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―――たとえ、全てを否定されようとも。それが、明かな悪でも―――
 
彼女は真っ赤な炎の中に居た。
炎の中にいたのはかつての仲間たちの屍だった。
そして。
 
「唯様っ!」
 
麻生唯が炎の中にいた。助けなければと思っても、身体が動かない。
 
「どうしてっ!唯様!唯様っ!!」
 
そして、麻生唯は炎に包まれていった。
 
「いやああああぁぁぁぁぁ―――――――っ!!」
 
彼女は絶叫を上げながら、目を覚ました。夢だとわかるまで、数秒間を要した。
本当に嫌な夢だった。
この間は彼女が麻生唯を刺してしまう夢。その前は栞を自分の手で殺してしまう夢だった。
 
「過去夢を何回か見ることはあるけれど……さすがに……私の精神が病んでいる証拠なのかしら?」
 
彼女……不動静香は意味のない呟きを漏らす。隣では早苗がすやすやと眠っている。
私は起きて顔を洗いにいく。もう六時半、この時間なら、誰かが起きているはずだった。
 
「あら?早いのね」
 
リビングのドアを開けると、由佳がいた。
 
「ええ。ちょっと眠れなくて」
 
これは本当のことだ。本来ガーディアンは睡眠などとらなくても、過ごせるのだけれど。
 
「じゃあ、唯君を起こしにいってくれる?」
 
「えっ?」
 
「どうしたの?」
 
「あっ!ううん。なんでもないわ。唯様を起こしに行ってくるわね」
 
「静香……」
 
麻生唯の寝室を一人で覗くのはこれで……二回目だった。
この部屋の中は麻生唯のにおいでいっぱいだった。
静香は夢遊病者のように……中に入る。中に入ると、そこには麻生唯と京がいたどうやら、昨日は京を抱いていたらしい。傍にはパソコンが置いてあり、電源がつけっぱなしだった。
静香の推測によると、麻生唯はオンラインゲームをやっている最中に京が現れて、一緒に抱き合って一緒に眠ってしまったらしい。大体は合っているだろう。
静香はパソコンの機器を壊さないように細心の注意を払って歩く。
 
「唯さま。起きてください」
 
試しに揺すってみる。すると、麻生唯の眼が徐々に開いていく。
 
「あれ?静香さん?」
 
静香はその足で窓のカーテンを開けた。空気の入れ替えをしようと窓を開ける。
 
「唯さま……もう朝ですよ。起きてください」
 
「うん。わかったよ」
 
「うん……?もう朝?」
 
その隣の京までもが起きだした。
 
「ほら……京もさっさと起きて」
 
「ふぁ〜い」
 
だらしなく欠伸をしながら、京が立ち上がった。
 
「ほら……だらしがないわね」
 
「煩いわね。どんな格好をしようが私の勝手でしょう?」
 
「そうは行かないわ。あなたが良くても唯様が困るでしょう」
 
「うっ!」
 
図星を指されて京が困惑したような顔になる。しばらくして、京が着替えると唯も着替えると言って私たちは退室した。
静香はため息を吐いた。
 
「やっぱり、栞のようにはいかないわね」
 
「あれ?お姉さま?どうかしたのですか?」
 
傍には早苗がいて、私を見ていてくれる。
 
「いいえ。なんでもないわ」
 
「それにしても珍しいね。お姉さまが早起きするなんて……昨夜何かあった?」
 
「……っ!」
 
夢の中の麻生唯が私を鮮明に思い出させてしまう。
 
「お姉さま?」
 
「ううん。なんでもないわ。早苗も朝ごはんだから、早く顔を洗ってきなさい」
 
「あっ……うん」
 
本当に彼女らしくない一日だった。
 
『1』
 
あ〜。久しぶり。こんな憂鬱な日なんて。世間から見たら、自殺しそうな少女の瞳に映っていることだろう。
いつもなら、よし!頑張るぞ。という気もおきなくもないけれど。今回は全くの真逆だった。こんなにも休みたい日はなかった。
そう。今日は課題曲と自由曲の練習日だった。
私は昔から言葉を出すのが苦手だった。それ故にカラオケや音楽なんてもっての他だった。
それも音楽の先生からダメ出しをされるくらいの苦手ぶりで小学生のとき通知簿とかにももっとハキハキと答えましょうと書かれていた。まあ、先生から何を言われようが、関係ないんだけれど。
というわけで……私の苦手な学校行事の中でトップを占める……というか独走なのが合唱コンクールというイベントだった。
信じられないかもしれないけれど、私は生まれてから今まで、歌というものを歌ったことがない。口ずさんだり、鼻歌を歌ったことはあるけれど。
ちなみに課題曲は……思い出は空に。自由曲ははばたこう明日へに決まった。
両方とも合唱コンクールでは代表曲……というか定番なんだけれど。
私は今日何度目か分からないため息を吐いた。
確実にため息だけなら、言えるんだけれど。まだ、指揮者もピアノの伴奏者も決まっていない。だから、今日は課題曲だけを練習して来週までに決めようと言うことだった。
そういえば、合唱コンクールの実行委員長は……妙に高笑いが似合う人だったような気がする。
 
「ほーっほっほっほ!」
 
私は再びため息を吐いて通り過ぎる。
かまったら負ける。
 
「こら!お待ちなさい!」
 
しかし、私はスタスタといってしまう。
そう言えば、今日の数学のテスト。満点とってみんなを驚かしてあげよう。とか思いながら。
 
「だから、お待ちなさい!」
 
私はため息を吐いて後ろに振り返る。
 
「あなた!明らかに分かっていて、無視をしていたでしょう?」
 
私は字を書いた。
 
『そうですよ。それじゃあ』
 
そう言って行こうとした。だが、肩をがっちりと掴まれて放さなかった。
 
『何ですか?』
 
「い、いつの間にそんな文字を……?まあ、いいわ。私が言いたいことは一つだけよ。今年は絶対にあなたには負けないんですから……!」
 
いきなりの宣戦布告だった。だったけれど……。
 
『あの……』
 
「去年の積年の恨み……!存分に晴らさせてもらいますわ!」
 
私は再びため息を吐きながら、とんとんと肩を叩く。
 
「何でしょう?」
 
『あなた……誰ですか?』
 
「すでに忘れ去られてる!?」
 
実際は合唱コンクール自体……記憶の片隅に消したいくらい過去なのに……去年の……あれですか。
 
『うん。全く。記憶の片隅に消しちゃいました』
 
「しかも消された!?うぬぬぬ〜!清楚なこの私……西城光子の名を忘れるなんて……」
 
『いや。うぬぬぬ〜!とかいっている時点で清楚の欠片もないから』
 
ちなみに清楚とは綺麗でさっぱりしたさまのことを言う。広辞苑より。
 
『ちなみに……この文字はテストにも出てこないから、勉強をしたって無駄だぞ。覚えておこうね』
 
「いや。確実にキャラが違うでしょう!っていうか、どこに向かって話しかけているのよ」
 
というか、勉強の前にこれは18禁小説です。
 
「な、何?この意味のないモノローグは……」
 
ちなみにモノローグとは……。
 
「もういいわ!」
 
『さすがにうざかったのね。私のナレーション』
 
「あ、あなたのだったのですか!?と、とにかく、今度の合唱コンクール……さすがに今年は女王の座は渡しませんことよ」
 
『…………き、気合が入っているわね……』
 
実は去年は私がピアノの奏者で最優秀賞をもらったことがある。審査会を開いている間に少しだけ、時間があって、その間にピアノを自由に演奏することができる。
その間に私がピアノを演奏して見事に最優秀賞を獲得したのだ。
 
