■ラーサー×パンネロ 「僕は……僕は、僕の結婚は、国の為でなければならないのです」 ラーサーが顔中を涙にして泣いているのを見て、パンネロは少しだけ笑った。 そんなことは、出会ったときから判っている。ラーサーは王子様なのだから、 キレイで優しくて風に当たったこともないようなお姫様と結婚して、一緒に国を治めて、 しあわせなしあわせな一生を送るに決まっているのだ。 スラム育ちで半端な空賊の女なんかのために泣くなんてどうかしている。 「あなたと……あなたと一緒に……僕はあなたと一緒に」 あの戦いから5年。ヴァンと一緒に身軽な空賊稼業に入ってから、パンネロは時折アルケイディスの ラーサーの元を訪れるようになっていた。 小さな身体に大きな責任を負わされたラーサーの、せめてもの慰めになれればと思っていた。 傍仕えのバッシュも、下賤の身とはいえラーサーが望み、気心も知れ情もあるかつての仲間がラーサーを ひそりとおとなうことを、黙認の形で歓迎していた。 5年間。 ラーサーとパンネロの間には、何も、なかった。 ただそっと手を繋いで庭園を散歩したり、時にレディにするようにラーサーがパンネロの指先に唇で触れたり、 次の約束を小指で契ったり、そんな他愛無い、ささやかなふれあいだけ。 変わったのは、つい昨日のこと。 アルケイディスの空港に降り立ったパンネロの前に待っていたのは、バッシュだった。 いまやジャッジマスター、アルケイディスの軍の要でもあるはずのバッシュ自らの出迎えに目を白黒させるパンネロに、 バッシュは深々と頭を下げた。土下座も辞さないまでの必死の面持ちだった。 ラーサーに縁談が持ち上がった、と。 それ以上バッシュがどうしても言えない台詞が、パンネロには手に取るように判った。 だからパンネロは笑って言ったのだ。 「今回限りで、身を引きます」と。 「言っちゃダメだよ、ラーサー様」 パンネロはラーサーの唇に、ひとさしゆびでそっと触れた。 ラーサーの背は出会った頃よりもずっと高く、 彼の涙を拭うためには少し背伸びをしなくてはならないだろう。 「でも……!」 「わたし、ラーサー様といられてこの5年間ずーっとしあわせだったよ。ラーサー様のことを思い出したら これからもずーっとしあわせでいられると思う」 「僕は……パンネロさん、どうして何も望まないんですか。望んでくれないんですか!」 泣きじゃくるラーサーがいとおしくて、パンネロは腕を伸ばし、ラーサーの頭を自分の胸に抱き寄せた。 ラーサーは逆らわず、パンネロの胸に顔を預けたまま泣いた。 「これ以上望むことなんかないよ。ラーサー様とタメ口でいろんな話ができて、手を繋いで歩けて、 ラーサー様がこんな風に泣いてくれて。これ以上望んだらバチが当たりそう」 パンネロは指先でやさしく黒い髪を梳いた。5年間で、こんなに近くにお互いを感じたのははじめてだった。 「あとは、ラーサー様がずっといい王様で、しあわせでいてくれたら嬉しい」 「僕はいやだ。パンネロさんと会えないなんていやだ!」 ラーサーは泣きながら、パンネロの背に腕を回した。 思いもかけない強い力にパンネロは少し戸惑い、それからラーサーをぎゅっと抱きしめた。 「……じゃあね、ラーサー様。ひとつだけ、お願いしていい?」 「……なんですか?」 「一度だけ……」 パンネロは小さく小さく、ラーサーの耳元でささやいた。 いちどだけ、わたしにあなたをください。 いちどだけ、わたしをあなたのものにしてください。 いつも通されるラーサーの私室の奥は、豪奢な寝室になっていた。 寝室に足を踏み入れ、その豪奢さに一瞬目を奪われていたパンネロは、突然掬われるように抱き上げられた。 「……こんなに軽いんですね。パンネロさん」 「ラーサー様が、大きくなったんだよ」 ラーサーがバッシュを剣の師としていて、そのバッシュが瞠目するほどの剣客となっていたことをパンネロは聞き知っている。 しかし一緒に戦っていたのはずっとずっと昔のことで、今ラーサーがこんなにも逞しくなっていたことに驚いてしまう。 ラーサーはそっと寝台の上にパンネロの身体を降ろし、唇に唇を寄せた。二人で寝台に膝立ちで座り、 触れるだけの慣れないくちづけが、パンネロは嬉しかった。 「もっと……」 パンネロは次第に強く押し付けられてくる唇を柔らかく舌で割り、深いくちづけに誘っていった。 夢中で舌を絡めてくるラーサーの髪を、背を、腕を撫でながら、ゆっくりと寝台に身を横たえる。 「ラーサー様……触って?」 パンネロは喉を少しのけぞらせ、片手で自分の服の合わせを開いた。 白い胸は極端に豊かというわけではないが、充分な質感を備えている。 「いっぱい触ってください。ラーサー様をずっとずっと覚えていられるように……」 「パンネロさん……」 身をわずかによじらせながら、パンネロは服を脱いでいった。 吸いつくようなしっとりとした肌が、ラーサーの目の前に顕わとなる。 「ラーサー様も……」 パンネロの手が、ラーサーの服を脱がせていく。ラーサーはされるがまま、パンネロの前に裸身をさらす。 細身だが均整の取れた筋肉が美しいとパンネロはうっとりとその裸身に見惚れた。 「パンネロさん……きれいだ……」 ラーサーの手が、パンネロの胸に遠慮がちに触れる。ただ触れただけなのに、 ラーサーの手だと思うだけで不思議なほどの快感がパンネロの奥底に届いた。 「きれいなのは、ラーサー様だよ」 ラーサーが女を抱くのははじめてなのだろうと、パンネロにはわかった。 