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■ヴァンネロ


帝都アルケイディア旧市街

みんなで力を合わせて、やっとここまで辿り着いた。
帝都っていうくらいだから、どんなに立派な街なんだろうと思っていたのに、
なんだかラバナスタのダウンタウンとあまり変わらない気がする。

「帝都っていうわりには、貧乏臭いんだな」

どうやら、ヴァンも同じ事を考えていたみたい。

「これも帝国の現実さ。ここら旧市街は市民権が無くて都市部に住めない外民の溜まり場で、
上から落ちてきた奴と、どうにか這い上がりたい奴の街さ」

面白くなさそうに、バルフレアさんが説明してくれた。
この人はなんでも知っているよね。やっぱり空賊だからかしら?

「上ってのは、もっと綺麗なのか?」
「ああ、別の意味で汚いがな。……行くぞ、ドラクロアは上の区画だ」

バルフレアさんを先頭に私たちは旧市街の通りを足早に移動する。
皆、足が早いよ。私はチビだから、歩幅が違いすぎて着いて行くのが大変なの。
でも、迷惑は掛けたくないから小走りで着いて行くしかないんだわ。

「パンネロ、ほら」

前を歩いていたヴァンが振り向いて手を差し伸べてくれた。
ヴァン、やっぱり大好き。
ヴァンだけが、いつも私がついてきているか、ちゃんと気にして見てくれている。

遅いぞ、とか早くしろ、なんて絶対言わずに、ただ優しく手を引いてくれるの。
だから、私も素直に差し伸べられたヴァンの手を掴む事が出来る。


少しトラブルはあったものの、何とか帝都に侵入成功!
ラーサー様はあれからどうしているのかな?元気でいてくれているといいんだけど。

「ラーサーは元気だよ、あいつ歳の割りにたくましいし」

やだ、ラーサー様の事を考えているの何でヴァンにわかっちゃったんだろう。
このところ、ヴァンは凄く変わったと思う。前はもっと拘ってたっていうか、イラついてたっていうか。
自分のことで精一杯なところがあったよね……時々だけど。

色々見たからかな、ってヴァンが笑った。
うん、そうかもしれないね。私もこんなに色々な場所に行って、色々な物を見られるとは思ってなかった。
王女様とか、ラーサー様とか、ああいう人たちに知り合える機会なんて一生ないって思ってた。
多分、一生ラバナスタで暮らすんだって漠然と思ってたのに、何がどうなっているのか帝都にまで来ちゃったなんて、本当に驚き。

「急ごう、パンネロ。早く宿屋に入らないと夕飯の時間過ぎちゃうぞ!」
「もう、食いしん坊」

こういうところはあまり変わらない。
変わっていくヴァンと、変わらないヴァン。
どっちも私を嬉しくさせるけど、時々悲しくもさせるよ……。


今日はもう遅いから、とりあえず宿屋に泊まる事になった。
こういう時に大活躍するのがバッシュさん。
みんなの部屋割りとか、アーシェさんのお世話とか細々とした事を率先してやってるの。

「ヴァン、君はわたしと同室だ。いいね」
「はいはーい、いつもの事だしね」
「パンネロは私と一緒よ、行きましょう」
「はーい、アーシェ様」
「今日は疲れたな、酒はほどほどにして俺たちも休むとするか、フラン」
「ええ」

バルフレアさんとフランさんだけは、いっつも同じ部屋なのよね。な〜んか、ずるい。
私だってたまにはヴァンと一緒の部屋で……って、やだもう何考えているのかしら。
そんな事になったらヴァンに何されちゃうかわからないじゃない!

うんと子供の頃は一緒のベッドで寝た事もあったんだけど……さすがに今は、ね。

余計なことは考えないで早く寝なくちゃ!
さっさとスーツを脱いで楽な格好になると、頭からシーツに潜り込んだ。
ちょっとシーツがゴワゴワしてる〜、安い宿屋だから仕方ないか。
私はこういう粗末なベッドは慣れてるけど、アーシェ様は辛くないのかしら?

