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「そういうことでお話はまとまりましたか」
「うん、それでどうかな?」

 店の店主に唯が笑いかける。店内には古そうな家具、皿、壷、掛け軸、刀剣に武具などが所狭しと並べてある。
唯は飯田の店にやって来ていた。自ら悪魔と名乗る彼に前日話し合った結論をついさっき話し終えたとこだ。

「その条件で充分です。提案を聞いて頂けるかは、半々だと思っていましたので……とりあえずということでも、こちらとしては一向に構いません」
「それじゃ、よろしくお願いします」

 頭を下げる飯田に唯もペコリとお辞儀を返す。相手が人間では無いかもしれないというのに、唯にはあまり警戒感が無い。

「早速ですが、こちらを……」
「これ、何ですか?」

 プリントアウトされた何かのリストのような物を渡され、唯が目を通す。

「悪魔達の潜伏先と偽名、職業などの一覧です。小者ばかりですが、上級悪魔や師団長クラスの情報が入ってもお教えしますので」

 確かにリストには下級とランク付けされたものがほとんどで、中級という文字がほんの僅かにあるだけだ。それ以外は普通の名簿に見える。

「それじゃ、芽衣さん達に渡しておきますね。僕はよくわからないんで」
「よろしくお願いします。表にいる九竜さんにもよろしくお伝え下さい」
「あ、気づいてましたか」

 飯田の指摘通り、唯の警護として京が木造で建築された店舗の外で待機している。

「まあ、こういう稼業なので、用心深いことに越したことはありませんので」

 頬をかく唯に飯田は淡々と返事をかえす。確かに何の力も無い悪魔が、のうのうと仲間の情報を敵と目される人物に売るわけが無いだろう。普通とは違う警備や監視システムがあるのだと、唯は理解した。
話が終わったと見て、唯は腰掛けていた上がり框から立ち上がると、出口へと向かった。

「それでは失礼します」
「お気をつけて。またいらして下さい」

 飯田の声に送られて、唯は引き戸を開けて外に出た。
 唯が店外に出ると、黒いバイクに体を凭れていた京がすかさず彼に歩み寄る。彼女はバイクスーツを着ており、相変わらず前のジッパーを下げて大きく胸を開けていた。モラル的にはまずいのだろうが、京にそういうことを言っても通じないのを唯はよく知っている。

「どうだった?」

 京はいつも同様に何処と無く機嫌悪そうな表情で聞いてくる。だがその目に微かな安堵が浮かんでいるのを、唯は気づいていた。

「とりあえず悪魔達の潜伏先のリスト貰ったけど」
「信用できると思うの?」
「わかんない……っていうか、それを調べるのが京さん達のお仕事でしょ」

 リストの紙をデイバッグに詰めながら、唯はにっと京に笑う。それに対して京は渋い表情を見せる。

「ガセだと無駄足。罠かもしれないし」
「とりあえず、調査が先でしょ。頼んだよ」

 京を目で促し、唯は彼女と共にバイクにまたがった。唯がヘルメットを被り終え、腰に手を回すのと同時に京は手元のアクセルを捻る。まだバイクの二人乗りに慣れない唯がギュッとしがみつくのを面白がってか、京はかなりの急スピードでバイクを走らせた。






「なあ、麻生。今度おまえの家に遊びに行っていいか?」

 翌日、昼休みの教室。いつもの五人グループが机をつけて、弁当を食べようかというときに竜太が提案してくる。突然の提案に唯はきょとんと彼を見る。

「うーん、僕ももう一人暮らしじゃないし……何でまた?」
「ほら、新しいビーエフ出たからさ。今度のは対戦も出来るし」

 竜太が言っているビーエフとは、ゲームの名称だ。ビーエフはそこそこ人気のあるコンシュマーゲームで、一部の熱心なプレイヤーは膨大な時間を費やしてい るらしい。前作はグループ内で流行して、一時期は唯も相当やり込んだものだ。だが引っ越した後はゲームのコンソールもしまったままで、ダンボールの中で 眠っている。

「ああ、やりたいなー。それ、菊池の家じゃダメなの?」
「い、いや。うちはいま色々とあってだな」

 いつもは両親が共働きの慎吾の家を、もっぱら三人は遊ぶときには利用している。慎吾の両親は夕方になってもなかなか帰らず、あまり気兼ねする必要は無い からだ。逆に竜太の家は母親が有名な家庭教師グループの講師をパートでやっており、子供達が家に来るのでめったに集まることはなかった。

「可奈の家は狭いし」
「物が一杯あるだけよ。悪かったわね」

 竜太の言葉に可奈が眉をしかめる。家具がやたらと多く、置物が一杯ある可奈の家は一軒家の大きさに比べて手狭な感じがした。唯が竜太から聞いた話だと、両親が置物を飾るのが好きらしい。

「新田さんの家は?」
「あのな、女の家に大勢で押しかけてゲームするのか?」
「うちは別に構わないけど……」

 おっとりとした声で許可するこのえを竜太と慎吾は目で抗議する。それを察して唯がおずおずと口を開く。

「一応聞いてみるよ。多分大丈夫だと思うけど……」
「本当か?」
「やった」

 竜太と慎吾が手を取り合って喜ぶ。可愛い少女ならともかく、男同士がやるとあまりいい絵ではない。

「それで、九竜さんは普段はいつごろ家に居るんだ?」
「やっぱりそれかい……」

 唯に顔をくわっと近づけた竜太に、可奈は呆れた声を出す。彼の美少女、美女好きは今に始まったことではないので、可奈は軽く突っ込むだけで特に何か言う気もおきない。

「えっ? うーん、よくわかんないな。家でゴロゴロしてる時が多いけど、ふらりと出かけて夜遅くまで帰らないこともあるし」
「何とか会うことはできないか?」
「い、一応それも聞いておくよ……」

 唯の言葉に竜太と慎吾の顔がパーッと輝く。ここに来てようやく二人の狙いがわかって唯は苦笑する。

「田中さんと新田さんは来るの?」

 あらかじめ学食で買っておいたおにぎりを食べつつ、唯は話題を女性陣へと振る。

「もちろん、一緒させてもらうわ」
「ええ、よければ一緒に行かせて」
「おいおい、何で可奈たちが来るんだよ。俺達のハッピータイムを邪魔する気か?」
「だって、あんた達絶対に何かやらかしそうなんだもん。ハッピータイムとか言ってる時点で危ないのよ」

