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昔の私は最低だった。
 
力に溺れて、最強だと思い込んでいた。
 
そんな中で私は彼女に出会う。
 
彼女は澄んだ瞳を私に映し出させて、こう問うた。
 
『あなたは私に似ています』
 
と。
 
『1』
 
朝。藍子に出会った。
本当は会いたくはなかったけれど、会わざる終えなかった。
なぜなら、同じ電車に乗ってしまったから。
 
「栞ちゃん。身体はもう大丈夫なの?」
 
『うん。平気よ』
 
私は声を『流れ』に乗せて答える。
さすがにこれ以上休むと内申書に関わる。ただでさえ、悪魔狩りなどで休んでいるのに……だからこそ、休むわけには行かなかった。
 
「藍子は栞様のことが大好きなんですよ。この間も栞ちゃんのお見舞いに行ったとき……」
 
「しーっ!しーっ!言ったら駄目でしょう!ゼラキエル!!」
 
彼女はこともあろうに翔子のことを天使名で仰った。
 
「生憎と私は栞様の奴隷ですので」
 
しかし、彼女はそれに眼もくれず、ただ前に進むばかりだった。
 
「だからって、人のプライバシーを言ったら駄目でしょうが!」
 
私は二人の争っているところを無表情になりながら、思う。
私は普通の日常に戻ってきたのかと。
とても、前までは麻生唯と死闘を繰り広げられたとか、帷様に鍛えられたこととか、堕天使のエターニアと戦ったことでさえ、嘘のように感じる。
けれど、私の力は強くなるばかりだった。
しかし、それにしても。
平和だねぇ。とお茶をすすりたい気分だった。それほどまでに日常に戻っていたのだ。
しかし、それも学校に行くと一瞬にして消え去った。
私は流れで感じる。
 
『麻生唯が来てるわね』
 
「えっ?」
 
『あの根性なしが……一体どういう風の吹き回しかしら?』
 
「う〜ん。でも、栞様を意識していることは間違いないらしいですね」
 
『そうね。だったら、私も無表情で通すことにするわ』
 
いつもどおりの私に戻る。ただそれだけだった。
 
『2』
 
栞に会ったとして、何をすればいいのか分からない。
唯は必死になって考えていた。
思えば、ケンカで仲直りなんて、したことがなかったら、当然といえば当然だった。
 
「とりあえず、放課後まで無視しようかな?」
 
『おはよう』
 
と、そのときだった。栞が入ってきた。
だが、麻生唯が抱いていた感情はまったく別のものへと変わった。
栞がいっそう、影を落とすような無表情に変わっていたのだ。
やっぱり、この前のあれなのだろう。
麻生唯は後悔した。
気まずい。
いや、それは麻生唯の感情なのだが、栞だってそれは同じだった。
けれど、彼女は普通に……まるで過去に起こったことなど忘れているかのような。
そんな表情さえしているのだ。
分からない。彼女の気持ちが全く分からない。彼には心音を聞く能力があるのだが、それすらも栞の前では無意味だった。
まるで、これが日常だとでも言わんばかりだったのだから……。
いや、栞はきっと正しいのだろう。おかしいのは麻生唯の感情だった。
けれど、どうしてだろう。たとえ、遠くにいても心が離れていても、栞と同じ空の下で生きている。それだけで、麻生唯は嬉しいのだった。
 
『3』
 
放課後、麻生唯に屋上で呼び出された。
今更、私に会って、何をするつもりなのだろう。
一応、二人きりということで、翔子には人払いを頼んでいるのだが。
 
『それで?私に何の御用ですか?』
 
私は無表情で訊ねる。
 
「その前にその戦闘態勢を崩してくれるかな?」
 
『そっちが仕掛けてきたのだから、戦闘態勢に入るのは当たり前だわ』
 
私は態勢を変えない。
これはいつもの癖だ。
相手が悪魔だろうと、人間だろうと。
 
「………… 僕たち……以前のような関係に戻れないかな?」
 
『………… それは無理です』
 
「何故?」
 
『………… そっちが仕掛けてきたのだから、それに……二人きりといったのに京と円、静香にエリザ、それに百合もいるのでは話にもなりませんわね』
 
「えっ?」
 
「やっぱり、気づいていたか。隙あらば……とは思っていたけれど……」
 
ドアの影から出てきたのは京と円、静香とエリザ、そして百合だった。
 
「みんな……!」
 
『静香も揃って覗きとはいい趣味ね』
 
「栞…… 私はただ、あなたと唯さまを仲直りしてもらおうと……」
 
「そうだぞ。それに貴様は唯殿に引き分けだったとは言え、見事に上を行く存在になったのではないか?」
 
エリザが言う。その言葉に私が反応する。
 
『麻生唯が私よりも上……ですって?』
 
「えっ?」
 
『それは聞き捨てならないわね。この前のあれだけで、私が麻生唯よりも格下だなんて、思われたら、心外だわ』
 
私はエリザに攻撃を仕掛けた。明かに怒っているという風ような装いで……。
彼女を風圧で大きく吹き飛ばした。
 
「キャア!」
 
「エリザヴェータさん!!」
 
「この……ッ!!」
 
そう叫んだ円が私に向かってナイフを投げてきた。
一つでも当たったら、致命傷な一撃だけれど、当たらなかったら意味がない。
私が上に跳んで逃げると、円は上に跳んで小刀と呼ばれるもので私を切り倒す。
しかし、それは私が作り出した水分身だった。
水が割れて、本当の私は円の後ろにいたのだ。
 
