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あ、危なかった。
私がスターライトストリームを撃たなかったら、死んでいた。
それだけの相手をしている。
しかも、それでも五分五分な戦いだった。
いや、違う。私たちに分が悪いのは明らかだった。
私は血を吐きながら敵を見る。すでに内臓が危うい。肺にまで血液がたまっている感じがする。
麻生唯を見る。彼も心拍数が段々と落ちていってる。
顔面蒼白だし、絶体絶命のピンチだった。
だけど、このときでも思い出すのは……。
兄の言葉一つだけだった。
私は倒れそうになりながらも、立ち上がる。
兄の言葉を思い出しながら、私は敵である『アルゼイド』に向かっていくのだった。
 
『1』
 
『遊園地?』
 
私が電話で言われた単語がそれだった。
遊園地で極楽とは……主とはいえ、いい身分だ。
そう。電話をかけてきたのは……麻生唯本人だった。
 
「そう。明日、遊園地に行かないかって、誘われたんだけれど……栞さんも来るかなと思って……電話をしてみたんだけれど……」
 
一つ一つ丁寧に説明していく麻生唯。
彼女を犯した日の夜に電話をすれば、それもそうなるわな。明後日からは学校だから、しょうがないけれど。
でも、それでも多少の違和感があった。
 
『私のほかには何人が行くのですか?』
 
私が無機質な声が届くと麻生唯も緊張したのか、それとも数を数えるのを忘れたのか。
 
「ええっと、桜木さんとあと四名でしょう。あとは……」
 
『行くわ……』
 
彼が他の名前を言う前に即答した。
 
「えっと。じゃあ……駅前に九時集合でいいかな?」
 
『いいわ。それだけ?』
 
「うん。それだけ」
 
『じゃあ、こちらからも……』
 
「何?」
 
『悪魔の貴族級が来るわ。何があっても準備だけは怠らないでね』
 
「わかった」
 
『じゃあ。おやすみなさい』
 
「うん。おやすみ……」
 
私は電話を切った。
隣を見ると、翔子がいる。
彼女は今、お姉ちゃんと一緒に食事をしている。
 
「おっ?誰からやった?彼氏?」
 
『麻生唯からですよ』
 
「麻生唯?」
 
そう言うと翔子が首をかしげる。
 
「ああ。麻生唯は栞の主であるべき人や。まあ、栞は堅物やから、そんなことは一言も言わないけれどな」
 
『言った覚えもありませんが?』
 
「ほら。ああ言うやろ?栞の性格も難儀なんや」
 
「そうですね」
 
そう言うと二人ともくすくすと笑う。私はこの話題から早々に降りることにした。
 
『それで、明日、遊園地に行かないかと誘われました』
 
それにしても翔子の順応の速さといったら、並じゃない。お姉ちゃんのことをいつの間にかみどり様と言っているし、私とおねえちゃんの間に何があったのかは大体察知しているようだった。この子の洞察力は並じゃないかもしれない。
私自身も気をつけないといけないかもしれなかった。
 
「それで?栞様は私を誘うために行くのですね」
 
『ええ。そうよ。というより驚かせるために行くのよ』
 
「私は仰天剤ですか……」
 
そんなものがあったらいいけれど、ないから作るしかないのだ。
 
『その通りよ。それでもあなたは行くのでしょう?』
 
「はい。勿論ですよ」
 
そう。この子には私なしでは生きられない身体となっている。つまり、私のために欲情して私のために働いて私のために死ぬようにしているのだ。
まあ、私が彼女を見捨てることはありえないけれど。
彼女は私を守り、私は彼女を守る。そういう関係が成り立っているのだ。
だけど、私の命令だけは守るようにしている。そうしないと、彼女が私だけを守って死ぬことだってある。
それだけは耐えられない。
 
『……翔子』
 
「栞様……」
 
「あ〜。いいなぁ。私もいきたいなぁ〜」
 
そこで私たちが見つめ合っているのを邪魔する人が居た。私は慌てて目を逸らす。
 
『お姉ちゃんはダメですよ。折角新しい部署に入ったんだから、そこでしっかり働いてもらわないと』
 
「はいはい。わかっているわよ」
 
渋々了解したが、本当は行きたくてうずうずしているのがわかった。
いや、違う。お姉ちゃんのことだから、麻生唯との蜜月を楽しむために行くのだ。
 
「じゃあ、明日はお弁当を作って行きましょうか?」
 
『そうね。その方がいいわね』
 
『2』
 
晴天といえば聞こえはいいが、暑いことに他ならない。
私は流れを司っているから、風の流れとかも操作できるのだけれど、それでも地球温暖化が進んでいるのだから、少しは雲の流れとかも操作してみたい。
これではまるで初夏のようだ。これから暑くなる前兆のような気がするのは気のせいではないだろう。
次の日、私たちは駅前に八時半に来ていた。しかし、九時集合なので誰も着ていないことは明白だった。
 
「栞様は暑くないですか?」
 
『いいえ。さすがにこれは異常すぎる暑さよ』
 
気温は30度を越しており、アスファルトがジリジリと熱い。
 
『まあ、私は流れを司っているから、風の流動体を使って色々と操作しているけれど』
 
「いいなぁ。そういう能力……私も欲しいです」
 
『持っても化け物と疎まれるだけよ』
 
彼女はため息を吐いた。私の専売特許を取られたみたいで癪だったけれど、何を言っていいのかわからないから、黙っていると。
 
「栞様……」
 
『なあに?』
 
「ジュースでも買ってきましょうか?」
 
『そうね。集合時間まで早いから、麻生唯が来たら、伝えておいて……』
 
「い、いえ。そうじゃなくて……わ、私が行きたいのです」
 
『じゃあ、一緒に買いに行きましょうか?』
 
「ええっと。栞様がそれを望むのなら」
 
私たちは手を繋いで、歩き始めた。駅前の自販機の前でお金を入れる。
私はファンタ(ちなみにグレープ味)を押した。続いて彼女が選んだものは……。
 
『何それ?』
 
「え〜?見てわからないのですか?」
 
明らかに知っているけれど、それでも訊いているのか、それとも馬鹿にしているのか。
 
『いや、分からないわね。どうして、そんなものを頼むのかが理解に苦しみます』
 
彼女が買ったのは糖質ゼロのコーヒーだった。しかもブラック。
アイスコーヒーなのが幸いしたのか、飲むとドンドンと生気を取り戻す彼女。中々渋いものを飲む。私はファンタを飲みながらそう思った。
しばらく、ファンタを飲んで待っていると、麻生唯とガーディアンが現れた。
みんなは私がいるのを見ると、足早に駆け出してくる。
 
「ごめん。待った?」
 
『そうね。五分ぐらいかしら?それから、これが私の新しい下僕よ』
 
「翔子です。皆さん初めまして……よろしく……」
 
翔子が緊張して言っても、みんなは大して興味もなさそうに自分勝手に動いている。
 
「あ、あの……みなさん……」
 
『はぁ。しょうがないわね』
 
このまま流れるのも癪だった。私はため息を吐いた。
 
「栞様……?」
 
『殺されたいのかしら?』
 
私が無表情で殺気を流れに乗せて言うと、全員がビクビクッと痙攣した。
 
「あら?栞……いたの?」
 
百合が私の名前を呼ぶけれど、その顔は恐怖に駆られている。私は麗の顔を見て言う。
 
『その顔は私と喧嘩してもいいってわけね?麗……今度は手加減しないわよ』
 
私はすぐにでも戦闘モードに入るようにしている。
 
「い、いやだなぁ。ええっと、翔子ちゃんだっけ?私の名前は船越麗よ。よ、よろしくね」
 
汗をダラダラ流しながら、ブンブンと手を握って営業スマイルする麗。どうやら、ここでみんな戦死をする勇気は無いようだ。当然だけれど。
私はため息を吐いた。他のみんなも口々によろしくとだけ言う。
簡単な自己紹介を終えたところで……麻生唯が言う。
 
「ところでみんなは?」
 
『私は見ていませんけれど……翔子。探知してください』
 
「はい。ええっと、栞様のご学友は……あと十分くらいしたらつくかと思います」
 
「すごいね。そんなことまでわかるの?天使って……」
 
『まあ、能力探知は並外れたものじゃないからね。だから、私はそこだけを買っているのよ。その他にも飛翔能力や魔力探知能力は多分、そこにいる人達よりも優れていると思うわ……攻撃は並といったところだけれど』
 
「天才なのですけれどね。それでも栞様には敵いませんよ」
 
『いや、飛翔能力では……あなたが一番でしょう』
 
「そうですけれど……」
 
『それに胸でもあなたの方が大きいわ。羨ましい……』
 
胸を触る。相変わらず、感度良好の翔子に私は無表情でも内心は微笑んでいた。
 
「ふあぁ〜」
 
彼女は嬉しそうな恍惚の表情を浮かべながら、私の胸の揉んだところを享受する。ああ。可愛いなぁ。本当にこのまま押し倒したい。でも、周りに見られているので我慢をする。
 
「っていうか、関係ないと思うのですけれど」
 
『それもそうね』
 
私が無表情で言葉を流れに乗せて言う。
しばらくして、新田このえや山田竜太たちが来た。
こうなってくると、人数が大変になる。私は彼女たちに翔子のことを説明した。
 
『というわけだから、この子は私の家で預かることになったの』
 
私は字をすばやく書きながら、緊張している彼女に向かって頭を下げた。
 
「み、皆さん……よ、よろしくお願いします」
 
「お、俺の名前は山田竜太って言うんだ。よろしくね!」
 
まず、真っ先に言ったのは山田竜太だった。さっきから、胸ばかり見ているのは気のせいだろうか?いや、気のせいじゃない。彼女は私も認めるバストの大きさを示している。それでもガーディアンのみんなには敵わないけれど。
 
