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私は多分……強くない。
私が強ければ、多分もっと別な形のハッピーエンドが見られたはずだ。
そう。兄を殺さずに住んだのかもしれない。
でも、それは過ぎたことだ。
私はこれからも悪魔を殺し続ける。
だってそれが、兄からの最後のメッセージなのだから。
 
『1』
 
私は麻生唯のことが大嫌いだ。
まるで昔の私みたいに何かを背負い込んでいる癖がある。
最近では考えることが多くなったのも事実だった。
しかし、私が聞いてもなんでもないよと言う。でも、何かを隠していることは確かだった。
私はこういうのを見ていると腹が立ってくる。
でも、彼は悪魔じゃないので殺してはいけない。
 
「であるからして……この問いにはそうだな。小松……解いてみろ」
 
そう言うと私は立ち上がった。
麻生唯の前を通り過ぎて教卓の前に立った。黒板を見る。
なるほど。二次方程式の変域を求める問題だった。
私は頭の中で公式を構築する。
そして、頭の中で整理しながら、解いていく。
最後の答えを書くと、私は先生にこれでいいですか?と先生に眼で訴える。
 
「完璧な答えだ」
 
そう言って、先生も満足したのか。着席を命じる。
私は帰るときでも麻生唯の顔を見ていた。
麻生唯はどことなく余裕のない表情をしていた。
それがはっきりとわかったのは、帰りのことだった。
 
「麻生……どこかによっていくか?」
 
「ごめん。今日はちょっと用事があるんだ」
 
「なんか、最近……元気がないね」
 
「うん。ちょっと人を待たせているんだ」
 
その声を聞きながら、私は教室をあとにした。
帰りは会わないほうがいいと言うのは私の意見だった。
教室でいらぬ噂が立たないようにするためだった。そうすると、今後の活動に支障をきたす恐れがあった。
まあ、そうでなくても彼と美少女、美人ガーディアンとの噂が立っているけれど。
たとえば、女の子の風呂を覗いて張り手を食らわされたとか。
しばらく歩いていると、何かが妙だった。
何だろう。この感じ……まるで、私と同じみたいな感覚。
私はガーディアンの一人に連絡してみる。この時間だと、まだ家にいるはずだ。
 
『はい。もしもし』
 
『京か……麻生唯はどうしたの?』
 
『その声は栞か?』
 
『私の問いにだけ答えて。麻生唯はどうしたの?』
 
『まだ、家に帰っていないけど』
 
『そうか……』
 
『んで?どうしたの?』
 
しかし、私は京の問いに答えるまもなく、切った。
気になることはある。
私は『流れ』を使って、唯の足跡を追った。
 
『2』
 
廃ビル……とは言っても栞が前に唯を連れ込んだところとは別のところでゴスロリの少女が佇んでいた。ザウラスである。
ザウラスは腕を組み、とある少年を待ち続ける。
西洋人形のように薄いピンクのゴスロリータファッションは見るものを惹きつけるが、ザウラスの目的はとある少年でしかなかった。
その少年を待ち続ける。しかし、そのとき石ころが転がる音を聞きながら、ザウラスは喜びの声を上げる。
 
「早かったわね」
 
「ああ。まあな」
 
驚くことに麻生唯は前のとき姿を隠すのではなく、ザウラスの前に姿を現したのだが。
 
「どうしたの?顔色が悪いわね」
 
「別に……なんでもない」
 
「日を改めましょうか?その様子じゃあ……戦いに集中できないわよ」
 
「顔色の悪さはあんたも同じだろう」
 
実際、唯のコンディションは最悪だった。
しかし、そんなことを意にも介さずに言う彼に対してザウラスは面食らう。
彼はやけっぱちになっているようには見えない。
だけど、幾度となく、こんな困難を乗り越えてきたのだ。今更、コンディションを理由で逃げました。なんて口が裂けても言えなかった。
 
