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今日は都大会の決勝戦だった。
天気は快晴。いい秋日和だった。
私は起きて窓を開ける。
その隣では彼女……エルーノと翔子が寝ている。
さて、今日も絶好調だね。
 
『ほら……あなた達も起きなさい』
 
「うん……あっ……」
 
エルーノが起きあがる。
 
「おはようございます。栞様」
 
『挨拶はいいから、彼女も起こして上げなさい』
 
すると、彼女はふふふと笑っている。
 
『なに?』
 
「いいえ。栞様が自ら私たちを起こしに来るものだから……変だなぁって思って」
 
『なるほど』
 
確かに普通は面倒くさいから寝るとかいいそうだわ。私の場合は。
 
「栞様……」
 
彼女がもじもじしている。
 
『なに?』
 
「キス……してください」
 
『あらあら?急に白雪姫にでもなったつもりですか?』
 
「いえ。そういうわけじゃなくて…………その……あう……」
 
そのとき、彼女の顔が真っ赤になっているのを見て、可愛いなぁと思った。
まだ、朝食まで時間もあるし。まあ、いいか。と思いながら、私は彼女に唇を合わせた。
 
「あっ!……あむ……」
 
『力も使って欲しい?』
 
彼女が真っ赤になってこくんと頷いた。
私は彼女の胸に触れた。触れただけで彼女は天にも昇るような快感で母乳を出す。
 
「ああ。気持ちいい……」
 
『相変わらず大きい胸ね』
 
「ミルクを出したくてぇ……う、疼いていたの」
 
『ふ〜ん。そんなにも出したかったんだ〜』
 
「は、はい。栞様に揉まれて……気持ちよくて……」
 
『私もあなたのお乳が飲みたかったところよ。存分に出して頂戴』
 
私はそう言うと、彼女の胸を揉みしだく。その度に恍惚な表情を浮かべながら、嬉しそうに語るエルーノ。
 
「ああ!いいのぉ!胸だけでイッちゃいそうなのっ!栞様に胸を揉まれて、モミュモミュされて……お乳が出しちゃうのぉ―――――――――っ!!」
 
『じゃあ。これはどうかしら?』
 
そう言うと、私が取り出したのは蝋燭だった。彼女に上に蝋燭に火をつけて……たらす。
 
「あ、熱いのぉ!熱いけれど……気持ちいいのぉ!お願いだからもっとたらして。もっと私をいじめてください。私はそれだけが快感で淫らなM女だから……もっと滅茶苦茶にしてぇ!!」
 
『ええ。いじめてあげるけれど……』
 
「ふぇ?」
 
彼女が「ひっ!」と声を漏らす。
 
『おはよう。翔子……』
 
翔子が起き上がったので……私が声をかける。
 
「何をやっているのですか?」
 
『何を言っているの?翔子が起きないから……彼女にサービスをしてあげたというのに』
 
「だったら、私が起きているときは……栞様にサービスをしてあげてもいいですか?」
 
とんでもないことを言う翔子。あれ?私は今、何もしていないよね?
 
『いいけれど。急にどうしたの?』
 
言ってて恥ずかしかったのか、急に目を逸らして俯いた。可愛いわね。どっちも……。
 
「と、とりあえず、顔を洗って歯を磨いてください。このままだと、エルーノの愛液と母乳と蝋燭で辺りが片付かなくなりますよ」
 
そう言うと、私たちを指差していった。
確かにこれじゃあ外に歩いて出れないわね。
 
『しょうがないわね……エルーノ……立ち上がりなさい』
 
「は、はい」
 
そう言うと、彼女は全裸のままで立ち上がる。
 
『目を瞑って……楽にして……』
 
「はい」
 
私は能力を使い、彼女の母乳と愛液と蝋燭の蝋を弾き飛ばした。『流れ』を司る私なら簡単な作業だった。
続いて、再び能力を使って奥にあるタンスを引きずり出す。その中で彼女の最適と思われる服を引きずり出して来る。最後に彼女にまた、能力を使ってボタンをはずして服を着せる。風と流れの応用技だけれど。
 
『はい。終了。目を開けてもいいわよ』
 
「はい……うわぁ……ありがとうございます」
 
「まるで、メリーポピンズみたいね」
 
私は翔子の声が聞こえなかったみたいに……着替え始める。
 
『私も着替えるから……二人ともあっちに行ってて…………ね…………』
 
そのとき、私に異変が起こる。なんだろう。身体が熱い。
さっきまで彼女と一緒に繋がっていた筈なのに……世界が暗転し始めた。
あっ!まずい。
 
「栞様?」
 
私は倒れて眠ってしまった。
 
『2』
 
「完全な風邪ですね」
 
『ごめんなさい』
 
「熱が39度近くもありますよ!」
 
あわわわわと慌てるエルーノ。そりゃそうだ。主人たる私がウイルスとはいえ、39度近くの高熱を発しているのだ。慌てない方が無理だ。
 
「昨日のあれね。力を使いすぎたわね」
 
お姉ちゃんが言う。昨日のあれとは……麻雀の都大会と合唱コンクール。そして、今朝の『流れ』という力を使った。あれのことだろう。
 
「みどり姉さま!何とかならないのですか?」
 
翔子が悲痛な叫びを漏らす。
 
「ふむ……ウイルスには色々と種類があってね。どれかは特定できないのよ。もしかしたら、新型のインフルエンザかもしれないし……こんなことなら、予防接種を受けたほうが良かったわね」
 
彼女も焦りの色が見える。
 
「そ、そんな!今日は団体の決勝戦!栞様がいなければ即敗退で、負けてしまいます」
 
「し、栞様!私の身体を使ってください!元はといえば、私のせいだし……栞様に使っていただくなら、私は……」
 
「いいアイデアね」
 
『ダメよ……』
 
「えっ?」
 
『そんなことをしたら、私かあなた……どっちか負荷をかけなきゃいけないでしょう。多分、あなたに負荷がかかると思うけれど……そうなった場合……あなたは耐えられるの?』
 
その言葉に自分でもぞっとした。間違いなく……耐えられないだろう。
 
「そんな……!」
 
『それに、今回は私のミスよ……私の力の配分を考えなかったせいでこうなったのだから』
 
「でも……!」
 
『大丈夫よ。団体戦には出るわ』
 
そう言うと私が起き上がった。
 
「し、栞様!寝ていなければダメですよ!」
 
『大丈夫よ。力は少しだけ寝れば元に戻るわ』
 
「えっ?」
 
『半日もあれば……完全に治るでしょうけれど、それでも数時間はオーバーしてしまうわ』
 
「じゃあ、どうすれば……」
 
『いい?これから私の言うことを訊いてくれる?』
 
「そ、それは勿論ですけれど……」
 
そして、私が彼女たちに策を手渡す。別に策というほどのものじゃないけれど。
上手くいけば、ことが全て落ち着く。
私は彼女たちに話すと感想を聞いた。
 
『3』
 
『どうかしら?私の言うことを全て守ってくれるなら……大丈夫だと思うけれど』
 
「それは構いませんけれど。でも、それだと栞様が……!」
 
『リスクは承知の上よ。もう……力が足りないから、また……寝るわ』
 
「わ、分かりました」
 
『頼んだ……わよ』
 
そう言うと、栞様は熟睡モードに入ったのだった。
 
「しょうがないわね。面倒くさいけれど、可愛い妹のためにすることを済ませましょうか」
 
「はい!」
 
「ええ!」
 
そう言うと、私たちは早速、取り掛かることにした。
栞様が復調するまでに済ませることは唯一つだった。
元々、無理をさせてしまった上に……かなり、ご心労だっただろうから。
迷惑をかけないためにも……まずは……私が頑張らないとダメだった。
栞様がぐったりと倒れている様子を見ると、かなり疲れているようだ。
 
『4』
 
栞様の案だけれど。すんなりと通ることができた。
栞様の案はエルーノを会場に連れて行くことと、サブとしてメンバーに加えることだった。
彼女は中学生じゃないのにも関わらず……だ。
 
「初めまして。エルーノといいます」
 
「へー。可愛いじゃん」
 
「俺の名前は誠人ってんだ。よろしくな」
 
「私、麻雀はやったこと無いんで……」
 
「まあ。そうなるわな」
 
「でも、一応、中には入れるでしょう。団体戦だから……」
 
部長が中に入っていった。私たちもそれに習う。
 
「それにしても。すごい人ですね」
 
「ええ。決勝ともなると。さすがに人数は多くなるわ」
 
「でも、さすがに仁木中は注目を浴びているようだね」
 
「それから、誠人君もね」
 
誠人君はマスコミに注目を浴びていたのだ。
しかも、それに律儀に答える辺りはさすがというべきか。
 
「さすがは……今年の全中の個人戦で大会に出たことがあるわね」
 
遊里さんが言うと、私も同意する。少なくとも、栞様はそんなことを望んではいないだろうけれど、私もちょっとマスコミみたいなことはウザかったりする。
でも、彼は律儀に答えている。
 