 竜太の抗議に可奈はにべもない。「それに……」と言って、可奈はにやけた目つきで唯の顔を見やる。

「な、なに?」
「麻生君と九竜さんの関係も気になるし」

 邪な瞳で自分を見る可奈に、唯も竜太達同様に思わず気圧される。見ればこのえも笑っているが、その目は好奇心に満ち溢れている。以前、問い詰められた嫌な記憶が唯の脳裏を掠める。

「はぁ、とりあえず今晩聞いたら、みんなにメールするから」

 四人は唯の返事に嬉しそうな声をあげる。四人の期待を一心に背負いつつ、唯はカツサンドにかぶりついた。






 都内某所の撮影スタジオ。撮影の準備で大勢の人間が右往左往していた。かなり大掛かりな撮影らしく、色々な機材の搬入などがされている。指示があちこち飛んでおり、ときたま怒声も聞こえてくる。
 そんな混沌としているスタジオの扉に芽衣の姿があった。

「ちょっと……あなた、少しいいかしら?」

 彼女は一歩に中へと入り、ちょうど手近にアシスタントらしき若者に声をかける。若者はドリンクが詰まったコンビニの袋を持っている。

「はい、何です?」
「流さんは何処かしら?」
「流って……流楓さんのことですか?」
「ええ、今日ここに撮影しに来ているんでしょ」

 流楓は有名プロ野球選手で、女性初のプロとして巷でも話題の人物だった。今日は彼女のCM撮影がここで行われる予定になっている。

「あの、部外者は立ち入り禁止なんですけど」

 スーツをビシッと決めた美人のビジネスウーマンを一介のファンと見誤ったのか、若者は胡散臭そうに芽衣を見る。それに対し芽衣の目がスッと細まり、きつい光を帯びる。

「あなた、責任者を出しなさい」
「え?」
「責任者を出しなさいと言ってるの」

 偉そうに腕組みをする芽衣に圧され、渋々彼は大声を出す。きつそうな美女と関わりたくないという心理も作用したのかもしれない。

「監督、ちょっといいですか? この人が責任者出せって」
「あー、何だ? このクソ忙しいときに」

 面倒くさそうにやってきた中年の小太りの男は、芽衣の姿を見るや顔色がさっと変わる。

「こ、これは金城様」
「監督、誰ですこの人?」
「ば、馬鹿。ミラージュの社長さんだ」
「え、それじゃ……」

 今日のスタジオでの撮影はミラージュの新しい化粧品のコマーシャルだった。自分達の雇い主だと気づいて、ようやく若者は自分の過ちに気づいた。

「連絡はしておいたはずだけど、聞いてなかったかしら?」

 不機嫌そうにちらりと若者を見る芽衣の目に、監督の顔面は真っ青だ。

「こいつが何かやりましたか? すぐにでも首を切りますので」
「そ、そんな……」
「別に気にしないで。撮影に必要なんでしょ」
「す、すみません。とっとと仕事に戻れ」
「はいー!」

 監督の怒鳴り声に若者は逃げるように去っていく。
監督の剣幕も無理もない。新興の小さなプロダクションにわざわざ大きな仕事を与えてくれたのは、ミラージュだったからだ。自分達を高く買ってくれたおかげで、最近はそこそこ仕事が入り経営も順調だが、ミラージュにいま契約を打ち切られては元も子もない。

「それじゃ、楓のとこに案内してくれるかしら」
「はい、すぐに」

 監督に付き添われて芽衣は撮影機器を縫って奥へと足を運ぶ。撮影スタジオを横切り、すぐに椅子に腰掛けてメイクされている女の前へと彼女は案内される。

「お久しぶり、楓」
「芽衣か……」

 ショートヘアーの前髪を上げられている女が芽衣を目だけで見る。メイク係に顔を弄られている所為か、まったくの無表情を崩さない。能面のような顔は感情を全く表していない。
 楓も芽衣と同じガーディアンの一人だった。仲間ということもあって、ミラージュは格安でプロ野球選手である楓をコマーシャルに起用することができた。彼女のCM効果はとみに高く、ミラージュの業績に一役買っている。

「ちょっと席を外して頂けない? プライベートで話があるの」
「はい、それでは……」
「後でまた改めて、ご挨拶させて頂きますわ」

 監督とメイク係はぺこぺこしつつ、すぐにその場から去る。監督も一部のスタッフも二人が旧知の仲であることは知っていた。クライアントからの頼みとなれば、撮影が多少遅延しても仕方ないと理解している。
周囲を見回して誰も近くに居ないのを確認してから、芽衣が改めて切り出す。

「いつも済まないわね。コマーシャルに出るの嫌いなんでしょ?」
「芽衣の頼みなら仕方ない……だけど、化粧品というのがね」
「あなた、昔から化粧しないものね」

 口紅をテーブルの上から手に取り眉をしかめる楓に、芽衣は苦笑する。楓は美人だが、昔から色気や化粧などという単語とは無縁だった。髪も面倒という理由だけで、ショートヘアーにしている。

「それで何? 礼を言いに来ただけというのも別に構わないけど、用があったのではない?」
「それよそれ。実は頼みたいことがあって……ちょっと魔物狩りに手を貸してくれない?」
「あなたの手に余る奴がいるの? 今は由佳と一緒に行動しているんじゃないの?」

 楓の言葉が僅かに熱を帯びる。能力者が二人居て倒せない相手と言えばよっぽどの力を持つ相手か、それともそれだけ数が多いのか。

「いや、相手自体は大したことはなさそうなんだけど……」
「じゃあ、何が問題なの?」
「情報ソースが信頼できなくてね。由佳、雛菊、ミシェル、京、それに私で五人居るんだけど、とりあえず二人づつで組を作って当たりたいと思って」
「そう……」
「罠の可能性が排除できないから。それに、あちこち調べなくちゃいけないし。まあ、相棒には由佳をつけるからコンビについては心配しないで」

 芽衣の言葉に楓は無表情に何度か頷く。暴走気味の京、自分と同じ朴念仁の雛菊とのコンビではないことは賢明そうな判断だ。だが、ふと何かを気づいたように楓は芽衣を見やる。

「五人も揃っているの? 珍しい」
「ええ、まあね」
「あの京まで居るの?」

 僅かに目を逸らす芽衣に楓は疑惑の目を向ける。京は昔から風来坊で常に単独行動をしていたため、仲間が会うことでさえ珍しかった。楓は別に京を嫌いではないが、彼女は自分を何となく嫌っているのは知っている。

