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 こんな気持ちを今まで知らなかった。あなたに出会うまでは……。
 出会ってすぐに、あなたは私の身をドロドロに溶かしてしまった。そのあまりに激しいセックスに、私は一気にあなたに惹かれた。だけどあなたはそれだけでは無かった。その優しさ、思いやり、そして意思の強さに私はどんどんあなたのことが好きになっていった。今はあなたの全てが愛しい。その何気ない動作、仕草、言葉のどれにも見入ってしまう。こんなことってあるのですね。私は生まれて初めて、人が好きになりました。






「唯様、調子はいかがですか?」
「うん、もう大丈夫。すこぶる快調だよ」

 横になってリビングでのんびり漫画を読んでいた唯に、ドアから入ってきたミシェルが声をかけた。ミシェルがにっこりと笑いかけると、唯も寝転がっていたソファから体を起こし、明るく微笑み返す。
 今は平日の午前中。本来ならば唯とミシェルの両人が、芽衣が所有しているマンションに居る時間では無い。だが学生と教師という二人は、夏休みに突入しているために家でのんびり過ごしているというわけだ。

「本当ですか? 後遺症とかが無くて良かったです」
「ごめんね、心配かけちゃって」
「いえいえ、別に私のことは気にしなくても問題ありませんよ。唯様、良ければジュースでも飲みますか?」

 ミシェルは片手に持っていた、青いラベルで包まれたペットボトルの清涼飲料水を唯に見せる。

「うん、ありがとう」
「それじゃ、キャッチして下さい」

 ミシェルが500ミリリットルのペットボトルを緩いスピードで投げると、唯は容易にそれを片手でキャッチしてみせた。少年の動作を観察したミシェルは、表情には出さなかったが、内心で大いに安堵する。彼女はペットボトルを唯が負傷した肩の方へと投げたのだが、唯は全く普通にそれを受けた。もし肩から手にかけて痛みがあるようであれば、不意にペットボトルを投げられてキャッチしたときに、隠し切れないはずだ。唯が痛がるそぶりを全く見せなかったので、ミシェルは唯が完全に完治したとようやく確信できた。滅多に無いことだが、このときばかりはミシェルは京の能力に感謝した。
 京はかつて肉体に関する能力者だったのだが、今はもっぱら血を操る能力に特化している。それでもかつての肉体操作に関する能力は覚えているのか、止血のみならず傷の治癒なども行ってみせた。唯の怪我が一週間程度で、痛みも無く動かせるレベルに治ったのは、京のおかげである。

「そういえば、唯様は夏休みとかご予定はあるのですか?」
「うーん、特に無いかなー」

 隣に座ったミシェルに対し、清涼飲料水の蓋を捻った唯が答える。
 唯がガーディアン達と共同生活を始めてから、まだ数ヶ月しか経っていない。新しい環境や生活に適合するのに注意を取られていて、休暇の過ごし方など考える余裕など無かったのだ。それに唯は試験休み中に負傷したために、終業式にも出られずになし崩しに夏休みに入ってしまった。静養していたこともあり、唯は仲が良い四人組達と約束を作る暇も無かった。

「何処か行きたいところとか無いんですか?」
「それもないなー」
「唯様、覇気が無いですねー。学生がそんなんじゃダメですよ」

 ミシェルが唯の頬をつんつんと指で押すと、唯は苦笑を隠せなかった。教師であるミシェルの台詞としては問題無いのだが、彼女の規律に余り厳しくない性格には合っていないように唯には思える。

「何処かに行くより、のんびりと家で皆と過ごすのもいいなーって、思うんだよね」
「ああ、確かにそれもいいかもしれませんね」

 ミシェルはここ数日間のガーディアン達の行動を思い返し、彼女の整った顔に笑みが自然と生まれる。
 休みに入ったのは唯だけではなく、エリザヴェータ、麗、早苗などの学生や、雛菊やミシェルなど教師として働いている者達も休暇に入っていた。そのおかげで、日中にも配下の女性達と唯が触れ合う時間は多くなった。麗は適度に悪態をつきながらも、特に用事が無ければ唯の後をちょろちょろとついて周り、傍を離れようとしない。エリザヴェータはレンタルDVDをしょっちゅう借りに行っては、唯と一緒に特撮をリビングの大画面テレビで見て、作品について色々と語り合っている。雛菊は緊張でガチガチに硬くなりつつも何とか唯を自室に招待して、茶を何度か共にしたらしい。早苗はファッション誌を唯に見せて、女子高生にモテるファッションを教えつつ、彼から好みの女性の服装などを聞き出していた。ミシェル自身もリビングでおやつを一緒に食べながら、女性心理などをまだ若い少年に伝授して、ときたま猥談などで主をからかったりしている。
 そして触れ合う時間が長くなったのは、唯と一緒に休暇に入った者のみではない。元から仕事がある日以外は働かない京や楓などは、麗のように始終べったりと唯の後をついて回る。静香は唯と昼食の準備を一緒に行ったりして、少年が食べたことが無い食事のレシピなどを聞いたりしていた。百合は着物や洋服などのカタログを山ほど持ってきては、唯にどんな衣装を着て欲しいか尋ねたりしている。夕方に仕事から帰宅した後、芽衣は食後のワインを飲みつつ、唯と夜の一時をのんびりと過ごせることに例えようも無い至福を感じているらしい。由佳は怪我がほとんど治癒しているのに唯の世話を焼きたいらしく、夜半に飲み物を持って少年の部屋に行っては、それを口実にしてお喋りをしている。内閣特殊事案対策室の動向を追って忙しい円に対して、唯は恩義を感じているらしく、どんなに彼女の帰宅が遅れても起きて待っていて、一日の苦労を労っていた。

「でも折角ですから、休みの後半などは一緒に何処かへ出かけましょう。他の皆も喜ぶと思いますし」
「そうだね。家に篭りっぱなしってのは、良くないだろうし」

 ミシェルの言葉に、唯は快く頷いてみせる。

「ミシェルさんは、何処か行きたいところとかあるかな?」
「そう言うと思って、幾つか候補地を選んでおきました」

 ミシェルは密かに持ってきていた旅行ガイドブックや、レジャー施設案内誌を取り出し、唯の前に並べてみせた。

「用意がいいんだね」
「何と言っても大好きな唯様とのデートですしね。用意も周到になりますよ」
「あ……うん。ありがとうね」

 金髪の美女に面と向かってストレートに好きと言われて、唯がわずかにはにかむ。もう一緒に暮らしてある程度の時間は経つが、未だに年上の女性にちやほやされるのには慣れていないのだ。その様子をかわいらしく感じて、ミシェルは胸がほんのりと高鳴っていくのを自覚する。彼女は嬉しげに微笑んだ。

「デート先の近くには、唯様と一緒に休憩できるところがあるといいですね。たまには外でのエッチとかはいかがです?」
「み、ミシェルさん!? い、いや、その、それはちょっと……」

 軽く挑発するようなミシェルの言葉に、既にガーディアンとの情事で性に関しては百戦錬磨となった唯も、あたふたしてしまう。そんな少年が愛しくて、胸をぐっと密着させてミシェルはますます彼をからかう。
 ミシェルと唯、それに他のガーディアン達の夏は始まったばかりだ。






「しかしダルいわね。折角の夏休みだっていうのに、何だって借り出されなくちゃいけないのよ」

 麗がボヤくのに対し、愛想抜きでエリザヴェータが返答する。

「休みだからこそ働かされているのだろう。京や円などに平日の昼間の仕事は、しわ寄せがいっているからな」

 麗とエリザヴェータは、東京の繁華街へとやって来ていた。目的は常のことながら、悪魔退治である。最早恒例となっているが飯田から連絡があり、今回は学生の麗とエリザヴェータが借り出されることになったのだ。
 麗は白のヒラヒラとしたワンピースにお団子頭、エリザヴェータはアクセサリがついた黒いシャツと短パンという普段とは違う服装をしている。日中における悪魔退治のため、一般人に目撃されては困るので、万が一のために軽く変装をしていた。

「でもさ、普通は小学生に悪魔退治なんかさせる?」

 大通りから狭い路地に入り込みつつ、麗が不満な声をあげる。

「ある程度の年齢を過ぎれば、年は能力に関係無いだろう。都合のいいときだけ、小学生か?」
「そうだけど……」

 あくまでも冷静なエリザヴェータに、麗は頬を膨らませる。その姿は年相応と言ってもいいものだ。

「もしかして……唯殿と一緒に居たかったか?」
「なっ!?」

 エリザヴェータの何気ない指摘に、麗の顔が急速に赤くなっていく。

「図星か」
「ば、馬鹿! な、何言ってるのよ。私は暇だからあいつといっしょに居るだけで……」
「別に照れなくていいだろう。自然なことだ」

 京に悪魔退治を指名されたときに、麗は唯に膝枕をして貰っていたのをエリザヴェータは見ている。たまに少年の手で髪を梳いて貰うのが、麗にとって例えようも無く幸福なのを知っていたりもする。いつもツンケンしているとはいえ、恋愛に対してはかなり鈍感なエリザヴェータがわかるくらい、麗は唯に惚れきっているのだ。

「私だって、唯殿と過ごす休日を潰されるのは嫌なものだ。悪魔と戦うのは正義の使命だが、出来れば平和に唯殿と居たいものだ」
「だ、誰も一緒に過ごしたいって、言っていないでしょ! 第一、あんたが唯と一緒に過ごすときって、ずっとDVD見てるだけじゃない」
「唯殿は傷が癒えていないのだ。まだ外に出るには早い」

 きっと睨みつける麗に対して、エリザヴェータは真面目に冷静な答えを返す。

「だからって、特撮のDVDばっかりってどうなのよ……」
「正直なところを言えば、私も不安なのだが……唯殿が私と見るのなら構わないと言ってくれてな」

 冷ややかな目で見てくる同僚に、エリザヴェータはクールな美貌を崩して微かに嬉しそうに笑う。その顔の微妙な変化だけで、彼氏が居るというエリザヴェータの幸福感が充分に見て取れる。

「趣味と言ったら、ああいうものしかないんだが、一緒に見て色々と教えてくれるのが楽しいと唯殿が言ってくれるから……少し嬉しい」

 確かに麗の目から見ても、エリザヴェータと喋りながら特撮を見ているときの唯は楽しそうだ。単に恋人と一緒に鑑賞しているだけでなく、上手に特撮マニアのエリザヴェータから面白い話を聞きだしているからだろう。エリザヴェータの趣味は、一般の尺度から見ればかなり変わっている。だが、恋人がそれを認めてくれているのだから、エリザヴェータも悪い気はしないはずだ。

