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「……何処に手違いがあったんだろう」

 狭いスタンド席で、唯は大きく溜息をついた。折角ドーム球場で、プロ野球の観戦をしているというのに、唯は浮かない顔をしている。確かに野球場に来て、試合は観戦できているし、野球を見ることも嫌いではない。問題なのは楓がマウンドに居らず、自分の隣に座り、唯に寄り掛かっているということだ。
 夏休み前に、是非とも試合の観戦がしたいので、野球のチケットを取って欲しいと唯は楓に頼んでいた。その後、楓から何の音沙汰も無く、色々な出来事があったので唯も失念していた。それが昨日になって楓がチケットの準備が出来たので、明日観戦しようと告げてきたのだ。他の女性陣は唯をいきなり連れだされることにいい顔をしなかったが、夏休み前からの約束では仕方が無い。唯は昼過ぎに家を出て、都心にあるドーム球場へと一人で向かった。
 だが折角楓の雄姿を楽しみに球場に来たのに、迎えてくれた楓が自分の隣に居たのでは、意味が無い。よくよく考えてみれば、唯は二日前にリビングルームで楓が先発の試合を見ていたのである。余程のことが無ければ、今日は登板の機会は無いはずだ。

「唯様、どうかしましたか?」

 唯にもたれて、じっと目を瞑っていた楓だが、唯があまり嬉しそうでない様子に気がついて、身体を起こした。試合は既に二回を回っており、自軍で登板しているピッチャーの調子があまり良さそうではないのだが、楓は全く試合内容には興味が無いようであった。

「いや、てっきり楓さんが登板するものだと思っていたから」
「私がですか? 一昨日、先発で投げましたので」
「うん、それは知っている。でも、この試合のチケットを取ったから、出番があるかと思ってた」
「今日は出番が無いから、チケットを取ったのですが」

 じっと自分を無表情に見ていた楓の目に、唯は微かに揺らぎがあるのを見てとった。

「もしかして、他の人と来たかったですか?」
「違う違う。楓さんが投球する姿を見たかったんだよ」
「私のですか?」

 表情の変化は無いものの、唯は楓の声に彼の説明を理解出来ていない響きを聞き取る。

「恋人がプロ野球のピッチャーならさ、活躍する姿を見てみたいじゃない」
「そういうものですか?」

 楓には唯の感覚が、イマイチ理解できなかったらしい。元から女性初のプロ野球選手とマスコミにもてはやされても、淡々としていた楓である。プロの選手だというのに、野球選手であることに対して、あまり誇りを感じていないらしい。

「うーん、それじゃ例えば秋にうちの学校は体育祭があるんだけど、楓さんは僕が走っている姿とか興味ある?」
「ありますあります」

 唯の両手を取って、楓が猛烈な勢いで話に食いつく。それでも顔の表情は変わらないので、行動とは随分とギャップがある。

「要はそういうことなんだよ。やっぱり恋人の頑張っている格好って、誰だって見てみたいんだよ」
「なるほど……でも、それだとデートにならない」
「ああ、楓さんはデートがしたかったんだ。そうか……それはごめんね」

 唯が頭の上に手を乗せて撫でると、楓は目を閉じて、じっとそれを受け入れる。楓が表情を変えないので、見る者によっては、怒りに耐えているように見える。だが唯には楓の心音のリズムが緩やかに変わっていくのがわかるので、喜んでいるのが理解できた。
 しばらくして、再び楓が唯にもたれ掛り、唯が試合観戦を始める。年の差さえ無ければ、良い美男美女のカップルに見えたであろう。だがデートの幸せは、長くは続かなかった。

「あの……」
「はい?」

 唯の隣席に居た青年が、おずおずと声を掛けてくる。スーツ姿なので、会社帰りなのだろう。

「流選手ですよね?」
「そうだけど、あなた誰?」

 むくりと身を起こした楓が、唯に代わって答える。

「ほ、本当に流選手だ! サイン貰えませんか?」
「………」

 楓は眉一つ動かさず、黙って差し出された紙にサインする。

「ありがとうございます!」
「すみません、俺もいいですか?」

 最初に声をかけてきた相手にサインし終わると、更に反対側の席に居た青年が声をかけてくる。楓は素早くサインをするが、これを契機に今度は次から次へと周囲からせがまれた。自軍の応援席側に座ったのが裏目に出たようで、ファンならば楓だとすぐに気づくのは当たり前である。楓は文句一つ言わず、ファンの相手をしているが、表情は変わらなくとも唯には楓が不機嫌になっているのが分かった。ファンへのサービスについてはプロの自覚があるのか、サインに応じる対応は非常にいいのだが、唯との時間を邪魔されるのは不本意のようだ。楓は何とか周囲の人だかりを捌くと、ようやく一息つく。

「お疲れ様」
「いえ。唯様、すみません」

 楓は再び目を閉じて、唯の華奢な身体に甘えるかのように寄り掛かる。そんな楓の様子に、周囲のファン達はしきりに二人の様子を窺う。自分達が応援している選手が、年端も行かない中学生の少年に、恋人のように接していれば当然だ。会話こそ唯の能力で周囲の耳に入らないように遮断しているが、好奇の視線が二人へと突き刺さる。