「もしかして、主が見つかったんじゃないの?」
「う、うん。実はそうなの」
「隠していたの……何かまずいことがあるの?」
「いや、そんなことは無いんだけど」

 言葉を濁す芽衣を楓は怪訝そうに見る。今までの主達には散々手を焼いているのを知っているから今回も同じではと疑ったのだが、どうやらそうではないらしい。しかし、それが何かを楓は思いつくはずもない。

「とりあえず、今度ちゃんと唯さ……主に紹介するから、それまで待っていてくれない?」
「別に構わない」
「それじゃ、撮影頼むわよ。ちゃんといい演技するのよ」

 そそくさと去っていく芽衣に楓は怪訝そうに首を捻った。






「友達?」

 夕食のテーブルにて、唯の言葉に由佳が返事を返す。席には芽衣、雛菊、京、ミシェルなどと今までのメンバーが全員揃っている。既に食事は始まっており、盛り付けられた料理が減っていた。

「そう。四人ほど来たいって、言っているんだけど」
「私は構わないけど……」
「私も歓迎致しますわ。是非ともお連れ下さい」
「じゃあ、今週の土曜日にでも……」

 由佳と芽衣の快い返事に唯はほっとする。これで友人達の期待に応えられると思った矢先、彼は大事なことを思い出した。

「京さんは土曜に用事ある?」
「ない。それがどうしたの?」

 味噌汁を飲みながら、京は唯に鋭い目つきを送る。きつい目つきはいつものことだ。

「いや、家に居て欲しいんだけど。その、友達が会いたいって……」
「わかった。部屋でゴロゴロしてるから、適当に呼び出して」

 素っ気無い返事だが、唯はほっとする。京は危ない言動が多いが、唯のことはかなり素直に受け入れてくれている。夜の生活でお互いに愛し合っている仲なので、おかしくはないが。

「はいはーい! 私も多分家にいるから。学校休みだし」
「別に私達が出る幕は無いだろう……」

 手を上げてアピールするミシェルの明るい声に、雛菊が呆れたように突っ込みを入れる。同じ学校で教鞭を取っているらしいので、性格が一見大きく違う二人も休みも一緒だ。

「そういえば、全員にお願いがもう一つあるんだけど」
「はい、何でしょうか?」

 唯の言葉に雛菊が今度は答える。全員というからには、雛菊も含まれているから反応したらしい。

「その……他の人の前では唯様っていうのは止めて欲しいんだけど」
「ああ、そうよね。それは困っちゃうでしょうし」

 由佳が提案にうんうんと頷く。確かに知人に唯様などと呼ばれていると知られたら、トラブルになるのは目に見えていた。

「唯くん……これでいいかな?」
「うん……普段もそれがいいかな」

 にっこりと笑う由佳に唯が相好を崩す。優しいお姉さんという雰囲気の彼女にはそういう呼び方が似合っている。

「私は普段通り、唯でいいわね」
「はいはい、唯くーん。これでいい?」

 むすっとした顔をしながらも頬の赤い京が口を開き、ミシェルが続く。

「二人はもう少し遠慮しろ……馴れ馴れしい」

 あっさりと呼び方を変えた京とミシェルに雛菊が苦虫を噛み潰したような顔になる。

「それなら、雛菊やってみなさいよ。出来るでしょ」
「え、えっと……ゆ、ゆ、ゆ……」
「ゆ……何?」

 緊張して声が出てない雛菊に、今度は逆に京が呆れたように見る。雛菊は真っ赤になって、小声を搾り出す。

「ゆ、唯くん……」
「何をそんなに恥ずかしがっているのよ。ウブな処女じゃあるまいし」
「ど、どういう意味だ」
「もうセックスしてあんあんよがっているんだから、恥ずかしいことなんて無いでしょ」
「た、叩き切る」

 京の冷静でいて容赦の無い言葉に、雛菊は今度は怒りで真っ赤になる。おしんこを食べている京に、雛菊は今にも飛び掛りそうだ。
 諍いを始めた二人の間を唯の言葉が割ってはいる。

「あ、あの二人とも……そんな事で喧嘩したら、僕が恥ずかしいよ」
「ほら、雛菊のせいよ」
「ば、バカ。す、済みません唯さ……唯くん」

 練習のつもりみたいだが雛菊の声はまだぎこちなさが取れていない。最後に残った芽衣が唯に笑顔を向け、

「唯くん……これでいいでしょうか?」
「うん、オッケーだよ」

 芽衣は事無げに言ってのけ、唯もこれにはほっとする。彼女は畏まって常に敬語だったので、唯は多少心配したが取り越し苦労だったようだ。だが芽衣は自分の台詞でうっすらと頬を染める。

「何だか恋人みたいで恥ずかしいですわ」
「あ、うん」

 芽衣の言葉に全員が照れてしまい、ディナーテーブルに沈黙が下りる。唯も恋人と言われると恥ずかしいやら嬉しいやらで、何とも言えない気分だ。

「そういえば、お昼ご飯はどうする? 良ければ作るけど」
「ああ、お願いします」

 由佳の好意を唯は素直に受ける。芽衣は唇に指を当て、うーんと考える。

「男の子四人ですと、結構な量を用意しないといけませんわね」
「ああ、男子二人女子二人だから、そんなにはいらないはず」

 唯の言葉に場が凍りついた。夕食のテーブルにさっきまでの温かい雰囲気が一変、ブリザードが吹き荒れる。温度は変わっていないというのに、まるでシベリアのような寒さがこの場に張り詰めた。突然の変化に唯は周りを見回す。

「あれ……えっと……」
「そのお二人の女子についてもっと聞きたいですわ」

 全員を代表して芽衣がにっこりと聞く。見れば全員が笑っているが、目の光が常とは全然違った。京がうっすらと笑っているのには恐怖さえも感じてしまう。

「えっと田中さんと新田さんのこと?」
「田中さんと新田さんと仰るんですね」
「田中さんは山田の幼馴染かな。随分仲がいいみたい」

 唯の言葉に僅かに場の緊張が和らぐ。それに構わず唯は言葉を続ける。

「新田さんは田中さんの親友で、大人しい子だね」
「それで付き合ってる方は?」
「付き合ってる? ああ、彼氏はまだ居ないみたい」
「そうですか」
「あ、でも菊池が狙ってるみたいなこと言ってたな」