「覚えておきなさい。今度は私が最優秀賞をもらいに参りますわ」
 
『わかったわ……すぐに忘れちゃうと思うけれど』
 
「お婆ちゃん思考ですの!?」
 
それにしても……ピアノか……長いこと弾いてなかったな。
 
『2』
 
昼休み。私は体育館に来ていた。
音楽室は合唱コンクールで他のクラスが使って忙しいだろうし……やっぱり、演奏をするとしたらここしかない。
誰もいないことを確認して。私は弁当を置いた。
ちなみに今日、翔子はエルーノの世話で忙しいのだそうだ。
 
『本当に久しぶりね。これに触れるのも……』
 
とりあえず、リハビリ程度に軽めの曲でも弾いてみようかしら?
そう思って、私は鍵盤を開ける。
端から端までの鍵盤を叩いてみて、軽めにアヴェ・マリアでも弾いてみた。
私が初めて鍵盤に触れたのは……二百年前のヨーロッパまで遡る。
それから、現代まで悪魔狩りをする以外はこうして鍵盤に触れていた時期でさえもあったのだ。私は言葉では伝えられないけれど、ピアノで通してなら伝えられるのだ。
ピアノの音は正直だ。私が悲しめば悲しみの曲を流して嬉しいときは嬉しい曲を流す。
だから、私はピアノの音が好きだった。言葉は紡げないけれど、ピアノの旋律はいつも私を和ませる。本当はプロにもなりたかったけれど、色々とあってやめたのだ。
その理由の一つは悪魔を狩ることが本来の職業であり、私にとってはそれが全てだったのだ。
私が作曲家になれば、多分、歴史にも残ったのだろうが、それだと当然ながら悪魔狩りができない。
色々考えた末に、私は歴史にも残らない選択をしたのだ。
もう……二度とあのような過ちを犯さないためにも。
でも、暇があればこうやって……ピアノの旋律を奏でるのが私の日課となっていることに私は苦笑した。なんだかんだ言いながらも私はピアノが好きなのだった。
 
『3』
 
麻生唯が仲間と共に昼食を取っている。
本来ならば、栞と言う少女と一緒にとって、色々と話を聞きたかったところではあるが。
栞は今、一人で食事をしているのだろうか。今朝来たとき、翔子の姿が見えなかったので、心配になっていたのだ。
藍子はいつもどおりに振舞っているけれど、本心ではあのときに何が起こったのかを知りたいはずだ。
だが、彼女には言うなとガーディアンから、言われたので仕方なく口を閉ざしているのだ。
藍子は天使だと栞から聞いた。彼女は天界から来た天使で……栞を何故か気にかけているのだ。
 
「どうしたの?麻生君」
 
「そうだぞ。さっきから、全然食べていないぞ」
 
「い、いや。別になんでもないよ」
 
「何か悩み事?」
 
「ううん。そんなんじゃなくて……」
 
言い出そうとしたときに、ふとピアノの旋律が聞こえた。
 
「あ、あれ?」
 
「どうしたの?」
 
「何か聞こえない?」
 
「何って何が?」
 
「ピアノの音が……」
 
「いいえ。聞こえないわ」
 
「そうだぞ。麻生。何を言っているんだ。昼間にピアノの音なんて聞こえるわけがないぞ」
 
「いや。確かに聞こえるよ。この曲は僕でも知っている。アヴェ・マリアだ」
 
そう言うと歩き出した。
 
「お、おい!麻生!」
 
麻生唯の動きに全員がついてくる。
 
「た、体育館から?」
 
「うん。でも、ここから確かに聞こえるよ」
 
「でもよ。そんなのここからでも聞こえないぞ」
 
「うん。向こうも最小限の音に抑えているんだ」
 
「でもさ。ピアノで本当にそんなことができるの?」
 
「自由に音階を変えられるならできるだろうけれど、おそらくは無理ね。超能力者でもない限りは」
 
そういう藍子に麻生唯は苦笑する。その超能力者が目の前に居ることに。
 
「ちょっと覗いてみようぜ」
 
いたずら心がさしたのか、山田竜太がそんなことを言う。
 
「えっ?でも……」
 
難色を示す仲間に対して、山田竜太が言い訳みたいに理由を述べる。
 
「だってよ。こんなところで弾いているということは、よほどに腕に自信がないのか、それとも合唱コンクールの練習で他のクラスが使っているかだろ?そうだったら、偵察にはいいじゃんよ。麻生だって気になったから、様子を見に来たんだろ?」
 
「だからって、覗くことないじゃない。その子が本当は練習をしているだけなのかもしれないし……プライバシーの侵害よ」
 
「でも、少なくとも後者じゃないことだけは確かよ」
 
そういう藍子に全員が注目する。
 
「えっ?」
 
「だって、麻生君はアヴェ・マリアを弾いていると言ったでしょう?それなら、合唱コンクールでクラスが練習をするのってそんな曲じゃないでしょう?」
 
「それもそうだな」
 
「ということは練習をしているのは何が目的だ?」
 
「さあ?でも、多分その合唱コンクールに関係することかもよ」
 
今度は新田このえが言ってきた。
 
「ほら、いつも審査会議が開かれているときにいつも、ピアノを弾いているじゃない。それの練習かもよ」
 
「そうね。その可能性が高いかもね」
 
「だから、練習を見るのはちょっと嫌かな・楽しみが減っちゃうというのもあれだけれど、本当の理由は多分、プライバシーの侵害になるかもだから」
 
その通りだ。その子が本気で練習をしているのであれば、覗くのは野暮ってものだ。
だが、彼女の友人はそれでもあきらめない。
 
「だったら、俺一人でも見に行ってくるぜ!」
 
そう言ってドアに手をかけたとき、中からはっきりと全員の耳に音楽の音色が聞こえてきた。もう終盤近くなのに木霊する音色。その音色ははっきりと美しくて、誰にも真似ができなかった。
 
「なに?これ……」
 
全員が感じたのは罪悪感よりも驚きのほうが大きかった。
 
「俺……音楽って言うのは知らないけど、これだけは分かるぜ。この曲……CDで聴くのとでは全然違うぞ。しかも、いい響きだ…………ん?緞帳が降りてるな。これで聞こえなかったわけだ」
 
山田竜太が完全に開けてその音色に耳を澄ませた。
 
「しかし、よく麻生気がついたなぁ」
 
「い、いや。僕もはっきりと聞こえたわけじゃないんだ」
 
そう。麻生唯は常人よりも圧倒的に耳がいいのだ。そのおかげで他のみんなより素早く音色が聞こえるようになっていた。おそらく、気がつかないほどの音色だったのだろうが。
けれど、それでも聞こえづらかったのは、やはり緞帳が降りていたせいだった。そのおかげでここまで特定されるのに時間がちょっとだけかかった。まあ、それも数十秒程度だったけれど。
 
「おわったか。久々にいい曲を聞かせてもらったぜ。誰かは分からんけどな」
 
そう言って、緞帳から進入しようとする。
 
「だからダメだって」
 
「いいじゃん。どうせ向こうにも聞こえているんだろう?」
 
そう言って舞台裏を覗こうする。
 
「あ、あれ?」
 
だが、そこには誰もいなかった。あるのはぽつんと立っているピアノだけだった。
 
「誰もいないぞ。おかしいな……」
 
「空耳だったのかしら?」
 
「ねえ。ちょっと……!窓が開いているわ」
 
「そうか。俺たちの声に気づいて、窓から逃げたのか」
 
「ええ。そうね。よほど聞かれたくないほどの照れ屋さんなのか。それとも、それほど想い入れのある曲なのか……どちらにしろ……正体がつかめないんじゃ……はっきりとは分からないんじゃ、しょうがないわね。戻りましょう」
 