「うわ……」

 イニングの合間に、ふと唯が見た球場の巨大スクリーンに、唯と楓の姿が映し出される。先程の人だかりで注意を引いたらしく、楓が観客席に居るのがカメラマンに気づかれたらしい。映っていたのは僅かな時間ではあったが、唯は緊張して固まってしまう。奈落や地獄の上級悪魔にも何ら怯むことなく立ち向かった男も、これだけの大人数に注目を浴びるのには慣れていないようだ。

「楓さんはやっぱり凄い有名人だね」
「……そうですか?」
「だって、視線をすごい感じるし」

 先程から周囲の視線を痛いほど感じて、唯は息苦しさを覚えていた。その多くは彼と目が合うと視線を逸らすが、彼らが自分達のことを話す内容は能力者である唯の耳に入ってくるのだ。

「これだけ注目されてるから、少し離れない?」
「……嫌です」

 周囲の関心もお構いなしで、楓は唯にピタリとくっついて離れようとしない。普段会話でのコミュニケーションが希薄な楓は、スキンシップを大事にしているので、唯も強く主張することが出来ない。仕方ないので、唯は気もそぞろに、野球観戦をするしかなかった。






「はい。週刊現在編集部、皆口です」

 週刊現在編集部のデスクで、円は備え付けの電話を取った。夕刻の編集部は締め切りがまだ近くないこともあり、何処と無く閑散としている。多くの記者達は取材で飛び回っているのだろう。普段は取材のために外へ出ている円だが、今日は珍しくデスクで記事を書いていた。

「あっ、どうもお久しぶりです。えっ、野球中継? 特に見てはいないですが……」

 知り合いのスポーツ紙記者の話に、円は悪い予感を覚えた。

「楓が客席で映っていたんですか? えっ、男と一緒? いや、男の子? ああ、じゃあ同居している子ですね、多分。楓とは姉弟みたいな関係ですよ」

 さしたる事では無いような口調を装って、円は相手に説明する。楓と円が同居しているのは、マスコミの間では周知の事実なので、こうやってよく事実確認の電話が来るのだ。円はそれを存分に利用して、楓と唯やガーディアンの関係をマスコミから隠蔽している。その分、マスコミ嫌いの楓を引っ張り出して、インタビューなどに応じさせているので他のマスコミ関係者も円を信頼していた。

「一応、写真確認してみますね。ええ、プロフィールなどもメールで送りますので。では、失礼します」

 受話器を置いた円は、こめかみを指の腹で押さえる。未成年と不純異性交遊しているというのに、楓は無自覚すぎるのだ。そもそもプロのスポーツ選手だというに、自分の影響力を分かっていない。円は溜息をつきながら、愛用のノートパソコンを操作して、テレビを視聴するためのソフトを立ち上げる。野球の実況が行われているチャンネルに回し、ぼんやりとそれを眺めながら円はコーヒーカップを持ち上げた。数秒後、観客席に居るのをズームで映された唯と、彼にべったりくっついている楓の姿に、円は思いっきり咽てしまった。






「ふう、やっと出れたね」
「はい」

 ドーム型球場から抜け出て、唯が一息つく。ナイターの試合が終わるのと同時に二人は席を立ったのだが、途端にファンに囲まれてしまったのだ。サイン攻めに遭った楓は、一人一人手早くサインを行い、何とか全員分を終わらせることでようやく解放された。てっきりファンサービスが楓は苦手だと思っていた唯には、嫌々ながらも全員のサインに応じる楓の姿は意外であった。後に聞いた話だと、楓は会話やアピールが得意ではないので、サインで全て済ませているらしい。

「さて、どうしようか」

 すっかり観客が帰った後の球場前で、唯と楓は歩き出す。真夏の夜は蒸し暑いのだが、楓は唯にピッタリをくっついて離れようとしない。

「唯様、実は……」
「楓さん、久しぶり!」

 楓が唯に話しかけようとしたところで、彼女に他から声がかけられた。見ればスーツ姿の背が高い人物が二人の後ろに笑顔で立っていた。

「新座選手だ」

 唯には声をかけてきた人物に見覚えがあった。唯もプロ野球は楓と会う前は、竜太の受け売り程度しか知らなかったが、それでも目の前にいる選手は知っていた。楓のライバル球団所属のバッター、新座だ。ルーキー時代から派手なパフォーマンスと、ルックスの良さでマスコミが騒いでいたからだ。

「おっ、僕を知っているのかい?」
「そう。去年練習をサボっていたたために、成績不振でトレードに出されて、チームから追い出された新座選手」
「楓さん、厳しいな」

 楓の辛辣な説明に、新座の笑顔が引き攣る。ファーストネームで楓を呼んでいたので親しいのかと思ったら、別にそういうわけではないらしい。

「でも今シーズンは練習を重ねて、カムバックを果たしたわけだ」
「そう……良かったわね。さようなら」

 気を取り直して、台詞を決めた新座に対して、楓は踵を返すと唯を引っ張ってスタスタと歩き出してしまう。慌てて新座は楓を追うと、前に回り込む。

「嫌だな、楓さん。ちょっとつれないんじゃない?」
「まだ何か用?」
「よければ一緒に食事でもどうかな? もちろん、そこのボウヤも連れて行っていいからさ」

 今まで新座に対して無関心だった楓が突然怒ったのを、唯は彼女の心音を聞いて分かった。誰より愛している少年をボウヤと言われたのが頭にきたらしい。百合がボウヤと呼んでるのも内心快く思っていないのだから、当然だろう。