 唯の言葉を一言一句を全員が頭に刻みつける。誰も聞き逃す様子は無い。

「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」

 食器をカートに乗せると、唯はその場を後にする。由佳は返事をしてくれたが、誰も食事が終わっても動こうとしない。例のリストについて何か話し合いがあるのだと思って、唯は何も言わずに去る。だが、実際の議題は全く別のことだった。

「新田さん……ね」
「これは調べなくちゃ」
「田中さんってのも万が一ってのことがあるわ」
「そうね、要チェックと」

 五人の美女は額を寄せ合って、ひそひそと真剣な表情で会話をかわした。話しは土曜日当日の対応にまで及んだ。






 土曜当日。休日の朝としてはかなり早い時間に彼らはやってきた。

「お邪魔しまーす!」

 インタホーンに反応して唯がドアを開けると、挨拶もそこそこに四人は玄関へと入ってきた。

「うわ、何だかここって広くね?」
「まあ、社長さんの家だから……」

 長い廊下に竜太が辺りをキョロキョロと見回す。マンションの一室にしては廊下が長く、奥行きがありそうだと感じたようだ。そしてリビングに入ると、広い家との想像が正しいと四人はわかった。

「うわ、広い」
「すげー」

 広く開けたリビングに竜太達は絶句する。天井も高く、何十人が入っても良さそうなくらい広いスペースだからだ。

「うお、あれもしかしてテレビ?」
「何か凄い家に来ちゃったのかな?」

 壁にかけられた見たことの無い程に巨大なテレビに竜太が感嘆の声をあげ、可奈が思わず絶句する。だが驚くのはまだ早かった。

「どうも、いらっしゃいませ」

 甘い響きに四人が振り向くと、芽衣がにっこりと柔和な表情を作って、隣室からやってきた。その顔を見て可奈とこのえが声をあげる。

「も、もしかして社長さんって……ミラージュの金城さん?」
「う、うそ……本当だわ」
「はい、金城芽衣です。どうぞ、よろしくお願いしますわ」

 可奈とこのえは悲鳴のような声をあげながら、飛び跳ねて嬉しさを全身で現している。その二人に竜太と慎吾は驚きを禁じえない。

「お、お前達、どうしたんだ?」
「だって、ミラージュの社長さんだよ。ファッション界のカリスマよ、カリスマ」

 初対面の人の前ではしゃぐ幼馴染に竜太は理解できないような顔をする。

「要は僕達から見たら、ゲーム会社の社長とかプロデューサーに会うのと同じじゃない?」
「ああ、なるほど」

 唯の言葉に竜太と慎吾はようやく納得いったように頷く。もし自分達もビーエフの開発者と会う機会がなどがあれば、絶対に興奮するのはわかるからだ。

「皆さん、立ち話もなんですから、どうぞお座り下さい」

 芽衣に促され、唯と四人はソファへと移動する。

「いつも唯くんがお世話になっているそうで」
「いえ、そ、そんな大したことじゃないですよ」

 芽衣が頭を下げると、慌てて四人も頭を下げる。社長という地位なのに腰が低い相手に、却って恐縮したようだ。先ほどは女子達の反応に気がいってしまったが、芽衣が美人だということに気づいたらしく、竜太と慎吾は余計に照れているようだ。

「はい、皆さんどうぞ……紅茶で良かったかしら?」

 由佳がトレイに乗せてティーカップを運んでくる。友人達が来るということで、用意は怠っていなかった。

「あ、ありがとうございます」

 これまためったに居ないような美人のお姉さんに、竜太と慎吾の注意が由佳に向く。二人が何を考えているのかは、唯にも容易に想像がつく。

「唯、友達来たのか?」
「やっほー」
「失礼します」

 そして予め待っていたかのように今度は京、ミシェル、雛菊が廊下のドアからやって来る。やはり、唯の女友達が来ているということで、どうしても気になったのだろう。

「うおぉ、すげー」
「み、見ろよ、山田。外人さんだぞ、パツキンだぞ」
「ハーイ。そんなに珍しいかしら?」

 早速ミシェルが竜太と慎吾のノリに合わせて返事をした。興味津々の二人のために、サービスのつもりか隣に座る。慎吾のあまりにもストレートな台詞に唯は思わずこめかみを押さえた。だが、慎吾はそんなことに構わず、素直に自分の思ったことを口にする。

「はい、凄いです」
「うふふ、ありがとう。私はミシェル、こっちから由佳、雛菊、京……京は会ったことあるわよね」
「き、菊池です」
「や、山田です」

 Tシャツ姿のミシェルや京などに、二人の視線は釘付けになっている。いや、薄いシャツに覆われた胸元に釘付けと言った方が正しいかもしれない。少し大きめのサイズのTシャツのはずなのに胸元がきついらしくて、うっすらとブラジャーの形が見える。

「いや、京さんも相変わらず綺麗ですね」
「お世辞を言われても何もでないわよ」

 二人は京もついでに褒めるが、本人はいたって平然としている。竜太と慎吾の露骨な視線にも平気なようだ。
 男性陣とは別に女性陣は芽衣、由佳と話しこんでいる。

「金城さん、わたしミラージュの口紅大好きなんですよ」
「私はファンデーション使ってます」
「あら、ありがとう。由佳、そろそろ新作がうちから出るわよね」
「良かったら、試供品使ってみる?」
「うわー」
「あ、ありがとうございます」

 当初の目的を忘れて話し込む四人に、唯はため息をつく。自分を置いて話し込む四人に彼は少々呆れ気味だ。そんな唯に会話の輪から外れていた雛菊が自然に近づく。

「どうなさいました、唯様」
「あ、雛菊さん。呼び方気をつけて」
「そうでした。唯君……」

 雛菊はまだ慣れていないのか、思わず頬を染める。言い方も少し練習したらしいが、どことなくぎこちなさが残る。

「いや、置いてけぼり食っちゃって」
「ああ、なるほど。まあ、四人とも物珍しいのでしょう」
「そうなんだけどね」
「でも、良い友人を持ちましたね、唯君。見ていてわかりますわ。仲がよろしいんですね」
「そ、そうかな?」

 雛菊の台詞に今度は唯が照れる。何だか友人が褒められることに、くすぐったいような気持ちを覚えるのだ。自分を褒められても謙遜できるが、友人となればそうもいかない。

「でも、あの二人……菊池君と山田君でしたっけ? 私の胸ばかりを見るのは何とかならないでしょうか」
「ご、ごめん。後で注意しておくから」






「お邪魔しましたー」
「うん、また月曜にね」

 すっかり外に闇のとばりが降りた頃、ようやく四人は唯の家を後にした。
四人とも、最初はすっかり会話が弾んで、唯を置いて相当喋りこんでしまった。可奈とこのえに至っては芽衣と由佳にメイクの講座まで受けて喜んでいた。その 後はトランプや、慎吾が持ってきたツイスターゲームで盛り上がったりして、夕飯をご馳走になってやっと家に帰る気になったらしい。
 四人はエレベーターを待ちながら、早速今日のことを喋り始める。