「そうね。じゃあ、始めましょうか?」
 
「ああ。そうしよう」
 
そう言うと、いきなり音の剣を出した。しかも、二本。片手に一本ずつ出して、奴に向かっていった。
しかし、ガキィンという鈍い音がして硬直した。
 
「あくまで接近戦勝負か?」
 
「ああ。そうでもしないと。多分、一生あんたには追いつけないからな」
 
唯は体を捻って奴を蹴飛ばそうとするが、寸前で避けられた。
 
「そういえば、あなた……遠距離が得意じゃなかった?」
 
「そうだけど、接近戦に切り替えることにした」
 
「……何故?」
 
「とある女性の影響でね。まあ、あんたに言ってもわからないだろうね」
 
「……?」
 
ザウラスは首をかしげながら、唯と対峙する。
以前、栞に教えてもらったことを生かして接近戦へと変えたのは昨日のことだった。
元々唯は接近戦が得意ではなかった。だけど、いつだったか京と戦ったとき、頭の片隅に接近戦に対する心構えも頭に入れておいたのだ。
音エネルギーを駆使して、頭をフル回転させて、唯は積極的にザウラスに向かっていく。
 
「くっ!」
 
攻撃が重い。受けきれないと踏んだザウラスはその攻撃を受け流す。
そして、唯も左で攻撃を繰り返す。
しかし、今度は唯が攻撃を受けきれない番だった。
 
「くっ!身体を硬質化させても意味がないわね」
 
この状態だと、伸縮自在に伸びる能力も無に等しい。再び密着して、唯がついに一撃を浴びせた。
だけど、それでも剣道の一撃では浅いといわれるだろう。ほんの少しかすった程度だった。
しかし、接近戦が有効だということはこれでわかった。唯は再び攻撃を繰り返す。
右に左。左右に対する攻撃に音エネルギーを駆使して使う唯の攻撃にザウラスは驚愕した。
 
「くっ!くっ!」
 
キィン!ガキィン!という音が響いて、再び互いにこう着状態が続いた。
しかし、今度は唯が押し戻された。
 
「うわっ!」
 
そのまま後ろに仰け反ったが、すぐに意識を集中させてバク転をする。
前半から常に全開だったが、その全開が仇となった。
なおも彼の攻防は止まらない。だけど、若干唯のほうが、分が悪いのは明らかだった。
それもそのはずだった。
彼は常に全力で能力を使い続けていたのだ。それはブレーキの利かないF1レーサーが走り続けるのと同じ。いつバラバラに分解されてもおかしくない状況だった。
 