「全く、エリザヴェータの所為で特撮の主題歌が耳から離れないわよ……」
「別に一緒に見る必要は無いぞ」
「う、うるさいわね」

 麗としては、他のガーディアンと唯が一緒に過ごすのを邪魔する気は毛頭無い。口には出さないが、ただ唯の傍に居れればいいのだ。しかしそんな麗も、唯がエリザヴェータと特撮を鑑賞したり、雛菊と盆栽を弄ったりするのに付き合わされるのは、内心閉口もしていた。それならその間は唯から離れればいいのだが、麗としては別行動を取るつもりは毛頭無い。
 二人の変装したガーディアン達は大通りから、途中で狭い路地に入り込む。GPSつきの携帯画面を見ながら、麗が幾重にも別れた道を指定された住所に向かってつき進む。エリザヴェータは黙ってそれに続く。

「そこのアパートよ」
「ここか」

 麗が二階建ての集合住宅を視線で示し、エリザヴェータが注視する。中の気配を探ろうと集中しようとしたところで、一階の三つ並んでいるドアの一つが開いた。中からスーツ姿の女性、それもかなりの美女が姿を現す。やり手のビジネスウーマンという感じの女は、ドアを後ろ手に閉めると、ちらりと小学生とロシア人という一風変わった二人組を怪訝そうに見つめた。その表情が次の瞬間、愕然としたような表情へと変化した。

「ガーディアンか!?」
「悪魔か!?」

 相手が誰何してきて、麗とエリザヴェータは相手が何者かを察する。相手が暴力団組員を装っていると聞かされていた麗とエリザヴェータは、相手が悪魔だというのを察知するのが僅かに遅れたのだ。その隙に女悪魔は右手を水平に振り、手の平からどす黒く染まった金属の剣を取り出す。剣は肉を割って現れ、その全てが現れると傷一つ残さずに悪魔の手に収まる。ガーディアンが油断して出来ていた僅かな隙に、コンクリートの床を蹴り、悪魔は五メートルの距離をあっという間に潰し、一気に麗へと肉薄した。

「死ねっ!」

 悪魔の強烈な斬撃が真横に麗の首を切り裂こうとする。思いもかけぬ悪魔の手練に、麗は目を見開いて固まったままだ。だが、「殺った」と確信した悪魔の一撃は、手応えを得ぬまま麗の首を振りぬいた。

「な、に!?」

 剣が命中する直前に麗は体の一部、すなわち首を水に変化させ、致命傷を免れたのだ。液体へと変化した麗の首は刃が通り抜けると共に、元の人体へと再構成される。水を操るガーディアンの麗にとって自分の体を水に変化させ、即座に復元させるのはお手の物だった。
 必殺の攻撃をかわされ、愕然とする悪魔の体が僅かにバランスを崩す。追い討ちをかけるようにエリザヴェータの手から光が放たれる。女悪魔の顔を照らした光は、殺傷力は無かったものの確実に彼女の網膜を焼いた。

「うぐわっ!」

 エリザヴェータが咄嗟に放ったのは、単純に指向性を持った只の強い光だ。彼女が得意とする攻撃力のあるレーザーでは無いが、相手の視界を僅かに奪うのには極めて有効な手段である。悪魔が苦しげに左手で目を覆った隙に、麗は大気中から水分を集め、自らの周りに拳くらいの大きさである水の塊を幾つか浮かせた。

「このっ!」

 悪魔が地面すれすれから剣先を麗へと向けて、更なる一撃を放つ。苦し紛れに放った逆袈裟切りを、麗は素早いステップで横にかわすと同時に、相手へと水流を飛ばした。鋼鉄をも切り裂く水のカッターが四つ、頭、胸、腹に突き刺さって突き抜ける。悪魔は何かを言いたいかのように、悔しそうな表情であったが、無言でそのまま崩れ落ちた。全身が即座に灰の塊へと変わり、グレーの小さな山を作る。

「び、ビックリしたわ」
「ああ……」

 思わぬ出会い頭の戦闘に、麗が息を大きく吐いた。冷静な表情を保ってはいるが、エリザヴェータも驚いたのは確かである。長年の戦闘経験が無ければ、麗は意に反して転生をする羽目になっていたかもしれなかった。

「こいつ、かなりやるわね」
「そうだな。一つ間違えば、麗も危なかったな」

 塵の山を見やる麗に、エリザヴェータが同意する。一瞬で間合いを詰めた悪魔のダッシュ力と、切りつけてきた剣筋の鋭さを思い出し、二人は改めて戦慄した。攻撃を受けたのが麗であったのが、幸運だったと言えるだろう。体を水に変化できる麗は、剣などによる斬撃をある程度は無効にすることが出来るのだ。

「中級か上級の悪魔だな。雑魚の集団に混ざっていたら苦戦したかもしれない」

 冷静な判断を下すエリザヴェータに対し、麗は何かを思い返すように無言で塵を眺める。

「どうした?」
「こいつ……ちょっと他とは違っていたような気がするのよね」

 麗はしゃがみ込み、積もっている塵を指で軽くかき回す。

「確かに悪魔だったけど、奈落の悪魔と違っていたような」
「それは確かか?」
「……わかんない」

 即座に剣を構えた相手に対し、麗の反応が遅れたのは相手に異質なものを感じた所為でもある。相手が自分達の不倶戴天の敵である、奈落からの悪魔とは違う気配がしたのだ。敵は間違いなく異世界から来ている。相手の身体が塵になったのが証拠だ。だが今となっては確かめようも無い。

「おい、来てみろ」

 考え込む麗を置いて、先にアパートのドアを開けたエリザヴェータが少女を呼ぶ。言われた通りに室内を覗いた麗が見た物は、僅かに争った形跡がある部屋と幾つかの塵の山であった。





 人は日々変わっていく。私の好きな人もどんどんと変わっていく。最初は、ただただ優しそうな少年だった彼が、少しずつ凛々しくなっていく。彼のその優しさが、彼を強くしていくのだ。彼に守りたいものが出来たからだ。そしてそれは自惚れでは無く、間違いなく我々のことだろう。だけど、私は心配になる。私達は守って貰えなくても、きっと大丈夫なのに彼は無理をするからだ。
 私も日々変わっていく。二千年以上も生きてきて、もう変わるなんてことは無いと思っていた。だけど好きな人への愛しさ、その彼を思うだけで沸き上がる高揚感が、私を変えていく。前より明るく楽しく、日々を生きていく。人に自分を偽ったり、自分で自分を偽ったりすることが少なくなっている。
 今の自分はとても幸せだ。今のままで毎日が過ぎてくれれば、私はそれだけで充分だ。このまま良い方に変わって行ってくれればいい。





「え、えーっと……」

 マンションのかなり広いリビングに、剣呑な雰囲気が流れている。唯の前で百合と楓、京が睨みあっているからだ。怒りっぽい京が誰かを睨むのはよくあるが、外見と同じく熟女の貫禄がある百合、それに常に無関心さが漂う楓が誰かと視線を絡めて一歩も譲らないのは珍しいことだった。
 後からリビングに入ってきたミシェルが、無言で争っている三人とその前でオロオロしている唯を見て、少し驚いた。遠巻きに見ていた早苗に、ミシェルは近づく。

「どうしたの、一体?」
「百合が着物の展覧会に唯君を連れて行こうとして、それで楓と京がついて行きたいって言ったら喧嘩になっちゃったんだよ」

 早苗の解説にミシェルは苦笑してみせる。早苗の横では静香が心配そうに、雛菊がやれやれといった表情で事態を見守っている。

「下らないことで争って、みっともないな」
「下らないことではないでしょう」

 うんざりしたような雛菊の言葉を、ミシェルは訂正する。

「好きな人とのデートだったら、譲れないっていうのは、誰でもあるわよ。百合が二人っきりで、唯様と出かけたいっていうのは、当たり前じゃないかしら」
「しかしだな……」
「雛菊もたまには二人っきりでこっそり出かけたいって誘ったら、どうかしら?」
「あ、いや、その……」

 あたふたとする雛菊を置いて、ミシェルが修羅場となっているソファ付近へと近づく。

「ほらほら、喧嘩しないの。唯様が困ってるじゃない」
「み、ミシェルさん!?」

 後ろから手を回し、唯の頭にメロンのように熟れた胸をミシェルは押し付ける。彼女の脳天気な声に、百合は困ったように同僚の金髪女性を見やる。

「ミシェル、だけどね……」
「二人っきりで出かけたいのはわかるわよ。でも、唯様を困らせちゃいけないでしょ。私達が喧嘩して、一番迷惑なのは唯様なんだから」

 にっこりと微笑むミシェルに、百合は抗議をやめた。百合はガーディアンの中でも大人の対応が出来る方なのだ。ミシェルのもっともな意見にあえて反論するような幼稚さは、百合には無い。

「彼女が十二人も居るのだから、唯様も大変よ。全員と付き合おうとしたら、ある程度の集団デートは仕方ないわ」
「そういうことよ」

 ミシェルの説得に京がしてやったと、唇の端を吊り上げて同意する。楓も無表情に何度か頷く。

「そういうわけでここは大人しく、多人数で行ってらっしゃい」
「わかったわよ」

 珍しくリーダーシップを発揮したミシェルに、百合が深いため息をつく。それで話は決まったようなので、京と楓が玄関へと向かい、唯も外出の準備をするために自室へと引き返そうとする。

「ミシェルさん、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。やっぱり喧嘩はよくないですしね」

 唯の体に豊満な胸を押し付けて、ミシェルはギュッと彼に抱きつく。そんな恋人の行動に唯は困ってしまうのだが、助けてもらったために無下に止めるわけにもいかない。一分近く抱き締めて、ミシェルはようやく唯を解放した。顔を赤くして去っていく唯に、ミシェルは嬉しそうに彼を見送った。
 百合も僅かに気落ちしたようにソファから腰を上げるが、そんな彼女にミシェルがそっと近づく。

「二人っきりになりたいなら、こっそり誘わなくちゃ」
「運悪く、あの二人に見つかったのよ」
「ご愁傷様。それならもっと上手い手があるわよ」
「どんな?」
「二人っきりで出かけるって約束を、もっと先の予定で作っておくの」
「なるほどね」

 ミシェルの悪知恵に、百合は納得したように、にんまりと微笑む。一ヶ月や二ヶ月先の約束なら、二人っきりのデートだとしても、何となく仲間も了承してしまうだろう。それくらい先ならば自分の予定が空いているかなどわからず、二人で行くと公言していれば今日のように邪魔は入らないだろう。