「断る」
「駄目かな?」
「ダメ」
「そんなこと言わないでさ。観客席で君を見つけて、ずっと外で待っていた俺に免じて」
「デート中だから」
「デート?」

 楓の口から意外な言葉を聞いて、新座がたじろぐ。

「そこのボウヤと? 冗談でしょ?」
「本当」

 楓はいきなり唯の肩を掴むと、顔を寄せて少年の唇を奪った。あまりの突然な行動に、唯は目を瞑ることも忘れてしまう。キスだけならまだしも、楓は唯の口内に舌まで入れて来て、少年の舌を絡め取る。

「ん……」

 たっぷりと二分近く口付けを交わして、楓はようやく唯を解放する。

「行きましょう、唯様」

 呆然とする唯の肩を引き寄せ、楓は優しくエスコートしながらその場を立ち去る。その間、楓は眉一つ動かさない。後にはあんぐりと口を開けた新座が残された。





 楓は唯を球場前にあるホテルへと連れ込んだ。彼女がフランス料理の予約をしてあるという話だったので、唯は付いて行くことにしたのだ。元から球場内で食事を済ませようと考えていた唯は、由佳と静香に夕食の用意は要らないと伝えていた。ファンに囲まれて、食事どころでは無かったので、却ってそれが幸いだったのかもしれない。
 二人が入った小奇麗なホテルのレストランは、夜もそこそこ遅いので、客の姿はかなり少なかった。唯も楓もフランス料理に詳しいわけではないので、適当なコース料理を頼み、運ばれてきた皿をのんびりとお喋りしながら平らげていった。

「唯様、私酔ってしまいました」
「えっ!?」

 食事も残すところデザートが運ばれるのを待つところで、楓が突然こんなことを言い出した。今まで普通に雑談していた唯は、楓の唐突な台詞にきょとんとした目で彼女を見る。無表情な楓の顔は特に赤くなってはおらず、ビールをグラスで数杯飲み干したとは言え、酔っているようには見えなかった。

「……それって、もしかして誘っているのかな?」
「はい」

 楓のストレートな誘惑に、唯は苦笑する。何処で身につけた知識なのかはわからないのだが、随分と古典的な手である。

「実は部屋を取ってあります」
「楓さん、それって男の台詞だよ」
「……そうでしたか」

 小首を傾げる楓の姿に、唯はつい笑ってしまう。楓は唯よりも年上で、転生してきた月日も含めるのならば、その何百年もの先輩にあたる。だがそんな彼女も、常識に欠けている部分が多々ある。そのため、ときたま唯は自分が楓の保護者であるような錯覚を受ける。楓の方も唯に甘えている部分があり、他のガーディアンからの指摘は無視することも多いが、主からの注意や話などは積極的に受け入れている。他のガーディアン達も最近はそれを分かっていて、唯の名前を使って楓に注意している程だ。

「あはは、楓さんは用意周到だな。いいよ、楓さんが酔ったって言うのなら、僕も泊まるよ」
「そんなにおかしかったですか?」

 くすくすと笑っている唯を楓はじっと見つめる。

「いや、凄いストレートに誘われたから。楓さんの一生懸命さが伝わって、嬉しくもあり、楽しくもありって感じで」
「他の人なら、どう誘っていましたか?」
「うーん、そうだね」

 唯は自分の恋人である残りの十一人を思い出す。雛菊、麗、エリザヴェータあたりは別の用事で自室に唯を呼び出し、さり気ない仕草でアピールして、少年が手を出すのを待つだろう。静香は早苗が間を取り持つことが多く、早苗はストレートにおねだりすることが多い。京や円は唯をドライブなどに誘って連れ出し、百合は茶道教室がある持ち家に口実を作って引っ張り込んだりする。唯は一通り説明してふと気づく。

「そういえば、芽衣さんと由佳さんには、何度かホテルに誘われたな」

 ホテルでの食事の後に、ここの部屋の夜景は綺麗だとか、面白い部屋があると言われて付いて行った後に唯は押し倒された記憶がある。

「考えてみれば、これも男の使う手だよね。ただ芽衣さんも由佳さんも、普通にしているから、ついつい騙されちゃうんだよね」

 二人の犯行の手口を説明して、唯は楽しそうに笑う。中学生にしてプレイボーイの彼は、様々な女性によるアプローチを楽しんでいるようであった。

「私も見習った方がいいですか?」
「いや、楓さんが一番だと思うアプローチを取ればいいと思うよ。どんな方法でも僕は嬉しいから」
「……わかりました」

 楓が唯に向かってすっと手を伸ばし、少年はそれを手に取る。楓は感情を無くしたように無表情だが、手を優しく握り返す仕草で、唯には愛情が分かる。付き合ってまだ間が無いのに、唯は楓の愛情表現を深く理解していた。表情で好きだと示されなくても、小さな仕草で十分なのだ。

「それじゃ、折角だから部屋に行こうか」
「はい」

 楓が会計を済ませると、唯がエスコートしてフロントへと向かう。すると後を追うように、一人の男がレストランの席を立った。






「うわー、夜景がきれ……うわっ!」

 最高階に位置するスイートルーム窓から外を見ようとした唯は、腕を捕まれるといきなり楓にベッドに押し倒された。驚く唯の上に圧し掛かり、楓は少年を抱き締める。

「唯様……セックスしたい」
「あはは、これじゃ男女の立場が逆だね」

 ストレートに欲求を伝える楓に、唯は苦笑する。普段は他の人間に制止される楓だが、二人きりということでかなり積極的に唯へとアプローチが出来るようだ。

「ん……」

 上に覆いかぶさったまま、楓は唯の唇を奪う。唯は楓の背に手を回し、彼女をぐっと抱き締める。楓の体が若干重たいが、彼女の胸が極上のクッションになっており、抱き心地はかなり良い。二人は舌を絡め合い、互いの唇を貪りあう。

