姉鼬の一コマ 作・匿名影



  今日のナオさんのアイテム。

  ・・・・・・キャサリンハーネルの山羊革ムートンコート、\82,950

  ・・・・・・ロベルト カヴァッリのバンダナ、\9,200

  ・・・・・・フォルツィエリのレディースグローブ、\10,200

  ・・・・・・フォルツィエリのダイヤモンドブレスレット、\167,600

  ・・・・・・フォルツィエリのダイヤモンド入りピアス\72,900

  ・・・・・・フェンディのハンドバッグ、\71,800

  ・・・・・・ジャンニ ヴェルサーチの腕時計、\204,500

  ・・・・・・ルチャーノ パドヴァンのシューズ、\47,800

  合計\666,950・・・・・・



  ―自室―


  「・・・・・・ずいぶん羽振りがいいじゃんか、姉貴。バイク買ってくれよ」


  目の前で千円札の束を100枚ずつ封筒に入れて並べているナオに、弟のヨウは半ば本気でそんな事を口にした。

  空屋敷の一端、小さな庭の見える和室。

  ちゃぶ台の向こうに座ったナオは小悪魔的な笑みを弟に向け、べっ、と舌を出して要請を却下する。


  「やーよ。欲しけりゃ自分で盗ってきな、妖なんだから」

  「・・面倒くせぇ・・・・・そう言う姉貴こそ何で金出して服買って・・・」

  「バッカね、あんた。『気持ちいいから』に決まってんじゃない。
   人間は金持ち女には卑屈になんのよ」


  束にした千円札で頬をぴしゃりと叩かれ、ヨウはなんとも感じの悪い思いで腕を組んだ。


  一万円札ではなくあくまで千円札にバラして重量感を楽しんでいるのが、いかにもナオらしい。

  長のご機嫌を取ってせびった小遣いも、空屋敷の連中に品物を売りつけて得た金も、

  ナオはすぐにまとめて千円札に両替してしまう。


  普段小ばかにしている人間達の中でも、夏目漱石だけは心から敬っているのがナオという女だ。


  「さ、てとっ。勘定も終わったしよろっと(ちょっと)出かけるかなー・・・お金に手を出したらブチ殺すからね」

  「・・・『金』自体にキョーミはないよ」


  バイク。とどこか哀愁を漂わせて呟く彼を背に、ナオは無数の封筒を畳の下にへそくる。

  隠し場所自体はひねりもなくつまらないが、少なくともこの空屋敷でナオの財産に手を出す輩はいない。

  人間の紙幣を欲しがる妖は限られていたし、彼らもまた、命と引き換えにしてまで金を得ようとも思わなかったからだ・・・


  「・・・また蛇女と甘いモノ食いに行くの?いい加減太るぜ・・・」

  「別に甘いモノ限定じゃないわよ」





  ―外出―

  「・・・・・・一度・・・・・・一度ハムを丸ごと食ってみたかったのよーー!!」

  「・・・・・あっ、そ・・」


  珍しく菓子以外の食い物を食って感動しているシブモリをわき目に、ナオは周囲の視線に羨望の色が混じっていないか探ってみた。


  高千穂の一角に店を構える料亭。白いテーブルと椅子が並ぶ、そこそこ値が張りそうな人間の店。

  ナオとシブモリは客のまばらなそこの、窓際の席に座っている。


  二人は互いに人間の姿に化けた格好で、全く同じ服を着て食を囲んでいた。


  「この・・・・・・脂ののったハムの塊に!フォークをブッさして頬張る幸せ!
   誰もが一度は夢見た究極のグルメ!!」

  「・・うっさいねぇ・・・・・・あんまり騒ぐんじゃないよ、みっともない」


  目じりに涙すら溜めて喜ぶシブモリにげんなりしながら、ナオはコーヒーを運んできた店員に100円玉と10円玉の混じったチップを握らせる。

  微妙にけち臭いチップをくれるナオは既に店の常連で、店員が苦笑いを返す事もなくなっていた。


  ナオはシブモリよりも圧倒的にボリュームのないメインディッシュを早々に食べ終え、ブラックコーヒーを口に運びながら何気なく切り出す。



  「それで・・・・こないだ盗撮したエロビデオ、東の連中に30万そこそこで売ろうと思うの」


  それなりに見栄えのいい二人の話に聞き耳を傾けていた人々が、一斉に何かを吹き出して咳き込んだ。

  ・・・年頃の女が真面目な表情で『エロビデオ』もないもんだ。


  「えー・・・30万って、在庫全部含めて?アレ結構過激だしぃ・・・・・・小出しにして飢えさせとかなきゃ希少価値が、さぁ。
   同種の子が出てるのが売れ筋要因なんだし」