「あれ?翔子ちゃん?」
 
「ま、円さん?どうしてここに?」
 
マスコミで思い出したけれど、彼女もここで取材をしているのか。
 
「どうしてって。取材に決まってるじゃない。まあ、麻雀をやる奴らが風邪で寝込んじゃってね。代わりに来てやってるのよ」
 
「誰……ですか?」
 
「円さんよ。栞様の秘密を知っている……ガーディアンの一人よ」
 
「ああ。なるほど」
 
「でも、どうして……ここにあなたがいるのよ?」
 
「栞様の代役です」
 
「あれ?ということは……栞も来ているんだね」
 
「ええ。知らなかったのですか?」
 
「当たり前でしょう」
 
まあ。そりゃそうだ。栞様も話していないのなら、当然だった。
 
「あなた……毎回、麻雀を打つときは……必ず役満を上がったりするそうね」
 
彼女が急に話題を変えた。
 
「ええ。まあ。狙えるときは狙いますよ」
 
「ふぅん。今度の麻雀大会は面白いことになりそうね」
 
「えっ?」
 
「ところで栞は?この会場に来ているんでしょう?」
 
「いいえ。来てません」
 
「なんで?」
 
「そりゃあ。風邪で家で寝込んでいるからですよ。能力を使いすぎたせいで……」
 
「……ねえ。あなた達……まさか、栞とセックスをしていないでしょうね」
 
彼女が小声で話しかける。
 
「ええ。そりゃあ……少しは」
 
「なるほどね……あなた達……セックスはほどほどにしなさい」
 
「えっ?」
 
「もしも、あまりやりすぎると栞が死ぬことになるわよ……」
 
「えっ?どういうことですか?」
 
「私たちもね……セックスはしているんだけれど……女子同士のレズってあまりにも激しいじゃない?だから、栞は無理をしているんじゃないかなと思っただけよ」
 
「…………」
 
すると、アナウンスが聞こえてきた。
 
『まもなく……決勝戦先鋒戦を行います。各チームの代表者は所定の位置にお集まりください』
 
「あっ!行かなくちゃ……」
 
そう言うと、私は行ってしまった。彼女が栞を気にしているのか。それとも冗談だったのかは定かではないけれど。
それでも、私は栞様の仕事をこなすということが大切だった。
 
『5』
 
「あの……円さん……そろそろスタッフルームに行きやせんと」
 
そう話しかけるのはカメラマンの横田だった。
 
「ふ〜ん。栞が……麻雀部を……ねぇ」
 
「はっ?」
 
「いいえ。なんでもないわ。とっとと行きましょう。着いて来なさい」
 
「へ、へい」
 
しかし、円が微かな笑みを浮かべているのを横田は感じ取っていた。
 
「その牌譜……昨日の一回戦ですよね?」
 
歩きながら横田が話しかけてきた。
 
「ええ。そうよ。これを見てどう思う?」
 
「ええっと……東一局でいきなり、小松選手が振り込んでいますね……東二局では……え?これって……」
 
横田がなにこれ?って顔をする。彼は麻雀を始めて少ししか経っていないが、いやでもこれだけは分かるだろう。
 
「ええ。彼女……地和で上がれるのにわざと上がらなかった。これはどういう意味か……あなたは分かるかしら?」
 
「ええっと。他家にプレッシャーをかけるためだとか?」
 
「それだと地和で上がった方がまだいいわよ」
 
「じゃあ。まさか、一回戦は肩慣らし?」
 
「そう考えるのが妥当ね。これを見てみなさい。彼女の獲得点数のグラフ……」
 
「彼女は……プラマイゼロですか!?」
 
「果てさて?これって偶然かしらね?」
 
そう言うと、円は片目を閉じてウインクしながらスタッフルームの中に入っていく。
横田はそれを見てボーっとしているだけだった。慌てて彼女に駆け寄る。
 
「じゃあ……円さんはどういうお考えで?」
 
「そうね。他者に自分の実力を見せないため……かな?」
 
「えっ?」
 
「麻雀は運の要素が一番強いけれど……それを逆手に取る人がいるのよ。それが麻雀よ」
 
「運を逆手に取る?」
 
「ええ。それを成し遂げるのがプロなのよ」
 
『6』
 
「さて。いよいよ……決勝戦だけれど。みんな……緊張してる?」
 
「当たり前じゃないですか」
 
「そうね。一年前の誠人君もそうだったけれど。始めはみんな……そんなものよ。でもね。だからこそ言いたいの。この局……自分の順番が回ってきても、楽しんで……そして、前に進むために上がり続けるの。いいわね?」
 
彼女の重みの言葉は私たちの心の中に深く刻み込まれた。
 
「は、はい!」
 
「とりあえず。小松さんは後で来るからいいとして、まずは、先鋒の沙紀……」
 
「はい!」
 
「仁木中は危険だから、危険牌だけは避けてね」
 
「了解です!」
 
そう言うと、彼女は行ってしまった。
私たちはモニター越しで彼女の動向を見守るだけだった。
決勝戦は半荘二回で行われる。
喰いタンは勿論あり、ダブル役満もありでの私にとってもかなりシビアなルールだった。
それでも、半荘二回で終わるというのは過酷だった。トビ終了もあるからだ。
 
「決勝戦開始です!先鋒の親は仁木中学の道宮多津子です」
 
アナウンサーの声が聞こえる。決勝ともなると、やはり勝手が違いすぎるわね。
 
「な……何あれ?」
 
私は思わず立ち上がった。
いきなり、仁木中学の道宮がリャンシャンテンでの国士無双。
 
「うわ……最悪な展開ですね」
 
しかも、彼女の字牌には北が二つもある。降りたら負ける。
 
「うわっ!まずいわ……イーシャンテンだわ」
 
すると、彼女は北を捨てた。
 
「北家なのに……北を捨てた?」
 
すると、対面がポンをした。
 
「ええ?そこでホンイツ狙い?」
 
でも、ホンイツだとリャンシャンテン。それよりも……。
まずい!仁木中が聴牌した。
 
「お願いだから……北を切らないで」
 
彼女が残り北一枚残っているから、切る可能性が高い。
 
「まずいわ!彼女も聴牌した!」
 
親だから48000。
 
「ああっと……ここで聴牌をしてしまった安達中の阿賀選手!しかし、他家の国士無双はすでに聴牌しており、待ちの北はすでに阿賀選手が持っている一枚のみ……親なら48000点です。これは振り込むか〜?」
 
すると、彼女はスーソーを捨てた。
 
「えっ?これは……」
 
「降りたわね」
 
「安達中の阿賀選手!なんと聴牌を捨てて……差し込みならず!上がればタンヤオ三色ドラ三の18000点をここで潰しました」
 
「まあ、当然ね」
 
「えっ?」
 
「彼女……あなたの役満も振り込まなかったでしょう?他家の捨て牌を見ている証拠ね。彼女は絶対に振り込まないわ。彼女……想像力が半端じゃないのよ」
 
「流局!阿賀選手……最後まで北を捨てなかったのは聴牌をする兆候が見られたからですか?」
 
「そうですね。相手の捨て牌を見て……自分の有利に場を進めるのが麻雀の基本ですから」
 
「なるほど。それにしても驚くべきことは……彼女が事前に捨て牌を変えていることです。危ないと判断したからでしょうか?」
 
「それもあると思うわね」
 
「それも?と言いますと?」
 
「特に国士は牌が読まれやすいからでしょうね」
 
「相手の捨て牌を見る利点はもう一つあるのよ」
 
「えっ?」
 
「まあ、見てれば分かると思うわ」
 
彼女が次の手配を見た。中々のイーシャンテン……しかし。
 
「あっと、ここでフリテンだ!」
 
彼女が六萬を捨てる。
 
「想像力がいいということは、相手の手牌も見えていると言うこと」
 
「えっ?な、なんと。平和も付いてフリテンも解消された〜!」
 
「リーチ!」
 
「それは即ち……どこでどんな牌がくるかがわかるということなのよ!」
 
「ツモ……リーチ一発純チャン平和三色……4000・8000です」
 
「な、なんと。倍満だ!安達中の阿賀選手……倍満ツモ上がりをしました〜!」
 
「す、すごい……!」
 
「まあ、小松さんみたいに……化け物じみた上がりをする人には到底敵わないでしょうけれど」
 
そこで栞様を引き出されたら、私でも敵わないだろう。
栞様のあれはもう……『流れ』とか、運がいいとかそういう次元のものではなくなっている。なんというか……場の支配者だった。浅ましい意見だけれど的を得ている感じがする。
だからこそ、私たちでも敵わないだろう。
 
