無料エロ同人








「一体なんなのよ、もう」

 はぁ、と金髪の少女がため息をつく。
 マンションの小さなリビング。花柄の壁紙が貼ってある白い壁には、数人の男達が壁を突き破って上半身や身体全体をのめり込ませている。更に床の上にも何人かが倒れている。リビングだけではない、マンションの部屋全体に何人もの男達が転がっていた。

「あなた達、一体何処の誰なの?」

 赤い色のゴシックロリータファッションで身を包んだ少女が、細い腕で襟首を掴んで男を一人持ち上げる。男は白い特殊部隊の衣装で身を包んでおり、拳銃や散弾銃で武装していたことから、何らかの組織に属していることは確かだ。

「………」
「だんまりか……まあ、絶対に吐かないっていうなら賢明ね」

 腫れあがった目で自分を見る中年の男に、少女はふぅと一息吐く。

「協定であんまり人間を殺しちゃいけないんだけど……だからって、傷つけちゃいけないってことではないのよね」

 少女の姿がぐにゃりと歪み、姿形が粘土をこね回したかのように崩れる。ヒラヒラの服が非生物的な白い肌に変わって全身を覆い、等身が伸び、形が男の体型へと変わって真の姿を露にする。白亜の悪魔が無表情に男の顔を覗き込む。

「正直に吐いたらどうだ? 腕の一本や二本をへし折られても平気だろう。まあ、おまえが吐かなくても、これだけの人数が居るのならば、誰かは教えてくれると思うがな」
「化け物め……」
「その化け物を襲おうとした愚か者は誰だ? 警察組織の法の執行ならともかく、問答無用で襲うとは……阿呆め、抵抗も無しに悪魔を殺せると思ったか」

 ザウラスは心底呆れ果てたように、男を蔑む。

「上級悪魔を舐めたおまえ達が悪い。貴様らのような無能な輩が一番頭にくるな」

 マンションの一角から、悲痛な叫びが木霊した。





「はーい、唯。ちょっといいかしら?」

 唯が学校の校門から出たところで、いきなり見知らぬ金髪碧眼の美少女に声をかけられた。フリフリのゴシックロリータのファッションが似合っている、まるで絵本から抜け出してきたかのような少女だ。彼女は唯に向かい、親しげににっこりと笑っている。
 だが見覚えの無い人物だったので、唯は咄嗟に返事することもままならない。流暢な日本語を喋っているとはいえ、金髪の相手は外国人のようなのだ。外国人と知り合う機会など唯にはめったに無いので、知り合いなら絶対にわかるはずだが、記憶のファイルを脳内で検索しても誰だかわからなかった。一瞬、ミシェルやエリザヴェータの知り合いかと思ったが、まったく確信が得られない。

「うほっ、いい美少女」
「おい、麻生。誰だよ、この美少女は?」

 固まっている唯を余所に、同年代の相手と見て慎吾と竜太が調子に乗って声をかけてくる。例の如く、唯は仲の良い四人のメンバーと共に下校していたのだ。

「いや、悪いんだけど、誰かわからないんだけど」

 困惑したように唯は少女を見やる。自分の名前を間違えずに呼んだということは、人違いということでは無さそうなのだが。

「まあ、この格好なら仕方ないわよね。こっち来て」
「ちょ、ちょっと……」

 少女は唯の腕を掴むと、無理やり引っ張る。外見からは想像もつかない強い力に、唯はずるずると仲間たちから少し離れた場所に連れていかれてしまう。その間に、こそこそとクラスメート達が囁きあう。

「誰だと思う?」
「さぁ……ミシェルさんの友達か何かじゃないかな?」

 小声で話す可奈に、竜太が思いつきで推測する。考えることは唯と一緒のようだ。

「写真か何かで見たとかで、気になってデートに誘いに来たとか……」
「えぇ!? 麻生ばっかり羨ましいな」

 このえの推理に、慎吾が勝手に納得して羨望の声をあげる。竜太と慎吾にしてみれば、何で唯ばかりがいい思いをしているのかと、首を捻らざるを得ない。

「一体何なの?」

 強烈な力で一方的に引っ張られて、唯が不満そうな声をあげる。何も言わずに、いきなり掴まれた腕が強い力で引っ張られたために、かなり痛んでいた。

「悪いわね。でもお友達には聞かせない方がいいと思って」
「何のこと?」
「私の正体。……この声に聞き覚えが無いか?」

 鈴を鳴らすような可憐な声から、一転して少女は低い男の声を出した。その声を聞いた唯の顔色が、さっと青くなる。

「ざ、ザウラス……」
「さすがは音を操る能力者……と言いたいところだが、誰でも気付くだろうな」

 慌てて少女の姿をしたザウラスから唯は距離を取ろうと後ずさるが、ザウラスは苦笑するだけで動こうとしない。唯の唐突な動きに、遠くで見守っていた可奈達は怪訝そうに二人を見る。

「勘違いしないで、今日は戦いに来たわけじゃないから。まあ唯が戦いたいと言うのなら、私はいつでもいいけどね」

 再びソプラノの声に戻して、ザウラスがにこりと笑う。だがその目の色彩から、戦いたくてうずうずしているのが、唯には見て取れた。少女の外見で自分に笑いかけているが、間違いなく相手はあの戦闘狂である悪魔に違いない。

「何の用だ……」

 尚も緊張を解かない唯に構わず、ザウラスは彼を友人であるかのように話を続ける。

「ちょっと耳に入れておいた方がいいと思うことがあって。内閣特殊事案対策室って、知ってる?」
「内閣特殊事案……対策室?」

 悪魔の口から聞いたこともないようなことを問いただされて、唯の顔が緊迫した顔つきから不可解そうな表情へと変わる。内閣という名前がつくから国の機関というのはわかるが、唯にとっては初めて聞く名だ。

「私もその実情は全く知らないんだけど、私達悪魔のことを知っていたわ」
「内閣……いや、政府の組織が?」
「そういうことらしいわ。何処まで知っているか怪しいものだけど」

 小火器の武装のみで突入してきた部隊を思い出し、ザウラスが僅かに不機嫌になる。自分もなめられたものだと。下らない戦いの犠牲で、隠れ家を変えなくてはいけないことになったのが、ザウラスにとっては尚のこと腹立だしい。

「気をつけなさい。政府の組織だからって、信用できたものではないわよ。胡散臭い組織だったから、どんなものかわかったものではないわ」
「……わかった」
「今日はそれだけ言いに来たの。再戦には、まだちょっと早いでしょ」

 親しげに微笑むザウラスに、唯はきつい視線しか送り返さない。

「……僕に何故それを教えてくれるんだ? 目的は何だ?」
「わからない?」
「……いや、わかった」

 微笑を崩さないザウラスから唯は目を逸らす。この上級悪魔の目的はただ一つ、唯との闘争だ。そのためには自分と唯の戦いに邪魔になるものは排除しておきたいのだろう。

「話は聞いた。気をつける」
「うん、用件はそれだけよ」

 簡潔な唯の返事に、ザウラスが満足そうに頷く。話は終わったみたいなので、唯は踵を返して仲間達の元へと戻ろうとした。

「……何でおまえもついて来るんだ!?」
「いや、何となくだけど」

 既に用は済んだはずなのに、自分の後をつけてくるザウラスに唯は声を荒げる。普段は温厚な唯だが、ガーディアンの不倶戴天の敵を前にして、物言いや態度がきつくなるのは仕方ないと言えた。

「話は終わったの?」
「終わった……なのに帰らないんだ」

 後をついてきたザウラスに、唯は可奈へと困ったような表情を見せる。

「おい唯、彼女紹介してくれよ」
「紹介っていっても……」

 面白そうに竜太が唯にせっつくが、彼は渋い顔をする。だが危険人物……いや、人ですらない存在を友人に紹介するのに唯は躊躇してしまう。いや躊躇しない方がおかしいと言えた。

「こんにちは。私の名前はザウラスよ。よろしく」

 唯が何と説明していいか迷っている間に、綺麗な笑顔でザウラスが自己紹介する。竜太が唯の友人という位置づけもあるだろうが、一応人間相手にも対等に接するようだ。

「ざうらす? 変わった名前だね」
「そうね。苗字も無いしね」

 奇妙なことを言うザウラスに、慎吾や他の者も不思議そうに目の前に居る少女を見る。童話の絵本から現れたような容姿の彼女なら、名前しか持っていないという話でも納得してもいいとも唯の友人達は思うのだが、良く考えればおかしな話だ。

「麻生君のガールフレンドなの?」
「いや、どっちかと言うと喧嘩友達……あ、でも友達じゃないから、喧嘩相手かしら?」

 うふふとかわいらしく笑う美少女に、このえ達の顔にクエスチョンマークが浮かんでしまう。ただの喧嘩相手なら、唯を訪ねて学校にまで来るものだろうか。

「それに、私は女の子じゃないし」
「なにー!?」

 異口同音に竜太と慎吾が驚愕の叫びを上げる。驚いたのは二人だけではない、可奈とこのえも目を白黒しているし、唯も声が出ない。

「嘘だろう……」
「いや、本当だって。ほら」

 竜太の手を取ると、ザウラスはスカート越しに自分の股間に導いた。

「うげーーーーーーっ!」
「わかったでしょう?」
「おまえ、変な物を掴ませるな!」

 手の中に残る慣れ親しんだ感触に、竜太が気色悪そうに自分の手首を掴んで、悶絶する。他の者達も口をぽかんと開けて、唖然とするしかない。

「おまえ……趣味悪いな……」
「あら、悪魔を掴まえて、今更そういうことを言うかしら?」

 信じられないような唯に向かって、ザウラスは小声で楽しげに囁き返す。好戦的とは言え、理知があって、ある程度は信義に基づいて行動する上級悪魔が、よもやゴスロリルックの女装少年を仮の姿を選ぶとは、唯には想像もつかなかった。

「この方がチャーミングでしょ」

 女装少年ではなく普通の少女の姿だったとしても、よく考えてみればそんなのを仮の姿にしている時点で、ザウラスは相当いかれている。小悪魔のような笑みを見せるザウラスに、がちがちに警戒していたのがアホらしくなって唯は自分の額を押さえた。






「内閣特殊事案対策室……ですか?」

 唯から聞かされた単語を、飯田が聞き返す。
 例によってここは飯田が経営する古物商だ。あれから真っ直ぐに唯はここへとやって来ていた。ザウラスはふらりと姿を消したため、飯田が何か掴んで無いか知りたかったからだ。周囲の音を拾って一応は唯も確認したが、ザウラスが尾行している様子も無い。唯の学校を知っていたザウラスがここのことを知っていないとも限らないが……。

「全く存じ上げません。ザウラスが麻生様に言ったのですか?」
「ええ、そうなんですが……」
「政府の組織ですか……全く思いも及ばなかった、と言えば嘘になりますが、正直なところオカルトが否定されているこの日本で、悪魔を認知している政府機関があるとは意外でしたな」

 珍しいことに飯田は指で頭をポリポリと掻く。常に平然としたこの情報屋でも、意外な情報に困惑しているに違いない。

「公然の組織では無いので調べるのは難しいでしょうが……まあコネが無いわけではありませんから、近いうちに麻生様に情報をご提供させて頂きます」
「いつもすみません、飯田さん。何から何までお世話になって……」

 頭を下げる唯に、飯田は苦笑しながら再び頭を掻く。

「いえいえ、麻生様が頭を下げる必要はありませんよ。私は悪魔ですし、麻生様を利用させて貰って居るわけですから。私の情報が麻生様や他の方々の不利益になる可能性だってあるわけですよ」