「……いや、これなら正体は分かるかもよ?」
 
そう言って唯が指したのは……。
 
「あれ?これって楽譜か!?」
 
「うん。すごい手作りだし、古いし……多分、何十年前のものだと思うけれど」
 
「ということは親の遺産ね。それに名前とかは書いてないの?」
 
「ええっと。ごめん。フランス語かイタリア語で書いてあるみたい。だから読めないね」
 
「っていうか、この中でフランス語かイタリア語を読める奴がいるのか?」
 
藍子以外が目を逸らす。どうやら、藍子以外全員が読めないみたいだ。
 
「私なら、読めるわよ」
 
そのとき、藍子が口にする。
 
「じゃあ、読んでくれない?」
 
「いいわよ」
 
そう言って渡そうとするけれど。
 
「おい、麻生。どういうつもりだよ?」
 
「そうだよ。麻生君」
 
「な、何が?」
 
「まさか、本気で竜太に賛同する気なの?」
 
「うん。この楽譜を持ち主に返してあげようかなと思っているだけだよ」
 
「あ。なるほど」
 
「そういうことなら、私たちも手伝おうかしら?」
 
「とかいって、本当は合唱コンクールでは勝てそうもないから今のうちに……ゲフゥっ!」
 
可奈の左回し蹴りが見事に竜太の腹に命中した。あれは痛い。
 
「私たちがそんなことをするわけないでしょう?」
 
「い、いや、可奈ならありえるかも……グベホァ――っ!」
 
続いて、彼女の殺劇コンボが決まる。すごい。どういうコンボかは知らないけれど、あれだけあった彼の体力が見る見るうちに減っていく。
そして、ついにゼロになった。
 
「さて、お邪魔虫を片付けたところで……」
 
「え。ええ……早速読んでみるね」
 
そう言うと、麻生唯が彼女に渡した。
 
「ふふん。なるほど。ドイツ語ね」
 
「あ。ひょっとして、桜木さんはドイツ語も読めたりする?」
 
「当たり前じゃない。でも……これは……ちょっと待って……っ!」
 
彼女の表情が一転して引きつった表情になる。
 
「どういうことなの?これは……」
 
「どうしたの?」
 
「これ。バッハの未発表曲……最後の審判って書いてあるんだけど」
 
「えっ?」
 
「まさか!」
 
「バッハって言ったら、あの有名な作曲者だよね?」
 
「ええ。宮廷楽長や音楽監督などを任じていたあのバッハで間違いないと思うわ」
 
「でも、そんな人の楽譜が何でこんなところにあるんだろう?まさか、偽者とか?」
 
「それはないわね。見たところによると譜面も古いし、おそらく、二百年前のものだと推測できるわ。つまり、これは本物のバッハの譜面よ。どうしてこんなところにあるのかは知らないけれど」
 
「でも、ここにあったということはさっき弾いていた人の物だよね?」
 
「……そうですね。見たところによると埃もあまり付着していませんし、譜面自体は古いものですけれど、状態がしっかりしていますので、ついさっき落ちたばかりのものかと思います」
 
「麻生君。どうかしたの?さっきから、上ばかり見ているけれど」
 
「いや、ネズミかな?さっきから、こっちを窺うような音がしたから」
 
「音?」
 
「いや、音がしたというだけで……空耳なのかも」
 
クラスでまだ、ばれるわけには行かないのだ。
 
「そんな音しないぞ」
 
試しに竜太が耳を澄ましてみても何も聞こえない。
 
「多分、麻生君には不可視の音域って言うのがあるんだろうね」
 
「不可視の音域?」
 
「そうよ。その人には聞こえない音でも聞き分けることができる。絶対音感の類に近いかもね。だからこそ、ここの音にも気づいたのよ」
 
「絶対音感なら、私も聞いたことがあります。音がドレミになって聞こえてくるあれでしょう?」
 
麻生唯は考えていた。もしも、これが人間の手によるものならば、不審な点が多すぎる。その中でも最大の謎があの楽譜だった。
もしも、あの楽譜が故意に落としたのならば、説明がつくけれど。普通に考えて故意に落とすとは考えられない。
しかし、ここで考えても埒が明かない。麻生唯は外に出ることにしたのだった。
 
『4』
 
あ、危なかった。あそこで、心臓がどれほど止まりそうだったことか。
まさか、麻生唯がここまでくるとは思わなかった。
別に聞かれても、どうと言うことはないのだが、その隣には藍子が居たのだ。
あの子にはまだ、私の存在を知らされるわけにもいかない。それは……たとえ、バッハの楽譜を失うとしてでもだ。
私が逃げ込んだのは天井の裏だった。咳込みながらも、私はただ一人……万物のライトと化していた。私は誰も居ないことを確認して、綺麗に着地した。
やはり、ここに長く留まるのは限界があるか。かと言って、音楽室もアウトだし……。
ぶっつけ本番で頑張るしかないのだ。今の私なら、何でも弾けるかもしれない。
 
『戻るか』
 
そう言って、私が戻り始めたのだった。
 
そして、放課後。合唱コンクールのパート練習のときに私は休んだ。理由は適当につけておいた。本当の理由は合唱コンクールの練習はしたくないからである。
私は歌うことはおろか、口に出して言うこともできないのだ。
いや、できないのではなく、やらないだけなのだが。
それに……彼女たちも待っているはずだった。私は早足で帰ろうと校門をくぐったとき。
 
「栞ちゃん」
 
『……っ!』
 
不意をつかれたのでびっくりして、後ずさる。よく見ると、藍子だった。
 
「どうしたの?」
 
『い、いや……別に……何か用?』
 
「いいえ。一緒に帰ろうと思って……いいかしら?」
 
『ええ。構いませんけれど』
 
そう言って、私たちは歩き出した。しばらく、歩き出しているうちに……少し、思ったことを口にしてみる。
それは彼女の真意が知りたかったことだ。
 
『あなたは人間界に何の用で来たの?』
 
「……それをあなたに話す必要はありませんね」
 
『じゃあ、私も自分のことをあなたに話す必要はないわね』
 
「あ……怒りました?」
 
『知ってていったのでしょう?』
 
「もちろんです」
 
『ところであなた……練習は?サボりですか?』
 
「練習?ああ、合唱コンクールのですか?……暇ができたので抜けてきたのです」
 
しばらく舗装されている道路を歩く。今度は彼女が聞いてきた。
 
「あの人は……どうしていますか?」
 
『エルーノのこと?』
 
「はい……」
 
ちょっと、心配そうに言った。
 
『それを聞きたくて、わざわざ帰り道を同じにしたのね。熱心なお人ね。これは正直に答えてあげるけれど、もう羽根は真っ白にしてあげたし、堕天使でもない。でも、どうしてかしら?彼女たちは天界に帰りたがらないのよ』
 
「そ、それは……!」
 
『多分、推測だけれど、天界には制度……というか法律があるのだと思う。あなた達は階級制度というものを行っているけれど、それと似たようなものね。その中には堕天使になったときの法律も定められている』
 
「そこまで分かっているのなら……何故!?」
 
『何故、殺さないかって?それは人間だからじゃないかしら?』
 
「えっ?」
 
図星を指された上にそれに対しての答えに満足がいかないような顔だった。
 
『天使と人間の違いってなんだと思う?』
 
私は振り返って腰に手を当てて彼女に問う。
 
「そんなの……色々とありますよ」
 
天使は人間を超越したのものだ。羽根があるのとないのとか。種族の違いとか。色々あるのだろう。
 
『そうね。多分、そういうのをひっくるめると、化け物とそうでないかの違いに分けられるわ』
 
「それが何だと言うのですか?」
 
『あなた達は化け物だから、人の命を軽んじすぎている』
 
「そ、そんなことはありません!」
 
彼女は真っ向になって否定したけれど、私は首を傾げて手を組みながら言う。
 
『そうかしら?例えば、あなたにとって大切な人とこの世界……どちらを選ぶかと言われたら、間違いなくあなたは世界を選ぶと思うわ』
 
「そ、それは度合いが違い過ぎます!」
 
『そうね。私もそうだったから兄を殺した。だから、本質的にはあなた達に似ているかもね。でも、私は人間を殺さない』
 
それだけは絶対に不可侵の条約みたいに決められていることだった。
 
「……それはあなたが化け物と呼んでいる天使でも……ですか?」
 
『ええ。そうよ』
 
しばらく、私たちは黙ったままだった。
 
『このこと……上に報告するつもり?』
 
唐突に私が聞いた。
 
「言えば……彼女が黙っていないでしょうね」
 
それは翔子のことを言っているのだろう。
 
『別に言ったっていいわよ』
 
「えっ?」
 
『彼女が言ったのは多分、私に危険を及ばせないためにあなたに脅しをかけたつもりでしょうけれど。私は逆よ。私は悪魔以外には寛大なのよ』
 
「ど、どうして?」
 
『いつでもいらして……歓迎するわよ』
 
そう言うと、私は再び歩き出した。彼女は茫然自失して、その場に立っているだけだった。
多分、これで彼女が報告すれば、多分、私は天界の人達と直接交渉に乗り出すことになるだろう。別に報告をしなくてもいいけれど。それだと今までどおりに行うことができるのだ。全ては彼女任せだった。
 