「そういえば、翔子ちゃん学校はどこに行くことになるの?」
 
「ええっと、栞さ……いいえ。栞ちゃんと同じところに通うつもりよ」
 
「そうなんだ。一緒のクラスならいいな……」
 
すると、ようやく……桜木藍子が着いた。
 
「ごめん!遅くなったわ」
 
そう言って……頭を下げて見上げた先には翔子の顔があった。
 
「あ、あなた……!」
 
驚いて転びそうになった。それを私がカバーする。
 
『大丈夫?』
 
私はあらかじめある文字を見せながら、先に言っておく。
 
『あなたは初めてかもしれないから言っておくけれど、彼女の名前は南翔子。私のところで一緒に住んでいるのよ』
 
さっき書いた同じ文字を見せながら、初めてじゃないかもしれないけれど。と思う。
 
「さて、みんな揃ったところで行きましょうか」
 
『行こうか。翔子……』
 
すると、翔子は藍子を見つめていた。
 
「久しぶりね。エルメス……」
 
「やっぱり、あなたは……ゼラキエル……堕天使になったとか訊いたけれど、それは本当なの?」
 
しかし、彼女はそれには答えずに抽象的な言葉で言う。
 
「私は私の意志である方に仕えている。それがあなたにとってどんな意味を持つかは知らないけれど。それは神に仕えるよりも重要なことであり、私にとっては大切な人よ」
 
「それは誰なの?」
 
「あなたの隣に居るじゃない」
 
あちゃ〜。バレたか。まあ、隠していないし……彼女にも話すなとは言ってないしね。
しかし、彼女は驚いていた。
 
「し、栞ちゃん……あなたが……?」
 
私は何も言わなかったけれど、彼女は確かに気づいた。
 
「どうしたの?藍子ちゃん?」
 
そのとき、山田竜太が話しかける。
 
「いいえ。何でもありません……」
 
私は視線を翔子に向けた。彼女は笑顔で私を見つめていた。
 
『よくやったわよ。翔子……』
 
「いえ。でも、これに何の意味があるのですか?」
 
小声で歩きながら私に話しかける。
 
『別に何も……?』
 
「何もないのですか?」
 
『強いて言うならば……面白いからかしら?』
 
「面白い……ですか?」
 
『そうね。私が唯一の快感を覚えるときが相手の驚くような顔なのよ』
 
「うわぁ……すごいサドですね」
 
『あら?今頃気づいたの?』
 
しばらく歩くと、目的地が見えてきた。
 
「すご〜い。こんな大都会なのに遊園地があるなんて……」
 
新田このえが楽しそうに声を上げる。
そこは小さな遊園地だったけれど、観覧車もあればジェットコースターもあるし、お化け屋敷もある。まあ、定番なものはみんな揃っているということだ。
 
「さて、お姉さま方は何を乗られますか?」
 
とまるで下心丸出しの顔でそんなことを言う。
 
「フン……何よ。全部子供だましじゃない」
 
と、麗が言う。そんなことを言うから、私にサドッ気を出させるんじゃない。
 
『麗……お化け屋敷を見に行こうか?』
 
「な、ななな、何を言っているのよ?この私がお化け屋敷なんて……見に行くものですか」
 
やはり、悠久の時が経った今でもお化け屋敷は怖いらしい。
 
『あら?お化け屋敷が怖いの?子供だましといったあなたが……?』
 
「あ、当たり前じゃない」
 
『じゃあ。行くわよ』
 
「フン……あ、あれ?」
 
どうやら、誘導尋問に引っかかったと気づいたらしい。
 
『じゃあ、麻生唯……私たちは行くわよ』
 
「うん。行ってらっしゃい」
 
「麻生。お前……誰と話をしているんだ?」
 
「あ。ううん。なんでもないよ」
 
また、引っかかっている。面白いので放っておくことにした。
 
『それから、翔子……』
 
「はい?」
 
『あなたは……藍子の相手をしてあげなさい』
 
「はい……」
 
『まあ、積もる話もあるでしょうから、私は聞かないようにしておくわ』
 
「……はい。ありがとうございます。行こう!藍子ちゃん」
 
「ええっと。どこにですか?っていうか、誰と話をしていたのですか?」
 
不思議そうにしながら、どこかに行ってしまった。しかし、そう思っている間に麗がどこかに行こうとする。
抜き足差し足忍び足……しかし、それは私には通用しない。
 
『あら?麗……どこに行くの?』
 
「ええっと。おトイレに……」
 
『あら?そんなことを許されると思っているの?』
 
仁王像のように立ち尽くす私と怯えながらもどこかずれた話をする麗。
 
『さあ。行くわよ。あなたには恐怖という言葉を植え付ける絶好の機会だわ』
 
「なに?その不吉な予感は!?」
 
『私を楽しむために恐怖しなさい』
 
「ええっ?」
 
ずるずると引きずりながらそれでも麗が「離して〜」という。
だけど、それで離すような私ではないことぐらい知っているつもりだった。
さてと、泣いてすがりつく麗を想像しただけでワクワクが抑えきれない私はお化け屋敷へと入っていくのだった。
しかし、絶望を確かにこのとき……私は感じていたのだった。
 
『3』
 
「みんな散っていきましたね」
 
そう言いながら、藍子は歩いていた。翔子は彼女についていく。
 
「そうね」
 
聞きたいことは山ほどある。けれど、どれも出てこない。彼女が現れて緊張しているのか。それとも、それほどまでに今までの疑問がちっぽけなことだったのか。分からないけれど、一つだけ確信をしていることがあった。
 
「ねえ。一つだけ質問してもいいかしら?」
 
「難しい質問は嫌よ」
 
それは……彼女は前に私が会った時と変わっていなかった。
 
「どうして……栞ちゃんについていこうと思ったの?」
 
それは確かにもっともな質問だった。
確かに、彼女は異彩を放つほどの悪魔狩りをしている。
だけれど、それだけで彼女がついていくとは到底思えない。
 
「そうね。強いて言えば……栞様は強いからかしら?それでいて、魅力的な存在だから」
 
「それだけであなたが崇拝するとは思えないわね」
 
「そりゃそうでしょう。だって、私とあなたは違うのだから」
 
確かに藍子と翔子は違う。
生まれた場所も違えば、行動するときも別々だった。けれど、藍子は翔子を尊敬していたし、だからこそ堕天使になったときは信じられなかった。
 
「それにね。私は栞様から束縛はされていないの。だから、栞様のことを話せるのよ。でもね。私は自分の意思であの人に仕えているのよ。だから、どんな命令であろうとも聞くつもりよ」
 
「……っ!」
 
一瞬、殺気がして藍子をけん制した。相変わらず、静かな殺気を放っている。それも周囲には気づかれない程度の……それでいて、鋭い殺気を一瞬だけ放ったのだ。小鳥たちなら、それに気づいて飛び立つのだろうが、ここには小鳥ではなく、人間が居るだけだ。
 
「それで?あなたは私に会ってどうするつもりなの?」
 
「……じゃあ、私がここで……天界に報告をしてもいいわけね」
 
「……あら?急に天界に助けを求めるつもり?別に構わないわよ。でも……」
 
そう言うと静かな殺気から一変して、恐ろしくどす黒い殺気に変わった。あまりに変わりように藍子が驚く。
暑いのだけれど、嫌な汗をかいてしまう。いや、違う。これは自分の中の危機管理能力が働いている。
彼女が藍子の横を通り過ぎる。
 
「あなたの命の保障はできないわよ」
 
そこだけは今までの翔子とは別人だった。相変わらず……笑ってはいるけれど、その笑みをかき消すように恐ろしく、藍子にとっては畏怖の対象となるべきものだった。
その一言だけで藍子は全身が震え上がり、寒くもないのにその震えが全然止まらなかった。
しかし、翔子はさっさと行ってしまう。
それを藍子は見送るしかなかった。
 
『4』
 
「き、緊張したぁ〜」
 
一方、翔子の方はあれだけのことを言ったのにまだ、心臓がバクバクいっている。
もう心臓が破裂してもおかしくないほどの緊張ぶりだった。
彼女は本当に天界に喧嘩を売ろうしていたのだ。
あれほどの啖呵を切ったのは生まれて初めてだった。
天使になってから幾年月が経つけれど、こんなにも緊張して誰かを守ろうと思ったことなんて生まれて初めての体験だった。
心のアドレナリンが分泌されて、今、少しだけ真っ赤になっていたのだ。
 
(でも、これで……天界も本腰を入れて検査にかかるでしょうね)
 
相変わらず顔は真っ赤だけれど、それでも彼女は立ち上がらなければならない。
たった一人の少女のために命を張らないといけない。
それこそが彼に託された最後のメッセージなのだから。
 
『5』
 
「キャアアアアァァァァ―――――っ!!」
 
麗が驚いて私に抱きついてきた。これで七回目。相変わらずお化けが苦手なのね。
悪魔とか妖怪とかの類なら倒せばいいだけなのだけれど、お化けや幽霊などは眼には見えないので、自然と私たちの間では畏怖の対象となっている。
化け物の私たちが幽霊などが怖いなんて、皮肉にもならない話しだけれど。
普段は生意気な性格な麗も私の裾を掴んで離さなかった。眼があふれんばかりの涙を流している。
そして、やっとで出口に着いたところでようやく手を離した。
 
「う〜。怖かったよう」
 
麗が涙を流しながら言う。
 
『確かに最近の科学は進んでいるのね。私も少し怖かったわ』
 
特に最後のほうは私でも声を上げそうなほどに怖かった。
 
「全然、そんな素振りはしていないくせに〜」
 
それが余程羨ましいのか、麗が私の頬をつつく。
 
『頭から血を出してまるでゾンビように立っている様子は誰が見ても怖いのでしょうね』
 
おそらくは血糊だろうが、それでも怖いことには変わりはなかった。
 
「ところで唯はどこに行ったのかしら?」
 
『芽衣たちと一緒にジェットコースターに乗っているわ』
 
「あれ?栞って……そんなこともできるの?」
 
『正確性は欠けるけれどね。悪魔の場所も分かるのもそのためよ』
 
「あ〜。なるほど。便利機能だね」
 
『そうでもないわよ』
 
「えっ?」
 
『便利な反面、ややこしい能力でもあるのよ。私の能力。そのために今まで主ができなかったのかもしれないわね。でも、その反面、麗のは使い勝手がよさそうね。水なんて今まで見た中で遥かに簡単に扱えるものだから』
 
