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「ブオオオオオォ!」

 振り下ろされた斧をギリギリで半身を捻ってかわし、「雛菊」は手に持っていた長剣を逆に相手へと突き入れる。「雛菊」の一撃は半牛半人の怪物を完全に捉えたかに見えたが、敵もさるものでギリギリのところでかわしてみせた。そして攻撃で体勢が崩れたところに、「雛菊」に向けて斧が再び振り下ろされる。
 彼女が死闘を繰り広げている相手は首から上が牛で、身長が2メートル以上もある怪物であった。一般的に人間からは、ミノタウロスと呼ばれている半獣半人だ。怪物は巨大な両手斧を巧みに振り回し、剣を持つ「雛菊」と対等にやりあっている。
 ミノタウロスの斧と「雛菊」の剣が何度も交わされ、戦いは続く。常ならば重い武装をした方がスタミナをより多く浪費するので、長期戦では不利なはずだ。だがミノタウロスは無尽蔵とも思える体力で、斧を風車の如く振るいたてる。「雛菊」も鋭い動きで反撃はするものの、動きがパターン化しているのか相手に回避を許してしまっていた。膠着した戦いは永遠に続くものかと思われた。

「ブホッ!」

 ミノタウロスの一撃が空を切り、振り下ろされた斧が床の石材にのめり込む。すかさず半牛の怪物は、「雛菊」の攻撃に備えて回避行動を取ろうとする。しかし「雛菊」は思いも寄らぬ行動を取った。武器を持つ右手では無く、空いている左手をミノタウロスに突き込んできたのだ。不可解な相手の行動に、ミノタウロスの反応が僅かに鈍る。そして次の瞬間には「雛菊」の手に出現したナイフが、太ももにザックリと刺さっていた。

「ブオオオオオオッ!」

 突然の痛みに、怪物は口を大きく開いて咆哮する。「雛菊」が単調な攻撃を繰り返していたのは、ミノタウロスの隙を誘うためであった。右手に持つ剣のみに集中させておけば、左手への警戒心は皆無となる。自分の能力で瞬時に作り出した短剣を相手に刺すのは、容易だった。

「ブオゥ!」

 痛みで我を忘れたミノタウロスが、斧を横に大きく薙ぐ。斧は唸りを立てて猛スピードで動いたが、既に地面の上に「雛菊」の姿は無い。激痛で僅かに動きが鈍った相手の先手を取るのは、「雛菊」にとっては訳も無いことだ。跳躍した「雛菊」の剣が、ミノタウロスとすれ違いざまに首の動脈をスパッと切り裂く。強力無比を誇り、恐ろしくタフな神話の怪物も、脳がある頭部への血液供給を止められてはどうしようもない。血を噴き出しつつ、巨体がどっと倒れ落ちた。
 ミノタウロスを無事葬った「雛菊」は、相手がピクリとも動かないのを確認すると、歩き出した。今回派遣された彼女の任務は、ミノタウロスの駆逐だった。他にも仲間が何人か共に来ているはずなのだが、今は各自がバラバラに動いている。そろそろ任務を終えた頃だと思い、「雛菊」は仲間のガーディアン達と合流しようとした。
 ふと「雛菊」の鼻腔に焦げ臭い匂いが入ってきた。幾度か嗅いだことのある、肉が焼けた臭いだ。自分の嗅覚を頼りにしばらく歩くと、「雛菊」は予想通りに五体の焦げた巨体を見つけた。彼女が予想して居なかったのは、血まみれで柱にもたれ掛かっている仲間の姿を発見したことだった。

「大丈夫か?」
「ダメ……胸をザックリと割られたわ」

 「雛菊」が近づくと、「由佳」が思ったよりはっきりと答えた。彼女の言うとおり、「由佳」の上半身には巨大な裂傷が広がっており、一目で致命傷とわかった。未だに「由佳」の意識があるのは、ガーディアン達が人より遥かに頑健に作られているからでしかない。

「油断したわ。五体と遭遇して相手を燃やしたのはいいけど、すぐには倒せなかった。この傷じゃ、もうダメね」
「そうか……言い残すことは?」
「無いわ。悪いけど、しばらく休ませて貰うわ」

 「由佳」は仲間に最後を看取ってもらって満足したのか、それっきり動きを止めた。「雛菊」は仲間が息絶えるのを無表情に見ていたが、やがて背を向けて歩き出した。






「それが私の生まれて初めてのミノタウロス退治だったんです」
「へー、そんなことがあったんだ」

 雛菊から語られた経験談に、唯は話した本人が驚くほど大げさに感嘆の声をあげた。
 ここは芽衣が所有する高級マンションの一室、ガーディアン達が唯といつも性交している寝室だ。特注の巨大なベッドの上には、ガーディアンが全員ちゃんと揃っており、それぞれが色とりどりで、華やかな勝負下着を身につけている。だがエッチなことをするつもりは無いのか、誰も唯には手を出さず、今は横になって話を聞いているだけだった。

「あのときはうっかりミノタウロスの集団と鉢合わせしちゃって、もうにっちもさっちもいかなかったのよね」

 話の中で死亡したと言われた本人である由佳が、ため息混じりで話す。自己の死という重い話題の割には、さして重要ではないように語るのは転生できるガーディアンならではだろうか。

「あの頃はまだ自分の能力を生かしきれてなくて、私達も弱かったわ。おかげで転生サイクルが短かったのよねー」
「そうそう、何度死んだか、覚えていないくらいよ」

 由佳の言葉に京が同意し、全員が頷いてみせる。

「しかし、随分昔の話よね。あの頃は何て呼ばれてたっけ?」
「さっきも言ったように、何度も死んでいたから、名前がコロコロ変わってたからね。ボクも覚えてないよ」

 思い出そうと必死に首を捻る円に、早苗は苦笑する。雛菊が語ったのは、ガーディアンが生まれてまだほんの間も無い頃の話だ。未だ神話の怪物などが闊歩している時代に、ガーディアン達はギリシャで生まれたという。怪物などと渡り合うために人工的に作られたという彼女達だが、戦いに慣れるまでは幾度死んだか数え切れないぐらいだ。

「ところで、さっきから延々と昔の話ばっかりだけど、一体どうしたの?」

 円の言葉に、何人かのガーディアンが気まずそうに目を逸らす。つい先ほど帰宅した円は唯とのエッチが楽しみで部屋に来たのだが、どうも今日はそのような雰囲気ではない。重苦しい雰囲気を気にせず、エリザヴェータが円に説明する。

「実は唯殿とポーカーで何人かが賭けをした」
「ポーカー?」
「そうだ。京とミシェルが言い出したのだが……」





「唯、ちょっといいかしら?」
「良ければ、ポーカーしません?」

 食後のひととき、リビングで早苗、静香と共に三人でファッション誌を捲っていた唯は、京とミシェルの一言に顔を上げた。見れば京の手の内には、まだ封が切っていないトランプのカードがあり、ミシェルは普通より半分程度のサイズであるジェラルミンケースを持っている。

「ポーカー?」
「そう。どうせ暇しているなら、皆で遊べる物がいいと思って。唯は嫌なの?」

 未だきょとんとしている唯に、京はやや挑発的に尋ねる。京の物言いには何か引っ掛かるが、唯としては大勢で遊ぶのは嫌いではない。「ルール説明して」と唯が言うと、京は唇の端を軽く持ち上げた。

「今回やるポーカーは、テキサスホールデムというルールです。手持ちの二枚と、公開される五枚で役を作ります」

 ミシェルはジェラルミンのケースを開けながら、笑顔で唯にルールを説明する。テキサスホールデムは手札のみの最初と、カードを一枚公開するごとに各人がチップを賭けることができ、全員が賭けた時点で次の段階に進むという。そして最後まで賭けに参加していた者達の中で役が高い者が勝利となり、その役は良く知られたポーカーの物だ。自分の番ならば、一度に幾らでも賭けチップを上乗せすることも可能だ。一見すると、ずっと賭けに乗らずにいいカードが来るまで待つことも出来そうだが、毎回強制的に参加者のうち二人が勝負に乗るためのチップを支払うことになっている。

「よくわかんないな……」
「まあ、一度軽くやってみましょう。それですぐにわかると思いますから。それじゃ、やりたい人ー」

 ミシェルの問い掛けに、静香を除いた全員が手を挙げる。ちなみに円は帰宅していないために、唯を含めると十一人ということになる。リビングのソファやクッションの上へ、思い思いに全員が座ると、ミシェルが全員にチップの山を渡す。

「やけに手際がいいな」
「今のアメリカだとポピュラーだからね。何度かやったら、慣れるわよ」

 不審な目で見る雛菊に、ミシェルがごく普通に笑顔で答える。雛菊は彼女の説明を信じて居ないようだが、賭けには参加するようだ。

「賭けごとなんて久しぶりね。江戸でやったきり」
「……随分とブランクあるわね。私は第二次大戦中でもやっていたわよ」

 チップを指で弄る百合を、京がちらりと見やる。恋人達から江戸や第二次世界大戦などという単語がポンポンと出てくるところに、唯は軽く苦笑する。こんな会話は、古代ギリシャから生きていた彼女達ならではのことだろう。
 まずはミシェルがディーラーとなり、二枚づつカードを全体に配った。ミシェルの左隣にいる楓がチップを一枚、その隣の芽衣がチップを二枚無条件に置く。唯はこれでどうやらゲームがスタートしたらしいと理解した。

「参加するわ」

 手持ちのカードを確認すると、まずは芽衣の隣に座る由佳がチップを二枚出し、賭けに参加する最低限のチップを支払った。続けて京も参加するが、百合と早苗はチップを賭けずに降りる。エリザヴェータがチップ払った時点で唯の番になったが、彼は一先ず賭けから降りることにした。まだゲームを理解していないこともあるが、彼の手札はスペードの7とハートの3で、賭けに参加するのには心許ない。後は麗がチップを二枚、楓がチップをもう一枚払って二枚にして賭けに参加した。雛菊とミシェルは今回の賭けは見送るようで、芽衣は強制的に払ったチップで参加を強制された。

「次のカードは……と」

 ミシェルが一枚捲ると、出たのはダイヤの3であった。唯は一瞬、参加しておけば良かったと思ったが、降りてしまったのは仕方ない。賭けに参加している者達は大方が掛けチップをそのままでコールしたが、ここで楓が動きを見せた。

