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■ウォス×アシェ


ウォースラの報告を聞いたアーシェは、潤んだグレーの瞳が懇願の色を浮かべ、
信じられないという目で見返したまま微動だにせず。
呼吸さえも忘れてしまったのか、
唇は何の形なさず、ただうすく開いたままだった。

「殿下… 自分も信じられません。
 まさかローゼンバーグが陛下の暗殺など、
 ……あり得ません。」

だが報告をうけた事実は、ウォースラのかつての同僚
−バッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍−の裏切りを
有々と証明していた。
それ以上何の言葉も見つからず、
俺は彼女の足下あたりに視線を落したまま、
無言の時が過ぎるのを待つしかなかった。

ポツン。

乾いた石畳の足下に小さなしみが広がった。

『殿下が泣いておられる』

ウォースラはアーシェの涙を見たことがなかった。
兄の死、夫の死、父の死、数知れぬほどの別れに出合っても、
気丈に振る舞い前を見据えていた姿。
その印象があまりにも強く、
足下を濡らす雫の存在はあまりにも衝撃的だった。


「…… バッシュが …… 父を ……。」

長い沈黙を破ったのはアーシェだった。
しかし、その声は細く掠れて、
ほとんど聞き取れないほどのものでしかなかった。

ウォースラはやはり顔をあげることができず、
ただ足下のしみをみつめていた。
まだ昼間の熱気をわずかに残した石畳は、
しみをじわじわと小さくしていった。

その夜、アーシェはいつもより早めにの自室へさがった。
ウォースラは部屋の中の様子を伺い、
静かであることを確認すると、
彼女が特に取り乱してはいないと判断し、
ムスル・バザー近くのさびれた酒場へ向かった。
市街地上部に潜伏している解放軍同志との情報交換のためだ。
「暗殺事件についての続報が入っているかもしれない」
もしかすると… 現状を覆すような良い情報が入るかも…

だが入った情報は、期待を裏切る最悪のものだった。

『暗殺犯ローゼンバーグ処刑さる』

バッシュの死。
それは彼の裏切りを立証するものだ。

事実確認の作業は深夜にまでいたり、
解放軍本部のあるダウンタウン西部に戻ったのは、
すでに日付けが変わり数刻が過ぎた頃だった。

ウォースラは重い身体を椅子の上にドカリと投げ出して、
首をガクリとうなだれたまま視線だけを泳がせると、
昼間殿下が涙を落した石畳の床がボンヤリ見えた。

疲れはピークに達していたが、
とても眠れるような気分ではない。
身体にはいっこうに力が入らないのに、
胸の内がザワザワとざわめき、息が苦しかった。

何もかも忘れてしまいたい−−−

女でも買って一夜を過ごせば少しは気も晴れるか?
そんなくだらない発想に至る自分を嘲笑しつつ、

「あいにく女を買うには時間が遅すぎる」

おどけた口調を鼻で笑い飛ばし、重い腰をあげた。

暗い廊下を自室へ向かうと、
ほどなく突き当たりの部屋−アーシェの部屋−の扉の隙間から、
ひとすじ光が漏れているのに気付いた。

こんな時間までお休みになられていないのか?

自室をそのまま通り過ぎ、アーシェの部屋の前へ向かうと、
扉は部屋の中がかすかに覗く程度に開いたまま、
施錠されている様子が無かった。
「…殿下?」

ウォースラは控えめに、
しかしやや強めの口調で呼びかけたが返事は無い。
わずかに躊躇いを感じたが、思いきって扉を開けると、
部屋の片隅のテーブルに、うつぶせて眠るアーシェの姿があった。
昼間の服装のままで着替えた様子もない。
いつから眠っておられるのだろう?

ウォースラは手近にあったブランケットを手に、
眠るアーシェの肩にそれをかけようと広げた時、
ランプのほのかな灯りに照らされ、
テーブルの上に広げられた1枚の紙が目に入った。

街角で配られていた号外報知のビラだった。
中央に大きく『暗殺犯ローゼンバーグ処刑さる』の文字。
誰が殿下にこれを!?
思わずビラを手に取ると、小さなガラス瓶が転がり、
テーブルの上を無数の白い粒が散らばった。

瞬間衝撃が走る。

「…殿下ッ!!!」

跪いてその肩をつかみ強く揺さぶった。

「殿下! しっかりしてください!」

顔の脇に添えられていた手が、
反動でダラリとテーブルの下に垂れ下がり、
覗いたアーシェの頬は、あまりにも白かった。

グッタリとしたままのアーシェを抱きかかえ、
片手はみぞおちで身体を支え、
もう一方の手で口を割り指を突っ込んだ。
とにかく夢中だった。
さほど時間は経っていなかったのだろう。
ほどなくアーシェは気がつき、自らむせて薬を吐いた。

