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人の『想い』ってどこにあるのだろう?
 
それは心の中?
 
それとも、大切な人を守ろうとする心そのもの?
 
分からないけれど。
 
その想いはきっと、私の中にも在ると思う。
 
だって、私は存在しているのだから。
 
『1』
 
――どうしたのだ?
 
(……また……これですか……)
 
――良いではないか。貴殿にも再度ワタクシを求むることになるだろうと。話していたではないか?
 
(そうですけれど……)
 
――それよりどうしたのだ?
 
(……私は……また迷惑をかけてしまった)
 
――『無』の能力者か。
 
(…………)
 
――肯定も否定もせぬということは肯定と捉えるぞ。ならば、どうする?手を拱いてみているだけなのか。
 
(…………っ)
 
――そうではないだろう。しかしとて、現状を打破できるほどの力は貴殿には備わっていない。
 
(…………)
 
――……一つだけ。教えてやろう。聞き逃すなよ。
 
(…………?)
 
――『無』の能力者といえども絶対ではない。いや、絶対というものはこの世に存在しない。絶対というのはまやかしに過ぎないのだ。
 
(……随分と饒舌なんですね)
 
――ワタクシはこの世界では『アンサー』と名乗っているからな。
 
(アンサー?)
 
――そのほかにも色々と呼び名があるが、この名の方がワタクシは好きだ。
 
(でも、それと何の関係が?)
 
――関係なんぞ無くても良いだろう。
 
(『答え』……ですか)
 
――名なんてものはさしたる意味のないもの。それは個を区別する玩具に過ぎない。
 
(その割には気に入っているんですね……その名前)
 
――然したる名も無い程度ではこれが一番だろう。
 
(でも、なんとなく……分かってきました。あなたの正体が……)
 
――そうか。今思えば、ワタクシが貴殿の中に入ったのは正解かも知れぬな……。
 
(そうですね……私は『ヒト』に対しては……あなたの仰った通りかもしれません)
 
――そうかもな。
 
(でも、あれは放置しておいても良いのですか?)
 
――構わぬだろう。あれは想像の範囲内を超える。おそらく、人間には手出しは出来ぬ。
 
『2』
 
麻生唯達が栞にあったのは次の日の朝だった。
学校に登校する際の通学中の出来事にそれは起こる。
偶然といえば、漫画や小説の掟なのだろうが、あれの後姿はやはり、栞なのだろう。
栞は翔子と同じ学生服を着ていた。地味な服は似合ってはいるが、彼女の方が幾分、小さく見えた。
 
「あっ!」
 
「し、栞様!」
 
翔子と唯が近寄る……だが。
 
『なんじゃ。貴様か』
 
その冷たい視線に翔子と唯はゾッとした。
栞の表情は無表情だっただけにまだ、近寄りがたい印象はあったけれど、それでも何とかなった。けれど、目の前の少女は全てが逸脱していた。
それは数多くの人を殺してきた暗い眼。
しかも、その眼は全てにおいて超越している眼だった。
 
『……して、何用じゃ?』
 
「こんなところで何を?」
 
麻生唯が聞いた。
 
『何をって……これは奇なことを聞くもんじゃな。この格好を見て分からぬか?』
 
「えっと、普通に学校に行くの?」
 
それはそれで、普通に問題があるが。
 
『現代に嗜むのも良いだろう。飽きたら、壊すだけだ』
 
その言葉に翔子はゾッとした。今の栞は『無』を司るから余計な刺激をしない方がいい。
 
「もしも、そんなことをさせやしないといったらどうする?」
 
『それは興味深いことを聞くのう。じゃが、同じことよ。私はそれしか知らぬからの』
 
「まるで、弱者は死ねと言いたげな表情だね」
 
『それと同じことを貴様たちもして来ただろう』
 
「あなたと同じにしないでくれる?」
 
『そうかな。例えばそこの貴様……前は堕天使だったのだろう?』
 
「うっ」
 
もはや、翔子は苦痛でしかなかった。ここから、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
目の前は栞であって栞ではない。
それはわかっていたはずなのに……。
 
