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「あの、麻生唯様ですね?」
「はい、そうですが……」

 下校中の通り道、唯はすれ違いざまに声をかけられた。振り向くと中年の男が立っている。まず目に入ったのがすっかり後頭部へと後退した髪、それと人の良さそうな笑みだ。一般的に言うと随分と大人しそうな人物だという印象を受ける。

「わたくし、こういう者なのですが」
「はい……」

 ポケットから出した名刺入れから名刺を取り出し、男はその小さな紙片を渡してくる。白い紙には飯田聡という名前と古物商という文字、それと住所や電話番号などが印刷されている。そういえば以前にもこんなことがあったな、などと唯は芽衣に名刺を渡してもらったときのことを思い出していた。

「……古物商ですか……それで飯田さんは僕にどんなご用なんでしょうか?」
「率直に申し上げたいのですが……」

 飯田の目がぎらりと光を放ったような気配を唯は感じた。それはとても普通の中年とは思えない。

「私はあなた達が悪魔と呼んでいる者でして」
「なっ!?」

 唯は心の中でしまったと叫ぶ。普段は芽衣達が悪魔狩りをしているので、何処と無く自分とは関係無いと思って油断していた。だが高位の悪魔達は普段は人間と変わりない姿をしていることが多いのは知っている。芽衣達に聞いているからだ。
 顔色の変わった唯を目の前の悪魔は手を上げて制する。

「おっと、別に麻生様を力づくでどうこうするつもりはありません。それに今は麻生様をどうこうできる体でもありませんし」
「じゃあ、何で……」
「実はお話がありまして」
「話?」

 悪魔の言葉に唯は首を捻る。人類の守護者にして妖物達を狩る者、ガーディアンと呼ぶべき者達を統括する唯に、本来は敵対する者がどんな話があるのだろう。

「ですけど……」
「信用できませんか?」
「ええ、正直に言って……信用できないです」

 唯は眉を寄せる。先ほどまでの危機感は無いが、警戒心は残っていた。

「なら、信用して頂けるにはどうすればいいでしょうか? ある程度は条件を呑みますが」

 聡、いや唯と親しくはないので飯田とあえて表記する。飯田の提案に唯はしばし考える。

「芽衣さん……いや、そのこちらの能力者を呼んでいいですか? それで彼女の前でならお話を聞くということで」
「いやはや賢明な選択です。麻生様もなかなか思慮深い方ですね。呼ぶのは氷使いの金城芽衣さんですか……一つ条件つきでよろしいですか?」
「どんな条件ですか?」
「私の身を保証して頂けませんか? 別に、この体を消されても奈落に戻されて死ぬわけでは無いですが、あそこからこっちに戻るのが一苦労というわけなので。おまけに今は丸腰で力も全然無いですし」
「力が無い?」

 唯には力の有無などはわからない。確かに外見だけなら、飯田は普通の中年男性だが。

「ええ、一般の人と変わらないでしょう。そのおかげであなた方に狩られることもなく、過ごしてこれたわけで。それに普通の悪魔ならあなたに近づいただけで、察知されます」

 目の前の人物……いや、悪魔がどれだけ真実を言っているかわからない。だが、理屈としては筋が通っている。

「条件を呑みます。あなたの命……いや、身の安全は保障します」
「ありがとうございます。では、こちらをどうぞ」

 携帯電話を飯田が差し出し、唯は慎重に受け取る。一応チェックするが、唯の目にはシンプルな携帯電話にしか見えなかった。相手は学校への携帯電話の持ち込みが禁止されていることも知っているようだった。鞄から薄いメモ帳を取り出し、唯はメモしてある番号をプッシュする。






 秘書室でパソコンを打っていた由佳は鞄から携帯が鳴っているのを聞いた。仕事関係の人間なら、今の時間は会社へと電話してくるはずだ。怪訝に思いながら鞄から携帯を取り出す。見たことのない番号がディスプレイされており、悪戯かもしれないと思いながらも通話ボタンを押す。

「もしもし」
「あ、由佳さん。良かった、電話に出てくれて」
「あら、唯様。こんな時間にどうしたの?」

 聞き慣れた唯の声に由佳の声が和らぐ。仕事中には一切電話をかけてこない唯なので、何となく気分が浮かれる。だがそれも一瞬にして凍りつく。

「えっと、その……僕と話がしたいって悪魔が居るんだけど」
「な……どういうこと?」

 席を蹴って、由佳が立ち上がる。反射的に能力者達に生来備えられている主の周囲を探る能力を使う。だが、由佳には何も感じられない。それで少し落ち着きを取り戻す。

「詳しく説明してくれる?」
「いや、学校から帰る途中なんだけど」
「はい」
「そしたら声をかけられて」
「誰に?」
「いや、その悪魔に……」

 由佳が信じられないように目を見開く。今朝から能力は唯の周りに悪魔を感知していないはずだった。

「そ、それでどうしたの?」
「えっと、今その人……いや、悪魔さんか。それが目の前にいるわけで」

 由佳はしばし呆然とするが慌てて受話器に大声を出す。

「い、今現在?」
「う、うん。それで来て欲しいんだけど」
「すぐに向かうわ。隙があったら逃げて!」

 由佳は通話回線を繋げっぱなしのまま、部屋から飛び出す。そのまま慌てて社長室へと飛び込む。

「芽衣、大変よ!」
「どうしたのよ?」

 血相を変えて飛び込んで来た由佳に、芽衣は驚いたように彼女を見る。未だかつて仕事中に彼女がこのような姿を見せたことはない。

「ゆ、唯様が」
「唯様がどうしたの?」
「悪魔が目の前にいるって」

 由佳の言葉に芽衣は怪訝そうな顔をする。自分の感知能力には何も引っかかっていない。

「私の能力には引っかかっていないけど」
「でも、電話が」
「電話があったの?」

 由佳が差し出した電話を芽衣は手に取る。だがディスプレイには、通話が切れたことだけが示されていた。

「由佳、行くわよ」
「はい」

 片手をついて芽衣は机を飛び越え、執務室の扉を出て行く。既に由佳は廊下へと飛び出している。その姿を、廊下を歩いていた女性社員が目撃する。芽衣の第二秘書だ。

「あ、先輩に社長、ど……」

 「どうしたんです」と続けようとした第二秘書の脇を一瞬で二人が駆け抜ける。書類を抱えたまま、彼女は呆然としてしまう。

「今日の予定は全てキャンセル。三島、任せたわよ」

 由佳が廊下の先から叫ぶのが聞こえる。二人はエレベーターも使わずに非常口に向かっている。

「ちょ、先輩どういうことです?」

 三島と呼ばれた女は慌てて後から非常口に向かう。
 非常口のドアを開けると、そのままの勢いで芽衣は手すりを乗り越えて階段の隙間へと飛び出す。中央に大きく口が開いた非常階段を真っ直ぐに落ちていく。由佳もすぐ後へと続く。二人はコンクリートの床に衝撃を受けたことも感じさせないように着地する。