「ん、んっ、んう……」

 楓はキスしながら、我慢できなくなったように唯が着ているシャツのボタンを外し、前をはだける。彼女は唇を合わせるのをやめると、むしゃぶりつくように唯の首や肩にキスしていく。普段は責めに回っている唯にとっては、女性にリードされるのは新鮮な感覚だ。身体を這い回る楓の柔らかな唇の感触に、ゾクゾクするような感触を覚える。

「ん、んっ、んう……硬くなってる……」

 唯のペニスがズボンの中でそそり立ち、楓は上半身を起こして、自らの尻を押し付ける。布地越しに唯の性器を感じて、楓は切なそうな表情を作る。

「楓さん、好きだよ」
「あぁ、私も……好きです。愛してます」

 唯が下から楓の双乳を軽く揉むと、彼女は目をギュッと瞑って耐えようとする。不感症だった頃の楓ではなく、唯に触られればそれだけで胸が熱くなるくらい開発されているのだ。敏感な部分であれば、少しの愛撫で膣内から愛液が漏れ出してしまう程だ。

「は、あぁ、あん、唯さまぁ……」

 苦しそうに喘ぐ楓は、普段と違い快感に顔を歪ませる。既に楓がかなり欲情しているのを見てとった唯は、彼女のワイシャツとズボンを慣れた手つきで脱がす。ピンクのフロントホックのブラジャーを外して、ショーツに手をかけると、猫のキャラクターがプリントされた下着は既に尻までぐっしょりと濡れている。

「ありゃりゃ……下着汚れちゃったかも」
「構わない」

 楓はショーツを脱がせて貰うと、お返しとばかりに唯の口を唇で塞いで、彼の服に手をかける。楓は待ちきれないとばかりに、唯の服を若干乱暴に脱がせた。

「楓さん、お風呂に入らないと……」
「嫌、すぐにしたいです」
「でも……」

 困ったような表情の唯をあえて無視し、楓はそそり立った少年のペニスをいきなり口に含んだ。

「あっ、ダメだよ。汚いよ」

 唯の言葉を無視し、楓はペニスを口内で舐め上げる。舌を器用に回転し、唯の先端部分から溢れた液を唾液に溶かして、楓は味わう。それはまるで唯が分泌した雄のエキスを、体内に取り込もうという感じであった。

「う……ああ」

 唯が漏らす心地良さそうな声に、楓自身も頭が熱くなっていく。散々に唯の陰茎を舐(ねぶ)ると、楓は自分のショーツをシーツの上から拾い上げる。

「唯様、こういうのはどうですか?」

 楓はペニスにショーツを被せると、下着を使ってシャフトを優しく擦り始める。柔らかなコットン地の布が、生温かな愛液で湿っていて、唯の肉棒へと張り付く。

「あぁ、ちょ、ちょっと楓さん」
「唯さま、気持ち良くなって下さい」

 多くの男性が持つ女性下着での自慰願望を、美女の手で叶えて貰って、唯はうろたえる。そんな唯の動揺を突くかのように、楓は下着越しにペニスへキスすると、そのまま口内へとシャフトを導く。楓が口内でペニスに息を吹き掛けると、その生温かい感触に唯の腰が跳ねる。

「うう、楓さん……」

 唯の性器を布地越しに舌先が這い回ると、少年は思わずぐっとシーツを握り込む。いつもと違うマイルドな刺激の上に、ショーツを使った愛撫ということですさまじく興奮してしまっている。それを見越してか、楓は唯の陰嚢をショーツで包み、手で優しく揉んで刺激する。竿を口で、玉を手でソフトに愛撫されて、唯の股間は徐々に高まりを抑えられなくなってくる。

「うっ、出ちゃう」
「出して下さい……私のパンツの中に」

ビュルッビュルッビュクンビュッ

 唯の抵抗も空しく、尿道から精液が吐き出されて、唾液で濡れたショーツを白濁液で汚す。たちまち下着にプリントされていた黒猫が滲み出た体液で白く汚れていき、その様子に楓が恍惚とした表情を浮かべる。

「唯さま、たくさん出してくれた……嬉しい」

 滲み出た精液を、さも美味しそうに楓は舐め取る。まだ硬いままのペニスを、下着越しに楓の紅い舌が這う。

「楓さん、精液って不味くない?」
「唯さまの味がして、私は好きです。苦くて、しょっぱくて……興奮します」

 楓はペニスを包んでいた小さなショーツを外すと、中をそっと開く。下着は白く粘っこい体液でベトベトになっており、楓は精液を指で掬うと、そっと口へと運ぶ。その淫靡な光景に、唯の胸が熱くなる。

「楓さん……」
「唯さま……」

 唯が後ろから楓のことを抱き締めると、彼女は身体の力を抜いて、その身を任せる。大きく自己主張をしている乳房に唯が触れると、楓は甘い声を漏らした。

「あ、あぁ……唯さま、好きにして下さい」

 手の平に到底収まらない胸の膨らみを唯が揉むと、彼の手に合わせて両胸が変形する。楓のバストは信じられないくらい柔らかく、その揉み心地の良さに、唯はついつい手に力が入ってしまいそうになる。