私より先に隣のベッドで横になっているアーシェ様の方をチラリと見たけど、声をかける事は出来なかった。

あの剣を手にして以来、王女様の表情が険しくて少し近寄りがたい雰囲気。
きっと、私には想像もつかないような重圧とかが王女様の肩にのしかかっているんだと思う。

これから一体どうなるんだろう。
旅はどんどん危険になってきていて、みんな少しずつ余裕を無くしてきている気がするの。
もうこれ以上、誰にも傷ついて欲しくないのに、そうなる方向にしか動いていない気がする……。


少しまどろみ始めたとき、変な音が聞こえてきて目が覚めちゃった。
壁の向こうから低い声が聞こえてくる。

『……ああ……ん』

……え?これってひょっとして〜。
え〜と、この壁の向こうは確かバルフレアさんとフランさんの部屋で〜……。
きゃ〜!フランさんの声に混じって何か軋む音まで聞こえてくる〜!
これって、これって絶対……だよねー!

どうしていいか分からずに暗がりの中で硬直しているとアーシェさんが起き上がる気配がした。
手早く衣服を身に着けて、あれ?外に出てっちゃう。こんな夜中になんで?

「アーシェ様!」

声をかけたけど、振り向きもせずにアーシェ様は部屋を出て行っちゃった。
階段を降りて、宿屋から出るつもりだ。
どうしよう、いくら顔を知られていないって言っても、ここは帝都だよ。
万が一アーシェ様が悪い人に見つかっちゃったら……何より一人で夜中に街へ出るなんて危ないよ!

私は急いでヴァンとバッシュさんの部屋へいきドアをノックした。
顔を出したバッシュさんに事情を説明すると、バッシュさんは慌てて身支度をしはじめた。

「殿下は私が探しに行く。ヴァン、戻るまでパンネロと一緒に居てあげてくれ。帝都では何が起こるかわからんからな」
「おいよ!」


「アーシェ様、一体どうしたのかしら」

心配だけど、ヴァンと二人廊下で立っていても仕方がないので、とりあえず私とアーシェさんの部屋に戻った。
宿屋の部屋は狭くてベッドにしか腰掛けるスペースはないから、ヴァンと二人で私のベッドに腰掛けて二人の帰りを待った。
「バッシュ将軍がついてるから、きっと大丈夫だよ。でも、なんで急に出てったんだろうな」
「うーん……」

その時、静かになったと思った隣の部屋から、またフランさんの声が聞こえてきた。 ウソー!ひょっとして二回目〜?

ヴァンも気付いたみたい。少し目を大きくした後、頬を少し赤くして私から視線をそらした。
私の顔もきっとすごく赤くなってる。どこを見ていいのかわからないので顔を伏せてじっと床の木目を眺めた。
静まり返った部屋に、壁の向こうから聞こえてくるやらしい声がどんどん大きくなって響いているような気がする。
きっと、静かだから錯覚してるんだわ。な、何か話してればきっと気にならないわよ。

「ねえ!ヴァン……!」

思い切って、顔を上げてヴァンの方を見て声が詰まった。
ヴァンがこっちを見てる。ずっと、見てたのかしら?

一気に顔が熱くなった、きっと真っ赤だわ。
心臓がドキドキして声が出ない、口を開けたら叫んでしまいそう。

そっと、ヴァンの顔が近づいてくる。
気付いたらヴァンの腕が私の背に回されて抱くように肩を掴んでいる。
ヴァンの息が唇にかかる頃、私はもう何も考えずにきつく目を瞑った。


ヴァンの唇が、私の唇に触れた。
ヴァンの右手が私の頬を包むようにあてがわれて優しいキスを繰り返す。
左手は背後から腰を抱くように回されて、私とヴァンの体をピッタリとくっつけた。