 困ったような声を飯田は出す。
 確かに唯達は飯田の情報に踊らされて、いいように手の平の上で遊ばれているのかもしれない。だが唯には、いまいち飯田が悪意のみで自分達を利用しているとは思えないのだ。それは飯田が善人そうな外見をしているから、などということとは関係なく唯は彼の言動などから感じている。

「それでは近日中にご連絡差し上げます。携帯電話にメールでよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いします」

 古物商にメールとは全く相容れないが、今時ならメールなどのやり取りもおかしくないのだろう。情報を色々と収集しているのなら、インターネットや携帯電話も必須とも言える。だが悪魔なら全く違う情報手段があるとも言えなくは無い。
 唯は一礼してから、古物商を出ようとしたのだが、二、三歩進んだところで足を止めた。

「あの、飯田さん……」
「はい、他に何か?」
「悪魔ってどうやって人間のときの容姿を決めるのでしょうか?」
「は?」

 思いがけない質問に、飯田は珍しく間抜けな声を出す。どうも今日は情報通の飯田にも思いがけないことばかりのようだ。

「いや、ザウラスがその……ゴスロリって言うんでしょうか、そんなファッションの女装をしていたんで。いや、似合ってなくは無かったんですが、女装している男……僕くらいの年の女の子の格好をしているっていうのが気になって」
「はぁ、ザウラスがそんな格好を」

 唯の質問に、飯田は気の抜けた返事をする。飯田にとっても、悪魔の間ではそこそこ名の知れたザウラスがそんな格好をしているのが、意外であったようだ。

「基本的には闇の商売、麻薬の売買、密輸入、売春婦の斡旋などをしますから、荒くれ者の格好をすることが多いですね。ただ上級悪魔の中には、人間の信用を得たり、油断させるために害の無さそうな人間になる者も多く居ますね」

 飯田の解説に、唯はようやく得心がいった。ザウラスの少女の姿は不可解に思えるが、よもやあんな可憐な少女が凶暴な悪魔だと思う人間は居ないだろう。

「まあ、人間の中に溶け込むためには、平凡な格好が一番ですしね」
「なるほど」

 気の弱さそうなオジさんという姿の飯田に、唯は心底納得する。物の見事に人間社会に溶け込んでいる見本が目の前に居る。
 うんうんと頷きながら店を出て行く唯を、飯田は怪訝そうな顔で見送った。





 自宅へと帰ると、火急の用件では無いが重大事項と見た唯は、なるべく早く全員を集めて会議をすることにした。携帯メールの連絡により、夕方には仕事を切り上げて、誰もが自宅へと戻ってきた。早速、唯はいつものようにリビングで議題を切り出した。

「内閣特殊事案対策室ねー……」

 話を聞いて、真っ先に疑わしそうな声を出したのが麗だった。何とは無しに、その名前から既に胡散臭いと彼女は思っている。

「ガセネタじゃないの? ザウラスからの情報なんでしょ?」
「うん、そうだけど」

 幼い少女の口から、ガセネタという単語が出てきたことに驚きつつ、唯が麗の質問に明確に返答する。

「仮にガセネタだったとしても、それを私達に伝える意味があるのかしら?」

 由佳の冷静な意見に、多くの者が頷く。由佳と同じように、ザウラスの情報が虚偽である可能性が低いと、大方の者達は判断していた。

「政府機関か……」
「あまりいい情報じゃないわね」

 雛菊とミシェルが、会議を邪魔しないように小声で話し合うのが、唯の耳に届く。

「どうしてそう思うの?」

 彼女たちの会話が気にかかり、唯が理由を尋ねる。確かに唯としても、ザウラスが言った『胡散臭い』との忠告にあまりいい見方はしていなかったが、あえて二人に聞いてみた。

「権力者は私達の力を利用したがるのです。それも自分の野望を満たすために」

 二人の代わりに芽衣が主の質問に答えた。芽衣の短い説明で、唯は全てを理解する。
 以前の主達に対する話の断片などから、多くの人々が彼女達を利用しようとしたのを唯は知っている。ガーディアン達の能力は、破壊的な力がほとんどだが、絶大であるのは間違いない。唯は今も彼女達が女神に匹敵する力を持っている、と密かに思っていた。特に戦闘や暗殺を仕掛けるのに、ガーディアンの力は極めて有効であろうし、他にも応用が利くはずだ。円の諜報能力一つを取っても、権力者には垂涎ものだろう。

「なるほど。どう対処するか、皆の意見を聞きたいんだけど」
「とりあえず情報が少なすぎますね。もう少し情報を集めてから結論を出してはいかがでしょうか?」

 方針を決め始めようとする唯に、円が待ったをかける。ガーディアンで情報収集を担当し、分析能力に長けた彼女の意見は無視できないものだ。

「そうだね。とりあえず、この件は保留でいいかな?」
「それじゃ、しっかり情報を集めますね」
「政府なら私も幾つかコネがあるから、何人かに聞いてみるわ」

 いつも通りの活動を行うという円と共に、意外なことに百合も名乗り出る。

「百合さんも?」
「うふふ、生徒の何人かが議員や官僚だから。期待してて頂戴、ボウヤ」

 驚く唯に向かって、百合がミステリアスな笑みを浮かべる。百合が開いている茶道教室に、そのような人物が通っているとは彼は知らなかった。他の数人も初耳のようで、百合を驚きの目で見ている。

「それじゃ、二人ともよろしく。くれぐれも気をつけてね」
「はい、任せて下さい」
「気をつけるわ」

 飯田のみならず、円と百合という情報ソースが揃ったので、唯はとりあえずはこれで満足することにした。話が纏まったと見ると、会議はなし崩しに終わった。由佳と静香が厨房に立ち、早苗も彼女達の後について行く。麗が大型テレビのスイッチを入れると、その他の者達は雑談に入った。

「しかし対策室ね……もしかしたら、今回は戦いを一般人に任せられるかもね」
「のん気なものだな、おまえは。もう少し緊張感を持て」
「だって、そうしたら楽じゃない。そうすれば、唯様との時間ももっと取れるのよ。雛菊は嬉しくないの?」
「いや……それは嬉しいが……」

 耳に入ったミシェルと雛菊の会話に、唯が思わず笑ってしまう。確かに政府の組織に悪魔退治して貰えば、それだけガーディアンの苦労も減るし、危険も大幅に減少するだろう。都合が良すぎるが、それが一番のシナリオだろう。

「唯、ちょっといい?」
「えっ、何?」

 京の呼び掛けに振り向いた唯は、思ったより険しい顔をしている彼女に驚く。重要な話だと見た唯が立ち上がると、京は部屋の隅へと向かう。唯もその後を追った。

「どうして私達を呼ばなかったの?」

 開口一番に京は唯を責めるように詰問してきた。唯は何のことかと最初は思ったが……。

「ザウラスのこと?」
「そう。気が弛みすぎよ。自分で危険を自覚してるの?」

 かつて無いほどにキツイ口調で詰め寄る京に、唯は思わずたじろぐ。

「校門を出たときに声をかけられたし……最初はザウラスだってわからなかったから……」
「何で逃げなかったの?」
「京さんは僕がザウラスから逃げ切れると思う?」

 唯に質問を返されて、京は黙り込む。彼の見解は確かに正しい。超常的な力が多少備わっているとは言え、唯の身体能力は中学生レベルだ。上級悪魔としても驚異的な力を持つザウラスからは、車などの交通手段を仮に使えても到底逃げられるものではないだろう。

「それにザウラスには戦う意思が無かったし」
「わからないでしょ。勝手に判断しないで!」
「……あいつのことは、わかる。再戦は望んでいたけど、あの時は戦う意思は無かった」

 責める京に対し、唯はきっぱりと言い切った。唯には確信があったが、京は容易には引かずに鋭い眼光で彼を見据える。

「唯様、多少遅くても何故私達に連絡をくれなかったのですか?」

 睨みあう二人の間に、芽衣が割り込む。唯を責めるような口調では無いが、芽衣の表情は硬かった。芽衣には唯に力を持つ上級の悪魔が主に近づいたのに、それを全く感知できなかったことで、多少の焦りがある。

「ザウラスは我々にとって今最も排除すべき敵です。そのために居場所を必死に探しています。ザウラスが現れた時点で連絡するべきでした」
「う、うん……」

 芽衣の言うことは正しく、全くの正論だった。唯には反論の余地は無い。
 ザウラスの話に驚いたのと、悪魔の柔らかい物腰や容姿にすっかり警戒心を無くしていた唯は、ガーディアンに連絡するという最も大事なことを失念していた。だが唯には一つ、ガーディアンとザウラスを戦わせたくない理由がある。

「もしかして、ザウラスとまた戦いたいって言うんじゃないでしょうね?」

 唯の考えを察知して、京が少年の襟首を掴む。京の乱暴な行為に対して唯は驚くが、彼女の意見に対して何も言えずに目を逸らす。
 唯はザウラスに対し、一種の可能性を見出していた。ザウラスは確かに唯を自分の闘争心、或いは好奇心を満たす相手としか唯を認識していない。フェアな戦いをするかもしれないが、戦闘を要求してくるのはザウラスによる勝手な都合だろう。今回の忠告も多分、おもちゃである唯に万が一が無いようにとの配慮だ。
 だがもし唯がザウラスを超えられれば、それは大きな進歩ではないだろうかと、彼は考えていた。そしてガーディアン達を守れる力になるのではないだろうかと。ザウラスが現れたことによって、唯は誰にも告げてはいないが、以前より遥かに自分の力に対する可能性を模索していた。自分を引き上げる相手ということで、ザウラスが現れたことに唯は無意識にだが感謝している。好敵手と言うには今は力の差が大きいが、唯はザウラスが宿命の敵だと思っていた。

「ふざけないでよね。死にたいの?」

 京が首を揺すって、唯の顔を自分の方へと向けさせる。以前と同じ恐怖の色が京の目に宿っているのを見て、唯は何と言えばいいのかわからなかった。京だけではない、芽衣、それにここにきて騒ぎを聞いた全員が心配そうに唯を見ている。

「ごめん……」
「謝って欲しくないのよ。私は戦いを止めて欲しいって言ってるのよ」
「そうです。私達は唯様に戦ってなど欲しくないのです」

 唯に京と芽衣が詰め寄る。だが唯には、どうしてもザウラスと戦うことを諦められなかった。これは彼の闘争本能の所為かもしれない。
 ガーディアン達の愛情と自分の信念の板挟みになって、唯は苦悩する。咽喉の奥に小石が詰まって、心配する二人の視線に耐え切れなくなってきた。胸が痛くなって身体が張り裂けそうだった。

「ごめん……ごめん!」

 京の腕を振り解くと、唯は京と芽衣の腰を掴んで引き寄せ、その胸に飛び込んだ。

「う、あああっ!」
「ちょ、ちょっと!?」
「唯様!?」

 周りの目も気にせず、二人の豊かな胸に顔を埋めて唯は泣き始めた。唯が強くなりたいのは、京や芽衣達を守りたいという想いのためだ。そして同時に二人に心配をさせたくないのも事実だ。二律背反によって、唯の心は引き裂かれていた。

「そ、その……」
「唯様……泣かないで下さい」

 京と芽衣は二人で唯をギュッと抱き締めて、オロオロするしかない。普段はガーディアンのリーダーとして申し分無く働き、ベッドの上では最高の恋人として振る舞い、かなり大人びているとも言える少年が、年相応に泣いているのだ。いつもの唯とのギャップに、二人は大いに戸惑ってしまった。
 悲痛な泣き声をあげる唯に、ようやく心情を察したのか、今度は二人に罪悪感が出てくる。