「う、嘘……」

 少し遅れたが三島は二人が非常口へと入ったすぐ後に来たはずだった。だが二人の姿は影も形も無く、階段を下りる音も無い。ただ遥か下から聞こえてくる扉の閉まった音に、三島は信じられないような顔で階下を覗き込んだ。






「麻生様も何か飲みますか? 奢りますよ」

 公園に設置された自販機から缶コーヒーを取り出しながら飯田は唯に話しかける。

「うーん……」
「今更、毒を盛るってことは無いですよ」
「確かにそうかも。じゃあ、コーンポタージュを」
「……麻生様、意外にマニアックなのが好きなんですね」

 コインを再び自販機を入れたときに、飯田の懐から携帯の呼び出し音が鳴り響いた。自販機のボタンを押しながら、飯田は先ほどの携帯電話を取り出した。

「もしもし」
「誰、あなた?」
「ああ、金城さんですか。少々お待ちを……麻生様、お電話です」
「僕に?」

 コーンポタージュの缶を自販機の下から取り出しながら、唯は飯田を見上げる。携帯を受け取ると耳を当てる。

「もしもし?」
「ああ、唯様。ご無事ですか?」
「うん。とりあえずは」
「どうなってるんですか?」

 スポーツカーを爆走させながら、芽衣が受話器に声を出す。先ほどの通話が切れていたので、発信先に電話したのだ。リダイヤルボタンを押したら、知らない人物の電話に繋がったことから、唯が誰か自分の知らない人物と居ることは確かだった。

「うん、僕と話がしたいっていう悪魔の人が居るんだけど」
「唯様、本当ですか?」
「うん……僕には本物の悪魔かどうかわかんないけど」
「十分でつきます。ですので、それまでご無事で!」

 黄色から赤信号へのスレスレで車が駆ける。車は無理な追い越しなどをしながら、猛スピードで駆けていく。芽衣の横で由佳は京に携帯電話で連絡しようと、がんばっている。しかし京の携帯電話は留守番電話サービスに繋がるだけだ。
 唯は携帯電話の通話を切ると、飯田に電話を手渡した。

「十分ほどで着くそうです」
「それは悪いことしましたな。普通に車で来ると、ここからミラージュの本社まで三十分はかかるはずなんですが」
「まあ、心配をかけてますからね」

 二人が設置されている腰掛けに座って飲み物を飲んでいると、スポーツカーの爆音が響いてきた。
 芽衣と由佳は車のドアを開けると、アスファルトを蹴って大きく跳躍する。その高さは四メートル以上にも上る。木の枝に足をつき、それを蹴って更に高く飛ぶ。そして勢いよく、二人の戦士は唯の目の前へと飛び降りてきた。

「唯様! ご無事で」
「こ、こいつは……」

 とりあえず、唯の無事を確認して二人はまずは安堵する。だが唯の隣に座る男を見て、芽衣と由佳の顔色が変わる。唯の言葉だけでは信じられなかったが、視認して初めて目の前にいる中年の男が悪魔だとわかった。下級悪魔ほどの力も無い悪魔。その微弱な力ゆえ、二人には遠くからはまったく察知できなかったらしい。
 すぐさま臨戦態勢に入る二人と飯田の間に唯はすぐに割って入る。

「ストップ。二人を念のために呼んだけど、この人は僕と戦うつもりは無いって」
「では、何のために……」
「話があるそうなんだけど」

 芽衣が慌てて唯の腕を引いて、飯田と距離を取らせようとする。その目つきは鋭く、殺気を隠そうともしない。

「悪魔の言うことなど信用なりません。この場で私が……」
「落ち着いて。僕達をどうこうする気は無いみたいだし……話を一応聞いてみようよ」
「唯様、悪魔と交渉なんてしたら駄目よ」

 由佳は唯を守るように彼の前へと立ちながら、警告する。

「でも、手は出さないって約束したから。それだけは反故に出来ないよ」
「しかし……」
「とりあえず、話だけは聞こうよ」

 唯の説得に渋々芽衣と由佳は緊張を解く。しかし、いつでも能力を使えるように警戒は続けている。
 悠然とコーヒーを飲んでいた飯田は三人の話がまとまったと見て、顔を上げた。

「それでは申し上げますが……」






「それで……どうしたの?」

 京が芽衣と由佳を交互に見た。
 夕刻のリビング。主に仕えるガーディアン達は唯と共にあった。五人は顔を付き合わせて会議している。
 芽衣が京と雛菊に説明した飯田の話の概要はこういうことだ。飯田は唯に情報提供したいという。他の悪魔の動向、居場所、詳細な悪魔の情報、奈落における勢力など。

「もちろん、見返りは頂きません」

 飯田のこの言葉には三人は正直に言って驚いた。飯田の話によれば、他の悪魔の進出を邪魔することによって奈落での勢力争いに多大な影響があるらしい。飯田はそれをコントロールし、優位を掴みたいとのことだ。

「とりあえず提案は保留したわ。何処まで信用したものかわからないし」

 芽衣も転生を長いこと繰り返し戦い続けてきたが、悪魔や妖物達からのこうした提案は極めて稀だった。自分達はただひたすら魔物を狩り、主に仕えるのが任務だったからだ。狩られるもの達から、自分達に有利な情報をもたらされるとは思いも寄らなかった。

「何故殺さなかった?」
「ああ、それは僕が安全を保障したから」

いきり立つ雛菊を今まで黙っていた唯が制する。

「ほとんど力も持たずにやって来た悪魔の話に興味があった。だから身の安全という条件を呑んだんだ」
「しかし、悪魔との約束など守っても……」
「それは破れないよ。雛菊さん達の主としても、約束は誠実に守りたい。それは僕の義務の一つだと思っている」

 きっぱりと言い切る唯の姿に全員が目を見張る。普段は平凡な中学生なのに、こういうときに唯は主としての存在感をはっきりと示す。芽衣と由佳から見れば、最初に会った少年と同一人物とは思えないくらいだ。

「唯様、それでどうなされます?」

 芽衣の質問に唯は全員の顔を見回す。

「皆の意見は?」
「反対ですわ」
「同じく。芽衣の意見と一緒よ」
「断固反対です。信用なりません」
「右に同じ。悪魔の言うことを聞く方がおかしいわ」
「全員反対か」

 唯は目をしばし瞑る。全員が知らず知らずに固唾を飲んでいた。そして、目を開けたときに唯は決断を下した。

「とりあえず僕は提案に乗ってみようと思う」
「唯様!」
「しばらく彼の情報提供を受けて、真偽を確かめたい」

 全員を射るように見て、唯はきっぱりと宣言する。その言葉に迷いは無い。

「もちろん、最終的に提案に乗っても常に信用せずに用心する。……これでいいかな?」

 唯の言葉に全員がため息をつく。唯の意志が硬いのを見て、強固に反対する気は誰も起きなかった。それに彼が強力なリーダーシップを発揮したのが、従者としては若干嬉しかったのもある。