「ふわあ、楽しかったぁ」
「あんた達、横で会話聞いてたけど、恥ずかしかったわよ」
「ちょっと待て、どういう意味だよ」

 可奈のいつもの呆れたような言葉に、竜太が食いつく。

「あのね、スリーサイズとか聞いてたでしょ。それってセクハラじゃないの?」
「うっ……そういう可奈こそ、麻生のプライベートを根掘り葉掘り聞きやがって」
「あっ……べ、別にいいじゃない。それにツイスターゲームって何よ。いやらしい目的でもあったんじゃない?」
「ぐあっ……も、持ってきたのは菊池だ」

 竜太が責任転嫁すると、慎吾は済まなそうな笑みを見せる。

「いや、実はいやらしい目的でした」
「……あのね、菊池君。少しは言い訳しなさいよ」

 幸せ一杯の慎吾に、さすがの可奈も突っ込む言葉が無い。すると、すかさず竜太も反撃に転じる。

「そういう可奈だって、何だか一杯お土産貰って……ちょっとは遠慮しろよ」
「うっ……だって、その……」
「うふふ、少し貰い過ぎちゃいましたね」

 可奈の顔が赤くなり、このえは嬉しそうに笑う。紙袋一杯の化粧品や香水、ヘアケア、ボディケアの商品を貰った二人は正直に言えば、「ちょっと欲張ってしまったかも」と思っていた。

「でも、竜太と菊池君の視線、あからさまでこっちが恥ずかしかったわ」
「しょうがないだろ……その、凄かったから」
「確かに凄かったわね。全員、バイーンって感じだったもんね」

 唯と同居している女性全員が巨大な胸だったことに、全員が驚いたということで異論は無かった。胸パットという可能性も考えたが、Tシャツやブラウスなど の薄着から垣間見えた胸の谷間は本物だった。ちなみに竜太と慎吾はツイスターゲームでさり気なく体で胸を触ったが、明らかに本物だと確認している。

「全員美人だし、あんなに胸があってもウェストの細いこと……女性としての自信無くすわ」
「やはり、ミラージュの美容グッズの力でしょうかね」
「そうよ。それなら、これで綺麗になってみせるわ」

 このえの言葉に、可奈の闘志が燃え上がる。今晩から、貰ったパックなどで顔を整えて、美しくなると決意したらしい。

「素材が違うんじゃねえのか?」
「あ、あんたは……いっぺん死んでみる?」

 竜太の言葉に可奈が激怒していたところで、エレベーターが音を立て到着をしらせる。乗り込もうとした四人は、中に一人の女性が乗っているのを見て、慌ててスペースを空ける。

「………」

 サングラスと帽子を被ったその女は、四人の間を抜けてそのままマンションの扉の前に立つ。四人はずっと見ているわけにもいかず、エレベーターに乗り込む。

「あの人、麻生君の家に用事かしら? この階って麻生君の家しか無いよね」
「さあ……でも、何処かで見たことあるんだよな……」
「気のせいじゃない?」

 エレベーターはゆっくりと下に動き始めた。






「つ、疲れたー」

 リビングに戻ると、唯がぐったりソファに倒れ込む。普段はこんな行儀の悪いことはしないので、よっぽど疲れたのかもしれなかった。

「お疲れ様でしたわ」
「どうしたの? 何処に疲れるようなことがあったのよ?」

 芽衣のねぎらいの言葉とは正反対に、京は呆れたような言葉を出す。

「だって山田とか菊池とか、見てられないんだもん」
「ああ、あいつらね。あんなに露骨に胸を見られたのは久しぶりよ」

 気疲れしたらしい唯に、京は頷く。若い性を露骨に猛らせている友人が傍に居れば、唯で無くとも疲れるだろう。

「別にいいじゃない。結構あの子達可愛かったし」
「そう?」

 ミシェルは嬉しそうだが、京は同意できないらしい。京は胸を服の上から見られるのは構わないが、あそこまでジロジロと見られるとさすがに気になる。
そうこうしているうちに、家の玄関のチャイムが鳴る。

「あれ、忘れ物かな?」
「ちょっと見てくるわね」

 食器を洗い終えた由佳が玄関へと出て行く。扉のロックを外すと、そこには思いがけない人物が居た。

「あれ、楓じゃない」
「久しぶり」
「どうしたの?」

 楓は外出用のサングラスを外し、帽子を頭から取る。

「いや、打ち合わせするなら早い方がいいなと思って」
「打ち合わせ?」

 表情一つ変えず、由佳の脇を抜けて楓はずかずかと上がり込む。仕方ないので、由佳もリビングへと案内する。

「芽衣、来たわよ」
「か、楓!?」
「打ち合わせに来たのだけど、迷惑?」
「いや、そんなことは無いけど……」

 慌てたような芽衣に、楓はタイミングがまずかったのかと思ったが、何か違うらしい。ちらちらと何かを見る芽衣の視線の先を追うと、こちらを見ている少年が居た。
楓の内なるガーディアンの能力の一つで、その人物が誰だか彼女にはすぐわかった。

「これは、主さま。流楓です。どうぞ、よろしくお願いします」
「あ、ど、どうも。麻生唯です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 楓がお辞儀すると、唯もペコペコと返礼する。突然現れた自分の従者に、唯はただ驚くしかない。
目を上げた楓はじっと自分の主を見つめる。唯はその無表情な顔に多少、圧迫感を感じてしまう。

「楓さんって、あのプロ野球選手のですよね?」
「はい、退魔業の片手間に少々」
「か、片手間なんだ……」

 女性初のプロ野球選手なのに、彼女はちっとも誇りに思っていないような口ぶりだ。楓はある程度唯を見た後は、もう彼に興味は無いとばかりに芽衣に目を移す。

「芽衣、打ち合わせに入っていい?」
「あ、うん。唯様、ここは私達に任せて、お部屋に行ってお休み下さい」
「うん、わかった。楓さん、また後でね」
「では、また後で」