「二人とも、もうよせ。唯殿にとってはザウラスとの戦いは、望んだ宿命なのかもしれない。我々も唯殿を信じるしかないだろう」

 全てを察したエリザヴェータが芽衣と京の肩をポンと叩く。それだけで唯の身の危険だけを心配していた二人の心はようやく解放された。唯自身の選択を尊重することも必要かもしれないのだ。

「ごめん、だから泣かないでよ。私、困るのよ」
「すみません、唯様。余計な心労をかけてしまって」

 美女二人は唯の頭を優しく撫でる。主兼恋人に泣かれるのは困ってしまうが、同時に嬉しくもあった。普段自分達が甘えている分だけ、二人とも唯を胸の中で泣かせて、たっぷり甘えさせてあげたかった。

「ほら、何グズグズしてるの」
「えっ?」
「絶好のチャンスでしょ。唯様をベッドに連れて行きなさい」

 唯を抱擁で慰めるのもそこそこに、いきなり声をかけてきたミシェルが、芽衣と京の肩を押すと、無理やり廊下へと押し出した。戸惑った様子の二人だったが、廊下に出ると唯を連れて何処かへと行ったようだ。

「あーあ、いいな二人とも」

 いいところを持って行った芽衣と京に対して、円が心底羨ましそうな表情を作る。

「そうよね。あんな唯君は初めてだしね。お姉さん、ドキドキしちゃった」
「うんうん。ボウヤの泣き顔、母性本能がくすぐられちゃうわよね」

 由佳と百合が欲情した目つきで唯達が出て行ったドアを見つめる。年下の少年を可愛がっている二人にとっては、唯の泣き顔は堪らなかったらしい。もしかしたら、うっすらとショーツが濡れているかもしれない。

「唯様……可愛かった」
「うん、可愛かったな」

 ぽつりと呟く楓に、雛菊が同意する。雛菊の顔は真っ赤で、楓の顔もうっすらと赤かった。唯が感情の昂るままに泣いたときは素直に感動した二人だが、唯が出て行った後に思い出す彼の泣き顔は母性本能を刺激して、強烈な恋愛感情を両者に抱かせた。

「今度、ボウヤを泣かせちゃおうかしら?」
「ああ、それいいね。泣いている唯様を、たっぷりと慰めてあげたいわ」
「二人ともやめなって」

 危ない発言をする百合とミシェルに、早苗は良心的に制止する。だがその早苗でさえ、唯の泣き顔は彼を可愛いと思わせた。





「唯様……」

 涙を流す唯を、芽衣は自室に連れ込み、ベッドに押し倒した。京もベッドに倒れ込み、横から唯のことを柔らかな肢体で抱き締める。

「ごめん、取り乱しちゃって……」
「そんなことはありません。誰だって泣くことはありますわ。そして、私達のことを思って泣いて下さったのですし」

 芽衣は唯の片目にキスをしつつ、自分の服に手をかけてスルスルと脱ぎ始める。スーツが緩められ、黒い下着が露になり、床の上へと衣服が落とされていく。

「唯が泣いてくれて、私は嬉しかったわよ。これでおあいこだから」

 唯の首筋に顔を埋めて、京が唯に囁きかける。その顔は本当に嬉しそうだ。

「それに唯様の泣き顔……こう言っては何ですが、可愛かったですわ」
「そうそう。ギャップが良かったわよ」
「からかわないでよ……恥ずかしいんだから」

 二人は褒めるのだが、唯は若干だが憮然としたような声を出す。男としては、あんなにわんわん泣いたのは、正直にいって恥じ入るべきだと唯は思っていた。それを二人に可愛いと言われては、立つ瀬が無い。両親が亡くなったとき以来、唯はあんな子供のように泣いたことはなかった。だが泣き終わった今は不思議と気分がすっきりしている。

「もう一度言います。泣くのは悪いことではありませんわ。唯様はまだ中学生なのですから、無理をなさってはいけません」
「唯、私達はあなたを信頼してる……いや、愛してるわよ。だから、もっと甘えて頂戴」

 下着姿になった芽衣が唯を愛しそうに抱き締める。京も服をするすると脱ぎ捨て、ベッドから床へと放り出す。

「唯様はご両親を無くしていますが、唯様が言って下さったように私達が代わりの家族です。家族は助けあうものです」
「……家族だって言ったっけ?」

 芽衣の優しい言葉に胸が温かくなりつつも、唯は照れて質問を返すことしか出来なかった。

「ええ、聞いたわよ。私達を婚約者みたいに思ってるって。酔っ払わせて聞き出したんだけどね」

 京がクールな外見に反して、柔和な笑みを浮かべて唯の右目にキスする。女性をベッドの上では責め続けて相手を悦ばせているいつもとは違い、逆に受身で可愛がって貰っていることに唯は少し戸惑ってしまう。

「今日は、私達が唯様を満たす番です」
「いつも私達を満たしてくれているお礼にね」

 両の頬を芽衣と京が口付けて、赤と紫のキスマークを残す。二人は器用に唯を寝かせたままで彼の衣服を脱がした。そして、ブラを外して、見せ付けるようにショーツを太ももから滑らせて脱ぎ捨てた。

「芽衣さん……」
「あん。動いちゃダメですわ。今日は私達が奉仕する番ですから」

 芽衣の胸に伸びた唯の手を、やんわりと彼女は払いのける。子供に「めっ」と言っているような母親のような顔を見せると、芽衣はベッドデスクの引き出しに手をかけた。デスクの中から、芽衣は透明なローションが詰まった瓶を取り出す。

「何でそんな物が引き出しに入ってるのよ?」
「あら、女の嗜みよ、このくらいは」
「その割にはコンドームは入ってないじゃない……」
「あら、どうしてかしらね」

 京と芽衣は軽口を叩いて、少女のように笑いあう。だがローションをお互いの手の上に垂らすと、娼婦のような淫猥な笑みを浮かべて自分達の胸に塗り始めた。巨大な胸の塊が透明な液体に濡れて、ドロドロになってくる。

「初めてなので上手くできるかわかりませんが……」

 芽衣と京は唯の上に圧し掛かると、彼の胸に豊満な乳房を押し付けて動き始めた。上下に動いて、彼のまだまだ薄い胸板を往復する。

「あっ、うっ……」

 ローションでぬるぬるになった四つの爆乳が往復する度に、唯が軽く呻き声をあげる。唯の体は芽衣や京と比べて小さいため、どうしても四つもの巨大な胸が往復するにはスペースが足りない。芽衣や京が押し合って位置を横取りしようとするので、往復の度に動きが変わって微妙に違う刺激が唯にもたらされる。

「ん……はぁ……」
「はぁはぁ……あ、ぅん……」

 唯を楽しませるだけでは無く、芽衣も京も肌が合わさって擦れることで胸から甘い刺激が広がる。惚れている相手が、珍しく少年らしい初々しい表情を見せていることでますます興奮し、じわりと秘穴が濡れてくるのが自分達でもわかる。

「芽衣さん、京さん……」
「こらこら」
「おいたはダメですよ」

 唯が手を動して体を触ろうとすると、腕を両者に押さえられてしまう。その間にも唯の情欲が膨れ上がっていく。柔らかな胸の膨らみが肌を圧迫する感触が、摩擦無しで行われるという慣れない感覚に唯は翻弄される。

「あ、ああっ」
「うん……唯様……気持ちいいですか?」
「もっと……よくしてあげるから……」

 経験が無いローションプレイに三人とも声が漏れる。ぬるぬるした液体が常とは全く違う感触を皮膚に伝え、二人の美女が持つ大きな膨らみが潤滑で全く違う動きをする。唯には何故風俗でこういうプレイをするのかを、身を持って体感した。芽衣と京もローションプレイの魅惑的な感触に、虜になっていく。

「ふ、二人とも実はその……股間が……」
「あ、オチンチンが苦しいんですね」
「うふふ、わかったわ。任せて頂戴」

 唯はようやく今日のプレイでのルールがわかってきた。芽衣や京に甘える、一種のおねだりをすることで、二人が却って喜ぶということだ。唯は女性を責めて悦ばせることが多かったので気付かなかったが、奉仕することで却って彼女達の欲望を満たすことがあるというのを徐々にだが理解してきた。

「あ、ちょ、ちょっと……ああっ」

 芽衣と京がローションでぬるぬるになった片手で、唯の肉棒を掴んだ。シャフトの上を優しく動く十本の指は、たっぷりとついた人工の粘液によって、普段とは全く違う感触をペニスに伝えてくる。

「こ、これって……あぅ……」
「随分と良さそうね」

 中性的な声をあげる唯に、ゾクゾクしてしまいながら京が彼を責め立てる。普段とは違い、ローションでスムーズに動くので、少し強めに唯のペニスを扱けるのだ。京と芽衣は張り切って彼に奉仕する。

「唯様、いいですか?」
「い、いいけど……慣れてないから、あ、あぅ……」

 膣や口とは全く違うが、何かの器官に飲み込まれているような錯覚を唯は覚える。美女二人の指はまるで別の生物のような動きで唯を翻弄する。十指は執拗に唯の排泄器官に絡みつき、精を吐き出させようと動く。

「ほらほら、いっちゃいなさい」
「いいのですよ、唯様」

 指での手コキとは別に、京と芽衣は胸での奉仕も忘れていない。ローションで濡れた身体を押し付け、柔軟な脂肪が詰まった二つの膨らみで唯の身体を悦ばせようとする。その動きは、まるで自分のフェロモンを擦りつけようとする雌のようだ。

「も、もうダメ……」

 上下への奉仕に、唯が呻き声をあげた。普段とはまるで違う弱弱しい声が、女達の嗜虐心に火をつける。既に少年は限界だというのに、絡めた指を猛烈に動かし、ラストスパートをかけた。

「う、ああ、いく、イクよ!」

びゅる、びゅっ、びゅっ、びゅっ、びゅく

 尿道口から精液が飛び出し、芽衣と京の胸に唯の身体が痙攣する感覚が伝わった。かなりの勢いで飛んだ白濁液は、芽衣や京の顔にまで飛び、ベチャベチャと体の表面へとかかる。

「うふふ、たっぷり出しましたわね」
「嬉しいわよ」

 かけられた精子を拭おうともせず、芽衣と京は唯の両頬に口付けしてキスマークを増やす。荒く息を吐く少年の姿は、未成年と性行為に及んでいるという背徳感に二人の胸は熱くなっていく。雌の生殖本能が刺激されて、心臓が早鐘のような鼓動を打つ。

「そろそろ……」
「はい、もちろんですわ」
「いいわよ、たっぷり私達の体を味わって」

 少年が全てを言わないうちに、何を求めているかを察知した二人が身を起こす。ほんの僅かな間だが目と目で互いに牽制しあう。だがすぐに妥協が成立したらしく、京が仰向けに寝転がって誘う格好になった。

「唯、来て頂戴」

 体の上にローションを垂らして、京は自分の体に粘液を押し広げる。熱い吐息を吐いて濡れた瞳で誘う京に、魅了されたかのように唯は彼女の上に圧し掛かった。

「んう……唯……」

 ずるりと硬いペニスが膣壁を押し分けて入ってくると、京は切なそうに呻く。たっぷりとかかったローションと愛液が混じり、挿入はいつもよりずっとスムーズだった。

「ふふふ、唯様。京の中はいかがですか?」
「うん、かなりいいよ」

 過剰なまでにローションをつけた芽衣が、唯の背中に抱きつく。巨大な胸で上下から押し潰されるような錯覚を唯は覚えてしまう。その感覚は唯が腰を動かし始めるとますます強くなった。