「さてと、今日のところは諦めて五人で行きましょう」
「五人? ボウヤ、私、京、楓……」

 百合は指を折って数えていたが、途中で眉を軽く寄せた。

「あなたも来るの?」
「もちのろんよ。何のための夏休みだと思っているの」

 妖艶な白人美女の顔に、悪戯っ子のような表情が宿る。そんなミシェルの勝ち誇った顔に、百合が軽く肩を落とす。更に百合に追い討ちをかけるように、早苗がミシェルの横にやって来る。

「えっと、悪いけど三人追加ね。雛菊と静香お姉さま、それにボクも行くから」
「もう、好きにして頂戴」

 百合は苦笑して踵を返した。こうなってはもう笑うしかないだろう。百合は次に年下の思い人を誘うときには、なるべく早く予約することに決めた。






 薄暗い廊下の一角、扉を開けてスーツ姿の男が早足で出て行く。彼は書類を持っており、脇目も振らず出口へと向かっていく。その背後で廊下に出来ていた影が歪み、奇怪なことに白く細い人間の片腕がゆっくりと突き出た。

「行ったわね」

 廊下の床に手をついて、円が影の中からゆっくりと顔を出した。

「よっ……と」

 プールから上がる人間のように、円は体を影の中から引き上げる。タイルの床にすっと立つと、円は迷わず一つの扉に向けて歩き出した。
 円が潜入したのは、首都圏にある自衛隊基地の一つだった。内閣特殊事案対策室は悪魔の情報収集を行うため、あちこちにエージェントを送り込んでいる。日本の裏社会に悪魔は順応しているため、専らは繁華街などの盛り場に向かうのだが、円は一部のエージェントが頻繁に自衛隊のこの施設に出入りしているのを突き止めた。何度か潜入を繰り返し、円はここが内閣特殊事案対策室の特殊部隊訓練所だという調査結果を遂には掴んだ。
 円は一通りこの施設の訓練風景を盗撮し、部隊の装備などを探ったが、特に有益になるような情報は得られなかった。以前、芽衣が一人で部隊を圧倒したように、ガーディアンにとっては銃器で武装した人間の部隊はさして脅威では無いのだ。
 まだ何か無いかと探る円に対し、再びやって来た内閣特殊事案対策室のエージェントが先ほど面白そうな場所を提示したのだ。それが円の目の前にある部屋である。扉は施錠がしてあったが、円は何の苦も無くロックを外して、音も無くスルリと部屋内へと潜り込む。鍵穴の中に出来ている影を利用し、鍵を開けるのは、スパイを千年以上も続けてきた円がずっとやってきたことだ。彼女にとっては朝飯前である。

「ビンゴ……かしらね」

 部屋内は資料室らしく、大量のファイルが置かれたラックと、幾つかのパソコンが置かれたデスクがあった。ファイルは後回しにして、円はパソコンを起動してマウスを操作し始める。

「プロテクトがぬるいわねー。この国の情報管理はザルね」

 ネットワークに繋げていないとはいえ、パスワードの入力も無くOSが立ち上がったことに円は呆れたような声で呟く。USBを差し込むと、円は有用そうな情報は片っ端からデータを取り込んだ。

「お、ラッキーラッキー。これは役に立ちそうね」

 内閣特殊事案対策室の傘下に組み込まれた自衛隊隊員の名簿を覗き見ながら、円はほくそえむ。調査する相手の私生活についての情報は、いつも有用であることをマスコミで働く円は熟知していた。そこから相手の思考パターン、傾向、そして弱みなど色々なことが見えてくるからだ。

「あちゃー、何だか悲惨なことになってるわね」

 データによれば、芽衣との交戦によって、兵士達のほとんどが病院に入っており、容易に出撃できる状態では無いらしい。円が続けてチェックすると、補充人員の候補がファイルにズラリと並んでいた。ほとんどが自衛隊から選ばれるらしい。適当に候補者のプロフィールを眺めていた円だが、その手が止まった。

「……何これ?」

 プロフィールに何人かの傭兵、それと米国中央情報局からの派遣と思しき記述を持つ人間が記載されているのが見つかったのだ。国内の身内機関では無く、外部の協力者という存在に円の眉が寄せられた。秘密主義とも言える行動を取っている内閣特殊事案対策室にしては、らしくないという印象を円は受けた。

「被験候補者?」

 幾つかの人間についているタグに、円は困惑する。内閣特殊事案対策室は一体何を行っているのだろうか? 






 ガーディアンの仲間は私にとっては姉妹のようなものだ。悠久の時を駆け抜け続ける仲間達は、唯一無二の同族である。人間と違い記憶を持って転生し続ける存在など、他にはいない。それ故、ガーディアンという新たな種族で構成された家族と、言ってもいいだろう。
 恋人や友人と違い、家族はさほど交流が無くとも、関係を保っていられる。作戦や主に仕えるときには多少の協力があったとしても、我々ガーディアンは互いの生存さえ知っていれば充分というドライなものだった。早苗と静香や芽衣と由佳のように例外は居ても、長いことそれは変わらなかった。我々は疎遠だった。
 だが唯様が現れてから、全てが変わった。共に主と仰ぎ、また恋人として慕う相手が現れたのだ。共通の目的のため、我々姉妹達は千年ぶりに結束した。家族として共同生活を営み、関係を深めあっている。全くの偶然なのかもしれないが、これも唯様に感謝せねばならない。






 ファミリーレストランへとやって来た唯は、周囲から好奇の視線を浴びていた。団体客はファミリーレストランでは珍しくないが、美女がズラリと並んでいるのなら話は別だ。おまけにその美女軍団によって、只一人の少年が上座に座らされているというのなら、どんな関係なのだろうかと周囲が探るのは無理ないだろう。

「今日はいい買い物をしたわ」
「まあ、たまには着物もいいかしら……」

 唯を誘った百合が満悦そうに頷き、京もブツブツ言いながらも破顔するのを抑えきれないようだ。

「あなた、着物を着るのはいいけれど、ちゃんと着付けは出来るの?」
「元禄の頃と何か変わった? ……いや、何百年も前だから忘れてるかも」

 百合の指摘に、京がしまったという表情を見せる。
 唯達は着物の展示会に赴き、帰りにファミリーレストランに立ち寄ったのだ。デートということもあっただろう、全員が会場でそれぞれ多かれ少なかれ着物を注文した。女性らしいファッションを好まず、スカートのような女性特有の服装をしない雛菊と京も購入している。会場で早苗に唯は耳打ちして貰ったのだが、唯と同居するようになってから、雛菊と京は女らしさを強調するような服をかなり買い込んでタンスの肥やしにしているらしい。中性的なファッションが似合う二人だが、唯の前では女っぽい服装もしてみたいようだ。残念ながら、まだ着替える勇気は無いようだが。

「唯様、どうしたんですか?」
「え、あ、いや……何でもないよ」

 ぼんやりとメロンソーダを啜っていた唯に、隣のミシェルがこっそりと声をかけた。

「ただちょっと注目を浴びちゃってるなーって、思って」
「ああ、なるほどー」

 苦笑いする唯に向かって、ミシェルはクスクスと楽しそうに笑う。
 今も店員や他の客から注意を惹いているが、唯が指摘しているのは着物展示会での出来事だろう。妙齢の美女達からしきりに着物が似合っているかどうか聞かれ、唯はかなりチヤホヤされた。年齢さえもう少し高かったのならば、人気ホストか何かに見間違われたかもしれないだろう。どちらにしろ、少年は会場で人の注意を大いに惹いた。ミシェルや百合、早苗などが上手くフォローして、質問などは何とかかわしていたが、唯はかなり気を使う羽目になった。

「人が私達の仲を色々と詮索してくるのは、やっぱりダメですか?」
「いや、別に構わないけど……ほら、僕ってまだ未成年でしょ」
「ああ、そういえばそうでした」

 困ったような唯に対し、ミシェルは今更気付いたとばかりに大げさに驚く。ここしばらくの唯が見せる仕草や行動はガーディアンの主として申し分無く、威厳に近いものをミシェルが感じることもある。他のガーディアン達にも言えるが、ついつい唯がまだ中学生の少年だというのを忘れてしまうのだ。高校で授業を行っているミシェルでさえ、唯の雰囲気から自分より僅かしか違わないような恋人と錯覚してしまう。

「でも大っぴらにイチャイチャしていれば、かえっていいのでは? 私達の本当の関係を誰も却って気がつきませんよ」
「うーん、そういうものかな?」

 耳元でコソコソと囁いてから、頬に軽くキスするミシェルに、唯は困ったような表情を浮かべる。唯が周囲を見回すと、目が合った他の客たちは慌てて目を逸らしていく。

「……ミシェル、いい加減にしろ。唯様が困るだろう」

 見かねて雛菊が咳を一つして、ミシェルを窘める。

「あら、いいじゃない。雛菊ももっとイチャイチャしなさいよ」
「馬鹿! そんなこと……むぐぐ」

 ミシェルは唯の手を掴んでスプーンを握らせると、メロンソーダに浮いていたバニラアイスを掬って雛菊の口に押し込んだ。たちまち雛菊の顔が真っ赤になっていく。

「あ、あの、その、ゆ、唯様……」

 意図的では無いにしろ、恋人から食べさせて貰った雛菊は、しどろもどろになりながら口内のバニラを味わう。特に変わったアイスというわけでは無いのに、口の中で解ける甘い味に雛菊は胸の内が熱くなってくる。その光景に一番早く反応したのは早苗だ。

「あー! 雛菊いいなー。唯君、ボクにも頂戴」
「う、うん……」

 公共の場で恋人に自分で食べさせるというのをしたことが無かった唯は、身体がついつい強張ってしまう。それでも少年は要求通りに早苗の口へとアイスをスプーンで掬って運んだ。

「えへへ、甘ーい。唯君、ありがとう」

 早苗が嬉しそうに顔の表情をふにゃーっと崩す。そんな彼女の表情に、横に座っていた静香も自然と笑みが浮かんでしまう。

「あら、ずるいわ。ボウヤ、私にも頂戴」
「唯様……」

 百合が積極的にアイスクリームを要求し、楓もそれに続く。無言でむっつりしているが、ちらちらと唯を見てくる京も、明らかに少年へアイスクリームを食べさせて欲しいと思っているのだろう。