「ん、あん、唯さま……いいです、あ、あぁ、あん」

 主に胸を愛撫されて、楓の体温がゆっくりと高まっていく。彼女が自分で下腹部を触ると、指にべったりと愛液が絡みついた。

「唯さま……唯さまぁ」

 唯があえて胸だけを重点的に責めると、楓は股間を自分の指で弄りだした。二本の指を膣内に差込み、音を立ててかき混ぜる。だが唯に秘部を触れて貰えないのが不満そうで、楓は切なそうな表情を浮かべる。

「唯さま……胸だけでは物足りないです」
「うん、わかった」

 楓を焦らして楽しんでいた唯は、キスをすると彼女の陰部に手を伸ばす。

「ん、んあっ! あぁん!」

 唯の人差し指が軽く触れただけで、楓の身体がビクリと震える。恋人の指で優しく弄られるだけで、陰核の先から子宮の奥に強烈な刺激が奔る。

「ふあ、やんっ……ゆ、唯さまぁ! お、お豆がす、凄くいい!」

 片手で乳首、反対の手でクリトリスと二つの敏感な先端を唯が責めると、楓は涙を流して身悶えする。その様子は、とても不感症だったとは思えない。

「あっ、だめです、イッちゃう。唯さま、待って」
「だーめ、待たない」

 小さな声で哀願する楓の言葉を無視して、唯は指の刺激を強める。

「イッちゃいなよ」
「あっ、あ、あ、ああ、いくいくいくぅ!」

 唯に言霊を囁かれて、抵抗出来ない楓は呆気なく絶頂を迎えてしまう。股間から潮が噴いて、身体がビクンビクンと跳ねる度に、シーツに透明な染みを作っていく。

「ああ、いく。いいのいいの……」

 全身に押し寄せる快感に身を任せ、楓はエクスタシーを感じる。唯によって与えられる快感は、楓にとって何物にも代えがたいくらいの強烈な刺激だ。その快感が身体を駆け抜けていく。愛液を派手に撒き散らしながら、楓は呻き声をあげて何度も痙攣する。

「楓さん、凄く……可愛い」
「唯さま……」

 荒く息を吐いて、絶頂の余韻覚めやらぬ楓を、唯は押し倒す。両膝を抱えさせると、未だに軽く震えている楓の上に少年は圧し掛かった。

「あ、あああっ!」

 亀頭が愛液で満たされた膣口に沈むと、楓が驚くくらい大きな悲鳴を上げる。徐々にクールダウンしていた身体を、唯のペニスで無理やり再加熱されて、脳が快感でオーバーロードしそうになる。

「ああ、唯様のオチンチン……いい、最高! あ、あっ、ああああ」

 早くも軽い絶頂を感じて、楓の身体が仰け反る。唯は激しい反応を見せる楓をベッドに押し付けて、グイグイと腰を振り立てる。

「ひっ! こ、壊れる……唯さま、グチャグチャにして!」

 膣壁を亀頭の凹凸に押し分けられる度に、楓は下腹部から頭に強烈な刺激を感じる。唯専用に調教された膣内は彼が挿入した時点で、楓の脳に麻薬より強力な快楽成分を与える。

「楓さん、凄くいいよ」
「あ、ああ、ひゃ、唯さまが喜んでくれて嬉しい」

 柔らかな感触で性器を包み込む媚肉に、唯も腰が蕩けるような刺激を感じる。一突き毎に楓の内部は収縮を繰り返し、しきりに射精を促す。

「あ、あっ、あ、あ……あああ!」

 唯はわざと緩急をつけずに、決まったテンポでピストン運動を続ける。少しでも長く楓の膣内を味わいたいからだ。だが楓の方は唯に長く突かれれば突かれるほど、身体が熱くなっていく。楓は自分の華奢な身体を覆い被さるように抱き締められながら犯されていると、自分の熱で溶けていくような錯覚を覚える程だ。

「あ、ああっ、唯様!」

 普段の無表情さが消えて、熱にうなされたように楓が喘ぐ。彼女は唯の背に手を回し、必死に抱きついて快感に耐えようとする。唯は頃合と見て腰を動かすピッチを上げる。

「ひぁあああ……だ、だめ、イッちゃう、イッちゃう……ああぁ」

 楓が親指を血が滲むほど噛んで、身悶えする。無意識に体勢を変えて逃れようとする楓を押さえつけ、唯はひたすら腰を動かす。楓の膣内の心地よさに加えて、彼女の嬌声が唯の気分を高める。恋人の悲鳴をもっと聞きたくて、唯は子宮口を絶妙な強さとテンポで亀頭を使ってノックする。

「あ、あぁぁぁぁぁあ! イク、い……」

 今までで最大のオーガズムに達すると同時に楓の背が仰け反り、膣内が強烈な収縮運動を繰り返す。ぎゅーっと締まる膣壁の中を、唯は無理やりペニスを動かして楓を責め立てる。

「あ、あっ、あ、や、やめ……ああっ!」

 楓の視界は唯が突く度に白くチカチカする。脳の許容を快感が超えているのだ。イキっぱなしの状態となり、楓の身体が激しくガクガクと震える。強烈な締め付けを行う膣に耐え切れず、唯も射精へと導かれる。