『怒りで我を忘れるのは良いけれど、標的を見失うな』
 
そう言って、私は彼女を下に叩き落した。
 
「キャア!」
 
まだ、死んではいないが、確実に戦闘不能になっていた。
しかし、そのとき、私が大きく吹き飛ばされた。
麻生唯の音波だった。
 
「京さん。今のうちに二人を」
 
「わ、分かったわ」
 
そう言うと、今日が二人を連れて屋上から飛び降りた。
 
『なるほど。最強コンビが相手なわけね』
 
「栞さん……本気なんですね」
 
『ええ。私はいつでも本気よ』
 
というのは嘘だ。私が本気を出せば、彼女達は恐らく死んでいたはずだ。
 
「静香さん。分かっているね」
 
「はい。唯様」
 
すると、静香がワームホールを放ってきた。
私がそれを避けると、時間差を生じて麻生唯が音波を放つ。
同時攻撃だった。しかも、私が避けられない攻撃を仕掛けてきた。
私は再び水分身を使った。
しかし、麻生唯が気づいていた。
 
「そこだ!」
 
「はい。唯様!」
 
麻生唯が指を指す方向に私がいた。
彼女がワームホールを放つ。
しかし、私は冷静に対処する。以前の私なら驚愕しただろうけれど、修行で化けた。
今なら彼女たちの攻撃を全て読むことができる。
私はその攻撃をまともに受けた。けれど、それすらも水分身に変わる。
 
「えっ?」
 
『遅いわね。あくびが出るわ』
 
「そんな……」
 
「くっ!」
 
麻生唯が斬りにかかる。
しかし、私はそれを避ける。
そのとき、音波で攻撃してきた。
うん。あれは避けたら、危なそうだね。
だったら、あれで相殺するしかないわ。
 
『セット!セイントビーム』
 
しかし、それは相殺するばかりか、貫いてしまった。威力は弱めたはずだけれど。
 
「そ、そんな!」
 
「唯様!危ない!!」
 
静香が庇う。しかし、その代償は大きかった。
 
『あらら?ちょっとやりすぎたみたい』
 
彼女の右肩から下が血だらけになってしまっていた。
まともに受けたのであれば、ただではすまない。それは部分的でも同じだ。
しかし、とっさのこととはいえ、麻生唯をかばうなんて、彼女も中々やるわね。
 
「ああああああぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!」
 
彼女が苦痛の顔で歪む。
 
「し、静香さん。大丈夫?」
 
「へ、平気です……ぐぅ!」
 
嘘を言うな。本当は立っても辛いはずなのに。
彼女が肩をおさえて、出血を止める。
さすがに本当にやりすぎた。
 
『麻生唯……』
 
「ぐっ!」
 
敵わないと思いつつも、立ち上がってくるあの眼。
 
「お願い。栞、彼に攻撃するのだけは止めて!」
 
彼女が悲痛に叫ぶ。しかし、麻生唯は攻撃を緩めなかった。
私に対して極大の音波を放ってくる。
確かに……あれをやられたら危なさそう。
けれど、当たらなければ意味が無い。
私は避けようとして気づいた。
 
『まさか……同時攻撃!?』
 
彼がその音波に追いついた。いやいや。音波と言っても音速を超えているだろうに。
けれど、麻生唯は捨て身の攻撃で私に斬りかかった。
だが、しかし、それすらも水の分身に変わった。
 
『惜しいわね。あともうちょっとだったのに』
 
私は麻生唯を踵落としで屋上のコンクリの床に叩きつける。
 
「くそっ!…………!?」
 
彼が上を見たとき、もう私の姿は無かった。彼の真横に移動して、彼にけりを放つ。
 
「がはっ!」
 
彼が鉄柵に叩きつけられる。
麻生唯が上着を脱いだ。というか、それは地味な制服だったけれど。
彼が自分の剣を出した。
 
『剣なんて出している暇があるのですか?』
 
「…………っ!?」
 
以前とは比べ物にならないくらいに強くなっている私にそれはもう無意味だろうね。
私は彼の切り上げた攻撃を紙一重でかわして、さらに攻撃を仕掛ける。彼をグーで殴って、さらには弾き飛ばした。彼が再び鉄柵にぶつかる。
 
『さっき、エリザが言っていたけれど、私をあなたと同等かそれ以上だと思ったら大間違いよ。私が本気を出せば、あなたなんて……粉々になるんだから……例えば、こういう風にね』
 
そう言うと、彼の右腕を折った。
 
「ぐあああああぁぁぁぁぁ――――――――!!」
 
「やめて!栞!!お願いだから……もう止めてぇ――――――ッ!!」
 
彼の右腕は折った。けれど、彼の闘志は燃やすことを諦めない。
なんで?そんな顔をできる?
腕を折られて……ボロボロの癖に……どうあがいたって勝てないのに。
 
「栞。一つだけ……聞いてもいいかな?」
 
彼が聞いてきた。
 
『何ですか?』
 
「お兄さんを殺したとき、お兄さん……栞にまだ、言い残したことがあるんじゃない?」
 
『…………っ!』
 
ど、どうして麻生唯がそれを!?
私はそれを誰にも漏らしていない。もちろん、お姉ちゃんにも……翔子やエルーノにもだ。
それはお兄ちゃんと私だけの秘密のはずだった。
 
「なんか、ちょっと引っかかっていたんだよね。どうして、栞さんが悪魔だけを殺すのか。そして、どうして人を殺さないのか。本当にお兄さんだけの命令だったのか。でも、今なら、確実に言える」
 