「悪かったわね。でも、私はこの力をもらってよかったと思っているわ」
 
『そう……それはよかったわね。水姫(みずき)姉さま』
 
私は何気なく放った一言が麗にとっては驚きに変わっていた。
 
「あなた……まだその名前を……?」
 
その名前は麗の何代か前の前世の名前だった。
それはガーディアンにしか分からない……いや、私たちにしか分からない過去の話だった。
水姫姉さまは昔、私の家に嫁いできたことがある。嫁いだのは私の弟だったけれど、絶世の美女でしかも巨乳ということで会ったのが彼女だった。
そして、水姫姉さまが言っていた言葉がまさにさっきとダブっていたのだ。
 
『昔と今は変わらないのですね。あなたも』
 
「使う道は随分と変わったように思えるけれど」
 
それは能力のことか?それとも彼女自身のことか?あるいはその両方か。
 
『そうですね』
 
私たちはその辺をブラブラと歩く。
 
「あのさ……栞……どうしても言えなかった事があるんだけど?」
 
『何?』
 
「あなた……私のこと恨んでいない?」
 
『ええ。あなたのことなんて大嫌いです』
 
「相変わらず心のこもらない言葉ね。そうじゃなくて、私が水姫と名乗っていた頃の話よ」
 
『…………』
 
その言葉が私を沈黙させた。
 
「あなたの弟を寝取ったときでさえ、あなたに罪悪感は感じているつもりだったけれど、当時は政略結婚で仕方がなかったじゃない。ああでもしなければ、あなたの城は確実に落ちていたし……」
 
『……じゃあ、何?あなたは今までのことは全て水に流しましょうといっているわけ?』
 
「うぐっ!端的に言えばそういうことだろうけれど……ほら、昔から私たちってちょっとしたことでいがみ合ったりしてきたじゃない?そういうことを無くそうと思っているわけなのよ」
 
そういえばと思って思い出す。あの頃の私は彼女がガーディアンだと知っていたし、水という能力を操ることを知っていた。
 
『ふ〜ん。私がガーディアンだと知らないことに腹を立てて、乱を起こしたあなたが大した成長ぶりですね』
 
あの頃の私の能力はまだ不安定で……人から殺されることも多かった。
私が軽蔑の眼差しを向けると、麗は慌てた顔で……。
 
「い、いや。あれは……ほら……あなたがばらすからいけないのであって」
 
そのとき、私はあの時と同じ台詞を吐いた。
 
『まあ、でも……こうやって同じ空の下で生きていることを私は……それだけで私は嬉しいのかもしれないわね』
 
そう。たとえ転生して私のことを覚えていなくてもいい。今まで出会ってきた数々の歴史が私の過去なのだ。
すると、彼女は謝罪の言葉を口にしてきた。
 
「……ごめん」
 
『……』
 
それはようやく、私の言葉の真意を知ったと言うことなのか。
遅すぎるけれど、でも、ようやく届いてよかった。
あのときの私は本当に最低な奴だったから。
 
「でも、どうして私がガーディアンだと知ったとき、どうして私に問い詰めなかったの?」
 
『……それは……できれば、そうであって欲しくは無いと思ったから』
 
「えっ?」
 
『今度は私が聞く番です。あなた……私をうらやましいと思ったことはないですか?』
 
「それは……何度もあるわね」
 
私は廃棄ナンバーだから、主に縛られることも無い。私が望まぬ限り、主に抱かれることもない。
だから、楽しいことも無ければ、嬉しいことも無かった。それが私の全てだった。
でも、主に縛られるのがいやだという人も中にはいる。麗がその際たる理由の一つだろう。
多分、過去の中でいやな出来事があったのだろうが、私はあえて聞かない。
 
『でも、今のあなたは楽しそうね』
 
そう。彼女には過去のトラウマがあるはずなのに今の主に対しては従順に従っている。
 
「そ、そうかしら?」
 
『あなたには一切の迷いがなくなったといえばいいのかしら?』
 
「まあ、私も芽衣達と一緒で主に仕えるという喜びを味わう羽目になっただけよ」
 
『なるほど』
 
「栞はどうなの?私達をうらやましいと思ったことは無いの?」
 
『合理的な考え方をすれば、そんなのまっぴらごめんって言いそうだけれど、でも……』
 
「でも……?」
 
『そうね。一度くらいは縛られてもいいかなって思うわ』
 
「唯と抱けば忘れられなくなるかもよ?」
 
『でも、人生は一度きりじゃない。あんまり、忘れられない思い出を作っちゃうと、いざ別れるときに辛い思いをすることになるわ』
 
「そ、それはそうだけど……でも、たった一度きりの人生だからこそ、その人を楽しんでもらわなきゃと言う気にはなれない?」
 
なるほど。そういう言い方もできるか。
 
『ちょっと納得できたわ』
 
ちょっと話を区切って私が考えていると彼女が質問してきた。
 
「あ、あのさ。一つだけ聞きたいことがあるんだけど?」
 
『何?』
 
「あなたって、どれだけの質量の流れを操ることができるの?」
 
『実際に量ったことはないけれど……そうね。水でいうなら、あなたを打ち負かすくらいの質量はできるわ。試してみる?』
 
「え、遠慮しておきます」
 
『そう。賢明な判断ね』
 
「栞……あんたってさ。自分に対してものすごく厳しいところがあるでしょう?」
 
『何ですか?それ……?』
 
「自分に対しても厳しいから、悪魔に対しても厳粛な判断が下せるんじゃない?」
 
『……っ!』
 
それはそうだ。でも、まさか彼女から指摘されるとは思っても見なかった。
いや、彼女だからこそ、気づいたのかもしれない。
 
「あなたって根が真面目だから……きっと、死んでも悪魔を殺し続けるわね」
 
『ええ。その通りよ』
 
私はそのためだけに生まれてきたのだから。その他の生き方は考えられなかった。
 
「あれ?あれって雛菊じゃない?」
 
麗が言うので見てみると、雛菊が落ち着かない様子で辺りを見回している。
 
『本当だ。何をしているのかしら?』
 
「ああ、そういえば真面目な奴がもう一人いたわ」
 
そう言われると、雛菊も私に劣らずの頑固者だった。
 
『……そうね』
 
私は雛菊に駆け寄った。麗もあとに続いた。
 
「雛菊〜。どうしたの?」
 
「麗……唯様が見当たらないのだが、どこに行ったのだ?」
 
『麻生唯なら、さっき芽衣と一緒にジェットコースターに乗ったわよ』
 
「ふむ。ところで二人は何をしているのだ?」
 
『麗を連れまわして面白がっているのよ』
 
「私はあなたの興奮剤じゃないわよっ!」
 
私達がこうして並んでいると、仲のいい姉妹に見えるのだろうか?
 
「ところで……栞……」
 
『何ですか?』
 
「一昨日はすまなかった」
 
『何よ?いきなり……』
 
「いや、謝罪の言葉が遅れてしまって……その……本当にごめんなさい」
 
『……別にいいわよ。もう済んだことだし……』
 
「しかし……」
 
『それに言うのなら、誤解を招いてしまった私も悪いのだから』
 
「……本当にすまない」
 
「ねえ。あれって……」
 
「唯様と芽衣だな」
 
『二人とも嬉しそうですね』
 
「ところで芽衣と唯はどうして、一緒にいるのかしら?」
 
「さあ?知らんわ」
 
そう言うと、プイッと横に向く雛菊。
 
「おっ?あっちにいるのは……」
 
麗が額に右手の親指と人差し指を当てて何かを探すポーズをすると、そこにいたのは静香と早苗だった。相変わらずレズコンビも仲がよさそうだった。
私は眼を閉じて、流れの中でその声を聞いていた。
 
『6』
 
「お姉さま。何か飲みませんか?」
 
「そうね。何か買ってきてくれるかしら?」
 
「OK。何がいいの?」
 
「そうね。できれば、ポカリかアクエリアスで」
 
「あ〜。やっぱりねぇ。お姉さま。炭酸はダメだものね〜」
 
「炭酸は身体に悪いのよ」
 
静香がそう言うと、早苗が消えた。多分、近くの自販機に買いに行ったのだろう。
すぐに戻ってきて、アクエリアスとファンタを買ってきた。
 
「ありがとう」
 
「いえいえ。これもお姉さまのためですから」
 
そう言うと、何故か静香の笑みが消えた。
 
「どうかしたの?」
 
それを一瞬で見抜いた早苗が口に出した。
 
「あっ!ううん。なんでもないの。ただ……平和すぎるなぁって。でも、これって、栞やみんなが頑張ってくれた結果……なんでしょうね」
 
「お姉さま?」
 
「私ね。時々夢を見るの。そこには唯様や栞、早苗やみんなもいて楽しそうにして笑っているの」
 
「そ、創造できないわ。栞が笑うところなんて」
 
「でもね。あるとき、不意に誰もいなくなるの。唯様も栞も早苗もみんなが……いなくなって私が独りになるの。辛いし、怖いまま眼が覚めるの」
 
「……お姉さま?」
 
「いつか、この平和が絶対に壊れるときが必ず来る。それもそう遠くないうちに……」
 
「そ、それは……」
 
早苗も確実に感じ取っているはずだ。あるいは私たちの能力がそうさせているのかもしれない。それははっきりとは断定できないけれど、近いうちに必ず何かが起こる。そう……確信をするほどに。
 
「そう思ったら……怖いのよ」
 
「……お姉さま」
 
早苗は優しく静香に抱きついた。
 
「さ、早苗?」
 
「お姉さまに一つだけ問いかけます。もしも私と唯君がピンチな時どちらを助けますか?」
 
「えっ?何それ?」
 
「いいから答えて」
 
早苗の目が厳しい。
 
「……わからない。というより、答えが出せないわ」
 
「そうよ。それでいいの」
 
「えっ?」
 
「わからないなら、分からないでそれでいいのよ。私も唯君とお姉さま。どちらを取るなんて……考えがつかないから。両方とも大事でそれがずっと続いていくなら、両方とも助ける選択を取るしかないのよ」
 