「あ、ああっ! 唯、いいの! もっと動いて、オチンチン動かして!」

 ピストン運動をして京の膣壁をペニスで上下に擦ると、異様な感覚が唯を包んだ。ぬるぬるになった女体が体に擦れて、唯の全身にゾクゾクするような快感が襲ってきたのだ。陰茎を膣内で包まているのと同様に、まるで全身が別の性器に包まれたような感じだった。

「唯、唯……もっと動いて、アソコを擦って」

 気持ちいいのは京も同じで、悦楽に浸って気持ち良さそうな表情を見せる。

「うふふ、こういうのはどうです?」
「あ、し、刺激が強すぎるよ」

 豊満な体に挟まれてのローションプレイに、芽衣に囁かれた唯が苦しそうに呻く。唯が腰を動かすのに合わせて、芽衣は全身を彼の背中に擦り付ける。その肉体に沸き上がる体感したことの無い快感は、唯にとっては刺激が強すぎた。だが京は唯に突かれていることで既に肉欲の虜になっており、芽衣は少年の切羽詰まった声に嗜虐心が刺激されている。二人の下僕達は唯の体をますます強く抱き締め、擦れる体への圧迫を強めた。

「ふあ、あっ、唯、凄いの、凄い……」
「きょ、京さん。僕も凄い気持ち良くって……ああっ!」

 全身を女の肢体に包まれ、唯が顔を歪める。液体まみれで抱かれるという刺激は、少年にとって初めてだった。

「唯様、まだ出してはいけませんわ」

 芽衣が唯の腕を引っ張り、京の中からペニスを引き抜かせる。何が起こったのか理解する間も無く、唯の身体が二人の間でくるりと反転した。ローションが潤滑油になって、いともあっさりと体勢が変わる。

「今度は私の番……更なる快楽を味わって下さい」

 体をひっくり返された唯のペニスが、芽衣の胎内へと飲み込まれた。あまりの早業だった。

「ふあ……唯さま……いつも通り、逞しいですわ……」

 唯のペニスが動き出すと、芽衣は恍惚とした表情を見せる。だがそれもすぐに崩れて、欲情に溺れた奴隷へと変わった。腰を振り立て、自らの膣壁にシャフトを擦り付ける。彼女は奉仕しつつ、自らも欲望を満たそうとした。

「唯さま……気持ちいいの……もっとして下さい」
「あ、あ、芽衣さん……」

 急に入れていた女性器を交換させられてしまったので、まったく違う刺激を受けて、唯は長くは持たなかった。芽衣の胎内にペニスをもみくちゃされて、腰から刺激が駆け上がってくる。その快感に射精管が開いた。

「あ、出る、出ちゃう……」
「出して、唯様中にせーし下さい……」

どびゅ、びゅく、びゅる、びゅくん

 少女のような甘える声に導かれ、唯は芽衣の中に精子を吐き出した。

「あ、ああっ、精液が体の中に入って……幸せ……」

 体の中でビクビクしながら精液を排出するペニスによって、緩いエクスタシーに見舞われた芽衣がうっとりと息を吐く。避妊はしているとは言え、主の精を子宮内に貰うのは下僕としては最高のご褒美なのだ。ビクビクと上下する肉棒の振動に、頬を緩ませる。

「唯、芽衣ばかりにしないで、私も……」

 射精の余韻に浸る間も無く、唯の体は再びうつ伏せにされる。再度京の中にペニスが差し込まれ、陰茎がきつい膣圧で締め上げられた。

「あ、ああ……唯、凄いの……ああっ、嬉しい」

 コリコリとした子宮口を亀頭で圧迫される度に、京は歓喜の声をあげる。子宮に甘い圧力がかかる度に、唯に自分の全てを捧げているような気分になるのだ。唯のペニスを膣壁が飲み込むように蠢き、胎内へと子種汁を貰えるようにおねだりする。

「京さん……きつい……」
「ごめん、でもわ、私もう……」

 良いところで軽いお預けを食らったので、京の体は限界だった。切羽詰まった声を上げて、切なそうに自分の人差し指を噛む。

「あ、ああっ、だめぇ……唯、私イキそう。唯のオチンチンが良すぎるの!」

 軽く二、三回擦られただけで、京は絶頂感が押し上げてきて流されそうになってしまう。だがそれは唯も同じだった。未だかつてしたことの無いプレイで興奮している状態の上、射精直後の敏感なペニスを締め上げられているのだ。ローションでベトベトの胸で押し潰されている感触も手伝って、再び射精感を覚える。

「イク、イク……や、だめぇぇっ!」
「いいよ、イって。僕もイクから!」

びゅるるる、びゅっ、びゅっ、どびゅ

 立て続けに二回出したというのに、唯のペニスからは勢い良く精液が飛び出て、子宮口へと直撃する。温かい液体を子宮口へとかけられ、京の目が大きく見開かれた。

「ひあ、ああああっ、あっ! 唯、唯……」

 愛する男が一緒に達したことを感じて、京は快感の中で胸が熱くなった。自分の中に溜まっていく精液に、目も眩むような絶頂感を覚える。心から愛しい男に精子を注ぎ込んで貰うのは何にも変えがたいものだった。

「唯……はぁはぁ……ああ……」

 ぐったりしながら京は荒く息を吐く。その姿は苦しそうだが満足そうでもあった。唯とのセックスによる絶頂はいつも脳が焼け切れそうなほどの刺激で、気持ちいいのと同時に代償として体力をごっそり持っていかれる。だがその疲労はいつも心地良い。
 ある程度精液を注ぎ込むと、エクスタシーを感じてビクビク痙攣している京から唯はペニスを引き抜く。

「芽衣さん……」
「唯さま……」

 二人の間で体を回転させるように動かし、唯は上向きになって芽衣と向かい合う。彼は再び芽衣のドロドロに熱くなった膣へとペニスを突き込んだ。

「ふあっ! あぁん……」

 短い間に何度も射精したのに、唯のペニスは硬く、まったく衰えを見せない。芽衣の柔らかな膣内を蹂躙し、その柔らかなヒダの感触を陰茎が貪ろうとする。肉棒が狭い胎内の中で蠢く度に、濡れた体を擦り付けて芽衣は唯に喜びを伝えた。

「いつも見守ってくれててありがとう。僕も頑張るから……」
「そ、そんな……私達は何も……ひ、ひああああああっ!」

 唯が囁いた心からの感謝に対し、芽衣は少年を強く強く抱き締める。ただでさえ興奮しきっている体に、唯の真心がこもった言霊の力は、芽衣の耐えられる容量を遥かに超えていた。括約筋がおかしくなったかのように膣が締め付け、愛液が粘膜全体から溢れ出す。

「うあ、ああっ、あん、だめぇぇぇぇ!」

 一度エクスタシーに達して敏感になっている芽衣の体は、ペニスを一突きされる度に狂おしいほどの性感を受ける。振動が伝わる子宮の奥から甘い痺れが広がって、芽衣の意識を揺さぶっていく。既に出された精液が愛液と混ざり合い、胎内でまざりあって白濁した泡を作った。

「ゆ、唯さま、わ、わたし、ああ、あ、ああっ!」

 唯の体にしがみついて快感の嵐をやり過ごそうとするが、それは逆効果にしかならない。ローションまみれの身体が擦れあって、芽衣の意識をどんどん限界へと押しやっていく。

「ああ、唯さま、いく、いっちゃいますぅ……あ、イクぅぅぅぅ!」

びゅるる、びゅ、びゅっ、びゅ

 芽衣が絶頂に達すると同時に、唯も射精していた。エクスタシーを感じた膣が締め付けるのに合わせて尿道を緩めたので、同時にイクのはそれほど難しくなかった。

「あ、あふ……あ、あ……」

 唯の上で軽い痙攣を繰り返す芽衣の胎内に、精液が溜まっていく。既に中に出された分も合わせて、芽衣の子宮には膨大な量の精子が漂っているはずだ。今宵も忠誠と愛を尽くす主に絶頂へと導いてもらったことで、芽衣は心底幸せそうな吐息を吐く。
 だが二人の美女をイかせたというのに、唯は満足していなかった。

「京さん、僕……」
「うん、好きなだけして……嬉しい」

 体を反転させた唯は、再び京の中へと突き込んでいった。





「ねえ、ちょっと遅くない?」

 リビングでクッションを抱きながらテレビを見ていた由佳が漏らす。時計を見れば既に十時近く、三人がリビングから出て行った夕方から相当な時間が経っていた。

「あはは、それは当たり前だって。唯君が大泣きしてたのを、慰めてあげにいったんだから。ああやって感情をぶつけあったときって、なかなか終わらないものだよ」

 静香に膝枕して貰って、テレビを眺めている早苗がからからと笑う。パートナーがずっと同じだとは言え、悠久のときをずっと恋愛して過ごしているので経験は豊富だ。

「そうね。私達もそうだったものね」

 早苗を膝に乗せている静香も、恋人の意見に同意する。二人は唯達による愛の営みが長くなることは、とっくに予想していた。

「何だか抜け駆けされた感じ……」
「焦らない焦らない。勝負はこれからだよ」

 表情は変えないものの、不満そうな声を出す楓を早苗は宥める。今は唯との付き合いが僅かに長い芽衣と京の二人がアドバンテージを握っているように見えるが、実際のところは唯との関係は全員平等なはずなのだ。






「唯様……」
「唯……」

 芽衣と京が朦朧としながら愛する少年の名を呼ぶ。もう既に何度挿入されて、何度出されたかわからない。重なり合った股間は既に溢れて流れ出した精液でグショグショになっており、部屋全体を精液が放つ独特の異臭が包んでいる。既に芽衣も京も体の限界まで奉仕させられていた。

「芽衣さん、京さん」

 唯が甘えたように言うと、上下から二人の美女が優しく彼に口付けする。意識ははっきりしていなくとも、二人は主に奉仕しようと懸命だ。三人は折り重なったまま、いつ果てるともなく男女の営みを続けあった。






「ただいまー」
「おかえりなさい」

 リビングに顔を出した唯に、麗、早苗、エリザヴェータ、静香が返事する。翌日の午後、唯が学校から帰ってきたときのことだ。
 部屋に鞄を置く前に、誰かリビングに居ないか確認しようとしたのだが、部屋には珍しく学生と不定職のガーディアン達が揃っていたのだ。返事はしないが、ソファの上には京も横になって寝ている。

「あれ、京さんはまたお昼寝?」
「唯がやり過ぎなのよ」
「朝起きて来たときは、腰が痛いって言ってました」

 麗と静香の話に、唯はバツが悪そうな顔をする。

「それは悪いことしたなあ」
「そうでも無いのでは?」

 済まなそうな唯に対し、エリザヴェータが別にそんな顔をしなくてもいいとばかりに、京を見やる。早苗が京のほっぺたをつつくと、普段は冷酷そうな顔を彼女はふにゃーと崩して微笑む。

「唯……むにゃむにゃ」
「ほら」
「あはは、こうなると逆に照れちゃうね」

 今度は一転して唯は照れた表情を見せる。京は眠りの中で、昨日の情事も思い出しているのかもしれない。思ってもいない恋人の反応に、唯の顔は真っ赤だった。そんな唯を見かねたように麗が口を開く。