「えっ?」
 
静香も私と同様に動揺している。
私は分かってしまった。どうして、麻生唯が停戦を持ちかけたのか。
その答えは必然だった。麻生唯はわかってしまったのだ。
 
「そして、どうして力を封印したまま。戦っているのかも全て分かったよ」
 
それは単純な答えだった。その答えを麻生唯が言う。
 
「栞さん。自分の能力が嫌いだったんだね」
 
『4』
 
「えっ?栞は自分の能力を嫌っているの?」
 
『うん。私はこの能力があまり好きじゃないの。それに私……廃棄ナンバーでしょう?だから、普段はこのリボンで力を抑えているの』
 
「なるほど。お風呂に入っているときでもリボンを外さないのはそのためだったんだね」
 
『うん……』
 
「………… 栞。僕も昔は数学や、算数が大の苦手な科目だったんだよ」
 
『えっ?』
 
「成績は常に最下位。このままだと、文系の高校に進むしかない。でも、栞のお父さんが僕に会ってくれたおかげで僕は理系に進むことができた。それはとある講義のことだった」
 
『…………?』
 
私はお兄ちゃんの声に耳を傾ける。
 
「『数学とは無限の可能性の塊だ。それは何を為したかではなく、どうやってそれを為したか?で決まってくるのだ』と。その言葉に感銘を受けて……僕は理系に進む決意をしたんだ。いつか、お礼を言いたいとは思っていた。だから、僕は必死に勉強したんだよ」
 
それはとある冬の日のことだった。
外は雪が降っており、大都会なのに寒い空だった。
そして、お兄ちゃんが死ぬときにいった言葉。
 
『栞。数学と人間の生き方は似ている。ただ、それは人が気づくかどうかで決まる』
 
そう言われたとき、真っ先に思い出したのが、あのときに言った言葉だった。
私がどうして、悪魔以外にこの力を使わないのか。
それはこの力が自分にとっては嫌な思い出しかないのだ。
兄を殺したときもこの能力を使った。
そして、今も麻生唯を殺そうとしたときも、私は力を使ってまでして殺そうとした。
 
「栞が本当の力を出せば、こんな星など……簡単に消滅できる。多分、それは本当のことだと思う。けれど、敢えてそうしないのは自分の能力に頼りたくないからじゃないのか?と思っている」
 
麻生唯の言葉は続いていた。
 
『…………』
 
「そして、僕に行った攻撃。あれも栞が自分の能力が嫌いだから、だから、意識的に手加減していたんだ。そうでなければ、今頃、僕は墓の下に眠っていてもおかしくはないよ。そして、この星は滅ぼされていた……どう?違う?」
 
麻生唯が私に意見を求めてきた。
私はその問いに答えず、麻生唯に向かって剣を突き立てる。
そして、私は能力を使わずに……言葉で言う。
 
「それでも、私はできれば、能力を使わずにあなたを倒したかった」
 
静香がビックリする。私が本当の声で話したからだ。
それは抑揚の無い声。
けれども、私の口から発した言葉だった。
 
「…… それが……栞の本当の声?」
 
私が頷く。本当の言葉で話す日が来るとは思っていなかった。翔子やお兄ちゃんでさえ、まともに本当の言葉で話したことがなかったのに。
しかし、そうしなければ、私の事を理解してくれるたった一人の彼に対して失礼だった。
それが廃棄ナンバーの所以だ。結局、私は麻生唯のことを何も理解していなかった。
麻生唯が頬をわずかに赤く染めて、私が言う。
 
「すみませんでした。私は……本当は話せるはずだったのですけれど、皮肉なことに……私は今まで、この能力に頼らざる終えなくなってしまった。この能力が嫌いと分かっていても、それが私の全てです」
 
いつの間にか、静香が泣いていた。
 
「何故、あなたが泣くのですか?静香」
 
「だって、あなたが本当の声を出すの……一体いつ以来か……」
 
彼女が涙を拭いながら言う。
もう二度と本当の言葉で話す日は来ないと思っていた。
静香が優しすぎるから、私のために泣いてくれたということが分かる。
 
「さあ、帰りましょうか」
 
「うん。そうだね」
 
『5』
 
「あれだけ激しかった攻撃が止んだ。唯と静香はどうなったんだ?」
 
京が運動場にある鉄棒のところで傷ついた彼女たちを回復している最中だった。
 
「まさか。唯が……やられたのか」
 
ここからでは分からない。
 
「いいえ。戦いは終わりました」
 
そのときだった。翔子が突然現れて言った。
 
「お、お前は天使の……?」
 
「栞様と唯君が和解したようです。私はちょっと、残念ですけれど」
 
「…………」
 
「まあ、いずれにしろ……栞様が新しい道へと進んだこと自体は嬉しいことですね」
 
『6』
 
『言っておきますけれど、私は負けたわけじゃないんだからね』
 
いつの間にか、敗者の言い訳のような、ツンデレみたいなことを口走っていた。
 
「うん。分かっているよ。僕も栞さんに負けないために頑張るよ」
 
『全く。いつの間にか、私の事を栞さんって呼んでいるし……』
 
「まあ、いいじゃないですか」
 
そう言って、満身創痍の彼女が言う。
 
『そう言えば、どうして……私の秘密を知っているのですか?』
 
「えっ?それは…………っ!」
 
『…………ッ!』
 
「えっ?どうかしたのですか……?あっ!」
 
静香も言おうとして気づいた。目の前に天使が飛んでいることに。
それも一人や二人じゃない。
十人ぐらいに囲まれていた。それも、相当の実力者だった。
 
「お前が小松栞か?」
 
『ええ。そうですけれど、あなた達は?』
 
「私の名はフラグエル……天使だ」
 
『ふ〜ん。で?そのフラグエルさんが私に何の御用ですか?』
 
「決まっている。貴様は我々と一緒に来てもらおう」
 
「それって栞さんを逮捕するということですか?」
 
「当たり前だ。貴様もガーディアンの主なら分かるだろう。こいつにどれほどの災厄が訪れたことか。中には、こいつが悪魔を引き連れてきたという輩もいるのでな。諦めるんだな」
 
