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私は救える人がいれば救うし。
 
救えない人がいても救う。
 
それはたとえ、天使でも。
 
堕天使でも。
 
その考えは変わらない。
 
私は悪魔以外の人を救い続ける。
 
それが……私のたった一つの正義だから。
 
だからこそ、誰にも邪魔はさせない。
 
『1』
 
『ふ〜ん。じゃあ、あなた達は弱いなりにも強い結束で結ばれているのね?』
 
私たちは買い物の帰りについていた。
傍はもうすでに暗闇に包まれている。
もうすでに冬に入ってもよさそうなのに、暖冬のような暖かさだった。
 
「ええ。そうなんです。昔はそんな日々が続いていました」
 
そう話すのは隣にいる私の腕を組んでいるエルーノだった。
私が買い物に行くというので、皆が付いてきたのだ。
エルーノが来るとついでに彼女も一緒についてくるのだ。
 
『じゃあ、今は違うのね』
 
「ええ。堕天使がいるとわかってしまってからはお互いがお互いを牽制しあう日々が続いてしまいました。けれども、堕天使がいるとわかっていても天界は放置し続けるのですよ。どうしてかわかりますか?」
 
そう言ったのはエルーノの隣にいたエターニアだった。
彼女は私に対して疑問でぶつけてくるが。
これには私もすぐにわかった。
 
『天界にメリットがないからかしら?』
 
「というより、デメリットの方が多そうですよね?イチイチ討伐隊は派遣しなければいけないし、殺されるほうも昔の仲間かもしれないですから、そうなると、天界も非常に欠点だらけなのですよ」
 
『ふ〜ん。随分と天界も暇なのね。そうならないための予防策が必要なんじゃないかしら』
 
「全くです」
 
これにはエルーノも同感した。
 
「でも、その点。栞様って凄いですよね?」
 
『そうかしら?』
 
「ええ。私もびっくりしました。エルーノ様があこがれる気持ちがよく分かりますわ」
 
「こ、こら。エターニア!」
 
じゃれあう二人を見て、私は自分の力について考える。
どう考えても私の力は主が駄目な主だった場合を考えてのこととは思えない。
でも、この能力は自分で自由に使えるように昇華したものだ。
そして、堕天使になった人たちまで救えることができた。
私は自分の能力がわからない。唯君の音や静香の重力なら、まだはっきりといえるけれど、私の能力は『流れ』。それもかなり危険な領域まで足を踏み入れているような気がする。
けれど、後戻りもできなかった。自分で蒔いた種だ。
 
『あれ?何だろう?』
 
道路を挟んで向こう側。妙な人だかりが出来上がっていた。
パトカーも何台がいる。
中から警官が何人も姿を現していた。
よく見ると、廃墟のビルが崩れていた。
崩落事故かなんかなのかな?と思っていると。
 
「おい。殺しだってよ」
 
「近頃は物騒な世の中になったわね」
 
『どういうこと?崩落事故じゃないの?』
 
「あの……何かあったんですか?」
 
「ああ。猟奇殺人事件なんだと」
 
「猟奇殺人?」
 
彼女達が顔を見合わせる。私は黙って話を聞いていた。
 
『…………』
 
「いやね。なんでも個々の作業員が殺されたって言う話なんだけれど。その日は様子を見に行っただけなのに。翌朝見てきたら、あんな感じだったんだ。すでに内臓がなくなっていて、顔から上が潰されたって話だ」
 
「顔から上が潰された?」
 
「ああ。多分、崩落に巻き込まれたんだろうね。問題はそこじゃない。内臓はまるで食い散らかしたあとがあって、まるで獣かなんかにやられたようなあとがあったんだ。だから、猟奇殺人なんだ」
 
おそらく、ここは工事現場として作業していたのだろう。しかし、たとえ崩落が起こったとしても、ショベルカーの音や粉砕機の音などにより、聞こえなかったに違いない。
とおじさんが話してくれた。
 
「………… 栞様?」
 
『帰るわよ』
 
「…… あっ!待ってください」
 
そう言うと、彼女たちが私についてきた。
それにしてもなんか気になるわね。
でも、人間の内臓だけを食べる悪魔っていたっけ?
 