「ぐっ!」
 
しかし、そのときだった。
 
「我が能力を忘れたのかしら?」
 
しまった。と唯は思った。
彼は肉体の一部を切り離せる。
それゆえに失念していた。
しかも、最悪の状況だった。
それは容赦なく、唯の背中に向けて放たれたからだ。
 
「まずい……!」
 
しかし、避けられない。どうしようもない。
唯に焦りが見られる。
まずい。死ぬ。そう思って目を閉じたときだった。
 
『全く……麻生唯も無茶なことをしたものね』
 
「えっ?」
 
そこには、唯の中学校の指定服を着た小松栞が立っていたのだ。
彼女はザウラスが放った肉体の一部を掴むと、それを折った。
すると、それは黒い霧になって四散した。
 
「な、何者?」
 
『フン……ザウラスですか……会うのは初めてだけれど。少々おいたが過ぎたみたいね』
 
『3』
 
本当に……彼には驚嘆させられるばかりだった。
まさか、私と同じ行動をとるとは思わなかったからだ。
 
「栞さん……どうして……ここに?」
 
『あなたが私と同じことをしてると思ったからよ』
 
そう。彼が私と同じことをすると思ったから、私はここに来たのだ。
六年前と同じ。私が家出をして、とある男を追いかけるためにしたことと同じことを麻生唯はしたのだ。
 
「……っ!」
 
私は彼の体を回復しようと試みるが、それを麻生唯は振り払った。
 
『……?何のつもりですか?』
 
「助けてもらって悪いけど。あいつは僕が倒さなくちゃいけないんだ。だから、邪魔しないで」
 
そう言って、立ち上がろうとする。私はやれやれとため息を吐いた。
 
『あなた。本当に私があなたを助けに来たと思っているんですか?』
 
「えっ?」
 
ドゴンっ!という重い一撃が響き渡る。
私が麻生唯の腹に重い一撃を食らわせたのだ。
 
「な、何を?」
 
麻生唯の混濁する意識の中、私は言葉に流れを乗せて言う。
 
『私は自分の意思でここに来た。ここに来た目的はあなたを助けるためじゃない。私がここに来た目的はザウラスを殺すためです』
 
唯が意識を失うのを確認すると。私は彼を置いた。
 
「あなた……何者なの?」
 
再度、ザウラスが問う。しかし、私はその問いに答えず、彼に接近戦に持ち込んでいった。
 
「なっ!」
 
『流れ』で作った剣で奴を斬り伏せる。
 
『アイスダガー!』
 
私が叫ぶと、氷の結集した剣が奴に飛ぶ。奴は一回転をしながら跳ぶと、私に向かって一撃を加えるが、その攻撃を私は読んでいた。すぐに受け流して奴を投げた。
すると、ザウラスは壁を蹴って助走をつける。しかし、私は蹴り上げる。
 
「ぐはっ!」
 
『フレイムフォトンっ!』
 
すると、奴の周りが爆縮した。私の『流れ』で周りの空気の酸素濃度を高めて、あとは周りの酸素濃度を集めて、着火すれば可能の攻撃だった。
いきなりの攻撃に戸惑いを見せるザウラス。
 
「ゲホッ!」
 
ザウラスが地に落ちたと同時に私は再び叫ぶ。
 
『エアプレッシャー!』
 
土が隆起して奴に襲い掛かる。今度は土のエネルギーを使って、超小規模の地震を発生させて、土を操り隆起させる。
しかし、ザウラスもしぶとかった。体を硬質化させて、それを受け止めるばかりか、私の足を掴んで反対側へと投げ飛ばした。すぐに戦いへと切り替えたのだ。
私はすぐに起き上がり、すぐに術を撃つ。
 
『セット!セイントビーム!』
 
私はザウラスに向かって二本の指を向けてレーザーのようなものを放つ。
しかし、ザウラスが伸縮自在の腕を上に伸ばして、照明を掴んで上空へと逃げた。
そして、その反動を利用して私に襲い掛かる。
鋼鉄の刃が私に襲い掛かる。
しかし、それは私の水の分身だった。私の能力で作った水の分身だったのだ。
 
「なっ!」
 
『本物はこっちよ』
 
そう言うと、私は流れに乗せて奴を斬った。圧倒的な私の勝利だった。
 
「がはっ!」
 
しかし、ザウラスはなおも立ち上がる。
 
『あら?まだ立てるのですか?しぶといですね』
 
「覚えていなさいよ」
 
『えっ?』
 
堂々と宣言して、天井を破壊してしまう。
 
『し、しまった』
 
私は奴を確認するが逃げ去っていった後だった。追おうかどうか迷ったけれど、麻生唯を放っておく選択肢が私にはないために。追うのを諦めた。
私はため息を吐いて、麻生唯を担ぎ上げながら、回復を行った。
 
『4』
 
「ええ。ごめんなさい。迎えに来てくれると助かるわ」
 
そう言ってザウラスは電話を切った。彼は悪魔なので自分で体力回復はできるが、それでも中々うまくはいかなかった。
それもそのはず。あの女に恐怖したのだ。
 
「くそっ!何者なの?あの女!」
 
最初、眼を見たときゾッとした。あれは幾多の戦場へ駆け巡り、何度も死を体感したガーディアンと同じ眼だった。でも、決定的にガーディアンと違うのは、あれは相当悪魔を憎んでいる眼だったのだ。しかし、彼は息を吐いて思い直す。
 
「全く……」
 
何故か、自分がひどくちっぽけに見えたのだった。
しばらくすると、車のエンジン音を響かせてやってきた車に乗ってザウラスは帰宅したのだった。
 
『5』
 
「唯っ!」
 
『あら?あなた達……』
 
私は麻生唯を背負いながら、帰路に帰る途中の河原で彼女たちに出会った。
あたりはすっかり闇に落ちてしまい、遠くで光り輝いて見える星があるくらいだった。
月明かりに照らし出されたのは十二人の美女だった。
そう。なんと、ガーディアン全員と鉢合わせしてしまったのだ。
だけど、私は無表情に言う。
 