「でも、残りがそんなに無いよ」
「大丈夫ですよ。……店員さん、チョコパフェを追加でお願い」

 唯の懸念に、ミシェルが近くに居た従業員を呼び止めて追加のオーダーを頼む。あまりの手際の良さに唯が呆然としている間に、注文の品があっさりと運び込まれてきた。

「ささっ、唯様。皆に食べさせてあげないと」
「あーん」

 ミシェルが勧めると同時に、楓が目を閉じて口を開いてみせた。もうこうなると唯に選択肢は残っていない。楓、百合、京の順番に唯はパフェを口に入れてやる。

「美味しいです、唯様」
「やっぱり若い子に食べさせて貰う甘い物は格別ね」
「……そ、そうね」

 楓は夢見心地のような表情で、百合は満面の笑顔で、京は顔をほんのりと赤く染めながらアイスを咀嚼する。多人数のデートとはいえ、恋人に食べさせて貰うのはやはり嬉しいものなのだ。喜ぶ配下の美女達とは対照的に、唯の方は気が気では無い。遥かに年上の女性に「あーん」と口を開けて食べさせているのだから、周囲の好奇な視線が先ほどから引っ切り無しに浴びせられているのだ。変に関係を勘ぐられるのは、唯としては不本意だった。

「唯様、私にもー」
「出来れば私にも欲しいです……」

 さも当然そうにミシェルが要求し、静香もおずおずと申し出る。今更唯は無下に断わることも出来ない。ミシェルと静香にも、他の者達と同じように唯はスプーンでチョコシロップがかかったバニラをすくって、口へと運んでやる。

「えへへ、甘いです」
「本当。普段よりずっと美味しい」

 主に手ずから食べさせて貰った二人は、頬を緩ませてパフェを味わう。唯が羞恥心で一杯なのは確かだが、全員が心底嬉しそうに食べてくれるのは喜ばしいことだった。

「おかわり要る人、居るかな?」

 一度やってしまえば、恥ずかしいもへったくれも無いと唯は開き直った。自分から積極的にパフェを恋人達に食べさせることにしたのだ。
 結局、パフェは一口として唯の口に入らず、彼は上機嫌な恋人達と店を出ることとなった。もちろん他の客達の話題になったことは言うまでも無い。






 都心からわずかに離れた首都圏のベッドタウン、住宅地から外れた土地を一台の車が走っていた。黒塗りの車は、スモークガラスで中を窺うことは出来ない。幾つかの細い沿道を通り抜け、車は周囲を山に囲まれた敷地へと入っていく。高い壁に囲まれ、看板も設置されていないその施設は、三階建ての建物が三棟と倉庫が幾つか建てられていた。車が駐車場に停止すると、中からは黒い背広を着た神崎が出てくる。
 神崎は入り口のカードリーダーにスリットを通すと、慣れた様子で建物内へと入っていった。クリーム色に塗り固められた建物は外から見ると古い印象があるが、内部は驚くほど真新しい。廊下では何人かの白衣を着た人間が行き交っていたが、その内の一人が神崎の姿を見つけて近寄ってきた。

「神崎さん、いらっしゃい」
「お久しぶり」

 神崎を迎えたのは、彼より頭一つ背が低い白衣を着た女だった。奇妙なのは、一見しても女の年齢が掴めないことだ。若く瑞々しい肌と整った顔立ちからは女が二十代前半、もしくは十代後半を思わせるのだが、その物腰とゾクリとする程に溢れ出す色気がそれを否定している。その美貌によって、神崎でさえも女の正確な年齢を窺い知ることが出来なかった。

「素体が完成したと聞いて、すっ飛んで来た。本当なのか?」
「電話でお知らせした通り、完成してますわ」

 女が先を歩いて神崎を先導する。二人は建物奥に設置されたエレベーターに辿り着いた。

「五体中、三体のプロトタイプが完成しています。ただ素体はこれ自体では只の肉塊に過ぎません」
「じゃあ、どうするんだ?」
「以前のレポートに書いた通りですわ、被験者を使い完成させます」
「ああ、そうだったな」

 エレベーターが音を立てて開き、二人はエレベーター内部へと足を踏み入れる。女は手馴れた手つきで地下三階のボタンを押す。

「それで被験者はどうするんだ? 決まっているのか?」
「それはそちらが決めることですわ。こちらで候補を出してもいいですし、そちらが決めても構いません」
「……わかった。被験者の候補は、こちらが選別することにしよう」
「それがお聞きしたかったのですわ」

 神崎のあっさりとした言葉に、女は愉快そうな笑みを浮かべる。その目には、何処か楽しがっている節があり、神崎は怪訝そうに女を見る。

「被験者は三人ともそちらがご自由にお選び下さい。ただ、研究チームのとある二人が、一人被験者を推薦しているのですが……」
「誰だ?」
「その夫妻の娘です。二人は病気の娘を救うためにプロジェクトへと参加した節があります」
「困ったものだな」

 エレベーターの下降が止まり、二人は鉄の箱から降りた。塵一つ無いような白い廊下を、二人は再び歩み始める。

「その件についての処置は、任せることにする。ただ開発に差し障りが無いようにしろ」
「承知しました。ところで、プロジェクト第二段の資料は読んで頂けましたか?」
「オリジナルも完成しても居ないというのに、もう第二段というわけか。大丈夫なのか?」
「ご安心下さい、全ては順調です。直に超人兵士達を揃えられますわ」

 女がとある扉の前で立ち止まる。入り口は鋼鉄の扉で厳重に閉ざされており、何か危険な物体を封印しているかのように見える。女がスリットにカードを通すと、ゆっくりと二重になっている鋼鉄の扉が両方向へと開いていく。部屋の中には円筒状の水槽が五つ設置されていた。そのうちの三つに人体らしき影が浮かんでいた。

「素体は単なる過程にしかすぎません。我々の目的はその先にあります」






 唯様は我々を纏める主だ。ガーディアンの主というのは、自分では何一つせず、偉そうに自分の欲望を満たすだけの命令をするだけの存在だった。悪魔退治などは我々がやり、主の我侭も聞く……今まではそうであった。
 だが唯様は違う。私達を慈しみ、優しく手を差し伸べてくれる。それだけで私達は充分に救われている。けれど、彼は自らの危険を顧みず、悪魔との戦いにまでその身を投じてくるのだ。私は彼に戦いなどせず、傍で微笑んでくれているだけで充分だった。しかし唯様の優しい性格では、ただ戦いを傍観していることなど出来ないのだろう。
 唯様のあずかり知らぬところで、私達が戦いを全て終わらせることが出来るのが理想だ。だが円が予見したように、今生での悪魔との戦いは今までと違うことになる様相を呈している。千年前のように……。
 ならば、私に出来ることは一つしかない。






「ただいまー」
「おそーい。何やってたのよ」

 マンションのドアを唯が開けると、待ちかねたように麗がリビングから廊下に出てきた。さも怒っているかのように、彼女はのっしのっしとやって来る。

「人が悪魔退治に出かけているのに、喫茶店で涼んでたなんて、酷すぎない?」
「ごめんごめん、悪かったよ」

 食って掛かってみせる麗に対し、唯は少女を宥めようとする。

「あれ、何で麗が私達の行き先を知っているわけ?」

 麗の台詞に違和感を覚えて、百合が横から尋ねる。

「そりゃ、何度も電話したからに決まってるでしょ」
「電話? 別にボウヤが携帯に出ていた様子は無かったけど」

 展示会からこの方、百合は唯にベッタリとくっついていたはずである。だが、唯が携帯を操作したのは若干見たが、電話に直接出た様子はまるで無かった。それにメールを打っていた様子も無い。

「皆に気付かれないように会話してたんだよ、電話で。別に隠していたわけじゃないんだけど」
「え、ボウヤってそんなことできるの?」

 唯の言葉に、百合が目を丸くする。麗は唯が以前に音を完全に殺して密かに警察へと通報したのを見たので知っているが、百合達はまさか少年が他人に気付かせずに、携帯電話で通話できるなどとは夢にも思わなかった。唯はまるっきり、そんな素振りは見せなかったのである。

「ふーん、ボウヤって凄いのね。感心しちゃうわ」
「……唯様、凄い」
「いや、そんな凄いことでも無いと思うけど」

 腕を取って自分の体を密着させ、過剰に褒めたてる百合と楓に、唯は照れ笑いを浮かべる。練習はある程度要したが、唯にとっては小さな音を発生させたり、他人に気付かれないように消したりするのは、楽なものだった。
 玄関に大人数が固まっていたが、いつまでも戸口で溜まっているわけにもいかず、順番に靴を脱ぐとフローリングの床へと上がる。かなりの収納スペースがある玄関に設置された靴棚に、各自が靴を収納していく。唯はあえて自分の順番を遅らせて待っていたが、そんな彼の肩をミシェルが叩いた。

「唯様、ちょっとコンビニに行く用事があるんですけど、ついてきてくれませんか? ストッキングを切らしちゃって」
「あ、いいよ」
「ちょっと、何でコンビニに行くだけで唯を連れて行くのよ」

 あっさりと承諾した唯の腕を掴んで、京がミシェルに抗議する。

「別にいいじゃない、コンビニくらい。すぐに帰ってくるし」
「なら、ますます一緒に行く必要が無いじゃない」
「だって、女の一人歩きは危険ですもの」

 自分の体を抱いて、体を強張らせてみせるミシェルに、京は思わずあんぐりと口を開けてしまう。京の大げさなリアクションは、今まで非情だった彼女に人間味が出てきたのか、それともミシェルがあまりにぶりっ子を演じすぎているのだろうか。声も出ないという京の姿に、代わって雛菊が口を開く。

「まだ日も高いぞ……」
「細かいことは言わない。女のジェラシーは醜いわよー。じゃあ、行ってきます」

 雛菊の指摘をあっさりと受け流して、ミシェルは唯の腕を取って再び玄関から外へと出て行く。ミシェルのあまりの強引さと、靴を脱いで廊下に上がっていたことで、誰も強く引き止められなかった。

「それで、何処に行くの?」

 エレベーターに二人で乗り込むと、唯がじっとミシェルを見つめた。ミシェルが地下のボタンを押すと、モーター駆動で箱がゆっくりと下降し始める。

「あれ、嘘だってバレちゃいました?」
「うん……心拍数がかなり上がってるからね」

 軽く舌を出すミシェルに、唯は何処か申し訳なさそうに答える。音を操る能力を身につけてからの唯は、日常生活にも力の影響が出始めていた。特に人との会話では顕著になっている。相手の声色の微妙な違いと、心音の変化などで唯は感情を読む癖がつきつつあった。嘘などは心拍が上がるため、看破するのは特に容易だ。常人では有り得ぬ超能力を唯は有したが、彼はそれを大分自分のものとしている。