「そ、そんな!」
 
静香が悲痛に叫ぶ。この人たちは静香が十人いると考えてもよさそうな実力をしている。
 
『ふ〜ん。麻生唯がガーディアンの主だということも分かっているのですか』
 
そんな中、私が紡ぐ。
 
「えっ?」
 
『全く、藍子には歓迎してやるとは言ったものの。これほど歓迎されるとはね』
 
そう言うと、私は空を飛んだ。
 
「栞さん。何を?」
 
『麻生唯。あなたほどの人なら、私がこれからやろうとしていることも分かっているはずです』
 
「ま、まさか」
 
『まあ、このくらい……私一人で充分です。あなたは……さっさと家に帰りなさい』
 
「な、なんだと?」
 
『まあ、ついでだから、私も少しだけ、本気を出してあげましょうか』
 
私は宣告する。
 
「………… 分かった」
 
「唯様!?」
 
静香が麻生唯を見る。麻生唯は大丈夫だよとでも言わんばかりの笑顔を作る。彼も気づいたのだろう。麻生唯が去ったあと、私だけが残された。
 
「何を考えている?」
 
『別に……』
 
「まさか、あの天使の二人が助けに来てくれる……なんてことを考えているつもりならやめておけ、あの二人も時期に捕まる。天使二人が失うのは惜しいが、それでも……貴様を捕まえるのはわけがない」
 
『一つだけ、教えてあげようか?』
 
「何をだ?」
 
『右に避けないと危ないわよ』
 
「なっ!」
 
彼女から見て右に避けようとしたのだが、当たってしまった。
 
『あっ!ごめん。私から見て右だったわ』
 
それは一本の槍だった。勿論、それは私が放ったものじゃない。
 
「栞様!ごめんなさい。遅くなりました」
 
「き、貴様はゼラキエル!!」
 
「ば、馬鹿な!どうやってここに来た?ここには多数の天使を設置したはず!」
 
「あら?私の力を見縊っては困りますね。そんなもの栞様の前では無意味だと知りなさい」
 
そう言って、彼女は天使を投げた。それは鉄柵に当たって跳ね返った。
 
『翔子。早速で悪いけれど……』
 
「ええ。人払いを済ませておきました。あとは周囲の天使たちも一掃いたしました」
 
『じゃあ、残っているのは目の前にいる彼女たちだけね』
 
「うう。申し訳ありません……フラグエル様」
 
『あら?まだ、息があるみたいね』
 
「フン……こいつらを倒したところで何が変わるわけでもあるまい」
 
「あら?どうせなら、天使を全員呼んで来なさいよ。でないと本当に死ぬことになるわよ」
 
「減らず口を……!それを今黙らせてやるわ!」
 
そう言うと、いきなり襲い掛かってきた。
 
『翔子』
 
「はい?なんでしょうか?」
 
私は指を広げて、彼女に言う。
 
『五分以内で彼女を黙らせなさい。そうすれば、遅れたことをチャラにしてあげるわ』
 
「な、なんだと?」
 
「………… 分かりました。五分以内に倒せばいいのですね」
 
「貴様。言うことにことをかいて私を五分で倒すだと?」
 
「………… 栞様がそういうのですから、倒せるわ」
 
「倒させるものですか!」
 
そう言うと、屈強の天使が立ち塞がる。
 
『あら?こういうときはどうするんだっけ?翔子。教えてあげなさい』
 
「はい。天使のセオリーなら、まずは前衛を倒してから、後ろにいる奴を倒せ。というのが主な主流でしたけれど、私は……栞様が仰ったフラグエルから倒します。それが、帷様から教えられたことです」
 
正解だった。ただでさえ、短い時間で全員を倒すのは困難を極める。
だからこそ、標的の中で一番強そうな相手を倒すのが、帷様から教えられたことだった。
しかも相手は堕天使ではなく、普通の天使。弱そうな人を殺して堕天使にでもなってしまったりしたら、洒落にもならない。
だからこそ、強い相手だけを倒して他は後回しにすることだけが大切だった。
 
「フン。貴様がそんなにもいい加減だとは思わなかったぞ。ゼラキエル……」
 
「あらあら?天使の常識ばかりに捉われて、目の前の真実を見ようともしないあなたに言われたくはありませんわね。それとも、あなたが本当に正義だと思っているのですか?だとしたら、あなたの思う神様は間違っているわね」
 
「な、なんだと!?」
 
普段は厳格な彼女でも怒ると、怖いのだろう。傍にいた天使が「ひっ」と小さく叫んだ。
しかし、そんな怒りは彼女には通用しない。
おそらく、私の怒りは通用するのだろうが、私の怒りのほかに彼女が怖いものなど存在しないと思う。それは彼女が長年戦ってきた経験値だった。堕天使になっても、天使に戻ってもそれは彼女に蓄積される唯一つの経験値。
多分、相手が神であれ、同じ台詞を吐くことができるのだろう。彼女はそういう人だ。
私と一緒でありたいと願いながら、それでも違う道を進む。それが南翔子だった。
私はそんな彼女が大好きだ。
彼女は空高く飛翔して、彼女に向かって槍を突く。しかし、それを彼女が炎剣で防ぐ。
 
