!」
慣れた動きで上下に腰を振る芽衣に、唯は悶絶するような声をあげてしまう。あまりに急速にシャフトを擦られる動きに、まるでいきなりジェットコースターに載せられたように錯覚してしまう。
「あ、あっ、芽衣さん……」
「いやあああああ、だめぇ……い、イク、イク……」
先に音を上げたのはやはり芽衣だった。あっさりと絶頂を迎えてガクガクと腰が砕けそうになる。だが自分がすぐにイクのは既に織り込み済みだ。必死に意識を集中させると、腰を振るのは止めないようにする。
「やああああぁ、ひっ、あああああぁ、だ、だめぇ!」
「め、芽衣さん……あうっ」
エクスタシーに反応してギュッと締まる膣が、唯のペニスをグリグリと擦りたてる。イった直後の身体は敏感なのに、ペースを落とさないことで更に芽衣の快感が増幅してしまう。
「ああああああぁ、イク、イク……ま、またー、唯さま、イクー!」
続けて二回絶頂を迎え、芽衣が狂ったかのような悲鳴をあげる。それでも唯への奉仕のため、愛のため、腰の運動を止めない。唯にいつもと違う感触を感じて欲しかったのだ。
「わ、わ、芽衣。ちょっと壊れちゃうわよ……ああ、もう」
涎が流れるままによがり狂う芽衣の姿を見かねて、由佳が慌てて助け舟を出す。唯の股間に顔を埋めると、睾丸を口へと含む。
「ああっ、ゆ、由佳さん!?」
いきなり生温かい感触に包まれた陰嚢に、唯は上擦った声を出してしまう。秀麗な顔に芽衣が飛ばす愛液が降りかかるのも構わず、由佳は精巣を口に含んで舌
でペロペロと嘗め回す。思わぬ愛撫で唯の股間から、二つの快感が駆け上がる。寄り合わさった刺激に、唯は耐え切れない。
「め、芽衣さんっ!」
「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ、イクぅぅぅぅぅ!」
ビュルクビュルク、ビュッビュッビュ
芽衣の身体を思いっきり抱き締め、唯は膣の奥へと粘液を吐き掛けた。唯がイッたことを認識して、芽衣はようやく腰の動きを止める。快感に浸って、エクス
タシーをゆっくりと楽しむ。とても気持ちよかったが、芽衣は身も心もボロボロになってしまった。イクのにも構わず、猛烈に腰を動かし続けたために頭が
ショート寸前だ。
「芽衣さん、ありがとう。良かったよ」
「ゆ、唯さま……」
肩越しに口にキスをした後、唯は芽衣の涎を唇でぬぐってやる。主の優しい気遣いに、芽衣はますます身体が熱くなって、再び疼いてしまう。
「唯くん、まだいける?」
「大丈夫ですよ」
「それは良かった……もっと楽しみましょう」
芽衣のヴァギナから流れ出た精液を、由佳はペロペロと舐める。陰嚢を伝う白い粘液の雫を口に含み、彼女は精子の味をたっぷりと堪能する。
時刻は午後三時、まだまだ時間はあるはずだ。
「由佳、遅いわね……今日の晩御飯どうなるのよ」
「あのな、少しは手伝おうとは思わんのか?」
ソファでぐったりとしている京に、冷蔵庫を調べている雛菊が呆れた声を出す。夕方六時三十二分、惣菜を買って帰ると言った由佳の姿はマンションに無かっ
た。てっきり晩飯を用意してくれると期待していたガーディアン達は、この時間に帰ってこない由佳に少し不安を持ってしまう。
「芽衣が遅いのは仕方ないけど、おかしいね」
「仕事で何かあったら、電話してくると思うんだけど」
首を捻る円に、ミシェルも同調して困惑した声を出す。何かあるときは、いつももっと早く連絡してくるはずだ。
「そういえば唯は?」
「朝何処かに出かけられたわ。何処だかはわからないけど」
リビングに唯の姿が見当たらず、麗がキョロキョロとしていると、楓が興味の無さそうな声で応じる。実際は心中で唯のことをかなり心配しているのだが、楓の感情が顔の筋肉に伝わらないのだ。
「まあ、ボチボチ帰ってくるでしょう。唯君も男の子なんだから、多少は夜遊びしないと」
「浮気したら困るけど……」
「それは無いですよ、お姉さま。こんなに女の子が一杯だったら、それで精一杯ですって」
楽観的な早苗とは別に、台所にいる静香は心配そうな顔をする。自分自身も唯に浮気しているような形なので、そういう懸念があるのかもしれない。
そんな中、据え置きの電話が鳴った。
「はい、もしもし……あ、芽衣」