『ひょっとして唯君を迎えに全員で来たの?』
 
「う、うるさい!さっさと返しなさいよ」
 
『あら?それが人に物を頼む態度なのかしら?麗……』
 
私はため息を吐きながら告げる。
 
「お主……我が主をどうするつもりだ?」
 
『久しぶりね。エリザ……別にどうこうするつもりはないわ』
 
そう言うと、彼を京に渡した。
 
「唯……っ!アバラが三本も折れてる。くそっ!ザウラスの仕業ね」
 
『ああ。それ、私の仕業よ』
 
すんなり告げると、予期せぬ答えが返ってきた。
 
「何ですって?」
 
『私が彼を気絶させるためにやったわ』
 
すると、いきなり私の周りが吹き飛んだ。私は飛翔して逃げて小言を言う。
 
『あら?全員、麻生唯にベタ惚れなのね。やっぱり返すんじゃなかったわ』
 
「殺す……」
 
楓がいきなり、カマイタチを呼び起こす。
 
『それは宣戦布告ととっていいわけね。楓……』
 
すると、そのカマイタチが途中で止まる。
 
「ぐっ……」
 
『私に風で挑もうなんて……十年早いわよ』
 
そう言うとカマイタチを押し返した。
彼女に無数の切り傷が残る。
 
「ぐあっ……!」
 
「か、楓……!よくも!」
 
続いて百合が衝撃波を駆使して空中疾走する。
右拳を振り上げたときだった。私は綺麗に避けたけれど、彼女は私の足を掴んで投げた。
 
「はっ!」
 
さらに衝撃を倍化させる。まるで隕石が落ちてきたみたいにあたりには穴が開く。
しかし、私は立ち上がって言う。
 
『さすがは百合ね。私がもっとも怖い相手かも』
 
「あら?それはどうもありがとう。そのまま来世でまた会いましょう」
 
妖艶に微笑んで、私に再び襲い掛かる。
 
『それは残念。私はまだ死ぬつもりはないわ』
 
そう言うと、彼女の攻撃を受け流しながら攻撃を加える。時折、フェイントを混ぜながら攻撃をする彼女に私はそれを全て読んでいた。
相手の流れる動きを感じ取りながら、私は反撃を開始する。
相手に触れず、カウンター攻撃でダメージを与えていく。
私の重い一撃が百合の腹を捉える。
すると、百合は大きく吹き飛んだ。
 
「がはっ!」
 
何とか衝撃を吸収してダメージを防いだのはいいが、私の攻撃までは吸収できなかったようだ。血を吐きながら私に向かっていく。
 
「百合ッ!貴様!」
 
次に雛菊とエリザが攻撃をしてきた。三人同時に攻撃を仕掛けてきた。
すると、芽衣や由佳、早苗と円もミシェルも必死になって応戦する。
私は雛菊の太刀筋を見切りながら、エリザの速い速度を避けながら、そして、百合の衝撃波をかわしながら攻撃を加える。
だけど、それのどれも決定打には程遠い。それもそのはずだった。
私には兄以外を殺せないのだ。
でも、このまま能力が削れて行くのも面白くなかった。
私は少し本気を出そう。そう思った。
 
『少し……本気を出してもいいかな?』
 
「なに?」
 
すると、雛菊の剣を蹴り上げて、エリザの速い動きを右手で止めて弾き飛ばした。百合の攻撃を回し蹴りでカウンターを食らわせる。
芽衣の氷を避けて、攻撃をしようとするが氷によって阻まれてしまう。
だけど、その攻撃によって芽衣が片膝をついてしまった。
私は流れを駆使して彼女達にダメージを与えることに専念したのだ。
 