 まったくの無表情の楓に困惑しつつ、唯はリビングを出て行く。テレビで何度か唯も楓を見たことはあるが、確かに喜怒哀楽のどの表情も見たことが無かった。そのクールさも売りなのだろうが、何処と無く非人間的な感じを纏っている。

「早速だけど、情報とやらを教えて」
「わかったわ」

 芽衣は気持ちを切り替え、持って来た鞄から書類を取り出す。楓が来たからには早めに打ち合わせを済ませた方がいいだろう。芽衣、由佳、雛菊、楓は身を乗り出して書類に目を通し始め、京とミシェルは後を任せたとばかりにソファへともたれかかった。






「そういえば……唯様っていうのはどういう方?」

 打ち合わせが済み、楓は由佳に作ってもらった夕飯を食べていた。残りの五人も楓に付き合い、リビングで紅茶を飲んだり菓子を摘んでいたりしている。

「どういう方と聞かれてもね……」
「とっても素敵な方よ」

 京のぶっきらぼうな言葉を遮り、芽衣が断言する。楓はそれで納得したのか、

「素敵ね……そう」
「やっぱり気になる」
「うん。素敵だというのなら、抱かれてもいい」
「げほっ、げほっ」

 楓のストレートな表現に、雛菊と芽衣が思わず飲んでいた紅茶にむせる。楓はときどき真面目な顔をして、突拍子もないことを言う。

「だけど、私は抱いてもつまらないらしいから、抱いてはくれないかな?」
「つまらないって……」
「世間ではマグロと言うわ」
「ああ、そういえばそうだったわね」

 芽衣が同情したような目を楓に向ける。楓自身は淡々としたもので、特に気にした様子は無い。会話の内容がよく分からない雛菊が、ミシェルにこっそり近づき耳打ちする。

「マグロって何だ?」
「あら、知らないの。セックスしていても、あんまり反応が無くて積極的じゃないってやつよ」
「ああ、なるほど。だからマグロか……」

 楓がベッドの上で寝て、幾ら愛撫しても反応が無い姿を雛菊は容易に想像できた。確かにこれでは評判が悪いだろうと思ってしまう。
 芽衣も多少同情したのか、楓に提案する。

「とりあえず唯様に聞いてみる?」
「そうしてくれると嬉しい」
「ちっとも嬉しそうじゃないわね……」

 顔面をピクリとも動かさない鉄面皮に、由佳が突っ込みを入れる。果たしてこれで大丈夫か、早くも仲間達は心配になってきた。

「う、上手くいかなくても、私達がサポートするから」
「サポートできるの?」

 力強く宣言する芽衣に京は早くも諦めているようだ。全員ともこればかりは何とも言えない。
六人はひとまず一度あたってみようということで、唯の部屋へと移動することにした。何となく当たって砕けてしまいそうな気もするのだが。
 唯の部屋の扉をノックするが、返事は返ってこなかった。多少強引だったが、扉を開けて部屋に入る。案の定、唯は少年らしい無邪気な寝顔を見せつつ眠っていた。
 起こすのは気が引けたが、芽衣は思い切って唯の肩に手をかける。

「唯様、起きて下さい」
「……ん……あれ、もう朝なの?」

 寝ている唯を揺り動かすと、眠りが浅かったのか彼はすぐに身を起こす。ナイトスタンドの薄い明かりの下、自分の配下が全員揃っているのが見えた。彼女達 が服を脱ぎ始め、色とりどりの下着で飾ったその豊満な肢体を惜しげもなく晒しているのを見て、唯の意識ははっきりと覚醒した。

「え、えっと……もしかして、今日もしたいの?」
「いえ、今日はこの娘を抱いて欲しいのです」

 芽衣の合図で楓がススッと唯の前に出てくる。楓は白い無地のブラジャーとショーツをつけており、あまり下着姿は色っぽいとは言えない。だが張りのある大 きく突き出した胸、スポーツ選手らしく脂肪の少ない引き締まったウェストや腕には健康的な肉体美がある。そんなセクシーな体なのに表情は感情を表さずに固 まったままだ。

「唯様、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ」

 ベッドの上で正座をして四つ指ついて頭を下げる楓に、唯は慌てて正座して返礼する。その姿に五人は手で顔を覆ったり、天を仰いだりする。

「あ、あのね。何でそうなるの?」
「こう、もうちょっと色気みたいなものがないと」
「雛菊の方がまだましよ」
「酷い言われようだ……」

 仲間達が伝える忠告のどさくさに紛れて悪口を言われた雛菊は渋い顔をする。だが非難された当の本人は相も変わらず色気を出さないどころか、感情の起伏でさえも少ない。

「しかし、よくわからない」
「こうよ、こう」

 ミシェルが腕で胸を寄せ、蟲惑的な笑みを浮かべる。寄せた胸は大きな谷間を作り、腕の間から大きく零れだす。何度も見ている唯でさえ、思わず生唾を飲み込んでしまうような光景だ。楓も見よう見真似でミシェルと同じポーズを取る。

「こう?」
「……その無表情どうにかならない?」

 楓も充分にセクシーさをアピールするが、感情のこもっていない表情が台無しにしていた。誰もが、諦めたそのとき、

「ん……」
「唯様?」

 ポーズをとっていた楓に近づき、その頬に唯が口付けする。柔らかな少年のキスに、楓の目が僅かに揺れる。そっと唇を離すと、少年はにっこりと彼女に笑いかけた。

「楓さんは楓さんなんだから、無理しなくていいよ」
「ありがとうございます」
「一緒に楽しもうね」

 楓をベッドの上にそっと押し倒すと、唯は楓と並んで横になる。ブラを外し、仰向けになってもほとんど形崩れしない巨大な胸を露にする。

「楓さん……」
「………」

 胸をゆっくりと大きく揉みながら、唯は楓の唇に唇を重ねる。だが楓は無表情のままで、キスされているのに目を開いたままだ。残りの五人はハラハラとその光景を祈るように見つめる。

「楓さん、綺麗だよ」
「そうでしょうか?」
「うん、リラックスして……もっと素敵にしてあげる」

 唯は寝巻きを慣れた手つきで脱ぎ捨てると、楓の正面から抱きつく。豊満な胸の柔らかみを感じながら、首筋に顔を埋める。

「楓さん、綺麗だよ、とっても綺麗」
「唯様?」
「楓さんの表情、好きだよ。顔も凄く可愛いし」

 耳元で何度も唯が囁く。真心を込めて、愛を込めて。だがそれでも楓の体に変化は無かった。五人はもう無理なのではと思い始めた頃、

「ふわぁ!」

 ビクンと楓の体が跳ね上がった。顔に明らかに驚愕の表情が浮かんでる。

「楓さん、可愛い」
「ひぁぁぁあ! ゆ、唯様、これって」

 片手で胸の膨らみを優しく揉みながら、唯は何度も楓の頬にキスを繰り返す。白い頬がみるみる、りんごのように赤く染まっていく。楓の胸から甘い刺激が広がり、顔にどんどん熱が溜まっていってしまう。