「……早苗……」
 
そのまま早苗が静香の唇を奪おうとしたとき。
 
「あ!レズコンビ発見」
 
「えっ?」
 
『あらあら?あなた達……おあついのね』
 
「れ、麗!?」
 
「ひ、雛菊も……ま、まさか、聞こえていた?」
 
「ええ。そりゃもちろん。一字一句聞き逃さずに」
 
「お前たちが聞こえるような位置にいるからだ」
 
「あ、あんた達は〜!」
 
「うわ〜。早苗が怒ったよ」
 
「まずい。麗……逃げるぞ」
 
「またんかい!」
 
そう言うと、早苗が彼女たちを追いかけるためにどこか行ってしまった。静香はため息を吐くと。
 
『あなた……さっきのあれ……嘘でしょう』
 
「えっ?」
 
振り返ると、そこには栞がいた。
 
『いいえ。半分が本当で……半分が嘘といったほうがいいかしら?間違いなく……そのような状態になったときあなたは絶対に唯君を選ぶわ』
 
「えっ?どうして?」
 
『あなたは自分自身が弱いと気づき始めている。私が気づいたのはあなたと戦っているときだけれど。あなたほどの実力者なら、私を宇宙の彼方にまで飛ばすほどのそれこそ小規模なワームホールを私にぶつけたはず。なのに……そうはしなかった。それは何故か……』
 
「……っ!」
 
『考えられる要素は三つ。一つは……あなたの精神が弱い部分があるということ。でも、そんなことはない。何故なら、あなたはそんなことで倒れるようなやわな鍛え方はしないからです。二つ目はあなたの力が弱まっているということだけれど、これもありえない。何故なら、あなたの能力は日に日に強くなっていってる……そして、三つ目……これが重要。あなた……夢の中で孤独になるとかいっていたけれど、本当は違うんじゃない?』
 
「どう……して?」
 
静香の目の焦点が栞だけに向けられた。けれど、栞は相変わらず、無表情にいう。
 
『私も……同じだったから。大切な人を……自分の手で殺してしまうと……そのことを思い出させてくれるものよ』
 
「……っ!」
 
『そう……あなたの見た夢の内容は……自分の手で麻生唯を殺してしまう夢だったのね。だからこそ、あえてあなたは早苗に本当のことを話そうとしたけれど、いつか自分の見た夢が現実のものとなってしまうことを恐れたあなたは真実をぼかした。違いますか?』
 
栞の輪郭がぼやけて見える。それだけに今の静香はただただ、驚きに変わっていた。
 
「栞……あなた……いつだったか、あなたが言っていたことを覚えていますか?」
 
『えっ?』
 
「私の力が怖いって……私の能力が怖いって言ってくれたわよね?あれは正解よ。私は……いいえ。私も自分の力が怖い。私の力が唯様や早苗を傷つけることが怖いのよ……!」
 
静香は涙を流しながら……それでも、その涙を拭いながら続ける。
 
「そうよ。あなたの笑顔を奪ったのも……自分が助かりたいからって……あなたを利用して……殺したのも私……ですものね」
 
彼女がこぶしを握り締める。
それを見て栞が言う。
 
『……ええ。そうね。だから何?』
 
「えっ?」
 
『あなたが何を思うがそれはあなた自身の勝手だけれど、私は自分の意思でこの選択をしたのよ。だから、私の笑顔を奪ったのは確かにあなたかもしれないけれど、私を利用して、結果的にあなたが助かったのかもしれないけれど。それもあなたと私が選んだ道なのよ』
 
昔の栞なら、絶対にこんなことは言わなかったはずだ。けれど、彼女の兄が彼女自身をも変えさせてくれたのだ。
 
「栞……あなた……私を恨んではいないの?」
 
『私は今まで人を恨んだことはないわ。全ては私自身によるせいだと自覚しているから』
 
栞は自分の胸に手を当てて言う。
 
「えっ?」
 
それは栞自身の本心だった。それが栞の生き方でもある。たとえ悪魔を悪魔のように残酷に殺しても人に対しては常に優しいままだった。
 
『私は……自分の兄以外の人間を殺したことがありませんでした。それは私自身が犯した過ちでもあるのです。だから、私はこれからも悪魔を殺し続ける……』
 
それは静香自身も知っていることだった。分かっているつもりだった。それが兄の唯一の願いだったから。
 
「でも、それとこれとは話が別です!」
 
『同じですよ。私は人間を殺さない。でも、私は人間に殺されても、恨みを抱くことはありません。全ては自分のせいだと自覚しているから。だから、あなたに利用されて、殺されても……あなたに恨みはないのですよ』
 
「あっ……」
 
その一言によって静香の顔は赤くなる。
全ては自分のせいなのではないかと静香は思う。勝手な思い込みが……彼女自身を縛り付けているだけなのではないのかと。そう思ったら彼女の心は軽くなったのだった。
 
『7』
 
「う〜ん。久しぶりに遊んだわね」
 
麗が手を組んで上空に上げて伸びをしながら、そんなことを言う。
 
『エンジョイしすぎよ。麗……』
 
前まではあんなに行くのを渋っていたくせに。
 
「な。誰がエンジョイなんてするものですか!」
 
『はいはい。言ってなさいよ』
 
時刻は午前11時半くらい。もうそろそろ……お昼ご飯を食べてもよさそうだった。
 
「お腹……空いたわね」
 
『あら?空腹なのかしら?』
 
そう言ってひょいと麗の身体を持ち上げる。そんなことを言っていると食べちゃいそう。
 
「ち、違うわよ!だ、抱きつくな〜!」
 
しかし、そんなことを言われると、意地悪をしたくなる。
 
「……な、撫でるな〜」
 
そう言うと、私は彼女を感じやすくさせるために性感帯を刺激させる。
 
「ふあ〜。ああ……」
 
彼女の顔が恍惚の表情になる。
 
『あら?可愛いのね。麗……気持ちよさそう。私はただ、撫でてるだけなのに……』
 
「そ、そんなことない!私があんたなんかに気持ちよくなんて……っ!」
 
しかし、声はそう言っても身体の方は気持ちよさをまだまだ求めている。
しばらく撫でているとビクビクと彼女の身体が痙攣を起こす。
 
「ふあ〜。や、止めてよぅ〜」
 
しかし、しばらく撫でているうちに急に止めてしまった。
 
『彼が来たから、もうお終い』
 
「彼?」
 
彼女が振り返ると、そこには麻生唯がいた。だから、気づくのが遅いってば。
彼はまるで驚くように私たちを見ている。
 
「唯〜!」
 
彼女は走って麻生唯の後ろに隠れた。
 
「全く。僕の家族に何をしているのですか?」
 
そう言うと、ムッとする唯。ちょっとだけど怒っている。
まあ、仕方がないか。家族とはいえ、彼女は恋人でもあるのだ。
その気持ちは分かるつもりだった。
 
『嫌ですね。麻生唯が来たから、可愛い麗をサービスしてあげたのに……』
 
「あんなのはサービスじゃない。っていうか、私は景品かっ!」
 
『麗ちゃ〜ん。今度は一緒に遊びましょうね〜』
 
私が友達のような感じで明るく言うと、彼女がひっ!と私に畏怖して唯の後ろに脅えたように隠れる。
 
「どうでもいいですけれど、僕の家族を使って遊ぶのは止めてもらえませんか?」
 
『麗の顔を見ると……つい私の中の理性が弾け飛んじゃって、意地悪したくなるのよねぇ。だから、残念だけれど。それは無理ね』
 
「うわっ!恐ろしい女ね」
 
『よく言われるわ』
 
「芽衣も見ていたなら、止めてよ」
 
麗が麻生唯のことを好きだって知っているくせに。何故か芽衣もミシェルも止めなかった。
 
「無理ね。相手は栞。ここにいるみんながかかっても前に勝てなかったじゃない」
 
「うぐっ!」
 
さすがは芽衣。合理的に物事を考えている。
 
「もしも栞に敵わない悪魔が出たらどうするのよ?」
 
「そうね。そのときは全員で死にましょうか」
 
『いいえ。私でも敵わない敵は大勢いるわ』
 
「えっ?」
 
『ほら……あなたの後ろにもいるじゃない……』
 
「まさか、あなたの敵わない敵って……人間?」
 
『ええ。そうよ』
 
「ああ。そうか。栞は人間を殺せないんだっけ?」
 
『まあ、私の中にいる三人はどう思っているかは分からないけれどね』
 
「……?」
 
『いいえ。なんでもないわ。それよりもお昼ご飯にしましょうか』
 
そう言うと、みんなを集めて昼ご飯にした。
 
「午後からはどれに乗る?」
 
みんなで昼食タイムを取っている最中に唯が聞いた。
 
「栞様はどれに乗られますか?」
 
私は文字を書く。さすがに彼女やみんなの前だと書かざるおえない。
そして、それを見せようと思ったとき、山田竜太が口を挟んだ。
 
「どうせなら、みんなで観覧車に乗ろうぜ」
 
私が言いたかったことを先に言われた。
……まあ、いいけれど。
 
「いいわね。でも、みんなでなんて無理よ」
 
「何組かに分けて乗ればそれだけで十分に楽しいですよ」
 
「じゃあ、私は唯さ…………いえ。唯君と一緒に乗りたいわ」
 
「私も」
 
「私もです」
 
すると、ガーディアン全員が麻生唯と一緒に乗りたいと言い出した。
 
「さすがに十二人は窮屈すぎて入らないと思いますけれど」
 
「そうね。ここは真剣勝負のじゃんけんで決着をつけましょう」
 
『私たちはいいわ。私は彼女と一緒に乗るから』
 
私は藍子を指名した。
 
「わ、私と?」
 
『……いやなの?』
 
「いいえ。そういうことはありませんが……」
 
『そう……じゃあ、行きましょうか』
 
私がご飯を食べ終えると、立ち上がった。
まだ、午後を過ぎた辺り。まだまだ時間はある。
だけど、そのとき……翔子がどうすればいいのかを悩んでいるのを見た。
 
『翔子……あなたも付いて来る?』
 
「いいのですか?」
 
『ええ。いいわよ』
 
「じゃあ、ご一緒させていただきます」
 
『じゃあ。私たちはいくから、後はよろしくね』
 
「行ってらっしゃい」
 
そう言われると私たちは歩き出した。
観覧車に乗ると、彼女は無言で私を見つめている。
そう言えば、私は彼女については何も知らないのだ。
天使であることと桜木コーポレーションの社長の愛娘であることぐらいだ。
そう。私は彼女の天使については何も知らなかった。
 