「……チップ四枚追加」
「え、もう? それなら降りるわ」

 楓の言葉に、芽衣が即座に賭けから降りた。芽衣は元から強制的にチップを吐き出させられた身だ、手札が良くなかったのかあっさりと身を引いた。由佳と京もリスクを冒すのを嫌がったのか今回は降り、エリザヴェータ、麗は賭けに乗って追加のチップを支払った。

「次、行くわよ」

 ミシェルが更にカードを捲る、カードはクローバーの8。ここでは誰も動かないが、次にミシェルがスペードのキングを捲ると麗が動いた。

「チップ二枚追加」
「上げ方がセコイわね……自信無いの?」
「うるさいわね! まだ始まったばかりでしょう」

 京の呆れたような物言いに、麗が噛み付く。即座に楓とエリザヴェータは掛け金を上乗せして、賭けに継続して参加する。その後のカードはダイヤの2とスペードのジャックだった。

「8の2ペアだ」
「悪いわね、キングの2ペアよ」

 手札を公開してエリザベータの役を、麗があっさり上回る。

「それで楓、あなたは?」
「3の2ペア……」
「あ、あのね……そんな役で勝負しかけてきたわけ?」

 手札を公開した楓に対し、麗が脱力する。楓が早々に賭けチップを引き上げてきたのは、3でペアが出来たからのようだ。3カードならともかく、3という弱い数字のペアのみで勝負をかけてくるのは麗には予想外だった。
 その後もゲームは続き、何人かがチップをやり取りしたところで、京がトランプを切りながら提案した。

「ねえ、賭けをしない?」
「賭け?」

 ディーラーをしている京に、芽衣が訝しげに問い返す。

「まさかお金じゃないでしょうね?」
「まさか……ルールは至ってシンプルよ。勝者が敗者に向かって命令できるの。どう、いいでしょう?」

 自信満々に言い放つ京に、ガーディアン達は顔を見合わせる。京の提案に対するメリットをまだ理解できないからだ。由佳が更に京へと問いかける。

「それって、買い物してこいとか?」
「まあ、使いっぱしり程度でもいいけど、他にも何処かに行くのを手伝えとか、一日邪魔をするなとか……。使いようは幾らでもあるわよ」

 京の視線が、唯に向かってちらりと向けられる。唯はきょとんと京のことを見返すだけだったが、他の者達は京の意味するところが理解できた。要は唯を賭けて勝負しようということだ。例えば唯には自分を好きなデートスポットに連れて行くことを約束させ、他のガーディアンには邪魔をするなと命令をすれば、それだけで主を一日独占することが出来る。もちろん無茶な命令なら、唯自身が拒否するから頼めないだろう。だが一日デートをする権利程度なら楽に確保できるはずだ。唯が勝つ可能性も無きにしもあらずだが、この参加人数ならばその可能性は少なかった。

「よし、やるわ」
「……参加するわ」
「やってみよう」

 ガーディアン達は京の思惑通り、釣り餌に引っ掛かった。負けてもさしてリスクが無いのだから、当たり前だ。ミシェルも思わずほくそえむ。京とミシェルは最初から、唯を賭けて勝負する気だったのだ。

「唯様はいかが致しますか? 唯様がダメと言うのでしたら……」
「いや、別に僕は構わないよ。僕もちょっと興味あるし」
「それなら、私も参加しますわ。負けませんわ」

 唯が乗り気なのを見て、芽衣も参加する気になったようだ。その目は既に冷徹な光を湛(たた)えている。どうやら、唯を自由に出来るということで彼女も本気になったようだ。いや、ガーディアン全員が真剣な表情を見せている。主が掛かっているとなれば、全員が全力で勝負をするのだろう。
 京がディーラーで、ゲームはすぐに再開された。まず初めに仕掛けたのは麗と楓だった。当初から勝負に出た二人は賭けチップを吊り上げ続ける。しかし常識がいささか欠けている楓はあっという間にチップを失い、麗がチップを増やす結果となった。続けて性格自体がギャンブルに向いていないエリザヴェータから全てチップを奪い、麗は他者から一歩リードを奪う形になる。

「悔しい……」
「本当に悔しがってるのか?」
「はいはい、負けた外野は黙っていて頂戴」

 顔色一つ変えないが、悔いが残っているらしい楓とエリザヴェータに、チップを強奪した本人である麗はにべも無い。しかしここで奢ったのが良くなかったのか、麗はその後の勝負にことごとく負けてしまう。由佳、芽衣、京、百合達からの口先による挑発に乗り、彼女はチップを全て取られてしまった。

「ぜ、全部取られちゃった……く、悔しい!」
「熱くなりすぎるからだろう」

 雛菊に諭されて、麗が臍を噛むが後の祭りだ。慎重にゲームを進めていた雛菊だが、運が無いのか、いい役が揃っていた肝心な勝負で負け続け、結局はチップを失ってしまう。次にはミシェルと由佳が脱落していく。これは単純に京、芽衣、百合の勝負強さがあって、力負けを喫した形だった。

「ああ、悔しいな……。勝てたら、唯様と一泊の旅行とか行きたかったのに」
「残念でした。でも、私も一泊ぐらいを都内のホテルに行きたかったー」

 負けた同士、ミシェルと由佳が残念がる。残ったのは京と芽衣、百合、それに唯の四人だ。ゲームに参加していなかった静香を含め、全員が勝負の行方を見守る。しかし決着はなかなかつかなかった。元から洞察力の高い芽衣に、冷静沈着な百合、それに場慣れしている京は力が拮抗しているかのようだ。ワンペアなどの弱い役で何回かチップのやり取りは行われたが、極端な負けというのは無かった。そして残った唯は手を隠し、ひたすら勝負から降りて戦いの行方を見守る。ベタ降りしていた唯はチップが残り少なくなったが、一度だけ勝って安全圏までチップを確保すると、その後は賭けることは無かった。

「あれ、唯……どうしたのよ? 勝負しないの?」

 京がわざと不機嫌そうに挑発してみたものの、唯はチラリと京を一瞥しただけで後はテーブルの上に視点を合わせた。その後は何を言われても、じっと沈黙を通す。機嫌が悪いのかと京は訝るが、彼女が見たところ唯に不快そうな様子は無いように見えた。
 力量の差が逼迫している場合には、負ける者はツキが無い者だ。まずは百合が僅かな差でワンペアの勝負に敗れ続けて負けてしまい、脱落した。残った芽衣は京との決着をつけるために勝負に打って出たが、彼女が持っていたキングのペアに対して、京はエースのペアが出るというカード運の悪さで敗北した。最後に残ったのは、じっと勝負を避け続けてきた唯と有り余るチップを持つ京だけだ。

「さてと、唯……覚悟はいい?」

 京が切れ長の目を更に細くして、機嫌良く唯に訊ねる。唯と会う以前には見せなかった明るい表情だが、最近では時たまこんな顔もする。圧倒的なチップを持って唯に相対しているのだから、こういう表情も漏れてしまうのも仕方が無いと言える。彼女の頭は唯に何を命ずるかで、一杯になりつつあった。

「ずっと逃げてるだけのようだけど……それじゃ勝てないって教えなくちゃね」
「………」

 余裕たっぷりの京に対して、唯は一言も返さない。それが少年の強がりだと、京は見くびっている。

「唯様、頑張って下さい」
「我々の仇を討って下さい」
「ボウヤ、負けちゃダメよ」
「唯様、頑張って……」
「あのね、自分達が負けたからって、何もいきなり唯を応援しなくてもいいじゃない」

 全員一丸となって主に声援を送る同僚達に、京は文句をつけながらカードを配った。京の手札にはエースと3が来ていた。カードを一枚めくって両者は最低限の賭けチップを払い、勝負は始まる。京の幸運はすぐにやって来た。カードの二枚目ですぐにエースが来たのだ。

「チップ十枚上乗せ」

 京は躊躇わず、チップを上乗せした。ポーカーにおいて、勝負を左右するのは大抵ワンペアという一番低い役だ。フルハウス、フラッシュ、ストレートなども良く出るが、場に出たカードで相手がこの役かどうかはある程度読める。その点、ワンペアの勝負だと相手がはったりをかましているのか、読み辛いため勝負に乗りやすいのだ。
 京のチップ上乗せに対して、唯はあっさりとカードを置いて降りた。京はてっきり勝負に乗ると思っていたのだが、拍子抜けしてしまう。唯は賭け事において、もしかして物凄く慎重な性格なのかもしれない。京はそれならそれでいいと思った。そういうことであれば、京が好きなだけはったりをかませて、唯からチップを巻き上げればいい。しかし、その思いはあっさりと裏切られた。

「チップ十枚上乗せ」

 次の勝負で唯が場に捲ったカードにエースが現れると、すかさず京は賭けチップを吊り上げた。手札にはエースは無いが、唯ならば騙せると踏んだからだ。

「チップ十枚に更に五枚上乗せして、十五枚」

 京の思いに反して、唯は逆にチップを吊り上げてくる。京はブラフを読まれたくないため、すかさずその賭けに乗った。そしてカードを一枚捲るたびに、唯は賭けチップを徐々に上乗せする。京としては嘘を見破られたくないため、ついついそれに乗ってしまった。結局は唯がジャックのワンペアに対し、京はブタという結果に終わる。

(まあいい、勝負はこれからよ)

 移動したチップのタワーを見ても、京は眉一つ動かさなかった。チップはまだ山のようにあるのだ。しかし、こんな京の余裕もすぐに消し飛ぶこととなった。

「チップ十枚上乗せするわよ」
「じゃあ、更にチップを十枚上乗せ」

 京が張ったブラフに対して、唯は看破しているかのように必ず勝負に乗ってきた。まるで京が嘘をつくときの癖を見抜いているかのようである。ある程度のチップを失うと、京はハッタリを使うのを止めねばならなかった。さりとて手元にエースやキングなどのカードがあっても、

「チップ上乗せ五枚!」
「降りるよ」

 京が折角勝負できるという手札でも、唯はあっさりと降りてしまって賭けにならないのだ。京はみるみるうちにチップの山を取り崩し、唯の山が大きくなる一方だった。

「へー、唯君凄いや」
「賭け事はあまりよくわかりませんが、さっきから勝ってますねー」
「外野、うるさいわよ」

 早苗と静香のカップルを、京は不機嫌そうに注意した。既に京の目つきはかなり悪くなっており、美人とも言える容姿もあって、かなり威圧感のある表情となっている。しかしそんな京の凶暴な顔つきも、唯は何処吹く風とばかりにカードに集中していた。京はチラリと自分の持つチップの山を見据える。今は唯と同じ程度あるが、それも無くなるのは時間の問題だろう。勝負を仕掛けるなら、早いうちがいいのだが……。