「栞様はどうしているのですか?」
 
『奴のことなど、どうでも良いだろう』
 
「どうでもよくはありません!!」
 
一瞬、周りのみんながいっせいに翔子のほうを見た。いきなり、大声を出したからだ。
 
「みんな……栞様のことを心配していたのですよ。それをどうでもよくはありませんよ」
 
翔子は泣いていた。心配していたのも本当のことだったし、栞様を捜していたのも本当だった。
それだけ翔子は好いているのだ。
 
『……悪かった。今のは失言じゃったな……奴は私の中で彼女と再度の邂逅をしているだろう』
 
「えっ?」
 
今までの彼女は人を殺し続けてきたはず……。
それなのに、今の彼女は確かに謝罪の言葉を口にした。しかも、頭まで下げたのだ。
 
「彼女って誰?まさか、『有』の能力者?」
 
『いや、違う。アンサーとか言うておったが……今の私には不明だ』
 
「アンサー?」
 
唯が首をかしげる。
 
『それ以外にも色々と呼び名は付いてはいたが』
 
「ふ〜ん。『無』の能力者のあなたにも分からないことってあるんだね」
 
『それは当然じゃ。私とて、世界の全てを見てきたわけではあるまい。世界の知らないことまで知っている奴とは一緒にするな』
 
彼女は髪の毛をさらっと掻き揚げる仕草をして……言う。
意外と乙女チックだったりするのは気のせいだろうか。と唯は思う。
 
『3』
 
放課後、栞様は有無を言わさずに帰っていく。
私は栞様を追いかけた。
栞様の名前を呼びながら。
 
「栞ちゃん!」
 
『どうしたのじゃ?』
 
「いえ。どこに行くのかなぁと思いまして」
 
いいや。違う。このまま行くと、栞様が本当にどこか遠くに行ってしまいそうな気がしたのだ。
だからこそ、私は止めるのだ。
 
『別に付いてきてもよいが、余り……女性には向いてないかも知れぬな』
 
「えっ?それはどういう……」
 
『太るからじゃ』
 
栞様が行き着いた先は…………なんと、ケーキ屋だった。
 
「け、ケーキ屋さん……ですか?」
 
私の前に並べられた数々のケーキ。まさか、これを彼女が一人で味わうというのか。
 
『これも現代の嗜みという奴かのう。一度、味わってみたかったんじゃ』
 
なんか、一気に脱力した。これが……『無』を司る彼女とは到底思えない。
 
『どうした?これが『無』を司る私でがっかりしたか?』
 
「い、いえ。少し拍子が抜けたといいますか……なんと言いますか」
 
私は頼んでいたアイスコーヒーを少し飲みながら気持ちを落ち着ける。
 
『ふむ……では、貴様はどういう感情を私に抱いておるのだ?』
 
彼女はフォークでケーキを突き刺してそれを口に運びながら言う。
 
「えっ?」
 
『言え。言ってみよ』
 
「……会う前の栞様は……不安と恐れ……それから怖いという想いでした」
 
『……そうか。だが、それは間違ってはおらぬ。私は今まで、百万という単位で人を殺害してきたからな』
 
「…………っ!」
 
百万という単位をそろっと言ってしまう栞様に私はぞっとする。私でさえも、数十人だというのに……。
 
『それは栞という人物に今までしてきた人間の罰……と思うておる』
 
そうなのだ。栞様はそれまでも幾度となく人間に殺され続けてきたのだ。
 
『だから、私は人間が嫌いじゃ……その気持ちに偽りは無い』
 
「栞様が嫌っていなくてもですか?」
 
『ああ。その通りじゃな』
 
「じゃあ、栞様がそれを止めると分かっていてもですか?」
 
『…………構わぬ』
 
「……どうしてですか?」
 
『奴が自分の約束があるように……私にもあるの…………じゃ……』
 
栞様がフォークを落とす。倒れようとすると、私が受け止める。
 
「栞様っ!」
 
『くそっ!やはり、耐え切るのは無理か……いいか。よく覚えておけ。人間は狡猾じゃ。それを守りきるというのは至難の技だと奴に伝えておけ。私も近々、現れる。それまで鍛錬を怠るなと』
 