『(多分、一部には情報が流れ出るくらいにはなるかもね)』
 
私は常に人を信じ続けている。いや、信じなければならないときもある。
時に疑ったりもするけれど。だからこそ、私は私自身を信じているのだ。
私の友達は決して、仲間を売ったりはしないということを……。
たとえ、そういうことがあっても、それは彼女の意思ではないことを私は信じている。
だからこそ、私は天界を相手に戦えるんだってことを。
 
『5』
 
『ただいま』
 
私が口からの発声もしない流れの声を発すると。急にエルーノが来た。
 
「お帰りなさいませ」
 
『翔子は?』
 
「……が、外出中です」
 
『……そう。エルーノ……』
 
「なんでしょう?」
 
『ちょっと、こっちに来なさい』
 
「……はい」
 
そう言うと、彼女は私の後についてくる。
 
『あなたに一つだけ聞きたいことがあるの』
 
「な、なんでしょう?」
 
『あなたは私の元についてくる気はあるの?』
 
「は、はい!もちろんです」
 
『じゃあ、私の命令は?』
 
「絶対に守ります」
 
『じゃあ、あなたに一つだけ翔子にも言ったことを言うわね。これだけは守って欲しいことを』
 
「なんでしょう?」
 
『二度と人間は殺さないで。天使も同じよ。これだけを守れるのなら、私があなたを守ると誓うわ』
 
「えっ?たったそれだけですか?」
 
『それだけよ。守れる自身はある?』
 
「は、はい!」
 
『じゃあ、もしも、私が道を外したときは止めてくれる?』
 
「勿論です。私が優しく諭してあげます」
 
『じゃあ、戦いになったらどうするの?』
 
「そ、それは……そのときは栞様を全力で止めて見せます!」
 
彼女は一瞬言いよどんでから、はっきりと口にした。
 
『じゃあ、私が死んでも、これだけは守ってね。絶対に人は殺さないと』
 
「……はい」
 
エルーノがそう言うと、私は小指を出した。古い方法だけれど、確実な方法だった。
彼女も小指を出した。
私はそれを絡ませながら、彼女の平和を願った。
彼女は今まで堕天使だった。けれど、これからは立派に天使として生きてて欲しい。それだけが私の願いだったのだ。そして、自由に生きて欲しい。天界にも何者にも縛られず、私のように自由に生きて欲しいのだ。
それが私にとっての最大の望みだった。
 
『まあ、私の大まかなことは翔子から聞いたと思うけれど』
 
「はい。栞様は……その……ガーディアンなんですよね?」
 
『廃棄ナンバーだけれどね』
 
「それでも、私は感謝をしています。堕天使になった私を救ってくれたのはあなたなのですから。だから、私は誠心誠意……あなたに従事したいと思います。残りの全ての人生をかけてでも」
 
『……馬鹿ね。こんな私のために命をかけることないじゃない』
 
「あっ!一言多かったですね」
 
『そうよ。それにね……あなた達を見ていると、昔の私を思い出しちゃうのよ』
 
「昔の栞様……ですか?」
 
『話は変わるけれど、あなた……面白い能力を持っているわね』
 
「えっと。私の天使の力……ですか?」
 
『そうよ。あなたは私が最も手に入れたかったものを持っているわ』
 
「そう言われて恐縮ですけれど、でも……こんな力……とても役に立てるかどうか」
 
『いいえ。あなたはもっと自分を誇るべき。そうね。ちょっと面白い実験をしましょうか』
 
私の驚くべき提案と言うか実験に彼女は眼を丸くする。
 
「ええーっ!?そ、それを私がしてもいいのでしょうか?」
 
『嫌なの?』
 
「い、いいえ。別に構いませんけれど。その……あう…………」
 
彼女は明かに赤面している。私が出した提案はそれほどまでに赤面をしてしまうものなのだろうか。
まあ、いいけれど。
 
『とにかく始めましょう。何を始めればいいのか教えてくれる?』
 
「は、はい。じゃあ、まずは……」
 
そう言うと、彼女はテキパキと指示をしてくれる。私はそれに対して習うだけでよかった。
 
『6』
 
「ただいま」
 
「お帰りなさい」
 
『お帰り』
 
私が帰ると、栞様とエルーノが出迎えてくれた。
 
「栞様。帰っていらしたのですか」
 
『ええ。勿論です』
 
すると、栞様は微笑を見せてくれた。
でも、その微笑が何故か少しだけ、ぎこちなかった。
私はためらわず、聞いてみる。
 
「栞様……」
 
『なんですか?』
 
「いえ。その……何か悩み事でもあるのですか?」
 
『いいえ。何でも……ないわ』
 
「翔子様。栞様も悩みの一つや二つくらいありますよ」
 
「ああ。そうですね。それは失礼しました」
 
それを彼女に指摘されると、なんかムカつくわね。
しかし、自業自得なので私はため息を着いたきり黙ってしまう。
そのとき、栞様とエルーノが何か耳打ちをしているのに私は気づいた。残念ながら、その内容までは分からないけれど。
私が「何?」と聞くと彼女たちは「なんでもないです」といった。
こういうときは誕生日とか、そういうのだったと思うけれど、私の誕生日はまだまだ先なので、多分、それじゃないと思うけれど。
 
「栞様?」
 
『ひゃ、ひゃい!?』
 
「なんて声を出しているんですか?」
 
『い、いや。べ、別に……何か用?』
 
「…………?」
 
何かがおかしい。どこがとか、何がとはいえないけれど。
私は少し考えてみる。
まさか……。と思い、聞いてみる。
 
「栞様。今日の夕飯って何だっけ?」
 
『今日はベーコンと大蒜炒めです。はっ!』
 
どうやら、地雷を踏んでくれたらしい。やっぱりか!
 
「やっぱり、あなた……!エルーノでしょう!!」
 
そう言って、エルーノの姿をした栞様を見る。
 
『あわわわ。し、栞様〜』
 
「うん。思っていたよりも早いわね。さすがは私の事を知り尽くしているだけはあるわ」
 
しかし、エルーノの姿をした栞様はどことなく吹く風だ。
 
「栞様。どうして、こんなお戯れを?」
 
「いいえ。ちょっと彼女の身体を試してみたかっただけよ」
 
「試してみたかったって……まさか!栞様……彼女と身体を交換したのですか?」
 
「ええ。魂の入れ替えよ。当分の間、私は彼女……彼女は私になるわ」
 
「どうして、こんなことを?」
 
「理由は色々あるけれど。まず一つ目は気分転換ね」
 
「き、気分転換ですか?」
 
「そうよ。彼女の身体って……胸が大きいし……私にとっては理想の身体よね」
 
『そ、そんなことはないと思いますけれど……』
 
「……二つ目の理由は私の個人的な事情よ」
 
急に栞様が真剣な目をした……というか、エルーノの雰囲気ががらりと変わったといったほうが正しいか。
 
「近々、合唱コンクールがあるでしょう?それに彼女を出してみようかと思っているの。私ってピアノはできるけれど、合唱はちょっと苦手なの。そういった意味では彼女の力は素晴らしく偉大だわ」
 
うわ〜。そこまで消極的な意見の栞様……初めて聞いた。
でも、それなら、合唱コンクールに出ればいいのに。
 
「栞様は何故、そうまでして合唱コンクールに出たくないのですか?」
 
「その辺はおいおい説明することになるわね」
 
というか、説明が面倒くさいだけなのでは?という言葉をぐっと飲み込んだ。
 
『栞様……』
 
「何?エルーノ?」
 
『私はいつになったら元の姿に戻れるんですか?』
 
「何よ。最初はノリノリだったじゃない。っていうか、あなた普通に喋れるでしょう?」
 
「はっ!そう言えばそうでした」
 
何故か、声は栞様にそっくりなエルーノ。そして、声はエルーノにそっくりな栞様。
 
「まさか、声も栞様に?」
 
「何を言っているのですか?
 