「うくっ」

ドビュビュ、ビュルビュルビュッ

 尿道から大量の精液が飛び出し、楓の子宮へと流れ込んでいく。激しい絶頂に翻弄された二人は、ギュッと抱き合ったまま、繋がり続ける。十分ほど経って、ようやく力を抜くことができた二人は離れて、ベッドに並んで横になる。手を繋いだ二人は、大きく喘いで呼吸を整える。それからしばらくして、やっと落ち着いた唯は楓の唇へとキスし、楓も目を閉じてそれを受け入れる。たっぷり二分間近くキスしてから、唯はそっと口を離した。

「ちょっと激しくしすぎちゃったかな?」
「いいえ、最高でした」

 苦笑する唯に対して、楓は真面目な顔で否定する。

「唯様のオチンチン、固くて太くて大きくて……好きで好きでたまりません」
「あ、うう……そ、そうなんだ」

 眉一つ動かさずに性器を褒められて、唯は照れてしまう。自分より年上の他のガーディアン達には余裕のある唯だが、楓の素直な言動には、ときたまどう反応して良いものか困惑してしまうことがある。

「本当なら、早くピルを飲むのを止めて、唯様の赤ちゃんが欲しいです」
「楓さんもそう感じるんだ」

 腹部をそっと触る楓に対し、唯は少し考え込んでしまう。そんな唯の顔を楓は覗き込む。

「唯様、私なにか気に障るようなこと、言いましたか?」
「えっ? あ、いや、そんなこと無いよ全然。ただ、大事なことだから」
「私は人の気持ちがあまり分からないから……たまに怖くなります」

 楓は無表情に唯のことをじっと見つめる。その口調こそ淡々としているが、唯はその響きから不安を感じ取った。唯は楓の頭に手を置いて、優しく撫でる。

「大丈夫だよ。何があっても、僕は楓さんのことが好きだって、覚えておいて。僕は楓さんが愛してくれているのを、知っているから、嫌いになったりしないよ」
「唯さま……」

 唯の言葉に、うっすらと楓が微笑む。唯が見つめる彼女の瞳に、心底幸せそうな光が覗いて見えた。楓は無言で唯にぎゅっと抱きつき、少年は彼女の豊かな胸に包まれた。二人は互いに愛を確かめるために、静かにじっと抱き合う。どれくらい時間が経っただろうか、楓は腕を緩めて唯を解放する。

「唯さま……」
「楓さん……」

 二人は互いに見詰め合う。そんな中、楓が口を開いた。

「唯様をもっと感じたい……唯様また、して頂けませんか?」

 楓はクルリと膝立ちのまま後ろを向くと、自分の手で尻肉を広げて陰部を晒す。彼女の開いた陰唇からドロリと白濁液が垂れて、滴り落ちる。楓の唐突なお願いに唯は思わずドキリとしてしまうが、表情をふっと緩める。

「いいよ、楓さんが満足するまでしてあげる」

 ストレートで投げられる楓の愛情表現に応えるべく、唯は楓に圧し掛かっていった。






「大丈夫?」
「……少し、まだ痛みます」

 唯の質問に、楓は眉一つ動かさずに答える。一夜明けて、唯と楓の姿はレストランにあった。朝食のビュッフェを食べているところだ。
 昨晩、楓は何度も何度も唯を求めて、抜かずに五回近く射精させたのだ。そうなれば楓自身が無事で済むわけが無く、十五回以上イッた挙句、足腰を思いっきり痛めたのだ。その所為で家に帰る訳にもいかず、唯が一晩中看病することとなった。帰れないことを伝えると、芽衣をはじめ多くのガーディアンが激怒したが、唯は埋め合わせをするということで、何とか宥めていた。この分だと今晩は大忙しかもしれないな、と唯は頭の隅でチラリと考える。

「……まだアソコに唯様のモノが入っているみたい」
「あう……ちょっと激しすぎたかもね」

 楓の素直な意見に、唯は苦笑いを浮かべる。唯の能力で会話を周囲に聞こえないように遮断しているとは言え、楓の言葉は時たま唯をヒヤリとさせる。レストランに居る客の多くが、楓の存在に気づいており、こちらを見ているとすれば尚更だ。

「楓さん、また何か食べる? 取ってくるよ」
「……お肉欲しい」

 話題を変えるために、唯は料理を取ってくるために立ち上がる。足腰を痛めた楓に代わって、唯が食事を運んで来ているのだ。

「……ありがとう」
「気にしないで」

 全くの無表情である楓だが、唯には彼女が随分と自分に感謝しているのが声の響きから分かる。こういうとき、唯は自分の能力が音を操るということで良かったと心底思う。二人は食事を終えると、チェックアウトの時間ギリギリまで部屋で休んでから、ホテルを出た。