「はい」
 
『……くそっ……ケーキもまだ途中なのに……』
 
「また。食べれば良いじゃないですか」
 
『…………そうじゃな』
 
そう言うと、不思議な光景を見た。あれだけ、冷酷な瞳だったはずの栞様が笑っておられたのだ。それは一瞬だけだったけれど。
それから、栞様は眠ってしまわれた。
 
『4』
 
私が麻生唯のマンションに行くと、早苗さんと麗ちゃんがいた。
 
「あっ!すみません」
 
「何?」
 
「これを……」
 
「って、栞じゃない。どうしたの?」
 
「麻生唯から聞かなかったんですか?」
 
「何も聞いてないけれど」
 
「いいえ。エルーノは?」
 
「いるわよ」
 
私は全てを話して、なんとか栞様をベットに寝かせる。
 
「一応、あなた達の家は直しておいたけれど、また、何かあったらいつでも言ってね」
 
早苗さんがそう言うと、私は礼を言った。
 
「ありがとうございます」
 
「それにしても、『無』の能力者がそんなことを言っていたとはね」
 
麗ちゃんが言う。私も予期しなかったけれど。
 
「こりゃあ、私たちも久々に特訓するしかないわね」
 
「ええ。そうね」
 
「特訓……ですか?ガーディアンの皆さん特訓なんてするんですか?」
 
エルーノが聞いた。
 
「まあ、ちょっとね。私たちもいつまでも唯君に頼るわけには行かないからね」
 
私たちは体育館に移動しながらそれを聞いていた。
 
「栞のこと……ちょっとは同情しているから……とは言っても、組み手とかやるだけど」
 
「あ。ちなみに唯君には内緒にしておいてね。余計な心配になるから」
 
「余計な心配って」
 
体育館の広場に到着する。そこは噴水とかがあって、気持ちのいい場所だった。
 
「言っとくけれど……手加減は無用だからね」
 
「当然!」
 
いきなり、噴水の水が持ち上がる。
 
「行くわよ」
 
そう言うと、彼女はその大量の水を彼女に当てようとした。
 
「あら?同じ奴とは芸が無いわね」
 
土が隆起してその水を防ぐ。
噴水は麗ちゃんの力が最大限に生かせるし、広場は早苗さんが最大限に生かせる場所だってことが今になって分かった。
 
「止めなくてもいいのですか?」
 
「別に良いんじゃない?別に命のやり取りをしているわけじゃないんだから」
 
早苗さんが動いた。手を地面に置くと、その地面が突然、林に変わった。
 
「あわわわ。何ですか?これ……」
 
彼女の能力はこんなことまで出来るのか?と、私は驚いた。
雑草を木に変わらせて、それを育て上げる。それも一瞬にだ。
麗ちゃんが水の能力でその木を切り倒すが、それでも伸びる木には対応できなかった。
 
「なるほど。眼くらましね」
 
麗ちゃんがそう言うと、辺りをキョロキョロとするが、彼女が何かをしようとする気配が無い。
何かを企んでいるらしいが、その何かを彼女は分からないのだ。
 
「面倒ね」
 
麗ちゃんは更に大量の水を作り出した。
それは木々をも薙ぎ倒しそうなほどの大量の水だった。
私たちは飛んで見守っているけれど、彼女はどうなのだろう。
すると、彼女がいきなり水の上から出てきた。
鉄のような服を身に纏っている。
 
「あら?やっぱり、そう来たわね。でも……そっちもお見通しよ」
 
すると、彼女が水の刃を使って早苗さんを切る。それは直撃した。
けれど……それは偽者だった。
彼女は自分で鉄を作って自分の姿に変えたのだ。
 
「なっ!」
 
「残念。本物はこっちよ」
 
そう言うと、早苗さんは鉄を纏った一撃を麗ちゃんに浴びせる。
麗ちゃんの顔が苦痛で歪む。
だが、それは彼女も同じだった。
 
「ぐっ!あああああぁぁぁぁ!!」
 
彼女の鉄が焼け爛れていた。彼女は鉄を捨てるが、火傷まではどうにもならない。
 
「えっ?どういうことなのですか?」
 
「酸ね。人体には影響は無くても、鉄なら焼け爛れるほどの酸を身に纏っていたのよ」
 
「こ、これがガーディアンたちの戦い……」
 
「ええ。そうね。エルーノ……彼女たちが勝つにせよ負けるにせよ。この勝負をしっかりと眼に焼き付けておきなさい。彼女たちの戦いを……これが彼女たちが生きてきた証なんだから」
 
「は、はい」
 
今度は麗ちゃんの反撃の番だった。彼女は顔を殴られただけでその他は全然、ノーダメージだったからだ。
しかし、それは彼女も同じだった。止まらない戦いが始まった。
 
『5』
 
なんか、騒がしいわね。そう思って、私は起きた。
頭が痛い。やっぱり、彼女が出てきたようだ。
彼女が出てくると、私の頭まで偏頭痛がするのだ。まあ、病気とかじゃなくて……軽いストレス発散症状なんだけれど。
私は辺りを見渡す。
 