『2』
 
「ああ、それは堕天使の限定的な特徴ですね」
 
翔子に聞くとあっさりと答えが返ってきた。
 
『と言うことは……また、別の堕天使が現れたのかしら?』
 
私がご飯を食べながら、彼女たちに問う。
 
「堕天使になると、まずは飢餓状態になります。近くにいた人たちに襲い掛かって内臓を食べるんですよ」
 
『ひょっとして、翔子たちも?』
 
「ええ。お恥ずかしながら……」
 
確かに信じられないけれど、彼女達は一度堕天使になっているのだ。
だからこそ、わかったのだろう。
 
「私たちも食べましたけれど、遺体をそのまま食べるとまた格別の味がするんですよね」
 
『理解に苦しむ行為だけれど。そもそも、どうして人間の内臓を食べようとするの?』
 
「さあ?美味しいからじゃないですか?」
 
「多分、人間自身にも何らかの魔力が宿っているからではないでしょうか?」
 
エターニアがおずおずと口に出した。
 
『それを堕天使が喰っちゃうとどうなるのよ?』
 
「能力が膨れ上がるのですよ。ほら、栞様が私と戦ったとき……私が死ななかったでしょう?あれは……栞様が手加減してくれたおかげもありますけれど、本当は何人もの人間の内臓を食っていたからなのですよ」
 
それでも気を失っていましたけれどね。と、翔子は付け加えた。
 
『………… エルーノ。さっきから何を考えていたの?』
 
「ええ。実は堕天使になった直後は酷い飢餓感に襲われるのです。その周囲にいた人間全てを食べてしまうくらいに。となると、今もこの近辺に住んでいる。ということになりませんか?」
 
「ま、まさか。考えすぎでしょう」
 
『いいえ。エルーノの言う通りよ。私たちも気をつけていきましょう』
 
それにしても、天使がらみ事件がここのところ多いわね。前世ではそんなこともなかったけれど。
そこまで思って、ふと私は考えた。
ひょっとして……唯君がガーディアンの主として目覚めたときから?
ありえる話だ。彼は今までの主とはかけ離れた存在だ。
多分、歴代最強といっても良いくらいだ。
だからこそ、フラグエルも知っていたのだろう。いいや、監視をしていたに違いない。
でなければ、内部に秘密が漏れるなんてまず、ありえない話だ。
まあ、唯君がガーディアンの主であっても、私の秘密が漏れたわけじゃないから、別にいいけれど。
私はご馳走様でしたといって、食事をあとにした。
 
『3』
 
次の日。私は藍子を放課後に屋上へと呼び出した。
 
「栞ちゃんから、私を呼び出すなんて意外ね」
 
『そうね。単刀直入に言うわ。昨日の事件の首謀者は掴めている?』
 
「………… 昨日の事件?」
 
『惚けないで。近くのところで猟奇的な殺人事件があったあれよ』
 
「ああ、あれね。あんまりにも事件が多発しているんで……つい……」
 
『事件が多発?』
 
彼女が言うには彼女の管轄は世界に広がっているのだという。世界にはまだまだ事件が多発している。その中には悪魔や堕天使がらみも多い。
だからこそ、そのときのために天使がいるのだ。
 