「タクシー呼ぼうか?」
「……大丈夫。電車がいい」

 気遣う唯に対し、楓は厚意を断る。傷の回復が早いガーディアンらしく、楓も既に普通に歩けるぐらいには回復していた。二人は駅の方角へと歩を進める。

「楓さん、ちょっと近くの古本屋街に寄っていかない?」
「……別にいいですけど」

 唯の唐突な提案に、楓はじっと唯を見つめる。すると、口を動かしていないのに、唯の言葉が楓の耳に聞こえた。

「誰だか知らないけど、後をついてきてる。楓さんのファン……という訳でもないみたい」

 唯の能力によってメッセージを聞いた楓は、黙って歩き続ける。背後を確認したりしないのは流石というべきか。

「……どんな相手かわかります?」
「人間、男……だと思う。詳しくはわからないけど、何処かにケータイのメールで連絡してる」

 唯達はなるべく大通りを避け、狭い裏路地へと向かう。唯も楓もあまり土地勘は無いのだが、なるべく尾行者を人気の無い場所へと誘導しようとする。

「……あれ?」
「どうしましたか?」
「尾行している人が離れてく……」

 唯が立ち止まり、背後へと向く。彼の聴力には、遠ざかっていく男の足音がはっきりと聞こえている。

「おかしいな、気のせいかな? 自意識過剰だったのかも」
「……誘い込まれたのに気づかれたのかも」
「露骨だったかな?」

 唯はしまったという表情で頭をかく。考えてみれば駅を通り過ぎて路地に入ったのだから、気づかれたと悟らせるには十分だったかもしれない。それに他のガーディアンならいざ知らず、普通の中学生であった唯と朴念仁の楓では、相手を罠に嵌めるには役不足だったかもしれない。

「うーん、どうしようか?」

 男の後を追うか、唯が首を捻って考えようとしたところ、彼の超人的な聴覚に別のものが引っかかる。

「何だ?」

 急に眉をしかめた唯に、楓が問いかけるような視線を投げかける。唯の聴覚が建物の屋根から屋根を駆けてくる何者かの存在を捉えた。それはビルの屋上を軽快に飛び回り、こちらへと向かってくる。

「何かがこっちに来る……悪魔かもしれない」
「……特にその気配はしませんが」
「上だ!」

 唯の見た方向に視線を飛ばした楓の目に、巨大な影が飛び込んで来る。それは奇怪な怪物であった。身体自体は節くれだった筋肉を持つ人間にも見えなくも無いが、人体と違い腕が四本あり、体表が青白い。何より奇怪なのは、大きく前に突き出たクワガタを思わせる巨大な顎である。爬虫類のようなギザギザの頭など、考えられる地球上の生物では有り得ない姿をしていた。

「……唯様、下がって」

 楓は唯を素早く抱きかかえると、後方に大きく跳躍する。その直後に、怪物が二人の居た場所へと落下し、アスファルトを拳で砕く。アスファルトの屑が舞い上がり、轟音が周囲に鳴り響いた。

「こいつ、何者なんだ?」

 ゆっくりとこちらへと向く怪物が持っていた膂力に、唯は戦慄を覚える。唯の聴覚には、相手の心音がまるで聞こえて来ないのも、かなり不気味であった。楓は相手に向かって歩きつつ、唯に話しかける。

「悪魔ではないです」
「それじゃ……」
「式神のようです」

 唯は聞きなれない単語に、思わず楓へと聞き返した。その間に白い怪物は立ち上がり、のそりのそりと楓へと近づいて来る。

「日本では式神、西洋では使い魔と言います。何らかの術を使って、生み出された擬似生命体です」

 無表情に楓が唯に解説する。話し終えると同時に、突如として大気が動き、楓の前から巨大な風の刃が放たれた。アスファルトの地面を切り裂きつつ、不可視のカマイタチが式神を襲う。いきなりの奇襲に驚いたのか、それとも反応しきれなかったのか、式神は棒立ちのまま真空刃の直撃を食らった。鋼鉄をも断ち切る風の刃は、相手の右肩から胸まで断ち割って、そのまま式神の背後にある背後にあるコンクリート塀にもスッパリと切れ目を入れた。

「近代において、それ程の能力を使える術士は居ないはず……。だけどこいつは明らかに誰かに操られています」

 楓が説明をする間に、式神の割れた体が徐々に元へと戻っていく。そのスムーズさは、さながら映像の逆再生を見せられているかのようだ。式神は身を軽く屈め、一気に跳躍するような体勢を見せる。だが一瞬先に楓が放ったカマイタチに足首を断ち割られ、式神はバランスを崩して前のめりに倒れた。

「楓さん、新手が!」

 すかさず追撃をかけようとしていた楓は、唯の言葉に力の行使を止めた。間髪入れずに五体の式神が頭上から落下してくる。着地する前に楓は突風を巻き起こすと、ビルの壁へと叩きつける。その威力はビルの壁にヒビを入れるほどだ。

「唯様、下がっていて」
「僕も戦えるよ」
「いえ、こいつらは私だけで十分です。唯様の力を借りるまでもありません」

 ビルにぶつかったというのに、式神達は何事も無かったかのように立ち上がる。既に再生を完了したのだろう。だがそんな様子の相手にも楓は表情を変えない。身動きする様子も見せずに風で真空を作り出すと、式神達の手足を切り飛ばした。棒立ちのまま攻撃を受けた式神達も、このままではまずいと感じたのか、一撃食らうと左右に飛んで回避行動を行おうとした。だが動きを楓にあっさりと読まれて、更に身体を切り刻まれる。式神は凄まじい速さで切り落とされた手足を修復していくが、楓はそれ以上に的確に相手を切り刻んでいく。防戦一方ではやられるだけだと感じたのか、何体かがボロボロの身体で楓へと飛び掛る。だが彼女は素早いステップで相手の攻撃を左右にかわし、真空刃を伴った手刀を相手の身体へと叩き込む。不可視の刃で、式神の身体はすっぱりと断ち割られた。