「あっ?起きた?」
 
『麻生唯……』
 
「流れを司る栞さんだね。良かった……」
 
『ごめんなさい。迷惑をかけたわね』
 
「うん。それはいいんだけど……」
 
『あら?ガーディアンのみんなも居たの?どうしたの?』
 
「それが……麗と早苗が居ないの」
 
「それから、天使の二人も……」
 
「エルーノと翔子もいないの?」
 
「うん。そろそろ、晩御飯なんだけれど、二人とも居ないのよ。どうしたらいいと思う?」
 
『私が捜してくるわ』
 
「僕も行っていい?」
 
『ええ。お願いするわ』
 
「私も行きます」
 
「私も。あの子達が心配だから」
 
ガーディアン達が次々と行きたいと言い出すけれど。
 
『大丈夫よ。私と麻生唯が行けば大丈夫よ』
 
「……そうね。唯様。あの子達をお願いします」
 
「うん。分かった」
 
しばらく、歩くと……唐突に麻生唯が聞いてきた。
 
「それにしても、意外だね」
 
『何がですか?』
 
「てっきり、私一人でも大丈夫ですとか言いそうな気がしたから」
 
『何を言っているのですか』
 
「えっ?」
 
『私があなたを誘ったのは彼女たちの闘いを見て欲しかったからですよ』
 
「それはどういう意味?」
 
『すぐに分かります』
 
そう言うと、私たちは目的地に到着した。
 
「な、何これ?」
 
そこは前までは体育館前の大きな広場だったのに……今は雑木林に変わっていた。
 
『これは早苗ね。あら?天使の二人も発見』
 
「どういうこと?」
 
『つまり、あの二人は戦っているのよ』
 
「何と?」
 
『言い方が悪かったわね。彼女達は強くなるために……二人じゃれ合っているのよ』
 
「じゃれ合うって……まさか!」
 
彼が走り出そうとしたのを私が止める。
 
『待って!』
 
彼の肩を掴む。
 
「どうして?二人を止めなきゃ!」
 
『さっきも言ったでしょう?彼女達はあなたのために。強くなるために戦っているのよ』
 
「えっ?」
 
『とは言え……さすがにやりすぎね』
 
私は麻生唯の肩を掴むのを止めて、大空へと飛び立った。
 
『何をやっているのよ。あなた達』
 
「し、栞様……元気になられたんですか?」
 
『ええ。おかげ様で……全く、こんなことをしても近所迷惑をするだけなのに……』
 
「えっ?」
 
そう言うと、私は大きく息を吸った。
 
「止めなさいッ!!あなた達!!」
 
『6』
 
それは見たことも無い怒号でした。当然、二人の動きが止まる。
い、いえ。それ以前に栞様が自ら言葉を発するなんて、珍しいことです。
しかし、それは嬉しいわけでもありません。あえて言うなら、恐怖でした。
 
『全く。あなた達……何をやっているのよ』
 
「いや、だからね。これはあくまで特訓の一環であって……」
 
『特訓?これのどこが特訓ですか?周りに人がいなかったから良かったものの……一歩間違えば大惨事だったわよ!』
 
「あわわわ。し、栞様……どうかお気を鎮めてください……」
 
栞様がエルーノを睨む。それだけなのに彼女は「ヒッ」と言ったまま私の裾を掴みながら陰に隠れる。私でも眼を合わすと、思わず「ヒッ」となるほどの恐怖の目でした。
 
『翔子も止めなかったわけ?』
 
栞様は手に腰を当てて私に聞いた。
 
「す、すみません」
 
私は素直に謝って、体裁を取り繕う。
 
「栞さん。それくらいにしてください」
 
『麻生唯……』
 
「この二人も悪気があってやったわけじゃないんでしょう?」
 
「ええ。まあ……」
 
とても、あなたのために戦っていました。なんて口が裂けてもいえないのだろう。
少しだけ、顔を赤くしながら麗ちゃんが言う。
でも、強くなるために戦っていたというのも本当だった。彼女たちが抗議をすると。
 
『なるほど。じゃあ、あなた達は強くなるために戦っていたわけなのね』
 
そこまで聞いて、あれ?と思った。
栞様なら、話の流れを読んで分かっていると思っていたけれど。
しかし、それも杞憂に終わった。
 
「そ、そうよ」
 
『ばっかじゃないの?』
 
「な、馬鹿ですって?」
 
『なんで、そういうことを私に相談しないのよ』
 
「えっ?」
 
『麻生唯や静香のことを相談する前にそこから相談するのが普通でしょう』
 
「あっ……!」
 
『帰りましょう。麻生唯』
 
「う、うん」
 
「あっ!私たちも」
 
『あなた達はここで、彼女たちの手伝いよ!』
 
「ええっ?」
 
しかし、栞様はギロっと睨む。私たちはその眼に少しだけ言葉を失った。ここで、反論しようものなら、これからの夜の生活が怖い。
前回は栞様の処女を奪って……あれで済んだものの……今度はどんな仕打ちが待っているか分からない。
私は彼女の口を塞いで言う。
 
「ど、どうぞお帰りください」
 
『フン……』
 
そう言うと、栞様は帰っていきました。
 
『7』
 
「栞さん。どうして、そんなにも怒っているんですか?」
 
『やっぱり、らしくないですか?』
 
私はため息を吐いた。
 
「えっ?」
 
『すみません。本当は麻生唯が怒るはずだったのに……代わりに私が怒ってしまいました』
 
「いや、それはいいけど。でも、どうして?」
 
『イライラしていたんです』
 
「イライラ?」
 
『ええ。今回の発端は元を正せば、私の中にある彼女が原因でした』
 
「なるほど」
 
彼が納得した。
今回の原因は私の中にいる彼女……『無』を司る彼女のせいだ。
しかし、それも私ならば、原因は当然、私にある。
 
「でも、それでも栞さんが責任を感じることは無いんじゃないかな?」
 
『でも、今回は私の責任です。私が人間に殺され続けてきたから、彼女を生んでしまった』
 
「難しい問題だね」
 
『全ては私自身の問題ですから。でも、私自身の問題なのに、私自身では解決できないんです』
 
だから、イライラしてしまった。麻生唯もわかったのだろう。頷いて言う。
 
「…………そうですね」
 
『…………』
 
私が黙って歩く。夜の街灯は点くのが早い。
 
「栞さん……」
 
『何ですか?』
 
「もしかして、自分がいなくなれば……みんなにも迷惑がかからないんじゃないか?なんて思っていない?」
 
『…………少々違いますね。私も実は彼女と同じことを思っていたことがあるんです』
 
「彼女?」
 
『先ほども言った『無』を司る彼女です』
 
「…………っ!」
 
そう。いくら私でも耐え切れるわけが無い。永遠と繰り返される残虐な行為に私はたった一度でも……いや。二、三回くらい……そう願ったことがあるのだ。
大切な人を殺されて、人間なんて、全て滅んでしまえばいい。なんてことを本気で思ったことがあるのだ。
それは永遠に続く苦痛の螺旋だった。
 