「ちょっと付き合って下さいませんか。時間はそれほどかかりませんから」

 エレベーターが音を立てて、地階に到着したことを報せる。先に降りたミシェルはハンドバックから車のリモートキーを取り出し、ボタンを押してワゴン車のロックを開けた。芽衣の所有するスポーツカーや、京や円のバイクなどと違い、ワゴン車などの幾つかの車はガーディアンの共有車だ。免許を持っている者は全員鍵を所有している。
 唯が助手席に乗り、ミシェルがハンドルを握ると、車はパーキングから出て公道へと走り出した。ミシェルは「ちょっと」と言っていたが、車は大通りに出てスピードを上げ始める。

「何処に行くの? ……目的地は秘密なの?」
「唯様がついて来て下さるのなら、別に内緒にする必要は無いんですよ」

 ミシェルは膝に置いてあるハンドバックに片手を突っ込み、一枚のメモ用紙を取り出す。そこには簡単な地図と住所が載っていた。

「飯田に頼んで、悪魔の居場所を優先して教えて貰ったんです。今回はそこに向かいます」
「他の人はいいの?」
「いいんです。今回は唯様のために用意して貰ったターゲットですから」
「じゃあ、それって……」

 唯の細い手の中でメモがクシャリと音を立てる。少年の目に闘志が宿るのを、ミシェルはチラリと横目で見た。

「残念ですけど、今回は私の戦いぶりを見学ということにして貰います。万が一の場合は別として、唯様は怪我が治ったばかりなのですし」
「……そう」
「そんな残念そうな顔をしなくてもいいですよ。悪魔との戦いは、本来なら私達に任せて貰えばいいのですから」

 ミシェルの宥めるような言葉にも、唯は何処と無く不満そうな様子を見せる。彼は聞き分けのいい方だが、恋人だけを危険に晒すのは、あまり納得がいかないようだった。

「それなら、何でわざわざ僕を連れ出したの?」
「唯様に教えたいことがあります」

 助手席から自分を見つめる少年に、ミシェルはにっこりと微笑む。そう、彼に教えることがあるのだ、ミシェルにしか教えられないことが。
 ワゴン車は都内を走り、二十分程度で目的地へと辿り着いた。ミシェルがマークをしていたのは、とある倉庫だった。昔は流通センターとして活用されていた広大な敷地は、網目状のフェンスでグルリと囲まれていた。今は閉鎖されているらしく、倉庫の周辺には特に何も見当たらない。車から降りた二人が、格子で出来た門越しに見ても、静まり返った敷地が広がっているだけだった。

「……何人か居るね。悪魔か人かはわからないけど」
「そうですか。無駄足にならなくて、良かった」

 唯が小声で伝えると、ミシェルはにっと笑みを浮かべた。ガーディアンは悪魔を看破する能力があるが、視認による確認が必要な場合が多い。気配だけで察知するという力は、あまり強く無いのだ。だが音を操る唯ならば、悪魔の見分けはつかなくとも、倉庫内を探ることが可能だ。走査できる領域はまだ未確定だが、かなりの範囲で俗に言う針が落ちる音までも聞き分ける。
 ミシェルは何の反動もつけずに、ふわりと跳躍すると、倉庫のフェンスに降り立った。不安定な足場を苦ともせず、彼女は路上の唯に片手を伸ばして楽々と引き上げる。金髪の美女は主である美少年を抱えて、ひらりとコンクリートの上へと飛び降りた。自分を抱えたまま、わざとなかなか地面に降ろそうとしないミシェルに、唯は思わず苦笑してしまう。ミシェルの肩を掴み、唯はやんわりと地面へと足をつけた。

「忍び込むの?」
「いえ、その必要は無いです。正面から堂々と乗り込みます」
「えっ! でも気付かれない? 警戒されるのはまだいいとして、逃げられる可能性もあるわけで……」
「音を立てなければ、正面から入って行っても、気付かれる心配はほとんど無いでしょう。唯様、戦闘は私に任せてもらいますが、サポートはお願いします」

 普段はおちゃらけているが、ミシェルもかなり頭の回転は良い。唯が既に音を消して潜入の手助けをしているのが、彼女にはわかっていたのだろう。
 荷物搬送用のシャッターではなく、従業員用の出入り口へ二人は真っ直ぐに進む。ミシェルがドアノブに手を伸ばして軽く捻るが、鍵がかかっていると見るや否や、クルリと一回転してアルミのドアを思いっきり蹴り飛ばした。ドアの中央にハイヒールが突き刺さり、後ろ回し蹴りの強烈な威力で、大きな音を立ててひしゃげたドアが奥へと吹っ飛ぶ。だが唯の力で、音はある程度の距離で完全に遮断されていた。ミシェルは何も言わず、ズカズカと倉庫の奥へと突き進む。
 とても閉鎖されているとは見えないほど、倉庫内はダンボールがあちこちに積み立てられていた。明らかにこの倉庫は稼動中だ。悪魔は麻薬の取引などを好むが、これだけの荷物が全て薬物とは思えない。恐らくは盗品か、非合法なポルノの類だろうとミシェルは検討をつけた。人間を堕落させるのは、薬だけではない。
 倉庫の奥には案の定、五体の悪魔がいた。悪魔達はスーツを着込んだ人間に化け、パイプ椅子に座って、つまらなそうにトランプに興じている。足音一つ聞こえていないからか、ミシェルと唯が姿を現しているにかかわらず、二人に全く気付く様子を見せていない。ミシェルは体内で充分に力を練ると、大きく右手を振り上げてそのまま振り下ろした。

「が……あ……」

 室内に眩いばかりの光が弾け、一条の落雷が悪魔の一体を直撃した。悪魔は悲鳴とも驚きの声ともつかない小さな言葉を残し、床へと崩れ落ちる。ミシェルが放った強烈な落雷は強力な電流と電圧で、肉体を一撃で完全に焼け焦がした。ボロボロと灰へと変化しつつ、身体が崩れ落ちていく。

「き、貴様ら、い、いつの間に!?」

 こんな近くまで敵に忍び寄られていたことに驚き、悪魔達はパイプ椅子を蹴って慌てて立ち上がる。そして、ぐっと仁王立ちしているミシェルの姿に目を見開く。

「が、ガーディアンか!?」

 不倶戴天の宿敵を目の当たりにして、悪魔達は慌てふためく。先制するために放たれた、ミシェルの強烈な攻撃を目の当たりにして、彼らは軽いパニックに陥っているようだ。ミシェルの打ち下ろした雷撃の威力は、様々な怪物が潜む奈落においても類を見ない威力なのだ。例え戦闘力が高い真の姿を現しても、防ぎきれるものではない。
 それでも悪魔達は元の姿へと戻っていく。悪魔のうち三体が全身に剛毛を生やした雄牛のような姿へと変わる。だが獣に姿を変えても彼らは直立したままで、前足の代わりに人間のような腕を持っている。残りの一体は巨大なひし形のクリスタルに姿を変えた。綺麗にカットされた鉱物のような四つのクリスタルは、それぞれ頭、胴体、二本の腕の位置にフワフワと浮き、人型を現した。

「気付くのが遅いわよ、あなた達。でも残る悪魔は四体……丁度いいわ。唯様、見ていて下さい、この私の戦い方を」

 ミシェルは両足を軽く開き、両肘を少し落とした腰にピタリとつける。闘志を持って彼女は構えた。彼女は体内でエネルギーを惜しみなく精製し、その副産物として四肢のあちらこちらから火花が溢れ出し、大きな音を立てて爆ぜる。ミシェルの目が光り輝き、白い明かりが眩くなっていく。
 先に動いたのは悪魔の方だった。これ以上は力を解放させるとまずいと判断し、牛のような怪物が一体、ミシェルに肉薄する。棍棒のような腕を振り上げると、悪魔は常人には出せないようなスピードで右のストレートを放った。だがその一撃は空を切ったのみだった。ノーモーションでミシェルが宙にスッと浮き、二メートル近く空中に上がって停止したのだ。

「電気の特性によるイオノクラフト効果。電気によって大気の流動を起こし、その力によって浮力を得る」

 無音で飛び上がったミシェルに、唯は驚きを隠せない。空中を自在に飛ぶガーディアンは何人か居るが、よもやミシェルに飛行する力があるとは、唯は思ってもみなかった。

「このっ!」

 一体目が攻撃を外したと見るや、二体目の悪魔が床を蹴って飛び蹴りを放つ。水平に放たれたキックは、空中を浮いて漂うミシェルの体を捉えた。ミシェルは両腕を垂直に立てて攻撃をガードするが、強烈な獣の足蹴りをまともに受けてしまう。棒でサンドバッグを思いっきり叩いたような大きな音が、広い倉庫中に響き渡った。ミシェルの唇が苦痛で歪み、悪魔が獣の顔でニヤリと笑う。

「電気は距離が近いほど、抵抗が少ないほど、ダイレクトにエネルギーを送り込むことが可能。接触は相手には致命的です」

 衝撃を受けきったミシェルがさっと腕を伸ばし、がっしりと両腕で悪魔の足を抱え込む。小癪なガーディアンにダメージを与えたと油断していた悪魔は、慌ててミシェルを振り解こうとするが、既に手遅れだった。

「ぐ、グオオオオオオオォ!」

 バチバチという電気が弾ける音と共に、悪魔の全身が光った。強大な電流をミシェルから体内に流され、悪魔の四肢が大きく痙攣を起こす。全身から火花が散り、体毛があっという間に燃え上がった。やがてはそのあまりの力に、体の一部が溶け始める。

「大きな電流を流し込めば、このように肉体でもあっという間に破壊」

 過剰とも言える攻撃を止め、ミシェルが悪魔の体を離す。床へと叩きつけられた悪魔はそのまま黒い灰の塊となって崩れた。ミシェルは浮遊を止めると、ストンと地上へと降り立つ。

「こ、こいつ……」

 ガーディアンが持つ魔女の如き力を見せ付けられ、悪魔の一体が無意識に一歩足を引く。暴力を信条とし、人という種族を超える力を持つ悪魔から見ても、ガーディアンの力は凄まじい。そんな一体に、ミシェルはゆらりと体を揺らして近づく。