羨ましい。栞様の美貌に飽き足らず、声まで奪うとは。恐ろしい能力ね。彼女の能力。
 
「そうそう。学校でも明るく振舞うのよ」
 
「ええっと。私が……学校に?」
 
「そうよ。学校に行くのが信じられない?」
 
「ええ。夢のようです。ありがとうございます」
 
……やっぱり、この子も普通の学校に行きたかったのね。
天使という仕事は過酷だ。生半可な気持ちでいると命だって落とすこともある。
私も栞様に出会うまでは堕天使になっていた。もしも、栞様に会わなかったら、一生……学校には行けなかっただろう。
藍子みたいな天使は特別だ。もちろん、力はそんなにも強くはないけれど、彼女は生まれながらにして天使の力を持っていたのだ。
そういう場合はあらかじめ天界機関に通達があってしかるべきところに移されるのだが、藍子の父親がそれを拒否したのだ。自分の娘に何をすると。
でも、それを幼い藍子は父親の反対を押し切って、天界の門を潜り抜けた。
 
「へ〜。そんなことがあったんですか。藍子も大変ですね」
 
「えっ?」
 
「というか、そんなこと言ったら私も大変よ。来る日も来る日も悪魔との対決をしているんだもの……心の休まる場がないというか。毎日毎日、悪魔狩りをしていると、もうすでに感覚がおかしくなってくるのよ。もう地獄と化すわよ」
 
「まさか……聞かれてたんですか?」
 
「そのまさかよ」
 
まあ、栞様がそういう能力の持ち主だってことは分かっていたけれど。
 
「栞様。私のプライバシーまで覗かないでください!」
 
「いいじゃない。私の処女を奪った罰よ」
 
「えっ!?」
 
エルーノの姿をした栞様を見た。無表情だけれど、かなり怒ってらっしゃる?
『流れ』を司る栞様は性的な部分では、かなりのSに入るため『有』を司る栞様と違って容赦がない。
 
「まさか。まだ……根に持ってらっしゃるので?」
 
「いいえ。でも、責任は取ってもらうわよ」
 
「ひっ!」
 
やっぱり、怒っていらっしゃいました。
 
「ちなみに性感帯は全て彼女にそのまま移行されることも私が代わりに受けることもできるからね。このまま……あなたを犯してもいいけれど、それだと責任は取ってもらえないから……あなたに気持ちよさを伝えつつ、あなたには罰を受けてもらいます」
 
うっ……一体どんなことをさせられるのだろう。栞様のことだから、アナルを攻められるのだろうか。それとも一日中永遠と犯され続けるのだろうか。
どちらにしろ……かなり長い夜になりそうだった。
 
「じゃあ、とりあえず。エルーノ」
 
「は、はい!」
 
どうやら、エルーノも呼ばれることはないのだと思っていたのだろう。彼女もびっくりして、栞様を見た。
そして、栞様に近づく。
 
「な、何でしょう?」
 
彼女がおずおずと訊ねる。やはり、彼女も栞様のおしおきは怖いらしい。
 
「あなたの能力を使って……私をイカせてちょうだい」
 
「えっ?」
 
私がこのとき、初めて罰を思い知らされることになる。
栞様の罰は過酷なんだってことを。そして、もう二度と栞様の許可なしに栞様の処女を奪うなんてことはしないとこのとき決めたのだった。
 
『7』
 
「ほ、本当に能力を使って、栞様を犯してもいいのですね」
 
彼女の能力とはすなわち、私の能力と同義のものだ。
私もこのシチュエーションは初めてだったので心が躍るどころではない。
しかも、翔子の見ている前で堂々とできるのだから私の興奮は群を抜いて高くなっていた。
 
「ええ。構わないわ。どうせ、あなたの身体だしね……」
 
「それは、性感帯は私に移行すると?」
 
「いいえ。私でも構わないわ。私も自分の身を受けて知りたいの」
 
初めてだった。自分の能力で自分が犯されるのは……。
彼女たちのその身を自分で味わってみようと思ったのは昨日のこと。
翔子を犯してから、その後にエルーノを犯した日のことだった。その日……私は二人に聞いたことがある。
私があなた達を犯して、私の下僕になってもいいのかどうかを。
そうしたら、二人とも……喜んで。と言う声が聞こえてきたのだ。
どうやら、私のSEXは彼女たちの性格まで変異させるらしい。
だから、自分もその身を味わえば、『有』を司る私みたいになるのかなと思ったのだ。これは私が彼女たちを請け負う責任であり、義務でもあるのだから。
言い方は古いけれど、オトシマエみたいなものだ。だからこれは私自身の罰でもあるのだ。彼女たちを犯したという罪悪感から逃れるための。
そしてそれは、激しく不快だけれど、その身は自分で味わうしかないのだ。
 
「栞様……失礼します」
 
「ええ。やり方はあなたにお願いするわ。私をリードしてちょうだいね」
 
「は、はい……じゃあ、まずは……キスしてください」
 
「ええ。いいわよ……んぅ……ちゅ……」
 
私は彼女に優しくキスをした。しかし、それだけなのに……何故か、私の性感帯が激しく刺激された。
 
「う……ううん……っ!」
 
彼女にはあらかじめに私に関する能力を全て話した。しかし、話を聞いただけでここまで使いこなせるとは思っていなかった。
まるで、焼き焦がすような……それでいて、甘くて蕩けるような……甘美な刺激。これはさすがに彼女たちも折れる。
 
「栞様……失礼します」
 
彼女が私の胸を揉む。彼女の胸だけれど……でも、その刺激は私に伝わってくる。
私は必死に嬌声を押し殺す。けれど、彼女が私の胸を揉むたびに……服越しなのに……その快感が脳に直接、私に伝わってくる。
彼女が私の服を脱がし始めた。
 
「あっ……!」
 
私は為すがされるままだった。私は彼女に任せると言ったのだから、それは当然なのだけれど、これは罰なのだ。私が耐えるしかないのだ。けれど、耐えれば耐えるほど……私の中の快感は増すばかりだった。
 
「なんか、自分の服を脱がすのって……妙な感じですね」
 
「私は恥ずかしいわ」
 
そう言うと顔に赤みが差す。これは本当のことだ。いくら彼女の身体とはいえ、自分のしている行為は恥ずかしいのだ。
それを見せたくなくて、私はそっぽを向く。
すると、彼女は直接……私の胸を触った。
 
「ああっ!」
 
彼女が私の胸を揉むたびに私が乱れる。必死に耐えるけれど、それにも反して声を上げるのは止められなかった。
 
「自分の胸を揉むってなんか……変な感じです。栞様も私の胸を触ってください」
 
「ええ……」
 
私は彼女の胸を揉みながら、舌で転がし始めた。
 
「キャ……!そんな……いきなり…………ああっ!」
 
私はあそこで濡れているのを感じた。
私……感じている?
私は今まで……感じたことは一度もない。
それは性というものを経験したことがあっても、濡れるほどに感じているわけではない。
でも、こんなにも下着を濡れるほど感じたことは一度もなかった。
 