「なるほど、それがあなたの炎剣ですか……」
 
彼女のそれは本当に炎を纏った剣だった。
サラマンダーの加護を受けるとか言っていたが、しかし、翔子には通用しない。
 
「ぐっ!あなたなんかに……キャア!」
 
彼女を弾き飛ばす。
そのガードごと突き崩したのだ。
 
「そ、そんな……馬鹿な!」
 
彼女が呆けている間に再び翔子が間合いを詰める。
 
「私に梃子摺っているようでは、栞様には到底及びませんよ」
 
しかし、フラグエルは寸前で避ける。
さすがは上級天使。他の悪魔とは一味もふた味も違うということか。
けれど、それは翔子も同じだった。
 
『残り三分よ』
 
「しょうがないです。私も少しだけ本気を出しますよ」
 
「なっ!」
 
そう言うと、翔子が再び槍で突く。
それをフラグエルは寸前で避ける。が、しかし、翔子が彼女を蹴り上げた。
 
「ぐっ!がはっ!」
 
「この……!」
 
傍にいた天使が彼女に向かって攻撃をするが、彼女はそれをすぐに見切り、かわした。
 
「あら?あなた達も死にたいの?」
 
それはぞっとするような冷たい眼だった。
しかし、私は知っている。彼女はその中でも優しさを失ってはいない。
彼女が本気を出せば、彼女を貫くことだってできるのに、敢えてしないのは彼女が手加減している。彼女の実力はもう上級天使以上だった。
 
「こ、この野郎!」
 
フラグエルが蹴りを放ってきた。しかし、翔子は触れさせないどころか、その反動を利用して返し技で返してきたのだ。
さすが、天使でも指折りの槍使い。
 
『残り二分よ』
 
私は時計を確認する。
時計の進み具合が遅いのは神の天恵か。
それとも、日頃彼女が私に従事してくれているご褒美か。
 
「じゃあ、そろそろ決めちゃいます」
 
「なっ!」
 
すると、翔子は巨大な槍を出してきた。
その槍は私のゴッド・セイバーよりも少し小さいが、突進力がある中々の技だった。
それは聖なる槍という異名を持つ。彼女自身が最強と自負する技だった。
 
「な、なんだ?あの槍は?」
 
彼女がガタガタと震える。それもそうだろう。私自身でも見たことがない技だった。
 
「ホーリーランス!!」
 
翔子が放った一撃は彼女自身を吹き飛ばした。
 
「五分……ちょうどです」
 
『…… よくやったわね。ご褒美よ』
 
そう言うと、彼女に優しくキスをする。
 
「し、栞様……」
 
「さて、残りは天使を一掃してからね」
 
彼女を離すと、私は残りの天使を見る。
 
「ええ。そうですね」
 
「あなた達……こんなことをしてただで済むと思っているのか?」
 
『それはあなた達だって一緒でしょう?』
 
「な、何を?」
 
『私の家族に指一本でも触れてみなさい!天界まで殴り込んで、天界を破壊してやるわよ』
 
「なっ!」
 
それは文字通りの宣戦布告だった。
もしも、家族に手を出そうとするものなら、私が黙っちゃいない。
まあ、もしもそんなことをしても彼女たちのことだから、やられる羽目にはならないとは思うが。
それでも釘を刺しておくには丁度よかった。
 
「ぐっ!」
 
天使のプライドか、それとも仲間の命か。どちらかで揺れ動いている。
もしも、天使のプライドを取るなら、私は戦えばいいけれど、もしも、仲間の命をとるなら、戦わなくても良くなる。単純な行動だった。
 