すでに東の空は白みはじめ、小窓から差し込む光が、
ベットに横になったアーシェの頬にかすかにそそぎはじめていた。
その頬にはわずかに色が戻りつつある。

「…私、死のうと思ったんじゃないの。
 ただ、眠りたかった。……何もかも忘れて。」

淡々と語るアーシェの言葉が心にしみた。

−−−わかっています。

そう言いたかったがうまく言葉にならなくて。

「ウォースラ…… 泣いているの?」

上半身をわずかに起こし、白い手がウォースラの頬に伸びる。
ひんやりとした指先が触れると、首筋に粟立ちを覚えた。
そのまま頬を手のひらが包み、顎下の固い鬚を撫でていく。
ウォースラはその手に自らの手を重ね、アーシェの動きを制した。

「お一人で悩むのは、もうお止めください。
 ……私がいつでもお側にいます。」

頬に添えられた手をそのまま引いて、
その胸にやさしく抱いた。
アーシェは一瞬ハッとしたように身を固くしたが、
合わせた胸にお互いの体温が混じる頃には、
ウォースラの首元に頭をあずけていた。

「心配かけて ごめんなさい。」

くぐもった囁きが吐息となって首筋にかかった。

欲しいと思った。
その手も、頬も、アーシェの全てが。

敬愛なのか、恋慕なのか、
それともただの肉欲なのか?
ウォースラにはもうわからなかった。

首元にすがるアーシェの髪をすき、その生え際を鼻で探る。
ほのかに甘い香りに誘われて口付けを落す。
そのまま唇を移動させ首筋に舌を這わせると、
「んっ」と鼻にかかった声があがり、
顎を反らせ白い頤を朝日に露にした。
上向いた顎をおさえるように上から口を塞ぐ。
同時に首筋から胸元へ手をすべらせ、彼女の反応をみた。

抵抗がないのを確認すると、
そのままやわらかな乳房をすくい上げるように揉み上げ、
頂きが育つ感触を味わった。
口付けはいつしかウォースラの舌がアーシェの舌を絡めとり、
クチュクチュと音をたてるほど濃厚なものになっていた。
口付けたまま、ウォースラはもう一方の手を腰に回し、
自分の膝の上にアーシェを引き寄せた。
引き寄せられた腰の下で、
ウォースラの育ちはじめた熱がビクリと動くのを感じ、
アーシェは突然怯えたように腕を突っ張り、
膝の上から逃れようとした。
しかし、薬がまだ残っているのか身体に力が入らず、
腰に回された腕をほどくことが出来ないまま、
あえなく引き戻されてしまった。

「殿下…… 申し訳ありません。 私はもう、」

−−−限界です。

言葉を飲み込み、
ウォースラはそのままアーシェをベッドに押し倒し、
その上に馬乗りにのしかかった。
再び重ねられた口付けは、
さきほどとは比べ物にならないほど荒々しく、
かじりつくようなそれだった。
アーシェの口元から一筋、
どちらもものとも取れぬ涎が溢れた。

時折見せる抵抗は、
ウォースラの鍛え抜かれた肉体を前に何の意味もなさず、
両の手首をひと束に頭上で押さえられ、
もとより乱れていた衣服は、
すでに見る影も無く取り払われていた。
熱に浮かされた舐めるような視線を前に、
アーシェはその白い四肢を隠すこともかなわず、
羞恥に染まるのを感じながら、ただ耐えるしかなかった。

潤んだグレーの瞳が懇願の色を浮かべ
ウォースラを見つめていた。
すくめた肩はかすかに震えている。

その姿は見るに耐えなくて。
ウォースラはアーシェの視線から逃れるように、
唇を耳元によせ舌で外耳を舐め上げ、
耳朶に軽く歯をたてながら囁いた。

「……お願いです殿下、
 もしお嫌なら 本気で私を拒否してください。」

そう告げると、
アーシェの腰に回していた手を下肢へと移動させ、
太腿を引き寄せて巧みに股の間に身体を滑り込ませた。
できた隙間に手を這わせて割れ目を探ると、
すでにそこは熱くほころびはじめ、軽くなぞるだけで、
潤みの中へ指先がツプリと沈んでいった。

「あぁっ!…… ウォ、スラ…… ゃ、ぃゃ … 」

「そんな拒否じゃ足りません!」

すでにこの熱を帯びた衝動を、
ウォースラは止めることができなかった。
添えた指を2本に増やし、大きく息を吸うと、
熱い潤みの中へと一気に指を突き立てた。

「!」

言葉にならない声をあげ、
アーシェの身体がビクンと跳ね上がった。

熱い肉がギチギチと指を締めつけてくる。
想像以上に中は狭く、
内部を広げるように2本の指を交互に動かすと、
淫猥な湿った音が指の間から漏れた。

幾度かの抽出と指先の微妙な動きを繰り返した頃には、
アーシェはすっかり指の動きに翻弄され、
その口からは拒否の言葉の代わりに、
切な気な声が上がるばかりになっていた。