「く、来るな!」
「更に……」

 恐怖に怯えた悪魔が放った正拳突きを、素早く体をずらしてミシェルはかわす。拳が軽く体を掠ったというのに、ミシェルは全く怯まずに一歩足を踏み込み、掌底を悪魔の胸へとカウンターで叩き込む。手の平がぶつかると同時に、バチンという乾いた音が響き渡る。それと同時に「がっ!」と短い悲鳴をあげ、悪魔の巨体が力無く床へと崩れ落ちた。

「高電流を流し込まなくても、高い電圧を加えればかなりのショックを与えることが可能」

 床へと倒れた悪魔の体は、そのまま白く炭化して灰に変わる。高電圧のショックが心臓の機能を麻痺させたのだ。ミシェルの電撃を帯びた掌底が、相手の急所を確実に撃ちぬいた証拠だ。
 牛型の悪魔が残り一体と見たミシェルは、再び体内に電撃エネルギーをその身にチャージし始める。彼女の身体が再び帯電し、美しいプロポーションのあちこちから火花が目に見えて弾けた。

「もちろん、接近戦を挑まなくても、電気は強力な力を発揮します」
「ひ、ひぃ……」

 牛のような悪魔は巨体に似合わぬ情けない悲鳴をあげ、背を見せてミシェルから逃げ出す。その背に狙いをつけるようにミシェルは右の手の平を向けた。

「雷の強大なパワーは大気をも走り、空気でさえも焼き焦がします」
「ぎゃっ!」

 鈍く低い「ゴオン!」という音が鳴り響き、ミシェルが放った一条の雷が空中を奔る。目を眩ませるような強烈な電光が、牛型悪魔の左胸を撃ち抜いた。悪魔の分厚いまな板にぽっかり焼け焦げた丸い穴が穿たれ、その巨体がバッタリと倒れる。だがそれと同時に、ミシェルもバランスを崩し、跪いてしまう。

「く、はぁはぁ……」
「ミシェルさん!?」
「だ、大丈夫です」

 慌てて駆け寄ろうとした唯をミシェルは片手で制して、ヨロヨロと立ち上がる。あまりにも急激に力を使いすぎたため、彼女は眩暈を起こしたのだ。本来ならば下級の悪魔相手に、このような強力な攻撃は不必要とも言える。それでもミシェルはあえて無駄にエネルギーを浪費していた。

「なるほど、ガーディアンの力は確かに強大だな」

 手下を一掃された上級の悪魔が、ミシェルに声をかける。その水晶で出来た体の何処に発声器官があるのかわからないが、悪魔はごく普通の人間のように会話するようだ。

「だが、その力も燃料切れならば、生かすことはできまい」

 悪魔の水晶体から、無数の突起物が浮き出す。その細長い突起はクリスタルで出来ており、悪魔の全身がハリネズミのように覆われる。

「死ねっ!」
「月並みな台詞ね」

 水晶の体から、太い針が大量に射出される。飛び道具による攻撃を、既に予測していたミシェルのハイヒールが床を蹴って、彼女の身体が宙を飛ぶ。人間離れした速さで側転して、ミシェルは水晶の矢をかわしていく。放たれたクリスタルは倉庫のダンボールに容易に穴を開け、箱をチーズの如く穴だらけにする。

「どうした、先ほどの威勢のいい攻撃は何処に行った?」

 水晶体の悪魔が放つ攻撃は一向に衰えを見せず、ミシェルを追い続けた弾幕が彼女の体を捉えた。

「くっ!」

 ミシェルの五体へとクリスタルの矢が届く寸前、金色の火花が散って矢を粉々に破壊する。ミシェルが張った電撃によるバリアが悪魔の攻撃を防いだのだ。ミシェルは悪魔の攻撃が自分を捕捉したと認識した瞬間、側転からバク転に動きを変える。急な横から縦への動きに、悪魔の放つ速射がミシェルの体から逸れる。その間に、女戦士は倉庫の通路を縫って壁際まで一気に後退した。

「逃げてばかりじゃ、勝負にならないぜ」

 壁際に後退したミシェルを追い、フワフワと浮遊しながら悪魔は間合いを詰めていく。背後を壁に塞がれたミシェルは、苦しそうに喘ぎながらコンクリートにもたれ掛かる。唯はすぐにミシェルを助けるために動こうとしたが、それを遮るように金髪の美女は喋り始めた。

「はぁはぁ……早苗や麗と違い、物質ではなくエネルギーを操作するガーディアンは、防御に要する力の効率が若干劣ると言えます。だが我々にはそれを補ってあまりある能力が備わってます」

 ミシェルは屈むと、壁際に張り巡らされていた電気の配線を掴んだ。

「ほんの百年前には考えられなかったわよ。いついかなるときでも、ほとんどの場所で力を補給できるようになるなんてね」

 青白いスパークが瞬き、配線を覆っていたゴムやペイントが弾け飛んで、ミシェルが掴んでいる電線が剥き出しとなる。倉庫に流れていた電気が、ミシェルの中へと供給されていく。自らのエネルギーとなる電源を見つけ、電線をギュッと握ったミシェルの呼吸がみるみるうちに落ち着き、時が経つにつれて彼女の体がバリバリと放電をし始めた。雷の戦士の五体が、外部から供給されたエネルギーによってみるみるうちに満ち溢れていく。

「し、しまった……」
「油断し過ぎね。悪魔は人の弱みに反応し過ぎよ。そういうところを直さないと、いつまで経ってもこっちへの侵攻は難しいわよ」

 思わず動揺した声を漏らした悪魔に、ミシェルがニコリと無邪気な笑みをこぼす。だが彼女の表情も次の瞬間には一変した。

「さて、少し勿体無いけど取っておきを見せてあげるわ。あなた如きには勿体無いけどね。唯様、しっかりとご覧になっていて下さいね」

 ミシェルがかっと目を見開き、ぐっと腰を落とした。相手が仕掛けてくると見て取った悪魔は、全身から巨大な水晶柱を幾つも体へと生やす。新たに作り出した水晶の鎧は、ちょっとやそっとの攻撃では本体へのダメージを消してしまうはずだった。万が一にも攻撃が通ったとしても、鉱物で出来た悪魔の体自体も相当に強固なのだ。悪魔は攻撃を受け切る自信があった。
 ミシェルは左手に雷で光球を作り出すと、対峙する相手へと投げつけた。光る球が直撃すると、軽いショックと共に電撃が悪魔の体を痺れさせるが、ダメージと呼ぶには程遠い。だがこれはあくまでも次の攻撃への布石でしかない。ミシェルの全身が鈍く金色へと輝くと、彼女の身体がゆっくりと前のめりになっていく。そして、次の瞬間にはミシェルの全身が一気に加速した。黄金の軌跡を残し、ミシェルの体は悪魔の全身を貫通し、背後を二メートル近く通り過ぎて止まる。いや、貫通というより透過に近かっただろう。そこに何も無かったかのように、ミシェルは悪魔の体を抜けたのだ。

「私の持つ奥の手の一つ。全身を電気エネルギーへと転化させて、体ごと叩きつける技です。エネルギー消費は膨大ですが……」

 ミシェルの身体が元へと戻ると同時に、悪魔の身体がバラバラに崩れ落ちた。粉々のピースになった水晶の欠片は、まるで内部から衝撃が広がったかのように、自壊したようだ。

「非常に効果的です」

 束の間苦戦したかのように見えたミシェルは、その実はあっさりと悪魔を罠に嵌めて、勝利をもぎ取った。大人っぽい妖艶な笑みを浮かべ、ミシェルは勝ち誇ったように唯に微笑んでみせる。

「今回、私の戦いぶりをみせたのは、唯様と私の操る力が似通っているからです。エネルギーを使う者として、円や京達よりは戦いが参考になると思いました」

 ミシェルはそこで軽く悲しそうな笑みを浮かべたように、唯には見えた。

「私達が幾ら言っても、唯様は戦いを止めないでしょう。ならば、私に出来るのは、唯様に強くなって貰うことだけです」
「ミシェルさん……」

 ずっと傍観者に回っていた唯は気付いてしまった、ミシェルの胸の内に相当な葛藤があっただろうことに。唯の戦う意志が固いと見てとったミシェルが取ったのは、更に相手を戦いに追いやるような苦渋の選択だったに違いない。唯はそっとミシェルの頬に手を置いた。

「……ありがとう」
「どういたしまして」

 唯の申し訳無さそうな一言に、ミシェルは心底嬉しそうににっこりと笑う。確かに恋人の覚悟はミシェルには辛い。だがそんなことも、少年が送る感謝の一言によって吹き飛んでしまうのだ。

「ところで唯様、お礼がちょっと欲しいのですが」
「え、お礼!?」

 妖しげな微笑を浮かべつつ、ミシェルは急に何かを期待するように唯へと詰め寄ってくる。恋人の急激な変化に、唯は戸惑ってしまう。

「お、お礼って……」
「もう、唯様のイジワル……私が望むお礼って言ったら、お分かりでしょう?」

 ミシェルは着ていた服を上下ともに脱ぎ捨て、下着だけになってしまう。真紅のレースで作られたブラジャーとショーツが、妖艶に唯を挑発する。

「でも、さっきまで戦っていた場所でするのって……」
「戦闘すると、女っていうのは昂るものですよ。特に私はさっきエネルギーをチャージしたから、体力が有り余っていますし……場所なんて何処でもいいじゃないですか」

 ぺロリと人差し指をミシェルが舐めると、その指から軽く電撃がバチリと奔る。

「確かに体力は有り余ってそうだね」

 唯はミシェルに上手く追い詰められて、たちまち大きめのダンボールへと押し倒されてしまう。

「あの……ミシェルさん?」
「うふふ、唯様が受身なのって、久しぶりですよね。興奮しちゃいます」

 ミシェルはウェーブがかかった金髪をかき上げると、チロリと唯の耳たぶを舐め上げる。ガーディアンで一番テクニシャンのミシェルに睨まれては、唯も抵抗できない。体を強く抱き締められつつ、唯はミシェルに耳を舌で責められてしまう。耳の裏や穴の近くを舐められるだけで、異質な感覚が彼の全身を駆け巡る。

「ちょ、ちょっとミシェルさん?」

 ミシェルの奉仕を受けたことのある唯でも、無人の倉庫という異質なシチュエーションに戸惑いを隠せない。会社や学校でセックスしたことはあるが、だだっ広い空間でしたことは無く、非常に落ち着かない。そのため普段と違い、唯はミシェルに主導権を取られ、彼女の好きにさせてしまう。