だが、その後はなんと、四連続でツモ上がりされて終わった。
 
「うわ〜。やばいですね」
 
「まあ、次は私の出番だから、なるべく取り戻すように心がけるわ」
 
そう言って、遊里が動く。
 
「そう言えば、遊里さんの得意な打ち方は?」
 
「彼女は良い手牌が回ってこないときもあるけれど、勝負の強さだけは……すごいわよ」
 
「それじゃあ。行ってくるわね」
 
部長も心配していない様子だった。それなら、彼女に任せても大丈夫かなと思う。
 
「でも、昨日のあれで多分、鬱憤がたまっていると思うわ」
 
「ああ。なるほど……あれですか」
 
私も同時に納得する。昨日のあれとは……彼女が負けたことを意味しているのだろう。
 
「そのせいか……彼女、アドレナリンが異常なほど、分泌していると思うわ。ああなった以上……私でも止めるのは難しそうね」
 
「ええっ?マジですか?」
 
「まあ、見てれば分かるわよ」
 
「決勝戦……次鋒戦開始です!トップは仁木中の水原留子です……そして、親は安達中の国宮遊里です」
 
「トップをまくるには最低でも倍満は必要か……」
 
「あら?」
 
「ああっと、いきなり、先制のチャンスです。安達中の国宮遊里選手……!」
 
「リーチです!」
 
「先制のダブリーが今発動しました。しかも、これは……三色も付いて、満貫は確定だ!」
 
「ツモ……ダブリー一発ツモ三色同刻……6000オールです」
 
「なんと。親の跳ね満が炸裂!安達中の国宮選手……!幸先のいいスタートです」
 
「ポン!」
 
「なんと、ここでドラの発をポン!ドラ三決定だ!」
 
「カン……」
 
「しかもしかも、発のカンドラが彼女の持っているスーソー……ドラ三……これでドラ七が確定しました!」
 
「ロン……ホンイツドラ七……24000の一本場は24300です」
 
「こ、今度は倍満だ〜!いきなり、安達中の国宮選手……怒涛のラッシュです」
 
しかし、今度はそうは行かなかった。
 
「リーチ!」
 
「ああっと。ここで鶴我中の国元選手……逆転打のピンフ、三色をリーチかけた。これに対して他校はどう出るのか……」
 
すると、遊里は現物で処理した。
 
「……今回は手堅く行っていますね。以前の彼女なら差し込んでいたはずですけれど」
 
「まあ、決勝ともなると……本気になるといいますか……」
 
そう解説の人が言うと、部長が笑い出した。
 
「アハハハ……解説者の人……間違っていると思うけれど……」
 
「えっ?」
 
「彼女の場合は常に本気よ……それでも、勝負をかけるときはかけるし、降りるときは降りるわ……今回はチートイでもリャンシャンテンだから、勝負はしない。当然でしょうね……」
 
「流局!結局、誰も差し込みはならず!勝負は東三局へ……!」
 
「す、すごいです。皆さん……」
 
「何を言っているのよ。凄さで言ったら、あなたも充分凄いわよ。何しろ……役満であがる人なんて……私も怖い存在なんだから……そして、もう一人……化物がいるわね……来年は私たちが全中に行く番よ!」
 
「はい!」
 
栞様と一緒に……全中に出る。その志は栞様も同じだった。
 
『7』
 
「栞さん……」
 
あれ?麻生唯の声が聞こえるわ。私は上半身を起こして、辺りを見回した。
時刻は十一時半。丁度、中堅戦が始まっているあたりか……。
そして、目の前には麻生唯の姿があった。
 
『えっと。何故、麻生唯がここにいるの?』
 
「みどりさんから連絡があって……栞が風邪で寝ているから様子を見て欲しいといわれたからしょうがなく来てやったのよ!感謝しなさい!!」
 
突然、麗が現れて……私にそういった。
生意気な麗を無視して私は無表情に訊ねる。
 
『お姉ちゃんは?』
 
「みどりさんは急患ができたとか言って……そのまま病院へ行ってしまわれたわ」
 
静香がそう言う。よく見るとガーディアン全員のうち半数近くが私の家に集まっていた。
さすがに日曜日とは言えど、働いている人は働いているし、休んでいる人は休んでいるのだ。というか、みんな……暇ね。
 
「栞さん……どう?具合は?」
 
『まだ、完治とは行かないけれど、ある程度は回復したわ……』
 
「ふ〜ん。で?どの程度回復したの?」
 
『30%くらいね。日常会話ぐらいならできるわよ』
 
「そんなの普通に話しなさいよ」
 
『まあ、素直に礼を言っておくわ。ありがとう』
 
「……なんか、それを無表情に言われるとありがたみもないわね」
 
京がそんなことを言う。この顔は生まれつきだから、変わることはできないけれど。
 
『ところで円や早苗がいないわね』
 
「円は取材。早苗は高校に行っているわ」
 
そういったのは百合だった。日曜日でも忙しいだろうに。
 
『ということは……全員暇なのね』
 
その言葉に全員がピキッと青い筋を立てる。
 
「あらあら?それはあなたが悪魔を狩りに精を出しているのに私たちが何もしていないみたいな言い方じゃない?」
 
そういったのは百合だった。
しかし、それを私は無表情で切り捨てる。
 
『事実じゃない』
 
「ふ〜ん。じゃあ、あなたは今月にどれくらいの悪魔の数を奈落へ送り返したのかを聞きたいわね。ちなみに……唯はあんたが思っているほど以上にすんごい成長しているんだからね!」
 
『麻生唯は何匹?』
 
「ええっと、五十くらいかな?」
 
申し訳程度に言う。
 
『で?麗は?』
 
「ふふ〜ん。聞いて驚きなさい!今月は麗ちゃんもパワーアップしたからね。ざっと、70ぐらいは倒したわね」
 
『他のみんなは?』
 
「大体、麗と同じくらいかな?それでも、唯様の成長は目覚しいものがあるわね」
 
なるほど。全員で足しても840ぐらいか。みんなも結構活動はしているわね。
 
「それで?あなたはさぞかし立派な数字でしょうね」
 
『ええ。それは勿論よ。あなた達が霞むほどにね』
 
「えっ?」
 
『私は五百匹を奈落に送り返したわ。まあ、全員分を足すと遠くに及ばないけれどね』
 
「ええ〜!?」
 
『まあ、いつもは千匹以上も相手にしていることもあるけれど……今月は少なかったのはそのためなのね』
 
「せ、千匹?」
 
麗が一生懸命に計算している。静香や京は口を開けたまま……ポカンとしている。
麻生唯に至っては現実味が帯びていないらしく何故か、五百という言葉に自体が呑み込めていないようだ。
 
『まあ、私の場合はそれ以外でも彼女の世話とか、色々と活動はしているからね。そういう意味では、あなた達のほうが凄いわね』
 
「あら?それだったら、あなた個人の方が凄くないですか?」
 
「五百って言う数字はそれほど凄いの?」
 
『ヴェガのときはまだ、力が不安定だったから仕方が無かったけれど……そうね。例えば……麻生唯が10人いても勝てるという計算かしら』
 
そう。私も彼女たちと一緒で絶えず進化しているのだ。
それは能力がどうのというより、発想の問題だった。
私は発想を転換して効率よく悪魔を一掃できる。
 
『まあ、最近は私の力も強くなりすぎてしまったようですね』
 
「ええっと。どのくらい強くなったのですか?」
 
『そうですね。麻生唯が10の力を持っているとして、私は200くらいですかね?』
 
「えっ?」
 
『単純な例を言ったまでです。実際は戦闘によって変化をしますけれど』
 
「道理で三割近くしか回復していないと思ったわ。普通では三時間程度で回復するのに」
 
『私は五時間近くかかっても回復しないと思ったのね?』
 
それに加えて下がらない熱。これはどう見たっておかしいのが現状だ。
 
『多分、私の場合は『流れ』という力を普段から使っているから、強さに際限が無いのでしょうね』
 
「流れ……?」
 
あれ?なんか、おかしいわね。
それにみんなも……まさか……。
 
『それにしても、麻生唯まで『水』の力を使えるとは驚いたわ』
 
「そ、そうかな?僕も栞さんには敵わないけれど」
 
『やっぱりね』
 
「えっ?」
 
『あなた達……麻生唯じゃないわね』
 
「なっ!」
 
「何を言っているのよ。栞……唯様が唯様なわけないじゃない」
 
『随分とまあ、精巧に化けたものね。麗……それに京に百合に静香……みんな天使なんでしょう?』
 
「な、なんで?」
 
『おかしいと思ったのは二つ。まずは、最初に麻生唯の対応』
 
「えっ?」
 
『都合よく麻生唯のことを調べたのはいいけれど、最大の誤算は麻生唯が私に放った一言ね。あのとき、あなたはこう言ったわ』
 
「栞さん……どう?具合は?」
 
と。
 
「そ、それがどうしたって言うの?そんなの言うのが当たり前じゃない?」
 
『あのね。いきなり起き上がった人に言う台詞じゃないわね。私がもしも精巧に麻生唯に化けるなら、こう言うでしょうね』
 
「栞さん……まだ寝てなくちゃダメだよ」
 
「…………っ!」
 
『二つ目の指摘。もしも、精巧に化けたとしても能力だけは化けることができないでしょうね。それが唯一の欠点よ』
 
「えっ?」
 
『もしも、私が麻生唯なら、芽衣と由佳と麗を連れてくるわ。麗には水を作らせて……芽衣はそれを凍らせて凍り枕を作らせるわ……由佳には料理を作らせればいいのだけれど』
 
「…………っ!」
 
『あなた達……さっきから何もしていないじゃない』
 
私のその一言が決定打になったのか。急に態度を変える五人。
すると、五人が急に消えた。
そう思ったとき、天使の一人が現れたのだ。
天使の羽根をバタつかせて、私に対して攻撃態勢をとる。
 
「よく見破りましたね」
 
『あら?あなた一人で操っていたのね。さすがは天使さんね』
 
「改めて名乗ります。天界直属機関査問部本部長エルブラント・ラシ・フィリールです」
 
『その査問部の本部長さんが私に一体何用かしら?』
 
「当たり前のことを聞かないでください。あなたの力についてですよ」
 
『また。滅茶苦茶で唐突な疑問を……』
 
この人……顔は可愛いけれどルパ○三世に出てくる峰不○子みたいに自己中だわ。
こういう女の子は厄介だからね。
どうするかを迷うわ。まあ、調教をすれば性格も改善できるだろうけれど。
 