中をかき回され 溢れた蜜が、指から手首へと伝い、
そのヌルリとした感触がウォースラをさらに高揚させる。

「あっ、……あっ、 ん、んんーーッ!」

上部を指の腹で擦られ、
アーシェは一気に高みへと追い詰められていく。
浅く、短くなる彼女の呼吸で間合いをはかり、
あと一歩というところでウォースラは指を引き抜いた。

「あッ! ぁ ……、ぅぅ… 」

未だ両の手首をを押さえられたままのアーシェは、
イカせてもらえぬままの下肢が疼くのか、
身体をよじるようにしながら腰を揺らめかせて、
ハァハァと荒い息をついている。

アーシェの瞳は変わらず潤んだままだったが、
そこには先程まではなかったある種の色が浮かんでいた
。 それは明らかに今までとは違う『懇願』を示すものだった。

ウォースラはその瞳を見た時、
今までに感じた事のない感覚−−−
胸の中に広がる痺れるような陶酔を感じた。

アーシェ頬に手を添え、優しく口付けた。
その頬はすっかり紅に染まっている。
拘束していた手首をそっと離すと、
彼女の腕がウォースラの首にしなりと絡みついてきた。

「ウォースラ、 ………ぉ ね が ぃ。」

潤んだ瞳を赤く染め、
救いを求めるように自分を名を呼ぶアーシェの声。



あぁ、その声が聞きたかったんだ。

ウォースラの中に広がっていた陶酔感は、
いつしか溢れんばかりに心満たす充足感へと変わっていた。
たとえ今だけでもいい。
求められることがこんなにも自分に満たしてくれるのなら…
それだけで−−−

細い身体を折れるほど強く抱くと、
アーシェもそれに応えるように、首に回した腕をより深くし、
その胸にウォースラの頭を抱え込むようにした。

背に回していた手を下へと滑らせ、
後ろから腰を抱えて、
すでに猛り切って解放を待つばかりの
自らのモノを熱い潤みの中心にあてがうと、
アーシェの脚が自然とウォースラの腰に回され…

促されるまま ウォースラは互いの間を埋めていった。

狭い入り口の圧迫に思わず息を飲む。
気を緩めると すぐにでも射精してしまいそうだった。
先端だけを埋めた姿勢で波が過ぎるのを待つ間も、
熱い肉の収縮がウォースラに刺激を与え続ける。

「クッ! ……… 殿下、力を、」

それだけ言葉にするのが精一杯だった。
額に浮かんだ玉のような汗が、
下になったアーシェの首筋に落ちた。

苦し気に息をつき、
堪えるように固く閉じたアーシェの目蓋に唇を寄せると、
うっすらとその目が開き、小さく了解の頷きを見せて、
できる限りの深い呼吸をはじめる。
息を吐く毎に緩むそのわずかな隙間を、
追い掛けるようにウォースラが埋め尽くしていった。

意外にも早い最奥の感覚。
躊躇いながらも、
納まり切らぬ丈幅を更にグイと押し込むと、
アーシェの背が弓のようにしなり、
ひときわ高い嬌声。

「あぁッ! 私、………… もぅ 」

切羽詰まった表情で訴え、
ふるふると首を横に振るその姿に、
ウォースラは何もかも忘れ、ただ夢中で腰を振った。

粘る水音。
繰り返されるリズムをもった肉を打つ音。
時に苦し気に、時に歓喜の色を添える
荒い息とくぐもった囁き。

朝日が細い光の筋となり、
汗の吹き出す互いの身体にそそいでいた。

陽が昇り室内の空気が暑く感じられるようになるまで、
2人は幾度も激しく求め合い、
そして、ベタつく身体を気にもせず、
ピッタリと胸をあわせ、抱き合ったまま眠った。

こんなに満たされた眠りがあっただろうか?
互いの呼吸が、打ち寄せる波のように静かに心を洗い、
どこまでも穏やかな気持ちが広がっていく。
ウォースラは束の間の至福の中、
自分は一生この時を忘れる事は無いだろうと思った。

まどろみの中、
腕の中で安堵の寝息をたてるアーシェの寝顔は、
まだあどけなささえ残す少女そのものだった。

目が覚めれば、
彼女は君主の顔になり、自分は従順な家来に戻る。
それは構わない、構わないのだけれど、
もし…、もし叶うのであれば、
少しでもアーシェに頼られるような存在になりたい…
そう願う。


……もう、
殿下のお側にいられるのは、
自分しかいないのだから……。


−end−




(2-85〜91・101〜105)














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