「それで?その事件がどうかしたの?」
 
『堕天使が絡んでいるわよ』
 
「えっ?」
 
『それも近くに住んでいる可能性が高いわ。心当たりはあるかしら?』
 
「ないこともないわね。実は昨日から、フラグエル様が行方不明なのよ」
 
『フラグエル?翔子ちゃんが戦ったあれか』
 
「ふ〜ん。そっちの方が心当たり……ありそうじゃない」
 
『うん。実は…………』
 
そう言うと、私は彼女に今までの顛末を話した。勿論、私の能力のことは伏せたが。
 
「ふ〜ん。麻生唯君とね」
 
『ええ。それで、そのあと、彼女が襲い掛かってきたのよ』
 
「フラグエル様は懲罰部隊よ。だからこそ、安易にあなたを襲うようなことはしないと思うけれど、それに……まずは交渉に入ると思うわ。そういうことはなかったのかしら?」
 
『あったわよ。でも、その内容が気に食わなかったから、戦ったわ。翔子がね』
 
「それで?結果は?」
 
『勿論、翔子の圧倒的な勝利よ』
 
「えっ?うそでしょう?確かにゼラキエルは私と同等か、それ以上だったと思うけれど、フラグエル様は私以上に強いし、ゼラキエルと比べたら、天と地ほどの差があるわよ」
 
それがあるんだよね。その天と地の差を埋める方法が。
 
『まあ、彼女が本気を出せば、たとえ……世界を敵に回したとしても勝てそうね』
 
「あら?たいした自信ね」
 
『そりゃそうでしょう?私が手塩をかけて育てたもの』
 
「まさか、栞ちゃん……ゼラキエルを改造なんてことを……してないでしょうね」
 
『改造ですか?』
 
似たようなことをしないわけでもないけれど。でも、人格改変はしているのかもね。
 
「うん。そうよ。ゼラキエルが栞ちゃんに仕えているのには理由がある……ゲフゥ!」
 
いきなり、飛び膝蹴りが彼女の眉間に命中した。彼女が血を吐きながら倒れてしまう。
 
「って、そんなわけないでしょう!栞様を侮辱しないで!」
 
それをしたのは翔子だった。全く、あれだけ屋上に来るなといったのに。
 
「全く、念のために結界を張って正解でした」
 
「ゼラキエル……!やっぱり、あなたとは決着をつけないといけないわね」
 
あ〜あ。こうなるわけだ。
 
「いいわよ。いつでも来なさい!」
 
本当にいつも仲がよろしいことで。
私はお茶をすすりながら、それを見る。
と、そのときだった。
 
「何?この気配?」
 
気づいたのは私と彼女とほぼ同時だった。
 
『あら?やって来たわね』
 
まるで、全てを見透かしたように私が言う。
それは黒い翼だった。以前の彼女とは一味も二味も違っていた。
変わりすぎている。といえば良いのか。
 
「ふ、フラグエル……様」
 
藍子が驚く。本当に堕天使になっているのかが半信半疑だったのだろう。
いや、それ以前に彼女の力の前にひれ伏すしかないらしい。
しかし、私は立ち上がる。
 
「し、栞様……」
 
同時に翔子も驚いていた。
こっちは本当にエルーノの予感が的中していた驚きだった。
そして、私が気を付けてと言ったのを改めて悟ったのだろう。
 
「あらあら?上手そうなお肉……特にそこのあなた……とても美味しそうだわ」
 
彼女が舌なめずりをする。
私はため息を吐く。まるで、つまらないことでも指すかのように。
私は指を彼女に向ける。
 
「何かしら?」
 
『セット!セイントビーム!!』
 
いきなり撃った。それも唐突に。
彼女が驚く。しかし、それをかすった程度に避ける。
全く、この世に神様がいたとしたら、一回どころか、二、三回くらい殺したいわね。
 
「し、栞ちゃん」
 
藍子も驚いていた。口や表情には出さないけれど、私が怒っていることに。
 
『丁度いいわ。あなた達はそこで見ていなさい。天界の犬どもに私の力を見せてあげるわ』
 
「えっ?」
 
「あら?人間如きが私に敵うとでも?」
 
『あら?人間を舐めないでくれるかしら?』
 
「あわわわ。栞様を怒らせちゃいました。知りませんよ」
 