「さて。ご同行を願いますかな?」
 
『はぁ……やっぱり、そう来るわね。一つだけ聞いてもいいかしら?』
 
「はい?何で…………っ!!」
 
そのとき、彼女が私の殺気を漏らしていることに気づかなかった。
 
『お姉ちゃんはどこ?返答しだいによってはただじゃあ済まないわよ』
 
「あら?支倉みどりさんのことですか?それなら……」
 
そう言うと、彼女が窓にある一角を指した。そこは物置だったけれど、私が開けると、そこにはお姉ちゃんが縛られていた。
なるほど、捕らえられていたというわけか。
 
『お姉ちゃんのドジ……』
 
「うわっ!人を最初に助けての第一声がそれかい!それよりあの天使はどこに行った?」
 
『あそこにいますよ』
 
と、私が指を指した方向に天使の人が佇んでいた。
 
「あのな!誘拐は懲役10年やで!!」
 
『いや。それは誘拐とは言わないし……それに懲役十年も間違っているわ』
 
誘拐じゃなくて、監禁だから。
 
「私が求めるのはあなただけです。あなたが大人しく来てくだされば……事はすぐに解決します」
 
『随分と殊勝な物言いだね。お姉ちゃんの監禁場所を案内してくれたことと良い……どういうつもりかしら?』
 
「真実を求める査問部の天使が……嘘や虚言を言ってどうするのですか」
 
『…………もう一つだけ聞くわ。あなた達が求めるのは本当に私だけ?』
 
「…………はい。先ほども言いましたけれど、嘘や虚言はありません」
 
『……なるほどね』
 
私はそう促すと……条件を一つだけ提示する。
 
『一つだけ、条件を言ってもいいかしら?』
 
「何かしら?」
 
『夕方までに……終わらせることができるのかどうか』
 
私がそう言うと、天使は笑って答えた。
 
「それはあなた次第ですね」
 
私はパジャマ姿のままでお姉ちゃんを見る。
 
『お姉ちゃん』
 
「なんや?」
 
『私……天界に行くわ。夕方までには戻るけれど……その間、後のことは……』
 
「ええ。分かっているわ」
 
お姉ちゃんも彼女は悪い人だとは思わないのだろう。
天使が人を殺すと堕天使になるから、私を天界に連れ出すための口実に過ぎないのだ。
だから、お姉ちゃんも腹が立たない。
 
『そうと決まれば……着替えてくるわ』
 
「いいえ。その必要はありません」
 
そう言うと、エルブラントが何か呪文を唱え始めた。天界用語なので分からないが。
それが終わると、私の服がパジャマから、可愛らしい魔法少女の服装みたいなものが飛び出してきた。いつの間にか、ぼさぼさの髪の毛すらもきちっと整えられており、何故かゴムで縛ってポニーテールみたいになっていた。
まるで、円みたい。
 
『うわ〜。何これ?恥ずかしいわ』
 
「いいえ。とってもよくお似合いですよ」
 
そう言うと、お姉ちゃんの顔を見ると、お姉ちゃんもうんうん頷いていた。
 
『それにしても、どうして?』
 
「あなたに逃げられても困りますから」
 
『あ。そう……』
 
随分と信用されていないんだね。まあ、当然か……。ガーディアンとはいえ、人間だから。
 
「じゃあ、天界の門を開きます」
 
『ええ』
 
「栞……気をつけてね」
 
『分かってるわ』
 
そう言うと、彼女が穴みたいなものを作り出した。これが天界の門とかいう奴なのだろう。
私がその穴の中にくぐると、その穴は閉じてしまった。
私は辺りを見回した。そこは豪華な宮殿みたいなお城だった。
私は中庭にいたけれど、そこにはライオンの蛇口から水が溢れ出ていて天使が水遊びをしている。
 
「こっちです」
 
事務的な口調で彼女が言うと、私を連れて歩き出した。
 
『天界って、思ったより……楽園って感じがするのね?』
 
「そうですか……?私は戦場に思えますね」
 
『なるほど。どこでも権力争いは続いているのね。あなたもそうなのね』
 
私がため息を吐きながら告げた。
 
「ええ。そうです。だから、利用できるものは何でも利用します……たとえ……貴女でも」
 
『……ところで私をどこに連れて行く気なの?』
 
「まずはとある方に面談してもらいます。その後の方針は……我々で決めますので」
 
その言葉に私はため息を吐いた。私は利用されているのだ。しょうがないと思いつつも。
 
『……別にいいけれど、厄介ごとはごめんだわ。天界の闘争に巻き込まれるのも』
 
という。
 
「着きました」
 
『査問部天使長……あなた方の直属の上司というわけね』
 
ノックをしながら答える彼女。
 
「ええ。そうです。失礼します」
 
中に入ると、そこには色とりどりの花が添えられていた。
どれも見るからに新種の花のようで……私の言葉にはぴったりだった。
嶺上開花。それが……ここに咲いている花のような気がしたのだ。
そして、中央に草原のような場所があり、そこで優雅にテーブルと椅子に座りながら、一人の少女が佇んでいた。
 
「小松栞をお連れしました」
 
『えっ?』
 
「あら?ありがとう……ご苦労様」
 
私は言葉を失う。
そこにいたのは紛れも無く、翔子に似た姿をした女性だったからだ。
唯一の違いは髪の毛だろうか。少なくとも、目の前にいる女性は翔子のように短くは無い。
 
「初めまして。私がゼラキエルの母親……ミラキエルです。驚かせちゃったかしら?」
 
『ええ。あまりに翔子にクリソツなので……』
 
私は正直に言う。
 
「翔子?ああ。あの子の人間の名前ね。私もびっくりしたわ。まさか、ゼラキエルの堕天使を天使に治したのがあなたのような可愛い子供だったなんて」
 
『翔子……いいえ。ゼラキエルのことを良くご存知ですね』
 
「ええ。あの子が天界を去った後でも情報というのは耳に入ってくるのよ」
 
『ということはひょっとして藍子ちゃんにゼラキエルの討伐を命じたのは…………あなただったのですね』
 
「ええ。そうよ。怒らせちゃったかしら?」
 
『いいえ。軽蔑はしますが怒ってはいません。私でもそうしたでしょうから』
 
「あら?そう言われると、あなたも軽蔑をするようなことをしてきたようね」
 
『私の場合は別です。私の場合は……責任がもてないから』
 
「…………」
 
『あの子達を無理に奴隷にして本当にこれで良かったのか。そう思うと、複雑すぎます』
 
「……私はね……あの子が生まれてから、一度もあの子の笑顔を見ていないの」
 
『えっ?』
 
「あの子……何でもそつ無くこなすでしょう。だから、友達が一人もできなかったのよ。でも、ある日を境に事件がおきたわ。私があの子を離れるきっかけでもあったサキュバスの討伐……それが彼女の任務だった。それからよ。あの子の情報が途絶えたのは……死んでいるのか生きているのかさえ分からない。そんな時だったわ。一つの情報が入ったの。あの子が生きているって事を……でも、それは喜ぶどころか……最悪の結果だった」
 
『あの子が堕天使だって事を知ったんですね。だから、藍子を討伐に行かせた』
 
「ええ。でも、あの子でも勝てるかどうかは分からないわ……でも、藍子ちゃんはそれでも言うことを聞かなかった。あの子から言い出したのよ。私が彼女を殺しますって」
 
『なるほどね』
 
点と線が繋がった。
だからこそ、彼女は私に聞きたかったのだろう。あなたは何者ですかって。
天界は正確な情報を知りたいのだ。
だからこそ、私のようなはぐらかす言葉を変えるのは難しいのだ。
 
「でも、一ヶ月前だったわ。藍子から、情報が入ってきたのよ」
 
『その情報の内容は大体察しが付きます。大方、堕天使から天使に戻せる方法をとある少女が知っていると……そのおかげでゼラキエルは元の天使に戻れたと。そう言ったのでしょうね』
 
「ええ。でも、彼女は何者?と聞くと、彼女は分からないの一点張り」
 
『私は情報をそう簡単に明かしませんから、当然でしょうね』
 
「だから、直接会いたくなったのよ。彼女に無理を言ってね」
 
『……私に会ってどうするつもりだったのですか?』
 
「色々聞きたいことはあったけれど。そんなのはもう忘れたわ。あなたの目を見ていると、純粋で心が穏やかになっていくのよ……そして一点の陰りも曇りも無かったわ。だから、あなたの目を見たかった……じゃあ、返って怒られるかしら?」
 
『……いいえ』
 
悪い気はしなかった。私も実際に彼女に話したかったことはたくさんある。
 
『私もあなたに全てをお話したかったですから……あの子の母親である……あなたに』
 
そう言うと、私は話し始めた。全てに繋がる一本道を……。
 
『8』
 
「流局!中堅戦に来て……七回目の流局です!トップは安達中学……その差をジワジワと迫るような仁木中と鶴我中……そして南ヶ丘中は現在最下位に……勝負は遂に……副将戦へと突入します」
 
さすがは仁木中と鶴我中……南ヶ丘中も徐々に差を詰めていっている。
私は部長のお迎えに行くと同時に副将戦に行くつもりでいた。
そして、対局室から出てきた部長が来て一言言った。
 
「さすがは……仁木中というところかしら?私の上がりを阻止して、単騎リーチなんてかけてくる。おかげで、上がりそびれちゃったわ……まあ、それでも、二回は上がれたから良かったけれど……」
 
