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■ガブラス×ドレイス


 真冬に窓の外で小さな音がする事があった。
兄に聞くと、あれは窓の外で星が砕けている音だと言った。

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 半身をベッドの上に起こして座っている男の上に、銀色の髪の女が腰を落として行く。
「ん……」
ひと欠片も贅肉のないしなやかな背が、少し苦し気に前屈みになる。
ドレイス、と、小さく呼ぶと、その声さえも刺激になるのか、彼女はかすかにふるえた。
 ジャッジマスターとして王宮を闊歩している時の彼女が頼りな気に 見える事などない。
堂々として王道を歩む黄金のような女だ。
 けれど今、ガブラスの腕の中の彼女は何処か子供のように、頼りなく見える。
 腰を掴んで深く引き落とし、一気に自分を差し入れる。突然深く貫かれ、
かみ殺す間もなく声を上げてしまったドレイスは、自分の腰を持ったまま
ゆっくりと揺らし始めるガブラスの顔を見る。
 そして一瞬、子供のような顔をする。

 初めて星を見た子供がする、探るような顔を。


 真昼、ガラス窓で三面を覆われた宮殿の廊下はひかりの洪水で溢れる。
その中を、鎧をまとったガブラスとドレイスだけが黙って歩いている。
会議の帰りで、内容はつまらない事だ。
「ドレイス」
「なんだ」
「お前は何故、最中に俺の目を変わった表情で見るのだ?」
 一瞬ドレイスの足が止まり、また歩き出す。
「ドレイス」
「公務中だ」
「誰も居ないぞ」
 しばらくドレイスはそうやって歩き続ける。
が、そのうち、一つの窓の所で 立ち止まると、そこから外を見つめた。
 ガブラスも倣う。外にはガラスで出来た巨大なプールがあり、
水とガラスとが双方にひかりを乱反射させ、世界にはひかり以外の
何も存在しないかのようだった。
「卿の目を見るのが好きなんだ」
 ドレイスが小さく言う。
「目?」
「そうだ」
「いつも変わらぬが」
 ドレイスは小さく笑う。どんな顔でどんな風に笑っているのか、 ガブラスには容易に想像がつく。
「卿はいつも、憎んでいる。この世界を、何処かにいる誰かを。
 けれど私といる時、卿の目が憎しみ以外のもので埋まる時があるんだ。
 ガラス容器に水を入れたときみたいに。私は、それを見るのが好きだ」


 明日生きているかも分からない自分達は何の約束もしなかった。
 きっとどちらかがどちらかを置いて死ぬのだろう。
ドレイスはいつだったかそう言い、 ガブラスの胸を突くやり方静かに笑うと、彼の裸の胸に額を寄せて囁いた。
「卿は優しいから、きっと泣くな」
 窓の外で星が砕ける音がした。
 ガブラスは誰かが自分達をあざ笑っている気がして、ドレイスを守るように抱きしめて目を閉じた。

 中で達した後、二人はベッドに倒れ込み、荒い息を繰り返した。
傍らを見ると、ドレイスは銀の柔らかな髪をシーツに散らせ、後ろ向きになって 肩を上下させている。
鍛え方が足りないな。思った後、こんな時にも 軍人気質かと口の端で笑い、後ろからドレイスの髪に口づけた。

ぱきん、と、銀が折れるような音がする。

「……星が壊れる音だ」
 呟くガブラスを、振返るドレイスが訝し気に見る。
「星?」
「昔兄がそう言った」
 瞳を固定させてじっとこちらを見て来る。その顔がくすぐったくて、
ガブラスはわざと大げさに眉をしかめると「なんだ」と言った。
「卿が自分から兄の話をするのは初めてだ」
「そうだったか」
「そうだ」
 からかうなと言いたかったが、余りにドレイスが幸せそうなので言えなかった。
胸の奥から何かが上って来て、上手く言葉にならなかった。

 いつか色んな事を話そうと思った。故郷の事、兄の事、星の壊れる音の事。
 この戦争が終わったら、いつか。

 いつか




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