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■ガブラス×ドレイス


ドレイスが帝都に帰還した頃には、日は大分落ちていた。夕映えに、帝都の街並みは赤く美しく染まっている。
短期間の任務を終え、一先ず肩の荷が降りたはずなのに、ドレイスの表情はどこか憂鬱だった。

ドレイスが己の主君と定めた少年は、現在帝都を離れている。
護衛を連れているとは聞いたが、それでも不安は拭い去れない。
少年の兄は老いた皇帝に代わり、帝都を取り仕切っている。
証拠は無いが、男はかつて自分の身内を謀殺したと言われている。
ただの憶測と割り切るには、ドレイスは男の手口を知りすぎていた。
その上、皇帝の親衛隊たるジャッジの多くは、男の側についている。
少年は男を信じ、尊敬している。男にとって少年を葬る事は実にたやすい事だろう。
ドレイスはその魔手が少年に及ばない事を祈っていた。
ドレイス自身もジャッジマスターであるが、権謀術数で手を汚す男には否定的だった。
同僚の誰もが男の手腕に賛辞を送る中で、ドレイスが信頼できるのはガブラスだけだった。

その日、ガブラスがドレイスを訪ねてきたのは深夜だった。
ドレイスは休む間も無く、執務室で書類作業をしていた。
ドレイスは休憩がてらに、ガブラスと茶を飲み交わす。
以前からの二人の話題は、目下ラーサーの事だった。
今夜もそうだろう、とドレイスは思っていた。
しかし、この夜のガブラスの目的は違った。

「少しは自重しろ、ドレイス。ヴェイン様への否定的な言動は、かえってラーサー様の立場を危うくしかねない。
ラーサー様が目障りとなれば、ジャッジ・ベルガあたりが率先して『実行』するだろうよ」
ガブラスはそう言って溜息を吐いた。
「・・・言いたい事はそれだけか?」
ドレイスは非難がましそうな目でガブラスを見る。
「言われなくても分かっている。用件は済んだだろう?お引取り願おう」
ガブラスは椅子かた立ち上がったが、部屋を出ようとしなかった。
「ドレイス!俺は真面目に言ってんだ。お前は自分で思っている以上に直情径行だ」
「・・・自分でも分かっているさ、だが性分でな」
ドレイスは言い終えると、再び書類処理を始めた。ガブラスを見ようとしない。
ガブラスは部屋から出て行くどころか、力強い歩みでドレイスの机へ近付く。
ドレイスは思わず抗議しようと、机から顔を上げた。
その瞬間、ガブラスの両手は、女の端正な顔を捉えた。
そのままガブラスは、開きかけたドレイスの唇を塞いだ。
二人は時間が凍りついたかのように、暫く微動だにしなかった。

ドレイスは我に返ると、ガブラスの唇に噛み付いた。
舌を差し込もうとしていた男は、事前に察知し、難を逃れた。
ドレイスはガブラスの手をはねのけた。女の目は怒りに満ちている。
「・・・悪ふざけにしては性質が悪い。今すぐここから出て行け!今夜の事は忘れてやる。だが、お前はもう同志ではない!」
「悪ふざけなんかじゃない」
ガブラスは女の拒絶に動じる気配も無い。むしろ、予想していた様子だった。
「俺は本気だ。お前の事も、ラーサー様の事もな!」
ガブラスは短く叫ぶと、ドレイスを椅子から引きずり降ろした。
今は公務の時間では無いゆえ、互いに鎧は身に着けていなかった。
そのまま床に押し倒し衣服を剥ぎ取る。
ドレイスは怯えるどころか、激しく抵抗する。
彼女を駆り立てているのは激しい怒りだった。
同志と信じていた男は所詮は獣に過ぎなかった。ドレイスは失望した。

ガブラスは無表情のまま、ドレイスを組み敷いた。
ドレイスの体は僅かな布を纏うだけだった。ガブラス自身も衣服をはだけている。
行為そのものに支障はない。ガブラスはドレイスの引き締まった肢体に口付けた。
長い愛撫と口付けの果てに、固く閉ざされていたドレイスの両足は力尽きた。
だが、ドレイスの両眼は相変わらず男を睨みつけている。
ガブラスはどこか悲しげな瞳で女を見つめ返す。
そして視線を逸らすと女の足を開いた。

だが、その瞬間は来なかった。
「・・・どうした?続けないのか?」
ドレイスは組み敷かれたまま男に問う。
「・・・すまない」
ガブラスは力を緩めた。その途端、ドレイスの両足が男の股間を蹴り上げた。
ガブラスは思わずその場にうずくまる。
ドレイスは即座にガブラスから距離を置くと、椅子を両手にもって男を牽制する。
「今更あやまるのか?」
ガブラスはよろめきながらも、衣服を整えた。ドレイスは牽制したまま、警戒を怠らない。
ガブラスはすっかり衣服を改めると、全裸に近い女を悲しげに見やる。
「・・・今夜は俺も直情過ぎた。お前はもう、俺を信じろと言っても信じられないだろう。
だが俺はラーサー様を守るつもりだ。これだけは信じてほしい」
ガブラスが出て行った後には、茫然としたドレイスが残された。
先程まで張り詰めていた緊張は無い。
ドレイスはくしゃみをすると、自分が裸のままだった事を思い出す。慌てて床に散らばった衣服を身に纏う。
服の布地は一部が裂けているが、第三者に気付かれずに処分できる程度だった。
ドレイスはガブラスを同志と思っていた。友愛程度の情はあっても、決してそれ以上ではなかった。
ガブラスはそうではなかった、というのだろうか。ドレイスは混乱していた。
怒りは勿論あるが、ガブラスの真意を知りたい。
ドレイスは衣服を着ると窓の外をみた。そこには月が浮かんでいるだけだった。




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