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■バッシュ×アーシェ


――深夜の飛空挺シュトラール。


バッシュは激しく動揺していた。

自室で呆然と立ち尽くす自分の身体に、主であるアーシェが抱きついている。
アーシェは恍惚の表情を浮かべ、バッシュの身体に腕を絡ませその顔を彼の厚い胸に埋めている。

何故だ…? いつから…このような状況になったのだろうか…?
 記憶をたぐるが経緯が全く思い出せない。
バッシュは恐る恐る口を開く。

「…あの、殿下…いかがされました…?」
「…聞いてくれる?バッシュ」

アーシェはバッシュの身を屈めさせ、彼の耳元にそっと囁いた。

「性欲、持て余してるの」
「……ぶはッ!」

あまりにも突拍子もない告白にバッシュは咽せ込んだ。
せいよく、セイヨク、せいよく、セイヨク……?
単語がバッシュの頭の中をグルグル駆けまわる。
これはやっぱり、あの「性欲」の事かッ!? 
必死に他の意味を探したが、この状況を考えるとその言葉以外思い当たらなかった。
動揺するバッシュをよそにアーシェの言葉は続く。

「………抱いて」

……眩暈がした。 何を言っているんだろう殿下は……。
抱く?私が?殿下を?何故だ? 意味がわからない。

バッシュは時間をかけて呼吸を整え、自身を取り戻そうと努めた。
アーシェはその間、静かにバッシュの答えを待った。そしてバッシュはやっとの思いで言葉を絞り出す。

「殿下、立場をお考え下さい。一国の王女ともあろうお方がこのような…」
「――ラスラがいなくなってから、もう2年なのよ。……わかるでしょう?」
「………?」
「その間ずっと……し・て・な・い・の…」
「…ぶはッ!」

再び咽せた。

目の前のアーシェを置いてきぼりにして、バッシュの思考は再び猛スピードで駆けまわる。

落ち着け…落ち着くんだ!この状況を、殿下の仰っている事をよーく理解するのだ!

寝夜は相手が必要だ。それは朴念仁のこの私にだって分かるぞ!
殿下の夫ラスラ様は2年も前に亡くなった。自分もその死に立ち会ったではないかッ!
よって!今の殿下にはッ!夜を共にする相手はいないのだっっ!! ぜえっぜぇっ……合ってるよな?

で、その相手がどうして私になる?そこがわからない。
…にしてもだ。どうしても我慢ができなくなったら、男ならば独りでゴニョゴニョ…という手もある。
そういう場合は女性も同じではないのか…?もしかしたら殿下だって、夜な夜なそういったコトを……

――バッシュの妄想は止まらない。

「うわああああっっ!!」
「なによっ!」
「もーーしわけございませんっっ!!」

主のあられもない姿を想像しかけて、罪の意識に耐えられず知らぬ間に叫んでいた。

「い、いえ…独り言です…」
「……バッシュ、お願い。あなたの好きにしていいから…」
「…………………」

バッシュは困惑した。 もちろん、長年の主従関係が壊されることに対する不安がまずある。
今までダルマスカ王国、及び王家の人間には己の全てをかけて仕えてきた。
それでもアーシェには裏切り者呼ばわりされ、平手打ちを食らわされ…と、色々酷い仕打ちも受けた。
しかしそれも済んだ事。
日々、誠心誠意彼女に接した結果、今ではおおむね信頼を取り戻せている………と思う。

それを、このような一時のあやまち――禁を犯すことによって、その努力を全て無に帰してしまってもいいのか?
国に対しても、裏切りに値する行為だろう。こんな事許される筈がない。

……が、しかし。
この状況は、この上なく美味しいシチュエーションだという事も十分に理解している。

自分と大きく年の離れたうら若く美しい女性……それも、ツンデレさんが、だ。
……アナタの好きにして(はぁと)…などと言ってきているのだぞ!
こんなどこぞの三文小説のような都合のいい展開が、この身に起きているんだぞ!?
ここは素直に受け入れていいような気がしないことも…ない…。が…ううむ…どうするべきか…?