「いいえ。あれはあれで最良の判断でした。現に私でも振り込んでいたかもしれません」
 
「…………次はあなたの出番よ。役満をばしばし狙って行きなさい」
 
「はい!行ってきます!」
 
そう言うと、彼女は少しだけショックを受けながらもみんながいる待合室へと戻っていった。
私はというと、面白そうに……対局室へと向かっていく。
 
「さて。決勝戦も後残すところ……半荘四回になってしまいました。如何ですか?ここまでの試合をご覧になって……」
 
「正直言って……仁木中の独走状態だと思っていたけれど、実際は違っていたわね。それを成し遂げたのは……安達中の先兵たちね」
 
「確かに、安達中は何回も上がっていて……仁木中の上がりを阻止していた節もありましたけれど……」
 
「いいえ。違うわよ。さっきの安達中の部長がリャンピンを捨てて、イーピンで上がっていたじゃない。しかも、単騎待ちで……」
 
「ええ。そうですけれど……」
 
「もしも、これが安達中の実力だとしたら、とんでもないわね。今度の副将戦……」
 
「と申しますと?」
 
「彼女の牌譜……ほとんどが役満ばかりじゃない?」
 
「ええ。本当ですね……でも、運が良かったとしか」
 
「私もそう思っていたら、どんなに楽かしらね……」
 
『決勝戦!副将戦開始です!』
 
「ま、まさか!ここに来ていきなりの国士無双イーシャンテン!?異常すぎますよ!」
 
「国士無双なんて、ざらにある話だけれど、さすがにこれを切るとなると、異常も確信に変わるわね」
 
「と言いますと?」
 
「彼女。尋常じゃないほどに運が良すぎるのよ。まさに神に魅入られた子供というべきかしらね」
 
『9』
 
ここに来て……またこれですか。
役満国士無双のイーシャンテン。親なら48000点だけれど。子なので32000点か。
白と発が二枚。そして……ウーマンがあるのでイーシャンテン。
一巡目でこれって人間ですか?とりあえず、悟られないように白を一枚切った。
でも、やばいわね。他家が九ピンをもう二枚切られている。後二枚。
 
「ポン……」
 
そこで九ピンをポン!?もう四枚出ているので、国士無双は夢に終わった。
大三元を狙うにしても白を切っちゃっているから……しょうがないから、一萬から捨てると。
 
「ロン……」
 
「えっ?」
 
「ダブ東混老頭トイトイ……ドラ三……24000」
 
「な、なんといきなりの倍満!あっという間に点差をひっくり返されました!」
 
し、栞様……!
 
『10』
 
『そういうわけで……今日が決勝戦なのよ』
 
「まあ、そういうことだったのね」
 
彼女がそう言うと、私は時計を見た。時間から見て、もうそろそろ副将戦が始まっていることだろう。
 
『……もう、そろそろ行かなくちゃ……』
 
「……あの子が気になるのね」
 
『ええ。そうよ。あなたも一緒に来る?』
 
「いいわ。あなたと翔子の間を見ていたら嫉妬しちゃうから。でも良かったわ。心優しい人に拾われて……」
 
『彼女は小鳥ですか?』
 
まあ、似たようなものだけれど。それでも彼女は嬉しいのだろう。
 
「まあ、その前の人は酷いみたいだったけれど」
 
『まあ、悪魔だからね』
 
「いいえ。そうじゃなくて、彼よりあなたの方が心優しいといっているのよ」
 
『そうですか。そうですね』
 
私は疑問符から、肯定文に変化した。
 
「本当に綺麗な人……」
 
『……また、会いに来ますよ。今度は翔子と一緒に……』
 
「……そうね。また一緒に」
 
そう言うと、私は天界の門へと通って、再び地上に降り立った。
 
『お姉ちゃん!』
 
「おっ!栞……帰ったか?」
 
『車を出せる?』
 
「勿論や!超特急で飛ばすで?」
 
『ええ!』
 
そう言うと、会場まで……一直線まで走り出した。
 
会場に着くと、お姉ちゃんにいう。
 
『じゃあ、行ってくるから……』
 
「栞!」
 
『なに?』
 
「無茶はするなよ」
 
『それを私に言う?』
 
「今日は中華にするで?」
 
『横浜中華街を予約しておいて!』
 
お姉ちゃんは送り出してくれた。
 
「頑張って来い!」
 
「決勝戦!とんでもないことが起こりました!なんと……仁木中学が三連続で上がりを見せ前半戦を終了……そして、苦しい展開になってきました。安達中の南翔子選手!勝負は後半戦に突入します」
 
『ふ〜ん。なるほどね』
 
私はとりあえず、翔子を探しに行く。
 
『翔子!』
 
「し、栞様!」
 
『なんか、しょげていると思ったら何をしているの?』
 
彼女は今にも泣き出しそうな勢いで、私の元にかけてきたと思ったら、止まってしまった。
 
「い、いえ。すみません。私のせいで皆の点棒が……」
 
『……馬鹿ね。点棒なんていくらでも上げちゃえばいいのよ』
 
私はそう言って、彼女を抱きしめた。
 
「えっ?」
 
『問題はあなたが……楽しんでいるかどうかということよ』
 
「楽しむ……?」
 
『あなたの母親もそうだったわ』
 
「…………っ!」
 
『娘の幸せを願う母親なんていない。いい母親じゃない……』
 
「し、栞様……お願いを言ってもいいですか?」
 
『何かしら?』
 
「このまま、対局室まで……手を繋いでいてください」
 
それはもう二度と、離れたくは無いといっているような顔だった。
 
『いいわよ。特別に許すわ』
 
そう言うと、私たちは手を繋いで歩き出した。
 
『副将戦……五分前です』
 
私たちは対局室の前にいた。
 
「栞様……ごめんなさい」
 
『いいのよ。今回は私のミスだから』
 
「いいえ。そのことじゃなくて……私……栞様がいなくて……とても寂しかったんです」
 
『…………後半戦。モニターで見ているからね』
 
「栞様……もう一つ……お願いが」
 
『何?』
 
「もう一度、抱きしめてください。栞様に抱きしめられたことは今までなかったので……」
 
『わかったわ』
 
そう言うと、再び彼女を抱きしめる。
 
「やっぱり、暖かいです。栞様の身体。この温かいぬくもり。まるでお母さんみたいです」
 
昔のことを思い出しているのだろう。
 
『そうかしら?多分……まだ微熱が続いてるようね』
 
「……かもしれませんね」
 
そう言って笑う。私も辛うじて笑うけれど、その笑顔はどこか引きつっているだろう。
 
「もういいです…………栞様?」
 
『だ、大丈夫よ』
 
彼女が額を押さえる。
 
「でも!凄い熱じゃないですか!」
 
『あなたは対局に集中しなさい……!大丈夫よ。一人で帰れるわ』
 
「ええ。分かりました」
 
そう言うと、彼女が対局室へと行ってしまう。
言いたいことはたくさんあった。けれど、紡げないこともある。
扉が閉まるにつれて……私は思う。
 
『頑張って。翔子……!』
 
閉まりきった壁側の向こうでそんなことを思った。
 
『ただいま……戻りました』
 
「お帰り……というのは少し変ね。具合は大丈夫?大将戦に出れそう?」
 
『ええ。出れば分かります』
 
「わかったわ。大将戦はあなたに任せるわ」
 
『…………』
 
本当は全然ダメだった。今でも、部長の顔が歪んで見える。
でも、約束をしてしまったのだ。
だから、大丈夫よ。ゆっくりと楽しんで……。
 
『11』
 
栞様が……私のために来てくれた。
それなのに……私は前半戦何をしていた?
栞様は今でも、病魔と闘っている。
たまに落ち込むときもある。けれど、前半戦の私は最低だった。
部長に言われたこと。もう忘れてしまったのか!
栞様に言われたことを……もう忘れてしまったのか!
忘れたなら、思い出せ。失ったなら、取り返すんだ!
 
『決勝戦副将戦後半戦……開始です』
 
アナウンスの声が聞こえて、私は牌を取った。
くそっ!牌がバラバラだ。これじゃあ……何も狙えないじゃないか。
どうする?でも……私には役満上がりしかないのだ。
 
『……大丈夫よ』
 
栞様の声が聞こえるような気がする。
大丈夫ですよ。栞様……私……絶対に最後まで諦めませんから。
そう思って、チーソーを捨てた。
どうするかな?とりあえず、目に物を言わせてやらないと気が済まない。
そう思って、次巡に回ったとき……来たと思った。
 
「リーチ!」
 
「安達中学……リーチをかけましたけれど……これは……リーチのみです」
 
「一発が入れば……2翻……裏が乗っても……高くは無いけれど……そう都合よく」
 
そうね。都合よく裏が乗るわけが無いとか思っているわよね?でも、これなら、どうかな?
 