『翔子……』
 
私は窓の外を見ている翔子の肩を叩いた。
 
「はい。何ですか?」
 
『彼女について知っていることを教えてくれるかしら?』
 
「彼女って……藍子のことですか?」
 
『ええ。そうよ』
 
「そうですね。見習い期間……彼女は天才といわれていましたね」
 
「それって遠まわしに自慢していない?私は悪魔狩りであなたに勝った事がないけれど」
 
「魂送率はあなたの方が上でしょう?私の場合は悪魔狩りに力を注いでいましたけれど、彼女は魂送率といって、魂を天界に送るということを仕事にしていて、それがトップを誇っていたのです」
 
『つまり、あなた達は両方ともトップクラスの実績を誇っていると言うことなの?』
 
私は長い文章だけれど書いて彼女たちに見せた。
 
「いいえ。それが見習い時代の話ですので……見習い天使の中ではトップを誇っているということでして……今では私たちは全然、敵いませんよ」
 
「そうかしら?」
 
「えっ?」
 
「悪魔狩りだったら、右に出るものはいないと言ったあなたがえらい謙虚な言い方ね。実際、彼女の力はこんなものじゃないわよ」
 
「そんな……藍子……」
 
『なるほど。つまり、あなた達は二人して優秀というわけなのね?』
 
「……そうね。だから、人間のあなたを殺すくらいは容易いわよ」
 
『あら?堕天使になるのが相当お好きみたいね』
 
「……ぐっ!翔子はどうしてこの人に天使の秘密をばらしたの?」
 
「えっ?」
 
なるほど。まあ、そうなるわね。私がどうやって天使の秘密を知ったのかを彼女は翔子から教えてもらったと勘違いしているのだ。
まあ、無理もない。彼女以外に知りえる人物がいないのだ。
 
「そ、そんな……私は一言も…………っ!」
 
『強いてあげるなら、私と彼女との関係はあなたを超えるほどになっているわよ』
 
「私よりも超える?」
 
「し、栞様っ!」
 
彼女の頬が赤らめる。私に顔を背ける。
 
「えっ?どういうこと?」
 
『堕天使になった彼女を元に戻したのものも私よ』
 
「なっ!?そんなことは不可能です」
 
『それが可能なのよ。ね?』
 
「ええ。まあ……そうですね」
 
どうやら、陵辱されたことを思い出したらしい。さらに顔を真っ赤にする翔子。
一方、藍子のほうは何がなんだか分からないと言う顔をする。
もうこれ以上翔子をいじめると、本格的に犯されそうなので止めておこう。
 
『まあ、彼女のようなことは二度とごめんですけれどね』
 
あれをやると、やたら能力が食うのよね。この世にMPというものがあるのなら、私は限りなくゼロに近い状態になる。
少々、ファンタジックな表現だけれど、私の間では妙に的を得ている感がある。
 
「でも、そう言いながらもやるのでしょう?」
 
『そうね。私は人を殺せないから……そういうこともあるかもしれないわね』
 
でも、もう……彼女みたいな人に出会うことはまずないだろう。
 
「えっ?栞ちゃんが人を殺せないって……?」
 
『まあ、私の決まり文句みたいなものね。自分自身に誓約をつけるとでも言えばいいのかしら?そうしないと……私自身がダメになっちゃうでしょう?だから、自分自身に誓約をつけることで、私自身の理性を保つことにも繋がるのよ』
 
「……なるほどね。あなたには過去にひどい出来事があったのね?」
 
「えっ?」
 
『ええ。その通りよ』
 
さすがは天使といったところか……いい読みしてるわ。
 
「で?あなたは一体何者かしら?」
 
『それは前にも言ったはずよ。自分で調べなさいと』
 
「……くっ!」
 
まるで、最初から分かっていたように私が言う。
まあ、私の事を分かる人なんて……数に限りがあるからね。
私自身を分かっている人は極少数に近い。
多分、彼女自身は私のことはデータにないから……少々力のあるエクソシストとでも思っているのだろう。そう思われても仕方がなかった。
 
「栞ちゃん……あなた……自分では何でもできると思っていない?」
 
『まさか……そこまで酔っちゃいないわよ。私にだってできないことはあるわよ』
 
「…………」
 
『私は思うに……っ!?』
 
なんだ?この悪寒は……何か……嫌な予感がする。
まさか!私は……外を見た。
東京湾に浮かんでいるのは……まさか。悪魔!?
 
「栞様?どうかしましたか?」
 
『あ、現れたわね……』
 
私の中で滝汗が流れる。
こんなにも緊張したのは……ヴェガと戦って以来だった。
怖くないわけがない。私はヴェガとの戦いで片腕を失った。
 
「えっ?」
 
「栞ちゃん?」
 
『ヴェガと同等の力を持つ……上級悪魔貴族級……アルゼイドっ!!』
 
すると、いきなり挨拶代わりだと言わんばかりに巨大なデスボールを放つ。
 
「ま、まずいわっ!」
 
『ぐっ!』
 
「し、栞ちゃん!?」
 
次の瞬間、私が放ったスターライトストリームで何とか相殺はした。
だけど、その代償はあまりにも大きかった。
私は観覧車ごと爆発させてしまったのだ。
でも、そうしないと危うかった。
観覧車の中には麻生唯やクラスメイトもいる。
あ、危なかった。
私がスターライトストリームを撃たなかったら、死んでいた。
それだけの相手をしている。
しかも、それでも五分五分な戦いだった。
いや、違う。私たちに分が悪いのは明らかだった。
私は血を吐きながら敵を見る。すでに内臓が危うい。肺にまで血液がたまっている感じがする。
麻生唯を見る。彼も心拍数が段々と落ちていってる。
顔面蒼白だし、絶体絶命のピンチだった。
だけど、このときでも思い出すのは……。
兄の言葉一つだけだった。
私は倒れそうになりながらも、立ち上がる。
兄の言葉を思い出しながら、私は敵である『アルゼイド』に向かっていくのだった。
周りを見てみると、すでに悲鳴を上げながら、逃げている人達がいた。
私は流れを使って空を飛ぶ。
だけど、そのとき……翔子と藍子が追ってきた。
 
「し、栞様!?」
 
『あなた達は麻生唯や他のガーディアンをお願い!』
 
「えっ?でも……っ!」
 
『いいから!速く……っ!!』
 
すると、奴は二発目を放ってきた。
 
『まずいっ!』
 
私は二発目のスターライトストリームを放つ。このままでは私が競り負けてしまう。
 
「う、うそ……でしょう?……なんなの……あれ?」
 
藍子の弓矢を持つ右手が震えている。
 
『翔子……あなたは人民の避難勧告を!』
 
「えっ?で、でも……」
 
『いいから、速くっ!!』
 
「は、はい!」
 
私は相変わらず、滝汗が流れる。藍子は両腕が震えていた。
 
『あなたも速く逃げて……っ!』
 
「し、栞ちゃん?栞ちゃんの声なの?」
 
彼女がぎょっとしたように辺りをキョロキョロと見回す。
 
『いいから!速く……っ!』
 
二発目はなんとか弾き飛ばして空へと向かっていった。
 
『ふぅ……』
 
「藍子!」
 
「翔子?」
 
「今のうちに……早く!」
 
「ええ。分かったわ」
 
「……久しぶりだな……珠樹姫。いや、今は別の名か?」
 
『あなたも久しぶりね。アルゼイド……!いきなり……やってくれるじゃないの……』
 
私は上空に浮かびながら、奴と対面していた。
アルゼイドは昔戦ったことがある悪魔だった。
上級悪魔にしては……狡賢く、今のような不意打ちが得意な奴だった。
顔が羊のように白く、角が生えている。体毛も生えていて、手には斧を持っている立派な化け物だった。
 
「中々……現世の物質は脆いな。気の毒に思うぞ。こんなものしか作れない一般社会に」
 
『ええ。そうね。私もそう思うわ。でもね……』
 
私はいきなり斬りかかった。
 
『言わなかったかしら?私はそういう悪魔を殺し続けるって……』
 
「ふん……そんな身体で何ができる?」
 
さっきは……ああ言ったけれど、それでも言わずにはおれなかった。
 
『何でもできるわよ』
 
「なに?」
 
『人間を舐めないで……くれるかしら。人間には無限の可能性がある。それは計算では到底計れない……無限の強さ……人間という生き物は方程式の中では永久に解けないのよ。それをわからないあなたに……永遠に勝てるはずがないのよ!』
 
「ぐっ!貴様……」
 
キィンと金属音がぶつかる。
私は押し返した。だけど、やはり空中戦では奴に分があるのは明らかだった。
だけど、私は攻撃の手を休めない。
 
『フレイムフォトン!』
 
大気中の水素をかき集めて、それを結合させる。すると、それは小規模な爆発を起こさせた。空中で花火が上がる音がする。
見ている人は綺麗に映るかもしれないが、やっている自分としてはとても……苦しい展開だった。
 
『くそっ!やっぱり無理か……』
 
私は奴を見る。普通の悪魔なら死ぬ私の術も彼には通用しないのだ。戦いが怖いわけじゃない。死ぬことも怖いわけじゃない。
ただ、私が死ぬと……何か取り返しのつかない事が起こりそうで……それがとてつもなく怖い。でも、やはり……使うしかない。私が自ら禁じた術。ゴットセイバーを……。
何故禁じたか。それは地球そのもの生命エネルギーを使うので、私としては、問題はないのだが、地球にある空や水、海や太陽、木や雲、雷や地面などをエネルギーとして使う。
だから、地球そのものがだめになる可能性だってあるのだ。
確かに……奴は強い……が。できれば使いたくはなかった。
でも、せっかくみんなで楽しくしていたのに……それを邪魔するなんて……許せなかった。
それは……私自身のプライドの問題だった。
 
『……やるしかないようね……』
 
私は両手を上にあげて、準備をする。
 
『全ての生を受けるものよ。私に力を貸して!』
 
その答えを受け取る。巨大な剣が出来上がる。
 
「な、なんだ?あれは?」
 
『受けてみなさい!ゴッドセイ…………っ!!』
 
そのときだった。後ろから、私が刺された。それは見事としか言いようのない。綺麗な直刃を手に持ったもう一人のアルゼイドだった。
ま、まさか……分裂か!?
 