  「『一本30万』よ」


  「・・・お客様・・・あの、申し訳ありませんが当店でそのようなお話は・・・・・・」


  極悪非道な台詞を堂々と口にするナオに、とうとう店員が引きつった笑顔で声をかけた。

  下劣極まりない会話にまがりなりにも笑顔で応対するのだから、この料亭はいい店といえるだろう。


  「あら、聞こえてた?ごめんなさいね〜、あたしたち『そう言う仕事』で食べてるもんだから。
   この人が出てあたしが編集、だから、ね、こっちの方が良く食べてるでしょう?」

  「・・・は、はぁ・・・・・・」


  満面の笑顔で無意味に店員を圧倒するナオの言葉に、シブモリがさすがにこいつめ!と机の下の足を踏みつけた。

  何故にこの雌鼬は妖をおとしいれて喜ぶのか。それも全く必要のない時に!


  去って行く店員の背をどこか切なげに見つめるシブモリに、悪魔の笑みを浮かべて悶えるナオ。

  天性の悪女だ、こいつは。


  「・・・せっかくいい気分だったのに・・・・・・」

  「キャハハ・・・・・・おごりだからってバクバク食べるからよ、ザマミロ」


  遠慮がちな目で自分たちを見る人々にいちいちVサインを送るナオの耳を、シブモリが思わずぎぅぅ、とつねり上げる。

  結構な怪力の持ち主の攻撃に大騒ぎするナオの元へ再び駆け寄る店員の顔には、既に泣き顔に近いものがあった・・・




  ―帰宅―

  「・・・・・ナオやーん!酷いやんか、なんでワイを誘ってくれへんでんなァ!!」


  空屋敷の地に足を着けた瞬間背後から放たれた哀れな声。

  ねちっこい関西弁は顔を振り返らずともそれだけで誰のものであるかが分かる。


  ナオは土産にさんざ買い占めてきた水羊羹を抱えたシブモリの背に隠れ、

  きっと鼻水をたらしているであろうカラス天狗になるだけ優しい声で返してやった。


  「勿論、あんたが『人化け』できないから」

  「せやかて・・・・ワイだけ置いてきぼりで二人で美味いもん食べて・・・・・・」


  ぐすぐすと情けなくしゃくりあげる求嵐に、ナオはシブモリの腋の下から顔を出し、内心面倒臭がりながらもにこにこと笑顔でなだめにかかる。


  「まあまあ求嵐、お土産に水羊羹買ってきたから一緒に食べましょーよ」

  「ぐすっ・・・・・・水羊羹って・・・・・・一箱500円ぐらいのとちゃうん?」

  「じゃ、この前のビデオ売ったげるからさ、泣き止んでよ。なんと三分二厘引き!」

  「めっちゃ中途半端なサービスや!それにもう一本持ってるもん!」


  「・・・じゃ、えぇ・・・・・・えぇ・・・・・・・・・御開帳ーーーーー!!!(どばっ!!」

  「ぐはああああッ!!!!」


  唐突にはだけられた【シブモリの】胸部に、盛大に鼻血を噴出して昏倒する求嵐!

  羊羹の袋を両手に呆然と佇むシブモリの脇下で、ナオはよっし!!とガッツポーズ。


  「きゃははは!男は説得がラクでいいわぁ、見せるだけならタダだものね」

  「・・・・・・・・・・・・」


  そのまま無言の内にナオにヘッドロックをかけるシブモリ。首と口から悲鳴を上げてじたばたと騒ぐナオ。

  それもまた、珍しくもない空屋敷の日常の一つである。




 続く(^^;)>