「唯様、たっぷりと楽しみましょう」

 ミシェルの指がシャツの上から少年の薄い胸を撫でる。細い指先が別の生物のように、唯の体を這い回った。

「ああっ」

 薄い生地越しに乳首を撫でられて、唯は思わず声を漏らしてしまう。それも耳たぶを舐めるミシェルの舌が、指の攻めと連動して強い刺激を与えてくるからだ。フェラチオの奉仕以外はあまり受身になったことがない唯は、あまり味わったことの無い快感に戸惑う。

「ふふ、唯様のモノを楽にして差し上げますわ」

 ミシェルは片手で自らがつけているブラのホックを外すと、唯の上へと圧し掛かった。自らの胸を挑発するように少年へと押し付けつつ、片手だけで彼が履いているズボンのボタンとジッパーを開けてしまう。トランクスを押し下げると、硬くなりつつある唯のペニスをミシェルは親指と人差し指、中指の三本で軽く掴む。

「唯様、気を楽にして下さいね」

 ミシェルは指で摘んだペニスを細い指でゆっくりと擦り始める。最初は優しく刺激し、ガーディアン一のテクニシャンは徐々にペニスへの動きを強めていく。その絶妙な手の動きに、唯の背筋へと甘い快感のパルスが伝わってくる。ある程度までペニスへの責めを強めると、ミシェルは空いた手で唯の薄い胸、舌で少年の整った耳をペロペロと舐め始める。

「気持ちいいですか? オチンチンの先からお汁が出てきましたよ」

 ミシェルは唯の呼吸が荒くなっていくのを、愛撫しながら楽しむ。愛する年下の子へ自らの手で快感を与えるのは、金髪の美女に麻薬のような精神的高揚を与えてくれる。熟練した胸、耳、性器へのコンビネーションに、唯のまだ若い体はあっという間に熱くなっていく。油断したらすぐにも射精しそうな快感から気を逸らすため、唯はミシェルの臀部に手を伸ばす。

「やんっ! ふふふ、唯様ったら……」
「お返しだよ」
「あ、あんっ!」

 程よい肉付きで綺麗なカーブを描く尻肉を唯は両手で優しく揉む。ショーツをずり下ろし、柔らかくすべすべなヒップを揉みしだくと、ミシェルの尻は徐々に熱を帯びていく。柔軟でいてハリのある脂肪の感触に、唯は注意を向けた。

「あ、う、ああっ……ん、ん、んぅ……」

 唯の愛撫に合わせて、ミシェルはテンポ良く艶やかな声をあげる。触り始めて時間があまり経っていないというのに、ミシェルの体は陰部から熱い粘液をたっぷりと吐き出し始めた。それもこれも唯が何度もミシェルを抱き、たっぷりと愛情と快感を刻みこんだからだ。僅かな刺激でも、ミシェルの体は条件反射で蜜を垂らしてしまう。

「う……ふあ……唯様……あ、あん、はぁ……」
「ミシェルさん」

 ミシェルの唇を奪い、唯は舌をねっとりと絡ませる。それだけで性技に長けたミシェルの頭も、熱くなってきてしまう。愛する少年のキスはいつでも格別で、魂が震える。それでもミシェルは指で胸を刺激し、ペニスのシャフトを刺激するのを忘れなかった。互いに息を荒げ、徐々に両者は前戯だけでは物足りなくなってきてしまう。

「ミシェルさん、ちょっと早いけど我慢できなくなってきちゃったんだけど」
「いいですよ……唯様のお好きになさって下さい」

 片足をショーツから抜き、ミシェルが唯の正面から乗ろうとする。手をあてがわず、腰の微妙な調整だけで、ミシェルは肉棒の先端を自分の膣口へと照準を合わせた。

「唯様、大好きですよ」
「僕もだよ。ミシェルさんのこと、大好き」

 ミシェルは唯と微笑みあうと、ウェストを落としていった。唯の硬いペニスがズブズブと性器を掻き分け、自分の中へと入ってくるのをミシェルは感じる。

「あっ、う、あ……うぅぅぅ……はぁん……唯さまぁ」

 もう既に数え切れない程に唯と肌身を重ねたというのに、主とのセックスは全身が焼け付くほどの快感だ。ズンと軽く子宮口を突かれただけなのに、ミシェルの意識が途切れそうなくらいの衝撃が奔る。唯もミシェルの膣壁に分身を包まれ、浅い息を吐く。処女を奪ってからこの方、彼女の性器は唯との相性が良くなる一方だ。おまけにミシェルは大人の色気を振り撒きつつ、括約筋を上手く締めて常に唯を高めてくれる。唯のような絶倫な主でなければ、恋人の所為で若くして命を落としたかもしれない。

「ゆ、唯さまぁ……う、動きますよ……あっ、ああっ、うあ」

 挿入だけで精一杯なのに、ミシェルはあまり間を置かずに腰を動かし始める。他のガーディアンなら、唯に下から突いて貰うのを受け止めるのが限界だっただろう。ミシェルは頭がボーっとするほど熱くなるのを堪え、自ら動いて膣の凹凸で唯のシャフトを擦りあげる。

「ひっ、あう、あっ、はぁん……ふ、ふあ」

 熱いミシェルの胎内は唯の陰茎を柔軟に擦りたて、彼の亀頭に甘美な刺激を与える。更に全裸で胸を揺らし、甘い嬌声をあげるミシェルの姿が唯を興奮させた。金髪の美女が快感に耐える表情で、必死に腰を振りたてているのだ。並の男なら、その姿を見ているだけで果ててしまうだろう。

「う、や、ちょっと唯さま……あ、あぅ、あっ」

 唯は軽く苛めるようにタイミングを合わせて、ミシェルを突き上げた。それだけでミシェルの瞳は脳からのスパークで、火花が飛ぶような錯覚を覚える。

「ミシェルさん、もっと可愛いところ見せて」
「あ、あああああっ! だめ、ち、力を使わないで……あ、あぁ!」

 唯の力が乗った優しい囁きに、ミシェルの頭は焼き焦げるような刺激を受ける。あまりの快感に、脳の処理が追いつかない。

「ひっ、あっ、あう、あ、いく、ひああああ、や、とまら、止まらない……ふああああっ!」

 身体が自分の意志を無視し、あっという間に絶頂へと突き抜けた。エクスタシーに何度か繰り返し達して、ミシェルの膣内がギューッと締まるのと弛緩するのを何度か繰り返す。その締め付けを楽しむかのように唯は男性器を動かし、その動きがまたミシェルを翻弄する。

「ひあ、ああっ、ダメ、だ、ダメ……唯さま、幾ら私でもこんなのを繰り返すとおかしくなっちゃいます!」

 思ったより遥かにヒートアップする身体に、ミシェルは恐怖で悲鳴をあげる。このまま唯にイかされ続けたら、正気を保っていられる自信が彼女には無い。

「それじゃ、僕もイクよ」
「イって下さい、唯さま……あ、ああっ、もうダメえええぇ!」

 唯は頃合を見計らい、ミシェルの上半身を抱き締めると、ギュッと亀頭を子宮口に押し付けた。ミシェルの膣内が締まるのと同時に、唯は逆に尿道を緩めて、かなり我慢していた精子を放出した。

びゅる、びゅるるるる、びゅ、びゅ、びゅるるる

「う、ああっ、ひゃん……唯さま……あ、ああっ……中に一杯……あ、あっ、あっ、あん!」

 ビクビクと痙攣する唯のペニスに、ミシェルはこの上も無く幸せを感じる。愛する人に抱かれ、精を注がれるのは自分を誇れる瞬間なのだ。子宮内に入り込み、溜まっていく粘液を想い、ミシェルは恍惚とした表情で少年に抱きついた。

「あん……唯さまの熱い……はぁはぁ」

 精神的にも肉体的にも満足し、ミシェルは熱い吐息を漏らす。強い快感が収まり、彼女はひとまず息がつけた感じだ。謝意を示すようにミシェルは唯に抱きつくと、巨大な胸で優しく彼を圧迫する。

「唯様、凄い良かったです……やっぱり最高ですわ」
「ミシェルさんもやっぱり凄いよ。気が遠くなりそうだったもん」

 顔を赤らめて微笑む唯に、ミシェルは胸が温かくなる。ショタコンの趣味は無いつもりだが、唯個人にはすっかり惚れきっているのをミシェルは自覚してしまう。押し付けた乳首が潰れる感触に、思わずまた興奮しそうになるのを、ミシェルは抑える。

「さて、もう一回戦行きましょう」
「え、でも……大丈夫? 僕は平気だけど……」
「何言ってるんですか。先ほど言ったように、今や私には無限に近いエネルギー源があるんですよ」

 心配そうな唯に対し、ミシェルは片手をあげて見せる。すると壁際のコンセントから青白い光が伸び、彼女の手の平へと電流が流れ込む。それだけでミシェルの疲れは、あっという間に消散してしまう。

「さあさあ、楽しみましょう、唯様」
「わかった。いいよ」

 ガーディアンとの性交において、ほぼ無限の体力を持つ唯としても否応はない。にっこりと愛らしいとも言える笑顔を見せると、唯は自ら腰を動かそうとした。

「あ、待って下さい。今回は新しいことをしたいんですが」
「え、新しいこと?」

 ミシェルの制止に、唯はキョトンと金髪の恋人を見上げた。ミシェルにはいつも新しい性のテクニックを披露してもらっているが、今日も彼女の持つ性知識の中で新しいのが味わえるのかもしれない。

「今日はアナルセックスしましょう、唯様」
「あ、アナルセックスって……」
「そう、お尻の穴です。私の第二のヴァージンを捧げますわ」

 ミシェルはうっとりと欲情した瞳で唯を見つめる。その濡れた目と誘惑するような台詞に、少年のまだ若い心臓の鼓動が跳ね上がった。アナルセックスなるものがあるとは、唯も悪友二人のエロトークから聞いていたが、よもや恋人から誘いを向けられるとは思っていなかったのだ。子作りのため性器同士のセックスは自然とも言えるが、アナルでセックスするというのは互いに快感を得るための手段でしかない。唯から見ると、普通のセックスより遥かにインモラルな雰囲気がある。だがよく考えてみれば、フェラチオも通常のセックスとは違う。今更、そんなに驚くべきものではないかもしれない。

「唯様、緊張してます?」

 唯が何も言わないので、ミシェルは肯定と見てとった。彼女はペニスを自分のヴァギナから抜くと、陰茎を掴んだまま唯に背中を向ける。普通ならばローションが必要な場合もあるが、唯の肉棒は自らの愛液で充分に濡れている。ラブジュースに濡れた亀頭を尻にあてがい、キュッとすぼまった穴へとミシェルはすんなりと導いた。