『あ……ぐ……がはっ!』
 
私は血を吐いた。あまりにも強いとその強さを隠すために分裂を繰り返す悪魔がいると言う噂を聞いたことがある。そういうやつは永遠の命を手に入れるためだとか。そういうのを理由に身体をそのままで維持する方法を身につける。
だけど、まさかそれがアルゼイドに持っているとは思わなかった。
私はそのまま落下して海に落ちながら、そんなことを思ったのだった。
 
「ふはははははっ!」
 
見事すぎるだまし討ちだった。
 
『8』
 
何か、嫌な予感がする。翔子は素直にそう思った。
栞様を心配しているわけじゃないけれど、私は彼らを救わなければならない。しかし、そんなこともすぐに杞憂だと分かった。
 
「あ〜あ。あったまにくるわね。今度の悪魔って……」
 
「……本当。いきなり、デスボールをぶつけて生きてる私たちもどうかしてるけれど」
 
なんと、全員が無事でしかも、山田竜太や可奈達も乗る直前だったようで、無事に逃げれたらしい。
さすがに自分の学友をおいていくなんていう選択をしなかったけれど、自分の命の方が大事という理念からか、はたまた急のことで頭がパニくったのか。どちらにしても全員が無事と言うのはある意味奇跡だった。
 
「いや。違う……」
 
奇跡なんて起こるはずがない。そうだ。栞様が放った光。それがみんなを救ったのだ。
 
「みんな……大丈夫ですか?」
 
「うん。何とか。栞は?」
 
「敵と戦っています。アルゼイドという敵と……」
 
「あ、アルゼイド……ですって?」
 
「まさか……栞ってそんなのと戦っていたの?」
 
このみんなの驚きよう……どうやら、全員がアルゼイドのことを知っているようだった。
 
「み、皆さん……アルゼイドのことを知っているのですか?」
 
「そりゃそうよ。私たちは戦ったことがあるんですもの。でも、全敗したけどね」
 
「えっ?」
 
「おそらく、栞も戦ったことがあるはずよ。どうなったかは分からないけれど」
 
「あなた達は一体何者なの?」
 
藍子が言う。
 
「さて。みんな……議論している余地はあるかな?」
 
そのとき、麻生唯の目が覚めてみんなに言う。
 
「ええ。もちろんないわね」
 
「アルゼイドを今度こそぶっ殺す」
 
「で?いいわけね。でも、どうやって上空に行く?」
 
「…………」
 
どうやら、そのことを考えなかったらしい。みんなが途方にくれていた。
 
「と、とりあえず……藍子は避難していない人の救助を。後の人達はここで待機していてください」
 
「いいけど。あなたはどうするの?」
 
「そうか……なるほどね。いいかも」
 
「えっ?」
 
全員が麻生唯の顔を見る。
 
「要はあっちに行けばいいんだよね?それなら簡単だよ。楓さんは自分で行けるし大丈夫だよね?」
 
「はい。そうですけれど……」
 
そう言うと、麻生唯の奇策に全員が驚きを見せる。
 
『9』
 
私は死んだのだ。
死んだらまた転生されて、繰り返すだけ。
だから、死なんて恐ろしくなかった。
でも、今度の主はいい人っぽかったな。
それはもう見れない夢の奥。
お兄ちゃんがいたから、私は変われた。
でも、今度は間違えないよ。
私は間違えない。
今度こそ、生まれ変わっても。
何になろうとも。
私は絶対に悪魔を殺す。
殺し続ける。
それが……私とお兄ちゃんとの間に託された約束だから。
 
――本当にそれでいいの?
 
うん。それでいいよ。って、誰に言ってるんだろう?私は……。
 
――ふん。弱い栞らしい発言だな。片腹大激痛だ。
 
(……誰?)
 
――放棄するのか?
 
(誰ですか?)
 
なんだ?この複数の人物が話してくる。
 
――誰?これは奇なことを聞く。
 
(……誰?)
 
――解答できない
 
(……なぜ?)
 
――疑問ばかりだな。しかして、その疑問、貴殿、本当に興味があるのか?
 
(…………)
 
――どうせ、私が何者であろうと貴殿には何一つ関係あるまい。今の貴殿には、何一つ。
 
(…………)
 
――意地悪ではない。ワタクシとて、答える術を現時点で持たぬということだ。説明しても、現時点の貴殿に、理解できる存在では、到底ないということだ。
 
(…………誰?)
 
――されど訊ねるか。まあ、それも貴殿の人格の一つなのであろう。
 
なんだ?この人……私を知っているような……いいや、長年私に連れ添っているような感じがする。
 
(…………まさか……あなたは……)
 
――……いや。それではない。それではないが……まあ、似たようなものだ。
 
……誰なんだこの人は?私以上に私を知っているようで、全てではない。
 
――ワタクシへの興味が深まったな。ワタクシは……
 
(…………)
 
――いや、ワタクシと貴殿は、同一だ。
 
(……別人格?)
 
――正解、そして不正解だ。
 
(私の能力……いいえ。私の能力自身の力から生み出された……)
 
――発想が相も変わらず早いのは皮肉だな。もしくは、悲劇か。
 
(……誰)
 
――発想はいい。間違いではない。だが、全てでもない。……しかしそれは、他の人間とて同じことだろう。
 
(……)
 
――腑抜けが……。
 
(……っ!)
 
――少し、死んだくらいで自分の人生を諦めおって。今まで、貴殿は何を見てきたのだ?栄光や喜びばかりではないだろう。血みどろになりながらも地面を這い蹲りながらも、懸命に生きていた以前の貴殿はどこにいったのだ?
 
(…………)
 
やはり、この人は私を知っている。
 
――……そう。ワタクシは貴殿のことを知っている。知っているからこそ、ワタクシは貴殿に話しかけているのだ。
 
(……誰?)
 
――不甲斐ない。この一言に尽きる。ワタクシは今まで貴殿と共に生きてきたのに……貴殿には理解を一つもしていないのだからな。まあ、理解できる代物ではないのだから仕方がないのだが……。
 
(……一度……たった一度だけですけれど。話したこと、ありますね?)
 
――!……憶えていると……いうのか?
 
(……いえ。でも、思い出した。……そう……あれはヴェガを――)
 
ちょうど、今と重なっていたときだから、覚えているのだ。
 
――そうか。憶えて、いるか。そうか。……そうか。
 
(……?)
 
――腑抜けとの会話もムダではなかったな。そう……。これが、嬉しいということなのかもしれぬな。

(……?)

――では、また会おう。しかるべきときに。多分――おそらくは、貴殿、近く再度ワタクシを求めることとなる。
 
(待って!あなたは一体……)
 
――それは、もう一度邂逅したときにでも……ゆっくりと話そう。
 
(ありがとう……)
 
――……。
 
その声は聞こえなくなった。
でも、大丈夫。
私はもう迷わない。
たとえ、どんなことが起ころうとも。どんな立場にあっても。私は悪魔を殺す。
殺し続ける。
それが兄と約束したことであり。
彼女との輪廻を超えて守ろうとした誓いでもあったから。だからこそ、私はヴェガと戦えたし、奈落にまで追い返せたのだ。
だから、きっと大丈夫。
 
「大丈夫。私は諦めないわ。だから見ていてください」
 
私自身から発した言葉だった。
私は眼が覚めると水中の中にいた。
そして、そのままポニーテールのリボンを外す。
それは私が私でいるための枷だった。
これを外すと後戻りはできないけれど。でも、奴を確実に葬り去ることはできる。
だから、大丈夫。私がいなくても、彼女がいれば……絶対に大丈夫だから。
 
『10』
 
「なんだ?これは……」
 
先ほどから空間での歪みが生じ始めている。何かの天変地異の前触れなのか?
だが、そのときだった。アルゼイドに重い一撃が加わった。
 
「がはっ!」
 
だが、その人物を見て驚愕した。
 
「ば、馬鹿な!何故、貴様が生きている?」
 
「それを貴方が言いますか?何度も何度も殺しても殺してもここにまた戻ってくる。もういい加減に飽きてきました。だから、一度……輪廻の彼方まで飛ばしてあげましょう。ぶっ殺して差し上げますわ」
 
すると、彼女が馬鹿でかいエネルギーの塊のようなものを作り出した。
 
「ば、馬鹿な!」
 
「消えなさい!」
 
すると、奴は灰のままではなくてそのままの形で消滅してしまった。
さすがにエネルギーの塊では、消滅するしかない。
彼女はそれをやってのけたのだった。
 
「……久しぶりね。この身体も……さてと……」
 
「栞様〜っ!」
 
誰かがこっちに向かってくる。天使の格好をしたゼラキエルだった。
 
「栞……それがこの器の名前か……」
 
「い、今、派手に戦っていたのはお前か?」
 
「…………」
 
「すごいよ。栞さん!みんなが倒せなかった人をあっという間に倒しちゃうなんて……」
 
「…………」
 
「…………あの。栞……さん?」
 
「あなた達は誰ですか?」
 
「えっ?」
 
「私の名前は……栞……それがこの器の名前なの……?」
 
「……な、何を言っているの?栞さん……?」
 
「……まさか、あなた……入れ替わったの?」
 
静香が言う。
 
「久しぶりね。ミーネ」
 
「ミーネって……どういうこと?静香さん……何か知っているの?」
 
「その名前を知っているということは……あなたはまさか、『有』を司る人なの?」
 
「その通りです」
 
「静香……どういうことなの?」
 
芽衣も分からないと言う顔をしている。
 
「そうですよ。お姉さま!説明してください!」
 
「そうですね。あなたもいいかしら?」
 
翔子に問う。
 
「はい。私は構いませんよ」
 
「じゃあ、戻りながら、説明をしましょうか。私たちが転生をしながら生きているということはみんなも知っているわね?」
 
「何を今更?」
 
静香の問いにみんなが何を今更という顔をする。
 
「じゃあ、転生をするってどんな感じなのかしら?麗は言える?」
 
「それは……言えないわね。でも、それと栞とどんな関係があるのよ?」
 
「一人だけ。明確に苦痛だといった人がいるの?それが彼女。あなた達が今まで会った小松栞という人物。まあ、今は『流れ』を司るものとしておくわね。その『流れ』を司る人が作り出したのが別の人格と言うわけ」
 