「で、でも、それは……思い至ったんでしょう?」
 
『それも少し違います。私はただ気づかされただけです』
 
「気づかされた?兄にですか?」
 
『いいえ。違います。それは彼女……私の中にいる『答え』を司る。名前はアンサーという人です』
 
「えっ?」
 
『『無』を司る人から名前は聞いたことがあると思います。彼女は表立って行動をすることはありませんが、私の中にある疑問に答えてくれる人です。時には叱ってくれたり、時には疑問に答えてくれたり、私も最近になって気づきました。ああ、この人がそうなのか……って……私の理想の人。それが『答え』を司る人です』
 
「栞さんって、本当にいくつの人格を持っているの?」
 
『それは分かりません。今後も増えるかもしれませんし……』
 
私にしては珍しく、分からないと答えた。
自分のことになると、分からなくなるのだ。
特に人格者のことに関しては全く分からなくなるのだ。
 
『その『答え』を司る人は……私が死んでしまう理由を人のせいにするのは……私がちっぽけな人間だってことを気づかせてくれた人でした。初めて会ったのは私の兄を殺したときでした……そのときはおぼろげだったんですけれど、私に勇気を与えてくれました』
 
そう言うと、私は少し笑った。
 
「栞さんって……不思議な人ですね」
 
『……不思議……ですか?……そうですね』
 
自分が不思議な人。自分自身でも分からないけれど。
そう思っているうちに、麻生唯のマンションについてしまった。
さすがは……芽衣が提携を結んでいるだけであって、でかいマンションだった。
 
「栞さん。どうしたの?」
 
『いや、ここに帰ることが不思議な感じがして……今まではお姉ちゃんのところで養っていたものですから、ここにいるのが……場違いな感じがして……』
 
「あははは。まあ、僕も最初はそう思ったけれどね……お帰り。栞さん」
 
『なんか、新婚さんみたいですよ』
 
私は思わず、苦笑いをしてしまう。その苦笑いでさえ、不恰好に見えるほどに……。
けれど、私は言った。
 
『ただいま』
 
私はその言葉にいろんな意味を含めてのただいまだった。
 
『8』
 
彼女たちの災難はそれだけでは終わらなかった。
それは帰宅してから起こった。
いつものように、「ただいま帰りました」と言うと。
 
『お帰り』
 
「た、ただいまです。栞様」
 
栞の顔を見て、少しだけ緊張する。明かに先程とは様子が違う。
 
『全く、どうして直したことを報告しないのよ!おかげで余計な恥をかいちゃったじゃない。この始末をどうしてくれようかしらね?』
 
そのとき、栞の中から明らかに怒りのオーラが出ていることに翔子とエルーノは気づいた。
と同時にしまったという顔をしてしまった。
 
『あら?その顔は知っていましたけれど、度忘れしてしまったとか言う顔じゃない?』
 
「ギクッ!」
 
「ビクッ!」
 
彼女たちが過剰な反応をする。
 
『これは……明かにお仕置きが必要みたいね』
 
こめかみに青い筋を立てているのは気のせいではないだろう。
うっすらとだけれど、笑顔すら感じるのが妙に怖かった。
その怖すぎる顔に彼女達はわけも分からないまま震えるしかなかった。
 
『さて、これからあなた達を犯すけれど。覚悟はいいわね』
 
明かに覚悟が出来ていないのに、栞は勝手に肯定文に解釈する。
 
『さて、まずはエルーノからよ。全裸になって、こっちに着なさい』
 
「は、はい……」
 
エルーノの声はもはや「ひゃい」にしか聞こえない。
エルーノが全裸になって、「失礼します」と言ったとき、彼女が鎖によって縛られた。
何をされたかすらも分かっていない様子だった。
 
「えっ?えっ?」
 
『さて、相変わらず、感度は良好みたいね』
 
「あん……あっ!ああああぁぁぁぁ――――!!」
 
いきなり、鎖をさすられて、それだけで絶頂を迎えてしまう。
しかし、それには飽き足らず、再び鎖をさする。
 
「ああ。いい!気持ちいいですぅ――――!!」
 
二回目の絶頂に達した。
 
『まだまだよ』
 
「ひゃ!も、もう駄目。や、やめてください」
 
『何を言っているの?まだまだ、溜まっているんでしょう?』
 
「ああっ!ひゃああああぁぁぁぁ――――っ!!」
 
三回目。しかし。
 
『さて。あなたは何回まで耐えられるかしらね』
 
「ひっ!も、もうやめてください!これ以上は出ませんよぉ!」
 
『何を言ってるの?』
 
そう言って四回目の絶頂に達して、しかし、まだまだ続ける。
 
「駄目ですぅ!お、おかしく……おかしくなっちゃう!」
 
五回目、六回目、七回目で気を失った。
本来ならばここで終わりなのだが、栞の怒りはまだまだ収まりそうにもない。
 
『何をしているの?早く起きなさい!』
 
「ひゃん!も、もうやめてぇ―――!」
 
彼女の泣き声も栞の前では消されるばかりだった。
八回目で絶頂を迎えると、栞が言う。
 
『本当に止めて欲しい?』
 
彼女が頷いた。
 
『本当に反省してる?』
 
エルーノが更に頷く。このままだと、快楽に溺れて死んでしまいそうだった。
 
『そうねぇ。じゃあ、こうしましょう。あなたが本当に反省をしているんなら、私の快楽に耐えられないはず。だから、あなたが私への信頼度を試す試練よ』
 
「し、試練ですか?」
 
『ええ。あなたはこれから、私が一突きするたびに数倍の快楽が得られるけれど、絶頂に達するには反省が必要よ。心の底まで反省をしたら、イけるようになるわ。でも、絶頂に達しなかったら……反省をするまでし続けるわ』
 
