「スゲー・・・。おまえ、またゲーム増えたな」
「最近買ったのは全然手付けてねぇんだけどな。オマエ、やるかなと思って」
「バカ、んなモン金が勿体ねーだろ」
「良いじゃん。咲貴、しょっちゅうウチ来るんだし」
「そーだけど・・・ったく、ヘンなトコだけルーズになりやがって」
水城の家に上がっても、続くのはいつも通りのごく普通の会話。
昨日のことなんてまるで無かったかのように、俺と水城はコンビニで買ってきた缶ビール片手に笑い合っていた。
きっと軽蔑されてる・・・そう思って不安で眠れなかった昨晩が嘘のようだ。
そうだよな。
特別な事なんてしなくたって俺は水城とこうやっていられれば幸せなんだ。
「ぁははっ」
「ちょ、いきなり何だよ?俺、何かヘンな事した?」
「違う違う。ちょっと考え事してただけ」
「おい、人んチ来て1人で笑ってんなよ!」
「わるいわるい」
「ったく・・・。あ、俺のもうねぇや。取って来てくんない?」
「まだ飲むのかよ。つか、俺もう結構キてんだけど・・・」
「いーじゃん。たまには潰れるまで飲んじまえよ」
「ザルが言うな」
そのまま、俺達は他愛も無い話をしながら遅くまで飲み明かした。
「あれ・・・俺、マジで潰れちまったのか・・・」
ふと意識を取り戻すと、そこは水城のベッドの上だった。
どうやら俺は酔って寝ていたらしい。
アルコールはまだ体中に残っているらしく、意識も視界もふわふわしていて心地良かった。
「んー・・・・・・水城のニオイ・・・」
ベッドに転がりながら、そこに染み付いた愛しい恋人のニオイを感じて嬉しくなる。
「エゴイストだよなー・・・これ」
大きめの枕に顔をうずめてごろごろしていると、ガチャリとドアノブを回す音が耳に入った。
ガチャ
「もう、大丈夫か?そこで寝てて良いぞ」
「んーん、もう全然オッケー・・・ってて」
「ほら、まだ酔ってるだろ」
俺の心配をして様子を見に来てくれた水城。
俺は動ける事を伝えようと上半身を起こしたものの、平衡感覚が掴めずベッドに再び倒れ込んでしまった。
「良いから、じっとしてろ。ベッドは貸しといてやるから」
「うん・・・」
優しい水城の声に安心して、また眠くなってきた・・・。
水城・・・好き・・・。
「・・・・・・あ・・・・・・みず・・・き・・・?」
「良いから、寝てろよ」
「ぇ・・・え・・・・・・??な・・・に・・・??」
瞼を落としてしばらくすると、手首がじんわりと痛くなった。
何だろうと目を開けたそこには、ロープを持って俺の手首を縛る水城の姿が映っている。
酔っているせいかと何度も瞬きを繰り返したが、その光景が変わる事は無かった。
「ど・・・したの・・・?」
状況が掴めなくて水城に問うが、確実な返事は戻ってこない。
分かるのは手首を縛っていたロープが今度は体に回されているという事だけだった。
なんで?
だって・・・こんなの・・・まるで・・・
「・・・ちがっ・・・・・・」
自分の頭に浮かんだ淫らな考えを必死で振り払う。
ありえない。
そんな事を考えてたら、今度こそ嫌われる・・・。
「咲貴さ」
「・・・なに・・・?
「ホントにマゾだよな」
「ッ・・・・・・!」
不意に水城から発せられた言葉に絶句する。
見透かされた、と思った。
卑しい俺を。変態な俺を。
水城、こんな俺でごめん・・・。
情けなくて、申し訳なくて涙が出てくる。
アルコールで涙腺が緩くなっているのか、一旦泣き出すと涙が止まらなくなった。
こうやって、追い込まれると女々しくなってしまう自分も嫌で堪らなかった。