「芽衣!」
 
しかし、そうとは知らずに由佳が激昂して私に近づく。ミシェルも電気のエネルギーを自分に変えて攻撃をする。
だけど、私が逆に由佳に近づく。由佳が逆に驚いた。
 
「なっ!」
 
『私に近づいて火傷を負わせようと思うのはいいけれど、自分を見失っちゃダメですよ』
 
「こんのぉ!」
 
そのとき、ミシェルが私に近づいて高速パンチを叩き込む。
 
『あなたはもう少し節操を弁えたらどうかしら?』
 
「えっ!うそっ!」
 
私はミシェルの高速パンチを受け止めて自分の流れを止めたのだ。当然、動かなかったのである。
あたりに砂煙が発して、私はミシェルを投げた。一本背負いで……。
 
「イタタタ……」
 
尻から落ちたのか尻をさするミシェル。その上から追い討ちをかけるように私の踵落としを食らわせる。
完璧に気絶させるか殺してしまうまで気が済まなかった。
 
「ミシェル!」
 
さて、次は誰かな?と辺りを見回したとき。おかしいことに気づいた。一人いない。そう思ったとき。
早苗が土から出てきて私の脚を掴んだ。
 
『し、しまった!』
 
すっかり油断していた。
 
「みんな!今よっ!」
 
そしてそれを見計らったようにみんなが私に向かって襲い掛かる。だが。
 
『な〜んちゃって……』
 
私は無表情にそう告げると、それは水に変わった。
 
「えっ?」
 
そう言うと、みんなが早苗をボコスカと殴り始める。
 
『……で?あとはあなた達四人だけなの?』
 
私はため息を吐きながら告げる。残ったのは京と円、静香、そして麗の四人だけだった。
 
「栞……」
 
『静香……』
 
私は最強の能力者である静香を見る。
 
「栞は……どうして本気を出さないの?」
 
『えっ?』
 
「私と戦っているときもそうだった。あなたはいつも一歩引いて私を殺さないように戦っていた。私たちのことが憎いのなら殺してもよかったはず。なのに……あのとき、どうして私を助けてくれたの?」
 
『それは……』
 
本当にいつも彼女は私の心を狂わせる。
ガーディアンとしてはいつも好戦的じゃなくて、普段は大人しくて争いごとを好まない彼女が人間を殺せない私に向かって言う言葉はそれだけ私の心にグサッとくるし、強い。
私……迷っている?悪魔は殺せるけれど……人間は殺せなくて……それで、こころが浮ついたままの状態で主も作らずに……。
 
「それに今だってそうよ。唯さまを殺したっていいのに……あなたは殺さずに連れてきた。それだけじゃない。あなた……ひょっとして唯さまを助けるために一人でザウラスと戦っていたんじゃないかしら?」
 
『……っ!』
 
的確すぎる彼女の言葉に何故か……貫いてしまう。
 
「邪魔な主を憎んですらいたあなたがどうして……?」
 
『……あなた達にはわからないわ!』
 
私が感情的になるなんて、初めてのことだった。
 
「えっ?」
 
『ガーディアンにすらなれない私をガーディアンになったあなた達に何がわかるって言うのよっ!!』
 
「……何もわからないわ。だって、あなたとまともに話したことなんてなかったから」
 
『……っ!』
 
「でも、やっとで感情を表に出したわね。そうやって、人はぶつけ合えればいいのよ。嫌なことは全部吐き出して」
 
私はお姉ちゃんの言葉を思い出した。
 
『これからいっぱい話をしてくれるか?どんなことでもいい。些細なことでもいい。全てを受け入れる覚悟はするから。私……もっと強くなりたいんや。栞を守れるように……大切な人を守れるように……』
 
あれは苦しいことや悲しいことをぶつけ合えという意味だったのではないのだろうか。
でも、私は……それが正しいことだとは思わない。
私は何を言えばいいのかわからなかった。そのまま時が過ぎていく。
 
「栞さん……」
 
そのとき、唯が起きてしまった。
 
「唯さま……」
 
「唯……っ!」
 
「栞さんはみんなのことが羨ましかったんだね。だから、嫉妬して戦って……でも、助けて……矛盾したことを続けていたんだ……そうだよね?」
 
『……やっと、気付いてくれたのですね』
 
「最初は分からなかったけど。栞さんの行動には矛盾が多かったからね」
 
『それで?どうする気ですか?私を彼女たちの仲間にしますか?』
 
「したいけれど。それじゃあ、何の解決にもならないと分かっているよ」
 
『その通りです。じゃあ、どうしますか?』
 
「……その前に……僕と戦ってくれない?それで……多分、はっきりするから……」
 
「唯っ!」
 
突然の申し出に私は頭が混乱する。いつの間にかガーディアン全員が来て必死に止めるけれど、唯はあははは……と乾いた笑いをするだけだった。
 
『……何ですか?それは……』
 
「つまりは……僕と戦ってほしいということだよ。もしも、僕が勝ったら、僕の言うことをひとつだけ聞いてもらうことにする。もしも、僕が負けたら、栞さんの言うことをなんでもひとつだけ聞くよ」
 