「まったくデレデレしちゃって……。唯、冷蔵庫のアイスクリームが切れてたから、コンビニで買ってきて」
「え、僕が?」
「そう。こんな暑い中、女の子を買いに行かせるの?」

 麗が当然のように唯に要求する。七月に入り、外の気温は急激に上がってきていた。都心なのでヒートアイランド現象の影響もあるだろう。そんな中を女性にアイスクリームを買いに行かせるのは酷のように唯には思えた。幾ら常人より遥かに頑丈なガーディアンでもだ。

「わかった。着替えたらすぐ行くよ。銘柄は何がいい?」
「ハーシーダッツ、種類があるだけ買ってきて」
「はいはい、了解」

 唯が快く了解すると、静香がキッチンテーブルに置いてあったハンドバックから財布を取り出す。もっぱら家に居ることの多い静香は、買い物を担当することが多いので、芽衣から生活費を渡されていた。

「ありがとう、静香さん」
「いえ。外は暑いですし、気をつけて下さいね」

 静香が数枚の千円札を渡すと、唯が軽く紙幣を掲げて感謝の意を示す。使いの用事が出来たので、唯は空調の効いたリビングで涼むのもそこそこに部屋から出て行った。

「麗、唯殿を自分の買い物に行かせるのは、感心しないな」

 一連のやり取りを黙って見ていたエリザヴェータだったが、唯が居なくなったのを見計らってゴロゴロしている麗に声をかける。

「常に奉仕しろとは言わないが、それなりに敬意を払うべきだ」
「いいじゃない、別に。唯がいいって言うんだし」
「唯殿の優しさにつけ込むとは、ガーディアンとしてどうかと思う。芽衣や雛菊がこの場に居たら大目玉だ」

 エリザヴェータが冷静に諭すが、麗は何処吹く風と読んでいるファッション誌から目を逸らさない。きつく言われていないので、意にも介さないところかもしれない。厳しく追及したら、喧嘩になるのは目に見えているが。
 エリザヴェータは口を閉じたが、代わりに早苗が麗に向かって語りかける。

「でも、いいのかな?」
「何が?」
「このままだと麗の立場がまずいと思うけど」

 早苗の指摘が注意を引いたのか、麗は顔を上げて彼女を見た。

「私の立場って……まさか、追い出す気?」
「まさか……でもさ、麗って唯君に悪口ばっかり言ってるし、我侭し放題じゃない。これ取ってきてとかあれとって来てとか頼んでたりするし、コンビニに買い物行かせたのも一度や二度じゃないでしょ」
「そ、それはそうだけど……」

 学生の唯と麗は帰宅時間が割合近いので、自然と夕方までは過ごす時間が多い。そのため芽衣や雛菊が居ないのをいいことに、確かに唯に命令することが麗には多々あった。似たような時間に帰宅する早苗は、自然とその様子を見ている。

「唯君も麗のその我侭が結構嬉しいみたいだけど」
「え、そうなの? それなら別に構わないじゃない」
「でも、唯君にしてみれば、可愛い妹が出来たって感覚なんじゃないかな?」

 早苗の一言に、ビシッという音が聞こえてきそうな感じで麗の動きが固まる。

「一人っ子だった唯君なら、小生意気で我侭な年下の同居者が出来たなら、自然と妹のような感覚になっちゃうんだと思う」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 妹って思ってるなら、普通は手を出さないでしょ!」
「まあ、本当に妹ってわけじゃないし。今はそこまでまずいって思って無いんじゃない。でも、恋人と妹って立場だと随分と違うと思うよ」

 早苗の言葉に麗は呆然とする。比較的好き放題にやってきた麗だが、まさか唯が自分をそのように見ているとは考えもつかなかった。

「唯様って麗との……その……夜伽でも随分と気を使ってるみたいだし」

 恥ずかしそうに小声で指摘する静香の言葉が、麗に追い討ちをかける。

「麗に負担がかかりそうな体位はあまりしないしね。対面座位とか、動きが少ないのが多いし」
「皆が寝た後で、さり気なく麗の様子をチェックしたりもしてるしな」

 早苗とエリザヴェータの指摘も、確かに麗には身に覚えがある。自分の身体がまだ未成熟なので唯は優しいのだと思っていたが、それは勘違いかもしれない。
 麗は相当にショックだったらしく、唯がアイスクリームを買って帰ってくるまで呆然としていた。





「うーん……」

 学校での休み時間、麗は机に座って悩んでいた。早苗の言葉が麗には相当に応えていた。
 反発しているようには見えるが、惹かれている相手が自分を妹のように見ているというのは危機的状況だ。自分では唯に惚れているのは認めがたい事実だったが、そういうのをどうこう言っている状態ではない。考え込む麗は、朝からずっと授業中でさえもこんな感じだった。

「おい、船越。何うなってるんだ?」
「うるさいわね。放っておいてよ」

 にやにやしながら声をかけてきた同級生の男子を、麗は煩わしそうにしっしっと手を振って追いやろうとする。普段とは違う様子の麗が面白かったのか、その子は大声をあげた。

「おい、みんなウシチチ女が何か悩んでるぞ……あいたっ!」
「その名前で呼ぶなって言ったはずよ」

 麗の拳が目に見えぬくらいの速さで、相手の頭を小突いていた。ゆらりと立ち上がった麗は右手を縦に上げてガードを作り、左手をエル字型に曲げて腹の辺りで小刻みに横に動かしている。麗にしてみれば、外見的には一緒とは言え、子供に自分の身体について、からかわれるのは我慢ならなかった。

「何だよ、ウシチチをウシチチと言って、何処が……うげっ!」

 手首の捻りが効いたジャブが目に見えぬ速さで男子を襲い、相手をよろめかせた。

「おい、何やってるんだよ、ウシチチ女!」
「言うなって言ったはずよ」

 麗の暴力を咎めた他の男子が声をあげると、彼女はさっと体ごと振り向く。体を低くしてダッシュし、机があるのを感じさせないような高速のステップで麗は接近する。少年は慌てて顔面をエックス字にガードするが、麗の拳は相手の脇腹に突き刺さった。腰が入った一撃が唸りを立てて、肝臓を打ち抜く。強烈な横回転からの斜めの一撃に、相手が軽く持ち上がる。

「こ、この野郎!」
「何するんだよ!」

 女の癖に暴力を揮う麗にカチンと来たのか、男子同級生が集団で麗へと殺到する。些細なことで喧嘩に発展するのは、いつものことだった。

「死ね、ウシチチ女!」
「言うなって言ってるでしょ!」

 真っ先に突進してきた相手の右頬に右アッパーを叩き込むのと同時に、麗は目に見えぬ速さで振り下ろしの左フックを叩き込む。体当たりを仕掛けてきた相手の心臓を、捻りを効かせた右ストレートで打ち抜き動きを止めると、フックとアッパーの中間のような左の一撃を加える。そして背後に忍び寄った相手に振り向き、僅かに屈み込んで接近すると、膝のバネを渾身に込めた上向きのパンチを相手に畳み込む。更には身を翻し、強烈なダッシュ力で一人に近づき体重を乗せた右ストレートを胸にぶつけた。
 僅かな間にこれだけした麗に、そのパンチを恐れたのかもう誰も近づかなかった。

「い、いってー。何しやがる」

 麗が加減してあるので、同級生達はよろよろと彼女から自力で離れた。痛くはあるが怪我とは程遠い。それでも強烈に痛いことは痛い。

「ちょっと、何やってるの!?」

 廊下に居たのだろう、騒ぎを聞きつけて担任の教師がやって来る。見れば多数の生徒達が胸や頭を押さえて呻いている。

「船越さん!」
「男子のセクハラ発言に対処しただけです。先生、いつになったら止めさせて頂けるのですか?」

 眉を吊り上げる女性教師に、麗は悪びれもせず、冷ややかに対処する。何度も教師に言っているのに、クラスの男子が麗の胸をからかうのが止まらないので、麗は半ば担任に愛想を尽かしていた。確かに担任の指導力には問題があるようだ。

「それは男子のからかいも気になるでしょうけど、暴力はいけないわ」
「やーい、怒られた……あぐっ」
「そういう正論はどうでもいいですから、早いところセクハラに対処してくれませんか」

 相手も見ずに横にいた男子の一人にジャブを叩き込んで黙らせると、麗がため息をつきながら尚も頼み込む。

「ちょっと、船越さん! いい加減にしなさい! とりあえず職員室に来るように」
「はいはい。とりあえずセクハラへの対処が決まるまで、ちゃんと話あいましょう」

 きちんと説教しようとする教師を、麗は逆に問題がある相手のように扱った。大人びた麗の不遜な態度に、怒りを通り越して教師も戸惑ってしまう。頭はいいのだが、麗は暴力で相手を黙らせるなど短絡的なところがある。何度も個人的に話し合って止めさせようとしているが、一向に改善する様子は無い。保護者を呼んで説得するようにも頼んだが、会社の社長という保護者の注意に麗は煩わしそうな様子を見せるだけだった。

「せいぜい叱られて来い、ウシチチ女」

 後ろから麗に近づいてきた相手に、彼女はくるりと回転すると、そのまま振り下ろしの右による一撃を叩き込んだ。

「言ったはずよ。ウシチチ女と呼ぶなと……それに人の胸を揉もうとするなと……」

 怒りが頂点に達したのか、麗が低い声を出す。麗の胸を触ろうとするのは、女子以外では絶対の禁忌だったのだ。彼女の胸を触っていい男は、この世で只一人だけだった。
 彼女は両腕で体のガードをガッチリと固めると、右の一撃でよろけた相手に向かって移動しながらゆっくりと頭を振り出した。何が起きるかを理解した相手は、慌てて後ろずさるが、時既に遅し。麗の頭を振る軌道が、横8の字、無限のマークを描き初めていた。見ていた者達全員が恐怖に唾を飲み込んだ。

「ふ、船越さん!」

 教師が止める間も無かった。左右からのフックによる連打を容赦無く浴びた相手は、ヒキガエルが潰れたような声を出しながら床に沈んだ。麗必勝のフィニッシュブローであった。






「唯、ちょっといい?」

 校庭の外に出たところで、唯は声をかけられた。相手は麗である。

「うん。どうしたの、こんなところまで?」

 唯は急に麗が現れたことを疑問に思いながら、快く頷く。何だか昨日もこんな光景を見たようなと、唯の脳裏にちらりとザウラスが採っている人間態の姿が横切る。いつものメンバーと下校しようとするところまで一緒だ。
 よく見れば、麗はランドセルを背負ったままだ。マンションから比較的同じ方向に学校があるとは言え、ルートが違う小学校から、わざわざ中学校にまで来るというのは何かあるに違い無かった。

「おい、麻生。この子は誰だ?」

 尋ねてくる竜太に、一緒に居た他の三人を含めて唯は麗のことを紹介する。

「ああ、この子は船越麗。同居人だよ」
「こんにちは」

 一応は礼儀を守って挨拶する麗に、唯以外の三人も「こんにちは」と返事する。

「まだ同居人が居たのか」
「前に来たときから少し経って引越ししてきたからね」
「金城さんって、知り合いが多いのね」

 自分達をつり目がちな目で観察する麗を、竜太や可奈達も見返す。一見すると麗は滅多に見かけないくらい可愛い美少女だ。利発そうな少女でもあるが、その瞳の色から何処かふてぶてしさも合わせ持っているような印象を受ける。そして、竜太と慎吾の目に映るのはもちろん……、