「キャッ……そこはダメェ……」
 
「ほらほら。私をリードしなさいよ」
 
「でも……」
 
「全くもう……結局は私がしないとダメね。いい?相手に何かをさせようとするには自分から向かわなくちゃダメなのよ。ほら。まずは私に向かって命令してみなさい」
 
「えっ?そ、そんなぁ……」
 
「私とあなたは対等じゃないわけ?私とあなたはとの関係は奴隷とご主人様の関係で終わるわけ?そんな関係でいいわけなの?」
 
「それは……っ!」
 
すると、私が決定的なことを言った。
 
「私を征服感で味わって……私をあなたの奴隷だと思って。無茶苦茶にしてもいいのよ」
 
彼女が俯いて、しばらくすると、私の能力で自分に肉棒を出した。
 
「本当にいいのですね?」
 
「ええ。いいわよ」
 
「それじゃあ、栞様……いいえ。栞っ!私の肉棒をお舐めなさい」
 
「……仰せのままに……」
 
そう言うと私は彼女の肉棒をちろちろと舐め始める。彼女の肉棒を口に含んだりしながら、手でシコシコと揺する。
すると、彼女が私のあそこに向かって手を伸ばす。
 
「栞……濡れているわよ」
 
「ええ。あなたが私の胸を触っている間に濡れちゃったわ。私も感じている証拠ね」
 
「それで……?どうして欲しいの?」
 
「それを私にいわせる気なのね」
 
別に構わないけれど、それにしても彼女の変わりようはなんなのだろう。やけになったとも思えないし。
まさか、今頃になってSに目覚めたのかしら?
 
「出すわよ!そのまま飲みなさい!」
 
私が口の中に含んでいるときに彼女が射精した。自分自身の精液の味はとても苦かった。
 
「ゲホッ!ゲホッ!……本当に口の中に出すのね……思わず吐き出しそうになったわ」
 
「でも、全部飲んだのでしょう」
 
「勿論よ」
 
「味はどうだった?美味しかった?」
 
「ええ。美味しかったわよ。あなたが変えた後には……」
 
「……やっぱり、私ではダメなんですね」
 
「いいえ。あなたのするSEXはとても気持ちがいいわ」
 
「いいえ。私……栞様を完全に征服できませんでした」
 
「別に……完全に征服することが目的じゃないからね」
 
「えっ?」
 
「レズって……征服じゃないと思うのよ。思うに……二人が楽しければそれはそれでいいのだと思うわ。だって、それが快楽に繋がるのなら、それはそれでいいじゃない。そう思うわよね?翔子……」
 
「は、はい……」
 
「じゃあ、今度は逆の立場になって見ましょうか?翔子……」
 
すっかり上から目線で私が証拠を見る。なんか知らないけれど、翔子の怯え方が尋常じゃないほどに震えている。
 
「ちょ……待ってください。なんか……栞様……目が据わっていますよ」
 
「エルーノ……翔子ちゃんを犯しなさい。私の力を全て使ってもいいわよ」
 
「あ、あの……私は栞様に犯してもらいたいのであって……」
 
「あら?今回はあなたの罰よ。ゆっくりと楽しみなさい」
 
「そ、そんなぁ……私は栞様の命令に従っただけなのに……」
 
目で助けてください。と懇願してくるが、私には通用しないことは分かっている。私は厳しいのだ。
 
「え、エルーノは分かってくれるわよね?」
 
そう言って今度はエルーノに許しを請うが……。
 
「すみません。私……栞様には絶対服従なんですよね?」
 
「そういうわけで……堪忍なさい」
 
「そ、そんなぁ……」
 
私はそっと扉を閉めた。彼女の悲鳴めいたものが聞こえるけれど、気にしないことにした。
 
『8』
 
次の日……私は学校に行くこととなった。
まあ、栞様が束縛しない限り、休んでも良いと言うような人だから。
それから、みどり様には事前に携帯電話で連絡を取っていたので知っているらしい。
しかし、昨夜は酷かった。
思い出すだけでも、怖い。栞様のおしおきが……もう二度と、栞様には逆らいたくない。
前回はあれでよかったと思うべきか、それとも、栞様の恐怖に怯えることになるのか。
いや、あれでよかったと思うべきだ。うん。そうでないと……今度はあれだけで済まされないかもしれない。
ブルブルと震えるのをこらえて、私はドアを開けた。
 
「それにしても、栞様って素敵な方ですよね」
 
「そうね。私は昨日は最悪だったけれど」
 
「やっぱり、私ではダメなんですね」
 
「ええ。そうよ。あなたなんて大ッ嫌いよ」
 
「……昔の私だったら、嫌いだと言うところだけど……」
 
私は栞様の格好をした彼女を見た。
 
「私はあなたの事は大好きですよ」
 
彼女が満面の笑顔で私に語りかけてくれた。
ああ。そうか。なんかもやもやしたと思ったら、彼女が栞様のことを好きになってしまうのではないかと思ったから、だから、彼女に嫉妬していたのだ。
でも、今の彼女は栞様だ。
だから、私は栞様を愛せるのだ。なんてことはない。彼女に犯されたのだって、栞様に犯されたのだと思えば。
そう思うと私の中のもやもやがなくなっていく。
 
「さあ。行きましょう」
 
「ええ」
 
私たちは背の高い門を潜り抜けていく。
 
「ああ、そう言えば、今日は部活のある日だわ」
 
「ええっと。栞様が言っていた……麻雀部でしたっけ?」
 
「そうよ。あなたは何が得意な打ち方だったっけ?」
 
「というか、私……麻雀なんて打てませんよ!」
 
「あらら?そうなの……まあいいか。栞様がそのうち来るだろうし」
 
「えっ?」
 
『9』
 
「全く。『有』を司る私も困ったものね」
 
勝手に麻雀部なんてものに入って、勝手に私の処女を奪わせるんだもん。
これはかなり酷いのではなかろうか。
まあ、私も彼女に入れ替わったのは悪いと思っているけれど。
私が今いるところは銀座の商店街だ。ここは人が多いから、悪魔に出会ってもすぐに見つけることができる。
 
「うわ〜。さすがに力が強い人達がごろごろ居るわね。特に右から二番目。後ろから六番目のあの男……相当な力を持っているわね」
 
私はメモっていく。力が強い奴に関しては、今の私では勝ち目はない。
しかし、『流れ』を元の私から、50%引き出すことさえできれば、それも可能だった。
奴がどれほどの戦力を持っているかも分からない。
だからこそ、私は調べているのだ。確実に勝つために。
 
「さて、そろそろ……放課後かな?」
 
私はメモ帳をかばんの中にしまい、誰にも見つからずに羽根を広げて飛んだ。
 
『10』
 
「そういえば、どうして栞様は言葉を言うことをやらないのでしょう?」
 
普通のコミュニケーションを取れれば問題はないのだけれど、何かわけがありそうなのだ。それでも、エルーノが言う。
 
「私も理由は分からないわよ。でも、多分栞様にとってそれは大事なことじゃないと思うわ」
 
「えっ?」
 
「訊きたければ自分で訊けばいいわ。多分、栞様は答えてくれるでしょうけれど」
 
「えっと。それはつまり」
 
「私は知らないけれど、ある程度予想はついてるわ。じゃあ、私は先に部室に行くから、栞様に伝えておいてくれるかしら。早く来てくださいと」
 
「は、はあ……分かりました。お気をつけて……」
 
そう言うと、私は彼女と別れた。
 
『11』
 
「あ……栞様……」
 
「エルーノ……変わりましょうか」
 
「はい」
 
突然、私たちの間で光りだして、魔法陣というものが展開される。何を書いてあるのかは分からないけれど、文字が光りだしていた。
しばらくして、私は元の身体に戻っていた。
私は何もしてはいない。全て彼女に任せてあるのだ。
 