『それはつまり……私に主の力を見定めろ……と言うことですか?』
 
「そんなにかっこいい言葉じゃないけれど、栞さんにはぜひとも知って欲しいんだ。僕の力を……その上で決めて欲しい。僕の仲間になるか……それとも一人のほうがいいのかを決めて欲しいんだ。栞さん自身で……」
 
『わかりました。で?勝負の方法は?』
 
「雛菊さん。剣を出せますか?」
 
「はい。出せます……けれど……まさか!」
 
「うん。日本式でいう剣術で決着をつけたいと思うんだ。いいよね?」
 
まさか、今代の主から剣術で決着をつけたいといわれるとは思わなかった。
 
『構いません。私も剣術は不向きですのでハンデとして戦います』
 
そう言うと、私も自分で剣を出す。剣というより流れで作られた長尺の薙刀みたいなものだが、麻生唯の目的は何なのだろうと考える。まさか、私と本気で勝負して勝てるわけがない。となると、私に決めろということなのか。
 
『それで?勝敗の方法は?』
 
「う〜ん。相手を打ち負かしたほうが勝ちということで……いいよね?」
 
彼がそう言うと、私がため息を吐いた。
 
『構いませんけれど、詳細な勝敗の方法が必要ですよ?』
 
「う〜ん。じゃあ、相手を気絶したら勝ちでいいよ。それかもしくは、降参したほうが負けということでどう?」
 
『そういうことですか……わかりました。つまりは能力を使って戦おうということなのですね』
 
「そういうこと。お互い疲れているから、互いに一撃しか加えられないけど」
 
見切られていた。私の能力の弱点。それは持続が続かないことだ。それでも、今日だけで五時間近く戦っているのだ。
ザウラスとの戦いに加えて麻生唯の回復に能力を使い、そして彼女たちに戦いを挑み、本当なら帰って寝るだけなのに……。
どうやら、まだ戦う羽目になりそうだ。それも、主と。
加えられる攻撃はあと一撃。
私はため息をまた吐いて告げる。
 
『では……行きます』
 
私はタイミングを計る。こういう場合はタイミングが重要だ。そして、余計な力を使わないために極力最小限の力で戦わなければいけない。
麻生唯が構える。対する私も構える。薙刀は一通り習ったことがあるけれど、まさか、ここで使う羽目になるとは思わなかった。
私と麻生唯が走る。互いに一撃を入れれば勝ち。そうでないなら、負ける。
麻生唯の音の攻撃を私は読んで避ける。
互いに知っている技だから、避けるのは容易かった。しかし、それでも私の動きはどこかぎこちなかった。当然だ。疲れているのだから。互いに剣を振り下ろし、キィン!という音が交錯する。
 
「ぐっ!」
 
それでも彼が負けたのは、私の攻撃が単に重かっただけのことだろう。
しかし、麻生唯が反撃する。私はその流れを見切りながら避ける。
まずい。もう、私の能力も数回しか使えない。
早めに決めないと。今度は私の体力が削られる。
私は水を流れで集めて、さらにそれを凍らせる。大気中の水分を一瞬にして凍らせて唯に向かって降り注ぐ。
 
『氷雨!』
 
まさに雹とも呼べる攻撃方法だった。しかし、唯も必死にガードをする。
それは傷四つで済んだというべきか、それとも驚愕するべきか。
 
「唯さまっ!」
 
静香が叫ぶけれど、唯は立ち上がって私を見据える。
だけど、私は止まらない。すぐに水を電気分解して、流れで唯の周りに集める。
そしてすぐに爆発させた。
 
『爆縮せよ!フレイムフォトン!!』
 
ダメージが残っているはずだから、これは避けられない。
 
「唯っ!」
 
「唯様〜っ!!」
 
意識がぶっ飛びそうだった私に渇を入れる。
氷雨からその氷を電気分解して爆縮させた。普通の人間なら死んでいる。同じガーディアンなら意識がぶっ飛んでもいいはずだ。悪魔なら、わからないけれど。
どっちにしろ、逃げ道はないはずだ。私が勝った…………はずだった。
なのに麻生唯は立ち上がる。剣を支えにして必死に立ち上がっている。そうか。私の攻撃が当たらないわけだ。さすがは主。他の悪魔とは一味も二味も違う。
彼は音を駆使して私の攻撃を避けていたのだ。ひたすら避けていれば、いつか私が力尽きる。さっきの爆発の瞬間を私は見逃さなかった。彼は音を聞いて、後ろに下がりながら必死に私の声を聞いているのだ。
私はため息を吐く。これほど、強い人と戦ったことがない。
でも、だからこそ……私は勝ちたいと思う。
 