「唯、この二人に人の胸ばっかり見るのを止めてって言って」
「こんの二人はー!」

 唯が何かを言う暇も与えず、可奈が辞書入りの鞄を思いっきり竜太と慎吾の後頭部に叩き込んだ。「うばぁ!」などと言いながら、二人は後頭部を押さえて悶絶する。

「な、何するんだよ。いつも言ってるが、バカになるだろう」
「既に充分バカだからいいのよ。小学生の胸をなにジロジロ見てるのよ、ロリコン!」
「ろ、ロリコンだとっ! それは言いすぎだろう」

 ロリコンという言葉にカチンと来たのか、竜太と可奈が猛烈な言い合いを始める。だが始まったのはいいが、麗の胸を見ていたという事実から、あっという間に竜太が防戦一方になっていく。

「麻生君、麗ちゃんとお話があるんでしょう。私達のことはいいから、行って頂戴」
「うん、ありがとう。また明日ね」

 このえの好意に甘えて、唯が麗の肩を抱いてその場を去る。見送るこのえはにっこりしながらも、慎吾の目を背後から両手で塞いでいた。

「それで、どうしたの? 話があるんでしょ?」
「そ、その……」

 校門から十メートルほど離れた時点で、唯が横に居る麗に向かって話しかける。だが自分から訪ねてきたというのに、麗は咄嗟に言葉が出てこない。口の中でモゴモゴと言葉にならない声を出して、ようやく唯に話し始める。

「あ、あの……唯は私のこと、どう思ってるの?」

 いきなり女性の告白の前触れとも取れる質問を麗にぶつけられて、唯が戸惑ったように返事する。まさか下校の途中で、このようなことを聞かれるとは夢にも思ってはいなかった。

「えっ? えーと……この前酔って僕が言ったらしいけど。自分では記憶が無いんだけど、麗は聞いた?」
「婚約者って思ってるってやつ?」
「そう。何人もの女と付き合ってる男が言っても、説得力無いかもしれないけど」

 唯が困ったように頬を掻く。十二人もの女性と付き合っていて、相手を婚約者だと言うのは不誠実以外の何者でもない。ガーディアン達は容認してくれているが、もしかしたら麗は不満なのかもしれないと、唯は見ていた。

「……私のことも、そう思うの?」
「うん……麗が許してくれるならね」
「じゃ、じゃあ……私のことを妹みたいだって思っては居ないの?」

 麗の投げかけた言葉に、唯は驚いたように目を見開く。衝撃を受けたようにしばらくは声も出なかったが、やっとその口から返事が出てくる。

「そんな風には考えたことは無かったかな。僕には妹が居ないから、妹みたいってこと自体がよくわからないし」
「じゃあ、妹みたいには思っては居ないわけね?」
「……いや、そう思ってるようなところも無いわけじゃないよ」

 うーんと考え込む唯を、麗はじっと見つめる。彼女は自分の手をぐっと握り締めており、力を込めすぎて痛いぐらいなのだが、握力を緩めようともしない。

「年齢はずっと年上だし、本当は多少は敬語を使わなくちゃいけないとも思うよ。でも、外見の影響もあるだろうけど、どうしても年下に扱っちゃうから」
「じゃあ私が我侭なところを、妹みたいに感じたりする?」
「ああ、それはあるかもしれないね。でも勘違いして欲しくないのは……僕が自惚れていいのなら、麗はやっぱり僕の恋人なんだよ」

 唯は自然な動きで、ランドセルの掛かった麗の肩を抱き寄せる。麗も普段とは違って、紳士的な動きに導かれるように胸の中へと収まる。

「由佳さんが言っていたのと一緒かな? どんな素敵な相手になるかって想像してる部分もあるから、妹みたいに見守ってるところもある。でも、本当は麗は僕が思うよりずっと大人なんだよね」
「……わかってるじゃない」
「だから、麗は変わらずに今のままでもいいとも思う。他の人とは違う幼い魅力があるしね。そういう年下の魅力にやられてるから、妹みたいだって感じてるのかな?」

 考えを必死に纏めようと頭を悩ませる唯の姿に、麗はくすりと苦笑する。
 麗の我侭さは、二千年来の性格だ。麗が成長しても治らないだろう。だから麗の成長を期待しても、無理だと彼女は思っている。それでも、将来の恋人として見守っているような唯の台詞は、好ましいものだった。そういう意味では妹として感じる部分があっても、問題は無い。

「じゃあ、結論としては私の外見で、妹みたいって感じる部分があるってことかしら?」
「最初に言ったかもしれないけど、そうだろうね。でも、やっぱり麗は僕の恋人だよ」

 髪の毛に顔を埋めて、軽いキスをしてくる唯に、麗は相好を崩す。

「このロリコン」
「否定はしないよ。それを含めて、麗が好きなんだと思うし」

 麗は唯の本音を聞いて、ようやくほっとした。唯は麗の言動や外見から彼女を妹とのような存在として見ている部分もある。だがそれ以上に麗を恋愛相手として見てくれているようだ。

「それじゃ、これからもよろしくね、お兄ちゃん」
「あはは、わかったよ、麗」

 軽い兄妹ごっこをして二人は戯れる。二人だけしか居ないので、麗も今は肩の力を抜いて唯に接することができるようだ。

「それにしても、麗がこうやって素直に悩みをぶつけてくれて嬉しいよ」
「ちょっと、そんなこと言われると照れるじゃない。そうね、昨日のことがあったかしら」

 麗は顎に人差し指を当てて、うーんと昨晩の光景を思い出す。

「普段はすまして、何でもどんと来いって言う唯が、あんな子供みたいに泣くなんてね。だから、私もたまにはこういうのもいいかなって」
「よしてよ……格好悪いって思ってるんだから」

 自分を見上げる麗に向かって、唯が照れ笑いを浮かべる。唯の素直な感情の発露に触発され、麗も自分の疑問をぶつける垣根が低くなっていた。

「そんなに京に責められたのが応えた?」
「うーん、応えたかな……京さんも芽衣さんも僕のことを心配してくれたのに、それを知っていて僕はその好意を踏みにじったからね。そういうのが一番応えたのかもしれない」

 とても中学生とは思えない、深い優しさを見せる唯に、麗の心臓がドクンと大きな音を立てる。

「唯は……その……気にし過ぎよ。もうちょっと我侭なくらいがいいのよ」
「うーん、こんなへッポコ能力者なのに、ザウラスと戦いたいっていうんだから、充分我侭だと思うけど」
「まあ、確かにその点ではそうよね」

 十二人もの恋人達が身を案じているのに、唯は自殺行為に等しい戦いをしたいと言うのだ。見方を変えれば、自己中心的と言われても無理は無い。

「ねえ、唯……私も……もう少し素直になった方がいいのかな?」
「その方が楽だと思う。年下に年下扱いされているのは癪に障るだろうけど」
「バカ……でも、唯の前なら年下でもいいわよ」

 麗の心臓が高鳴っていく。道を歩いている最中なのに、唯のことを狂おしいほどに欲しいと思ってしまう。二人っきりなので、唯のことを恋人として認めた途端、いつも反発していることの反動で身体が熱を帯びて相手を求めた。必死に抑えていた恋愛のスイッチがオンになってしまったらしい。

「唯……」
「れ、麗!?」

 潤んだ瞳で自分を見てくる麗に、唯は戸惑ってしまう。目の前にいる少女は、明らかに欲情している。
 よもやランドセル姿の小学生を、何処かに連れ込んでどうこうするわけにもいかない。唯は左右をキョロキョロと見回し、住宅地で人通りがほとんど無いことを確認する。電柱の影に麗を引っ張ると、さっと強く抱き締めて唯は彼女に口付けした。二つの唇が交差し、充分に触れ合ってから、やがて離れる。

「今はこれで我慢して、後は帰ってから」
「うん」

 キスでとりあえず満足したのか、麗の性的興奮はぐっと収まった。比較的普段は大人しい唯が、大胆にも道端で熱いキスをしてくれたからだろうか、軽い満足感に満たされてしまう。

「しかし、小学生にいきなりキスしちゃうなんて。唯ってやっぱりロリコンよね」
「あんまり苛めるなよ、麗」

 エッチな気分が収まったので、麗は唯をにやにやしながらからかう余裕が出てきた。腕に組み付いて、わざと大きな胸を押し付ける。だが唯は困ったような顔をしながらも、腕を振り解こうとはしなかった。
 唯と麗は珍しくイチャイチャしながら、下校する。そんな二人を無粋な相手が邪魔した。






「ちょっと、済まない」
「はい?」

 ガードレール越しに車に乗った人物に声をかけられ、唯は麗と共に振り向いた。学校からの帰り道も、半ばに差し掛かったころだ。
 真っ黒なスーツに黒い車。声をかけてきた男の装いは、何処と無く怪しかった。三十を僅かに超えたと思わせる男は、顔こそ人懐っこいが服装が何となく警戒心を呼び起こさせる。更に助手席に乗っている男はいかにも体を鍛えていますという如くごついのが、唯には大いに気になった。

「麻生唯君だね」
「……そうですが」

 相手が道を尋ねるということではなく、自分の名前を言ったことから、唯の相手に対する疑念が跳ね上がった。唯は麗を無意識に背後へと庇う。麗としては庇って貰う必要など無いという認識だが、恋人の配慮にあえて甘えることにした。

「実は我々はこういうものなのだが……」

 男がポケットから名刺を取り出す。紙面を見た唯は、驚きを表情に出すのを必死に押し殺した。名刺には『内閣特殊事案対策室調査員 神崎真』と印刷されている。よもや自分達が情報を手に入れる前に、相手から接触してくるとは唯は思っていなかった。

「……それで、政府の職員の方が中学生に何か御用でしょうか?」
「わからないのかい?」
「………」
「まあ、いい」

 黙り込む唯に向かって神崎が軽く笑う。唯から見て、何処か気になる笑いだった。

「我々内閣特殊事案対策室、通称特事は既に君達がガーディアンと呼ばれている者だと調べがついている」
「………」
「我々は政府の悪魔対策機関だ。そこで、古代から悪魔達と戦ってきたという、君達の協力を得たいと思っているのだ」

 神崎はそこで一旦、言葉を区切った。

「どうだろう? これは政府からの非公式だが、協力要請だ。快く協力してくれないかね?」
「……僕達に何を期待しているんですか?」
「悪魔退治のノウハウというのかな、その辺をね。聞けば君達の能力は凄いそうじゃないか」
「………」
「是非ともそこら辺を教えて欲しいんだけどな」

 何処と無く得体の知れない相手に、麗が何かを言いかけるが、耳元に聞こえた唯の声に口を閉じる。唯の能力で相手に知られることなく、麗は唯の声を聞くことができた。

「こんなところで立ち話も何だ。良ければ車に乗らないか? もっとちゃんとしたところで話し合おう」
「お断りします」

 神崎の誘いをきっぱりと唯は断る。先程まで様子見をしていたところから一転して、はっきりとした拒絶だった。唯の手がそっとポケットの中へと伸びる。

「どうしてだね?」
「学校では、普通は知らない人について行ってはいけない、と教えていますが」
「まあ、確かにそうだな。だが我々は政府の職員、言わば公的な職業だ。違うかね」
「名刺一枚ではそんなのわかりませんよ」
「なら、我々がどうして君達がガーディアンと突き止めたのか、説明はつくかね?」

 神崎の何か自信のある言葉に、唯はまたも黙り込む。

「ガーディアンなどというのは、一般には知られていないことだ。それを知っているのだから、それ自体が証明にならないかね」
「……いいえ」
「おいおい、この期に及んでまだそういうことを言うのかね?」