「わかりました、唯様が仰るなら雛菊も従います」
「同じく。裏切られたら叩き潰せばいいわね」
「ありがとう」

 強固に反対しそうだった雛菊、京が折れたことにより、会議は終わった。自分の意見をあっさりとのんでくれたので、唯は内心ほっとする。自分が思った以上にガーディアン達は唯を尊重してくれているようだ。
会議が終了したと見ると、すぐに由佳が立ち上がる。

「それじゃ、ご飯作るわね」
「まだ作ってなかったの……」
「文句があるなら、自分で作りなさいよ」

 京の言葉に由佳が眉をしかめる。由佳から見れば、京は偉そうな居候以外の何者でもない。それを見かねて雛菊が立ち上がる。

「私も手伝おう。唯様を待たせるわけにはいかないだろう」
「ありがとう、雛菊」

 唯もにっこりと笑顔を由佳に向ける。

「そんなに急がなくてもいいよ」
「うん、すぐ出来るから、唯様」
「急いでよね」
「京は黙ってなさいよ」

 由佳と雛菊は連れ立ってキッチンへと向かう。急に暇になった京はテレビのリモコンに手を伸ばし、夕方のニュースを見始める。唯も大きく伸びをして、京と共にリビングでくつろぎながらニュースを見ることにした。

「唯様、お見事でしたわ」

 唯の傍にそっと寄り、芽衣が囁く。言葉に感嘆の響きが混じっている。

「いや、芽衣さん達が来てくれたから、こうやって提案を話し合えたんだよ」
「それでも、さすがですわ。とても中学生とは思えませんわ」
「うーん、照れちゃうよ。そこまで言われると」
「惚れ直しましたわ」

 芽衣の甘い言葉に唯が彼女の方に振り向く。芽衣は赤らんだ顔で、はぁと色っぽい吐息を吐く。自分へと向けられた艶っぽい大人の色香に、唯はドギマギしてしまう。そのまま芽衣を見ていたら押し倒してしまいそうで、唯は無理やりテレビモニターへと目を戻す。

「えっと、芽衣さん……その、今晩でいいかな?」
「はい。楽しみにしておきますわ」

 唯の小声に芽衣は嬉しそうに、彼から離れていく。これは今晩は芽衣が寝かせてくれないかもと唯は苦笑するしかなかった。こんな悩みを持つ中学生は唯くらいかもしれない。






 夕食後。唯がリビングでくつろいでいると玄関のチャイムが響く。リビングに居た全員が廊下へと向く。

「こんな時間に誰だろう?」

 管理人がマンションに詰めているので、セールスなどでは無いのは確かなはずだが。それにこんな夕刻にセールスが来るはずもない。かといって来客の予定も無い。放っておくわけにもいかず、由佳がキッチンから出て行こうとする。

「あ、唯様。私が出るわよ」
「いや、由佳さんは食器洗っていて。ちょっと見てくる」

 玄関の呼び鈴と連動しているインターフォンがあるのに、唯は玄関へと直接向かう。芽衣はリビングにおらず、雛菊も食器を拭いているので、手が空いているのは自分と京だけだったからだ。それを見送ってから、テレビを見ながらゴロゴロしている京に由佳は目を向ける。

「ちょっと、何であなたが行かないで唯様が玄関に出なくちゃいけないのよ」
「別に私が出てもいいけど……いいの?」
「……私が悪かったわ」

 もし相手が押し売りやセールスなどだったら京のことだ、良くて喧嘩、悪くて半殺しにするのは目に見えている。京は魔物だろうが人間だろうが、気に食わない相手には容赦というものがない。まあ万が一にも強引な押し売りやセールスだったら、雛菊に出てもらうのが一番だと思い直し、由佳は皿洗いに注意を戻す。

「はい、どなたですか?」

 玄関のドアを開けた唯は固まってしまう。玄関の前に居たのは金髪碧眼の美女だった。外国人らしいので唯には年はよくわからないが、ブロンドのウェーブヘアーが似合う大人の美女だ。紺のスーツにグラマラスなボディを包み、芽衣達と同じような巨乳が目につく。にっこりと微笑んでいる笑顔は、男なら誰でも骨抜きになってしまうだろう。
 女は綺麗に日本式のお辞儀をする。

「どうも、初めまして」
「は、ハロー……」
「嫌ですわ、主さま。私、日本語は普通に喋れますわ」

 くすくすと笑う金髪美女の「主」という言葉に、唯はようやく相手が誰だかわかった。

「もしかして……」
「はい。ガーディアンの一人でミシェル・ウィンストンと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
「麻生唯です。こちらこそよろしくです」
「麻生唯様ですか……いいお名前ですわ」

 柔和な笑顔のミシェルに唯は好印象を受ける。優しそうで、暖かい雰囲気は由佳に似ていてとっつき易そうだ。こう言ってはなんだが畏まった芽衣と雛菊、ぶっきらぼうで暴れるのが好きな京は、初対面では普通の人なら距離を感じるだろう。

「えっと、ここでは何ですから、どうぞ入って下さい。すぐに皆を呼びますから」
「はい、失礼しますね」
「全員集合!」

 それほど大声で無いにも関わらず、力のある言葉が家に響く。ガーディアン達の主だけが発することが出来る拘束力のある言葉ではない。しかし、主としての覚醒後に唯はこういう芸当も出来るのだと発見して、徐々に力の使い方を覚えてきている。日々熱心に研究しているからだ。

「はい、唯様。どうしたの?」
「押し売りかセールスか何か?」
「何かありましたか?」

 唯に呼ばれてリビングから三人、それと階上から芽衣が降りてきた。廊下へと出てきた仲間達に対して、ミシェルは唯の陰からにっこりと笑いかける。

「はーい、お久しぶりね」

 四人はミシェルを見て歩みを止める。そして……、

「帰って」

 開口一番、京の発した言葉がこれだった。

「ちょっと、何? いきなり酷いじゃない」
「帰って、あなたなんかに用は無いわよ」
「ちょっと、芽衣。何か言ってよ」

 京の言葉にミシェルは抗議の声をあげる。

「帰って頂戴」
「えー? 芽衣まで何よ。京がいるのに、私が居ちゃいけないの?」
「あなたに来られると困るのよ」
「何でよ。由佳は?」
「塩持ってくるわ」
「ちょっ……それは酷くない」

 仲間達の酷い言葉にミシェルは傷ついたような顔をする。だが芽衣達は意にも介さない。同居人たちの冷酷ともいえる対応に唯は困惑する。芽衣達のミシェルに対する反応に驚いて固まっていた唯だが、見かねて助け舟を出そうとする。