『今回はあなたの出番はないわよ。翔子……これ以上私を怒らせたらどうなるか。わかっているでしょうね?』
 
それは、彼女への死刑宣告だった。
彼女は迷わず……コクコクと頷いた。
 
「本当に彼女を一人で任せる気?」
 
「ああなった以上。私でも止められません」
 
後のお仕置きが怖いのだろう。
彼女らしい賢明な判断だった。
さて、私は彼女を見る。しかし、彼女は消えていた。
 
「き、消えた」
 
私は消えた足跡を追う。
 
『あら?速さもアップしたのね。でも……』
 
そう言うと、私は彼女の速さに追いついた。
 
「なっ!」
 
『強くなったのは彼女だけじゃないわ』
 
彼女が驚くところを私が蹴る。
フラグエルに擦り傷ができて、床下に転がった。
口からは俄かに血が滲み出している、
 
「き、貴様……!何者なんだ?」
 
『単なる、天使に巻き込まれた一般市民というところね』
 
「ふ、ふざけるな!」
 
そう言って飛び上がった。
 
「あれは!ライトセイバー!フルパワーで使ったら、この星ごと塵に変えてしまうわよ!」
 
『あら?やっとで本気になったわね』
 
それはまばゆいばかりの光の剣だった。
 
「私の最強の技で死になさい!」
 
「あんなの……!悪魔のときでも使ったことないのに……!栞ちゃん!」
 
私はため息を吐いた。
くだらないとでも言わんばかりのため息だった。
幸い、彼女が空中にいることが幸いした。
この機会にあれを試してみよう。
そう思って、私は『流れ』という能力を使ってありったけの流れをかき集めた。
 
「死ね!ライトセイバー!」
 
そう言って、彼女がそれを放つ。
それは私のゴッド・セイバーと似たようなものだった。ただ、違うのは私のよりも小さい。
私の能力は全てをかき集める。そのために色々な属性が混ざっている分、その力も大きいということだ。
そのために私のゴッド・セイバーよりも威力は劣る。
私は右手を左手で抑えた。さすがに制御をするのは無理そうだ。
これはゴッド・セイバーよりも劣るがある意味危険な能力だ。
下手をすると、右手がバラバラになりかねない。
けれど、さらに自分自身を制御するためには必要なことだった。
 
「な、何?栞ちゃんのあれ……」
 
「わ、私にも分かりませんよ」
 
私の右手が光っているくらいしか認識できないのだろう。今はそれでいい。
私はその右手で彼女が放ったライトセイバーを弾き飛ばした。
それは軌道を変えて、真上へと向かっていく。
 
「な、なんだと!?」
 
『なぁんだ。これだけなの?がっかりだわ』
 
「ば、馬鹿な……!」
 
うん。驚いているわね。
これは元々、攻撃用に開発したものだったのだが、今のように彼女の攻撃に対して、軌道を変えることもできる。それは悪魔がもしも、デスボールを放ったときの対策用だった。
それは圧縮した流れのエネルギーといえば良いのか。
それはゴッド・セイバーのようにただ、流れを敵にぶつけるのではなく、私の中に留めておく。そうすることによって、自由に形を変えることができるのだ。
そして、その利点は他にもあった。
 
『見えるかしら?あなたにも……』
 
「えっ?」
 
私は一瞬にして、彼女の後ろに立った。
圧縮したエネルギーは私の流れによって足へと移動させる。
そのことによって、素早さを何十倍にもできるのだ。
それは麻生唯と同じ音のエネルギーを自分の身体エネルギーに変えるものではない。
それは圧縮したエネルギーの爆発。その爆発を制御することによって私の素早さを何十倍も高めることができるのだ。
これを習得するのに帷様の家で一年以上も費やしたのだ。
 
「ど、どこに行った?」
 
『こっちよ』
 
「なっ!」
 
彼女が今頃になってやっと気づく。
しかも、気づいた頃には私の蹴りが入っていた。
彼女が下に落ちて地面に滑り込んだ。
今度は口が切れたらしい。
仕切りに口から血の唾を吐く。
 