バッシュは自問自答を繰り返す。
その時、彼は天からある「声」が聞こえた――――ような気がした。



     『バッシュ・フォン・ローゼンバーグよ――何をためらう? 今こそ己の半生を思い起こせ。
     こんな男冥利に尽きる事が今まであったか…? ククッ…無いであろう?
       それに、女性から誘ってきているのだ。ここで拒んでは、相手に失礼ではないのか?


                                                     ―――by エロスの堕天使・ザルエラ』


そうだ!これは、主の「命令」ではないか。それならば、家臣である私にはそもそも拒む権利など無いはずだ!
天の声が聞こえたのかどうかは知らないが、バッシュは自分に都合のいい理屈で理性を強引に振り切った。

「…殿下。本当に…よろしいのですね…?」
「…ええ、好きにして…」

日頃、気丈に振舞う彼女からは想像もつかないような舌足らずな甘い声に、そして上目使いに自分を見上げてくる潤んだ瞳に、
バッシュはいてもたってもいられなくなり、夢中でアーシェの服を剥ぎ取り彼女をベッドに押し倒した。


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「はぁんっご主人さまぁ…早くきてぇ…」
「ハァハァ…アーシェ。イヤラシイ女だ…ココをこんなにも濡らして……」
「あぁんっ!ご主人さまぁっ…ゆびじゃなくてぇ…」
「ん?…どうして欲しいんだ…?」


「好きにしていい」と言ったアーシェ。
だからバッシュは、その言葉に甘えて『ご主人サマとメイドプレイ★』に興じてみた。
一夜限りのご主人バッシュは、ねこみみフードを被ったメイドアーシェを言葉で指で、執拗に責め立てる。
久方ぶりに味わう男性の感触にアーシェはまたたく間に溺れてしまい、欲求を満たすため懇願の言葉を叫ぶ。

「ご主人さまぁっ…早くイかせてくださぁいっっ…!」

その生まれから、人にひれ伏す己など許せないアーシェだが、このような状態になってはどうしようもない。
そう、圧倒的な欲求の前に人は皆平等なのだ。王族だろうと、平民だろうと。

バッシュは思った。
ご主人様――なんてイイ響きだろう!
彼は生まれて初めて、他人が己に服従する感覚を味わいその優越感に浸りきった。
自分は根っからの奉仕人だと思い込んでいたが、このような隠れた資質があったとは……
日頃の忠犬ぶりはどこへやら、バッシュは隠れた才能(?)を存分に発揮し、ノリノリでサディスティックなご主人様を演じきる。

「ハア、ハア…アーシェ、俺の何が欲しいんだ? ほら、言ってみなさい」
「やんっ…ご主人様のい・じ・わ・る…」
「アーシェッ!お前が欲しいのはコレだろうっ!!」
「ああんッ、ご主人さまぁッ…!おまえはやめてぇっ!ああああっ…!!」




翌朝。カーテンの隙間から射し込む朝日にバッシュは目を覚ました。
昨夜のことをぼんやりと思い返す。少々ハメを外し過ぎたかもしれない。
殿下は怒っていないだろうか?
見ると、横で寝ているはずのアーシェがいない。先に目覚めて自室に戻ったのだろうか。

その時、バッシュは初めて身体の異変を感じた。
なんだ、この下半身の異物感は? 衣服の上からは何も異常は見当たらない。
が、下着がぐっしょりと濡れていた。
事態を把握できないまま暫し固まるバッシュ。……これは……


「…………夢精?」


バッシュはようやく事態を理解した。
そう、全ては自分の願望が引き起こした夢の中の出来事だったのだ
。 夜這いを仕掛けてくるアーシェも。主となった自分の姿も。

「夢、か……」

がっくりと肩を落としうなだれるバッシュ。しかもこの年になって、このような……
結局、性欲を持て余していたのは自分の方だったのだ。

しかし同時に、今まで通りアーシェと平穏な主従関係を続けられることが嬉しくもあった。
そうだ、夢でよかったのだ。やはり自分は生まれもっての忠犬だと、実感した瞬間だった。


洗面所で、汚してしまった下着を丹念に洗いながら、バッシュは昨夜の出来事を教訓として反芻した。


――うまい話にはウラがある。
――身の丈にそぐわない事はやるべきではない。

それと。……性欲を持て余す前に早めにゴニョゴニョしておこう。……他人に迷惑をかける前に。




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