「カン……」
 
「なっ!カンドラが……あの子のカンした奴だわ!ドラ四?」
 
「もう一個カン!」
 
「な、なんとリンシャンハイでもう一個カンをした!しかも、これでドラ8!?こ、これで倍満決定だ!」
 
すると、私はそのリンシャンハイを捨てる。
 
「切りました」
 
でも、これで裏が出ればどうなるかな?あなた達はこの裏と怯えながら戦うのよ。
そして、次巡で仁木中学の捨てた牌が当たり牌だった。すかさず、ロンをかける。
 
「ロン……!リーチドラ8……裏は……」
 
私が裏ドラをめくる。しかも、裏が乗っていた。
 
「裏ドラ4……数え役満!」
 
「な、なんと。副将戦でまさかの逆転の逆転劇!」
 
私は栞様みたいに嶺上牌までは読めないけれど……。
それでも、栞様に少しでも近づくために……私は頑張るんだ!
そして、次局……相変わらず、牌はバラバラだし、一見ツモりそうにも無い……イーシャンテンだけれど。
それでも、私は諦めない。
 
「流局!なんと、今大会何度目かもわからない流局の嵐……!しかし、それでも安目のリーチのみから、ドラ牌を8も上がる彼女の強運は見るものを圧倒させました。いかがだったですか?」
 
「正直驚いたわ。まさか、あそこでカン上がりをするとは思っていたけれど……まさか、ロンで親である彼女をロン上がりするとは……私では無理ね。狙おうとも思わないし。何より……あそこでリーチをかけるなんて……リスクが多すぎるわ」
 
『12』
 
『さて。行ってきます』
 
「頑張ってくださいね」
 
沙紀が言う。私が頷く。
 
「私の分まで思いっきり楽しんできてね」
 
遊里が言うと。私は手をタッチした。
 
『……部長』
 
「今日が……小松さんの嶺上開花の初披露ね…………気にすることは無いわ。他校を飛ばす気持ちで……がんがん攻めちゃいなさい」
 
『はい。全力を尽くします……行ってきます』
 
「都大会決勝戦……鶴我学院中からは、宮園望……!南ヶ丘中からは……去年小学生全国大会で優勝した西園寺春(さいおんじはじめ)!……安達中からは今回初参加となる小松栞!そして、夏の都大会、関東大会優勝覇者……仁木中学からは柊宇津穂!」
 
私はアナウンスの声を聞きながら、対局室から彼女が出てくるのを待っていた。
さすがは彼女だ。余裕綽々としながら、出てきたのだ。
 
「栞様……」
 
『どうだった?』
 
「ええ。楽しかったです」
 
『そう。それは良かったわ』
 
「あの栞様……?」
 
『ん?何?』
 
「私を麻雀部に引き入れた目的は一体なんなんですか?」
 
『それは私じゃなくて、彼女に質問しなさい。でも、多分、私も同じ理由だと思うから、話しておくわ。麻雀は運の要素が強いことは知っているわね?』
 
「ええ。それは……まあ」
 
『それ以外にも、まあ、今では非現実的とされているけれど、『流れ』とかそういうものがあると私は思うの。ツモ牌の『流れ』とか……だから、麻雀は私にとって得意でもあり、不得意でもあるのよ』
 
「ええ?栞様にも得意不得意があるのですか?」
 
『勿論よ。私にとって麻雀はそれほどに意味があるのよ』
 
「じゃあ、私を引き入れた理由は……まさか」
 
『多分、彼女は優しいから、私と同じ理由でしょうね。多分、彼女はあなたを心底大事に思っているから、だからこそ、自分の得意分野と不得意分野を分からせたのよ』
 
「栞様……」
 
『でも、今回の私は多分絶不調だわ。今でも頭がガンガンするし』
 
「栞様……!」
 
『冗談よ。関東大会に出るまで、死なないわよ』
 
『まもなく、決勝戦大将戦を行います。各出場者は所定の位置に集まってください』
 
女子アナウンサーの人が言っているような声を聞くと、私が立ち上がる。
 
『さて。それじゃあ。行くわ』
 
「栞様……」
 
『……私も……お願い言っていいかしら?』
 
「なんでしょう?」
 
『もしかしたら、激戦の予想がするわ。勿論、私は全力を出すけれど。私も本調子じゃないし……だからね。前半戦はとりあえず、耐えるわ』
 
「えっ?」
 
『勝負は後半戦になってから……だから、休憩中は私の部屋にきたらダメよ。私に余計な体力を使わせないで』
 
「…………わかりました」
 
『じゃあ。行ってくるわ』
 
そう言うと、私は対局室の中に入ろうとした。
 
『あら?』
 
対局室の前に円がいた。横にいるのはカメラマンだろうか。ひげの濃いおっさんがいた。
 
「おっ?来たか……栞……」
 
「知り合いだったんですか?」
 
『円じゃない?どうしたの?』
 
「ええ。ちょっとね」
 
ひげの濃いおっさんにそう促すと。
 
「栞……昨日のあれは?」
 
『ああ。あれね。勿論、故意だよ』
 
「やっぱりね。そういう感じがしたと思っていたのよ」
 
「ええ?どういうことですか?」
 
「それは勿論……!」
 
『決勝で実力を隠すためよ』
 
「ええっ!?」
 
「ところで……あなた……風邪で寝てたんじゃなかったの?」
 
『ええ。午前中は……本当はもっと寝ていたかったけれど……』
 
「まあ。いいわ。ところで取材をさせて欲しいのだけれど」
 
『いいわよ。何から聞きたいの?』
 
「あら?意外にあっさりね」
 
『別に……私は何も隠したりはしないからね。素のままの私を見てって感じかしら?』
 
「なるほど。じゃあ、まずは……今回はどこまでいけると思っている?」
 
『う〜ん。そうね。関東秋季大会も優勝は狙っているつもりよ』
 
「じゃあ、対戦相手としては……どこがライバル?」
 
『仁木中学の柊宇津穂かしら?』
 
「勝てると思っている?」
 
『それは他の対戦相手に言って頂戴ね。でも、そうね。勝負は後半戦……』
 
そう言うと、再びアナウンスがかかった。
 
『まもなく、決勝戦が始まります。各学校の選手は所定の位置に集まってください』
 
『あらら?もう時間だね。じゃあ、行ってくるわ』
 
「そう……頑張ってね」
 
私は対局室に入る。すぐに審判の人によろしくお願いしますと挨拶をする。
そして、座る位置を引いた。
けれど……ここで席順まで能力を使うのはもったいない。
私はなるべく省エネ精神で牌を引く。牌は西と書いてあった。
西か……また、微妙な位置ね。やっぱり、普通に能力を使うべきだったわ。
続いて鶴我学院中が来た。彼女はとても、中二以下とは思えない体格をしている。高校生でも通りそうだった。
 
「よろしく……」
 
彼女はそう言って牌を捲る。彼女は私から見て左側に座る。北家だ。
次に南ヶ丘中の子が来た。
彼女もとても中学一年生とは思えない。よくて小学生の高学年。ランドセルが似合う子供だった。
ということは……もう一人が……そう思ったとき。来た!と思った。
圧倒的は殺気、気配。ここまでくると、威圧感さえ感じるようになってくる。
仁木中学の柊宇津穂。さすがにここまで来ると、圧巻を通り越して寒気までしてくるわね。
私は深呼吸をする。やっぱり、作戦変更をしよう。
最初から、全力でいく。そうしないと、彼女に勝てない気がしたせいだ。
後のことはどうでもいい。とにかく、今は勝つことが大事だ。
私の能力……四割弱程度は戻っている。
 
『決勝戦大将戦!始めてください!』
 
「さて、化物退治と行きますか……」
 
意気込んでいる南ヶ丘中の子供が言う。
南ヶ丘中の彼女がサイコロを回す。
親だからだった。
 
『13』
 
スタッフルームにて、円は現在の取材状況をまとめていた。
 
「あ〜。やっぱり、仁木中学の取材が纏まんないわね」
 
「柊宇津穂は全面的に取材を拒否していますからね」
 
「あら?どちらかと思えば、麻雀雑誌の陣内さんじゃありませんか柊宇津穂の取材ですか」
 
「フン。誰かと思えば、皆口円さんじゃない?」
 
「仁木中学よりも、もっと面白い子がいるわよ」
 
「えっ?」
 
「安達中学の小松栞……」
 
「あら?随分と安達中の子にご推薦をなさること……」
 
「忠告はしておいたからね。後はどうぞご勝手に。まけた言い分は聞きたくないからね」
 
『14』
 
私は牌を取って……順序良く並べる。
親はスーシャンテンくらいか。
でも、柊宇津保はリャンシャンテンくらい。
そういう私でさえ、リャンシャンテンくらいだった。
カンザイを一つ持っていても、嶺上開花までは程遠い。
それでも配牌から、カンザイを持っているなんて……凄いことだけれど。
彼女が切る。私は牌を積もる。
 
「その中!ポンよ!」
 
ホンイツ狙いか。でも、そんなのは関係なかった。
私は嶺上開花までの全ての過程が完成していた。
すぐにカンをかける。
 
『カン……!』
 
「ん?」
 
私は嶺上牌を取る。
 
『ツモ……嶺上開花……700・1300です』
 
「な!嶺上開花だと?」
 
『…………これで一回目……』
 
「えっ?」
 
次も絶好の聴牌だった。
でも、ここはやっぱり……リーチをかけたいわね。
 
「リーチ!」
 
「安達中の小松選手。八萬で振り込むかと思えば、パーソー単騎待ちだ。しかも、河に二枚切れている!悪待ちにもほどがあるぞ!!」
 
「なに?この子……」
 
『カン……!』
 
「えっ?リーチしてからカンをした……まさか!」
 
『ツモ……リーチ嶺上開花ホンイツ……2000・4000です』
 
「二……二連続嶺上開花……!!すでにありえないことが起こっているぞ!!」
 
『これで、二回目……』
 
そして、東三局……私が親番だった。
私は倒れるのを必死でこらえる。
意識がぶっ飛びそうなのを……何とかこらえる。
今度もできた。けれど、問題なのは柊宇津穂だった。
まさか、三巡目で……嶺上開花を阻止することはできないだろうけれど。
どうする?行くか……迷う。
いや。たとえ、チャンカンで上がれたとしても……私以上の化物がいるわけが無いんだ。
そう思ってカンをしようと思った。けれど。
リャンソーでカンなんて……三色を狙っていない限り、現れるわけが無いと思う。
それに、多分……相手は役なし聴牌だろうから。
だから、ここは切るが正解だ。
 