「待ってよみんな。急にどうしたの?」
「唯様、今までこんなことなかったのに、みんな凄く冷たいですわ」
「そ、そうだよ。何かあるの?」

 唯にしがみつこうとするミシェルから、京が素早く少年を引っ張って距離を取らせる。芽衣は渋い顔を隠そうともしない。

「ミシェル、あなた前の主を腹上死させたのを忘れたの?」
「う、確かにそうだけど」
「その前にも何人か廃人や腎虚にしたわよね。あなた……危険なのよ」
「でも、そんなの一部でしょ。それにそれは主の自業自得だって言ってたじゃない」

 ミシェルの抗議に芽衣は眉をしかめる。

「とにかく、帰って頂戴。ここにあなたが居る理由はないわ」
「ま、待ってよ。雛菊、何か言ってよ。学校で同僚でしょ」

 教師である雛菊とミシェルは、実は同じ学校で教鞭をとっている。だが、まだ主のことについて雛菊はミシェルに情報を漏らしたことは無かった。ミシェルは密かに雛菊の動向を監視して、主の居場所を突き止めたのだが、

「おまえなど知らん」

 雛菊の返事も予想通りつれなかった。同僚であることに、何の意味も持たないかのようだ。

「ちょっ……唯様―!」

 由佳と雛菊に背中を押されて玄関の外へと押し出されそうになったミシェルは、最後の希望を唯にかける。それを見て、唯も慌てた。

「あっ、ミシェルさん」
「唯様、ダメよ。触っただけでも腎虚になっちゃう」
「酷いわ。何よそれー」
「す、ストップ。みんな、落ち着いて」

 唯の力ある言葉に全員の動きがピタッと止まる。もちろんミシェルを外へと追い出そうとしていた由佳と雛菊もだ。主の命令する力を持った言葉には彼女達は逆らえない。

「とりあえず、ミシェルさんには入ってもらおうよ。事情が知りたいし」
「ですが、唯様」
「ねっ、ねっ」

 少年にかわいらしくこう言われては仕方ない。四人は素直に引き下がる。普段めったに見ない、甘えた姿に逆らう気は一切起きなかった。

「さすがは主さま。頼りになりますわ」
「ちっ」

 冷静沈着な芽衣が舌打ちしている。喜ぶミシェルと対象に、他の四人は明らかに不満顔だ。

(一体みんなどうしちゃったのかな……ま、また何か一波乱ありそう)

 抱きつくミシェルに唯は苦笑を返すしかない。

「ミシェル。唯から離れてよ」
「そうよ。余計なことしないで早くこっち来なさいよ」

 京にむりやり剥がされ、唯は由佳と京に護衛されるようにリビングへと連れていかれた。

「はい、水!」

 ソファに座ったミシェルの前にコップが置かれる。運んできた由佳はいかにも不本意そうだ。

「何で水なのよ……お茶やコーヒーくらい……」
「水道水だけでも十分よ。出してあげるだけでも、ありがたいと思いなさいよ」
「唯様、由佳が酷いこと言いますー」

 甘えた声を出すミシェルに、素早く芽衣と雛菊がガードするように唯の前へと出る。

「前は普通に接してくれたのに、みんな急におかしくなっちゃって……」
「うーん、みんな何かあったの」
「いえ、特には無いんですが……」

 唯の質問に芽衣は言葉を濁す。

「その……ミシェルはセックスが好きで……それが行き過ぎて、彼女を抱いた主が何人か亡くなられてます」
「そんなに好きなの?」

 唯に向かってミシェルは頷く。

「ええ、主に奉仕するのは私たちの仕事ですし。何人かの方は私を抱き過ぎて、心臓がもたなかったみたいです」

 何人か主の命を奪っているというのにミシェルは悪びれる様子も無い。考えてみれば主は言葉で彼女達を拘束できるわけだ。だから無理やりミシェルに抱くことを強要されるのはまず無いだろう。ミシェルとセックスしすぎて死んだのは、主達の自己責任だったとも言える。

「でも、みんなもセックス好きでしょ? 僕としては別に全然構わないんだけど……」

 芽衣達の顔が明らかにまずいと表情が変わる。ミシェルは興味深そうに女性陣を見る。

「あれ? みんな、唯様とエッチしてるの?」
「ま、まあ一応は……」

 芽衣はあやふやに小声で答える。ミシェルに、唯がガーディアンとのセックスの相性が抜群、もとい天国に昇るような快感だと知られてはまずかった。キョロキョロと全員を見回すミシェルに誰も目を合わせようとしない。

「芽衣とか由佳とかは口では従順だけど、そこまでは好きじゃないんじゃない?」
「い、今もそうだって」
「それに雛菊と京は主とのセックスは嫌いな方だと思ったけど」
「ああ、そうだ」

 女性達の言葉に今度は唯の表情がくしゃりと歪む。

「みんな、エッチ嫌いだったんだ……ごめん、今まで強要して……」
「ああ、そういう意味ではないんです……唯様との情事は別ですわ」
「そうそう、私は唯様なら何度抱かれても構いませんわ」
「本当?」
「ええ、もちろん」

 芽衣と雛菊のフォローに唯はほっと息を吐く。正直、自分にこんなに尽くしてくれる女性達の心を傷つけていないか心配だったのだ。

「良かった。嫌われたと思った……」
「そんな、私たちはみんな唯様を心から慕っていますわ」

 芽衣がハンカチで唯の目じりに溜まった涙を拭く。そんな唯の純真な心に、四人の胸に締めつけられるような熱い感触が広がる。
 唯を見つめる仲間の眼差しに、ミシェルは大体事情が理解できてきた。

「えっと、唯様って中学生くらいよね」
「ええ、そうですけど」
「それなのに、一杯セックスしてる……それも全員で」

 ミシェルの鋭い指摘に芽衣達が僅かだがギクッとしたのを、ミシェルは見逃さなかった。

「もしかして……全員ベタ惚れ?」
「い、いや、それは違……」
「えっ、僕はみんなのこと凄い好きなんだけど……」
「う、うん、全員ベタ惚れですわ」

 否定しようとした雛菊を遮り、芽衣が肯定する。もうこうなったらヤケクソになるしかないと覚悟する。これ以上嘘で唯を傷つけることは彼女には出来ない。

「へえ、二千年以上の転生の末にようやく愛しい主が現れたのね。四人ともおめでとう」
「あ、ありがとう……」

 ミシェルの言葉にも、四人は素直に喜べない。京までも何処かそわそわしている。

「でも、唯様ってそんな魅力があるんだ。凄いわ……で、ずばりどんなところが凄いのかしら」

不安そうな芽衣達にミシェルが切り出す。一番聞かれたくなった質問。ずばり核心に触れられて全員の心臓の鼓動が跳ね上がる。慌てて由佳がフォローしようとする。

「えっと、その……ほら、優しいところとか……」
「もしかして、セックスが上手いとか」
「いや、違……」
「僕、セックス下手?」
「いや、凄いって。唯様のテクニックにお姉さんもメロメロ、クセになっちゃうくらい」