「な、流れってそんなものも作り出せるの?ありえないわよ」
 
「そうね。作り出すというか、偶然の産物ね。さて、別人格を作り出すためには何が必要でしょうか?麗は言える?」
 
「ええっと。何よ?その問題……」
 
「ストレスね」
 
その答えに京が答える。言った本人自身が信じられないという顔をしていたが。
 
「そうよ。過度のストレスによる自己破壊。そして、作り出されたのが彼女。『有』を司る人なのよ。まあ、『流れ』を司る人は何度も何度も人に殺され続けてきたから、そのたびに転生を繰り返してきましたから……彼女は過度のストレスによって生み出された人物ですね。それが小松栞の正体です」
 
「っていうことは彼女も能力者なの?」
 
「ええ。そうよ。さっきも言ったけれど、彼女は『有』を司るらしいの」
 
「『有』ってどんな能力なんですか?」
 
「それは簡単ですよ。何でも生み出すことができる能力です。生命や木、翼や水、氷や炎、その気になれば太陽や月でさえも生み出すことができます」
 
「一種の手品みたいなものかしら?」
 
「あれは種も仕掛けもあるけれど、こっちは能力ですから。ですから、本当に種も仕掛けもないのよ」
 
「そうか。それは少し厄介な能力ね」
 
「いいえ。もっと厄介な存在がいるわ。対になる人もいるのよ。それも彼女の中に……」
 
「えっ?」
 
「その人は『無』を司る人なの。全てを消すことができる能力が……彼女の中に眠っているのよ。それを起こしてしまったら、どうなるかはわからないわ」
 
「……そ、そんな人が本当にいるの?」
 
麗が言うと、静香は天を仰いだ。
 
「……今思えば、彼女の……『流れ』を司る人の能力は全部桁外れの強さを持っていたわ」
 
「そう言えば…………そうね」
 
それには納得したのか麗も同意した。
 
「それも私たちが多人数でできる能力をたった一人で作り出してしまう天才的な人よ」
 
「そう言えば、栞って、いとも簡単に爆発を起こしていたわね」
 
それは半田との対峙したときに生み出した合成技だった。
しかし、それはいとも簡単に栞に真似されてしまったのだ。
これでは、ガーディアンが何のために生まれてきたのかが分からない。
 
「思うに『流れ』を司る人の能力は私たちに似ている節があるわ。そして、『有』を司る人の能力も」
 
ようやく地面に着いたので降りる。ここまでは静香の能力でこられたのだ。彼女の重力をマイナスにすることで浮くことができたのだ。
 
「…………」
 
しかし、せっかくアルゼイドを倒したというのに、全員が浮かない顔をしている。
それもそのはずだった。自分たちが倒したわけではなく、『流れ』を司る人の栞でもなく……『有』を司るという新しい能力者に倒されたのだ。
 
「じゃあ、『流れ』を司る栞さんはどうなったのですか?」
 
「それは……わかりません……」
 
「彼女は『生きているわ』」
 
突然の発言にみんなが後ろを向く。
 
「えっ?」
 
そこには『有』を司る栞がいたのだ。
 
「彼女は生きているわ。彼女が死ねば私も死ぬ。彼女は私に託しながら……私に入れ替わっただけよ」
 
「そうだったのですか。よかった」
 
「で?あなたはいつまでここにいる気なのよ?」
 
「いいじゃない。いつまでいても。再び『流れ』を司る栞という人物に変わるまで。それとも、私が怖い?元の『流れ』を司る栞のほうがよかった?」
 
その言葉にみんなが返答に戸惑った。
確かに彼女の能力は脅威だ。何でも生み出せるという能力はある意味で異端にも値するだろう。
 
「いいえ。そんなことありません」
 
そのとき、発言をしたのは他ならぬガーディアンの主である麻生唯だった。
 
「確かに元の『流れ』を司る栞さんのほうがよかったのかもしれません。あなたは能力者にとっては異端です。でも、それを揺るがないくらいの能力者がここにはたくさんいますから」
 
「そうですね。私たちにとって『流れ』を司る栞様は友達であり、良き理解者でもありました。そんな彼女があなたに託したのです。それを嫌とは言えません」
 
すると、彼女はふっと笑った。
 
「えっ?」
 
その笑顔は誰よりも優しく、誰よりも美しく、素敵な笑顔だった。
 
「ありがとうございます。私にはまだまだ至らないこともありますけれど、よろしくお願いします」
 
そう言うと彼女はニコニコと笑顔のまま、頭を下げた。
 
「うわぁ……」
 
今までの栞にはない彼女の笑顔に全員が戸惑う。
それもそのはずだった。彼女の笑顔は今まで見たことがなかった。
唯一見たというみどりでさえも、彼女の笑顔はほんの一瞬だけという。
しかし、彼女の笑顔は誰よりも美しくて、同時に可愛かった。
同性愛なんてしたくはないけれど。このときのみんなは彼女の笑顔に惹かれていたのだ。
元々、彼女の顔立ちは整っていて、通りすがる人がいれば美少女でも通りそうなのだが、彼女の顔がそれをぶち壊していたのだ。
だからクラスメイトでは鉄女と呼ばれていて、何事にも無関心の表情を装っていた。
でも、今の彼女は違う。なにか、オープンになった感じだった。表情とか、言葉とか。そういうものが一切オープンになったような感じがする。
そう。それは現実的にいえば、緊張をしなくなった人といえばいいのか。
 
「なんか。複雑だね。これがあの栞だと思うと」
 
「そう……ですね」
 
由佳が同意をする。
 
「可愛いと思うんだけれどなぁ」
 
その主の声に全員が危機感を感じたのは言うまでもなかった。
 
『11』
 
とりあえず、一旦は解散ということで……私、南翔子は栞様と一緒に帰宅した。
 
「ああ、そういえばそうだった。翔子ちゃん……だったっけ?」
 
その途中で栞様から、お声がかかったのだ。
 
「はい?」
 
「ありがとね。私はこんな性格だから……真面目に答えてくれて」
 
ここ数時間で分かったことだけれど、彼女の『有』を司る栞様は『流れ』を司る栞様との性格を比較してみても、全然違う。
『有』を司る栞様は好奇心旺盛で、表情が豊か。『流れ』を司る栞様は何でも知っていて、表情が希薄。そのために彼女は何でも聞きたがっていた。私のことや今の主のことを。
どちらが好きかといえば両方好きだけれど。それでも『有』を司る栞様も私は好きだった。
 
「えっ!いえ……。私も栞様がそんなことを言われて……その嬉しいです」
 
あの笑顔でこんなことを言われたら嬉しいに違いない。嬉しいを通り越してこっちが緊張する。
 
「そうね。お礼といえるお礼はできないけれど」
 
いつの間にか言葉まで普通に話せるようになった栞様は私に近づいてきた。
そして、優しくキスをしてくれた。
 
「えっ?」
 
柔らかい唇。眼を見開けば、栞様の優しい顔がすぐそこにある。
でも、私は眼を開けなかった。
そのまま、いつまでも栞様の唇を肌で感じたかった。
栞様から、ファーストキスを奪うなんて、考えもしなかったけれど。
それでも、栞様はいつまでも私と享受していたかったのだ。
 
「し、栞様……」
 
「あっ!ごめん。ファーストキスだった?」
 
「あ……いえ……すみません。私も栞様のファーストキスを奪ってしまって」
 
「私は別に構わないわよ。続きは家でしましょうか」
 
「えっ?」
 
「私の初めてを上げるわ」
 
え……?それって……栞様のバージンを頂いてもいいということですか。
しかし、そんな思考とは裏腹に、家に着いてしまった。
ど、どうしよう。私にとって栞様は理想の処女であって欲しい気もするし、逆に奪ってしまいたいという気持ちもする。
他に男がいないのなら、奪ってしまいたい。
 
「着いたわね」
 
「……栞様……」
 
「何?」
 
「お願いします!私を……私を犯してください。栞様のことを考えるだけでグチョグチョに濡れてしまって……栞様キスされただけで……私は……私は……っ!」
 
そう言うと下半身を栞様に見せた。私のスカートの下のあそこはすでに濡れており、さっきのキスでもうイク寸前だったのだ。
 
「ええ。分かっているわよ。私の能力を使って、あなたを最高の形でイカせてあげるわ」
 
そう言うと、栞様は服を脱いだ。相変わらず、綺麗な身体に私は本当に天国にでも昇るような気持ちだった。
私も急いで服を脱ごうとすると。
 
「あなたは服を着たままでいいわよ」
 
「えっ?……キャッ!」
 
栞様は私を押し倒して、胸を揉み始めた。私は首筋を舐められただけでビクビクと震える。
 
「ああ……気持ちいいです」
 
「私のあそこも舐めてくれないかしら?」
 
「えっ?いいのですか?」
 
「今までの『流れ』を司る私は舐めさせてくれなかったの?」
 
「はい……」
 
というより、栞様からそんな命令を下すこと自体が初めてだった。
 
「じゃあ、私のバージンを貴女にあげるわ」
 
そう言って、栞様のお尻をこっちに向けた。
 
「ああ。栞様のあそこ……綺麗です」
 
「そうかしら……ああ。そこよ。気持ちいいわ」
 
栞様のあそこをみると栞様のあそこも濡れていた。こんな私でも感じてくれているのか。そう思うと、私の行動は止まらなかった。
さらにクリトリスをベロベロと舐める。そして、互いの性器のクリトリスを触ったり舐めたりしているうちにもう、イキそうになり。彼女も気持ちいいのか……限界らしく、喘ぎ声を出し始めた。
 
