■フランの色 雨が世界を煙らせている。 雨粒が窓を叩く音が、まるで不器用な音楽のように耳に届く。 バルフレアがピュエルバにある隠れ家に篭って三日経つ。 要塞バハムートからの決死の脱出後、時を経てシュトラールを取り戻し以前と変わらぬ空賊の日々。 ナルビナで看守をしていたシークが囚人から巻き上げたお宝を貯めこんでいる、 という情報をジュールから仕入れたのが五日前。 楽な仕事だと楽観したのがミスだった。予想以上に苦戦して足を負傷した挙句、 フランに抱えられて隠れ家にたどり着いたのが三日前。 「俺様とした事が、まったくざまあない」 今日、何度目かの独り言。 相棒のフランは朝から物資の調達に出かけたきり戻らない。 負傷した足をベッドの上に投げ出したままゆっくりと上半身を起こした。 右足は脛から膝にかけて白い布で巻かれている。 ほぼ寝たきりなので丈の長い綿のシャツを一枚だけ身につけた格好で 傍らの壁に立てかけて置いた愛用の銃を取り足の上に置くと、工具を手にしてカチャカチャと弄くり始めた。 この三日間、こればかりやっていたので銃には直すところなど一つもない。 それでも、手先を動かしてでもいなければ退屈で死にそうなのだから仕方ない。 ふいに雨音が大きくなり、室内に風が舞い込んだ。 目を上げると、フランが扉を入ったところで体についた水滴を手で払っていた。 「お帰り。悪いな、雨の中を使い走りさせて」 「いいのよ」 外は激しい雨だ。フランの髪はしっとりと濡れて、幾筋かが頬に纏わりついている。 大胆なカットの皮のスーツは防水加工を施してあるため水を弾くが、 同様に素肌も水の球を浮かべるのは彼女の肌が未だに若々しい証拠だ。 フランが水滴をまとって立ち尽くせば雨の匂いと共にムンとする色香まで匂い立つ。 その姿に懸想しない男などいるまいが、おいそれとは触れられまい。 美しいが、危険だと本能が警告するのだ。並の男では、見据えられただけで怖気づくだろう。 彼女の美しさは、そういう美しさだ。 バルフレアは手元の銃に視線を戻した。怪我人には目の毒だ。 しかし、そんな様子をからかうように銃を置いた足にフランの手が触れた。 「包帯を替えるわ」 「自分で出来るさ」 「あなた、巻くの下手よ」 まったく、フランには適わないと思いながら何も言わずに足を任せる。 包帯が解かれるとシークの棍棒でしたたかに打ち据えられた赤黒い傷口が現れた。 まともに食らったので肉がいくらか抉り取られている。下手な魔法より、シークの棍棒は痛い。 「最近、たるんでるわ」 「全くだ。シークなんかにやられるようじゃ空賊失格だ」 「廃業して機工士にでもなったら?」 「皮肉か?」 「本気よ」 細い指先が手早く消毒を済ませると、白い布が傷を覆い隠していく。 無表情に包帯を巻きつける秀麗な横顔をバルフレアは複雑な面持ちで見つめた。 「あなたは、自由なはずよ。空賊に拘るのは解き放たれていない証拠だわ」 「フラン、俺は……」 言いかけたバルフレアの口を唐突にフランの唇が塞いだ。 ねじるように弄んだ後、ぬるりと長い舌が歯列を割って入りバルフレアの舌を吸い上げた。 フランは、いつもこうだ。 自分のしたい時にする。バルフレアの都合はお構いなし。 逆の場合は、上手く逃げる。 別に嫌なわけではないが、バルフレアは溜息を隠せない。 自由とはフランのためにある言葉だとつくづく思うから。 散々口内を弄んだ後、満足そうにフランが唇を放した。 唾液で濡れた口元を拭いもせずに、ここぞとばかりにバルフレアは文句を言う。 「怪我人だと思って好き勝手しちゃって」 「あら、そう?嫌ならいいわよ」 「あ、うそうそ。ウソです」 「フフ……」 何もかも見透かしたような淫靡な微笑をフランが浮かべると、バルフレアの腰をゾクリと何かが走り抜けた。 押し倒されるようにベッドに仰向けに寝かされ、腹の上に馬乗りになったフランに両の手首を押さえつけられる。 