 唯の素直な質問に由佳が一番言いたくなかったことを言わされる。こうなっては最早正直に白状するしかない。心の中で由佳は泣きそうになっていた。予想通りの返答に、ミシェルの瞳が喜びで輝く。

「唯様って凄いんだ。中学生なのに、大人もメロメロにするのって、凄い興味があるわ」

 嬉しがるミシェルと対照的に、他の四人は不機嫌そうな表情を見せる。

「帰って」
「帰りなさい」
「とっとと帰れ」
「出て行ってよ」
「何よー、みんなで唯様を独占しちゃって」

 駄々っ子のように帰れコールをする芽衣達に、ミシェルの頬が膨れる。まるでちっちゃい子の喧嘩だと、まだそんなに年端も行かぬ唯は思う。普段見せる大人の美女の姿とは程遠い。

「一回抱かせて……いや、抱いて貰ってもいいじゃない」
「おまえは一回だけじゃ済まない」
「あなたのそこが問題なんじゃない」

雛菊と芽衣の言葉に唯は絶句する。

「そこまで凄いんだ……」

 唯の見方だと、性欲には雛菊も京も貪欲な方だと思うのだが、その二人が恐れている。雛菊と芽衣の突っ込みにもミシェルますます嬉しそうな顔をするだけだ。四人全員が諦め気味に唯を見る。

「どうなさります、唯様?」
「もうこうなったら唯様に任せるわ」

 同じガーディアンをいつまでも仲間外れにするわけもいかず、ミシェルについて従者四人は主の裁定に委ねることにした。

「一回抱くくらいなら僕はいいけど……それでミシェルさんが満足するなら」
「それはないですわ」
「それはないわよ」
「それはないです」
「それはないわね」

 芽衣、由佳、雛菊、京のほぼ同時の突っ込みに唯は首を捻る。いまいちミシェルを抱くと何がまずいのか、危機感が無い。

「それじゃ、決定。唯様、抱いて下さい」

 がばっと唯に抱きつくミシェルに芽衣達は複雑な表情を見せる。四人は唯の無事を祈るような気持ちだった。






「それじゃ、防犯ブザーをベッドテーブルに置いておきますから」
「う、うん」

 芽衣が言った通り、小さなボタンをベッド脇のテーブルへと置く。唯はシャワーを浴びているミシェルが来るのを待っており、芽衣はできる限りの準備を済ませ、最終チェックに来ていた。コンドーム、気付け薬、荒縄……ナイフなどという物騒な物まで置いてある。

「何かありましたら、押して下さい。すぐに飛んできますから」
「そ、そこまでしなくてもいいんじゃない?」

 芽衣の念の入れように唯は苦笑する。

「何を言っているんですか! これだけではまだまだ足りないですわ」
「あのね、人をレイプ魔みたいに言わないでくれる」

 バスタオルに身を包んだミシェルが寝室の扉に立っていた。シャワーを浴びたはずだが、ドライヤーをかけたらしく金髪はふわりと乾いている。バスタオルに包まれたほのかに火照った体からは色気が漏れており、彼女の準備は万端みたいだ。

「ささっ、芽衣は出て行って」
「ミシェル……本当ならここで私達が監視するはずなんだけど」

 ミシェルは芽衣の手を引っ張り廊下へと連れ出そうとする。

「あのね、初めてのセックスくらい二人っきりにしてよ。私、処女なのよ」
「処女っていっても、それは転生したからでしょ……。それに私や由佳達のロストバージンは二人っきりじゃ無かったわよ」
「え、そうなの?」

 キョトンと芽衣と唯の顔をミシェルは交互に見る。唯は、あははと乾いた笑い声を出しながら頬をかく。

「唯様ってマニアック……」
「ミシェル!」

 ミシェルの暴言とも取れる言葉に、芽衣は鋭い声で注意するが、怒られた本人はどこ吹く風だ。

「はいはい。それじゃ、そういうことで」

 ばいばーいと手を振りながら、ミシェルは寝室のドアを閉める。扉の前で一回大きくため息をつくと、芽衣は繰り返しため息をつきながらリビングへと戻っていった。

「やっと二人っきりになりましたね……」

 ミシェルがにっこりと唯に向かって笑う。だが明るい笑顔をすぐに消すと、目を細めて少年のことを見つめる。ゆっくりと扇情的な動きでベッドの上へと上がり、膝立ちになった。バスタオルの合間からスレンダーな太ももがはみ出すが、気にしようともしない。

「唯様……」
「ミシェルさん……」
「ふふふ、楽になさって下さいね」

 獲物を見つめるようなミシェルの目つきに、唯は思わずドキリとする。欧米人の日本人とはまた違う美しさがミシェルにはある。そのあけすけさが、また外国の美女には似合っていた。
 ミシェルは唯のパジャマを脱がし、薄い胸にするりと手を這わす。

「唯様のような若い方を抱くのは初めてですわ……楽しんで下さいね」
「ん……わかった……あっ」

 つつっと指を乳首に滑らされて、唯が思わず声が出てしまう。

「ふふっ、かわいい」

ミシェルは体に巻いていたバスタオルを脱ぐと、裸身を露にする。一般の女性より遥かに大きく盛り上がった胸、細い腰に、見ごとにカーブを描く尻肉のライン。服を脱いだ彼女は予想以上に素晴らしい肉体をしていた。ガーディアンは美しいボディラインを持つ者が多いが、それぞれに個性的な美しさがある。
ミシェルは唯の隣に並んで寝ると、豊かな胸を上半身に乗せてくる。押し潰された双乳は、ふくよかな脂肪の柔らかさを伝えてくる。

「唯様……」

 ミシェルの指が唯の太ももを撫でると、膨らんだ股間へと達する。

「み、ミシェルさん」
「任せて下さい」

 服越しにミシェルは柔らかく股間を握る。シャフトの全体を、なまめかしく細い指で握られ、唯は呻く。ミシェルの指の動きは絶妙で、腰が浮いてしまいそうな気持ちよさを与えてくる。よっぽど経験があるのだろう、熟練した動きだ。

「あ、ああっ……」
「我慢しないで声を出してもいいんですよ」

 ペニスの裏スジを服の上から撫でられ、唯は思わず声が出てしまう。ミシェルの指の動きは魔性のものだ。
唯は改めて彼女がどうやって歴代の主を虜にしてきたかわかった。ミシェルのテクニックは並みではない。普通の男だったら骨抜きになってしまうだろう。
ミシェルは慣れた手つきでズボンを下げ、唯のペニスを外気に晒す。シャフトはもう硬くなっているのに、ズボンに引っ掛けることもない。