「ああ。気持ちいいよ…………ああっ!そこがいいのぉ!」
 
「わ、私も……もうイキそうなのっ!」
 
「わ、私もイクわ……一緒に……イキましょう」
 
「ああ。イクうううううぅぅぅ―――――――――――っ!!」
 
一緒に潮を噴いてしまった。
 
「ああ。私ったら、彼女の舌だけでイッてしまうなんて……でも、気持ちよかったわ」
 
「はい。私も気持ちよかったです」
 
「満足させられるかしら?」
 
「えっ……?キャア!」
 
栞様は私の足首を引っ張って、体勢を良くすると……。
 
「し、栞様!?」
 
「何かしら?」
 
「そ、それは……一体……」
 
栞様のクリトリスの代わりに着いているものは立派な肉棒だった。
さっきまでは確かにそこにはクリトリスがついていたはずなのに。
 
「ああ。これ?これは擬似肉棒よ。面白いでしょう。私の能力の一つでもあるのよ」
 
「それって……まさか、『有』の能力……」
 
『有』の能力は何でも生み出せる。つまり、それは男の子の身体にもできるということだ。それを生み出したと。
 
「そうよ。『流れ』を司る私ではできなかった能力ね。ちょっと舐めてくれるかしら?」
 
「えっと。こう……でしょうか?」
 
そう言うとちろちろと舐め始めた。
 
「ああ……そうよ……」
 
すると、栞様の肉棒からは先走り汁が出てきた。こういうのも男の人の身体に見せるための擬似肉棒というわけか……。
一通り、舐め終えた後……私は脚を開いた。
 
「栞様……!私を犯してくださいませ。エッチなこの私にどうかお慈悲を……」
 
「ええ。分かっているわ。でも、その前に……」
 
すると、栞様は自分の肉棒を消して、私に肉棒を取り付けたのだ。
 
「貴女にも満足してもらいたいから、順番にね」
 
「えっ?」
 
そう言うと、栞様は私の肉棒を舐め始めた。初めての感触だった。
何これ……?私の身体じゃないみたいだけれど、私の身体みたいに気持ちいい。
突然の快楽に私は身をよじりだした。
 
「ああ……気持ちいい……!な、何これ?初めての感触で……頭が真っ白になっちゃう」
 
「少しずつ、大きくなっていってるわよ。あなたも……ずりゅう……感じて……くれているのね」
 
彼女は私の肉棒を吸いながら、そんなことを言う。もう、何が何だかさっぱりだった。
でも、限りなく気持ちがいい。快楽を求め続けてきた私だけれど、こんなにも気持ちがいいのは生まれて初めてだった。
『流れ』を司る栞様もすごかったけれど、『有』を司る栞様もすごい。
 
「ああぁぁ――――っ!男の人の性器で感じちゃう!こんなの初めてぇ―――っ!」
 
「私も初めてよ。女の子を男の子にして……犯すのは」
 
一時的とはいえ、女の子を男の子に変えて、犯すことは彼女も興奮が収まりきれそうになかった。
 
「ああ―――!また。イク……イッちゃう!」
 
「ええ。イキなさい。私の口の中に出して……!」
 
「い……イクうううううううううぅぅぅぅぅ――――――――っ!!」
 
私は栞様の中で潮を噴いてしまった。大量の白い液が栞様の口の中に入る。
 
「すごい……濃い精液ね」
 
「え?それ……精液なんですか?」
 
「ええ。そうよ。私が作り出したものは全て実体化する。つまり、あなたは男の子にしばらくなっちゃうのよ。まあ、私が作り出したから、いつでも消せるけどね」
 
「ああ……ごめんなさい!そうとは知らずに……私……栞様のお口の中に……」
 
「気にしないで……私がそう望んだのだから」
 
そう笑顔で言われると、私は栞様を犯したくてたまらなくなってしまった。知らず知らずのうちに顔が赤くなる。
栞様に気持ちよくなってもらいたい。その欲求が私にはあったのだ。
 
「し、栞様!」
 
「何かしら?…………っ!キャア……!」
 
私は栞様を押し倒した。
 
「し、失礼します!」
 
無礼を承知で頼み込んだ。あとで怒られてもいい。栞様をこの手で犯せるものならば。栞様を自分の手で染め上げるまでは。
すると、栞様は相変わらず笑って言う。
 
「いいわ。来て……」
 
私は栞様が作ってくださった肉棒を栞様のオマ○コの中に深く差し込んだ。
 
「ぐっ!……くうっ、ぐうっ……うっ、うあっ、ぐうっ、うっ、うっ…………!」
 
未知の痛みに少し強張る栞様。
それはそうだろう。私も始めて犯されたとき同じ痛みを感じたのだ。それは想像を絶する痛みなはず。
 
「大好きです。愛しています!栞様ぁ!」
 
栞様のオマ○コがきゅっと縮まる感じがする。私に言われて感じてくださっているのだ。
 
「わ、私もよ……翔子……っ!翔子!」
 
私の名前を何度も叫ぶ。
 
「ああ。イク……イッちゃう!」
 
「私もイク……イッちゃうわ!」
 
「し、栞様……一緒に……!」
 
「ええ。一緒に……っ!」
 
「ああああああああぁぁあぁあぁぁあああぁぁああぁぁあぁ――――――――っ!!」
 
私たちは絶叫を上げながら、同時にイッた。私は彼女の身体にいっぱいの精液をかけたのだった。
 
『12』
 
あれから、私たちは交互に犯しあった。
私は能力を使って彼女の肉棒を貫いて犯した。
それを数順して繰り返した後、ようやく彼女は気を失った。
 
「ふぅ……」
 
それにしても、とても気持ちがよかった。初めてなのに……栞という名前になる以前も試したことがあったけれど、これほどはまるとは思わなかった。癖になりそうだ。
 
「今度は中に入れて妊娠しちゃうかもしれないわね。あんまりすごいと」
 
今回は身体にかけられたからよかったものの今度は中に入れられるかもしれない。
それはそれで気持ちがいいけれど。
私は……どうなんだろう。誰かを愛するということがこんなにも気持ちがいいなんて思わなかった。
それが、たとえ女の子でも。いや、女の子だからこそ、気持ちがよかったのかもしれない。
 
「う……ん」
 
彼女が寝返りを打った。
あんまり可愛いのでキスをして、その場を離れた。
すると、そのときだった声が聞こえた。
 
「なんや?もう終わったんか?」
 
「……支倉みどりさんですか?」
 
「そうや。あんたが『有』を司る栞やな」
 
「……何故知っているのですか?」
 
「ついさっき、唯という人から聞いたわ。電話がかかって来てな。んで家に帰ってみると案の定や。栞と翔子が犯されとった。栞も可愛かったで?」
 
知っていたのなら、何故止めない?
 
「別にいいですけれど。このことは誰にも内緒ですよ」
 
「ああ。そんなもん。わかっとる。で?どうして私のことをあんたは知ってる?」
 
「翔子から聞きました。支倉みどり様という寛大な人が居ると」
 
「なるほど。翔子らしい言い方やな」
 
「ついでに言うと、何でもみどり様に相談するといいらしいです。でも、私はこれといって何も相談することがないのが残念ですが」
 
「そうやな。なんや。根本的な部分は同じやないか」
 
「えっ?」
 
「栞の口癖やで?」
 
「なるほど。『流れ』を司る私もそんなことを言っていましたか」
 
「まあ、あっちは表情が読めない分何を考えているかは分からんかったけれどなぁ」
 
「そうですね」
 
私ははにかむように笑った。
 
「で?いつになったら栞は戻るんや?」
 
「それはわかりません。ずっとこのままなのか。それとも死んで転生したらそうなるのか」
 
「一応、多重人格の部類に入るんやよな?」
 
「いいえ。『流れ』を司る私は私のほんの一部分にしか過ぎません」
 
「な、なんやて?」
 
「つまり……私が主人格の元になります。つまり、戻れればいつでも戻れたわけですね」
 
「ど、どうして戻らなかったんや?」
 
「理由の一つは私の力が強力すぎたからです」
 
「『流れ』の方の栞も十分強かったで?」
 
「ええ。だから、あふれすぎた私の力では抑えきれないんです。だから、精神を三つに分けた。そして、『流れ』を司る私は更にもう一つ。別の魂を増やした。それが元の私の姿です」
 
「精神が肉体に追いつかなかったんか?」
 
「あなたは医者だから知っていると思いますが、人間の精神は脆いものです。だから、それに耐えうる肉体が必要だった」
 
「でも、どうしてあんたがそんなことを知っているんや?あんたも『流れ』の方の栞の一部分なんやろ?」
 
「いいえ。先ほども言ったでしょう。元の私がいると。その人が私たちを作ったのですよ」
 
「それが……元の栞か?」
 
「ええ。仮にオリジナルとしましょうか。オリジナルはあふれすぎた力に精神が肉体に追いつかなかったから、魂を四つに分けた。一つは『有』を司る私。もう一人は『流れ』を司るあなたが会った私。そして、三人目が『時』を司る『流れ』を司る私が作った私。そして最後に未だに会っていない『無』を司る私です。この人は本当に作ったのかどうかすらわからない」
 
「でも、鍛錬を積めばいくらなんでも許容量がオーバーすることはないんちゃうか?」
 
「では。もう一つ。人格を作る上でもっとも大切なものは?」
 
そこまで言って、さすがの彼女もピンと来た。
 
「ストレスか?」
 
「そうです。オリジナルの私は人間に殺され続けてきた。その中の過程で生まれたのが私たちです」
 
「なるほどなぁ。殺されても殺されても、転生し続けるからなぁ。どんな苦しみやったんやろ?」
 
それは一般的に死ぬよりも恐怖だった。
 
「そういうことですね……」
 
「辛かったんやなぁ。栞も……」
 
「はい。でも、私たちは泣きません。私は喜びはするけれど」
 
そう言うと、私ははにかむように笑ったのだった。











     




















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