「良かった。楓さんもきっと気持ちよくなってくれると思ってた」
「唯さまぁ……」

 転生を何度も繰り返した果て、初めて楓の胸に愛しさが広がる。その顔は今までの能面みたいな表情ではなく、恋する乙女だった。

「ふあ、あぁん……あ、あっ」

 楓の腰に馬乗りになり、唯は両胸を揉みしだく。体に暴風のように荒々しく広がる快感から逃れるように楓は体を捩る。シーツを命綱のように必死に握り、大きく皺を広げていく。

「楓さん、ここはどうなってる?」
「あ、あ、あっ……あぁん……や、待って」

 陰唇を指で軽く擦られ、慌てて楓は股を閉じて唯の手を挟む。濡れ始めたヴァギナはしっとりとした感触を帯びていた。

「こーら、足を閉じちゃダメよ」
「ふふふ、抵抗してはいけませんわ」

 芽衣とミシェルが楓の細いくるぶしを掴み、ぐっと股を開かせる。京と雛菊も示し合わせたように太股を押さえつける。

「楓さん、ちょっと我慢してね。もっと気持ちよくなろう」
「こ、これ以上は……ふわ、ああああっ!」

 唯の中指が膣口を探りあて、そっとその入り口を開く。中からとろりと零れ出た愛液を受けながら、細い指を中へと入れていく。

「あっ、あっ、唯さまが中にぃ!」
「ん、楓さんの中、気持ちいいよ」
「やっ、ああっ、は、や、あん」

 処女膜を傷つけないように指が慎重に中を擦る。楓のヴァギナからはひっきりなしに愛液が漏れ、膣内に溜まっていく。唯の中指がぐちょりぐちょりとかき回すたびに重く湿った音がする。

「あ、ああっ、ひっ、いやぁぁぁ、そこ擦っちゃだめぇ」

 指が軽くGスポットに当たったらしい。それだけで楓の体が跳ね、筋肉が緊張する。しかし両足をしっかり押さえつけられているため、自分の弱いところを責める指を止める術は無い。楓は自分が死んでしまうのではないかというくらい感じていた。

「えっと、指でいっちゃうと後で辛いと思うから……そろそろ入れるね」
「唯さまぁ……」

 中指を抜くと、どろりと愛液が中から溢れ出し、指とヴァギナの間に透明な液体が糸を引く。唯は楓の体の上に圧し掛かると、慎重に亀頭の先を膣口に向け る。楓はもっと凄い快感を期待する嬉しさと、壊れてしまうのではないかという恐怖の相反する感情に、ぎゅっと唯に抱きついた。

「楓さん、好きだよ」
「あ、あ、あぁぁぁあ! ひゃあああ」

 ずぶりと陰茎が膣に押し入る。シャフトは楓の処女膜を大きく広げ、ぶちりと破った。痛いのは一瞬で、痛覚は一瞬にして快感に押し流された。

「あくっ、はふう、ああああぁ!」

楓は体ごと快楽の海に沈められたように、頭が体についていかない。必死に唯を抱き寄せ、巨大な胸が少年の薄い胸板で押し潰される。

「楓さん、楓さん……」
「ひ、あ、ああっ、そんな……ふわぁぁぁあ!」

 大声をあげて楓が体を捩ろうとする。声を出してないと狂ってしまうような気がしてならない。

「だめぇ、そんなに入れ、入れ……あ、ああっ、突かないでぇ!」

ペニスを出し入れされる度に、頭をかき回すような強烈な感覚がするのだ。体中が悦びの悲鳴をあげ、限界を遥かに超えた快感を覚える。

「イク、イク、イクぅ……ゆ、唯さま、ゆるしてぇ」
「うん、最初はすぐにイッちゃうよね。僕もあわせるから、イって」
「ひぁぁぁぁ! た、助けて、イッちゃいますぅ!」

 どぴゅ、ぴゅるるるる、びゅっ

 頭を突き抜けるような感覚で楓の意識が吹き飛ばされる。凄まじい経験に魂まで飛んでしまいそうだ。自分を抱いてくれている唯の体を腕で抱き締めて、かろうじて正気にしがみ付く。膣内のペニスと子宮を犯す精液が楓の理性を容赦なく刈り取ろうとする。
 楓の膣はきゅうきゅうと唯を締め付ける。処女らしいきつめの膣壁も楽しむ余裕が今の唯にはある。精液を吐き出しながら、自分の体に湧き上がる満足感を楽しむ。不感症気味の楓を初めてイカせたという事実が、ちょっとした優越感を自分に与えていた。

「楓さん、大丈夫?」

 五分間動かず、たっぷりと時間を与えてから唯は顔を上げて楓を見る。びっしょりと汗をかいた彼女はまだ荒く息をついて、虚ろな目で唯を見る。唯の尿道から出し切った精液は楓の中にたっぷりと溜まっていた。

「唯さま……こんなの知らなかった。凄かったです……」
「良かった。じゃあ、次はゆっくりしてあげるからね」
「ちょ、待ってください!」

 頬にキスする唯の言葉に楓は慌てる。これ以上されたら、自分がどうなってしまうかわからない。だがゆっくりと膣内を陰茎でかき混ぜられると、さっきまでの荒々しい快感と違って、優しい温かみが胸に広がる。

「ふわぁ、唯さま……いい」
「どう、楓さん?」
「いいです……これって、凄いです」

 心がふわりと宙に浮くような、とても温かな感覚がする。くちゅくちゅと自分の中の蜜をかき回されるたびに、楓の下腹部から温かいものが広がっていく。それは今までの人生で感じたことの無い感覚だ。楓の胸が幸福感に包まれていく。

「唯さまぁ……わたしぃ……」
「楓さん、ゆっくりしようね」

 ぽーっと熱にうなされたような楓の唇を唯はついばむ。楓のきつかった膣はかき回す度に柔らかくなり、彼のペニスを包んでいくように変わっていく。温かい楓の中の凹凸がシャフトの表面を擦るたびに、唯の陰茎が喜びを感じてますます硬くなってしまう。