『さて、どうするのかしら?』
 
「………… わかったわ。今回はあなた達のことは見送ることにするわ」
 
『そう。私の言うことは嘘偽りないことが伝わったのね』
 
「でも、あなた達に少しでも危険だと感じたら、すぐにでも、また討伐隊を派遣します」
 
『ええ。構わないわ。そのときは全力で相手をしてあげる。互いの生き残りをかけてでも』
 
私が言うと、彼女達は拳をグッと握り締めて、去っていく。
 
「栞様」
 
『何?』
 
「帰りましょうか」
 
『そうね』
 
私たちはさっさと帰路に着いたのだった。
 
『7』
 
その途中で唯と残りのガーディアンに会った。
 
「あ、あの。栞さん」
 
『何ですか?』
 
「天使たちは?」
 
『ああ。翔子が片付けてくれました』
 
「えっ?どうやって?」
 
『さあ?でも、私よりもきっと良い方法ですわ』
 
勝手に翔子のせいにするけれど、彼女も内心悪い気はしていないはずだ。
 
「栞さん」
 
『はい?』
 
「その……もう言葉で喋ってもいいんじゃないかなぁ?」
 
『いいえ。そういうわけには行きません。私の無表情も、私の『流れ』る言葉も全ては私が背負うべき十字架なのです』
 
「えっ?」
 
『私が死ねと言えば、彼女達は喜んで死ぬでしょう。私はそれが嫌なのです。だから、私は彼女たちを殺せない』
 
「あっ……」
 
「そうね。あなたはそういう人だもんね」
 
『あら?麗も少しは人の気持ちが分かったかしら?』
 
「………… 栞さん」
 
『…… 今度は何ですか?』
 
「…… ごめんね」
 
『…………』
 
「僕は今まで、栞さんの気持ちを考えないで勝手に告白してしまった。けれど、その気持ちは僕の本心だったよ。だから、栞さんに認められるまでもっともっと、頑張るよ」
 
『それで?私を奴隷にして…………』
 
それから、どうするつもりですか?と聞こうとして止められた。
 
「もう、あなたを奴隷にすることはないよ」
 
『えっ?』
 
「ううん。奴隷にはできないと言ったほうが良いかな?栞さんはもう、僕よりも上を良く強さを身につけているから」
 
『じゃあ、どうやって?』
 
「僕自身の人間性を見ていて欲しい。僕の能力じゃなくてね。それで栞さんに決めて欲しい」
 
『それはつまり、もう私を奴隷にはしないということですか?』
 
私は俯いて、彼に問う。
 
「うん。僕たちは対等なままで付き合っていきたい。あくまで主人とガーディアンじゃなくて、一人の男と女の子として……付き合っていって欲しいんだ」
 
『そうですか……他のみんなはそれで良いと思っているの?』
 
「まあ、唯が決めたことだからね。今更……変えられないわよ」
 
麗が言うと、ミシェルも言う。
 
「本当はあなたなんか大嫌いだけど、唯様がお決めになったことだから……私たちはあなた達を見守るだけにしておくわ」
 
『………… 麻生唯』
 
私はガーディアンのみんなに意見を聞いたあと、麻生唯に言う。
 
「はい」
 
『二つだけ条件があるわ。まず一つ目。私に対してだけ、特別な感情を持たないでください』
 
「えっ?」
 
これに驚いたのは麻生唯だけではない。他のガーディアンまでもが驚いている。
それはそうだろう。特別な感情とは『好き』ということに他ならない。
しかし、そんな中で唯一、翔子だけがやっぱりというような顔で私たちを見ていた。
 
『私は廃棄ナンバーだから、私以外のガーディアンのことを疎かにしないでください』
 
「そんな……栞……私たちに気を使わなくてもいいのよ」
 
『いいえ。そうではないのですよ。静香……私の事は好きになってもいいですけれど、そのせいで他のガーディアンのことも気にかけない駄目な主なら、私は絶対に要りませんから』
 
「つまり、栞はガーディアン全員を愛せってこと?」
 
「違います。私の事ばかりを考えて……他を疎かにしているようでは……ガーディアンの主は務まらない。ですから、私にだけ特別な感情を持たないでくださいということです。今更、残酷な行為ですけれど……」
 
つまり、私が言いたいことは『私のためだけに考えるな』ということだ。
しかし、これだけは了承してもらわなかったら、私は麻生唯を軽蔑する。
麻生唯が私の事を好いてくれていること自体は嬉しいのだが、そのことばかりに捉われてしまい、他のことに夢中でなくなるのはやはり、自分としても面白くない。
相手を好きになるとはそういうことなのだ。今更、勝手ではあるけれど……。
 
「うん。分かった」
 
しかし、それを麻生唯が了承した。
 
『では、もう一つは……これは他のガーディアンにもいえることなのですけれど……これから先、戦いが激化してくる恐れがあります。そうなると、麻生唯一人が戦うことも予想されます。そうなったとき、まずは真っ先に私に電話をください。メールでも構いません』
 
「うん。共同でやるんだもんね。当たり前だよ」
 
『勿論、一人での単独行動は慎んでください。ザウラスとの一戦がそうですね』
 
「………… う」
 
あれは麻生唯も悪かったと思っている。
 
『そのほかでもあなたが抱えている問題は大きいのです。どの選択肢を選ぶかはあなたの自由ですけれど、私たちに報告しないで問題を抱えるのだけはやめてください。これも守らなければ、私はあなたを軽蔑します』
 
「わかった。それだけ?」
 
『はい。もしも、私が電話でもメールでもでないとき、あるいは私に相談したくないときは翔子に相談してください。彼女なら、きっと何か役に立つはずです。これは他のガーディアンにも言っています』
 