一番、近くに居た静香が受話器を取って対応する。二分程相手と喋ってから、彼女は受話器を置く。心なしか表情が曇っている。
「芽衣と由佳が用事があるから、出前でも取ってくれって」
「出前ね……折角だから、唯と一緒に久々に外食でもする?」
京の提案に真っ先に早苗が食いつく。
「はい、ボクはお寿司が食べたいな」
「あのね、お金払うのは私達でしょ……まあ、唯様が一緒ならいいけど」
ミシェルは特に裕福ではないが、唯のためならまあいいかなと思う。多少は懐が痛もうが、回らないお寿司でも構わない。
「言いにくいんだけど……唯様も用事があって、帰ってこれないって」
「なにー!?」
全員が異口同音に叫ぶ。
「も、もしかしてあの二人と一緒に居るの?」
「さ、さあ……口調からしてそんな感じだったけど」
目を血走らせて自分を見る京に、静香は怯えたように答える。
「あ、あの二人……絶対抜け駆けよ」
「自分達で抜け駆け禁止って言っておいて」
「許せないわ」
「唯の裏切り者」
京、雛菊、楓、麗の頭にふつふつと怒りがたぎってくる。特に京などは左手から自然に血爪が出てしまうくらい激怒していた。普段はリーダーシップを取っている芽衣が抜け駆けした事実が相当頭に来ているようだ。
「まあまあ、たまにはこういうことだってあるよ。惚れた者同士なんだから」
「でも、抜け駆けなのよ!」
「こうなったら、二人のお金でお寿司を頼もうよ」
今にもテーブルを真っ二つに割りそうな京を、早苗は宥める。早苗の提案に、苛立ちが押さえられないという感じだが京達は一応了承した。暴れても文句を言っても仕方が無いというのなら、せめて食事に当たるしかない。
特上を四十人前という注文を受けたすし屋は、最初は冗談だと思ったという。
照明を落とした部屋の中、三つの影が重なったり離れたりを繰り返す。外から入ってくる夜景の光だけが室内を照らす。
「ああっ、唯さま……もっと、もっとお情けをお願いします」
ガラスの窓に身体をくっつけて芽衣が叫ぶ。背後からは唯が尻を掴んで、肉の槍で芽衣の身体を犯し続ける。一突きごとに大きすぎる胸の膨らみがガラスに押し付けられて、ヒヤリとした冷たい感触を受けた。
「ああっ、押し付けないで。ひゃ、ひゃああああっ!」
寒さには何処までも耐えられるのに、あえて能力を使わずに芽衣は窓の低温に身体を委ねる。そして尖った乳首を冷やされる感触に、芽衣は泣き叫ぶ。
「ひあ、ああっ、いや、やっ、いいのー、おかしくなるぅ」
「芽衣さん、あそこ……誰か見てるよ」
「う、嘘!? やああああああぁ!」
恐ろしいことを耳に吹き込まれ、芽衣の意識が揺すぶられる。あっという間に我慢の限界を超えて、身体が快楽の頂点へと駆け上がった。女社長は少年に嬲られ、今日何度目かわからない絶頂を迎える。
ビュル、ビュル、ビュッビュッ
「やだぁ……は、恥ずかしいの……」
芽衣は羞恥心に染まりながらも、快感に溺れてうっとりとその身が崩れ落ちる。唯は優しく彼女の身体を支えると、愛液と精液でドロドロに汚れているソファ
に寝かす。本来ならばスーツが汚れるのでさけるとこだが、机の上はもっと汚れていて、床に寝かすことは最初から唯は考えていなかった。
「ゆ、唯くん……お姉さんともう一回しよう……」
「いいですよ。会社見学のお礼に今日はとことん付き合いますよ」
ソファに座って疲れた身体を休めていた由佳に誘われて、唯は彼女の手を引いて窓へと連れて行く。
「それじゃ、いきますよ」
「あんっ! は、入ってきた……」
バックからいきなり挿入されて、由佳は愉悦の声を漏らす。もう擦り切れるほどにセックスしているのに、身体が止まらない。唯のオチンチンが欲しくて堪らないのだ。膣も途絶えることなく、愛液を漏らし続けている。
「今度は由佳さんを見せる番だね」
「えっ?」
何のことかわからない由佳の太ももに手をかけると、唯は思いっきり足を広げさせた。倒れそうになる体を支えるために、由佳の上半身が窓に寄りかかる。
「や、やだ、何なの、唯くん……ひゃあん!」
まるで幼女がおしっこをさせてもらうような格好に、由佳の顔が真っ赤になる。これでは繋がっているヴァギナが外から丸見えだ。
「ほら、あそこのビルでこっちを見ている人が居ますよ」
「え、嘘? や、やあああああ、唯君、下ろして、下ろして」
「だーめ」