『あら?まだやる気なの?』
 
「あ、当たり前だ!貴様を殺すことこそが天の導き。それ以外に考えられぬ!」
 
『あら?じゃあ、ここで私があなたを殺せば、天の導きが変わるのかしら?』
 
「えっ?」
 
『そうね。もうそろそろあなたとの相手も飽きてきちゃったから』
 
そう言って、私は宣言する。
 
『…… 覚悟はいいわね。フラグエル……』
 
私は一歩だけ、彼女に向かう。
 
「う、うそだよな」
 
私はもう一歩踏み出す。
 
「わ、分かった。もうお前たちには手を出さないから……」
 
私は片足を踏みしめる。
 
「お、お前たちもなんか言えよ。このままだと、コイツは人殺しになるぞ」
 
しかし、彼女達は何も言わない。それはそうだろう。
相手は堕天使。同情はするまでも、救う余地はないのだ。
私は構える。そのことに彼女はおびえ始める。
 
「わ、わかったから…………!うぷっ!」
 
私は彼女の口を塞いだ。
片手で、もう片方を握り締めると……グーで思いっきり殴る。
彼女がすっ飛んだ。
 
『あなた……煩いわよ』
 
「…………っ!!」
 
「す、すごい。栞ちゃん。あのフラグエル様をまるで子ども扱いに……」
 
「私を倒したご主人様だからね。そりゃあ、強いでしょう。でも……」
 
すると、翔子がどこかにメールを打つ。
 
「ひっ!いや、来ないで……っ!」
 
私は彼女を蹴る。
それはまるで、いじめのようだった。
彼女の右腕を折る。すると、彼女が悲鳴を上げる。
 
「ギャアアアアァァァァ――――――――――っ!!」
 
『だから、煩いって言っているでしょう』
 
今度は右足を折る。それでも、彼女の悲鳴が鳴り止まなかった。
 
「お、お願いだから。許して…………」
 
「そ、そうよ。栞ちゃんの怒りは知らないけれど。もうその辺で見逃してあげても」
 
『駄目よ。許さないわ。その罪は死をもって償いなさい』
 
私は最後のとどめの一撃を加えようとした。
そのとき、気づいた。
全く、どうして彼女には敵わないのか。今になって分かってきた気がするわ。
 
「ひっ!」
 
彼女がもう駄目だと目を瞑ったそのとき、私はその手を止めた。
 
『それで?そんなものを持ってどうしようと言うのかしら?エルーノ』
 
「い、いえ。栞様が堕天使を殺そうとしているので、飛んできただけですよ」
 
『あら?あなたもなの?』
 
「あなたもということはここにいる。全員が反対ということですか?」
 
『いいえ。ただ、最終的な判断は藍子ちゃんに任せようかしら?』
 
「えっ?私?」
 
『そうよ。コイツをどうする?さっき、こいつはさっきあなたに救いを求めてきたけれど、あなたはそれを無視した。だから、私は彼女を痛めつけた。人を救うというのはそういうことよ』
 
そう言うと、藍子は今になって理解した。
 
「な、何よ?それ。まさか、人を救うことは優しいだけじゃ駄目だとでもいうことじゃない?意味がわかんないわよ」
 
『そうよ。私は人を救うだけじゃ物足りないの。人や天使にはもっと知ってもらう必要があるわ』
 
「な、何を?」
 
『世界の痛みを。この矛盾だらけの世界を』
 
だから、私はこの人を殺す。この人は世界を殺そうとした。
それは私も同じだけれど。
だからこそ、同じ過ちをこの人は犯して欲しくはなかった。
 
『で。あなたに決めてもらいたいの。この人をどうするか。このまま殺してもいいし。見逃してあげてもいいわ。それとも天使に戻して欲しいのか。三択よ。簡単な三択。だからこそ、あなたに決めてもらいたいの』
 
「栞ちゃん。あなたは何が目的なの?」
 
『私の目的ね……』
 
「えっ?」
 
『この世に悪魔がいる限り、私はそれを全力で駆逐する。それが私の最大の目的よ』
 
「………… わかったわ」
 
『あら?そうなの』
 
「………… 彼女を天使に戻して」
 
『………… 本当にいいのね』
 
「ええ。私も天使の仕事がいやになることだってあるわ。でも、私はいやというほど見てきたわ……天使が悪魔を残虐に殺す。人間は人間を殺す。悪魔は人間を殺す。私は怖いのよ」
 
『あら?だったら、どうして戦うの?』
 
「決まっているじゃない。あなた達の笑顔が見たいからよ」
 
『…………』
 
私は驚いていた。と同時に納得していた。
これが私と彼女との違いだった。
私は悪魔を殺すために生まれてきた。
だからこそ、知らなかった。笑顔を見たいなんて。
けれど、彼女は違う。違いすぎるのだ。
彼女は全ての人を救うつもりでいるのだ。
だからこそ、悪魔を殺すことにためらったりはしない。それは私も同じだ。
けれど、彼女は私のように暴走をしたりは絶対にしない。
私が黙っていると、彼女が続ける。
 