「チップ五枚上乗せ」

 唯が吊り上げた賭けに対し、京は黙ってそれに乗った。手札はダイヤのエースとクローバーのキングで悪くない。役は当初無かったが、勝負に出るにはいい手札だと京は思ったのだ。スペードの3、ダイヤの7、ハートの8、クローバーの10とカードがめくられるたびに唯は上乗せするが、京はそれに乗った。今のところフラッシュやストレートなどが出る確率は低く、勝負はワンペアの強さで決すると思われたからだ。チップの額もまだ許容範囲内と言える。そして最後に捲られたカードは、ハートのエースだった。

「チップ五枚を上乗せ」
「じゃあ、私は全部上乗せするわ」

 唯が軽く上げた賭けチップに対し、京は全額を賭けた。賭けの額はかなり上がっていたので、ここで唯が逃げても京は何ら問題が無い。勝負をするなら今だ。

「いいよ、乗ったよ」
「ふふふ、それじゃエースのワンペアよ」
「3のスリーカード」

 唯が見せた手札には、3が二枚あった。

「ぬ、うぬぬぬぬぬ……」

 京は頭を抱えてズルズルと崩れた。唯は最初の一枚から3のスリーカードが出来ていたのだ。素人ならその時点で一気に吊り上げようとするが、彼は最後まで巧みに僅かづつしか賭けチップを吊り上げなかった。京はまんまとそれに引っ掛かり、最後は自分から自滅してしまった。

「唯様、素敵ですわ。唯様がこんなポーカーが得意でしたとは」
「そうそう、唯君って頭いい」
「唯様、素敵……」
「そ、そうかな? 初めてで運が良かっただけだよ」

 芽衣や由佳、楓に抱きつかれて、唯は照れくさそうに鼻をかいた。チップで出来た山の後ろで美女に囲まれる唯は、まるでラスベガスに来たセレブリティ(有名人)のようだ。そしてカジノでの勝者であるかのように、彼はたちまち美女達からキスの嵐を浴びせられてしまった。

「ああ、負けよ、負け。それで、勝者の命令はどうするの?」

 悔しそうな顔をした京が、雛菊とエリザヴェータに両頬をキスされている唯に聞く。京としては勝者の権利が行使できないのが、悔しくてたまらない。幾ら恋人でも、勝負事に負けるのは少し面白くないのだ。

「えっと、ずっと皆に頼みたいことがあったんだよね……」

 顔中に口紅が残っている少年は、自分の持つ力を使わずに配下へと命令を下した。





「それで唯殿は私達の過去における戦いを語って欲しいと言ったのだ」
「なるほどー、そういうわけねー」

 エリザヴェータの話に円は納得した。ベッドの上では、今度は由佳が日本での牛鬼退治を語り始めている。

「しかし、折角デートをかけてポーカーしても、負けちゃったら意味無いじゃない」
「そう言うな。負けたときの約束だったし、唯殿も満足しているようだ」

 若干呆れたような声を出す円に、エリザヴェータは首を軽く横に振った。由佳の話に、唯は目を輝かせて聞き入っている。その姿はいつもより幼くエリザヴェータの目には見えた。

「でも、とばっちりを受けた私はどうするのよ。あー、今日は唯様に可愛がって欲しかったのにー」

 円は不満そうに枕を抱え込むと、横にゴロゴロ転がった。その幼稚な仕草は、まるで現役女子高生のようだ。折角、円は勝負下着を着ているというのに、唯が聞き入っている話は色気がまるで無い。仕事が忙しくても性欲が衰えていない円も、今日のところは唯とのセックスは諦めるしかないようだった。






 藤岡基樹は関東に拠点のある中堅暴力団の組員だ。少し無気力そうな三十代の彼は、数年前に組の事務所にふらりと現れ、組員になりたいと希望した。暴力団はもっぱら反社会的な生活をしていた者達がコネやスカウトで入るのが一般的だが、藤岡のような男も時たま居る。警察組織の手先かと若干懸念されたが、ひとまず見習いということで藤岡は団員になることを許された。
 団員になった藤岡は、それから少し経たない内にかなりのしのぎを組織に上納した。しのぎとは暴力団の資金集めをさす。組織の規模としては中堅の組に対し、藤岡は相当な上納金を納めたが、その資金源は容易には明かさなかった。基本的にこういう闇組織における発言力は、稼いだ資金に比例するので、入団してあまり日が経たないうちに藤岡の発言力は随分と伸びていった。だが藤岡は不思議なことに組織内における序列には興味が無いようで、代わりにコネクションを築くのに熱心であったようだ。同じ系列の暴力団員を紹介して貰い、一緒に飲みに行って話しをするのを好んでいた。一部の組員達は藤岡を警察機関の手先ではと更に疑ったが、ケチな公務員が出すにしてはあまりにも額の多い資金を彼は組に差し出している。何度も他の組員が彼の資金源を聞きだそうとしたが、酒を奢られ、女を紹介して貰うと、しつこく追及できなくなってしまった。藤岡は組織からは一目置かれているが、変わり者というポジションで結局は落ち着いた。
 この日、藤岡は組の若頭にとあるクラブへと誘われていた。都心の盛り場にあるヘルズプレジャーという高級クラブで、カードやバカラ賭博が行われているという。その賭博場兼クラブは、世間で言う上流階級も利用しているらしいと若頭は藤岡に耳打ちした。何でも金持ちでもSMなどを好む者達が集まっており、一種の秘密集会場となっているとのことだ。同じ系列の組が提携しているので、組員同士で話題になっているらしい。二人は色々な噂が囁かれているその場所がどんな物か、一目見ようということで行くことにした。
 雑居ビルの地下から目立たないドアを潜り抜けると、藤岡と誘った若頭は黒服の男にまずはボディチェックを受けた。武器類のチェックというより、盗撮などを疑っているのだろう。それが終わると藤岡は中へと通された。薄暗い店内には幾つものテーブルが並び、賭博に興じ、酒を飲んでいる者達の姿があった。壁際には大きなステージがあり、アイマスクをした女が数人の男に囲まれてフェラチオをしているのが見える。なるほど、これなら話題になるはずだと藤岡は納得した。女は客の一人で、ステージ上で他の客に見て貰ってエキサイトするという仕組みらしい。店内にはバニーや猫の耳をつけた店員が歩き回ってオーダーを取っており、胸を丸出しにして給仕するその姿は、いかがわしい風俗店に相応しかった。
 だが女達を見た藤岡の体は、ギクリとしたように硬直した。そんな彼の様子に同伴者はすぐに気付く。

「どうした、藤岡?」
「……若頭、すみませんが、今日のところは店を替えてよろしいでしょうか?」
「おいおい、何か気に入らないのか?」
「実は前に揉めたことのある女らしいのを、ちょっと見かけまして……」

 藤岡の顔が僅かに血色が悪くなっているのを、若頭は気付いた。

「まあ、そういうことなら仕方ないな」
「すみません。代わりと言っては何ですが、ウェルチに行きましょう」

 藤岡が提示したのは別の高級クラブで、若頭がかなり気に入っている店だった。そして、そこなら自分の上司が断わらないのを藤岡は知っている。

「それじゃ、タクシーを呼びますんで」

 店を五分もせずに出た藤岡は、携帯電話を取り出しながら若頭から少し離れる。だが藤岡が、かけた先はタクシー会社ではなかった。

「はい、飯田古物商ですが」
「飯田様、大変です。とんでもないものを見ました」
「どうした? また奈落への大きなゲートが開いたのか?」
「いえ、地獄の奴らがこちらに来ています」






「あれ、唯はどうしたの?」
「まだ寝ておられるわ」

 翌朝、というより昼近くになって起きてきた京に対し、芽衣はあっさりと返す。リビングには休日というのもあり、ガーディアンの大半が集まっている。だが同僚達より京が真っ先に探したのは、やはり彼女が惚れている恋人の姿だった。

「寝坊って、珍しいわよね」
「そうかしら? 昨日は夜更かししたから、普通じゃないかしら」

 どっかりとソファに座った京の意見に対し、ノートパソコンでメールをチェックしている芽衣が何処か適当な様子で返事する。

「夜更かしって……そんなの毎日してるじゃないのよ」
「昨日は私達を抱いておられないから」
「え? ……ああ、そういうことね」

 京はようやく合点がいったように頷いた。唯はガーディアンとの性交時には疲れない。それどころか睡眠を得なくても、翌朝はすこぶる体調が良いようだ。僅かにセックスしただけで、彼は朝まで目が冴えて眠れないときもあると、円が彼から聞いたこともあるらしい。

「由佳、朝ご飯頂戴」
「自分でそれくらい用意してよ」

 京がキッチンに声をかけると、トマトを刻んでいた由佳があからさまに不満な返事をする。

「まあまあ、私が持って行くから」

 静香が由佳の代わりにフレンチトーストとオムレツを、キッチンから京の前へと持ってくる。電子レンジで温め直した物だが、京は特に気を悪くする様子もなく料理に手をつけた。
 それから五分とおかずに、今度は唯がリビングの扉を開けた。

「ごめん、寝坊しちゃった。おはよう」
「おはようございます」

 慌てたような声を出す唯に対し、大方のガーディアン達は温かな挨拶で迎え入れる。主が来ただけで、リビングの雰囲気が穏やかなものへと変わった。ガーディアンしか居ない場合では、互いに仲間を知り尽くしているために態度が素っ気無いものだが、愛する主が姿を現したとなれば気持ちが高揚し、嬉しさを感じるものだ。それぞれに自然と笑みが生まれる。

「おはようって、もう昼近くもいいとこよ」
「いや、珍しく寝坊したからさ」

 呆れたように言う麗に、唯は軽く弁解する。口調はトゲトゲしいが、雑誌を捲って読んでいる麗の表情も僅かに緩んでいた。言葉とは裏腹に、麗も恋人と過ごすのは嬉しいのだ。そんな軽いやり取りでリラックスしていた麗の背に、いきなり人一人分の重みが加わり、小学生でもある彼女は「うげっ」などという声と共に前のめりになる。