『さすがは彼女たちの主です。私の攻撃を見事に避けていましたね?』
 
「いや、栞さんが何かをすると分かっていたから対応できていただけだよ」
 
『それでもすごいです。あなたは自分の能力が分かっていませんね』
 
「えっ?」
 
『まあ、これではっきりするでしょうね』
 
そう言って私があれを出した。幾多の敵を殺しながら、それでも人間に殺され続けてきた私が出したオリジナルの術。私のもっとも得意な術。『星光(せいこう)の流れ』の由来はここから来ている。
 
『今までの奴は由佳や麗、芽衣でもできた術です。でも、これは避けられますか?』
 
それは馬鹿でかい生命エネルギーだった。
 
「し、栞さんっ!」
 
『私の生命エネルギーを使った攻撃です。それゆえに回避は不可能です』
 
「ま、まさか!」
 
『行きます!降り注げ!星光の流れっ!!スターライト・ストリーム!!』
 
そう言うと私の集束砲が一点集中して彼の元へと一気に降り注ぐ。すると、彼は必死でそれを止める。
ここまできたら後はどちらの能力が優れているかだった。
そう。勝負を決するのは速さでも力でもなく、勝ちたいと思う想いだった。そしてそれが能力に左右する。
 
「うぐっ!ぐああああっ!」
 
彼も必死にガードするけれど、私のほうが強いのは明白だった。
だけど、私に反撃する力はなかった。これが破られれば終わりだ。
私は、あとは祈るしかなかった。自分の力と自分が行ったことを信じながら。
 
「唯っ!」
 
麗が叫んで唯のところに近づいた。他のガーディアンも同様に近づく。
彼は気絶をしていた。当然だ。あれだけの攻撃を受けて無事だったら、それはそれで恐ろしい。多分、あのとき彼は音を駆使して私の攻撃を遮断していたのだ。
 
『そういえば……引き分けの場合のときを……考えて……なかったわね……』
 
「えっ?」
 
私は気絶した。もう立っているのも辛くなっていたから。
 
『6』
 
……ここは。どこなのだろう。
私が眼を覚ますと、そこはとある寝室だった。
私は記憶を振り返して、気づいた。
 
「あら?気がついたの?」
 
静香が入ってきた。
 
『ええ。彼は?』
 
「安心して……無事よ」
 
『そうですか……よかった』
 
私はふぅ……とため息を吐いた。
 
「栞……あなた……」
 
『何?』
 
彼女の瞳が潤んでいる。それは緊張からか……それとも。
 
「……本当に唯さまを殺すつもりはなかったの?」
 
『……それ……誰から聞いたの?彼から?』
 
しばらく考えてから、彼女が答えた。
 
「……ええ」
 
『兄を殺したことも彼から聞いたのね』
 
私はため息を吐きながらそう言った。
 
「……ええ。それで……あの……ごめんなさい!」
 
彼女が頭を下げて謝罪する。
 
『…………』
 
私は何も言わなかった。
彼女がそういう行為をするのは当然だという気もするし、ここで彼女に慰めても何の意味もないと感じたからだ。
 
「私……何も知らなくてあなたのことを傷つけてしまった」
 
そう言って泣いてしまった。
 
「私……栞のことを何も知らなくて。栞……本当は辛いのに……それを隠しているから、気づかなかったの」
 
私は常に無表情だから彼女でも気づかなかったのだろう。
 
『別に隠していたわけじゃないわ。それにね。段々分かってきたの。廃棄ナンバーであるこの私が作られたわけが……』
 
「えっ?」
 
『主に悪魔対策のために……と最近は思っていた。悪魔が私達の星を滅ぼそうとしている。だから、いつも悪魔と戦っていたの』
 
私は自分の意見を整理していく。
 
『私とあなた達の違いはきっとそこだと思うの。主のために尽くすか、それとも悪魔を徹底的に殺すために生まれたのか』
 
「そ、それは違います!そんなの……絶対に間違っています!」
 
あまりの発言に即行で否定する静香。しかし、私は無表情で言う。
 
『と最近は思っていたと言ったでしょう。別に正義とかを気取るつもりはないけれど、最初は悪魔がものすごく憎かったから、悪い人だと教えられてきたから、だからこそ戦っていたの。そしてこれからもそうするわ』
 