「さすがだ……」

 少し離れた場所で戦いを観察していた唯は、式神を翻弄する楓の戦い方に見入っていた。楓の攻撃は基本的に今回は無動作で行われている。通常だとガーディアン達は攻撃する際に、相手へと手をかざしたりして、攻撃を行う。そのように攻撃した方が、自らの力を集め易く、より効果的にエネルギーを運用できる。更に相手への狙いも容易になる。だが事前の構えによって、攻撃するタイミングを察知されるのも確かだ。
 今回、楓が攻撃を行う動作を省いているため、式神は苦戦しているようであった。どのタイミングで回避や防御をするかわからず、無防備に攻撃を食らってしまうようであった。更に楓が無表情なのと、風という不可視の能力なのが、相手に攻撃を読まれ難くすることに更にアドバンテージを与えているようなのだ。唯は計算されたかのような楓の攻撃スタイルを目の当たりにして、感心するばかりだ。

「楓さん、新手が更に……」
「………」

 ビルの上から同じ形の式神が一体、また一体と続々とやって来る。楓は下りてきた式神を、カマイタチで次々となます切りにしていくが、数の多さに徐々に攻撃が甘くなっていく。次第に式神の再生速度が上回り、身体を回復させた個体が次々と楓へと襲い掛かる。楓は巧みな体さばきで、式神達の拳や体当たりをするりするりと避ける。上体をほとんど動かさずにステップだけで攻撃をかわす楓は、唯の目にまさに風の化身のように見えた。
 だが流石の楓も、次々と飛び掛ってくる式神に、押され始めた。掴みかかってきた相手の腕を手刀で切り飛ばし、掌底から放つ風圧で相手を弾き飛ばすなど体術を交えた反撃をせざるをえなかった。

「楓さん!」

 反撃が間に合わず、楓が式神の一体に背後を取られる。咄嗟に唯は両手を構えると、音を収束させて放った。振り上げた拳を振り下ろす暇も無く、式神は頭を吹き飛ばされて倒れた。

「唯様、すみません」
「楓さん、この数では無理だよ」

 唯が続けざまに二体の式神の頭を吹き飛ばす。だが既に先程頭を破壊された一体の再生が始まっていた。数の多さに加え、唯はその再生力に脅威を感じていた。

「いいえ、倒します」
「楓さん、無茶は……」

 楓は両腕を大きく横に広げると、無数のカマイタチを飛ばして敵を切り刻む。敵が楓の猛攻にひるんだところで、彼女は風に乗って大きくバックステップで唯の傍へと後退した。

「唯様、しっかり掴まっていて下さい」
「う、うん」

 楓は正面から、ギュッと唯を抱き締める。それと共に彼女の足元から徐々に風が巻き起こり始め、あっという間に暴風へと変わる。生み出された風は渦を巻くと、楓達を中心に螺旋状に動きを変えて天へと立ち上る。再生を終えた数体が果敢にも巻き起こる竜巻へと突撃するが、一瞬で渦に体を飲まれると、あっという間にその姿が上空へと消えていく。目の前で起こされた驚異的な力に、式神達は戸惑ったかのように動きを止める。その間に更に力が増した竜巻によって、周囲を覆うように風が吹き荒れた。式神達は猛烈な風力によって吸い込まれ、上空へと錐揉み(キリモミ)しながら巻き上げられた。僅かに数体が風術の射程内から逃れて、距離を取ることに成功しただけだ。
 竜巻は時間にして僅か二十秒程で消えてしまい、猛烈な突風も消え失せてしまう。だがしばらく後に体をバラバラにされた式神の肉片がバラバラと落ちて来る。恐ろしいことに肉片にされても尚、半数の式神は再生により元の姿へと戻った。だが風が吹き止んでも、唯と楓の姿は何処にも無かった。式神達は所在無さげに辺りをキョロキョロと見回すばかりだった。





「戦うんじゃなかったの?」
「その前にエネルギーが尽きそうだったから」

 唯と楓は上空数百メートルを飛行中だった。楓がしっかりと唯のことを抱き締め、かなりのスピードで移動を行っている。眼下の建物が次々と流れていくことから、その速さが唯にもわかる。
 楓が竜巻を起こしたのに合わせて、二人は風に紛れて上空へと逃れていた。通常、これほどの急上昇をすれば、気圧の急激な変化で気分が悪くなるはずなのだが、楓は周囲の気圧を唯のためにコントロールして地表と同じレベルにしていた。

「いい判断だったと思う。それにしても、誰があんなのを送ってきたのか……」
「私にはわからない」
「……もしかして、怒ってる?」

 楓の口調に僅かな苛立ちが混ざっているのを察知して、唯は尋ねる。

「折角の唯様とのデートなのに。邪魔した奴は殺す」
「まあ、そうなるよね」

 恐ろしい台詞を、抑揚の無い声で無表情に語る楓に、唯は苦笑する。感情はこもっていないように聞こえるが、殺すと言うからには腸(はらわた)が煮えくり返っているに違いない。楓は裏表が無い分、言っていることはいつも本音だ。

「まあ、でもいいんじゃないかな」
「唯様?」
「デートの終わりが、空の散歩っていうのも素晴らしいことだと思うよ」

 唯は楓に向かって微笑む。確かに雲一つ無い青空の下を羽ばたき、眼下に東京の町並みをのぞむのは滅多に出来ない体験だろう。

「風の女神に抱かれて、大空を翔(かけ)る。夢のようだよ」
「……唯様がそう言うのなら、私も嬉しい」

 愛しい人の眩しい笑顔に、楓ははにかむようにうっすらと微笑んだ。









     

































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