どうしよう、いつアーシェ様とバッシュさんが帰ってくるかもわからないのに。
でも、やめてって言えない。
フランさんの声に惑わされたわけじゃなくて、よくわからないけど……
多分、ヴァンの腕がとっても気持ち良いから……。

頬にあてがわれた右手がいつのまにかシャツの中に潜り込んでバストに伸びてきても、だから抵抗できなかった。

頭の中では、ずっとどうしよう、どうしようってそればっかりで、
以前、進んでる友達に聞いた感じちゃうとかそんなの全然わからなくて……ただただ、なんだかくすぐったいばっかり。

「ひゃっ!」

でも、そっとベッドに押し倒されて下着の中に手が入ってきた時はさすがに変な声を出しちゃった。
私が変な声を出したもんだから、ヴァンがびっくりして手を止めて私の顔を見た。

「パ、パンネロ。ごめん!俺……」

まるで我に返ったみたいに、急にヴァンは謝りだした。
やだ、ヴァンってば顔が真っ赤だわ。汗まで掻いて……あはは、かっこ悪い。

「ヴァン、私ね……ヴァンのこと大好き」

仰向けになったまま私はヴァンに告げた。
驚いたような目で上からヴァンが私を覗き込んでいる。

「私ね、今……凄く不安なの。これからどうなっちゃうのかなって」

旅はどんどん危険になって、皆どんどん余裕がなくなって
それでも変わらず私の手をヴァンは引いてくれるのかな?

「お願い、ヴァン。何があっても、私の手を離さないでいて」
「パンネロ……」

そしてお願い……絶対に死んだりしないで。

「大丈夫だよ、パンネロ。俺は絶対にパンネロの手を離さない。だからお前もしっかり俺の手に捕まってろよ」
「……ヴァン!」

たまらなくって、下からヴァンに抱きついて自分からキスをした。
優しく舌が絡まって、少しずつ頭がぼうっとなってくる。
ヴァンの指と舌に体中を刺激されて自分が自分じゃないみたい。

「あ……あ……ああん」

はしたない声、恥ずかしい。でも、すごく気持ちいいよ……ヴァン。
どれが指で、どれが舌なのか。一体どこをどうされているのか分からないくらい頭がぐちゃぐちゃになってる。
気付いたら、すごく熱い塊が股間にあてがわれて入ってこようとしてた。

「パンネロ……痛いかもしれないけど、ごめん」

硬い感覚が痛みを伴って体の中に入ってくると、夢中でヴァンにしがみついた。
痛い!痛いけど……やめて欲しくないから必死でしがみついてガマンした。

私はヴァンの顔を見た。
ヴァンの息の荒さが、紅潮した頬を流れる汗が、私を見つめる潤んだ瞳が痛みを少しずつ和らげた。
でも、ヴァンの体が大きく動き始めると、もういっぱいいっぱいの私は
ただひたすら固く目を閉じて、ずっとヴァンにしがみついていた。



結局、私とヴァンは朝まで抱き合って眠った。
目が覚めた後、慌てて身支度をして部屋を出ると、宿屋の一階のラウンジでバッシュさんが赤い目をこすりながらお茶を飲んでいた。

どうやらアーシェ様を連れ戻したはいいものの、わたしとヴァンの様子に気付き部屋に入れず、
仕方がないのでバッシュさんの部屋にアーシェ様を一人で寝かせ、自分は一晩中ラウンジでお茶を飲んで過ごしたみたい。

へらへらと笑いながらヴァンがバッシュさんに「おはよー」と挨拶すると、
バッシュさんは無言でヴァンの頭にゴツンと拳固をお見舞いしてた。

私はもう、恥ずかしいやら可笑しいやら。とりあえず笑って誤魔化すしかないかなと。

「パンネロ!」

笑いながら、バッシュさんから逃げるヴァンの手が私に伸ばされる。
ためらわずに、私はその手を掴み二人で駆け出した。

宿屋を出ると、空が青い。
どこまでも行こうね、ヴァン。こうしてどこまでも、手を離さずに。


ずっと、ずっといつまでも。



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