「ふふふ、立派なおちんちん……頂きます」
「うあぁ」

 生暖かい感触がしたと思ったら、ずるりとミシェルにペニスを飲み込まれていた。咽喉の奥まで陰茎が達し、亀頭を粘膜が迎えいれる。

「ん……んむ……んく」
「あうっ」

 ミシェルは口をすぼめ、口内粘膜でシャフトを扱く。咽喉の奥に亀頭が当たる柔らかい感触に、亀頭は透明な液を溢れさせる。芽衣や由佳などが行うのとは性質の違うフェラチオに、唯は悶絶する。

「ん、むぐ……ん……はむっ」

 咽喉の奥までペニスを入れているというのにミシェルはえずいたりしない。それどころか咳一つせず、ペースを上げていく。ジュプジュプと口に溜まった唾液が音を立て、その生暖かさがペニスを包む。頬の内側に擦られ、咽喉の奥まで吸われて唯は腰が抜けてしまいそうな快感を与えられる。

「あ、もう……」
「ん、んむっ、ん、ん、んうっ」

 唯の我慢が限界だと見て、ミシェルはラストスパートをかける。そのスムーズな動きと、生暖かい感触にもう唯は耐えることは出来なかった。

どぴゅ、ぴゅ、ぴゅるるる、どびゅ

 尿道から勢い良く精液が飛び、ミシェルの口を汚す。思わず腰を浮かせて咽喉の奥をペニスでついてしまうが、ミシェルは眉一つ動かさない。頬をもごもごと動かし、シャフトを愛撫するだけだ。亀頭が何度も跳ねて精液を吐き出しながら咽喉を擦るが、それを耐えられるだけの経験があるようだ。
 軽く体を震わせ唯が精子を出し尽くすと、ようやくミシェルの唇が唯から離れた。

「たっぷり出しましたね。嬉しいですわ」

 何度も嚥下せざるを得ないくらい精液を出されて、ミシェルは上目遣いで満足そうに微笑む。口内に残った苦い精液を唾液と共に飲み込み、舌で唇をぺロリと舐める。咽喉に精液がこびりついた感触があるが、ミシェルにはそれさえも自分が興奮する材料でしかない。

「さて、それでは……メインディッシュにいきますね」

 身を起こしたミシェルは唯の上に膝立ちになる。それに唯は慌てて待ったをかける。

「ちょ、ちょっとミシェルさん。ま、まだ準備が」
「あら、唯様はまだいけそうですわ。それに私は準備万端ですし」

まだ硬さを保っているペニスをミシェルはそろりと触り、指を舐めて自分の唾液を撫で付ける。見ればミシェルの陰唇は既に少し開いており、愛液が太ももへと伝っていた。

「唯様の逞しいおちんちんを舐めていたら、私も濡れちゃいました」

 妖艶な瞳が精を欲するように唯を射抜く。それは獲物を狙うような目で、唯はドキリと心臓が跳ねて動きが固まる。

「それじゃ入れますね」

 亀頭に狙いを定め、ミシェルは腰を下ろし始める。陰唇がペニスの先に触れ、柔らかなひだが陰茎を飲み込もうとする。だがそれを唯はミシェルの胸を押して引き止めた。

「待って、ミシェルさん。止まって」
「あら……焦らされるのですか?」
「いや、そうじゃないんだけど……その……キスくらいはしたいなって」
「ごめんなさい。そうですね、デリカシーが無かったですね」

 唯が上半身を起こすと、ミシェルはそっとルージュの唇を近づけてくる。

「ミシェルさん、好きだよ」
「私も……はぅ、な、何これ!」

 少年の言葉に全身がゾクリとするような感覚が走る。唯の言葉に体の全ての細胞が感応したかのような感じだ。

「ゆ、唯様? ん、んぐ……」

驚愕の言葉を唯は唇でふさぎ、ミシェルの口を甘く吸う。体を駆けていく、感じたことがない熱い性のエネルギーに金髪の美女は翻弄される。キスで口を塞がれ、まるで逃げ場が無いように快感が全身に溜まっていく。

「ん、あむ……んっ、んう……あ、あ、んむ」

 唇をあわせるだけのキスなのに、どんどん熱が頭に溜まっていく。そのあまりの熱さにミシェルはクラクラしてしまう。

「ぷはっ……ゆ、唯さまぁ……い、今のは?」
「ん、ミシェルさん綺麗だよ」
「は、はぅん……そ、その言葉です……へ、変になります」

 唯の命令でない力ある言葉に、ミシェルは左右されてしまう。体に経験したことのない熱が溜まり、じんじんするくらいの刺激を体に受け取る。未知の感覚に対する恐怖と、もっと言って欲しいという欲求にミシェルは身動きがとれなくなる。
そんなミシェルに構わず、唯は更に言葉を続ける。

「ミシェルさんって可愛い。いっぱいしてあげたい」
「ひぁぁぁ、そ、そんなこと言わないで……い、いっぱいされたら、わたし……」

 頬にキスされながら、ミシェルは体がぶるりと大きく震える。ほんの囁き程度の声なのに、体はまるで巨大な音に衝撃を受けたように錯覚してしまう。唯の手が腰を触っているだけなのに、皮膚から染み込むような刺激を受ける。

「ミシェルさん、好き」
「ああっ、唯さま、唯さ……ああっ、ふぁぁぁあ」

 細い腰をぐっと引き下ろされ、ペニスがずぶずぶと膣の中へと沈む。亀頭が膜を押し広げ、強引に処女を奪っていく。膜に亀裂が出来たことで膣内から出血する。言葉による快楽と、処女膜を破られた痛みがない交ぜになり、ミシェルの頭がショートする。

「い、痛い……唯さま、痛いなのに気持ちいいのぉ……わ、私おかしい」
「ミシェルさん、気持ちいいよ。もっと僕を感じて」
「ひゃん、い、いた……ふぁぁあ、唯さまの言葉が……おちんちんが……」

 いきなりミシェルの中でペニスが動き出す。ズルズルと膣壁を擦られ、まだ傷ついている膜が痛みを伝える。だがその痛みさえも甘く、感じているのが痛みなのか快感なのかわからなくなっていく。
 処女穴の狭い膣内を肉棒で往復し、やわらかいヒダの感触を唯は味わう。

「ミシェルさん、いいよ。処女なのに食いついて」
「いやぁ……言わないでくださ……あ、あう…は、はっ、あん、あん」

 さすがに処女も五人目となると唯にも余裕がある。胸を揉み、乳首を吸い、首筋や鎖骨に口付けをしていく。

「や、やっ、そんなにこすったら……ひゃ、跡つけないでー」

 まるで自分の所有物だと主張するように、唯は白人らしい純白の肌にキスマークをつけていく。チュッと吸う音ともに赤い斑点が一つづつ増えていく。

「ふあっ、おっぱいもっと強く握って。握りつぶしちゃって下さい!」

大きな胸は張りが強く、強く揉んで変形しても元の綺麗な胸へとすぐに戻る。それが面白くて、唯は何度も胸を揉みしだく。その間も貪るように腰を振り、膣内を探るように動く。