「ちょっと楓、一体なんなのよ!?」
「唯様を苛めないで」

 麗の背に乗った楓が冷ややかな目つきで彼女を責めた。

「あのね、別に苛めたわけじゃないわよ。私は事実を指摘しただけ、事実を!」
「………」

 麗は細身の腕を使って、楓を思いっきり押し返した。麗が言ったきつい言葉に対し、唯の代わりに楓が随分と怒っているようだ。楓の顔は全くの無表情だが、麗は彼女が頭に来たというのが何となくわかってしまう。

「あらあら、これだからダメね、お子様は。恋人の不都合なことは、黙って見過ごすのが大人の女ってものよ」
「な、何ですって!?」

 百合の静かなからかいに、麗は思いっきり食いつく。一人用のソファに座った唯の膝上に、浴衣姿の百合はいつの間にかちゃっかりと陣取っており、少年の頬を撫でている。唯の頬は流石に恥ずかしいのか、微かに赤みを帯びている。

「オバサンに言われたく無いわよ」
「フフフ、小学生にそういうこと言われてもね……うぐっ!」

 いきなり楓に背中に乗っかられて、今度は百合が苦しい声を出す。

「な、何するのよ、楓……」
「抜け駆けしないで」

 膝上で軽く小競り合いをする百合と楓に対し、唯は二人分の重みでかなりの重量を感じるが、口が裂けても重いなどとは言わなかった。それは女性に対する最低のマナーだと、唯は思っている。だがそれを察して、代わりに雛菊が二人を注意した。

「二人とも、いい加減にしろ。唯様もかなり重いだろうに」
「……ごめんなさい」
「ボウヤ、ごめんなさい」

 雛菊の諌める言葉に、楓も百合も素直に謝って唯の上から退いた。唯は気にしていないと二人に笑顔を見せる。百合は優しい微笑みを少年に返し、楓は微かに顔を赤らめると目を恥ずかしそうに逸らした。

「雛菊さんもありがとう」
「いえ、そ、そんな滅相も無い……」

 唯の言葉に、雛菊はモゴモゴと小声で返事をした。百合のような余裕を持った大人の女性も居れば、楓や雛菊のように恋愛に未だ慣れていない者も居る。二千年以上も生きているのに、こういう個性が残っているのもガーディアンの良いところだと唯は思っている。

「朝ご飯を抜かしたから、唯君もお腹空いてるでしょう」

 キッチンからやってきた由佳が、トレイに乗せた食事を唯の前へと置く。トレイには朝食の一部であっただろうフレンチトーストとサラダ、ソーセージ、オムレツ、それに昼食として作られたに違いないチャーハンと餃子などが乗っている。

「存分に食べて頂戴。でも多かったら、遠慮なく残してね」
「うん、そうするよ」

 ブランチにしては大目の食事を前に、唯は由佳の勧めにあっさりと従った。全部食べるのは唯には到底無理な話だ。唯が早速食事に手をつけはじめると、それを眺めていた京が目を由佳へと転じる。

「ちょっと……随分と私との扱いが違わない」
「あのね、唯君と同じように恋人みたいに扱えっていうわけ?」
「………悪かったわよ」

 不満そうな京だったが、由佳の呆れたような一言に、矛を収めた。由佳に可愛い弟に接するように対応されると考えるだけで、京は背筋が寒くなる。

「唯君、チャーハン一口頂戴」
「いいよ」

 早苗が唯に明るく声をかけると、唯はあっさりと応じる。スプーンで直接食べさせて貰う早苗の姿を見て、円とミシェルが後に続く。

「ああ、私もフレンチトースト欲しいな」
「私はウィンナーが欲しいです。もちろん変な意味じゃなくてね」
「こらこら、そこ。唯君にたからないの」

 由佳から注意が飛ぶが、円もミシェルも聞く耳を持たない。唯に直接食べ物を口に運んで貰い、二人はすこぶる満足したようだ。すぐに何人かが後に続こうとしたが、唯のポケットから聞こえてきた携帯電話の着信音で中止するしかなかった。唯は携帯の着信音に僅かだが怪訝そうな顔をしていた。

「はい」
「麻生様、飯田です」

 電話から漏れた声に唯は緊張を僅かに解いた。唯は先ほどかかった着信音を飯田の電話番号に設定していたが、かかってきたのが初めてだったので驚いたのだ。普段は飯田からの連絡はメールなどからが主である。

「申し訳有りません、突然お電話してしまって」
「いや、構わないですよ。それより要件は?」
「お手数をかけますが、ちょっとこちらにお越し頂きたいのですが」
「至急?」
「出来れば早く」

 飯田の言葉に、唯はチラリと周りを見回す。ガーディアン達が自分のことを見ているのが、唯の目に映る。

「わかりました。すぐ行きます」
「出来れば金城様か皆口様もお連れ下さると助かります」
「多分、両方とも連れていけます。では」

 唯は通話をボタンで切ると、立ち上がった。

「飯田さんだった。すぐに来て欲しいらしい」
「飯田が?」

 唯の説明に芽衣が声をあげた。悪魔に対する情報を収集している飯田がすぐに来て欲しいというのは、よっぽどのことに違いない。

「芽衣さんと円さんに来て欲しいって」
「わかりました」
「わかったわ」

 緊張した面持ちで芽衣と円が立ち上がると、何人かが釣られるように立ち上がった。

「唯殿、良ければ私もお連れ下さい」
「嫌な予感がするのよ」

 エリザヴェータと京が真剣な眼差しを唯に向ける。唯は自分に注がれる全員の視線を感じた。

「とりあえずついて来たい人は来て、店の前で待っていてくれる? 話は僕と芽衣さん、円さんが聞くってことでいいかな?」

 唯の提案に「わかりました」「わかった」などとの声でガーディアン達は同意を示した。食事もそこそこに、唯はリビングから自分の部屋へと出かける準備をしに出て行き、彼の配下も後に続いた。






「麻生様、地獄のやつらが来ています」

 古物商に到着した唯に、飯田は開口一番にこう告げた。飯田の表情から相当重い話題だというのはわかるが、当初唯は何が問題なのかわからなかった。

「え、地獄って……悪魔って奈落って所から来るんじゃないの?」
「ええ、本来ならそうなのですが……」

 唯の質問に芽衣が飯田の代わりに答えた。飯田の一言を聞いた芽衣、円、早苗の三人は一様に僅かだが動揺しているのが、唯には見て取れた。店内には唯の他に芽衣、円、早苗の三人が居り、他のガーディアン達は店の前に駐車した車内に待機している。

「まず唯様に理解して頂かなければいけないのは、この世界に繋がる邪悪なる者達が潜む世界が幾つかあることです。例えば亡者が大量に潜む幽界、俗に言う黄泉比良坂のことです。奈落と地獄もそれらの世界の一つで、双方に我々が悪魔と呼ぶ存在が居り、奈落に居る者はデーモンと呼び、地獄に居る者達はデビルと呼びます」

 芽衣の説明に唯は驚いた。悪魔が来るのは異界からなのを知っていたが、そのような世界が幾つもあるとは彼は思っていなかったのだ。ちょっと前までは一般的な市民だったのだから、知りようも無い。

「奈落と地獄ってどう違うの?」
「奈落は無限の階層が何処までも続く世界で、悪魔達が覇権をかけて永遠の闘争を繰り広げています」
「まあ、中には住みよい世界もあったりしますが」

 会話の途中に割り込んだ飯田に、芽衣は眉をぐっとしかめて睨みつけた。だが飯田はその氷のような視線にも全く動じず平然としたものだ。

「飯田さんはそこから来たんだよね」
「ええ。どの階層かは申し上げられませんが、そうです」
「それじゃ、地獄はどんな場所なの?」

 唯の質問に今度は円が答える。

「地獄は九つの階層に分かれていて、悪魔達が権力闘争を繰り返していますが、基本的には悪魔の王を下に貴族達がそれぞれの層を守っているそうです。生前に悪人だった者達は、地獄に行く者も居るそうです」
「じゃあ、本当に僕たちの言う地獄に……」
「ええ、近いですかね」

 唯が思い浮かべる地獄は鬼達が住み、罪人が苦しめられるという仏教で言う地獄に近い。

「じゃあ、地獄と奈落の悪魔達って違いがあるの?」
「まあ、人間を堕落させてエネルギーを得るという点で、基本的には変わりはありません」

 芽衣がちらりと飯田を侮蔑するような目で見る。無害そうな顔をしているが、飯田も一皮剥いたらら裏で何をしているか、わかったものではないと芽衣は考えていた。

「奈落の悪魔は直情的で、麻薬の販売、売春の斡旋など直接的な手段を好みます。飯田みたいな狡猾な者は少ないですわ」
「お褒め頂いて光栄ですな」

 芽衣の皮肉が混じった評価に、飯田は顔色一つ変えずに礼を言う。

「それとは逆に、地獄の悪魔達は組織立っており、陰から物事を操ります。陰謀などを好んで、より周到な準備をしますわ」
「なるほど。じゃあ、ザウラスはどっち?」
「あの悪魔は典型的な奈落の悪魔ですわ。協調性に欠けた一匹狼で、自己の欲望に突き進むタイプです」

 芽衣の答えに、質問した唯は深く納得する。戦いに固執するあの執念は、唯にかなりストレートにぶつけられているからだ。

「地獄の悪魔達ってかなり厄介なんだよね。チームワークあるし、頭もいいし……それで、今回はこっちでどんな悪巧みしてるの?」
「部下が偶然見つけたのですが……」

 早苗に対し、飯田が数枚の写真と資料を取り出す。写真には繁華街の一角らしき場所が、数枚にわたって収められている。

「会員制と思わしき秘密クラブを運営しているらしいです。確認しましたところ、店員として多数の悪魔達が就業しております」
「何でまたクラブなんか……」
「デビルが考えそうなことですな。誘惑し、堕落させる。表向き、スワッピングや調教、奴隷の紹介、ギャンブルなどをしているようです。裏ではもっと過激なことをしているかもしれませんな」
「なるほどね」

 飯田の言葉に芽衣と円が納得して頷く。昔から男女が乱交を行うサバトなど、モラルに反する行為を上手く煽り立てて推奨し、地獄の悪魔達は陰で人間達を堕落させて力を得てきたのだ。直接的な対決をすることは少なかったが、ガーディアン達は何度か九層地獄から来た者達と戦っている。その度に彼らの周到さと、人間社会への浸透力にガーディアン達は驚愕したものだ。