「…………」
 
彼女は何も言わなかった。いいや、言えないのだ。
それはなんら今までとは変わりはないのではないか。
でも、私と彼女たちは違うのだ。そう思うしかないのだ。
私が生まれたときから、対悪魔用としての訓練は積んできたのだ。今更、別の生として生まれていけなんて言えないのだろう。
 
『隠れてないで出てきたらどうですか?』
 
「えっ?」
 
ここで眼が覚めるまでずっと感じてきた視線だった。すると、みんながでてきた。
 
「みんな!唯さままで……」
 
「ごめんね。ちょっと聞いていたんだけど……栞さんのことも含めて……」
 
麻生唯が代表をして言う。
 
「まあ、その……あんたがそういう過去を持っているって言うんなら許してあげてもいいかな。と思うわよ」
 
麗はいつも通りだった。変わってないのだ。
変わったのは私だけだろうか。悠久の時を生き過ぎて、変わったのは私だけだろうか。
 
『素直じゃないわね』
 
「何ですって?」
 
『素直に仲間になってくださいといえばいいでしょうに。それとも私に言わせる気なのかしら?』
 
「ち、違うわよ!断じて違うわ!そりゃあ、あんたが仲間になれば少しは便利になるかな?とか思っていたけど」
 
『はいはい。麗ちゃんは私を仲間にしたくてたまらないのね』
 
「だから、違うって言ってるでしょう!それと、そういうことを無表情で言わないで!」
 
視線を元に戻す。麻生唯に向けると。
 
「栞さんは……僕たちの仲間になるのがいやなの?」
 
『いえ。そうではありません。私は廃棄ナンバーなので……主の言霊には縛られないし、中途半端なんです』
 
「僕の言葉に縛られたいの?」
 
これには即行で否定した。
 
『違います。私の司るのは流れ。その能力は危険すぎるのであなたにはもったいない力なんですよ』
 
過ぎたる力は時に災いをもたらすことになるかもしれない。
それを他人に与えていいものなのか。
しかし、麻生唯は。
 
「じゃあ、栞さんは僕の従者としてじゃなくて、単なる友達でもいいんだね?」
 
『はい?』
 
いきなりとんでもないことを言う彼に面食らう私だった。一体何を言っているのだろう。
 
「これからのことは分からないけれど、僕は栞さんをどうこうするつもりはないし、みんなとも友達になって欲しいと思うから。それとも、一人のほうがいいのかな?」
 
『……あなたは本当にそれでいいのですか?』
 
「うん。だって栞さんの人生だもん。それは栞さん自身が決めればいいよ。従者とか、主がどうのとか、そんなことは関係なしにさ」
 
ひょっとしたら、こだわっていたのは私のほうかもしれない。そんなことはどうでもいいと思っていた。私にとっては些細な問題だったのだ。
でも、心の片隅ではずっとこだわっていた。もしも、従者になればどんな生活が待っていたのだろうとか、もしかしたら、違う生活を送っていたのかもしれない。
私にとっては些細な問題だけれど、心の片隅ではずっとこだわって生きてきたのだ。
 
『他のみんなはそれでいいの?』
 
「うん。もちろんよ」
 
「まあ、友達と言うのなら、SEXをしないで済むしね」
 
みんなが口々にOKの文字を出しに来る。
 
「だってさ。だから、友達なら歓迎するよ」
 
今までは一人で生きてきた。
友達なんて一人も作らないで生きてきたのだ。
友達を作れば、その分迷惑がかかるから。
でも、その反面本当は友達が欲していたのかもしれない。
自分と同じ能力を持つ人達と同じ境遇の人達と。
共に戦いたかったのかもしれない。
その手を取れば、幸せな未来が待ち望んでいるかもしれない。
人に悔やんで死ぬよりも、人に蔑まれながら死ぬよりも。
人の幸せを願う未来を作って生きたい。
 
『はい。よろしくお願いします』
 
そう言って、私は麻生唯の手を取った。
その先にある未来を信じていたいから。












     




















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