『あ〜。やっぱり、あなたとの魂の入れ替えは肩が非常に凝るわね』
 
「それに能力が制限されますから、多様は禁物かと」
 
『分かっているけれど。あなたの巨乳を見ていたら……なんとなくね』
 
「…………」
 
あら?なんか、私をジーッと見られてるわね。
 
『なに?』
 
「あっ!いえ。栞様が答えてくれなければそれでいいのですけれど……その……」
 
『難しい質問?』
 
「あ……いえ。栞様はどうして、喋らないのかなぁ……って」
 
『……別にたいした理由じゃないけれど。それでも知りたい?』
 
「ええっと。やっぱりいいです」
 
『そう……じゃあ。行ってくるわね』
 
「はい……」
 
『ああ。それと……』
 
「えっ?」
 
そのとき、私は……息を吸って吐くと同時に声を出した。
 
「ありがとう……」
 
初めてだった。翔子のときも二人きりだったのに……こんな気持ちになったのは。
ずっと長い間……喋ることを知らない私でもはっきりと発声できたのだ。しかも、それを……気持ちいいと感じさせてくれたのは。
 
「栞様……今……はっきりと」
 
『ええ。そうね。この通り、私はいつでも喋れることができるけれど。あえてそうしなかったのには……わけがあるの』
 
「…………」
 
『もちろん……喋るのが苦手と言うのもあるけれど。でも、それにつれて……喋るのが……人を傷つける要因になってしまうからかな?』
 
「えっ?」
 
『私は……昔、それで人を自殺にまで追い込んだことがあるのよ……私はガーディアンのみんなが持っている力を持っているでしょう?つまり、それと同じで……麻生唯と同じような力を持っているのよ』
 
「まさか……」
 
麻生唯の力は音……そして『言霊』という能力を持っている。
 
『そうよ。私が声を発すると世界が変わってしまう恐れがあるからよ』
 
例えば、流行語なんてものがある。あれも一種の『流れ』だけれど、それを流行語としてしまう恐れもあるのだ。私が声を発すると、「地盤沈下が起こる」とか言ってしまうと、その通りに起こってしまうことだってあるのだ。
だから、私にとって言葉は畏怖となってしまったのだ。
私はある人に『死ね』と言えば。その人は自殺する。
それだけ、私の言葉の力は大きいのだ。
だからこそ、私は言葉を封印しているのだ。
 
『別にたいした理由じゃないから、黙っておこうと思ったけれど。それに『流れ』と気づいてピンと来る人もいるくらいだからね。だから、今まで訊かれることはなかったけれど。それにしても、あなたが訊いてくるとは思わなかったわ』
 
「じゃあ、私に言葉を発したのは?」
 
『ああ、あれは感謝に気持ちよ。あなたには……随分とお世話になっているからね』
 
「そうだったのですか……」
 
『まあ、彼女の場合は……いわなくても分かってる人だから』
 
それは翔子のことに他ならない。彼女はそういうのを工面して私と接してくれている。
 
『じゃあ、私は行くから……』
 
そう言うと、私はいった。
さて、今日も嶺上開花で上がるとしますか。
そう思って、ドアを開けた。
 
「あら?」
 
私が第一に発声した声がそれだった。
 
「栞ちゃん」
 
翔子の顔を見る。何故か複雑な表情をしていた。
 
「どうかしたの?」
 
「いえ……実は……」
 
「ああ。これで全員揃ったわね。今から、秋季大会のオーダーを決めるために各自で麻雀を打ってもらいます。その前に……大会の日程について説明するわ。これはプリントをコピーしたものだから」
 
そう言って、部長が全員にA4用紙の束を何枚か配った。その角にはホッチキスで止めてある。
そこには大会日程表とか、そのルールについての詳細なデータがあった。
 
『あら?面白そうじゃない……あれ?』
 
その日程が何かと重なっていた。
 
「そうですよ。部長……これ!合唱コンクールと重なってますよ」
 
「ああ。そうね。そういう場合は優先的にこっちという風に決めてあるから。それに合唱コンクールは午後からですよ。私たちは午前中に戦って……午後に歌って。その次の日が決勝だから、充分に間に合うわ」
 
『それにいざとなったら、飛べるしね』
 
「うっ……」
 
私は更に視線をA4用紙に移す。
決勝のうち、勝ち残った一校が都大会に出場できる。決勝以外は半荘一回で、持ち点は十万点……半荘が一回終わるたびに、二人目、三人目といって最後に得点が多かったチームの勝利だ。中々、難しいけれど、面白い。
それにトビ終了もあるしね。
 
「何これ?ありえないんですけれど」
 
「……ああ。今年の春季、夏の都大会優勝者の柊宇津穂か……彼女の打つ麻雀のほとんどが……ありえないのよ……そうね。ちょうど小松さんほどにね」
 
何これ?と私も思った。彼女の手配を見る限りでは、完全なウーシャンテン。それも聴牌したときはほぼ地獄単騎待ちにしかならない。それでも、彼女が上がっている。
 
「ええ!?こっちはトイツを落としているし……ありえないわ」
 
翔子がすごい驚いている。
 
「ああ、そっちの牌譜は去年の全中のデータよ。当時一年生の柊宇津穂よ」
 
しかも、トイツ落としで四暗刻を上がっているし……。
 
「……ちなみに、その柊宇津穂を破ったといわれる一年生もいることをお忘れなく」
 
「ええ?だ、誰ですか?」
 
「それこそが去年の全中覇者……建前恋よ」
 
「あった。ありました。これです!」
 
「……な、何これ?」
 
翔子が言うのも無理がなかった。
大三元を落として……上がっている。しかも次局で天和を上がらずに平和とタンヤオ三色で上がっているし。
 
「天和って役満でしょう?なんで、上がらないのよ?」
 
『いや。リーチ一発平和タンヤオ三色ドラ4の時点で親の三倍は確定している。裏倍で数え役満ですね』
 
私は口パクで流れに乗せて言う。最近はこういうのもできるようになっていたのだ。
 
「小松さんなら倒す?」
 
『……倒しませんね。倒せば、自動的に私たちの勝ちになりますから』
 
「なら、どうして倒さなかったのも理解できる?」
 
『理解できますけれど、理解したくはありませんね』
 
しかし、このロン上がり……私なら、平和三色タンヤオを捨てて三暗刻を狙う。
いや、向こうが上がり牌を止めていたら、なんて考えると、やはり、役満上がりがベストだ。この捨て牌もキモいし。
だが、彼女は役満では上がらなかった。私なら、理由をいくつか証明できるけれど。
 
「さ。みんなは卓に戻って。今から、半荘一回だけの特別ルール。赤は四枚で……二人一組で対戦してもらうわ。全員でチームを組んで……私は一人だけでやるけれど、余った人がいれば……言って頂戴」
 
私は勿論、翔子を選んだ。他のみんなもそれぞれチームで囲む。
 
「じゃあ、チームに分かれたわね。これから、半荘戦の50000点持ちでウマやオカはなし」
 
「50000点って……」
 
「多いですね」
 
「それじゃあ、始めましょうか」
 
そして、始まった。
 
「栞ちゃん。頑張って」
 
『ええ』
 
……とりあえず、集中しよう。今は……。
 
「来たわっ!親リーチ!」
 
彼女は即リーチした。
 
「さて。どうするかな?」
 
しかし、彼は現物で処理した。降りる気満々だね。
私は考える。ここはやはり、これで上がるしかないね。
 
『カン……』
 
「えっ?」
 
私は嶺上牌を取る。
 
『ツモ……嶺上開花……3300・6300です』
 
「なっ!」
 
『…………』
 
私は黙りながら、その点棒を取る。
あらあら?私の捨て牌から想像できないってことか。
でも、ありえないから、麻雀は面白いのよね。
そして、次の局……カンザイは揃ったけれど、まだイーシャンテン。すると、彼女が私の当たり牌を捨ててくれた。ちょっとだけ、踊ってみようかな?
 