「あ、ああっ、こ、こんな気持ちいいなんて、は、初めて、はじめてぇ!」

 何度も肌を吸われ、自分の皮膚に赤い点をつけられる度にそこから媚薬を流し込まれるような感覚をミシェルは味わう。膣をなぞりあげられる度に全身を逆立たせるような猛烈な刺激を受ける。こんな凄いセックスをミシェルは知らない。

「い、いあ、な、何で……あ、くは……信じられない、もうい、イきそう」
「イっていいですよ」

 ぐいぐいと腰を振り立て、ミシェルはラストスパートへと入る。膣内を肉棒に蹂躙され、子宮口を突かれて金髪の美女は髪を振り立てて悶絶する。頭が熱くなりすぎて、全身がショートしそうな錯覚を覚える。体が上下する度にブルブルとたわわな胸が揺れ動く。

「イく、イク、いぃ、ふあ、あああっ、唯さまぁ!」
「ミシェルさん、素敵だよ」

 ペニスのシャフトをミシェルの狭い膣壁で擦られ、唯も高まっていく。初めて抱く美女が処女を散らしながらも、自分で腰を振っていることに興奮している。ジュブジュブと陰唇から愛液の音が漏れるたびに、凹凸のあるひだが擦れて心地よい。

「ふぁぁぁああああ!」

どく、どぴゅ、びゅる、びく、ぴゅっ

 ミシェルの意識が飛びそうになるくらいの快感が襲う。腰をぐっと沈め、精を吐き出すペニスを体の最も奥で味わう。肉棒は跳ね上がり、ヴァギナの壁を何度も叩く。

「あぁ、一杯出てる……熱くて……何でだろ、気持ちいいんです……」

 子宮の中に入る温かい白汁の感触に、ミシェルはギュッと唯の上半身に抱きつく。溜まった精液の熱だけで、自分の心まで満たされていく。
 唯も長く続く射精の快感を愉しむ。ミシェルの中は温かく、艶かしく動いて唯の精液を搾り取ってくれた。ミシェルが初めてなのに達したことに、少年は身も心も満足した。

「うん、僕もミシェルさんの中、凄い気持ち良かった」
「うふふ、嬉しいです……あっ、ひゃん!」

 腰を引き、ずぶずぶと再び唯がペニスを奥へと沈める。彼はそのままピストン運動を再開する。膣壁を押しのける亀頭がミシェルの中を擦り、カリがヒダをかきあげる。

「あぁん、唯さま、もうできます? いいの、もっと突いて」

 じゅぷじゅぷと音を立てながら愛液が漏れ、エクスタシーに達した直後の膣で陰茎を敏感に感じ取る。イッた直後で感覚が鋭くなっているのに、襲いかかる波のような性感をミシェルは受け流してしまう。

「ミシェルさん、凄い。色っぽくて、ゾクゾクしちゃう」
「ふぁぁぁん、言葉が……ああっ、おちんちんもいいの。ミシェルを一杯突いてぇぇ」

 唯の言葉に一段と高みに上がっていくミシェルの速度が速くなる。抉られるヴァギナに身を震わせ、膣で締め上げてペニスを貪る。その姿は理性を無くした雌そのものだ。

「ひはっ、おちんちん凄い、もっと頂戴、唯さま……はっ、ああっ、ひあん、ふあっ!」

 唯も猛烈に腰を振るミシェルの動きに、またすぐに高まっていく。彼も四人の女性を抱いたが、ここまで激しい相手は初めてだった。ある程度の経験を積んでいるはずだが、油断するとすぐにでも精液が漏れ出てしまいそうだ。

「あっ、あっ、イク、イキます、ふぁ、我慢できない、もっともっとしてしてー、あぁあぁん!」
「うぐっ、出します。僕もイク」

 締まる膣を押しのけ、スパートをかけて唯はペニスで突きまくる。

「ひゃぁぁぁん、イクぅぅぅぅ!」

びゅ、びく、びゅびゅびゅ、ぶしゅっ

 感覚が吹っ飛ぶほどの白い衝動が身体を駆け抜け、ミシェルの脳がエクスタシーを感じ取る。背を大きく反らして、金髪のウェーブヘアーが大きく揺れる。またしても信じられないくらいの快感だった。既に一度達しているにもかかわらずだ。処女の痛みなど、もう何処にも無かった。
 唯もミシェルに合わせて精を解き放つ。一度大量に精子が流れ込んだ子宮内に再び同量の精子が流れ込み、じゅぶりと股間の繋がったところから流れ出す。少し早かったが、ミシェルが達したのであわせて自分も早めにいくことにした。

「ふはぁ、はぁはぁ……ま、またイっちゃった……」

 目を潤ませ、ミシェルは荒く息をつく。脳に酸素を送り込むように、早いペースで呼吸する。唯も深呼吸をして、体を弛緩させた。

「ミシェルさんって、セックスのときは凄いんだね」
「ええ、そう言ったじゃないですか」
「満足させられるかな?」
「えっ? きゃんっ!」

 繋がったままミシェルを押し倒し、唯は対面座位から正常位に体位を変える。柔らかで
薄い脂肪のついた綺麗な太ももを手で持ち上げ、膣口を上向きにする。そしてそのまま腰を振りたてた。

「ひゃぁぁぁあっ! そ、そんないきなり、やめてやめてぇー!」
「ミシェルさん、気持ち良さそう。もっと良くしてあげるね」
「違う違うの……待って待って下さい、待ってってば、そんなすぐには……あっあっ」

 唯の言葉に身体が否応なしに熱くなっていく。二回もイッた体は恐ろしく敏感で、体が快楽でオーバーヒートしていく。唯がキスしてくれているのに、あまりの刺激に体の感覚が麻痺していく。
 何時間もセックスしたことはミシェルには今まで何度もあるが、こんなに強い快感で短時間で何度も果てたのは初めてだ。それは恐ろしく甘美で、脳を焦がすような破滅的な快感だった。

「いやぁぁぁあ、またイキそう。頭がおかしくなっちゃう、馬鹿になっちゃうぅ!」

 ミシェルの目に何度も光が点滅するような幻覚がともる。突き抜けるような絶頂の悦び。だがあまりの急激さに、体は気持ち良さを感じているのに心はついていけなかった。それはさながら快感の荒波に押し流される小船のようだ。