「うふふ、唯様は緊張することはありませんわ。私に任せて下さい」

 ミシェルは唯に向かい、クスクスと軽く笑ってみせる。その表情だけをみると遊んでいる子供のようで、今やっている行為とのギャップが随分と激しい。ミシェルは緊張している様子を全く見せずに、ゆっくりと腰を落とした。

「ん、う……」

 唯が亀頭に強い抵抗を感じるのと同時に、ミシェルが僅かに苦しそうな声を漏らす。だが尻穴を先端が通過すると、ズブズブとあっという間に唯の陰茎はミシェルの中へと収まった。

「はぁん……この体だと初めてなんですが……上手く行きましたね」

 大きく息を吐きながら、ミシェルが恍惚とした表情で息を大きく吐き出す。唯は膣内とは大きく違うアナル内の感触に、驚いていた。締め付けがきついのは入り口だけで、腸内は熱くシャフトを包むのみだ。おまけに行き止まりという感触がなく、ずっと奥にまで繋がっているのがわかる。

「唯さまぁ……私のお尻の感触はいかがですか?」
「何だか……アソコとは随分と感触が違うみたい」

 唯は自分の言葉を確かめるように、軽く腰を突き上げて尻の中を探ろうとする。だが膣内とは違う緩い感触に、少年は軽い驚きを感じた。

「ひゃん、やんっ……ああ、唯さまっ!」

 転生して初めて味わうアナルセックスに、ミシェルは早くも嬌声をあげはじめた。既にミシェルは数日前から後の穴で何度か唯を思って自慰をしていた。自分の主を受け入れ、菊穴を捧げる準備は出来ていたのだ。

「ん、あん、いいっ……いいです、唯さま、とっても……」

 尻穴を犯される感触に、ミシェルの体は悦びを覚え、自らも腰を動かし始める。腸内を肉棒が遡る度に、膣内とは違う快感がミシェルの背筋を駆け上り、彼女は震えるような愉悦を味わう。普通のセックスとは全く違う感覚なのだ。

「ん、はぁん……お尻いいです。唯さまぁ、もっとお尻突いてぇ」

 ミシェルの誘う声に、唯は抜き差しするペニスの速度を上げる。ミシェルが漏らした愛液が充分な潤滑油になっているとはいえ、肛門の締め付けはかなりきつい。彼女のように慣れている者でなければ、上手くアナルセックスはできなかっただろう。

「あ、あう……唯さまのオチンチン、凄い擦れてます。あ、あっ、あう……ひゃぁん!」

 尻穴の入り口がシャフトをギュッと締め上げ、唯は徐々にアナルセックスとは、この肛門の締め付けを特に味わうものだと理解し始めた。唯はぐっと腰を引き、カリの部分からシャフトの根元までを菊穴に擦り付け、存分に初体験のアナルセックスを楽しむ。

「ん、あ、やっ……唯さま、大好きです。あぁん……」

 背後から体を貫きながら、唯はミシェルの巨大な胸を揉む。両手に有り余るほどの大きさだが、少年は彼女が最も好んでいる胸を寄せて上げるような揉み方で、彼女を悦ばせようとする。それに対して当然ながらミシェルもしっかりと反応し、膣口から愛液がジワジワと漏れ出てきてしまう。

「ゆ、唯さま、上手……やっぱり、凄いです……ああっ!」

 主に開発されたミシェルの五体は、唯の動きに完全に翻弄されてしまう。欲情しきったミシェルの体は膣口から漏れ出た唯の精液を指で掬い、舌で彼女にぺロリと舐めさせる。味わい慣れた精液独特の苦くてしょっぱい風味に、ミシェルの頭は更に熱くなっていく。

「くう……ひゃん、やぁん、あっ、あっ、ああっ!」

 短い喘ぎ声を繰り返しながら、背骨から登ってくる尻からの刺激でミシェルは徐々にエクスタシーへと高まっていく。自らの指を二本、膣内へと入れてGスポットを彼女は弄る。その手に重ねるように唯がミシェルのクリトリス優しく触ると、許容量を超えた快感が彼女の豊満な肢体を駆け巡った。

「だ、だめぇぇぇぇ! い、い、いっちゃう……ひ、ひ、ひゃあああああん!」

 括約筋が絶頂と共に締まり、唯のペニスとミシェルの指をギュッと圧迫する。

ばびゅ、びゅ、びゅくびゅく、びゅるる

 ミシェルが達すると、唯も我慢していた射精を自分の体に許した。唯も初めてのアナルセックスに興奮していて、すぐにもイキそうだったのだ。

「あふ、あん……ああん、ふあ……」

 腸内に精液を注ぎ込まれて、ミシェルは愉悦の言葉を漏らす。唯のザーメンはミシェルにはとても熱く、エクスタシーに達している彼女に更なる幸せを感じさせる。好きな相手に絶頂に導かれ、その相手に満足して貰ったというのは、配下としても恋人としてもこの上も無い満足なことだ。

「ああ、唯さま……とても、良かったです……」

 肛門を閉じたり開いたりしてペニスを圧迫しつつ、ミシェルがうっとりと呟く。イった余韻でミシェルの豊満な体は火照り、心地良い倦怠感が彼女を包んでいた。

「僕もとっても良かったよ」
「そう言って貰えると嬉しいです……処女を捧げた甲斐がありました」
「その……凄く興奮した。ありがとう」

 唯の恥らうような言葉に、ミシェルはクスリと笑みを漏らす。唯も女性の尻に自分のペニスを入れるという初めてのプレイに、心臓の音が聞こえるくらい血圧が上がった。膣とは違う感覚も良いのだが、何よりその背徳感が凄いのだ。うっかりすると病みつきになりそうだと、唯はうっすらと思った程だ。

「さて、もう一回行きましょう」
「ええっ!?」

 元気溌剌(はつらつ)に叫ぶミシェルに、唯は驚きの声を漏らす。ガーディアンは常人を遥かに凌ぐ体力を持つが、常日頃と比べるとミシェルのペースは尋常ではない。

「ふふ、何と言ってもエネルギーは幾らでもありますからね。唯様、覚悟して下さいね」
「ちょ、ちょっと……そんな……」

 電気を存分に吸収し、ほくそえむミシェルの姿に唯は背筋が寒くなる。だが何人もの主を腹上死させた美女は、まだまだ物足りなさそうなのだ。にっこりと後ろに微笑むミシェルに、唯は覚悟を決めた。






 不器用な私には、唯様を僅かに鍛えることと、性的に満足させることぐらいしか出来ない。出来るならば、守護者の名の通りに唯様を完璧に守り抜き、伴侶として寄り添ってあげたい。だが私の力では到底足りないだろう。
 唯様には他の仲間達もついている。私が出来なくても、全員で一緒ならば可能かもしれない。私はその希望にかけている。唯様、愛しています。私も、私達も、あなたをずっと……。






「うぐぐぐぐぐっ」

 ミシェルが目を覚まし、朝一番に発した声は苦痛を示していた。

「お、お尻痛い……って、いうか腰がメチャクチャ痛い……」

 パジャマ姿のミシェルは、這うようにベッドから出ると廊下へと出ようとする。その目には涙が滲んでいる。思わず母国の言葉で悪態が出たくらいだ。
 あれからミシェルはエネルギーが幾らでも供給できるのをいいことに、唯と貪るように性交を繰り返した。ガーディアン達を性的に服従させるための力を与えられている唯に対しては、無謀としかいいようが無い。七回まで果てたのは覚えているが、まるで底が見えない唯の精力に屈服し、最後には意識が遠のいてしまったのだ。

「でも、どうやって帰ったのかしら」

 ミシェルは目が覚めて、自室で寝ていたことに驚きを隠せない。自分で車を運転し、人気の無いところまで唯を乗せていってしまったのだ。本来ならば、途方にくれてしまう。だが唯は機転を利かせて、タクシーか何かを呼んでくれたのだろう。車をまた取りに行かねばならないが、さしたる問題ではない。

「おはよう!」

 腰と尻の痛みを押し殺し、ミシェルはリビングの扉を開けた。自分では爽やかな朝の始まりのはずであったが、返ってきたのは人が殺せるような殺意を伴った嫉妬の視線だった。

「あ、えっと……」
「昨日の夕方は随分とお楽しみだったそうじゃない」

 コーヒーカップを置いて、芽衣が凍てつくような冷ややかな声をミシェルに浴びせる。

「コンビニが廃倉庫だとは、私も知らなかったな」

 雛菊がサラダを取りながら、乾いた声で友人に告げる。ガーディアン達の反応に、ミシェルは自分がどうやって帰ってきたのかを悟った。
 昨晩、唯がいつまで経っても帰って来ないので、ガーディアン達は何度か少年に電話したのだ。能力を使って携帯電話に出た唯はその都度、ミシェルのために何とか誤魔化したりはぐらかしたりしていたが、最後には配下に助けを求めざるを得なかった。

「あ、いや、その……色々わけありで……」
「まあ、いいから座りなさいって。朝ご飯、食べるでしょう」
「う、うん」

 由佳の有無を言わさない優しい口調に、ミシェルはすごすごと従う。ソファに座るとまだ肛門から鈍痛がするのだが、ミシェルはそれを無理やり無視して席につく。

「今日の朝ご飯は百合がカレーを作ってくれたの」
「えっ!?」
「香辛料たっぷりよ、もちろん食べてくれるわよね」

 にこにこしながら聞く由佳と百合に、ミシェルは目を白黒させるしかない。ここに来て、ミシェルは自分が言い訳の効かないところまで追い詰められているのを知った。
 もちろんガーディアン達も、本気で苛めているわけではない。燃え上がった嫉妬心も、唯に一晩抱いて貰えたので、たちまち鎮火してしまった。普段より熱心に愛されたのなら尚更だ。ただ抜け駆けした友に、ちょっとしたお仕置きが必要なだけだ。実際には香辛料は少なめなのだが、尻を痛めているミシェルにはきついお灸になるだろう。

「ゆ、唯様、助けてー!」

 守ると誓った相手に、ミシェルは逆に助けを求めるように叫んだ。しかしリビングにはあいにくだが、唯の姿は無い。ミシェルの夏休みはスタートで思いっきり躓いた。






「ミシェルさん、ありがとう。凄く参考になった」

 マンションの屋上で唯は恋人に感謝した。その姿が、不明瞭なテレビ映像のように大きくぶれた。















   































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