 頑なである唯の態度に、神崎は参ったと言わんばかりのポーズを取る。

「既に君達全員のパーソナルレコード、それに一部の能力は見させて貰っているんだよ。それなのにまだしらをきるつもりかね? とりあえず、年少者である君達とコンタクトを取ったのだが、間違いだったかな。もしダメだと言うのなら、他のガーディアンに連絡を取って欲しいな」

 神崎の言葉に唯は何処か引っ掛かりを覚える。自分に真っ先にコンタクトしてきたので、神崎は主と話をしたいのだと思っていた。だが神崎は麗を含めて自分を年少者と言い、究極的なガーディアンの決定権を持っている唯ではなく、他の者と話をさせろと言っている。会話のアドバンテージは相手がほぼ握っているように見えるが、相手の実情は自分達のことをよくわかっていないのではと窺わせる。

「お断りします。見知らぬ人のために、金城さんや朽木さんの手を煩わせたくありません」
「うーん、君が養母の金城社長の手を煩わせたくないのはわかる。だけど、こっちも政府の用事だからね。そこのところをわかってくれないかな」
「ですから政府機関の方なのかが、そもそも怪しいです。きちんと証明できる物を見せて頂けませんか?」
「まいったな、こりゃ。随分と頑固だ」

 神崎が頭をポリポリと掻くのを見て、唯が訝しむ。きちんとした証明を見せれば、唯も相手の要請を多少は断るのが難しくなる。だが相手はそれを提示しようとしないのだ。もしかしたら公の機関では無いのか、それとも単に政府機関を名乗っている相手だけなのか。手の内にある情報だけでは唯には判断がつけられなかった。だがザウラスが言った通り、胡散臭いというのは本当みたいだ。

「おい、神崎いい加減にしろよ」
「おいおい、落ち着けよ。樋口、座れよ」

 痺れを切らしたのか、助手席の男が苛ついた声を出す。樋口と呼ばれた男は助手席から出ようとしたが、神崎が何とか宥める。男は無理やりにでも唯達を連れて行こうとしたのだろうか? それなら考えが甘すぎる。唯だけでも武装した一個小隊で掴まえられるのかわからないのに、麗まで居るのだ。もしかしたら、そんな基本的な情報でさえ相手に伝わっていないのかもしれない。

「我々には君達を無理やり連行できる権限も持ち合わせているのだよ。そんなことはしたくないのだが……」
「なら正式な手続きを踏んで下さい」
「君もわからない子だね」

 静かな住宅街で唯と神崎がガードレール越しに睨みあう。聞こえてくるのは、遠くで聞こえるサイレンの音だけだ。数分間睨みあったが、埒があかないと見たのか、樋口と呼ばれた相手が黙って車の外に出た。

「大人しく来い。余計な手間をかけさせるな」

 のっそりと寄ってくる大男に、麗の眉がきっと寄せられる。大気中の水分が、麗の呼びかけに呼応し始めた。

「麗、ダメだ」
「だ、だけど……」

 相手が近づいているというのに、唯は尚のこと制止する。命令では無いとは言え、唯の発言力が重いのは確かなので、麗は力の行使を躊躇う。そうこうしているうちに樋口が近づいてくるが……。

「そこのお前、止まれ」

 いつの間にかやって来たのか、パトカーのスピーカーから声がして樋口の動きが止まった。パトカーからすぐに制服警官二人が降りてきて、唯達の元へとやって来る。先程のサイレンはこのパトカーのものだったらしい。

「お巡りさん、助かりました」
「うん。君達は下がって居なさい」
「お、おい」

 樋口の声を無視して、心底怖かったというように唯が麗の腕を引いて、警官の元へと小走りに駆けよる。もちろん演技なのだが、警察官の顔は自然と緊張する。未成年に声をかけていた怪しい黒服の男が二人居るのだから、尚のことだ。制服警官二人は、唯と麗が黒服の男から離れたので、代わりに男達の元へと歩み寄って行く。
 窮地を思ってもみない助けで脱した麗は、ぽかんと男達が質問を受けているのを見る。もちろん能力を使えば切り抜けたに違いないと麗は見ていたが、人間相手なので使わないに越したことはなかった。

「……何か、ナイスタイミングよね」
「そりゃそうだよ。通報したのは僕だもん」

 麗がビックリして唯に振り向くと、彼はポケットの中から、通話状態の携帯電話を取り出して彼女に見せた。

「で、でもどうやって?」
「音使いの僕に聞く?」
「……なるほどね」

 ポケットの中でダイアルだけ唯は操作して、後の通話は能力を使ってこっそり行っていたらしい。唯が用事の済んだ携帯の通話を切るのを見ながら、麗はかなり感心していた。麗の行動を制限したのも頷ける。
 男達は必死に何か弁明しているようだったが、警官達が彼らを見る目は相当に厳しかった。そうこうしているうちに、無線で呼ばれたのか応援の警官がどんどんと駆けつけてくる。

「うわーん、怖かったよ」
「もう大丈夫、大丈夫だからね」

 男達の態度に相当頭に来ていた麗は、ずっと黙っていた鬱憤もあって、警官達の前で盛大に嘘泣きをしてみせた。唯もそれに合わせて、演技で優しい兄のように慰めてやる。それが功を奏したのかは知らないが、男達はパトカーに詰め込まれると警察署に連行されていった。






「うーん、気持ち良かった」

 麗は爽やかな笑みを浮かべて、頭の上で手を組んで伸びをする。そのままの体勢で彼女はベッドへと倒れ込む。

「かなり頭に来てたみたいだね」
「当たり前よ。あれ、何様のつもりよ」

 自室でベッドの上に腰掛ける唯に向かって、麗がニヤリと笑みを浮かべる。慇懃無礼という相手の態度に、カチンと来ていたらしい。だが麗は自分の嘘泣きで、相手に一泡ふかせてやったと満足している。麗が随分と大泣きしたので、とりあえず事情聴取もそこそこに、二人は警官から解放されていた。
 政府機関に属しているので、警察にすぐに手が回されて、男達もすぐに解放されているかもしれない。それでも、最初の接触を有耶無耶に出来たのなら、それで充分だった。もし機関から警察への説得が上手くいってなければ、黒服の男達は今頃さぞかし絞られている頃だろう。ザウラスの情報もあったので、唯としては話し合いを持つにしても、もう少し相手のことが知りたかった。

「唯、見直しちゃった。少し惚れ直したかも」
「その台詞、他の人の前だと言わないでしょ」
「当たり前でしょ。誰がこんな年下に惚れてるって言える?」

 麗が小悪魔のような笑みを浮かべながらも、唯にひしっと抱きつく。帰宅した二人は邪魔された学校帰りに行われたデートの続きとばかりに、麗の部屋に転がり込んでいた。今日は他の者も不在だったため、麗は堂々と唯を誘えたのだ。

「惚れてるって認めてくれるんだ」
「バカ。じゃなければ、抱かれたりはしないわよ」

 唯と麗の唇がそっと触れ合う。最初は唇を合わせるだけのキス。やがて舌を出して、ちろちろと舌先や唇を舐めあう。そして、いつしか舌を絡めあい、お互いの口内を犯しあう激しいディープキスへと変わっていった。

「ん、んん……あむっ……ん、ん、ん……」

 麗は顔を紅潮させ、切なそうに唯と舌を絡める。愛しい相手の舌が自分の舌や小さな歯、そして口の表面を撫でる度に、ゾクゾクと震えてしまう。

「あん、唯……もっと抱き締めて……ああっ……」

 麗が少年を引き寄せる腕に力を込めると、唯も負けじと麗の体をギュッと抱き締める。

「ん、んん、んっ……んむ……唯……あっ、んっ」

 キスを続ければ続けるほど麗の体は震え、それを押し殺そうと唯にしがみつく。麗の小さな肢体は、その体に似合わぬほど豊満な胸もあって、唯の体を柔らかく受け止めた。お互いに抱き合えば抱き合うほど、唯は麗の柔らかさを感じる。

「はぁ……唯……私のこと、触って……」

 キスをし続けて、身体がもたなくなったのか、麗が唯を離しておねだりする。唯は麗のシャツに手をかけると、片手でめくっていく。

「麗、かわいいよ」
「バカ。そんなこと口に出して言わないでよ」

 唯の囁きを少女は嬉しそうに受け流す。言葉つきの余裕とは裏腹に、麗のショーツにじわりと染みが広がる。既に何度も抱かれて、すっかり唯の体に溺れているガーディアン達は、言霊の力が無くても唯の言葉には弱かった。
 唯は水色のストライプが入った白のブラジャーを外し、シャツも脱がせて麗の上半身を裸にする。

「あ、ああっ……あん、ふぁ……あ、あ……」

 二つの大きな膨らみを手で包むと、唯はゆっくりと動かす。数え切れないほどセックスの経験を重ねた少年の手は、絶妙な圧迫感で麗の胸を揉みまわした。

「う、あ、あん……唯の手……凄く上手い……」

 柔らかな胸の脂肪へと指が沈み込むと、麗の若く瑞々しい張りで唯の手を押し返す。ぷっくりと硬く尖った乳首を指で挟み、唯が円を描くように動かすと、麗は甘い悲鳴を上げて体を震わせる。

「あ、ああっ、乳首触られちゃうと……わ、私……あ、ああっ!」

 乳首の責めへの反応が良いので、唯は強弱をつけて麗の小さな突起を責め続ける。「好きだよ」「愛してる」などと言いながら、キスをする度に麗の体はビクビクと揺れた。麗の頭は快感に熱を帯び、夢見心地で唯に体を愛して貰う。だが心は充分に大人でも、麗の体は愛撫についていけなかった。

「ゆ、唯、私……あっ、か、身体が……」

 刺激が強すぎたのか、少女の腰がガクガクと震えだしてしまう。自分が思っていたより遥かに快感へのキャパシティが低かったのだ。

「う、ああっ……や、やだぁ……漏れちゃう……」

 唯がベッドにかけてあったタオルを手にとって、麗の股間に当てるのと同時に、彼女の体は尿道口を緩めてしまう。既に愛液でぐっしょりと濡れていた水色のストライプが入ったショーツの、デルタ地帯が黄色く染まっていく。

「見ちゃだめぇ……」

 股間から漏れ出た温かな液体はタオルに染み込んでいく。全てを出し終えて放出が止まると、麗は抱き締められた腕の中で軽く身震いする。

「……ううっ……まさか、こんなことになるなんて……」
「可愛かったよ」
「ば、バカ……変態……」

 麗は真っ赤な顔で唯の頬にキスを残すと、ビショビショになったショーツを気持ち悪そうに脱ぐ。タオルで脱いだ下着を包むと、一緒に丸めて部屋の隅に放り投げた。

「そんなに唯が良かったのなら、またしてあげようか?」
「それいいね」

 相手を堕落させるように迫る麗の台詞にも、唯は動じずに笑って受け止める。

「この変態……お風呂でね……」

 小悪魔の囁きにも動揺しない唯に、麗は軽いデコピンの一撃を与える。麗がスカートを脱いでソックスだけの姿になると、唯も服を脱ぎ捨てて少女へと圧し掛かっていく。

「あっ、唯……今日はバックがいい……」
「いいよ」

 ベッドの上に四つん這いになり、麗がヒップを唯に向ける。仲間達の助言を気にしたのか、男性本位の体位である後背位でしてみたくなったのだ。

「入れるよ」
「うん、お願い……」

 放尿で若干落ち着いた麗の身体が、また急速に熱を帯びてくる。唯の挿入を期待して、興奮したからだろうか。微かに開いた陰唇は愛液で湿っており、唯に犯して欲しいとばかりに臀部が突き出される。