「いやあああ、いや、いや、やだぁ、いやああ」
泣き叫ぶ由佳を唯は軽いストロークで突き上げ始める。混乱した由佳は快楽と恐怖と羞恥心が混ざった刺激を受け、何が何だかわからないうちに頭が熱くなっていく。膣がぐしょぐしょに濡れてしまい、ポタポタと落ちた愛液がカーペットの上に池を作る。
「あれ、携帯かな? こっち撮ってるのかも……」
「いやあああああ、だめ、見ないで。唯君、やめて、人が見てるのよー!」
由佳が涙で顔をグシャグシャにしながら唯に助けを請う。だが唯は妖しく微笑みながら、ズンズンとアソコを突き続けるだけだ。
「見せ付けちゃいましょう。由佳さんの可愛い姿」
「や、やだああああああああぁ!」
羞恥心が頂点に達し、由佳の身体が大きく反れた。
ビュルル、ビュッビュッ、ドビュ
由佳の中にたっぷりと精液が出ると、膣が蠕動して唯の精子を奥へと運んでいく。美人女秘書はだらしなく口を開いたまま、エクスタシーに身を震わせている。心は誰かに見られたことを怖がっているのに、身体はその刺激さえも快感として受け止めて悦んでいる。
「ん、ごめんね由佳さん。苛めちゃって」
意識が朦朧としている由佳の頬を唯は口付ける。こっちを覗いている人間なんて元から居ないのだ。遠くのビルは既にほとんどの照明が落ちており、ビルの一番高くにあるこの階が見える場所は全て暗くなっていた。
嗜虐心に任せてしまい、こういうプレイに燃えてしまって唯はちょっぴり反省した。こんな柄にもないプレイをしたのは、意外に良かったからかもしれない。
その晩、精液と愛液と唾液と汗にまみれた芽衣、由佳、唯が戻ったのは夜中で、次の日に近かった。待ち構えていた他のガーディアン達が抗議しても、二人は
口論する気力も無い。黙って四十万円近くの寿司代を払うと、芽衣と由佳は自室に戻っていった。とにかく快感でボロボロだったので、シャワーを浴びて寝た
かった。次の朝はきっと心地良い寝覚めだろうが、今は唯の愛を抱きながら眠りにつきたかった。
ちなみに唯はエッチ専用の寝室に引っ張り込まれて、待っていた他の女性達の相手を散々させられたそうだ。普段より人数が少なかった分もあり、存分に楽し
めたのでガーディアン達は満足だったらしい。唯はよくこれだけセックスして、まだ精液が出るもんだと自分の体を自分で呆れていたそうだが。
余談だが、この話にはまだ続きがある。
「芽衣さん、ちょっと話があるんだけど……」
「はい、何でしょうか、唯様?」
夕飯後にビジネス誌を読みながら、リビングでリラックスしていた芽衣は唯の言葉に振り向いた。唯が済まなそうな顔をしているので、何事かと芽衣は訝しむ。
「どうなされました? 何かお困りですか?」
「うーん、困ったと言えば困ったことなんだけど……さっき、営業の佐藤さんから電話があって……」
「営業の佐藤?」
言葉はわかるのだが、芽衣は一瞬だが何を言われたか内容を理解できなかった。
「も、もしかして、うちの佐藤ですか!?」
「うん。それで、契約にミスがあったって話で……」
「な、何ですって!? あ、べ、別に唯様が悪いわけでは無いのでして……」
思わず我を忘れて声を荒げてしまったが、心配そうな唯の姿に慌てて声のトーンを落とす。
「それで、芽衣さんとの間を仲介して欲しいって……泣きながら頼んできたから、出来れば許してあげて欲しいんだけど」
「な、何で営業課のあいつが……い、いや、その分かりましたが……どうして、ゆ、唯様の電話番号を知っているのよー!?」
芽衣は柄にも無く、頭を抱えて苦悩する。唯をダシに使われたのなら、激怒するわけにもいかない。本来ならばじっくりと責任を追及しなければならないのに、酷いジレンマだった。
「唯君、ほいほい電話番号を知らない人に渡しちゃダメよ」
由佳も心底困ったような顔をする。
「でも、芽衣さんの会社の人だったから……」
「いや、その……ああ、もう。あいつら明日とっちめないと……」
一応、唯の言うことは正しいので由佳は何とも言えない。折角のアフター5なのに、由佳は仕事で疲れたように、ぐったりと息を吐く。部下達の思わぬ手に会社のトップ二人は、げんなりとした。
その後も何度も唯は芽衣との仲介をする羽目になった。そしてある日、大量のお中元が御礼に届いて、少年は相当驚いたという。