「私はあなたとは違うわ。私は私の意志で動いているし、この人だって同じよ。いいえ。同じはずだわ。ただ、最初はどこかがずれていただけ。それを治せるのは世界中であなたしかいないのよ」
 
『………… それがあなたの答えなのね』
 
「………… ええ。そうよ。だからお願い。彼女を元に戻して……」
 
『………… 分かったわ。あなたを信じるわ』
 
「えっ?」
 
そう言うと、私はフラグエルを見る。彼女は脅えていた。
これだけは私自身の手で治してあげなくちゃね。
そう思うと、私は彼女に年齢退行をかける。しばらくすると、彼女は綺麗な白い翼に戻っていた。彼女は日数もたっていないから、天使に戻すのは簡単だった。
これでいいわ。後は……右足と右手を治すだけね。
 
「…… あ、あなた……!」
 
彼女は自分の白い翼を見つめていた。
 
『礼ならあの子に言いなさい。私はそれの手助けにしたに過ぎないわ』
 
「ぐっ!」
 
『今のあなたなら、私とあなたの違いも分かるのかもね。私の邪魔をしたら、今度こそ許さないわよ』
 
「何故、私を助けた?」
 
『そうね。強いて言うなら、私も彼女の言葉を借りるわね。私もあなた達の笑顔が見たいからよ』
 
そう言うと私は彼女に向かって微笑みかけた。
 
「えっ?」
 
多分、それが原動力になっているのだろう。
すると、彼女が顔を真っ赤にして怒鳴る。
それはもうすでに私に対する嫉妬ではなかった。
 
『4』
 
「それにしても、どうして栞様はフラグエル様を下僕にしなかったのですか?」
 
『あら?して欲しかったの?』
 
「はい。あえていえば、そうして欲しかったですね」
 
私は考えていた。どうして、彼女を奴隷にしなかったのか。
でも、その考えは多分、彼女たちには遠すぎる予感だった。
彼女たちには分からないだろうけれど、これから悪魔との激戦をする上で彼女たちの相手をしていてはきりがない。
勿論、天使を二百万人という数を相手にするのは簡単だけれど、私にとって何よりも耐え難いのは彼女たちを失うことだった。
それだけは絶対にいやだった。
 
「私は反対です。もう奴隷を作るのはおやめください」
 
「ええっ?どうしてですか?」
 
「どうしてって、これ以上栞様のご心労を溜まるようなことをあなたはなさるつもり?」
 
「そうなったら、私の奴隷にして差し上げますから、大丈夫ですよ」
 
『そう言えば、エルーノ。エターニアは?』
 
「ああ。彼女なら家にいますよ」
 
『ふ〜ん。あなた達に聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?』
 
「ええ。構いませんけれど」
 
『家に着いてから聞くわ』
 
「それはエターニアも加わってってことですか?」
 
『ええ。そうよ。あなた達三人に聞きたいことよ』
 
そう言うと、家に着いてしまった。
 
『じゃあ、私は自分の部屋にいるから、エターニアをつれてきてね』
 
「はい。わかりました」
 
遠くで「栞様……聞きたいことって何だろう?」という翔子の言葉を聞きながら、私は自分の自室に入る。
そこは綺麗なピンク色の部屋だった。部屋は全て私自身が能力を使ってコーディネイトしたものだ。
私は部屋の模様替えをするときや重たいものを持つときなどは大抵のことがない限りは能力を使う。
私にとって能力は忌み嫌っているけれど、最近は生活に欠かさないものとなっている。
私は自分の能力で草太を殺し、さらに兄を殺した。
そして、私にとって大事な世界をも殺そうとしていたのだ。
今は、私にとって能力は罪であり、償いでもあるのだ。
たった一つの償い。それが悪魔を殺し続ける私にとっての唯一の償いだった。
私は自分で能力を使い、自分の服に着替える。
タンスの中から、私の服を着る。
最近は寒くなってきたので、ケープを羽織ってみる。
しばらくボーっとしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
 