「あ、ああん……ん、ふあ、やっぱりいい……」

 いつものように唯が麗の中へと侵入してくる。もう何度もしたので、馴染みの感覚だ。だがその感覚は常に最高の歓喜を麗に与えてくれる。

「ふ、ああっ、お、奥まで入ってる……この体位、いい……」

 唯の亀頭は比較的浅い場所で、コツンと麗の子宮口に突き当たって止まる。麗の子宮は未成熟な体もあって、膣に対してかなり浅い場所にあった。

「う、あ、ああっ、ふあ……唯、凄い気持ちいい……」

 唯がゆっくりと腰を動かし始めた。ペニスの先端を子宮口に密着させ、円を描くように回転させる。じわりじわりと痺れるような感覚が、麗の腰から広がっていく。

「ふわ、あ、ああっ……やぁ……そこ弱いのぉ……」

 少女の可愛い声で、麗は娼婦のような艶っぽい喘ぎ声を漏らす。子宮口への圧迫、ボルチオセックスは慣れないと痛い場合が多いが、既に麗は主に十二分に感じるように仕込まれていた。痛みも無く、単に深い快感を味わえる性交に、麗は気持ち良さそうにシーツを掴んで唯の動きに身を任せる。

「唯ぃ……激しくしていいよ……もっと激しくして……」
「んっ、わかった」

 甘い声で告げる麗のリクエストに、唯は少女の細い腰をぐっと掴んだ。腰を回転させる動きから、肉棒をストロークさせる縦の動きへと変える。

「う、ああっ、ふあ、あっ、あ、凄い、凄い!」

 軽いピストン運動だけで、麗は大きな声でよがり始めた。体の最奥を突かれる度に、浅い膣内が唯のシャフトをギュッと握り締める。

「もっと激しく、激しくしてぇ!」
「でも、麗……」
「私は大丈夫、大丈夫だから……もっとガンガンしちゃって!」

 珍しく大きな声をあげて興奮する麗に、唯の性欲もそそられた。麗の上半身を背後から抱き締め、唯は上下運動の回転数を上げていく。

「ふあ、あ、あ、ああっ、あふ、あ、ああっ!」

 体重を乗せて背後から突いているのに、麗はしっかりと唯の体を支える。唯が思った以上に、麗は強靭な体をしているのかも知れない。下へと垂れる巨乳を手綱のように握り、唯は四つん這いの少女を犯す。

「うあ、あああっ、深い、深いの……もっと突いて、唯、突いて!」
「麗、いっぱいしてあげるから。可愛い可愛い麗」
「ひああああああああっ、だめぇぇっ!」

 胎内へと衝撃を感じて最高の気分を味わっているところに、言霊に乗って麗へ愛が伝わる。それだけで麗の意識がパンッと弾けて、ホワイトアウトした。

「あ、あああああああっ、いく、いく、イクゥゥゥゥッ!」
「出すよ」
「来て、唯ぃぃぃぃ!」

ドピュ、びゅびゅびゅびゅ、びゅ

 麗があげた狂乱の叫びが呼び水になって、唯も堪らず射精する。狭い膣内のスペースに精液がビクンビクンと噴出し、行き場を無くして子宮口の中へと流れ込む。

「ふああ、唯の精液が……あ、赤ちゃんの元が……」

 とんでもない量の精子を唯の尿道口は吐き出し、麗の膣は飲み干すように子宮の中へと運び込んでいく。だが幼い子宮はあっという間に満杯になり、膣口と陰茎の間からゴボリと白濁液が溢れ出る。

「あ、唯、唯……ああん、あっ……」

 絶頂の余韻を引き伸ばしてやろうと唯がペニスのストロークを継続すると、麗は歓喜の悲鳴をあげ続ける。余裕があると見た唯は、麗の子宮を何度も突き上げた。

「う、あ、ああっ、あ、またイク、イクっ……くっ……ああ、また、また来ちゃう……やっ、ああん」

 唯の肉棒が幼い少女に何度も何度も軽いエクスタシーを与え続けた。胸を触っている唯の手から、麗が奏でる心臓の鼓動が伝ってくる。興奮しきった麗の心臓は心音を強く伝え、全力で走っているかのような速さで動き続けた。

「あ、あ、やん、あっ、また……ひ、あ、ああっふあっ!」
「また出すよ」
「ひゃん、あああああん、あっ……」

どびゅ、びゅる、びゅっ、びゅく

 十五分近く麗に絶え間なく軽いエクスタシーの波を与え続け、ようやく唯が体の動きを止めた。ピストン運動によって漏れ出した精液が、またも麗の膣内へと溜まって、暖かな感触に満たされていく。

「ふぁぁ……はぁはぁ……」

 ベッドの上へと倒れ込むと、短距離走でダッシュしたかのように麗は荒く呼吸する。部屋の中はクーラーで涼しく快適になっているはずなのに、唯と密着した肌は汗でベットリだ。唯は優しく髪を梳いてあげながら、呼吸が整うまで少女の細い首や小さな頬に何度もキスを繰り返す。身体能力は人間を遥かに上回るはずなのに、麗はそれから五分近く酸欠で空気を吸い込むことしかできなかった。

「ああ……気持ち良過ぎて死ぬかと思った……」

 ようやく落ち着いたのか、麗は唯に向かってそう言って微笑んだ。

「まったく、唯の精力には呆れちゃうわよ。もう人間じゃないって感じよね」
「ごめん。でも、どうして自分でも、こんなにできるかわからないんだよね」
「まあ別にいいけどね。……腹上死はさせないでよね」
「いや、それはちょっと無理だと思うけど……」

 じとっとした視線で釘を刺す麗に、唯は苦笑で応えた。
 唯自身は幾ら持久力や言霊の力があっても、女性を死に至らしめるほどの性的な能力は無いと過小評価している。だが麗や他のガーディアンから見れば、唯が本気でセックスしたのなら幾ら頑丈な彼女達でも、文字通り昇天してしまうだろう。

「……程ほどにしておきなさいよ。しかし、良かったわ、ガーディアンが今回は全員揃っていて」
「うん、僕もそう思うよ」
「まったく、十二人で物足りなくなったら、どうしようかしら。……ねえ、唯……もう一回したい?」

 未だに抜かれていないペニスを、意識的にキュッと締めて麗が唯を誘う。あどけない少女の顔に、蠱惑的な笑みを浮かべている。珍しく甘えてくれた麗を抱き続けるのに、唯に是非は無い。

「いいよ。何度でもオーケーかな?」
「だから死んじゃうって。とりあえず、もう激しいのは無理だから、優しくしなさいよ」
「うん、わかったよ」

 唯は繋がったまま麗の体を起こすと、彼女を上にする。少女のアンバランスに大きな胸を揉みながら、ベッドのヘッドボードに寄り掛かって唯は麗の体を軽く揺すり始めた。

「あん……これくらいの優しいのがいい……激しいセックスの後は、こういうのがいい……」

 激しい唯のセックスが凄まじい快楽なのは周知の事実だが、彼の真価はやはり優しいセックスにある。ふわふわと甘い快楽に包まれて、いつしか絶頂へと達してしまうのは一度味わったら、絶対に中毒になってしまう。

「ねぇ、唯……私、ずっとこのままの格好で居ることに決めた」
「えっ!?」

 ペニスに緩やかに膣内を掻き混ぜられている麗が、唯に向かって驚きの発言を伝えた。唯の見開いた目に向かい、麗は珍しく天使のような愛らしい笑顔を見せる。

「唯が気に入ってくれた体だから……この年齢で固定しようと思う」
「で、でも……それだと麗は大人になれないんじゃないの? それより、そんなこと出来るの!?」
「ガーディアンは加齢は止められるからね、寿命は変わらないけど。今回の生では、子供のままでもいいや」

 麗は唯の胸に寄り掛かると、彼の首を引き寄せて唇にキスする。

「上の年齢にはその良さがあると思うけど、もうお姉さんは充分でしょ? それならロリコンボディで唯を翻弄してた方が楽しいしね」
「でも……」
「まあ、気が変わったら年を重ねるから。そんなに深刻に考えないで」

 麗のあっさりとした決断に、唯は少し戸惑ってしまう。この先、大人にならないというのは社会に出たときに大丈夫なのだろうか、などと早くも考えてしまう。だが麗は至って平然としたものだ。

「あん……やっぱり唯のオチンチン、すごく気持ちいい……。唯がロリコンで良かったわ」
「そんなに重度のロリコンじゃないと思うんだけど……」
「お漏らしで興奮した癖に。これからもよろしくね、お・に・い・ちゃ・ん」

 キュンと締まった麗の膣に、唯はとりあえず少女の重大な決断について考えるのは後回しにする。今は彼女に大好きだというメッセージを伝えるために、唯は愛撫に専念することにした。






「あー、気持ちいい……」

 リビングの床にうつ伏せに寝た麗が、台詞通り気持ち良さそうな声を出す。唯が彼女の腰に片足を乗せ、グリグリと押している。
 夕飯前の一時、麗、芽衣、京の三人は唯に足踏みマッサージを受けていた。腰を大分痛めたらしく、三人ともリビングでぐったりしていたのを、唯が見かねたのだ。

「すみません、唯様……こんなことまでしてもらって頂いて」

 麗と同じようにうつ伏せに寝ている芽衣が、済まなそうに唯を見上げた。片方の足は京に乗っているので、芽衣は順番待ちとなっている。

「気にしないで。三人の腰の調子が悪いのは僕の所為なんだし」
「そうそう。だから精魂込めてマッサージしなさいよ」

 やんわりと言う唯の態度を見て調子に乗ったのか、麗が偉そうに主へと命令する。

「私達が腰を痛めたのは、自分達が調子に乗ったから。どうせまた、唯とのセックスに溺れて何も考えずにセックスしまくったんでしょ」
「なっ!? べ、別にそんなこと無いわよ」

 呆れたように麗を見る京に、彼女は真っ赤になって反論する。京の言う通り、あまりに気持ち良かったので唯のセックスを貪ったのがいけなかった。時間がたっぷりあったのと一対一だったため、麗は自分の限界を超えてエッチしてしまったのだ。恥ずかしいことにシャワーを浴びるためにベッドから降りた途端、麗は体を支えきれずに床に顔をぶつけた。仕方ないので大浴場に抱っこで連れていってもらい、彼女は唯に綺麗にしてもらうはめになった。

「こいつが私の幼い体に欲情して、何度もレイプしたのよ!」
「そのレイプ魔に、今は気持ち良さそうにマッサージして貰ってるわけ?」
「あ、いや……えーと……唯が私にイタズラしたいっていうから、満足するまでさせたわけよ!」
「満足したのはどっちなんだか……男って大体一回したら、一時間くらいは満足しているものよ」
「そ、それはこいつがロリコンだから……」

 京の突っ込みに対して、自己保身を図るために、麗は必死に唯を異常性癖に仕立てようとする。間近に本人が居るのに、酷いことを言い続ける同僚に、芽衣は深いため息をついた。

「すみません、唯様。後で注意しておきますから」
「別にいいよ。こういうのも可愛いと思うから」

 クスクス笑う唯に、芽衣もつられたように笑いを返す。確かに麗のとんちんかんな言動は見ていて楽しいし、可愛いものだ。妹が居たら、こんな感じなのかなと、唯は思わずには居られなかった。














   































画像掲示板レンタルアダルト無料ホームページ