「問題はどうやって叩くか……ね」
「正面対決はいけるかな?」

 腕を組んで考える円に、早苗があまり期待せずに強攻策を提案する。だが飯田が首を振ってそれを否定した。

「残念ながら、このヘルズプレジャーの経営者についての情報を、ほとんど得られませんでした。直接襲撃をかけても黒幕を捕まえられる可能性は少ないでしょう」
「そうなると、まずは情報を集めなくちゃね」

 じっと会話に耳を傾けていた唯が、尤もな意見を述べる。唯の提案に、ガーディアンは元より飯田も是非は無い。一先ず四人は資料を読み漁り、情報収集の方法について何かいい案が無いか探し始めた。飯田が行った予備調査はよく出来ており、店内の構造、クラブにおける過激ともいえるサービスの内容、一部だが客の個人情報までも記されてあった。

「これって一応お店だから、入ろうと思えば入れるんだよね?」

 資料に目を通していた、唯が率直に飯田に聞いた。

「クラブに入るには他者の紹介などが必要ですが、その辺は私の部下にお任せ頂ければ大丈夫です。ただこの秘密クラブの客層はかなりの異常性嗜好者がほとんどなので、それを装わなければ調査が発覚する可能性がありますね」
「なるほどね……」

 唯は手を顎に当て、一分ほど考え込んだ。全員の注視が集まる中、唯は何か思いついたかのように顔を上げた。

「飯田さんは入店する手引き、できるんだよね?」
「ええ、それはもちろん出来ますが」
「ちょっと考えがあるんだけど」

 唯は慎重に自分の意見を切り出した。穏やかな唯の口調とは裏腹に、彼が出した驚愕すべきプランに芽衣達は度肝を抜かれることになった。






「あのとき、ちょっとおかしいと思ったのよね。でも、よく考えれば九層地獄から来た悪魔だって、すぐわかるわよね」

 雨模様の車外をガラス越しに見ながら、憂鬱そうに麗がぼやいた。彼女が言っているのは、先ごろエリザヴェータと共に遭遇した悪魔についてのことだ。ほんの僅かな接触で相手を滅し、元の世界に送り返してしまったので、二人は地獄の悪魔が現世に現れていたことに気がつけなかった。だが近くで奈落の悪魔が殲滅されていたなら、忌み嫌いあっている地獄の悪魔という可能性を思いついても良かったのだ。

「まあ、仕方ない。こうやってまた尻尾を掴めたのだから、結局は同じことだ」
「悔しいったらありゃしない。あんたはよく平気よね」

 淡々としたエリザヴェータの反応に、麗は本気で悔しがった。

「今度こそ、絶対にけちょんけちょんにしてやるわ」
「はいはい、でもすぐに暴れないでよね。ついたわよ」

 由佳の言葉に、麗が外の道路をじっと注視した。主を含めたガーディアン達全員が乗った二台のリムジンは、ヘルズプレジャーがあると言われているビルの前に停止する。黒いレインコートを羽織って、大粒の雨が降りしきる中、13人の集団は道路へと降り立った。全員が降車すると同時に、飯田が手配したリムジンは走り去る。黒いレインコートの一団で二番目に背が低い者が先頭になって歩き、ビルへと近づいた。

「……クラブに遊びに来た」

 傘を差して外でのチェックに当たっていたスーツの男は、陰鬱だがまだ幼い声に話しかけられて驚いた。背の低い相手は明らかに未成年だ。だがその手が差し出したのは、間違いなく常連からの招待カードだった。

「少々お待ち下さい、いま確認を……」
「この店は客を待たせるのか?」

 明らかに馬鹿にしたような声で、唯はガードマンを挑発した。顔を上げたフード越しに少年が銀色の舞踏会で使うようなマスクをつけているのがわかり、ガードマンはようやく態度を改めた。

「どうぞ、お入り下さい」

 ヘルズプレジャーへの扉が開き、唯は堂々とした動きで入っていき、他のガーディアン達がついていく。中に入りレインコートを脱いだ唯の姿に、内部のボディチェックの者達が驚く。きっちりと上質そうなタキシードに身を包み、銀仮面をつけているとは言え、唯の姿は明らかに未成年だからだ。唯に少し遅れてレインコートを脱いだガーディアンの姿に、ガードマンは更に驚愕した。ガーディアン達は全員、黒いショートスカートのメイドの格好をしていた。胸を強調するようなデザインの服のせいで、巨大な胸が白いシャツ越しにより強調されており、黒い舞踏会用マスク越しにも全員が美人を予感させる雰囲気を纏っている。

「は、恥ずかしい……」
「馬鹿、私だってこんな格好は嫌よ」

 羞恥で湯気が上がりそうになりつつ、雛菊と京の二人が小声で会話を交わす。当初はメイド服に相当な抵抗を見せた両人も、若い主人とメイドの奴隷という設定を考え付いた唯に押し切られ、生きてきた二千年間で初めてメイド服に袖を通した。芽衣や百合、麗などもかなりメイド服を着るのに抵抗があったが、早苗やミシェルなど喜んだ者達も居る。

「おい、何勝手に喋っているんだ?」
「申し訳有りません、ご主人様!」

 静かに後ろを振り返った唯に、雛菊と京の謝罪が唱和する。唯にあらかじめ言霊によって、ある程度の条件反射をプログラムされたので、雛菊と京の二人はすんなりと主に従順なメイドを演じることが出来た。唯は不機嫌そうに正面へと向き直ったが、雛菊と京の耳元に少年の声が聞こえてきた。

(ごめん。でも、二人とも少し気をつけてね)
(申し訳有りません)
(悪いわね。気をつけるわ)

 雛菊と京は口の中で僅かに小声を発しただけだが、音を操る唯には、はっきりと聞こえた。ガーディアン同士のコミュニケーションは、唯の能力を介して行うことになっている。
 唯はメイド姿の恋人達と共にボディチェックを受けた。本来ならば唯や麗のような少年少女は追い返されるところだが、紹介状を持っていたことと、性奴隷を思わせるメイド達を従わせているのが入店拒否を躊躇わせた。何より唯の堂々とした態度が決定打になり、女をわんさか従えた謎の少年は無事に秘密クラブへと潜入を果たした。
 クラブのホールへと案内され、唯達が入って行くと客の注意を一斉に引いた。客の多くもマスクをつけており、その好奇の視線にガーディアン達の多くがたじろぐ。ミシェルなどは場慣れしているのか堂々としているが、静香は穴があったら入りたいくらいだ。だが唯はそんな視線に臆した様子もなく、案内の店員が来るまで堂々と立っていた。

「こちらになります。どうぞ」

 バニーガールが来て唯をボックス席へと案内する。相手は見事な金髪でアングロサクソン系の美女だが、唯を除いたガーディアン達は相手の正体がすぐにわかった。九層地獄からの悪魔だ。客からの視線に射竦められていた芽衣達は、敵を目の前にして闘志が湧き上がり、落ち着きを僅かに取り戻す。見回せば周囲のバニー姿の店員は全て悪魔で、ガーディアンは改めて敵地だと思い知らされた。ボックス席に案内されると、唯は中央にどっかりと陣取り、それを囲むようにガーディアン達がごく自然に座る。唯の両脇を固めたミシェルと芽衣は唯にもたれ掛かり、麗と円がソファとテーブルの隙間に入り込んで、床に座って主の膝上に甘えるように頭を乗せた。

「本日はどのような趣向をお好みでしょうか? 公開調教はお時間が少しかかりますが、スワッピングなどはすぐに準備できますが」
「そういうのには興味が無い。今日はカードをやりに来た」

 唯はポケットから財布を取り出すと、かなり厚手の札束をバニーに渡した。そのうちの一枚を抜き取り、少年はバニーガールの胸元に軽く入れる。慣れた手つきだったが、芽衣に現金を貸して貰ったときに。唯は「こんな大金は手に持つのは初めてだ」と言っていた。

「ただいまチップに引き換えさせて頂きますわ。お飲み物はいかが致しましょうか?」
「コーラを頼む」
「はい、わかりました」

 一度去り、コーラを乗せた盆を持ってバニーガールが戻ってくる。唯の足元に居た円が早苗と入れ替わっていたが、悪魔はそれに気がつかなかったようだ。あらかじめしておいた打ち合わせで、円は影に潜って店内の情報収集にあたることになっていた。店内のあちらこちらのボックス席では男女が交わる嬌声や異音が聞こえ、中央のステージではマスクを被った女が男達に集団で犯されている。いかに日本が性に比較的寛容とは言え、この店内の様相は異様だ。だがそんな中でも唯は不思議なことに冷静さを失っていなかった。

(凄いね、こりゃ)
(唯様も興味あります?)
(うーん……正直に言えば、誰かに見られながらするのには全然興味無いね)

 ガーディアン達だけに聞こえるように、唯とミシェルは軽く言葉を交わす。インモラルな秘密クラブへの潜入とは言え、心強い配下全員が一緒に居て、いつでもコミュニケーションが取れるなら唯に恐れや動揺は無かった。少年ながらも、こういう点では唯は度胸がある。
 コーラを二、三口飲んだ唯は立ち上がると、ガーディアンを伴ってギャンブルのスペースへと向かおうとした。そんな彼の前を一人の客が遮った。

「ちょっといいですか?」

 相手は額が禿げあがった男で、銀色でやたら派手なマスクをしている。スーツの上からもわかる程度腹が出ており、相手が中年だと唯は推測した。

「何でしょう?」
「いや、随分とたくさんの女性をお持ちなので、少し気になりまして。私も何人かの雌奴隷を持っていますが、いやはや敵いませんな」

 中年の男がチラリと見た方向を唯が確認すると、ソファにボンテージ姿の半裸である美女が何人か座っているのが見える。彼の言う雌奴隷というものなのだろう。

「どうでしょう? よろしければ一時交換して楽しみませんか? そちらも結構な女性をお持ちですし」

 相手の男が芽衣に手を軽く伸ばす。体を強張らせた芽衣の直前、胸に触ろうとした腕を唯は思いっきり掴んで止めた。

「失礼。最高の女を飼っているので、他人の持ち物には興味は無いんで。すみませんが、こちらの持ち物にも手を出さないで頂こう」

 唯が手を離すと、男は僅かに未練がましく少年とメイド姿のガーディアン達を見ていたが、やがて諦めて去って行った。唯はくだらないとばかりに「ふんっ」と荒い鼻息を吹いたが、内心はホッとしていた。ガーディアンの誰かが他の男と寝ると考えただけで、少年は気が狂いそうになる。