「安達中学……なんと、カンをしないで、そのリャンソーを捨てた!」
 
大丈夫。カンザイなんて……いくらでもあるから。ほら。来た。
 
『カン……』
 
「なっ!安達中学。今度はパーソーで……カンをしました!」
 
『ツモ……嶺上開花チンイツドラ2……8000オールです』
 
「ば、倍満だ!なんと……安達中学の小松栞選手……倍満で上がった!!」
 
「な、何故、リャンソーでカンをしなかった?」
 
『それは……分かっていたからよ』
 
「な、何を?」
 
『チャンカンを……狙っていたでしょう?』
 
「見切られていた。それはそうだろうね」
 
『さて、これで三回目……次は…………』
 
まずい。倒れそうになる。段々、熱を帯びてきた。耳鳴りがしてくる。
私は体内温度の上昇を抑えるために力を使う。けれど、それは……私の能力がなくなることを意味していた。
仮に能力にMPがあるとする。私のMAXが999だとしても、体内温度の上昇を抑えるための使うMPの消費は100前後。加えて嶺上開花に使った能力50前後だけれど、それでも、三割、四割程度だから……残りは50〜150ぐらいしか残っていない。という計算になる。
しかも、それでも、体内にたまったウイルスは駆除できない。精々で体内の温度上昇を抑えるくらいだ。日常会話程度に使うこの力は5か10くらいなので、これは除外するとしても、もう……能力が限界近くまで使ってしまった。
これからは……ヒラで打つしかない。相手の牌も読めないから、差し込む可能性も高い。
 
「安達中学の小松選手……若干疲れている様子ですけれど、何かあったんでしょうか?」
 
「さてね。私には分からないけれど、それでも辛そうね」
 
こ、今度はチートイ狙いか。でも、牌が見えない……力を使いたいのに使えないなんて、皮肉どころか逆に追い込まれているのは私のほうね。
良くてもトイトイでも狙えるけれど。2000点か。
 
「その発……ポンよ!」
 
来たか。仁木中学の柊宇津穂。
大三元を狙っているのか。それとも、私と同じトイトイか。それとも発のみか……。
白を捨てるかどうか……迷う。
大三元は責任払いがある。たとえ、他家がロンされても、半分は支払わなくちゃいけないのだ。
子だから……16000点。
でも、まあ……親だから、どっちにしろ16000点は払わなくちゃいけないけれど。
しかし、私はスーソーを捨てた。
これで、振り込むことは無いと思ったけれど。
 
「カン……!」
 
しまった。カンザイは無いと思っていたけれど。まさか……。
彼女の手が伸びる。
そして、嶺上牌を取る。
 
「ツモ……大三元」
 
「な、なんと!ここでも嶺上開花……炸裂!……すでにとんでもないことが起きている!」
 
親っかぶりで16000点を支払ってしまった。
 
「東四局ですでにとんでもないことが起きています。嶺上開花で上がり続ける小松選手に対して、柊選手も嶺上開花で必死に応戦している。まさに嶺上開花の嵐だ〜!」
 
いつもなら、流れを読むことができるのに……全然読めない。
息が乱れている。私は呼吸を整える。
 
私の親はあと三回。しかも、微妙なところだ。
いっそのこと、オーラス時に親なら、力を温存できたのに……。
やっぱり、あの牌を選ぶときに考えるべきだったか。
 
今度の私はウーシャンテン。
まずいぞ。相手は張っているかもしれないのに……この状況。
私は九巡目でやっとでイーシャンテンになってスーソーを捨てたけれど。
 
「ロン……8000です」
 
しまった。柊宇津穂ばかりに構っていたら、他に上がられた。
 
「ツモ……8000オールです」
 
まずい。もう限界だわ。
息が上がる。
次の配牌も最悪だった。
いや、ここでの限界は私の限界じゃない。
考えるんだ。今……起こりうるべきの全ての現象について。
大丈夫。必ず、上がってみせる。
私は今、新たなる架け橋に登っていた。
それは成長の架け橋と落ちれば死亡確実のぼろい架け橋。どっちに登るかによるものだった。だからこそ、私は成長する架け橋を渡る。
 
『チー……』
 
すかさず、スーソーでチーをかける。
 
『ポン……』
 
今度は八萬でポンをかける。
よし。やっとで聴牌できた。
これで、あとは……相手が六萬を捨てれば……いい。
 
『ロン……タンヤオのみ……1000点です』
 
ふぅ……なんとか、上がれたけれど。
ここからが地獄だわ。
私はため息を吐きながら、南二局へと突入する。
相変わらず、牌は最悪。
国士無双を狙いたいけれど。無理だわね。
すると、東の三枚目が来た。連風刻子じゃないし……。場牌でもないから……はっきり言って……無駄ね。
でも、なんかに使えるかもしれないから残しておくのもいいかもね。
 
「リーチ!」
 
高そうで嫌な点ね。
私は牌を積もりながら思ったけれど。
やっとで聴牌したか。
けれど、問題は……相手のリーチだった。
……どうするか。あと、積もる牌ももうわずかしかない。
そうだね。ここで、あれを捨てればいいね。
 
「な、なんと、小松選手。振り込むかと思えば、東を捨てて……ベタ降りです。そして、流局!聴牌したのにベタ降りなんて、珍しいですね」
 
「いや、前にもこんなことがあったでしょう?」
 
「そう言えば、前に阿賀選手が相手の国士無双を阻止しています。でも、これだけの点差があるのに……狙わないなんて変ですよ」
 
「普通はね。でも、あの子は狙わなかった。多分、私たちとは違うものが見えているのか……それとも、余裕が無いのか」
 
あ〜。もう……限界に近い。
連続で他に上がられるし……でも、次は私が親だ。
相変わらず、牌は最悪。おまけに状態はすこぶる悪い。
しかし、ここで負けたりしたら……あとで怖い目にあうわね。
だからこそ、ここは温存しておく必要がある。
あとのために……。
 
「ロン……12000点です」
 
ふぅ……いくら、私が親といえど、やはり、親を飛ばされるのは嫌ね。
まあ、点数を払わないだけまだマシか。
勝負は南三局へと行く。しかし、ここでも私がツモで上がる。
 
『ツモ……400・700です』
 
「そして、また、安い手で上がる小松選手!彼女なら高めを狙えたのに……何故?」
 
「どうでしょうね?私にはどうにも不自然な上がりにしか見えませんけれど」
 
「積もったのにカウントしないの?」
 
私は何も言わない。言わないのではなくて言えないのだけれど。
もう、さっきの上がりで限界に近かった。
しかし、私は頑張るしかないのだ。
 
『ツモ……1000・2000』
 
「ぜ、前半戦終了!トップは仁木中学にもかかわらず、ここまでで、連続安上がりを上がる小松選手。いよいよ……後半戦に突入します!」
 
『あ〜。危なかったわ』
 
私は頭を冷やしていた。氷を頭の額に乗せて……せめて、後半戦は体温の上昇を防いで、少しでも戦いやすくするためだ。
 
「し、栞様……!」
 
横を見ると、翔子が立っていた。
 
『翔子……』
 
「栞様……本当に大丈夫なんですか?」
 
『何よ。ちゃんと上がっているでしょう?』
 
彼女に心配はかけたくないせいか。ぶっきらぼうな口調になる私……。
 
「……栞様……」
 
『何?』
 
「もう……私に嘘をつくのは止めてください」
 
『…………そうね。さすがにもう限界に近いかな?』
 
「だったら、どうして棄権をしないのですか……?」
 
『したくないからよ。今の私は楽しくてしょうがないの』
 
「えっ?」
 
『それにしても、最初から飛ばしたのはさすがに謝るわ。自分のペース配分が掴んでいない証拠ね。だから、後半戦……東場は大人しくしているわ……』
 
「そんなので本当に勝てると思っているのですか?」
 
『はて?この世に麻雀の神様がいるとすれば……神のみぞ知るという奴かしらね。でも、大丈夫よ。麻雀というのは合唱コンクールとは違って……逆転することも可能だからね』
 
「……わかりました。栞様を信じていいのですね」
 
『ええ。必ず勝つわ』
 
そう言うと、アナウンスが聞こえてきた。
 
『まもなく、大将後半戦が始まります。出場校は速やかに対局室へ集まってください』
 
『じゃあ、行ってくるわね……』
 
「栞様……」
 
私が去ったあと、彼女の呟きが聞こえたのが耳に入った。
トップとの差は34200点。
私は三位。それくらいのこと……馬鹿でも計算できる。
役満直撃でまくることができるけれど、今は大事なのは……それじゃない。
なんとか、彼女の捨て牌を見ながら、聴牌の気配が見えたら……ベタ降りするしかない。
私は対局室へと戻る。残念ながら、もう席順は決まってあるから、どうしようもないけれど。それでも、私は諦めない。
私の最後の親番。それが……キーだった。
全員が集まったところで、再びアナウンスが入る。
 