『どうぞ』
 
「失礼します」
 
彼女達はそれぞれの服で私の前に現れた。エターニアはいつもの和服を着ているが、翔子は洋服を着ている。赤いスカートにトレーナーを着ている。
エルーノは純白のワンピースを着ていた。
 
『来たわね。全員座って』
 
「はい……」
 
すると、全員が座ったけれど、その表情は硬い。
 
『そんなに表情を硬くしないで。何もあなた達を怒ろうと思って呼んだのではないからね』
 
「えっと。じゃあ、何のために?」
 
『そうね。唐突で悪いんだけれど、単刀直入に言うわね。あなた達……私とデートしたくない?』
 
「はっ?」
 
全員が固まった直後。
 
「えええええぇぇぇぇぇ――――――――っ!!」
 
と大絶叫を上げた。
まあ、当然か。私がデートを誘うなんて兄でもやらなかったことだから。
 
『何よ。デートってだけでそんなにも驚くようなことなの?』
 
「ええっと。その…………栞様と……ほ、本当にデートをするのですか?」
 
『ええ。そうよ』
 
「具体的にどこへ?誰と誰が行くのですか?」
 
『具体的には決まっていないけれど、あなた達と三人で行くことになるわね』
 
「えっ?それってどういう意味ですか?」
 
『つまり、一対一のデートを私と一緒にやろうということよ。まあ、そっちは三人だから、私の心労はかなり溜まるだろうけれど。その辺は提案者である私個人のことだから何とかするわ……』
 
「なるほど。私たち三人とデートをするということですか?」
 
『ええ。そうよ。決行日は今度の三連休よ。最初の日は翔子ちゃん。次の日がエルーノちゃんで……最終日がエターニアちゃんで良いわね』
 
「あの……一つだけ聞いてもいいですか?」
 
『いいわよ』
 
「どうして、私たちとデートなんかを?」
 
『…… 私の個人的な理由だけれど、それでいいのなら、話すわね』
 
「えっ?」
 
『私は今まで兄とデートをしたこともなければ、前世でもまともな人生を送れなかったの。だから、一回だけしてみたいのよ。それに女の子同士のデートなんて初めてだから、やってみたいのよ』
 
「栞様…………」
 
『駄目かしら?』
 
「いいえ。むしろ、すごく嬉しいです」
 
『ありがとう。そう言われて私も嬉しいわ』
 
私は少しだけ微笑んだ。
 
「それで?日帰りということですよね?」
 
『ええ。そうね。でも設定金額を大幅に超えることは駄目よ。一人一万円以内。もちろん、中学生に見合ったところで。それ以外なら何でもOKよ』
 
「なんか、デートという割には条件がかさむのですね」
 
『まあ、一般的なデートをすることが今回の目的だからね。私も個人的に聞きたいことがたくさんあるから』
 
「だったら、ここで聞けばいいじゃないですか?」
 
『別にいいけれど、三人のプライベートなことまで聞きだすかもしれないわよ』
 
「うっ!それはさすがに困ります」
 
自分以外の二人に漏れるのがいやなのだろう。
それは私も同じだった。
 
『でしょう?だから、そのためのデートなのよ』
 
「なんか、まるで秘密があるなら私の前で言いなさいみたいな感じですよね?」
 
『いいえ。そこまで言ってないわ。勿論、話したくないのなら、話さなくても良いからね』
 
「でも、栞様なら能力で私たちの思考なんて読めるんじゃあ?」
 
『私でも奥底の心理までは読めないわよ。まあ、そんなことはどうでも良いけれど。とにかく、純粋にデートを楽しみましょうということよ。余計な詮索はしなくても良いわよ』
 
「あの……どこに行くかは決まっているのですか?」
 
『だから、それをあなた達で決めなさい。あなた達自信で私を満足させていただければ、それだけで充分だわ』
 
「あっ…………」
 
つまり、そういうことなのだ。みんなで私を満足させるための休日なのだ。
だからこそ、このデートの企画を打ち出した。
そして、私はそれを待つだけで楽しくなるのだ。








     




















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