(もしかして……今の丸発コーポレーションの社長じゃなかった?)
(それ、本当? 言われて見れば似ているわね)

 芽衣と由佳が唯の能力を介して、小声でコミュニケーションを取る。政財界に詳しい芽衣は、先ほど話しかけてきた男の正体を仮面越しに見破ったらしい。財界には性的モラルが低い者も多いが、地獄の悪魔達がもうそこまで魔の手を伸ばしているとは、芽衣は思っていなかった。

(確認したわ。確かに丸発コーポレーションの社長にそっくりだわ)

 店内の何処かに居る円が芽衣の意見に同意する。芽衣はあまりキョロキョロしないように気をつけつつも、もう少し周囲に気をつけて観察することにした。
 賭け事が行われている一角へと唯が歩みを進めると、彼が想像したより多くの人間達が参加していた。バカラ、ルーレット、ブラックジャックなどが各テーブルで行われており、随分とエキサイトしているようだ。周囲を眺めていた唯は、とあるテーブルでテキサスホールデムの参加者を募集しているのを見て、真っ直ぐその卓へと突き進んだ。

「失礼、参加させて貰うよ」

 ポーカーを始めようとした五人の男達は、いきなり現れた少年の姿にギョッとした。だがテーブルの上にバニーが運んできたチップの量と、少年が侍(はべ)らせている美女の数に圧倒されて声が出ない。

「異存ないようですね。では、よろしく」

 ミシェルとエリザヴェータを体に纏わり付かせつつ、唯は椅子に深く腰掛けてゲームに参加する。そしてしばらくするとポーカーの勝敗は、ほぼ一方的なものとなった。いつもと同じく、当初の唯は勝負を避けてひたすら相手の動きを窺っていた。そして一定の時が経つと、一気に勝負に打って出て周囲からチップを巻き上げ始めた。唯の勝負勘は鋭く、特に相手のブラフを悉く看破する手際は鮮やかとしか言えなかった。参加者達はチップを巻き上げられる度に悲鳴を上げ、やがて何事かと周囲を人が取り囲むまで時間はかからなかった。そんな中でも唯は悠然とゲームを続け、チップを増やし続けた。

「いやあ、お見事お見事」

 チップをあらかた他の参加者から引き上げた唯の耳に、大きな拍手が聞こえてきた。野次馬の集団が大きく動き、道を開く。その先には悠然と一人の背が高い男が佇んでいた。山高帽に燕尾服という古風な出で立ちはもちろんだが、何よりカイゼル髭を蓄えているというのが目を引く。五十過ぎに見える紳士を目前にして、唯は恋人達が一斉に警戒したのを感じ取った。

「私、ここのオーナーをしております、ADと申す者です。よろしければ少々お話が聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……いいだろう」

 唯は僅かに迷ったが、相手の誘いに乗ることにした。罠の可能性は高いが、ここで断わって相手の情報を得る機会を彼は見逃したくなかった。

「それでは、こちらにお越し下さい。もう一人のお嬢さんも連れて」
「わかった」

 男の案内に、唯はゆっくりとついて行き、ガーディアン達も後に続く。歩いている途中で、その列に円が加わった。

(ごめんなさい、唯様。相手に気付かれたようです)
(仕方ないよ。ここは相手のホームグランドだし)
(気をつけて下さい、何が起こるかわかりません。この男、相当な力を持った悪魔のはずです)

 円の忠告に、唯はわかったと答えた。既に他のガーディアン達からも、彼は多数の警告を受けている。
 唯はとある応接間に通された。豪華な調度品が並び、きらびやかなアンティークに飾られたその一室は華麗だったが、何処かけばけばしさを拭いきれて居ない印象がある。唯がソファにどっかりと座ると、彼を取り囲むようにガーディアン達はさっと集まった。ADと名乗った男も、椅子に深く腰掛け、ゆっくりと口を開いた。

「ようこそ、ガーディアンの諸君! 我々の同胞が随分と世話になっているようだな。君達と会うのは戦中のドイツ以来だな、あの時は我々の部下が大いに世話になった。ついでに先日も私の部下を地獄へと追放してくれたな」

 男が葉巻を取り出し、火をつけた。相手の言葉に、ガーディアンの何人かが緊張する。唯も第一次と第二次大戦中におけるガーディアンの戦いを少し聞いたが、男の挨拶に恋人達は記憶を呼び起こされたのかもしれない。

「よもやこんなに早く、この本拠地を突き止められるとは思ってもいなかったのだよ。本来ならば、君達みたいな野蛮人とは戦いたくないのだが……」
「何ですって!?」
「麗!」

 相手の挑発に乗った麗を、唯が一喝して行動を遮る。主の言霊に押され、しぶしぶ麗は引き下がった。

「おお、素晴らしい! 実を言うとね、君達の主に少し興味が沸いた。見ればきちんと君達みたいな野蛮人をきちんと躾けているではないか」
「僕の恋人達を野蛮人と呼ぶのは止めて下さい」

 唯が静かに告げると、ADは軽く笑みを漏らした。まだ幼い少年に見えるが、敵に対して物事をはっきりと言うくらいの胆力と、感情的にならない冷静さを兼ね備えているようだ。おまけに美男子の部類に入る。

「気に入ったよ、少年。名前は?」
「麻生唯です」
「麻生君か。正直に言えば、君達とはやり合いたくない。戦って負ける気は無いが、生憎と我々の戦力はきちんと整っておらず、下手すれば私は百年もこちらの世界に手が出せない」

 悪魔の言葉に、横で聞いていた京の闘気が膨れ上がる。珍しく弱みを見せた悪魔に対し、勝機ありと見たのだろう。

「見れば麻生君はポーカーが得意だそうじゃないか。良ければ勝負しないか? 負ければ、こちらはこっちの世界から一旦手を引こう」
「そちらが勝った場合は?」
「その場合は一晩私とベッドで過ごして貰う」

 悪魔の提案に唯はゾッとする。悪魔は暗にガーディアン達の体を要求していると、唯は受け取った。唯はポーカーの勝負に負ける気はさらさら無いが、賭けるのが恋人の体とあれば恐ろしい程のプレッシャーを感じてしまう。

「こ、こいつ……」
「私達の身体が目当てなの!」

 ガーディアン達も一斉に体を強張らせ、憎しみの篭った目でADを見つめる。だが憎悪の視線を受けた紳士は、小うるさそうにガーディアン達を見返した。

「はあ!? 何を勘違いしている。誰が君達みたいな、クレイジーサイコビッチを相手にするか」
「じゃあ、一体何よ!?」
「私の目当ては麻生君だよ」

 悪魔の言葉にガーディアンと唯は一瞬だが、動きが完全に止まった。そして次の瞬間、ガーディアン達全員は怒りに我を忘れた。

「ちょっと、こんないたいけな少年を襲おうって、何考えているのよ!」
「このショタコンじじい!」
「異常性愛者め!」
「色情魔!」
「ケダモノ!」
「変態!」
「馬鹿!」
「鬼!」
「悪魔!」
「おいおい、最後の方は悪態になってないぞ」

 ガーディアン達の猛抗議にも、ADは何処吹く風だ。唯は先ほどと同じように背筋が凍ったが、今度は恐怖より嫌悪感の方が圧倒的に勝っていた。少年は思わず尻を軽く押さえてしまう。

「第一お前達も麻生君に手を出しているのだろう。少年を犯しているというのなら、おまえ達も同罪ではないか」
「美女は許される、ジジイは死んで」

 ADの反撃を楓がばっさりと切り捨てる。無茶苦茶な理論だが、ガーディアン達の総意でもあっただろう。

「わかりました、勝負を受けましょう、ADさん」

 尚も続く口喧嘩を唯が一言で止めた。唯のキッパリとした態度に、ミシェルが慌てて止めに入る。

「ちょ、ちょっと待って下さい、唯様。こんな勝負を引き受けなくても……」
「相手は強力な悪魔なんでしょう。それなら、戦うリスクを冒さなくていいのなら、そちらの手段を取るべきだ」
「しかし……」
「それにカードの勝負なら負ける気は無い」

 静かだが、強い自信を唯がきっぱりと見せる。ここまで言われてはガーディアン達も止めに入れなかった。

「はっはっは、よろしい。それでは勝負しようか」
「勝負はテキサスホールデムで」
「それがお得意とあらば、いいだろう。カードはこちらが用意する、ディーラーはそちらに頼もう」

 ADが指をパチンと鳴らすと、バニーの姿に偽装した悪魔が新品のトランプとチップを運んでくる。チップとトランプを直接渡された唯は、カードを開封して軽く確認すると、楓へと渡す。これには楓本人はともかく、ガーディアン達のほとんどが驚いた。楓はカードを配るときにトリックを駆使するなど、器用なことはさっぱり出来ない。唯はどうやら公正な勝負をするつもりらしい。カードを託された楓は良く出来たメイドの如く、忠実に仕事をこなそうと山札をシャッフルし始めた。

「さて、先ほど客人達から金を巻き上げていた手腕を見せて頂きますか、麻生君」

 にやりと笑うADに対し、唯は顔が軽く引き攣る。ADの物腰は極めて紳士的で親しみやすささえ覚える。だが自分と寝たいと言い放った髭の男に、少年がフレンドリーに接することはまず無理だろう。
 カードの勝負は唯が戸惑っている間に、始まった。常とは違い、唯は積極的にADのコールに応え、勝負した。多少賭けチップを吊り上げられても勝負に挑み、良い手では自分からチップを吊り上げる。だがADはそんな唯を嘲笑うかのように、勝負に勝ち続けた。唯が良い手を持っているときにはスルリと勝負から降り、逆に少年の手が悪いときにはジリジリと賭ける額を上げて、チップを巻き上げた。

「どうしたのかね、麻生君。先ほどの勝ちはまぐれだったのかね?」

 真剣な表情の唯に、ADがニヤリと笑う。紳士の姿をした悪魔は服の内ポケットから葉巻を取り出して、悠然と吸ってみせる余裕を見せる。そんな悪魔の様子に、観戦しているガーディアン達は気が気では無い。悪魔に、それも髭面の姿をしている姿の相手に、最愛の恋人を寝取られるなど、悪夢以外の何物でもない。もしこのまま負けるようならば、彼女達は無理やりにでも武力行使するつもりだ。