「は、はい!」
 
彼女が喜んで返事をする。だが、彼女の本当の試練はこれからだった。
 
『じゃあ、入れるわね』
 
そういうと、栞は自分で作り出した擬似ペニスを彼女の中へと入れる。
彼女の中はもう愛液でぐしょぐしょに濡れており、処女を失ってからは栞を求めてやまなかった。
 
「ああっ!いい!いいです!」
 
『じゃあ、行くわよ』
 
とにかく、栞の怒りを止めたい一心で彼女はイクように心がける。しかし、
 
「ああっ!あ、あれ?」
 
すでに限界まで達している彼女の絶頂はもはや、すでに来なかった。
彼女には快楽だけが襲ってくる。
 
『あれ?反省をしているんじゃなかったの?』
 
「し、してますしてます!本当です」
 
『じゃあ、もう一回』
 
そう言って突くが、当然……彼女の絶頂は来ない。
 
「ひゃあ……!そ、そんな!」
 
『……あなた。今日何回オナニーした?』
 
栞は急に話題をそらす。
 
「ええっと。三回くらいです」
 
『嘘を付くんじゃないわよ。嘘を付くと、イクことも出来ないわよ』
 
「ひっ!ほ、本当は七回です!」
 
彼女が素直に答える。もう、快楽も限界に達しているのだろう。これ以上やると本当に快楽に溺れて壊れてしまいそうだった。
 
『本当なら、これでイクはずよ』
 
栞は更に一突きする。だけど、彼女はまだ絶頂に迎えない。
 
「ああぁぁ―――――っ!!嘘です。ほ、本当は15回です」
 
更に一突きするが、まだ絶頂が来ない。
 
『ほらほら。本当のことを言わないと、絶頂を迎えられないわよ』
 
「ああん!死んじゃいますぅ!お願いだからイカせてぇ!!」
 
彼女……本当は15回なのだが、さらにまだあったのではと錯覚する。
 
『あなた……本当に反省しているの?』
 
「は、はい。本当です」
 
『なのに、なんで嘘を付くの?』
 
「そ、それは…………」
 
『ふ〜ん。あなた。本当はいじめられるのが好きなMだったりして?』
 
「えっ?」
 
そこまで言われて、エルーノは考える。
本当に自分はMなんかじゃないのか?
いや、でも、それは栞様が自分の苦痛を快楽に変えてくれるから、である。
 
『どうなの?』
 
栞様が愛しい眼で私を見つめてくる。そんな顔で見つめられたら、彼女のあそこは愛液でビショビショに濡れてしまっていた。しかし、自分からMだとは言えない。
だが、栞の執拗な攻撃は続く。
 
『さあ?どうなの?言わないと、このままじゃあ……イクことは出来ないわよ』
 
一体どんなテクニックを使ったのか、彼女の喘ぎ声が続いていく。
そのまま、天にも昇るような気持ちのよさだったが、イクことが出来ないのでもはや地獄の快楽でしかなかった。
 
「ああん!わかりました。言います言います。私はいじめられるのが好きなHなどMですぅ―――――!栞様に抱かれさせてもらって処女を失ったときから、栞様にいじめられることが好きなメス豚奴隷ですぅ――――っ!!」
 
彼女はもはや、天使のプライドや誇りなどが粉々に壊れて、快楽だけを求めるようになっていた。
もはや、以前の清楚で純粋な彼女の面影はすっかり無くなっていく。
 
『あははは!すごいじゃない。あなたの愛液の量。凄いことになっているわよ』
 
彼女の愛液の量が半端じゃないことに今更気づく。
 
「はい。栞様のことが大好きで、あなた様にいじめられることが快楽になってしまいました。どうか、このメス豚奴隷をいじめてください!」
 
『いいわよ。自分で蝋燭を垂らして快楽を得なさい』
 
「はい。栞様」
 
そう言うと、彼女は自ら、蝋燭を自分の胸に垂らして快楽を求める。
 
「ああん!熱い!!」
 
けれど、その顔はどこか嬉しそうだった。
それから、栞は彼女を鎖でギュウッと縛ったり、擬似ペニスを彼女に突き刺したりしながら、ゆっくりと楽しんだ。そして、十二回目の絶頂でようやく彼女が気絶した。
しばらく、余韻に浸っていた彼女だったが、まだ、一仕事が残っていた。
 