「分かった。じゃあ、こっちからも一つだけ、条件をいいかな?」
 
『えっ?』
 
「いや、栞さんが嫌じゃなければいいんだけれど。その……」
 
『何ですか?』
 
「呼び方を変えてくれないか?」
 
『…………』
 
呼び方とはつまり、『麻生唯』という固有名詞を変えてくれということか。
おそらく、以前から気になっていたのだろう。
しかも、私も気に留めていなかった。
 
「ほ、ほら、栞さんって、麻生唯とかいつも固いイメージがあるから、だから、下の名前を呼び捨てでも良いから呼んで欲しいなぁって」
 
なんか、しどろもどろに言う麻生唯が面白かった。
私はフッと無表情を崩して……やわらかい笑みを浮かべていた。
 
「えっ?」
 
「わかりました。唯君」
 
「…………」
 
一同が沈黙。これにはガーディアン全員と麻生唯、そして、翔子までもが固まる。
 
『何ですか?』
 
「………… あ、改めてみると、栞の笑みは……それだけで破壊力があるわね」
 
全員がうんうんと頷いた。しかし、私はなんなのかわからない。
 
『それは褒めているのですか?それとも貶しているの?』
 
私が元の無表情に戻ると、翔子が残念そうな顔をしていた。
 
「うぅ…… 私からは何も言えないわ」
 
『何ですか?それは……自分のいったことに責任を持ちなさい……』
 
「自覚がないのが怖いですね。唯さま」
 
「うん」
 
「でも、唯様と栞が仲良くなって良かったです。一時はどうなるかと思いましたけれど」
 
「うん。ごめんね。本当は栞を下僕にするつもりだったけれど……でも……」
 
「…………?」
 
「ますます興味を持っちゃったよ。栞さんのこと」
 
「…………」
 
その言葉に大きなため息を吐く静香だった。全く、意味がわからない行動だった。
 
『8』
 
私たちが帰ると、真っ先に出迎えてくれたのが、エルーノだった。
 
「ただいま」
 
彼女はメイド姿で私たちを出迎えてくれていた。
私は服装までは特にこだわっていなかったのだが、それにしても似合っているわね。
私は少しだけ、彼女のメイド姿を見て……彼女に鞄を預けた。
 
「お帰りなさいませ。栞様……翔子ちゃん」
 
『ええ。ただいま。エルーノ』
 
「ちょうど……終わったところだったから」
 
『ああ。なるほど……じゃあ、私の部屋につれてきなさい』
 
「はい!」
 
「終わったって何が終わったのですか?」
 
「彼女の試着ですよ」
 
「ああ。なるほど」
 
彼女と聞いてぴんと来たのだろう。私たちのほかに彼女と言ったら一人しかいない。
私がしばらく、部屋での宿題をしていると……コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
誰かはわかっていた。
 
『入って良いわよ』
 
「失礼します」
 
入ってきたのは先日、エルーノの奴隷になったばかりのエターニアだった。
彼女はピンクと白を基調とした綺麗な和服を着ていた。
元々が大和撫子なのか、それとも素から天然素材だったのか、よく似合っている。
 
『へぇ…… よく似合っているわね』
 
「ありがとうございます。申し遅れました。私の名前は…………」
 
『知っているわ。エターニアでしょう。エルーノから聞いたわ。あなた達は昔、友達だったのですってね』
 
私はなるべく、本筋とは別の話で彼女に言う。
その方が話にもって行きやすいからだ。
 
「はい。でも、今は……エルーノ様が私のご主人様になりましたが」
 
『それをあなたはどう思っているの?』
 
「はい。嬉しく思っています」
 
『それで?あなたは私のなんなのかしら?』
 
「奴隷です」
 
即答で嬉しく答えてくれるエターニア。
 
『奴隷の意味を分かっていて言っているの?』
 
「はい。奴隷とは主人が死ぬまでお仕えする存在です。私は……今はあなた様の奴隷ですから、何でも言いつけください」
 
『なるほど。じゃあ、もっと近くによって。私の隣に座りなさい』
 
「は、はい。失礼します」
 
そう言うと、彼女は私のベッドに座って、私の隣に座っていた。
このまま、彼女を押し倒してしまうのは簡単だったけれど、それじゃあ、面白くない。
 
『何をしているのよ。もっと……密着させて』
 
「は、はい」
 
そう言うと、密着するまで近づいてきた。彼女の吐息が私にかかる。
 
「あ、あの…………ご主人様」
 
『私の事はこれから、栞と呼んで』
 
「はい。栞様」
 
『何?』
 
「これから、何をすればいいのでしょうか?」
 
『そうね。寝転んで……』
 
そう言うと、彼女が仰向けに寝転ぶ。
彼女の胸が強調される。彼女の胸が大きいということは誰もが知っていたけれど、これは想像以上だった。
胸が大きいという点では……ガーディアンの全員もでかいけれど、彼女の胸はガーディアンの胸よりも勝るとも劣らない。
 
『本当に大きい胸ね。私の指では掴めないくらいよ』
 
私は和服越しから彼女の胸を触る。鷲掴みをしようと思ったけれど、彼女の胸が想像以上に大きくて無理だった。
それに綺麗な胸の形……。
 
「ああ……でも、なんだか恥ずかしい……」
 
『恥ずかしがることはないわ…………綺麗よ。凄く』
 
私は彼女に向かって、和服を脱ぐように命じる。
彼女は脱ぐ。綺麗なブラジャーにパンティーを着ているだけだった。
私はブラジャー越しに彼女の胸を触ってみる。肉崩れしない綺麗な形の胸だった。
 
『あなたの胸かなり弾力性があるわね。シリコンでも使っているの?』
 
私は指で彼女の胸を突きながら訊ねる。
 
「あん…………いいえ。天然ものですけれど」
 
『………… 羨ましいわね』
 
「でも、そんな……きゃふ!……栞様のだって大きいではないですか……」
 
『私とあなたの比較にしてもらったら困るわね……』
 
「あっ…… ごめんなさい……私ったら、栞様に困らせるようなことを……」
 
『………… あなたの方が大きいからね。まあ、それは神がもたらした天恵だと思って、諦めるわ。別に気にしなくてもいいわよ』
 
「は、はい。本当にすみません」
 
私は彼女を跨らせて、彼女の蜜壷を吸う。パンティー越しだったけれど、彼女が喘ぐ。私はそれを聞いて、素直に可愛いと思った。
 
「そ、そんな……!きゃふ……そこは……汚いです!」
 
『いいえ。あなたのここ……美味しいわよ』
 
ジュルジュルという淫猥な音が部屋に響き渡る。私の部屋なので、防音がしていない。
お兄ちゃんのところは基本的に防音がしてあるので、周囲には届かないけれど。
けれど、彼女は恥ずかしくないのか……それともエルーノの操作によって人格すらも変えられるほどに気持ちいいのか。どちらなのか、微妙だ。
まあ、私は楽しいからやるけれど。
 