「しかし、意外に平凡な動きだね。君のカードの腕に関しては、失望してしまうな」

 ADは葉巻から煙をくゆらせて、言葉で追い討ちをかける。
 勝負師として優秀に見えるADだが、実はこれにはカラクリがあった。ADが用意させたトランプには細工がしてあり、カードが透けて見えるのだ。山札は重なっているために見えないが、相手の手札は丸見えなのだ。もちろん役のために公開される五枚のカードに何が来るかわからないため多少の運は絡むが、相手の手札が見えるのなら、勝負はほとんど決まったも同然である。相手の手札と自分の手札を、一枚づつ捲られるカードと比べて勝っていればチップ額を上げ、負けていれば勝負から降りるだけだ。唯は相手のいかさまに気付いている様子は微塵も無く、無表情のポーカーフェイスを維持している。

「楓、捲ってくれ」

 勝負の転機はすぐに訪れた。普通ならば自分の手札を確認してから、一枚づつカードが公開されるのだが、唯はこのとき手札を全く見なかった。この動きに唯を除く全員が驚愕した。手札を確認しないで勝負するとは前代未聞である。特に相手であるADは戸惑った。恐ろしく長い間を生きてきた悪魔でも、この状況をどう読んでいいかわからなかったのだ。ちなみにADの手札はJと5で、悪魔の目に透けて見える唯の手札はQとAだった。

「一体どうしたのかね? 勝負を投げたのかね?」

 唯が自分の手札を知っているという可能性は皆無だと考え、ADは勝負に乗る。楓は唯の命令通りにカードを公開してみせた。カードの一枚目は4だったので、ADは賭けチップを吊り上げず、唯もそのまま続けさせた。だが二枚目がAのときに、唯が動いた。

「チップをレイズする。五枚追加」

 まるで手札をわかっているかのような唯の行動に、ADは驚いた。だがADは本来ならば相手の手札を知らないはずなので、そのように振舞うしかない。自分の手札は不利なのに、ADは勝負に乗った。すると唯はカードが捲られる度に賭けチップを吊り上げていく。ADはズルズルとそれに乗ってしまい、かなりのチップを取り返されてしまった。

「す、凄い……」

 自分の手札も見ずにチップを吊り上げ、そのまま勝ってしまった唯に、円が思わず声を漏らした。最初の一回だけならまぐれ当たりに違いない。そう思っていたADだが、その後も唯は一切自分の手札を確認せずに勝負を挑んできて、悪魔からチップを奪い続けた。不思議なことに、唯は自分の手札が悪いときはあっさりと勝負を降りるのだ。もしや唯にも手札が見えているのではと悪魔は疑いを持ったが、それは本来ならばあり得ないはずだ。ガーディアンの主とは言え、唯が悪魔の能力でしか透過して見ることの出来ないカードを、見たりすることが出来るはずが無い。
 しかしADが驚き混乱している間に唯は強気にチップをレイズし、それに乗った悪魔はチップの半分近くを削られてしまった。こうなっては仕方なく、ADは唯の手札がいい場合は素直に勝負から降りようと思った。

「この勝負、降りるんですよね」

 カードが配られた直後に放たれた唯の一言に、ADの動きが止まった。

「何故そう思うんだね」
「答える必要は無いです」

 小癪な小僧はADにこう言い放ち、じっと悪魔の目を見つめた。ADの手札は3と7、唯の手札はKとQだ。本来ならばあまりにも分が悪いので、悪魔は勝負しないはずだった。だがこう言われて逃げては、唯に全てを見透かされていると認めたも同然だ。

「ふん、そこまで言うのなら、勝負してやろうではないか」

 とりあえず悪魔は勝負に乗ることにした。幸いなことに最初のカードは持ち札同様の7だった。これでワンペア出来たことにほっとして、ADは賭けチップを吊り上げることにした。

「チップ五枚追加」
「チップ更に五枚追加」
「良かろう。合計で十枚だな」

 その後のカードは8、4、2で、ADはこのまま押し切れると見て、カード一枚ごとにチップをどんどん賭けてきた。自分の手札を知らないらしく、唯もそれに乗り続ける。だが最後の一枚であろうことか、Qのカードが捲られた。ADはしまったと思ったが、今更降りるわけにもいかず、とりあえず賭けチップを吊り上げずに続けようとした。だが唯はそうは行かなかった。

「全額賭ける」
「なっ!? 本気かね?」
「本気です。まさか今まで吊り上げてきて、ブラフだったってことは無いですよね?」

 唯がじっとADを見つめる。その視線に、自分自身の意思を全て見透かされているような感覚を悪魔は味わった。もちろん自分がブラフをしていたと言って、勝負から降りるのは簡単だ。だが手札を全く見ず、あまつさえイカサマをしている自分の上を行く唯に、場を完全に支配されたという感覚を悪魔が襲った。まだ勝負は続けられただろうが、悪魔の心が先に折れた。

「わかった。コールしよう」

 手札が捲られ、悪魔はあっさりと勝負に負けた。カードを捲らずに勝ち続ける唯に、今のままで勝つとは思えなかったからだ。

「唯様、流石ですわ」
「私達の主なだけはあるわ」

 芽衣と百合が唯の勝利を褒め称える。決着がついたとわかった途端に、大勢のメイド達に唯は抱きつかれた。柔らかで豊満な女体にもみくちゃにされて、こういう行為に慣れているはずの唯も顔が赤くなるのを抑えられなかった。

「さて、約束は約束だ。私は手を引かせて貰おう。どっちみち、今回のこちらへの侵攻は、私にはあまり重要では無かったのでね」

 山高帽を手にとって、ADが立ち上がる。唯が驚くほどあっさりと、ADは引き下がる様子を見せた。内心ではどんなことを画策しているかはわからないが、ここで今すぐにガーディアン達とことを構える様子は無いようだ。

「鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているな。そんなに私が約束を守るのが不思議かね?」
「えっ……ええ。正直に言うと」
「悪ということが、常に相手の意に反する行動を行うことに繋がるとは限らんよ、麻生君」

 ADは美女に囲まれている美少年にニヤリと笑いかけると、踵を返して歩き出した。だが二、三歩も歩かないうちに彼の歩みが止まった。

「そうそう、麻生君。気をつけたまえよ。こちらに来ている地獄の悪魔は、私だけでは無い」
「えっ?」
「彼女達は、既に君達の脅威となりつつある」

 ADの忠告に、唯がどういうことかを訊ねるより早く、老紳士の体がガスに火がついたように燃え上がった。一瞬眩い炎が広がった後に、悪魔は姿を消していた。






「唯君、凄い。お姉さん、感動しちゃった」
「そ、そうかな?」

 ベッド上でメイド姿の由佳に頭を撫でられて、唯が顔を赤らめる。ADとのカード勝負を終え、唯とガーディアン達はマンションへと撤収していた。深夜に帰宅したということもあり、祝勝会は全員が共有しているベッドで行っている。

「あんな風にトランプで勝つなんて、ボクとかには真似できないよ」
「そうそう。もっと自慢してもいいですよ」

 早苗の言葉に、ウオッカのグラスを片手に持った円が同調する。先ほどからずっと褒められっぱなしで、幾ら恋人達から言われているとはいえ、唯としては少々こそばゆい。

「何か勝負に勝つ秘訣でもあるの?」
「うん、実は能力を少し使ってるんだよ」

 さり気なく聞いてきた京に、唯は正直に白状する。

「能力って……音を使うの?」
「心音ってあるでしょ、心臓の音。あれの違いで相手の嘘とか、手の内とかがある程度わかるから」
「えー!?」

 唯の告白に、京はがっくりと肩を落とす。考えてみれば音を操る唯なら、人の心拍数の変化を聞き取るなど容易かもしれない。

「そういえば、唯様は心拍数で私の嘘とか見抜いてましたよね」

 ミシェルも以前に自分の嘘を見破られたのを覚えている。だが、その説明に納得いかない者達も居る。

「そんな簡単に人の鼓動で手札とか嘘を見抜けるものなの?」
「うん、僕はそういうのに敏感だと思うよ」

 胡散臭そうに聞く麗に対し、唯は軽く微笑む。

「幾ら音が操れるって言っても、唯はまだ子供なんだから、そう簡単にできるとは思えないのよね」
「なら、試してみようか?」
「試すって……またポーカーで?」
「ううん、違う方法で」

 ポーカーでつい最近負けた麗は顔を軽くしかめる。だがそんな麗の肩を掴んで、唯はゆっくりと押し倒した。

「ちょ、ちょ、ちょっと、どうしたのよ!? んっ……」

 驚く麗の唇を唯は自分の口で塞ぎ、彼女の声を封じる。主の大胆な行為に、ベッド上のガーディアン達は、驚いて声も出ない。

「ん、う……唯……あ、ああ……」

 軽いキスだけで呆けてしまった麗の頬や髪を、唯は優しく撫でる。そうすることで、唯は麗の心音がより速く鼓動を刻むのを聞いた。音を操って攻撃する訓練は唯も随分したが、相手の鼓動を聞いて感情を読み取る技能は自然に身についたものだった。恋人を抱くたびに、その声や表情、体温、それに対する心音の反応を聞き取って、無意識に経験を積んでいったのだ。
 唯はメイド服の一部であるシャツの上から、麗の乳房を揉み始めて、彼女を背後から責め始める。

「あ、あう……唯……だめ……はん、あ……」

 胸のどの部分を揉めば麗が興奮するか、唯は心臓の音を聞きながら微調整を繰り返す。刺激がきつ過ぎず、緩やかに心拍数が上がっていく揉み方を見つけると、それを維持してまだ幼い彼女の体を唯は心地良く高めようとする。

「あ、そんな……ふあ……おっぱいばっかり苛めないでよぉ……」

 大きく張りのある乳房を優しく揉み、唯は麗の切羽詰った喘ぎ声を堪能する。何処をどんな風に揉んで欲しいのか、唯には麗の心臓が奏でる鼓動でわかってしまう。

「麗ばっかりずるいですよ」
「ボウヤ、お姉さん達も相手してくれないかしら?」

 眉を寄せて喘ぐ麗の姿に挑発されて、ミシェルと百合が唯の傍へと寄ってくる。唯はミシェルの首に片手を回すと、ぐっと自分へと引き寄せて力強く唇を奪う。続けて百合の唇を奪うと、彼女を抱き寄せて片胸に手を這わせ始めた。