「さて、待たせたわね。翔子」
 
ビクッと震えながら、待っていた翔子が奥隅でがたがたと震えている。
一体何をされるのかが分からない。その恐怖が彼女の全てを支配していた。
ならば、いっそ逃げればと思っていたけれど、栞様の眼からは絶対に逃げられないし、何より、足腰が立たなくなっていたために、逃げるタイミングを失っていた。
栞は考える。彼女は前にサキュバスによって、ある程度の快楽には耐えられるようになっている。よって、エルーノに対する効果は逆効果だと思っていい。
本人はそうでもないようだが、栞はとりあえず、彼女の反応をうかがう。
 
「は、はい。栞様」
 
もうちょっと、嬉しそうな表情をして欲しいのだが、彼女にとっては微妙だった。
 
『私がなんで怒っているのか、分かっているわね?』
 
「は、はい」
 
『じゃあ、なんで怒っているのかを言ってみなさい。でも、そうね。ただ言うだけじゃあつまらないから、フェラをしながら思っていることを口に出さなくていいから、思って見なさい』
 
「はい」
 
翔子は栞の肉棒を舐める。その間に栞は彼女の頭に触り、彼女の思考を書き換えていく。
 
「(私は栞様の命令を無視して、彼女達の戦いをボーっと見ていました)」
 
『(気持ちいいわね。あなたは私の……性感帯。私が感じれば、あなたも一緒に感じてしまうわ。あなたは私の事が大好きだもの。ほ〜ら、今度は胸でしたくなってくるわ。でも、あなたは淫らにおねだりしてみるのよ)』
 
彼女の気持ちに接触して書き換えを行っていく。
 
「あん……栞様。胸でしてもいいですか?」
 
『とことんHな子ね。あなた。これがお仕置きだということが分かっていないわね。(Hな子だなんて言われたら、恥ずかしくて赤面してしまうわ。でも、あなたは私の事が大好きだから、私を押し倒してでも、胸でしたくなってくる)』
 
彼女は顔を真っ赤にして、栞を押し倒してきた。
 
「栞様!ごめんなさい!」
 
『キャア!何をしているのよ!』
 
「すみません。でも、もう止まらないんです」
 
『殺すわよ』
 
栞は彼女を睨みつけた。
それだけなのに、彼女はガチガチに固まってしまった。
 
『フェラをするだけなのに、どうして押し倒すのよ。私の言うことが聞けないの?(でも、あなたは自分では止まらない。私に射精をして欲しくて……でも、怖いけれど、勇気を振り絞って、快楽に負けてしまうのよ。さあ、私の肉棒を舐めながら、胸でして見なさい。ほら、あなたの愛液が下着を濡らしているわ)』
 
「ん……じゅぶ……じゅぶ……」
 
彼女の淫靡な視線に私は思わず、うっとなる。
 
『何をしているのよ。誰が胸でしなさいなんていいました?』
 
「でも、私がしたいんです。無礼を承知で申し上げます」
 
『まあ、いいけれど。(あなたは私の今言った言葉に嬉しくて嬉しくて仕方がなくなる。その嬉しさに負けてしまって、今度はあそこに突き刺したくなってくるわ。けれど、栞様の許可をもらわないといけない)』
 
「栞さまぁ」
 
『何?(ほら、下着を脱いで)』
 
すると、彼女が下着を脱ぐ。彼女は一糸纏わぬ姿になる。
 
「私、エルーノの事を見ながらずっと思っていたんです。私、栞様の事が大好きです。だから、栞様の逞しいオチ○チ○で、私のイヤラシイあそこに突き刺してください。お願いいたします」
 
『駄目よ』
 
「えっ?どうしてですか?」
 
『あなた。これがお仕置きだってことを忘れているでしょう。だから駄目よ。(でも、私に逆らってでも、後で再びお仕置きされてでもいいから、突っ込みたくなる。あなたは私の事が大好きだからね)』
 
普段なら、従順な彼女が急に悪魔みたいに牙をむいた。
 
「ごめんなさい。栞様……」
 
『えっ?キャア!!』
 
栞が思わず悲鳴を上げる。栞の足を無理矢理開いて、栞の擬似ペニスを覗かせる。
そして、そのまま突っ込んだ。
 
『い、痛っ!ちょ……ちょっと離れなさい(でも、あなたは離れたくはない。むしろ動かしたくてたまらなくなるわ)』
 
端から見れば、私が犯されているように見える。
 
「ああっ!気持ちいいです。栞様のあそこ!」
 
『駄目よ!駄目だって……言っているでしょう!(でも、あなたは命令を無視してでも気持ちよくなりたい。三回、ズボズボされたら、あなたはイッちゃうけれど、イッちゃったあとは後悔の念でどうにもならなくなるわ』
 
「ああ。栞様。イク……イッちゃう――――――――っ!!」
 
すると、彼女は急に離れたので、私が射精をしたのは彼女の足にかかってしまう。
今度は彼女が俯いている。自分のした愚かさが分かってきたのだろう。
彼女がおずおずと口を開いた。
 