『大将戦。始めてください』
 
「都大会……決勝戦。関東大会に行くのはこの中の一校のみ」
 
私は再び、配牌を見る。リャンシャンテン……安めでも7700点か。
私は北を捨てながら思う。
問題は彼女がどんな物語を描いているかだった。
 
「ツモ……2000・3900です」
 
ツモ上がりされた。
やっぱり、彼女……強い。いや、彼女ではなく……みんなが……か。
 
「それにしても、最初の彼女の差し込み以来……ここにいる三人は差し込む気配は見えませんね」
 
「そうですね。それはやはり決勝戦だから……でしょうか」
 
やはり、決勝戦の大将の試合。そう簡単に差し込んではくれないか。
なら、もう……この手しかないか……。
私は審判の人を呼ぶ。
 
『あの…………』
 
「おや?安達中の小松選手。何やら、審判の人と話をしていますね」
 
「まあ、2翻はつかないけれど、いいですよ」
 
『そうですか……ありがとうございます』
 
そうか。ありなのか。ならば、仕方が無い。
 
「勝負は東二局。親番は仁木中学の柊宇津保です」
 
「リーチ!」
 
「ここで、仁木中学……親の倍満リーチをかけた!ここで勝負は決まってしまうのか!!」
 
もう……彼女に勝つ方法はこれしかなかった。この親番はやば過ぎる。
やっぱり、事前に話しておいて良かった。
あとは、私と彼女の運……どっちが強いかだった。
 
『リーチ……』
 
「ああっと、ここで彼女も跳ね満リーチをかけた!」
 
『更に……オープン……サブローソー待ちです』
 
「ええっ?こ、これは……オープンリーチです。規定ではOKですけれど……これはどういうことなのか!」
 
「な、なんだ?これは……」
 
「ああっと、ローソーを引いてしまった鶴我中の宮園選手!これは降りるでしょう……」
 
「ええっ?」
 
「ああっと、ここでもローソーを引いてしまった。南ヶ丘中の西園寺選手!連続して……これは異常ですよ!」
 
「でも、あと残り、一枚しかないわね。ローソー。サブも二枚切れているから、残り三枚か……それでも、彼女が引く確率は充分にあるわね」
 
あらら?ひょっとして、引いちゃったかしら?
 
「ああっと。ここで最後のローソーを引いてしまった仁木中学の柊選手!!」
 
「二度あることは三度ありますか……」
 
『ロン……裏は……ありました。リーチ一発……ドラ六……16000』
 
オープンが付かないのは残念だけれど、仕方が無いわね。
まあ、それでも……彼女の連荘と止める結果にはなったわけだ。
そして、次は私が親だ。
……大丈夫。絶対に……勝つよ。
 
「……カン……」
 
すると、仁木中学がカンをした。
……っ!
まさか!と思った。
 
「ツモ……嶺上開花……400・700です」
 
くっ!あくまで……私に親を回さないつもりか。
……まあ……いいです。
南三局まで我慢するんだ。
 
「勝負は東四局へ突入します!」
 
「さすがに強いわね」
 
「そうですね。仁木中学はさすがといったところでしょうか?」
 
「何を言っているのよ。私は……安達中学の小松選手を言っているのよ」
 
「はっ?」
 
「勝負はあともう南局しかない。点差も開ききっているというのに……彼女……全然、表情が読めないのよ」
 
「そう言えば、小松選手は対局に入ったときから、無表情でしたね」
 
「無表情のときは聴牌が読めないのよ。にもかかわらず、オープンリーチをした。上がることを前提にしたリーチだと思うけれど。それでも、オープンはありえないと思うわ」
 
『……ツモ……』
 
私は牌を見せた。なんてことは無い。ゴミ手とも取れる400・700の手だった。
 
『リーチ……です』
 
もう、頭が朦朧としてきた。しかし、それでも、私は牌を積もる。
 
『……ツモ……リーチ一発ツモ……ホンイツイーペーコー。裏は……』
 
裏を見ると裏は無かった。
 
『ありません。3000・6000です』
 
「なんと、跳ね満ツモ!ここに来て……まさかの逆転はありえるのか!?」
 
次はあの子が親だ。なんとか…………しないと。
しかし、私の能力も限界に近い。
それでも、止められない。
 
『……ツモ……500・1000です』
 
「また、安手でツモ上がりをした安達中学の小松栞選手!そして、次は彼女が親番だ!」
 
『次は……私が親番…………ですね…………ぐっ!』
 
サイコロを回そうとして、手が止まる。
 
「だ、大丈夫なのか?」
 
そう言うと、鶴我中学の子が手を差し伸べてくれる。だけれど、私はそれを……。
 
『へ、平気…………です』
 
と、丁寧に断った。
せめて、あともう……ちょっとだけ持って。私の体力。
次は何しろ。私の親番だから。
 
「小松選手は逆転まであともう少しですね」
 
「そうですね。でも、それより……おかしいわ」
 
「何がですか?」
 
「さっきのイーピンツモ。もしも、さっきの中をポンしていたら……彼女がローピンで上がっていた。しかも、1通付きで……」
 
「確かに……もう2翻増えていましたね」
 
「だが、しなかった。もしも、彼女が化物ならば……とは思ったけれど……どうして、点数を下げるなんて真似をする?」
 
私の体力はもう……限界に近い。
多分、この親が最後の勝負の分かれ目となる。
ここで……私が力を使うか否かで勝負が決まる。
 
「栞様!」
 
そのとき、突然、彼女の声が聞こえたような気がした。『流れ』でも読み取れないほどの小さな叫び声。というか、私は力を使えないというのに。
でも、それは私に「勝って」といっているように聞こえた。
そうだね。うん。勝たなきゃね。
私は力を使う。今の待ちを想像する。
『流れ』を使って……小さな勝利を掴み取るために。
 
『よし!』
 
私は気合を入れる。
数巡後。私は聴牌をした。チャンカンは無いわね。あったとしても……やるけれど。
 
『カン……』
 
「ま、また」
 
チーソーが来たけれど。まだまだ。
 
『もう一個カン……』
 
「えっ?」
 
また、チーソーが来たけれど。
 
「二連続でチーソーが来た。嶺上開花だ〜」
 
『カン……』
 
「えっ?」
 
「に、二連続で……チーソーが来たのに。それを見逃して暗槓ですって……」
 
三連続でチーソーが来た。でも、まだだ。
 
『カン…………』
 
「よ、四連続カン……これって」
 
私は最後の嶺上牌を取る。
全ての勝利を掴むために。
私は取った。
 
『ツモ……四槓子……16000オール』
 
「や、役満ですって……」
 
「い、一瞬、唖然としてしまいましたが、嶺上開花は四連続で四槓子という劇的な幕切れ!トップは安達中学です。しかも、他家を飛ばすという離れ業を披露してのまさに珍しい役満が飛び出しました」
 
『あ、危なかったよ…………』
 
私はずずずっと背もたれに寄りかかる。
もう、座っているのですら、辛くなったからである。
私はそのままで倒れてしまった。
 
『15』
 
『…………うん……ここは……』
 
「し、栞様!」
 
『あれ?私……あの後、どうなったの?』
 
何故か家の中で寝ていた。
 
「私たちの勝ちですよ」
 
「ええ。栞様が逆転勝ちを決めてくれたおかげです。でも、栞様が倒れてしまったから、私がここまで飛んで運んできたのですよ」
 
『そうだったの……ありがとう。エルーノ』
 
私はエルーノの頭を撫でてあげる。
 
「い、いえ……その……あぅ……」
 
『大好きだよ。エルーノ……』
 
「はぅ……」
 
そう言うと、彼女は倒れそうになる。
 
「翔子も……よく頑張ってくれたわね……」
 
「い、いえ。私は奴隷として、当然のことをしたまででして……栞様の安否を気遣っただけですので」
 
『…………そうね。でも、お礼をさせて……ありがとう』
 
「…………栞様……」
 
『何?』
 
「もう……二度とこんな無茶はしないでください」
 
『あら?私のために怒ってくれてるの?』
 
「当たり前です」
 
『う〜ん。でも、二度と言われると……もう一度したくなっちゃうわね』
 
私が彼女を振り回そうと目に見えているのをわかっている。
 
「今回のこと。本当に心配したんですからね」
 
『さすがに今回のような特殊なケースは珍しいけれど。でも、悪魔に襲われているときに突然、発熱をしたらどうなると思う?』
 
「そ、それは…………」
 
『多分、また無茶をしかねないでしょうね。特に私の場合は…………でしょう?』
 
「そ、そんなことを言わないでください」
 
『だったら、あなたはもしも、私が死んだらどうするつもり?』
 
「そんなこと……言いにくい質問をしないでください」
 
『そうかしら?多分、別れは早からずともやってくると思うわ』
 
「し、栞様!」
 
さすがに失言だと判断したのか。彼女が私を咎めるような口調で言う。
 
『まあ、今すぐに判断しろとまではいかないわ。これから先……じっくりと考えて……それで答えを出しなさい。あなた自身の手で』
 
それは彼女自身が克服しなければならない試練だった。
天使は悠久の時を生きる。
私自身も何も今すぐに死ぬとまでは言っていない。
けれど、それは遠からずにやってくる出来事だ。
私の中の彼女なら、どうにかできると思うけれど。
それは、私に安易に死ぬなといってるようなものだった。
だからこそ、私は人間に殺されるという選択肢を選んだのだ。
悠久の時をグルグルと螺旋階段のように回りながら、
今日も私は生き続けるのだった。
 







     




















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