「あん……ボウヤ、嬉しいわよ……ん、んぅ……」

 胸を服越しに優しく揉まれて、百合はうっとりとため息を漏らす。メイド姿の百合を愛撫するのは、普段と視覚的に大分違い、唯は軽く興奮を覚えた。百合も普段とシチュエーションが違うのか、早くも心臓の音が高鳴っており、唯はそれを促進させるために片胸をソフトに刺激してやる。

「あんっ、はぁ……ん、ん、んぅ……」
「ボウヤ、上手よ……あ、ああっ、はぁん……」

 麗と百合は器用に動く唯の両手に翻弄されて、熱い吐息を漏らす。自分が気持ちいいと思える責め方で主が胸を揉んでくるので、短い時間で二人はどんどん高まっていってしまう。

「唯様……んう……」

 ミシェルが空いている唯の唇を奪い、舌を口内へと差し込んでくる。唯はミシェルの舌を口に受け入れて、自らの舌で絡め取った。

「ん、んふ……あむ、ん、ん、ちゅっ……」

 唯を気持ちよくさせようと、ディープキスをしたミシェルだったが、少年は彼女の舌を上手に口内へと受け入れて逆に刺激してくる。性に関してはかなりの経験があるミシェルだが、心底愛している相手とのキスに自分の頭がカッと熱くなっていく。

「ん、んう……あん……」
「やん、あっ、ひゃん……唯……」
「ボウヤ、ああ……そこだめ……弱いの、私」

 両手で麗と百合、それに口付けでミシェルを唯は愛撫する。かなりの集中力を使うが、唯は三人に合わせて上手にペッティングを続けた。同じ胸を揉む行為にしても、麗と百合とでは強弱や揉む場所を微妙に変えて、ベストな刺激を与え続ける。

「唯様、凄い……」
「確かに。三人ともいいようにやられちゃってるわね」

 じっと性交を見つめる楓の感想に、円が同意する。麗、ミシェル、百合の三人が大きな甘え声を出しており、その姿を見ているだけでも、ガーディアン達は生唾を飲み込んでしまう。今日の唯は手加減無しで、自分の恋人達を苛めるつもりのようなのだ。

「あ、ああっ、唯……わ、私、もう……」
「ボウヤ……そ、そろそろ頂戴……」
「私も我慢できないです。唯様のオチンチン下さい」

 巧みな唯の手練に、三人の美女達は喘ぎながらおねだりを始める。そんな彼女達を唯は優しい笑顔を見せながら押し倒す。ミシェルの上に百合が仰向きに重なり、その上に麗がうつ伏せに乗っかる。

「唯、早くして……私、こんな格好は……あ、あぁ!」

 恥ずかしさに麗が唯を急かそうとした途端、彼女の膣口にズブリと少年の陰茎が侵入してきた。

「んう、あっ、ひ、やん……ひゃん……」

 幼い麗の膣内を少年の亀頭が擦りたて、カリ首が肉の穴を押し広げる。唯は自分のペニスで素早く麗のウィークスポットを探り当て、そこを重点的に攻め立てた。その度に少女は百合の柔らかな体へとしがみ付いてしまう。

「ボウヤ、麗ばっかりじゃなくて、私にもオチンチン頂戴」

 自分の目前で切ない表情を見せる麗に我慢できず、百合も甘え声で唯に犯してとねだる。唯は麗が充分に高まったのを見計らい、今度は百合のヴァギナへと肉槍を突き立てた。

「ひあん! ボウヤのオチンチン素敵……あ、あん」

 妖艶な色香を放つ百合は、唯がペニスを挿入するとあられもない声をあげて悦んでしまう。熟女に見える百合だが、まだ若い少年の腰使いに翻弄されて、素直に快感を受け入れる。唯が一突きする度に、麗の幼い体を抱き締めて快楽のパルスに耐えようとする。

「唯様……私も我慢できないです。唯様の硬いオチンチンを私のアソコに入れて下さい」

 片手で自分を慰めていたミシェルが唯に懇願する。メイド姿なので、その様子は完全にご主人様へおねだりする肉奴隷だ。ちなみにミシェルの空いている反対の手は、麗の尻肉を揉んで優しく解している。

「ああぁっ……あん! ひゃぁん!」

 唯がミシェルの膣を硬くそそり立ったペニスで埋めると、途端に彼女はあられもない嬌声をあげた。ミシェルの声は演技でも何でもなく、自然と漏れている。

「ふあ、あっ、あん……ひゃ、あ、あ、あっ、あん、お、おかしくなるぅ」

 唯の亀頭に胎内を小突き回されて、ミシェルはベッドの上で呻く。唯は正確にミシェルのウィークスポットを刺激し、強弱をつけて彼女を翻弄する。既に自分の体は主である彼に調べつくされているが、唯は更にミシェルの体を更に開発しているようなのだ。

「ふあん、やっ、唯……そんな、ああん! お、おかしくなっちゃう」
「ボウヤの凄い……あ、ああっ! は、恥ずかしい……ボウヤ、やめて、お願い!」
「ひああっ、唯様……凄いです。わ、私、耐えられない……」

 三段に重ねられた女達は主に順番に貫かれ、絶え間ない悲鳴をあげ続ける。唯の的確な責めは彼女達を確実に高めていっているが、唯が絶妙なタイミングでペニスを抜いてしまうので、なかなかいけないのだ。快感のテンションが最高の状態で、美女達は悶え続けた。

「何か……凄いことになってない?」
「う、うん」

 涙を流しながら大声をあげる仲間達を見て、由佳と早苗が思わず生唾を飲み込む。唯のセックスが上手くなっているのは知っているが、同時に三人の女を手玉に取っているのは信じられなかった。

「いや、イク、いっちゃう……唯、助けてー!」
「ぼ、ボウヤ、私ももうダメ。中に、中に頂戴!」
「唯様、あ、あっ、お願い……いかせて、あっ、あっ、ああぁ!」

 巧みな責めに翻弄されて、麗、百合、ミシェルの三人が絶叫に近い悲鳴をあげる。すぐさま全員の身体が軽い痙攣を起こし、ペニスを突っ込むと唯は膣の収縮運動を陰茎で感じ取った。頃合を良しと見て取って、唯はそれぞれのウィークスポットをぐっと亀頭で押し潰した。

「やああああ、唯、イク、いっちゃうよー」
「イク、イク……あ、ああっー、くうぅぅぅ!」
「ひ、あっ、あ、あ、イク、イク、ううっ!」

びゅる、びゅ、びゅう、どびゅ

 三人をいかせた後に、唯はようやく射精する。エクスタシーに震える麗の中へとまず軽く射精し、次に百合の中へとたっぷりと注ぎ込む。最後に自分の精液で汚れた陰茎をミシェルの膣内へと入れ、尿道に残った精子を彼女の胎内に押し込んだ。同時に相手をされたというのに、麗、百合、それに性に関しては百戦錬磨のミシェルでさえも大きく息をついて、朦朧とした。

「さて、お待たせ。次は誰が欲しい?」

 軽く流し目をしてくるまだ幼い少年に、ガーディアン達は軽い戦慄と、大きな期待を浮かべずにはいられなかった。






「大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるか?」

 芽衣の軽い質問に、エリザヴェータは少し不快そうに答えた。唯に指で二回、舌で一回、ペニスで一回エクスタシーに導かれたエリザヴェータの体は、既に酷い虚脱感に包まれている。超高速行動モードであるアクセラレーションにも耐えられるくらい強靭な体なのに、今は腰の辺りが軋むように痛んで堪らない。

「芽衣の方は大丈夫なのか?」
「私? 私は大丈夫よ」

 エリザヴェータの質問に、芽衣が普段と一転して締まりの無い笑顔で応える。股間が精液で汚れているのは、さんざん唯に可愛がられた証拠だろう。芽衣の焦点が合わない瞳は、マゾッ気のある彼女のネジが一本外れたのだと、エリザヴェータは理解した。

「しかし、凄いものだな、唯殿の能力は」

 唯の方を向きながら、エリザヴェータがしみじみと言う。先ほどまで自分を可愛がっていた唯は仰向けに寝て、両手で京と由佳、舌で早苗を愛撫しながら、百合の陰部にペニスが繋がっている。全員バラバラに責めているというのに、四人の美女達はかなりの大声で悲鳴をあげている。階下も芽衣の所有する部屋で無ければ、間違いなく同じマンションの住人から苦情が来ていただろう。

「そうね。確かにそう思えるテクニックよね」
「私達の感じる場所を、心音を聞いて完全に把握しているのだろうな。言霊の力を使わなくても、あっという間にイってしまう」

 嬉しそうな芽衣とは違い、エリザヴェータは軽くため息をつく。唯に満足させて貰うのは嬉しいが、自分はそれに見合うだけ恋人を満足させているか、エリザヴェータは不安なのだ。12人もの配下とほぼ毎日セックスして、飽きないものなのだろうか?

「どうしたの?」
「いや、唯殿は私達に満足しているのかと思ってな」
「セックスのこと? そうね、わからないわ。でも、不満があるのなら、唯様はきっと相談してくれるから。そういう優しいお方ですもの」

 エリザヴェータに対し、芽衣は優しく微笑む。それは恋人に対して、全幅の信頼を寄せている笑顔でもあった。

「そうだな。何かあれば、唯殿は包み隠さず話してくれるはずだ」
「そうそう、だから心配なんてしなくてもいいのよ」

 芽衣の言葉に、エリザヴェータも自然と笑顔がこぼれた。

「芽衣さん、エリザヴェータさん、ちょっと来てくれない? みんなぐったりしちゃったから、交代してくれる?」
「はい、すぐに行きます」

 唯の呼び声に、芽衣はエリザヴェータの腕を掴んで引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと待て。まだほとんど休憩していないんだが……このままだと、私が壊れてしまう」
「大丈夫大丈夫、唯様に全てお任せしましょう

 ずるずると芽衣に引き摺られながら、エリザヴェータは信頼をし過ぎるのも考え物だなと、頭の片隅で考えた。







「すみません、返すのに時間がかかってしまって」

 唯がビニール袋に入れたメイド衣装を、飯田へと返そうとする。飯田はいつもの古物店で唯からの返却物を受け取り、怪訝そうな顔をした。

「あのう、麻生様。わざわざクリーニングに出して頂かなくても、良かったのですが……」
「いや、ちょっと汚しちゃって。す、すみません」

 普段より興奮するセックスで汚したなどとは、唯は口が裂けても言えず、いつにもなく低姿勢のまま、飯田の店から彼は逃げ出したらしい。






     































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