「はっ……はふぅ……すごい、いいです……唯さまのおちんちん感じます……」

蛇口を緩く捻ったかのように、自分の中から出てくる愛液が止まらない。精液と入り混じったそれは、尻の割れ目を伝って血と共にシーツに大きな染みを広げていく。

「こんな、凄いの知らなかった……あぁ……唯さまぁ、ずっとかき回していて」

 楓は唯の背中に手を回し、弱い力で抱きつく。少年のまだ幼さが残る体は、何とも言えない愛おしさだ。楓は普段の無表情からは考えられないほど、嬉しそうな顔でペニスのグラインドを楽しむ。

「あっ、ああ、どんどん高まっちゃいますぅ、唯さま」

 膣壁が上下左右に突かれるたびに、楓は唯を感じる。もうその身だけでなく、心まで溶かされてしまった。このまま自分が唯の慰みの道具にされてもいいと、心の底で感じる。

「唯さまぁ……そろそろイキそうです……はぁ……」
「うん、楓さんのイク可愛い姿が見たいな」

 唯の言葉が、楓の頭を甘い媚薬のように何も考えられなくしてしまう。ゆっくりと水の水位が上がるように、体一杯に悦楽が溜まってきて、理性の堤防を決壊させる。

「ふわっ……あん、あっ、ひゃん……あっ」

 膣が嬉しさを表現するようにペニスをキュッと包んで、楓はエクスタシーを感じる。全身を唯に捧げて、甘い甘い頂点に立った感覚を味わう。

「出すよ、楓さん」

びゅっ、びゅる、びく、びゅん、びゅるる

 楓がイッたのにあわせて、唯も余裕を持って彼女の膣内へと欲望を流し込む。精子が子宮へとまた流れ込み、孕ませようとするために熱を持ったまま楓の中へと溜まっていく。楓の恍惚とした表情と、膣の優しい愛撫の感触に唯はかなりの満足感を覚えた。

「ああっ……唯さまのを感じる……あったかい」

 二度目の精液を受けて、楓は幸せだった。自分に出してくれた、満足してくれた、これだけで痺れるような感覚がして、体が震える。もう既に心を唯に奪われた楓は、自分の体が性の奉仕できたことに無上の喜びを感じた。

「楓さん、良かったよ」
「はい……唯さまは最高でした」

 唯のおでこに対するキスを、楓は子供のように無邪気な表情でうける。

「あんっ」

 唯が膣からずるりとペニスを抜き出すと、どろりと愛液に包まれた白い塊が零れだす。

「ふふふ、唯さま。ご苦労さまでしたわ」
「楓も満足したようです」

 芽衣と雛菊が唯のペニスに顔を近づけ、舌でシャフトや亀頭を舐めて綺麗にする。ねっとりと纏わりついたゼリー状の愛液や精液に、唾液を混ぜて溶かして口に含む。嫌な顔一つせず、二人は嬉しそうにフェラチオでペニスを綺麗にしていく。

「あ、ありがとう」

美女の細やかな奉仕に、唯は恥ずかしそうに頬を掻く。まだ起った陰茎は、両方から受ける美女の舌技にまた硬くなってしまう。

「あらあら、随分と出されちゃったわね、楓も」
「うん……唯さま、凄いの」

 ミシェルが楓の膝を掴んで股間を広げると、精液が更にドロリと膣の奥から流れ出た。

「こぼしちゃうなんて勿体無いわ」
「あんっ」

 由佳がうっすらと艶笑を浮かべ、楓の膣口に二本指を入れる。温かなヴァギナの中で指を折り曲げて中から精子を掻き出すと、たっぷりと指に白濁液を指の上へと乗せる。ぐっしょりと濡れたショーツの布を引っ張り、由佳は自分の陰唇を露にする。

「唯くん……私にも頂戴……」

 精液まみれの指を由佳は自分の膣の中へと差し込む。既に愛液まみれの入り口は、二本の指をあっさりと飲み込む。

「唯さまぁ」
「私にも欲しい」

 ミシェルや京も楓からあふれ出た精液を掬い、自分の膣内へと入れる。その目は発情して、とろんとしている。

「それじゃ、皆にもするね」

 唯は自分を待ち焦がれる美女達を順番に押し倒していった。





「それじゃ、行って来ますね」
「はい、いってらっしゃい」

 玄関で靴を履く唯に由佳がにっこり笑いかける。芽衣や楓も学校に行く唯を見送りにきている。
 昨晩は全員を激しく愛して、結局唯達が寝たのは明け方近くだった。ミシェルと雛菊は寝ぼけ眼で既に学校へ向かい、京はまだ爆睡している。重役出勤できる 芽衣と由佳、それに今日は試合の無い楓が見送りにきたわけだ。ちなみに昨日の余韻をまだ味わいたいのか、今朝は芽衣と楓はバスタオル一枚で、由佳は裸にエ プロンだ。

(目の毒だよね……ま、またしたくなっちゃう)

 これには唯も苦笑して自分の性欲を抑えるしかなかった。昨日さんざんセックスしているのに、唯にはまだまだできる余裕があったのだ。

「それにしても、唯様。昨日は凄く良かったです」
「そう?」

 既に昨晩の面影を消し、無表情に言う楓に唯は首を傾げる。彼女の表情はどう見ても満足したようには見えなかった。

「唯様の精液、一杯出してもらって幸せでした」
「ぶっ、げほっげほっ」

 あまりにもストレートな楓の言葉に唯はむせてしまう。これが頬を赤らめながらとかならまだ対処しようがあるが、あまりにも無表情に言うので面食らってしまった。芽衣と由佳も絶句して、言葉も出ない。

「今度は出来れば唯様の赤ちゃんが欲しいです。毎日、これから楽しみにします」
「ちょ、ちょっと楓!」
「赤ちゃんなんて、まだ気が早いわよ。唯様はまだ中学生なのよ」
「私が育てるから」
「そういう問題じゃないでしょ!」

 たしなめる芽衣と由佳にも、楓は表情を崩さない。どうやらこの家に、また新たなガーディアンが増えるようだった。クールのように見えて情熱的な美女が。

(まだ気が早いってことは……将来、赤ちゃん作らなくちゃいけないのかな?)

 由佳の言葉が唯はちょっと引っかかったが、三人の止まらない口論に、彼はちょっと心配そうな顔であははと笑うしかなかった。























   































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