「ポン……」
 
これはどうかしらね。誰かがチャンカンで上がれるかしら?
まあ、上がられても困るから……私は別の牌で上がるけれどね。
そして、三巡目になってきた。
 
『カン……』
 
「なっ!」
 
「そっちでカン!?」
 
『ツモ……嶺上開花……三暗刻……トイトイ……3000・6000』
 
「あ、甘かったわ。チャンカンを狙おうと思ったのに……」
 
「やっぱり、すごいわね。この子……」
 
「何を言っている?偶然に過ぎないじゃないか」
 
『でも、二度も嶺上開花で上がると、さすがに偶然とは言いたいけれど』
 
「……けれど。なんだ?」
 
『三度目はどうかしらね?』
 
「なっ!」
 
『今までは子で良かった人もいるけれど。次は私が親よ』
 
さあて。誰が早くに気づくかな?私の嶺上開花を止める方法を知るのは。結構簡単だと思うけれど。
そして、次局。私も彼女に習って、四暗刻で上がってみようかな?
 
「なっ!トイツ落としだと?」
 
そう。私はトイツを落としながら、役満である四暗刻を狙おうというのだ。
 
『リーチ!』
 
私はリーチをかけた。役満四暗刻聴牌単騎待ち。親だから48000点はもらえるわね。
 
「まさか!」
 
「う、嘘だろ?」
 
見ているみんながありえないという顔をしている。
 
『今日はこれ……上がってもいいのですよね?』
 
「えっ?」
 
『カン……』
 
「また西をカン?」
 
「お、おい……まさか……!」
 
「そ、そんな……馬鹿な!」
 
「あ、ありえないわ」
 
しかし、私が見間違うことなく、それは役満だった。
 
『ツモ……四暗刻単騎』
 
もしも、これが個人戦なら全員、飛ばされて終わっていた。いや、部長以外は……。
 
「そ、そんな馬鹿な?」
 
「ありえないでしょうが……!」
 
部長も震えていた。
 
『16000点をいただきます』
 
「いいえ。小松さん。32000点ですよ」
 
『えっ?』
 
「四暗刻単騎は公式戦ではダブル役満なのよ」
 
『じゃあ……』
 
「あなたの一人勝ちよ」
 
『……そうですか』
 
私は一息ついた。
 
「どう?誠人君。彼女の実力は……」
 
「…………三連続も嶺上開花なんて……偶然……とは言いがたいですね」
 
「まさか、ガン牌を使っているとか……」
 
「ははは。まさか……」
 
『まあ、似たような能力ですけれどね』
 
私は流れを司るから、自然と場の流れとかを熟知し、計算して……効率よく上がれるのだ。
 
『それよりも、これからどうするんです?』
 
「ああ。そうだったわね。交代してくれるかしら?」
 
『はい。翔子ちゃん。あなたの出番よ』
 
「ほら。みんなも代わってあげて」
 
『さて、翔子ちゃんの実力を見てみようかしら?』
 
私は翔子を見た。
手牌はまあまあの感じのサンシャンテンだった。
その上がりはタンピンくらいか……。
ここから、彼女がどうやって役満に持っていくのかが非常に気になる。
すると、早くも振り込んでしまった。
 
「ロン……中のみ1000点です」
 
ありゃあ。まあ、しょうがないか。
 
「ご、ごめんなさい。栞ちゃん」
 
『何を謝っているのよ』
 
「だって、栞ちゃんが稼いでくれた点棒を……」
 
『気にしないで』
 
私の点棒はまた、取り返せばいいからね。
 
「よし。次も上がっちゃうぞ」
 
しかし、次は……。
 
「その中……ポンよ」
 
部長がドラ牌を鳴いてしまった。ドラ三……中。最低でも8000点は持っていかれる。
 
『踏ん張りなさい。ここは勝負どころよ』
 
しかし、彼女はローピンを捨ててしまった。当然、それは彼女の当たり牌だった。
 
「ロン。中、ドラ三……8000点」
 
「あ、あわわわ」
 
『何をしているのよ。しっかりしなさいよ』
 
「だ、だって……」
 
『点棒はどれだけ取られても構わないわ。あなたはあなたらしく打ってみなさい』
 
「わ、私が私らしく……?」
 
『そうよ。私が見ているから、緊張してて打てないのは分かるけれど、もっと対局に集中しなさい』
 
「…………わかりました」
 
おっ?顔つきが変わったわね。顔つきが変わると、おのずと牌も良くなるのだ。
ここからが……本当の勝負ね。
 
『おっ?』
 
次の局のとき、異変が起こった。彼女が始めから聴牌している。そして、第一巡で積もった牌が当たり牌だった。
彼女が押し倒す。
 
「ツモ……人和……役満です」
 
「えっ?」
 
「なっ!」
 
……何よ。やればできるじゃない。
 
「やっぱりすごいわ。この子達……」
 
「8000・16000」
 
そして、終了した。点差的には私たちの圧勝だったけれど、部長やそのほかの女子部員も負けてはいなかった。確実な上がり牌で……翔子や私を圧倒させていた。
 
「終わったね」
 
「ええ。でも、彼女たちはやっぱり強いわね」
 
「役満を上がる南さんと確実に上がり続ける小松さん。この二人なら、全中制覇も夢ではないわね。はるか頂の先が見えてきたわ」
 
「ああ。やっぱり強いんだな。最初のころは侮っていたけど……」
 
「じゃあ、今日は解散。都大会の前日にまた集まってね」
 
「はい。お疲れ様でした」
 
そう言うと、私たちは掃除をして、帰っていく。
 
「そういえば、栞様はどうして……運動部に行かなかったのですか?」
 
ずっと思っていたのだろう。彼女が素朴な疑問を打ち出した。
 
『私は運動部には勿論入っていたわよ。バスケやサッカー、テニスにバレー、それに卓球やソフト、柔道、剣道、薙刀、空手など等。数え上げたら切りがないくらいの運動部に所属していたわ。前世のときにすでに経験していたから、飽きてきたのよ』
 
「だから、今回は帰宅部だったのですね」
 
『そういうことよ。でも、案外文科系の部活も悪くはないわね』
 
「は、はい……!」
 
『そう言えば……まあ、いいか』
 
「な、何ですか?」
 
『今日、藍子ちゃんが来ていたの?』
 
「そういえば……いませんでした」
 
『やっぱりね』
 
「え?どうして?何がですか?」
 
『彼女は……私たちの事を伝えにいったわ』
 
「え?よろしいのですか?」
 
『まあ、信じられないような話だから、信じるかどうかは半信半疑だろうけれどね』
 
「まあ。お戯れが過ぎますわね」
 
『ごめんなさいね。あなたにまで被害がかぶるかもしれないけれど』
 
「それは構いませんけれど……栞様はどうなのでしょうか?」
 
『ん?何が?』
 
「あからさまに彼女に対して寛大ではありませんか?」
 
『あら?あなたは……彼女も欲するの?』
 
「そんなことを言っているのではありません!……ありませんけれど……」
 
語尾が弱くなって、顔を赤らめる。
 
『別に彼女を欲しているわけではないけれど。そうね。あなたが欲するのであれば、彼女も下僕に加えてあげてもいいわよ』
 
「じゃあ、もしも私がここで彼女に二度とかかわらないでくださいと言えば……?あなたはどうされるおつもりですか?」
 
『う〜ん。押し倒しちゃおうかしら?』
 
「えっ?」
 
『嘘よ。でも、多分……あなたは言わないと思うわ』
 
「どうしてです?」
 
『そんな気がするから』
 
そう言うと、私は今晩のおかずについて考えていたのだった。









     




















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