「…… ああ!ああん!……でも、すごく気持ちいいです……もっと吸ってぇ!」
 
私は彼女のパンティーを脱がせる。テラテラした滑り気に粘々した粘着質が彼女のパンティー越しに引っ付いていた。
けれど、彼女のおま○こはエルーノや翔子よりもグチョグチョに濡れていた。
 
『あなたのここ……とても濡れているわ。すごい……私でも吸い切れないわ』
 
「ああっ!お、おかしくなっちゃう!気持ち良過ぎておかしく……なっちゃいます!!」
 
まるで、とめどなく出てくる水の量に私は耐え切れずに顔面にもろに被ってしまった。
 
『ひゃあ!』
 
どうやら、軽くイッたらしい。
 
「す、すみません!!わ、私ったら……なんて粗相を!」
 
『…… 気持ちよかったのね……もっと気持ちよくしてあげるわよ。お尻をこっちに向けて』
 
「は、はい!」
 
とにかく怒らせたくなかったのか、それともエルーノが命令をしたら素直に従えという暗示が効いているのか、彼女がお尻をこっちに向けた。
どうやら、後でのお仕置きが怖いらしい。彼女の眼には涙があった。
私は擬似ペニスを出して、彼女に向かって思いっきり突き刺した。
思ったよりも彼女の穴はすんなりと入ることが出来た。
簡単に処女の壁を突き破って、そこから血が漏れ出したことも気にせずに……ゆっくりと彼女の穴を楽しむ。
 
『あなたの穴の中。とても気持ちいいわ』
 
「ああっ……はぁ……ああん……はあ……」
 
彼女は喘ぎ声を上げながら、気持ちよさそうに身をよじらせる。
 
『動いてもいい?』
 
「………… は、はい……」
 
私は彼女に痛い思いをさせないようにゆっくりと動く。
まるで、彼女を気遣う彼氏のように。
私は基本的にはドSだけれど、こういうのも好きだった。
相手に快楽を与える。私はこういうシチュエーションが好きだった。
彼女達はドMに成り下がったけれど、私は普通のセックスも楽しみたいと思っていた。
 
「ああん……!き、気持ちいいです!栞様ぁ!もっと動いてください」
 
『そう?じゃあ、遠慮なく行くわよ』
 
そう言うと、一気に突き上げた。
彼女の愛液がとめどなく、溢れ出てくる。意外と感じやすいかもしれない。彼女をエルーノの奴隷にしたのは正解だったかもしれない。
 
「ああっ!お、おかしくなっちゃう!気持ちよすぎて……おかしくなっちゃいます!!」
 
『おかしくなってもいいわよ。私がいっぱい愛してあげるわ』
 
「ああ……イキます……!イク……!イッちゃう!!」
 
『ええ。イッちゃっても良いわよ……』
 
すると、彼女は盛大に愛液を出す。いや、それはもう迸ったと言った方が正しいかもしれない。
そのくらいの量だった。
すると、全てを終えた後に彼女が私の擬似ペニスを舐め始めた。
始めは裏筋を舐める程度だったけれど、エルーノに習ったのか徐々に様になってきている。
 
「………… あん……美味し……あん……」
 
『私のペニスは本物じゃないのよ?それでも美味しいの?』
 
「………… は、はい。とても……」
 
『無理しなくてもいいのよ』
 
「む、無理じゃありません。私がやりたいのです」
 
『あら?そうなの?あなたって、とことんエッチな娘なのね』
 
「………… す、すみません」
 
『別に良いわよ。続けなさい』
 
「…… は、はい」
 
彼女は素直に従った。
天使に奉仕をしてもらえるなんて滅多に無い機会だから、射精はすぐに出来た。
 
『???』
 
「く…… くそっ!な、何なの?あの女!」
 
彼女……フラグエルは夜の街を彷徨っていた。
かなり遠くまで飛ばされたが、それでも東京近辺に飛ばされたのは彼女の能力があったから他ならない。
しかし、それでも戦闘不能になるのには充分な力だった。
特に最後のホーリーランスだけは堕天使には絶対にできない。
ならば、最後に放ったものはなんなのか?それは彼女には絶対に理解できないことだった。
 
「くそっ!」
 
彼女は荒れていた。その荒れ模様が後にとんでもない事態を引き起こすことも知らずに。
そしてそれは、唐突に訪れた。
フラグエルが壁にゴンと叩いたときにそれは起こった。
壁が脆くなって崩れてしまったのだ。
それは崩落として突如として襲い掛かる。
 
「し、しまった!」
 
それは作業員に襲い掛かってもいた。
彼女は外壁から向こうに向けて殴ったので平気だったが。
それでも充分な致命傷を作業員に与えたのだった。
 
「い、いや……そ、そんな……な、なり…………たく……ない……」
 
彼女は知っている。いや、知りすぎているからこそ、なりたくないのだ。
変化は劇的だった。
白い翼から、根元から黒くなっていく。
彼女が頭をおさえる。とてつもない恍惚感に襲われる。そして、突如襲ってくる空腹感。それは抑えようとしても中々抑えられない。
完璧に黒くなったときに彼女の中で何かが弾けた。
それまであった男性の遺体に近づいて、夢中になって内臓を貪る。
 
「なんだ。こんなにも簡単なことだったのね」
 
彼女は漆黒の闇に消えていったのだった。
後に残ったのは男性の遺体と無残にも散らされた白と黒の羽根だった。









     




















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