抵抗する気は毛頭ないが、もし本気で振り解こうとしても容易にはいかないだろう。 ヴィエラの女戦士は伊達じゃあない。 バルフレアの目の前に豊満な乳房が果実のように差し出された。 誘われるまま朱鷺色の乳首を口に含むと、フランの口元から甘い吐息が洩れる。 「あ……あ……」 手首は押さえつけられたままなので、やや不自由に頭を少し上げて揺れる乳房に貪りつく。 少しでも気を抜くと、ブルブルと揺れる乳房は簡単に口から逃げてしまう。 フランは楽しむように乳房を追わせ上からその様子を眺めている。 さぞや間抜けな面をしているんだろうなと頭の奥で考えながら、意地悪な誘惑にそれでも素直に従っている。 急に手首の戒めが解けると、目の前から乳房が遠ざかった。 起き上がろうとしたバルフレアの胸を、そっとフランの白い手が押し戻し再び仰向けにさせる。 フランの唇はルージュをつけなくとも紅く濡れている。 バルフレアの体を覆うシャツを手早く取り除くと、その唇が首筋から胸へと滑るように這った。 「ふ……」 紅い唇が乳首をついばみ、吸い上げると今度はバルフレアが声を出す番になった。 バルフレアの腰に密着したフランの腹の下で、とっくの昔に硬くなったペニスが求めるように震えているが 気付かぬ振りのフランは執拗に上半身を責めたてる。 やがて先端から溢れ出した液体が密着した腹をぬめらせると、ここぞとばかりにフランの体がうねくり、 ぬるぬるとした腹がバルフレアを刺激する。 「あ……!ああ、あ……」 一方的に与えられる快感にバルフレアが従っていると 満足そうなフランの口元が下腹部まで移動し、スッポリとペニスを咥えこんだ。 こうなると、最早バルフレアには為す術がない。 どんな港の娼婦も顔負けのテクニックに頭を真っ白にされてしまうのだ。 包み込んだ唇がゆっくりと上下に動き、中では舌が独立した生き物のように激しく這い回る。 袋の裏側をくすぐように細い指が動きまわるたびに、腰から背中を突きぬけるような快感に何度も襲われる。 「あ、あー……イイ、フラン、フラン、あ、あ、あ……」 何度受けても、フランの愛撫に馴れはない。 回数を重ねれば重ねるほど、快感は深く大胆になってゆく。 だが、今日のフランはらしくない。上手く言えないが、何かが違う。 そんな思いが白濁した頭をよぎり、少しだけ熱を冷まさせた。 空賊をやめて、機工士になれとフランは言った。 工房で、モーグリ達と共に図面を描き、飛空挺を造れと そんな暮らしも悪くはないかもしれないとバルフレアは思った。 だが、同時に疑問もよぎる。果たしてそこにフランはいるのだろうか?……と。 「は……!ああ、あー」 覚めかけた頭を再び強引に引き戻され、バルフレアはたまりかねて身をよじった。 「もういい、フランよせ……イッちまう」 止める代わりにフランの唇がさらに激しく上下した。吸い付くような刺激にはもう抗えない。 「う……フラン、フラン……イク……う、うー……!」 フランの喉が、音を立てて上下した。 荒い息の下で見つめたフランの顔は愛しげに雫を飲み干す唇の赤さだけが異様に目立った。 「フラン……俺は……」 寂しい色だと、バルフレアは思った。 「俺は、空賊をやめない。お前と共にあるために」 フランは何か生き急いでいる気がしてならない。 空賊をやめたら、彼女は一人で危険を求めて旅に出るのだろう。 何時の間にか雨がやみ、窓から光が差し込んでいる。 光は夕陽だった。赤い色が室内を染め、フランの顔を照らした。 「死ぬまで側にいると決めた。俺を置いていこうとするな」 物言わず、バルフレアをじっと見つめている、 赤く染まったフランの瞳からこぼれた涙も、また寂しげな赤だった。 (1-485〜490) |
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