「し、栞様……あ、あの……」
 
『で?この後始末はどう付けてくれるんでしょうね?』
 
やっぱり、怒り口調になってしまう。彼女が「ヒィ!」と短く声を上げてしまう。
 
「ご、ごめんなさい!」
 
彼女が正座をしてガバッと頭を下げる。
 
『ごめんで済んだら警察は要らないわねえ。あなたが私に何をしてくれたか、分かっているんでしょうね!?』
 
栞の命令無視は天罰よりも愚かだってことを彼女にわからせる必要があった。これが、彼女への罰だった。
 
「ひっ!は、はい!それは勿論、分かっています」
 
『じゃあ、あなたには罰を与えなきゃね』
 
そう思って前々から試してみたかった罰を与える。
 
「ば、罰ですか?」
 
実はさっきのセックスが終わったときに彼女に対して少しだけ細工を施しておいた。
 
『ええ。そうよ。あなたにふさわしい罰よ。受ける気はある?』
 
「は、はい……」
 
もはや、翔子が罰を受けるのが義務になっていた。
 
『結構。じゃあ、立ちなさい』
 
「は、はい!」
 
さて、彼女はどれくらい耐えられるかな?と栞は思った。
彼女の手足を縛って天井につるす。栞は女性のときは快楽を。男性のときは拷問を心がけるようにしていた。決して死なない拷問を栞は今までしてきたのだ。
 
 
『じゃあ、いくわよ』
 
栞が取り出したのは一本の鞭だった。しかも、イボイボも付いてない奴だった。
そして、それを彼女に打ち据える。
 
「い、痛い!ちょ、ちょっと待ってください!」
 
細工というのは……実は、彼女の身体を快楽から痛覚に変えていた。
普通、痛覚というのはもしも、手が怪我をしたら、手から脳に届くようになっているが、私の場合は脳に直接届くことになっている。つまり、彼女は幻覚状態に陥っているということだった。
それでも肉体的な苦痛はあるのだが。
 
『何を言っているのよ。罰なんだから、当たり前じゃない!』
 
怒りながらもう一発入れる。
彼女が悲鳴を上げた。
 
「キャア!痛いです!痛い!!」
 
彼女の顔が苦痛で歪む。けれど、私にとってはもはやそんなことはどうでもよかった。
さて、肉体が痛覚に変わるのだから、それに蝋燭の炎をたらすとどういう現象が起こるのか。答えは彼女の身体で試して見ましょう。
そう思って、栞は蝋燭の炎を彼女の胸辺りに垂らす。すると。
 
「熱っ!熱っ!お願いだから、止めてください!栞様!」
 
やっぱり、痛いよりも熱い方が上回っているのか。と栞は蝋燭の炎を消しながらそう思う。
 
『駄目よ。これは罰だって言ったでしょう。耐えなさい』
 
「い、いやああああぁぁぁぁ―――――っ!!」
 
それから、栞は彼女に鞭を打ち据える。何度も何度も。そのたびに悲鳴を上げる。
残念なことにいつ終わるかは分からないのだ。
栞の腕が痛くなったら、終わるかもしれないけれど。
 
「す、すみばぜんでじだ……わだじがばるがっだがら、もうゆるじでぐだざい!」
 
彼女が濁音で言いながら涙と涎を垂れ流していた。
 
『しょうがないわね。この辺で許してあげましょうか』
 
そう言うと、唐突に終わりを告げた。彼女も本当に反省していることだから。
しかし、本当は栞の腕が痛くなったから、とは言えないのでここでは、ご主人様面をしていたのだ。
 
「ひっぐ……えっぐ……」
 
彼女の嗚咽が聞こえる。まあ、当然か。と栞は無責任なことを思ってしまう。
それから、栞は彼女の拘束具を外して彼女に回復を施した。
ちょっとした罪悪感もあったのだろう。
 
『大丈夫?翔子……』
 
「は、はい。すみませんでした」
 
ようやく、元気を取り戻した彼女は出来れば二度としたくはないだろう。と思う。
あんな苦痛だけの拷問は絶対にいやだ。今度からは絶対に栞様の約束と報告だけはしておこうと自分の心に強く誓った。
 
「でも、良かったです。栞様の機嫌が戻られて」
 
『ん?まあね。私が怒ったら、敵が跡形もなく吹き飛ぶからね』
 
「それはそれで怖いです」
 
翔子がくすっと笑う。そして、栞様の顔を見る。
綺麗な顔。あの顔が怒ったときはさすがにビックリしたけれど、それでも今はあの顔がとても、怖いだなんて思えない。
 
『…………何?』
 
「いえ。栞様のお顔、あまりにも綺麗だから、つい……」
 
『見惚れていた?』
 
「は、はい……」
 
もはや、栞様の前で嘘だけは厳禁だと分かっているので、素直に口にする。
 
『そう。そういわれてとても嬉しいわ』
 
何故だろう。栞様が本当のことを口にするときはいつも私のあそこがジンジンする。
栞様のことが好きだ。
それは拷問された後でも変わらなかったのである。
 
『そう言えば、あなたには一回だけしかさせてなかったわね。もう一回する?』
 
そして、何故だろう。彼女が求めてくると、私はいやとはいえなかった。
 
「はい……」
 
再度、返事をして、私たちは求め合ったのである。





     




















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