はじめてではない自分がラーサーに抱かれるのは、ひょっとしたらとんでもないことなのかもしれない。 それでもラーサーのはじめての女になれるのが嬉しいのは、きっと許されざる罪なのだろう。 「違う。パンネロさんよりきれいな人を、僕は知らない」 ラーサーは強く言って、パンネロの胸に顔を埋めた。赤子が乳を求めるように、本能的な動きで頂に吸いつく。 鋭い感覚が走って、パンネロは声をあげた。 「パンネロさん……好きだ……好きだ!」 「ダメ、そんなこと言っちゃダメ……」 胸に、首筋に、腹に、ラーサーはがむしゃらな、噛み付くようなくちづけを落としていった。 こんなに激しいラーサーを見るのははじめてだ。 「そんなこと言わないで、僕を好きだと言って……!」 パンネロの目から、涙がこぼれた。ラーサーの前では泣かずにおこうと思っていたのに止まらなかった。 「ラーサー様……!」 抱きしめられて、ラーサーの脚の間のものが熱い質量をもってパンネロの脚に触れた。 パンネロは脚を絡めて、ラーサーを自分のすでに濡れそぼっていたところに導いた。 少しの抵抗とともに、ラーサー自身がパンネロの中に沈んでいく。 「ラーサー様、ラーサー様、ラーサー様……!」 熱く絡みつく内部の快楽に、ラーサーが小さくうめく。抗うように腰を動かすと、今度はパンネロが高い声を洩らした。 「パンネロさん……パンネロ、好きだ、好き……」 「もっと……もっと呼んで、ラーサー様……」 腰と腰がぶつかるたびに、淫らで生々しい水音が響く。溺れる者が手がかりを探すように、 ふたりはお互いに必死で相手にしがみついて、互いの名を呼び合い、むさぼるようにくちづけを交わす。 「パンネロ、パンネロ、僕……っ」 腰骨の後ろに湧き上がる快感を、ラーサーはパンネロに訴える。 「いいの、ラーサー様、わたしにください……いっぱい、ください」 「パンネロ……!」 「ラーサー様、すき……っ」 パンネロの内部が、強く収縮する。パンネロの両の脚が、ラーサーの腰に強く絡みつく。 ラーサーの精を一番深いところに受け止めながら、パンネロは自らも絶頂に達した。 何度も何度も睦みあって、決して逃がさないよう抱きしめていたはずなのに。 ラーサーがふと気づくと、パンネロの姿は消えていた。 ラーサーの服はきちんと畳まれて寝台の脇に置かれ、 私室との境の扉もきちんと閉められ、パンネロの気配はどこにもない。 「……パンネロ!」 跳ね起きたラーサーは手近にあったガウンを慌てて羽織り、寝台を飛び降り、私室に駆け込んだ。 「パンネロ!」 「……お目覚めになられましたか。陛下」 私室にいたのは求める女性ではなく、忠実なジャッジマスターだった。 兜を小脇に抱え、私室との続き扉の傍らに、影のように立っている。 「バッシュ、パンネロは!」 「…………」 「今まで僕と一緒にいたんだ。バッシュ!」 ラーサーは答えないバッシュに苛立ったように唇を噛み、少し俯き、それから昂然と顔を上げた。 「アルケイディス空港の封鎖を!これより余の命なしに蟻一匹外に出すな!」 「なりません陛下」 「ジャッジ・バッシュ!」 「なりません。……パンネロは、それを望まないでしょう」 「……っ」 鋼のような臣下の声がほんの僅か柔らかくなり、その穏やかさに 撃たれたようにラーサーはその場に膝をついた。 ――ラーサー様がずっといい王様で、しあわせでいてくれたら嬉しい―― ――ダメ、そんなこと言っちゃダメ―― 「う……うわああああ!」 ラーサーはその場に膝と手をつき、悲鳴のような声を上げた。 バッシュはラーサーの前に跪き、やさしい声でささやいた。 「……よい王になられませ、ラーサー陛下……」 「……パンネロが……」 言ったのか、と呟こうとしたが、語尾は声にならなかった。 ラーサーは顔を上げられないまま、ただ毛足の長い絨毯に涙を吸わせていた。 「バッシュ小父様」 呼ぶ声に振り向くと、パンネロが手を後ろに回して立っていた。 泣いた後のように、目が充血している。 「パンネロ……」 済まない、とさらに続けようとしたバッシュの言葉を、パンネロは首を横に振って遮った。 「……ラーサー様に、お情けをいただきました。今は、奥のお部屋で眠っています」 「!?」 「二度と、アルケイディスに足を踏み入れることはありません」 バッシュは迷った。 パンネロが何を言っているのか、アルケイディスのジャッジマスター として何が最善なのか、バッシュには判る。 パンネロを、斬るべきなのだ。 パンネロが今宿したかもしれない命は、アルケイディスのためにならない。 たとえ可能性であったとしても、今斬らなければ取り返しのつかないことになるかもしれない。 バッシュは迷った。 パンネロが今自分の目の前に立って、ラーサーに抱かれたと言うということは、 斬るならば斬れと言っているのだ。 ラーサーのために。 「……済まない、パンネロ……」 その後のことをラーサーが知ることは、なかった。 どこか遠い国の遠い空の下で、黒髪の少年が父を知らずに生きていると、 知っているのはバッシュだけだ。 きっと賢い、やさしい子に育っているのだろう。そして母親を守って、平和に生きていくのだ。 何も知らずに。知らなくていいままに。 (2-6〜9,15,16) |
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