「イッちゃう! イキたくないのに、唯さま、待って……ひぎぃぃ、あくぅ!」
「ごめん、僕はまだイケそうにない」
「こ、腰振らないで、ほんとうにくるっちゃうぅぅう」

 ペニスに突かれ、子宮口を叩かれ、膣をかき混ぜられる。三度目のエクスタシーは短い間隔で何度も絶頂感を与えてくる。膣は何度も蠕動して、体がイク度に狂気へと押しやられそうになってしまう。それでも唯のペニスは容赦なくミシェルを責め立てる。二回イッた後だが、二回目のエクスタシーが浅かったので、すぐにでも射精できそうだった。

「ああ、イク。ミシェルさん、出すよ」
「ふはっ、ああっ、あふっ、ひあっ……」

どぶ、びゅる、びゅく、びゅっ、びゅ

 ミシェルの体を三度目の射精が襲う。だが子宮は既に一杯で、精液を出された分だけ膣は垂れ流していく。
既にミシェルの思考は飛んでおり、快感を反射的に体が感じ取り、膣がペニスを締め付けるだけだ。目は虚空を見ており、涙と涎で顔がグシャグシャになっていた。






「あれ、まだ二人とも起きてたの?」

 灯りがついたままのリビングのドアを開いて、唯は驚く。深夜のニュースを芽衣と雛菊がソファに腰掛けて見ていた。だが驚いたのは二人も同じだった。

「唯様、どうしました?」
「もしかして、ミシェルが粗相しましたか?」
「いや、ただ水を飲みに来ただけなんだけど」

 心配する二人に笑顔で安心させると、唯はキッチンに向かう。コップを手に取ったときに、考えを変えて水ではなく烏龍茶を飲むことにした。冷蔵庫からペットボトルを取り出して烏龍茶を注ぐ。

「ミシェルはどうしてますか? あの娘のことが心配でして……」
「それで二人して起きててくれたの? それは悪いことしたね」

 芽衣の言葉に唯は気まずそうに頬をかく。芽衣と雛菊の表情は、彼を気遣うときの表情だった。

「それでミシェルは?」
「いや、ちょっとやり過ぎちゃって。気絶しちゃったみたい……あはは」

 ごまかすように笑う唯に、芽衣と雛菊は目を見開く。

「ほ、本当ですか?」
「そ、そんなこと今まで……」

 これまで、常人が生きるより長い月日を共にして来たが、ミシェルがセックスで気絶したなど初めて聞いた。逆は何度もあったが……。

「唯さまって……」
「凄いんですね」
「そ、そうなのかな……ははは、もっと気をつけないと」

 絶句する芽衣と雛菊の前で、反省する唯。セックスが好きだというので、ミシェルの止めて貰いたいという言葉を、気持ちいいというゴーサインと思って何度もしたのがいけなかったのだろう。幾ら能力者が常人より遥かに耐久力や体力があると言っても、受け止められる快感には限界があった。悪いことをしたと唯は多少の罪悪感を覚えた。
 芽衣はこっそり雛菊に耳打ちする。

「唯様を怒らすのは本当やめましょう。逆鱗に触れたら……」
「そうだな……体が壊れてしまう。前回はあれだけで済んで僥倖というべきだな」

 芽衣の小声に心の底から雛菊はうんうんと頷く。

「とにかく二人には迷惑かけたね。ゆっくり休んで」
「いえ、大したことではないですわ」

 主の柔らかな感謝の笑みに芽衣と雛菊も心が癒される。実際のところ、超人に近いガーディアン達にとってある程度の夜更かしや、短い睡眠時間などは平気だった。

「そういえば、芽衣さんとはエッチする約束してたのに、ごめんね」
「いえ、また後日で一向に構いませんわ」
「芽衣も油断も隙もあったものではないな」

 大人の女の笑みを見せる芽衣を、雛菊はじとっとした目で非難する。それを見て、唯が言いにくそうに切り出す。

「その……良ければ寝る前に一回くらいする?」

 もじもじしている体とは逆に唯がとんでもない提案をする。これには芽衣も雛菊も絶句してしまう。だが、すぐに心の奥から喜びが沸いてくる。

「ええ、お願いしますわ」
「精一杯、ご奉仕させて頂きます。
「本当? うん、それじゃしようしよう」

 少年の笑みで無邪気に笑う唯の姿に、雛菊が芽衣に囁く。

「唯様も……正直に言わせてもらうと我々にとっては恐ろしい方だな」
「ええ、いい意味でも悪い意味でも。私達も適度にしないといけないわね。あんまり求めすぎたら、ミシェルみたいに淫乱になっちゃうかも……」






「いってきまーす」

 大きく手を振り、唯が玄関を出て行く。

「いってらっしゃい」

 由佳が返事を返し、見送りに来た芽衣と雛菊も手を振って彼を送り出す。

「唯様、昨日は何も無かったようね。元気そうで良かった」
「そうね」
「ちょっと、芽衣。何だかにやけてない?」
「そんなことないわよ」

 笑って否定する芽衣だが、よく見たら肌も艶やかだ。それに機嫌がやたらに良い。

「雛菊もにやにやしちゃって……何かあったの?」
「いや、別に何でもない」

 珍しく雛菊が顔を由佳から背ける。視線を合わさない友の姿に、由佳の女の勘がひらめく。

「ああっ、二人とも唯様とエッチしたでしょ!」
「あら、気づいた?」
「ちょっと、どういうことよ。唯様、ミシェルとセックスしたんでしょ」
「由佳、落ち着け」
「ずるいわよー」

 怒って手をあげる由佳から慌てて芽衣と雛菊は逃げ出す。二人は笑いながらリビングへと飛び込んだ。それを不満顔の由佳が追いかける。

「二人ともちょっと待ちなさいよー!」
「ごめんね、由佳」
「ははは、許せよ」






「そろそろ起きなさいよ」

 唯の寝室にあるベッドの蒲団を剥いで、京がミシェルを起す。ミシェルは「うぅー」と呻き声をあげて、見事な裸身を晒しながらベッドの上で転がる。

「由佳が朝飯早く食べろって。仕事あるんでしょ。私は別にあなたが遅れようが休もうがかまわないけど、それじゃ生徒に示しがつかないでしょ」

 疲労困憊に見えるミシェルがベッドからのそのそと起きようとする。それを見て仕事は済んだと言わんばかりに、京は出て行こうとする。だがその京の足が入り口でピタリと止まって振り返る。

「……何やってるのよ?」

 床に這いつくばっているミシェルに、京は怪訝そうに聞く。ドサッという音が直前にしたので、ベッドから落ちたようだが。

「……あ、足腰が立たないのよー」
「……なに?」
「だから足腰が立たないって……あいたた。ちょっと、助けてー」

 放っておこうとも思ったが、思い直して京はミシェルに肩を貸してやる。

「どうしたのよ? 寝違えたの?」
「バカ、寝違えてこんなに足腰が動かなくなるわけないじゃない。昨日しすぎたのが効いてて、あいててて」
「自業自得」
「違うわよ、唯様のせいよー」

 ミシェルの叫びが寝室にこだました。



















    

































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